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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
43/46

答え合わせと新事実

「俺は千道京助……マグナアウルだ」

遂に正体を明かした京助に、周囲の人々は質問攻めを開始する。

自分の全てを開示するべく、皆を家に招いた京助だが、そこで待ち構えていた人物は意外な者だった。

 ウィルマース財団のクインテット待機所にて京助が五人に囲まれながら物珍しそうに周囲を眺めていると、驚き半分疑念半分の白波博士と、特に普段と変わりない様子のサイがやって来て、これで全員が揃った事で京助は肩を竦めた。

「えっとぉ……じゃあ聞くけどさ」

 独特な空気の中、皐月が切り出した。

「おう、何でも聞いて」

「京助がマグナアウル……なんだよね?」

「ああ、間違いないよ」

 本人の口から聞くと驚きもひとしおである。

「じゃ……じゃあ京助君って……中学一年生から五年近くマグナアウルとして戦ってたの?」

「いやいや、正確には修業期間があったから……どれぐらいだっけ?」

「三年半ですね」

「そう、三年半」

 指折り数えた明穂これまた驚いた顔をして質問を続けた。

「中二の頃から⁉」

「うん、まあそうだね。その時から二重生活だった」

「やっぱりそうなんだね、その時から怪我ばっかしてたもんね」

「そうそう、俺その時ヒール上手く使えなかったからさ、いつバレるかヒヤヒヤしてたけど、まあ意外と何とか誤魔化せてたよ」

「ごめんなさい、奏音さんは気付かなかったんですか?」

「だって記憶喪失って言ってたんだよ? 全然わかんなかったよ」

「ああ、病院の診断書まで誤魔化したからな」

「誤魔化……せるものなんですか?」

「まあ少なくともここまで騙し通せたし」

 なんだか奇妙な空気の中、ついに白波博士が皆が一番気になっていただろう質問をぶつけた。

「京助君……何故君は今まで我々との共闘を拒否していたのに、今になって正体を明かしたんだ?」

「ああ、その事なんですがね、これは全くの偶然の産物なんですよ」

「ほう、聞かせてもらえるかな?」

「まず第一に、俺の両親に直接手を下したのはイダムなんです。これはハッキリしてること……つまり俺の面は奴らに割れてるんですよ」

 これには五人も驚いて目を見張り、京助は更に続ける。

「万が一にでも俺がマグナアウルだって漏れたら、ジャガックの連中の牙は確実に俺の周りの人間に向く。俺はそこまでして皆を守れる気がしなかった、だから誰にも素性を明かさない事を選んだんです」

「なるほど……だが生き残った君を消しに来なかったのは何故だろうか?」

「考えられる事は二つ。俺が記憶喪失だって診断書が公的に残ってるって事、もう一つは急激なアセンションによって肉体が自壊を起こして近いうちに死ぬだろうと考えて放置されたと考えられます」

「えーっと……アセンションって何だっけ」

「人間が超能力者になるときに起こる魂の次元上昇の事。俺の場合四次元から一気に十三次元まで上がったらしい」

「何だって? 九次元分上がったのか⁉」

 ここで今まで黙っていたサイが身を乗り出して口を挟み、京助は思わず後退してしまう。

「アセンションブーストで中層次元を突破したのか……よく生きていられたね」

 なんだかよく分からない単語がポンポン出てきた事に、五人は頭が痛くなってくる。

「おっけ、ウチらは全然わからんから一個一個処理してこうか。まずアセンションブーストって何?」

「魂の次元上昇が一気に何次元も上がる事、原則三次元以上のアセンションを起こすとアセンションブーストって定義されるね」

「え? センキョーはその三倍のアセンションブーストを起こしたの?」

「ああ、その上で中層次元を突き破ったんだ。多分相当レアケースだね」

「中層次元って何?」

「魂の次元は全部で三十六階層。それを三分割した時の十三次元から二十四次元の事を指す、ここに到達した者はアバターが使えるようになるんだ。二十五から三十六は神々の領域セレスティアル・ディメンションと呼ばれていて、そこに到達した者は惑星を超えて宇宙にすら影響を与える途方もない強大な力を振るうんだ」

「じゃあ……二人は何次元に居るの?」

「俺十七」

「ボク二十二」

「へぇ、意外。二十五超えてないんだ」

「そうだね、まあ到達次元が超能力の強さとは必ずしも一致しないからそこは頭に入れておいて」

 なんだか脱線した話を京助はここいらで戻す事にした。

「話を戻すと、アセンションブーストを起こした生命体は殆どの場合、魂が焼け付くか肉体がサイコエネルギーに耐え切れずに自壊して死に至る。だから奴らはそのうち死ぬと思って俺の事を放置してたみたいですね」

「それもあるだろうけど、あいつら救えない程バカだからさ。まあ所詮自分達が見たいものしか見ようとしない反社の浅知恵って事だね」

 とりあえず白波博士は納得したらしく、何度か頷いてから次の質問に移った。

「知らなかったら知らなかったで良いんだが、何故万路博士は命を狙われたのか分かるか?」

「まずこれを話すには昔話をしなくちゃいけない。父さんと母さんは、一九九九年のある出来事が切っ掛けで……」

「え? 京助のお父さんとお母さんも関わってたの?」

「あれ? みんな一九九九年の話知ってたのか?」

 五人はそれぞれ口々にウィッカーアモンを相手にするに当たって情報を得るために〝Nファイル〟を開示した事、そこで一九九九年に死徒アン=ゴル・モアが降臨して地球が滅びかけるも一人の超能力者がそれを撃退したという事は知っているが、それが誰かという事までは分からないという事を伝えた。

「成程……そこまで知ってるなら詳細はいいかな。結論から言えば、その超能力者は父さんだ」

 とんでもない大暴露に皆口をあんぐりと開け、そして真っ先にそれに食いついたのはサイだった。

「詳しく聞かせろ! どうやって勝った⁉ いやそれより何よりなんでアン=ゴル・モアに勝てるような奴がイダム如きに負けたんだ⁉」

「まあまあ落ち着けって……一から詳しく話すからさ。父さんはアン=ゴル・モアとの戦いで世界に影響を与える力と引き換えにアバターを得たんだ」

「それって、誰かと取引したって事か?」

「……何の事だ? 取引?」

「どう考えても君の親父さんは、それこそ神々の領域セレスティアル・ディメンションに至った存在と取引した可能性が高いよ」

 そんな事京助は聞いていない、時間的に言えなかっただけかもしれないが。

「よく知らない、そこまでは聞けなかった」

「聞けなかったって……話したの?」

「うん、これにも説明が居るな。どうやら俺に宿っていた死徒の力はどうやらアン=ゴル・モアの怨念が未来に飛び、そこで俺に張り付いて出来たものらしいんだよ」

 これで皆は何故地球を滅ぼしに来たとんでもない存在が持つ力をマグナアウルが振るっていたのかをやっと理解することが出来た。

「同じく死徒の力に手を出したイダムを導いて父さんと母さんに復讐を果たし、ついでに俺が死徒の力に呑まれて死ぬ様を見せつける為、二人の魂を俺の中に閉じ込めたんだ……だからウィッカーアウルになって気絶してた時、父さんと母さんと話すことが出来たのさ」

「そう……会って話せたんだね……」

 京助の思いがけない再会に、どういう訳か奏音は心の底から安堵感を覚える。

「良かった」

「ああ、ありがと」

「じゃあ京助のお父さんとお母さんって……ずっとマグナアウルとして一人で戦う京助を見てたって事?」

「そうだな、皆の事も知ってたぞ。あとC-SUITの事も」

「本当か⁉」

 今度は白波博士が食いついてきた。

「なんと……彼は何と言っていた?」

「うーん、C-SUITについては特に……でも父さん的にはC-SUITの雛形になったミレニアムスーツの設計には納得行ってなかったみたいですね……なんか口ぶり的には欠点だらけって」

「欠点だらけ⁉」

 余りの衝撃に白波博士の体にヒビが入り、立ったまま粉々に砕け散ってしまった。

「ひゃっ! お父さんが砕けた‼」

「あれを欠点だらけ……だと……」

「母さんをアン=ゴル・モアとの戦いに連れて行くために三日で基礎設計したって……」

「三日⁉」

「また砕けた!」

 白波博士は先程以上に細かく砕けてしまい麗奈が慌てて元に戻すも、部屋の隅で膝を抱えて負のオーラを出し始めた。

「ごめんなさい……しばらくほっとけば治りますから」

「そんな雑で良いのかぁ?」

 白波博士は埋まらない科学者としての才を思い知ってしまったのである、プライドを傷つけられた男には如何なる慰めの言葉も無用なのだ。

「話を戻すと、父さんと母さんはずっと俺を通して皆を見てたんだ」

「まあとりあえず……良かったね」

「ああ、すっごく良かった、一生忘れない記憶だぜ」

「あの~、次の質問いい?」

 おずおずと手を挙げた皐月を、京助が指を差して指名する。

「どうして今になって共闘しようと思ったの?」

「あぁ~……これはな、俺の精神状態も絡んでくる結構複雑な事情があってだな」

 しばらく頬に手を当てて考えて言葉を選び、京助はゆっくりと話し出した。

「まず大前提として俺は憎悪を抱えたまま一人で戦い続けたから、メンタルがかなり安定してなかったんだよ。かといってさっき言った通り誰にも素性を明かす訳にはいかないという負のループに囚われてた」

 少なくともそんな様子をここ数年京助は微塵も人前で出さなかった。何でもない風を装う演技力に加え、それを年単位で継続する精神力に、この場に居る全員が感服してしまった。

「すげーわ、ウチだったら言っちゃうかも」

「いやいや、ただただ言い出す勇気が無かっただけさ」

 言い出す勇気というのが林檎にはいまいち分からなかったが、確かに長い事隠していた事を明かすには勇気が必要なのかもしれない。

「話を戻すと負のループのせいで俺は死徒の力を増長させ、別人格とウィッカーアウルを生み出す羽目になっちまったんだ」

「ん? ウィッカーアウルって別人格だったの⁉」

「そうか、これも言ってなかったな。精神が不安定なのに加えて、直接の仇のイダムに対面したせいで完全に人格が分裂した。皆の前にウィッカーアモンとして立ち塞がったのはそいつだよ」

 本格的な敵対は京助本人の意思ではなかったと知り、皐月は肩の力が抜けるのを感じた。

「色々考えたけど、この事を奏音に打ち明けようとした矢先に奏音がクインテットだったってのが分かった。まあゴタゴタは色々あったけど、やっぱりこれが理由かな」

「奏音の存在が主な理由?」

「ああ、正直なところクインテットが本当に信用できるかって疑ってた……でも俺自身の心の傷に向き合ったことでやっと素性を明かして一緒に戦うってその勇気が出たんだ」

「そっか……なんか今まで疑っててごめんね」

「いいんだ、ここまでどっちつかずで宙ぶらりんだったのは俺の心の弱さのせいだよ。これからは一緒に戦って行こう」

 京助は拳を突き出して微笑んで見せ、皆もそれに応えてグータッチを重ね、ここでようやく正式に共闘関係が結ばれたのであった。

「いや~それにしてもこんな風になってたとは……なんか秘密基地ってより楽屋みたい」

 言われてみればここは秘密基地に該当するのだろうが、確かにシュートレンジがあること以外は豪華な楽屋に見える。

「秘密基地っぽいのをお望みなら、スーツベースに行ってみたら?」

「スーツの保管庫って事?」

「うん、スーツを普段収納しておいて、いざとなったら転送する所だね」

「やっぱりアレは転送式だったんだ。ミレニアムスーツは自分で装着しないといけなかったって考えるとすごいね」

「だってよお父さん」

 部屋の隅で膝を抱えて小さくなっている白波博士から発せられる負のオーラが若干薄れ、ちらりと一瞬こちらを見るもすぐに顔を逸らす。

(このオヤジさんめんどくせぇ)

(我が父ながらめんどくさい……)

「……ま、まあ父さんの発明品がどんな感じになったのか俺も気になるし、スーツベースってのも見てみようかな」

 京助の何気ない呟きを拾った白波博士は、思わず飛び起きながら振り返った。

「え? あ⁉ スーツベースに⁉」

「そういえばバージョンアップしてから私達も見せてもらってなかったよねぇ?」

「うぁ……あぁ……あぁ……」

「案内も兼ねて私達も一緒に見に行こうか?」

「あっ……あぁっ!」

(まずい! これはまずい!)

 C-SUIT.V.V(バージョンファイヴ)はエネルギー効率においての課題を、アウルハンド・プロジェクトで解決した。

 このプロジェクトの要と言えるアウルハンドとはマグナアウルの腕、つまり京助の腕の事である。

(尊敬する科学者の息子にして娘の友達の斬り落とされた腕をスーツに使っていたとバレたらまずい!)

 白波博士の脳裡にゴミを見るような目でこちらを見る(麗奈)とその友人たちの図が浮かび、一気に窮地に立たされてしまう。

(何とかしなければ……どうやって誤魔化すか!)

 その時、ずっと京助の肩に止まっていたトトと目が合った。

(そうだ! トト君は確かアウルハンドから生まれた! なんとかそれとなく誤魔化してくれるかもしれん!)

 白波博士は皆にバレないようにそれとなくジェスチャーで京助達を止めるように頼み込んだ。

(お願いだ~! 私の頼みを汲んでくれ~‼ 娘に軽蔑される~!)

 意図を汲んだトトの返事は、あまりにも短くシンプルだった。

「……フッ」

 悪い笑顔を浮かべ、小さな羽で肩を竦めて見せる。

(あああああ! こいつ! 私の意図を汲んだうえで拒絶した! 絶対そうだ間違いない!)

 デフォルメされた可愛らしい鳥のような容姿である分、邪悪な顔がより際立つ。

「じゃあせっかくだし、案内してもらえますか?」

「うあぁ……」

「え? どうかしたんですか?」

 トトが相変らず邪悪な笑顔をこちらに向け、暗にもう観念しろと言っているのがひしひしと伝わってくる。

「あぁ……いいよ。ついて来なさい」

 なんとか気取られないように白波博士は六人と退屈そうにしているサイを連れて待機所を出るのであった。


 連れ出した後も研究所内部を案内したり、無重力ジェットの発着場へ向かったりして時間を稼いだものの、結局押しに負けて遂に七人をスーツベースに案内した。

「へぇ~かっこいいな! こっから転送されて装着されるのか」

「京助、せっかくですから中身を見てみませんか?」

「え? あ……」

 もはや確信犯である。

「その~、京助君! これは企業機密も絡んでくるから……」

「でもお父さん、前は私達に見せてくれたよね?」

「それに万路博士の息子なら何かアドバイスとか出来たりして」

「そしたらウチらの戦力拡大に繋がるしね」

「だよね、だから良いですよね?」

 こうまでごり押しされれば頷くしかない。

 観念した白波博士が操作パネルに触れようとする前に、京助が手を翳してスーツベースの内部機構を展開させた。

「おお! これが超能力?」

「なんか初めて見た……すごいな」

「君達……今までさんざん見てきただろ」

「生身の人間が使ったのは初めて見たって意味!」

 明穂の抗議にサイは口を曲げて再び退屈そうにそっぽを向く。

「何の能力使ったん?」

「俺は無意識レベルで機械に干渉できるんだ」

 そういえばジャガックの機械を操っていたり、監視カメラに全く映らなかったのもそういう事なのかと皐月と林檎は互いに顔を見合わせて頷き合った。

「さてと……中はどうなってるんでしょー……お?」

「ああぁ……」

 ついに京助がスーツベースの中の〝アウルハンド〟を見てしまった。

(終わった……私は終わりだ……)

「これ……」

「どうしたの? ん? 何コレ?」

「変なモノでも……腕?」

 水槽の中で配線に繋がれ、ポコポコと泡を立てている藍と焦茶の腕に六人の視線が集まり、白波博士は半ば祈るようにじっとその様子を見守る。

「これ……俺の腕か?」

「え?」

 これまで全く興味を示さなかったサイが京助の肩越しにアウルハンドを覗き込む。

「ホントだ、君の腕だ」

「そうか、やっぱそうだよな?」

「何で斬り落とされた腕が? 酷いことする奴も居たもんだ」

「うん、自覚してないな」

「んえ? ボク?」

「初戦でお前が俺の腕を手刀でスパンってやった時のやつだ。忘れたのか?」

「それよりもさ!」

 京助とサイが大きな声でやり取りを遮った皐月の方を振り返る。

「なんでマグナアウルの……いや京助の腕がここにあるかの方が重要じゃない?」

「確かに……言えてる」

 京助を含めて七人全員の視線が白波博士に注がれ、京助の肩の上でトトが邪悪な笑顔を浮かべる。

(もう無理か……)

 いずれ言うべき事だったのだ、白波博士は観念して口を開いた。

「うん、正直に言おう。処理班がマグナアウルの腕として届けられたものを……我々が活用させてもらった」

 クインテットメンバーの五人全員が驚きのあまり大きく目を見開いて顔を見合わせ、再び白波博士の方を向く。

「し……仕方なかった! 強くなっていく敵を相手に私達も焦っていたんだ! 申し訳ないと思いながらエネルギー効率の観点から使わざるを得なかった! ただマグナアウルが京助君だとは……」

「博士!」

「お父さん! さすがに何考えて……」

「いやァ! 素晴らしい!」

 京助から放たれた予想外な言葉に、クインテットメンバーだけではなく白波博士も目を丸くする。

「素晴らしいですよ博士! ハハハハ! 超能力者の体ってすごいエネルギーを秘めていますからね! 受容体として使えば最強の循環機になれる! 白波博士! あなたは父さんの研究に自力で辿り着いて実現して見せたんだ!」

 何やら大興奮して白波博士を褒めちぎっている京助に対して、クインテットメンバー以上に白波博士が一番困惑していた。

「えっと……京助君は勝手に斬り落とされた腕を使われて何も思わないんですか?」

「え? 何の問題があるの?」

「だっていくら何でも……」

「生えてるし」

 自分の右手の指をひらひらさせたり開閉させて見せ、京助は更に続ける。

「別に不愉快でも何でもないよ、いくらでも生やせるし」

「いやでも……ねぇ?」

「あ、もっと要りますか? じゃあ調達してきます。スワロー()

 そう言うなり剣を生成して自分の左腕の肘窩(ちゅうか)に刃をあてがった京助を、皆が慌てて制止した。

「ちょちょちょ! 京助落ち着いて!」

「おバカ! 生やせるからってポンポン斬り落としていいモンじゃねーから!」

「ああそう? じゃあやめとくよ」

 京助は剣を捨てようとしたが、白波博士の指示で回収された。

「まあなんだ、みんなの気持ちは嬉しいけど別に俺はこういう事不愉快じゃないからさ、白波博士の事責めないでよ、まあ戦い最中で色々難しい時期なんだし」

 京助本人からそう言われるとさすがに引き下がるしかない。

 白波博士が救われたかのような顔をするよそで、トトがそっぽを向いていかにも気に食わないといった顔をしながら、そのまま姿を変えて京助の左腕にバングルとなって巻き付いた。

「ただぁ」

 救われたような顔から一転、白波博士の顔は真っ青になった。

「申し訳ないですがこのスーツには改善点が多くある! 俺の腕を使うなら問題点を改善してもらいますよ!」

「え……いいのか?」

「問題点の修正が俺の腕の使用料だと思ってください。父さんの研究資料を漁ればきっと問題解決の糸口が見つかるはず」

 京助は手を叩くと皆の方を振り返って言った。

「てなわけで俺んちに行こうと思うけど、皆も来る?」

「なんで……京助の家に?」

「父さんの資料がある、他にも色々ある。せっかくだから一緒に来ないか?」

 奏音以外は京助の家に行ったことは無いため、噂の大豪邸に入れると思うとなんだか心が躍る気がする。

「そうだ、今回は特別に下も見せてやるよ」

「下?」

「地下の階って事?」

「やっぱあんた大組織を……」

「だからそれは違うっての、まあちょっとしたもんが見れると思ってさ」

 京助が指を鳴らすと千道邸の庭に繋がる空間の歪みが発生した。

「ん? 君ってこんな力使えてたっけ?」

 サイに言われて気が付いた、空間を跳躍するのはよくやっていたが、空間同士を繋げる事まではやれなかったはずである。

「……言われてみればそうだな。テレポートと同じ感覚で使ってたけど、まあいいや行こうぜ」

 京助が指し示した空間の歪みに向け、奏音達はそれぞれ様々な反応を示しながら歪みに入ってくのだった。


 最後に白波博士がやって来たのを確認した京助は、歪みを閉じてから自分の家を眺めている友人たちの方を振り返る。

「な~んか一度に色んなこと起こりすぎてイミわかんなくなってきた……」

「どうしたよ、お前らしくない」

「いやさぁ、友達が実は超能力者で、しかもマグナアウルだったってことを知らされた後で色々と力を披露されたら誰でもこうなるって」

 うんうんと頷く皐月と明穂よそに、京助は肩を竦めながら家の扉を開けた。

「わぁ……広……」

 もはやそれしか言う事がないぐらい、千道邸はあまりにも広かった。

「ここで一人暮らししてたの?」

「掃除とか大変じゃありませんでした?」

「いや全然、全部能力で賄えるし」

「キッチンすごいな、すっごく冷蔵庫大きいね……羨ましい」

「ああ、中見る?」

「いやいいよさすがに……でもここで一回何か作ってみたい気がする」

「いいよ、いつでも遊びおいで」

 奏音からじんわりとした視線を向けられた気がしたが、振り返るのが怖い京助は無理矢理話題を変える事にした。

「そろそろ下に行こうか」

「どうやって行くの? 奏音は行き方知らない?」

「いや知らないよ……地下階の存在自体今初めて知ったぐらいだし」

「地下なら……滑り棒とかで行くんですかね?」

「え、昔の公園にあったアレ? え~私アレ嫌なんだけど」

「違うよ! なんで昔の消防署とかバットケイブ方式なんだ……まあとにかくついて来てくれ」

 京助の先導で物置に向かい、皆が見守る中で隠しスイッチを入れると、微かながら何かの駆動音が響いて壁がスライドしてエレベーターが現れた。

「いやマジか! すんげ!」

「すごいけどめちゃくちゃ電気代かかりそう……」

「地下の電気は自家発電で賄ってる」

 京助は得意げに手中で電気を発生させて見せ、皐月はほんの少し羨ましいと思ってしまう。

「まあいいや、乗って乗って」

 八人を乗せたエレベーターは三十秒しないうちに地下へ辿り着き、皆は物珍しいものを見るように外へ出る中、京助は怪訝な顔をして左腕のトトの方を見る。

「あれ? 電気つけっぱだ」

『そのようですね』

「つけっぱだったっけ?」

『さあ、私はここしばらくこの家に居なかったので』

「そっか……でも確かに消したはず……」

「あれ、誰か人居るよ?」

 それを聞いた途端鳥肌が立った京助は一気に警戒しながらそちらを向き、その雰囲気が伝わったのか一同は異様な雰囲気に包まれる。

「何でここに居る? お前は誰だ?」

「いやぁ、そんなに身構えないでくれ、僕だ」

 そう言って椅子から立ち上がったのは、京助の後見人である和平零であった。

「れっ……零さん⁉ なんで……」

 京助以上に訳が分からないのは奏音以外の四人である。

「……誰この人?」

「えっと……京助の後見人的な人で、お父さんとお母さんのお友達? だったのかな、まあその……保護者的な人なんだけど……私も一回しか会った事ないしよく知らない」

 そこら辺の棚をぼんやり眺めながら、薬品入りの瓶を手に取って見ていたサイが何やら騒がしいのに気付いて京助の方を向くと、丁度立ち上がっていた零の顔が見えた。

「イィーーーッ⁉」

 変な奇声を上げて薬剤の瓶を取り落したサイに一斉に視線が集まる。

「あー! お前! 落とすんじゃねぇよめんどくさい!」

「いや……いやいやいやいや! 君はそい……いや彼が誰か分かってるのか⁉」

「え?」

 サイが指さしたのは零であり、零は自分を指差して口角だけを上げて微笑んで見せる。

「やめろそんな笑い方するな怖い!」

「知ってるの?」

「いいや初対面だよ」

 ますます訳が分からなくなった京助は奏音の方を見たが「私に分かるわけないでしょ」といった顔をされ、白波博士の方を見ても肩を竦めて同じような反応をされた。

「彼とは初対面だ! だけどボクは彼を知ってる!」

「僕も君を知っているよ、気紛れなる虐殺の化身(ガラゼァ・ブランボス)を始めとした様々な異名を持つ特級傭兵のサイ君だろう?」

「あんたに知られているとは光栄だよ……ニャルラトホテプの真祖さんよ」

 サイの放った〝ニャルラトホテプの真祖〟という言葉に京助と林檎は反射的に零の方を振り返った。

「ニャルラトホテプ⁉」

「あの⁉ 〝あの〟ニャルラトホテプ⁉」

 ニャルラトホテプという単語に聴き馴染みのない他四人は顔を見合わせて疑問符を浮かべる。

「ニャルラトホテプって事は……敵⁉」

 林檎が転送鍵を取り出し、京助が信じられないといった顔でこちらを見てくるのに対し、零は笑顔で両手を上げた。

「安心してくれ、僕は味方だよ。ハゥウィーと一緒に作ったカバーストーリーがこんなに機能しているとはね」

「ハゥウィー……ってラヴクラフトの事?」

 一度に色んな事が起こったせいで頭がこんがらがって来た京助は、とりあえず一から状況を整理する事にした。

「えっと……零さんは何なんですか?」

「そうだな、そろそろ打ち明けるべきだと思っていたよ。では改めて……」

 零は自分のスーツの襟を正し、咳払いをしてから名乗りを上げる。

「サイ君の紹介に合った通り、僕はニャルラトホテプのレイ。またの名を強壮なる使者マイティ・メッセンジャーという」

 確かに零の浅黒い肌をした超常的な雰囲気を纏う美丈夫というのはニャルラトホテプの化身の特徴と合致する。

「ニャルラトホテプって……這い寄ってきて混沌撒き散らすような奴じゃ……」

「あぁーっ! 失礼だな君、そいつには全ニャルラトホテプが迷惑させられてるんだ」

 全ニャルラトホテプというワードに今度は全員が眉を顰める。

「全ニャルラトホテプ? それって……」

「ちょっと二人とも待ってね! あのね……私達ニャルラトホテプって何なのかすら知らないんだけど」

「ああ、そうか」

「まあ普通に暮らしてたら聞かねーか」

 京助と林檎はニャルラトホテプというのは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという人物が創始した世界観を共有した(シェアド・ワールド)小説群である『クトゥルフ神話』に登場する強大な邪神の一人であり、トリックスター的な立ち回りから人気の高い神であるという事を説明した。

「え、じゃあこの人邪神って事? じゃあ敵?」

「どうやら……違うみたいだけど」

「邪神かどうかはさておき、彼は正真正銘の神だよ」

「神って……セレスティアルナントカってやつ?」

「え? 神々の領域セレスティアル・ディメンションに⁉ いやそれはまだいい、全ニャルラトホテプについて聞きたいんですけど……」

「ボクから説明しよう。そもそも君達がイメージするニャルラトホテプと、本当のニャルラトホテプは大きく違う」

「マジで?」

「そうだ、僕とその親友がハゥウィー流してもらったカバーストーリーなんだよ、まさか大売れするとは予想外だったけどね」

「結局ニャルラトホテプって……何なんですか?」

「簡単に言えば……魂に特定の因子を含む者の事だよ」

 曰く、ニャルラトホテプ因子を持つ者は宇宙との繋がりが一般の者と比べて強くなり、知能が発達したり強力な超能力を発現することがあるという。

「ニャルラトホテプが『千の貌を持つ』というのは文字通りこの因子を持つ者が沢山いたからなんだ」

 京助と林檎は納得と感心から出る唸り声を止めることが出来なかった。

「ちなみにそのニャルラトホテプ因子を持ってる人って……どれぐらいなんですか?」

「ああ、全宇宙の生命体の約四割強だよ」

 という事は地球上の四割強の人間達もニャルラトホテプ因子がある可能性が高いという事である。

 つまり今まで出会った人々の中にもニャルラトホテプ因子を持つ者が居るかもしれない。

「なるほど全ニャルラトホテプっていうのは、宇宙全体に居る四割強の住人たちの事か……零さんもその一人なの?」

「オイオイ、彼は最古にして純粋で正統なニャルラトホテプだぞ……」

「まあサイ君の言う通りだけど、あまり気にしないでくれ」

 とりあえずレイがなんだか宇宙規模ですごい人物だったという事は分かった。

「ところで零さんはどうしてここに?」

「親友の遺言を執行しに来たのさ」

「遺言って……父さんの?」

「ああ、君が落ち着いたら遺言を執行してくれと頼まれていたんだよ。そのうちのまず一つ目は僕の正体について明かす事」

 レイがここに居たのは、始めからこの場所を知っていたからだったのだ。

(そういや父さんが頼るべき相手に零さんを挙げてたのってそういう事だったのか)

「和平っていうのはニャルラトホテプの日本語訳みたいなものだ。ニャルラトホテプのレイ、だから和平零と名乗っていたんだよ」

「レイっていうのは個人名って事?」

「そういうことだ、飲み込みが早いね。話を戻して遺言の執行に移ろう」

 レイはそう言うと京助の肩に手を置き、周囲の者達に向けて指を口元に当てて静かにするように促す。

「春風、ペンネ、ケープハイラックス」

 突然何の繋がりも無い単語を羅列し始めたレイに、皆はただただ困惑するしかない。

「白昼夢、ラニーニャ、アステカ」

 ここまで来た辺りで、京助に変化が起こり始めた。

「アスター……永久凍土……」

 京助も脈絡のない単語を呟き始めたのを見て皆は声を上げそうになるが、レイは指を口元に置いて変わらず黙っているように促した。

「離弁花……クルンテープ……タンゴ……光芒!」

 最後の一言と共にどこかからカチリという何かが開いたかのような音がして、京助も不思議そうに首を捻っている。

「今の何? 音声認証?」

「そんな所。音声認証とパスワードだな」

「なんでだ……無意識のうちに次々と言葉が出てきた」

「深層催眠だよ、君が三歳から四歳の辺りで美菜がかけたんだ」

「なんで俺にそんな事を?」

「こいつを……隠しておくためだ」

 そう言いながらレイは地下基地の奥へ手を伸ばして、掌にぎりぎり収まるサイズの装飾がなされた立方体のボックスを引き寄せた。

「これって……」

「万路の遺産だ、君が受け継ぐんだ」

「この箱がですか?」

「この中には万路が危険と判断したり、まだ世に出すには早いと考えて秘匿した研究データの数々が収められている。いずれ君がこれを開け、稀代の天才と呼ばれた万路の跡を……いいや、万路を超えて見せるんだ。僕は自分の正体を皆に明かす勇気を出した今の君なら、それが出来ると信じている」

 京助はデータボックスを眺めながら、なんだか今ここで初めて父に認められた気がして、胸の奥がじんと熱くなった。

「本当ならここで僕は帰るつもりだったけど……せっかく皆々様が集まってる事だし、君達にいくつかアドバイスを送ろうと思う。そこに皆座りたまえ」

 何故かレイの方がここの主のようになっている事に京助は若干遺憾の意を示しつつそれに従うのだった。


 全員が座ったのを確認したレイはホワイトボードを持って来て、ペン回しをしながら口を開いた。

「今回僕が話すのはC-SUITと超能力についてだ。つまり奏音君、皐月君、明穂君、林檎君、麗奈君、そして博士を中心とした話になるが、少し京助君とサイ君にも関わってくる。いいね?」

 全員が頷いたのを見て、レイはホワイトボードに『C-SUIT』と書いてから続けた。

「まず第一に、C-SUITは何をエネルギーにしてる? 博士、説明してくれ」

 急に振られたにもかかわらず、白波博士は高校生にも分かりやすい説明を心掛けながら即座に立ち上がって引き継いだ。

「C-SUITは千道万路博士が発見した宇宙空間から地球が取り込んでいる(コスモ)エネルギーを大気中から吸収して動力源にしているんだ」

「では、その結果何が起こる?」

「その結果? ……ああ、そうか。それによりCエネルギーを受容することが出来る素質を持つ女性にのみしか纏えない」

「ありがとう博士、その素質を持つ者として適合したのがここに居る五人という訳だ」

 今まで五人は「スーツに適合したから選ばれた」と聞かされており、そういうものかとだけ思っていたが、詳しいメカニズムはよく知らなかった。

「では博士、その素質とはどんな特徴か知っているかな?」

「いいや……それはブラックボックスになっていて我々は解明できなかった」

「わかった、ではそこから説明しよう」

 ホワイトボードに文字を書き足しながら、レイは奏音達五人を見ながら言った。

「ここ半年以内で君達五人は、日常生活の中で何か変わった事は無かったかな?」

 心当たりは確かにあった。

「私……なんだかすごく速く動けるようになったんです」

「私は身体能力が上がって、体が丈夫になったなって感じます」

「ウチは……なんか感覚が鋭くなったなって感じですね」

「近い未来ですけど、起こることが予測できるようになりましたね……」

「わ……私? えっと……特に感じないけど……強いて言うなら怪我の治りがちょっと早くなった気がします」

 五人それぞれの証言を聞いた京助とサイは思わず顔を見合わせる。

「なあ、それって……」

 京助が言いかけた所をレイが指を口元に当てて制止して続ける。

「予想通り、君達の体には変化が起こっている。C-SUITから流れ込むエネルギーによってね」

「え? それって……なんかヤバい変化なんですか⁉」

「マジで⁉ 余命二ヶ月とかなったりしない」

「いいや……多分大丈夫だぞそれ」

 唐突に京助が口を挟んだ事で五人の視線が一斉に集まる。

「どうしてそう言えるの?」

「俺が予想通りの変化なら……多分命に別状はない筈だ」

「予想通りの変化って……何よ?」

「レイさん、俺から言っていい?」

「まあ……僕の口から聞かされるよりはいいだろう。言っちゃえ」

 京助は深呼吸してから五人に驚愕の事実を告げた。

「皆は超能力者になりかけてる」

 奏音は頬に手を当てて仰天し、それ以外の四人は驚きつつもどこか納得している様子であった。

「え……えっ⁉ えっ……私⁉ 私が⁉ 私超能力者⁉ ねえちょっと待ってなんでみんなそんな冷静なの⁉」

「いやだって……私達分かりやすい変化があってさ……」

「去年三人で焼肉行った時にちょっと話したんですよ」

「デートしてる間にそんな事が……」

「私はそもそもお父さんとお母さんが超能力者だからさ……」

「ああ、そっか」

「へぇ、明穂のパパンママンって超能力者なんだ……まあでもみんな何かしらの兆候はあったようだな」

「まさかCエネルギーに人を超能力者にする力があったとは!」

「いいや博士、それは違う。CエネルギーではなくC-SUITがそうさせているんだ」

「スーツが?」

 ホワイトボードに「ミレニアムスーツ」と書き足しながらレイは説明を続ける。

「今のC-SUITの元になったミレニアムスーツは、一九九九年の戦いに当時何の力もなかった美菜を連れて行くために万路が突貫で作ったもの。つまり出発点からして人間を超能力者に近付けるものだったんだよ。まあそもそもだ」

 レイが指を鳴らして天井を指差すと一部の電気が暗くなり反対側の壁にプロジェクターが投影された。

「これはCエネルギーとあるエネルギーの波長の比較だ」

 確かに波長がそっくりだが、レイが提示したものの方が強いエネルギーであるのは見て取れる。

「そこの二人はそのエネルギーが何かもう察しが付くと思うが」

「まさか……」

「サイコエネルギーだろ?」

「正解だ。多少弱まったサイコエネルギーを受容し続けた結果、いずれ君達は超能力者として開花していた」

「じゃあスーツの適合条件っていうのは……超能力者の卵である事って事なんですか?」

「正しくは中層次元を突破しうる超能力者の素質がある者だ。君達五人はいずれ超能力者になりうる存在だったんだよ、もしかしたらニャルラトホテプ因子を持つ者も居るかもな」

 それを聞いた皆は、無意識のうちにほぼ同時に林檎の方を向いていた。

「なーんで皆ウチを見るのカナ~?」

「だってこの中で一番〝それっぽい〟じゃん」

「お前に関しては兄貴の方もそれっぽいよな」

「ウチってニャルラトホテプなんか……嬉しいやら嬉しくないやら……」

「ニャルラトホテプか否かの判定には特殊な検査が必要だから今度してみるといいよ。話を戻そうか」

 ホワイトボードを叩きながらレイは更に続けた。

「元々超能力者の素質があった君達だが、スーツのバージョンアップに伴ってパーツとして組み込まれたアウルハンドによってアセンションが加速した。君達の言う自覚症状は大侵攻以降だろ?」

 言われてみればそうだ、大侵攻による本能的危機感がそうさせたのかと思っていたが、やはり京助の腕(アウルハンド)の影響は大きかったらしい。

「今はまだ君達はそこまで強い力を扱えていないが、後々力に振り回されることが無いように、僕が軽い超能力を使うにあたってのレクチャーをしてやろう」

 五人以上に京助とサイが身を乗り出した。

 神々の領域セレスティアル・ディメンションに到達した超能力者からレクチャーされる機会なんてそうそうない。

「まずはおさらいから、超能力者とは何だ? 挙手制で行こう……はい、麗奈君早かった」

「確か魂が高次元に至った人間の事ですよね?」

「その通りだ。ではなぜ魂が高次元に至ると超能力が使えるようになるのか? 君達二人は説明できるかい?」

 いざそんな風に聞かれると上手い答えが浮かばない。京助とサイに取っては普段何気なくやっている呼吸や歩行の仕方を詳しく説明してみろと言われているようなものだ。

 京助は頭を掻きながらサイに聞いた。

「分かるか?」

「うーん、複雑な説明ならできるけど」

「いいや、シンプルに説明で頼むよ」

「じゃあ無理そうだな」

「OKでは僕が説明しよう」

 そう言うとレイはクリーナーでホワイトボードの内容を消し、ペンを振ってインクを茶色に変えると、ボードにキャンプファイヤーのように組まれた薪を描く。

「では問題だ、今君達はキャンプに来ていて、キャンプファイヤーの為に火を起こしたいとする。超能力を使う場合どうやればいい?」

「どう……」

 いきなりどうすればいいか聞かれても思いつかない。

「なんだっけアレ……パイロキネシス? だっけ? それ使えばいいんじゃないんですか?」

「そうだな、それも一つの手だろう、ではどうやってパイロキネシスを使う?」

 どうやってと聞かれても超能力者ではないのだから上手く説明する事など出来る筈がない。

「質問が悪かったな、ではこうしよう」

 レイはペンでボードをコンコンと叩いてから続けた。

「〝この〟薪に火を起こす場合どうすればいい? ちょっと考えてみてくれ」

 ますます意図が分からなくなり、奏音達はおろか京助とサイも眉を顰めて前屈みになりながら考え始める。

「これシンプルな答えになるんですか?」

「ああ、シンプルだよ」

 この答えによって益々皆は頭を捻る羽目になってしまった。

(一休さんの頓智か? 訳分かんねぇな……)

 全員がこの難題に唸ったり、ボードに書かれた薪の絵を穴が開く程見つめるだけの時間が流れ、もはや答えは出ないと踏んだレイは手を叩いて時間切れを宣言する。

「では正解を示そう。この薪に火をつけるには……こうすればいい」

 そう言うなりレイは薪の上にインクを赤に変えたペンで火の絵を描いて見せた。

「は?」

「はぁ?」

「えぇ……」

「そんなんアリかよ……」

「これ……茶化してます?」

 とんでもない肩透かしを食らった五人は困惑と苛立ちの入り混じった顔を浮かべたが、京助とサイはまるで天啓が降りてきたかのような顔でお互いを見ている。

「これだよ!」

「ああ、間違いない!」

「大切なものは⁉」

「上から見る事!」

「ハハハハーッ!」

「やったな! シンプルこの上なかった!」

 京助とサイは両手でハイタッチした後抱き合って飛び跳ね、その様子を見た奏音は嫉妬に似た感情を抱いた。

(サイってどっちでもないんだよね……うぅ……モヤモヤする!)

 サイと抱き合っていた京助が奏音の視線に気づき、奏音は慌てて目を逸らすも、京助は咳払いをしてからサイから離れる。

「二人はどうやら気付いたようだね」

「ああ、走り方のコツを見つけたようだ」

「そうそう運動のコツを見つけたみたいな感じ」

「ちょっと待ってよ二人とも」

「超能力初心者の私達にも何が分かったか解説してよ」

「ああ、そうだった。レイさん、俺が解説してもいいですか?」

「ああ、どうぞ。君の理解も深まるだろうからね」

 京助はペンを受け取ってから火のついた薪を指しながら説明を始めた。

「前提から行くぞ。俺達が居るのは三次元で、この薪があるのは二次元。皆はまずここを押さえておいてくれ、OK?」

 皆が頷いたのを見て京助はクリーナーを手に取って空中に放り投げてキャッチしてから続ける。

「では俺が今から超能力でこの火を消して見せよう。ほら」

 クリーナーで火の絵を消した京助を見て、またもや五人は頭を捻る。

「今俺は何をしたかと言うと、三次元から二次元に干渉して火を消したんだ。レイさんも三次元から二次元に干渉して火をつけた」

「……あっ」

 皐月は何かに気付いたようで、先程までの眉を顰めて疑問符を顔に張り付けた顔から一転、徐々に晴れやかな顔になっていった。

「わかった?」

「うん! 皆思い出して! 超能力者ってどんなものかを!」

 超能力者とは魂が高次元に至った者であり、京助の実演は一次元高い場所から低い場所への干渉である。

「……そういう事⁉」

「ああ、分かってきたみたいだな」

 徐々に皆も頭の整理が追いついて来て、レイと京助が何が言いたいかを理解し始めた。

「分かって来たみたいだな、超能力というのは高次元から低次元へ干渉する力の事を言う。ここを押さえておけば力の使い方や制御で躓いた時にきっと助けになるだろう」

 このレクチャーは奏音達五人以上に、京助やサイにとって大きな天啓になった。

「ボクは何となく感覚を掴んでいたんだな」

「やっぱすげぇよお前さん」

「いやいや、三万年かかって神々の領域セレスティアル・ディメンションに至れなかった理由がよく分かった。胡坐をかいちゃいられないよ」

「まだまだ鍛錬を続くって事か」

「そうだぞ京助君」

 隣に座ってきたレイを見て、京助は何気なく疑問に思ったことを聞いた。

「レイさんは到達次元は何次元なの?」

「僕かい? 三十五次元さ」

「ヤバい絶対勝てないヤツだこれ」

「いいや、僕はある事情で戦えないんだ。だから京助君と戦う時は他者の化身(アバター)を召喚して逃げる事しか出来ない」

「へぇ……ケルトの誓い(ゲッシュ)みたいな?」

「そんな所だ。もう何年になるか忘れた位長い付き合いの友人と交わした、この宇宙を守るために行った誓いなんだ。戦うことが出来ない代わりに、僕は〝アレ〟に抗う力を持つ者達を集めているのさ」

「アレって……宇宙のバグの事ですか?」

「そうだ、もちろん君も候補に挙がっていたよ。君は自らの意思で死徒の力を跳ね除け、見事合格を果たしたんだ」

「え? レイさん俺の中のあいつの事知ってたの?」

「ああ、そいつが逐一僕に教えてくれたからな」

 そう言ってレイが指を差した先は京助の左腕。

「ハァ……」

 溜息を一つ吐いて、トトはバングルから変身して鳥型になった。

「久しぶりだな、トト」

「ええ、お久しぶりですねブラック上司さん」

 思わぬ繋がりに京助は目玉が飛び出しそうになる。

「え……知り合いだったの⁉」

「そもそもトトを君の眷属にして遣わせたのは僕だ。そういう意味ではトトもニャルラトホテプと言えるな」

「それって父さんと母さんじゃなかったんだ……」

「二人の合意済みですよ。あなたに潜む死徒の力の監視と抑圧に加え、良き師でありパートナーになるようにとの理由から私は作り出されました」

「あとトトをつけると超能力が若干強くなる。すごいだろ?」

 それよりもトトとレイが繋がっていた事と、トトが死徒の力について知っていた事が驚きである。

「ごめんなさい京助、下手にあの力について私があなたに伝えると、私が弾かれてあなたを守れなくなってしまったり、最悪の場合力が暴走する危険性がありました」

 現にトトは白京助の干渉をブロックしており、その後実際に弾かれてしばらく離れ離れになる事態を引き起こしてしまっていた。

「まあ……そうだな、俺が想像する以上に死徒周りの事はデリケートで難しい事なのかもしれないな。秘かに俺を守ってくれたんだな」

「許してくれるのですか、ありがとうございます……それはそうと聞いてください、この男は月一で状況を報告させるだけで何も私に与えませんでした」

「与えるつったってお前に何を与えるんだい」

「肉体」

「あるじゃん」

「あなたからは頂いておりませんが……まあ今後もあなたから何か与えられる物はなさそうなので期待はしません」

 レイは芝居がかった様子で口角を曲げて肩を竦めて見せ、立ち上がってから皆を見回した。

「君達はこれまでお互いの正体を知らず、各々様々な思惑で戦ってきた訳だが、死徒の残滓という内外の大きな敵を乗り越えて互いに顔を合わせるに至った」

 これまでの飄々とした雰囲気とは異なり、神妙な顔つきで語るレイに皆も自然と引き寄せられていく。

「宇宙には「因果の渦」という考え方があってね、宇宙に生けとし生ける者は全て渦を纏っていて、物事が起こったり誰かと出会うのはその渦に引き寄せられたから、というものなんだ」

「聞いた事あるな、特に超能力者はその傾向が強いとされているらしいな」

「その通り、僕は君達がここに一堂に会したのは偶然ではなく、因果の渦によって必然的に引き寄せられたからだと思っている」

 心当たりは確かにあった、偶然のような必然が縁を繋いで今ここに至ると考えると、なんだかこれまで以上に団結している感じがする。

「正式に仲間となった君達の戦いは新たな局面を迎え、新しい困難にぶつかるかもしれない……だが協力して惑星なぞ簡単に捻り潰してしまえるような強敵を倒したクインテットと、自分の内側に巣食っていた魔物を受け入れて最終的に打ち勝ったマグナアウルであれば、きっとどんな連中が来てもぶっ飛ばせるはずだ!」

 拳を掲げて皆を鼓舞して見せ、レイは改めて皆を見回して微笑んで言った。

「少なくとも僕はそう信じているよ」

 お互いの正体を明かし、更なる力を手にする未来が示された京助達。

 新たな戦いのステージの幕開けは近い、果たして戦いの行方はどこへ向かうのか。

 新章が、始まる。


To Be Continued.

面白くなってきましたねぇ。

超能力者の卵となった五人は、果たしてどんな力を得ていくのか?

そして運命の渦の元集まった少年少女達は、これからどんな戦いをするのか。

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ではまた来週!

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