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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
42/45

勇気

死んだ両親から語られる一九九九年から続く死徒と千道家の因縁と、あの日の真相。

京助は何故、死徒の力を持っていたのか。そして明かされる白京助の正体。

全てが明らかになった時、京助は前に進むべくウィッカーアウルと対峙する。

果たして京助は、自分を取り戻すことが出来るのか?

「……昇来!」

 振り上げた腕と共に父の万路の体に眩い光が集積し、徐々にその姿を変えていく。

「父さんが……アバター使い!」

 光が収まるとそこに立っているのは、マグナアウルとよく似た梟の意匠を持つアバターを纏う父の姿であった。

「でも……どうして?」

「そんなの……聞いてねぇよ! そんなのアリかよ!」

 銀と黒灰のアバターを纏った父は、喚くウィッカーアウルを前に腕を振り上げてこう名乗った。

「俺は00(ゼロ)アウル。暗闇を拓き、未来を繋げる者!」

 ゼロアウルは初手で殴り掛かろうとするウィッカーアウルにタックルを見舞って大きく後退させ、反撃の蹴りもするりと避けてカウンターを叩き込む。

「ウウウウウウアアアアアアアッ!」

 黒い炎を全身に纏ったウィッカーアウルは、更に赤い電撃を羽角に集積する。

「危ない! あれに当たると……」

「フンッ!」

 放たれた赤い電撃をゼロアウルは片手で受け止めると、事も無げに払ってから腕から銀色の光弾をウィッカーアウルに撃ち込む。

「……」

 京助は呆然としていた、父がアバター使いだったことに対してはもちろん、何よりウィッカーアウルを圧倒している。

「強い……」

「そう、あれがあなたのお父さんの……戦うお父さんの姿よ。しっかりとその目で見て、京助」

 その後も距離を詰めてウィッカーアウルの攻撃を躱し、ほぼ一方的に徒手空拳と光弾を駆使してウィッカーアウルを追い詰めていく。

「ウウウアアアッ!」

「ハッ!」

 大振りの攻撃を見切って相手の懐に入り込んだゼロアウルは、両掌底突きと同時に銀色の光弾を胴体に叩き込み、ウィッカーアウルを十数メートル以上も吹き飛ばしてしまう。

「あんたも……俺を否定するのか……」

「これ以上喋るな」

「アァ?」

「京助の面を被った悪魔が……俺の息子を騙るんじゃない!」

 高速移動からの強烈なアッパーカットがウィッカーアウルの顎に炸裂し、追撃で銀色の光弾が更に体を打ち上げる。

「黒い炎をものともしてない!」

 触れれば一瞬で全てのものを呑み込む死の力の一端たる黒い炎、それに自ら接触しに行っているにも関わらず、ゼロアウルは全くダメージを受けている様子がないのだ。

「BOOOOOOOOOOOO‼」

 ウィッカーアウルの咆哮による黒いビームも体で受け止めた上で払いのけて無効化し、二発目に至ってはビームを受けたまま突進して蹴りを叩き込んだ。

「アアアアアア! クソクソクソクソクソォッ!」

 全く攻撃を寄せ付けないゼロアウルに業を煮やしたウィッカーアウルは両手を合わせて黒い光球を作り出し、更に腕を広げて巨大化させていく。

「闇黒球だ! 父さん! アレはヤバい!」

 パテウを殺した時以上の巨大な光球を前にしても、ゼロアウルは全く動じる気配はない。

「ウオオオオ!」

 ウィッカーアウルが光球を投げつけようとしたその時、ゼロアウルの翼を模した肩部装甲(ポールドロン)が光った。

「アウルウィング‼」

 ポールドロンから発した銀色の光が黒い光球を一閃し、ブーメランのようにゼロアウルの元へ戻って来て、今度は右手に収まった。

「スゥ……フッ!」

 光は徐々に梟の翼を模した柄の上下に刃が付いた双刃剣に変わり、ゼロアウルはウィッカーアウルへ猛攻を仕掛ける。

「サッ! フッ! デヤァッ!」

 双刃剣をまるで流水の如く振るい、ゼロアウルは先程のカウンターを織り交た徒手空拳との戦い方とは違い、相手に攻撃の隙を与えない苛烈な攻めを展開する。

「ウウウッ! アアッ!」

「ハッ!」

 ゼロアウルはウィッカーアウルを蹴り飛ばすと、双刃剣の柄を分割して二刀流を駆使してこれまで以上に一方的に相手を抑え込む。

「ハアアアアアッ!」

 銀色の光を刀身に纏わせると、ウィッカーアウルへ全身のバネを使った渾身の突きを見舞い、大きく吹き飛ばしてから再び双剣を合体させた。

「こいつで決める」

 刃に銀色の光が収束し、ゼロアウルは双刃剣を片手で構えて姿勢を低くし、前方へ跳躍するとともにウィッカーアウルとその後ろの空間を斬りつけた。

「グウウウウウウウッ! その程度で俺を……アアアッ⁉」

 切り裂かれたウィッカーアウルの後ろの空間に穴が開いており、その穴にウィッカーアウルが吸い込まれ始める。

「クソがあああああ! アアアアアアッ!」

 半身を吸い込まれてもなおこちらに向かって手を伸ばすウィッカーアウルに、京助は呆れると共に半ば感心してしまった。

「これで勝ったと思うなよ! 俺は……」

「分かってるさ、それぐらい」

 銃の形にした指先を吸い込まれかけたウィッカーアウルに向けて光弾を放ち、完全に吸い込まれたのを確認すると、ゼロアウルは京助と美菜の方を振り返る。

「……お疲れ様」

「ああ」

 ゼロアウルの装甲が徐々に色褪せて万路の姿に戻ると、京助の元へと歩み寄って来た。

「……どういう事?」

 あり得ない、ここは自分の心の中であって、たとえ誰であってもここには居ない筈である。

「色々と聞きたいことがあるだろうな」

「……まず教えて、本物?」

「ええ、私もお父さんも確かに本物よ」

「……ごめん、分からない……どういう事?」

「説明させてくれ京助。だがここで話すのもアレだ」

 万路が指を鳴らすとその場にドアが生成され、そこを開けると千道邸の玄関に繋がっていた。

「俺達の家で話そう」


 いる。

 長年一人で暮らしてきた家に、死んだはずの父と母がいる。

 それだけでも困惑するが、父の万路がゼロアウルというアバターを呼び出したり、そもそもここに二人がいるというのもおかしい。

 とりあえず心の整理をつけた京助は切り出した。

「よし……始めようか」

 すっかり成長した我が子を見る温かな瞳になんだかむず痒さを覚えるものの、京助はなんとか続ける。

「俺が聞きたいのは三つ。何でここに居るのか、何で父さんがアバターを使えるのか、何であそこに俺を導いたのか。あともしも知ってたらあいつが何者か教えてほしい」

 万路と美菜はお互いを見ると、万路の方が小さく頷いてから語り始めた。

「それらの話をするには、昔話をする必要があるな」

「父さんの話?」

「お父さんとお母さんと……運命の因果の話よ」

 深刻な口ぶりに京助は生唾を飲み込み、大きく息を吐いてから二人を見据え、息子の覚悟を感じ取った二人は口火を切る。

「話は一九九九年に遡る、当時は終末論が世界を騒がせていたが……〝それ〟は本当にやって来たんだ」

「〝それ〟って? まさか恐怖の大王が本当に降臨したの?」

「ええ、本当に来たのよ……アン=ゴル・モアが」

「アン=ゴル・モア……」

 二人は甘田やサイが語ったように、アン=ゴル・モアは死の力の尖兵たる死徒である事、これまで多くの星を滅ぼしてきた事、そしてそれが地球へ一九九九年に降り立った事を語った。

「そんなアイツより何倍も強力な奴が……そいつはどうなったの?」

「無数の人々の協力と多くの犠牲と代償を支払って、一人の超能力者が倒したわ」

「一人で⁉ その超能力者って……まさか!」

 万路は大きく頷くと、左腕に出現させたアウルレットゼロを撫でて見せる。

「俺だ」

 信じられない。

 父が世界を救った英雄だというのも信じられないし、そもそも京助は万路が超能力を使っている所を今まで見た事がない。

「父さんって……超能力者だったの?」

「そもそも千道家は超能力者の家系だ。俺もそうだった、あの時までは……」

「あの時って……一九九九年?」

「支払った代償の中には、お父さんの超能力も含まれていたのよ」

「俺はアン=ゴル・モアを倒し、未来を切り拓く力を願った結果、ゼロアウルという強大な力を得た。だがその代わり、世界に対して影響を与える能力は使えなくなってしまったんだ」

 発達した頭脳と身体能力はそのままであったものの、生まれた時から使ってきた能力が使えなくなって以降、それなりに苦労してきたという。

「待って、母さんも見てきたみたいな口ぶりだったけど、もしかして母さんも超能力者だったの⁉」

「いいえ、私は一般人だったけど、お父さんと一緒に戦ったの……ミレニアムスーツを着てね」

「ミレニアムスーツって……地下室のデータにあったアレの事か⁉ 実在してたんだ!」

「懐かしいね、あの時のスーツはもう使えないぐらい壊れちゃったけど」

「君が行くって言って聞かないから俺が三日で基礎理論から作り上げたから色々と欠点が……」

「んふふ~」

 万路と美菜は先輩後輩の関係らしいが、毎回のように父は母から上手いことやり込められており、そんな関係は昔からそうだったのかと京助はなんだか腑に落ちた感覚がした。

「ミレニアムスーツで戦えたの?」

「少しだけだけどね。あれは結局C-SUITのプロトタイプだから性能的にも……」

「待って待って待って、ストップ母さん……今なんて言った?」

「だからC-SUITの……」

「それだよ、なんでそれを知ってるの?」

 クインテットの事など母は知る由もない筈だ。

「ああ……その事なんだけどね」

「俺達二人はお前の戦いをずっと見ていたんだ」

「え?」

「あなたの中に私達はずっと居たの」

 京助は口を開いて何か言おうと試みるも、理解が追いつかず言葉に詰まってしまう。

「これも俺達が死徒に打ち勝つために支払った代償の一つさ。お前の中に留まる事が出来たのは、まさに不幸中の幸いだったが」

「超能力を失っただけじゃなかったの?」

「ああ……そうさ、これに比べれば超能力の喪失なんて些細なものだ」

 父と母の顔が暗く沈み、京助も胸の中の穴に冷たい風が吹き抜けたような気分にさせられる。

「〝洗濯機〟による地球規模の記憶消去と改変が行われ、多くの人々から与太話として記憶されるようになった後も死徒アン=ゴル・モアの怨念は比肩しがたい程強烈だったわ。その矛先は私達夫婦に向けられた」

「その怨念は俺達に向けられたものじゃない。俺達の未来……お前に向いたんだ」

「……俺に?」

 困惑する京助だったが、同時にどこか納得している自分がいた。

「死徒の力の一端は時を超えてお前の魂に紛れ込み、お前をずっと蝕み続けたんだ」

 ああ、だからか。

 なぜ自分を蝕む力を持っていたのか、それは親の代に遡る敗者の怨念によるものだったのだ。

「私達は悩んだ……何日も相談した結果、あなたには超能力の事を隠し通し、もしもの事があれば秘密裏に遺せるものを遺しておこうとずっと動いていたわ」

「どうして俺に隠す必要があったの?」

「あなたが幼い頃から能力を使えば、それと同時にあなたの魂に深く根を張った死徒の力は加速度的に膨れ上がってあなたを食い潰していたかもしれない……そんな事、私達は耐えられなかった」

 溢れる才能を取るか、命を取るか、そんな酷な判断を迫られていたとは。

 死徒というのは執念深いだけでなく、悪辣極まりないのだと京助は怒りを覚える。

「だがお前も大きくなって、そろそろ感情のコントロールが出来るようになったと思っていた頃……大きな誤算が生まれた」

「私達は……ジャガックに襲撃されたの」

 そんな矢先の出来事だったとは、偶然にしても酷すぎると思ったが、京助はふとある事を思い出す。

「ねえ、イダムは……奴は死の力を持ってた! これって!」

「ああ、そうだ。これも死徒の力による巡り合わせだろうな」

「そんな……」

 もしここで京助が死ねばそれはそれで死徒アン=ゴル・モアの復讐は果たされ、生き残ってもこの一件がずっと心の中で残り続けて結果的に自分の野望を潰した憎い相手の息子が自分の手に堕ちるという復讐になる。

「奴はお前の覚醒と共に力を活性化させ、俺達の魂を取り込んだんだ……特等席で愛するお前が壊れていくのを見せるためにな」

 だから今こうして父と母が心の中の世界に居るのかと納得すると同時に、死徒の力を得たクドゥリと戦って気を失った時に見た二人は幻じゃなかったのかと温かい気持ちにさせられる。

「俺をあそこまで導いたのは父さんと母さんだったんだね」

「ああ、丁度俺と美菜はあそこに近い所に閉じ込められていてな、お前の姿をした死徒の力が油断した隙をついてここにこうして出て来ることが出来たんだ」

「同時にあなたの心の世界から完全に締め出すために奴を炙り出す必要もあったから、結果的にあなたのトラウマを刺激する事になってしまったのは申し訳ないと思ってる。ごめんなさいね」

 あそこに導かれた時は本当に頭が真っ白になったが、手札がない中必死に考えた策なのだとすれば責める事も出来ない。

「分かったよ父さん母さん……その……」

 もしもまた両親に会えたら言おうと思っていた事が沢山あった。

 だが本当に会えるとは思っておらず、いざ何か言おうとすると言葉に詰まってしまう。

 しかしこれだけは、これだけは伝えるべき言葉だと思った京助は、照れ隠しに笑いながらも父と母をまっすぐ見て言った。

「ありがとう」

 両親も両親でこんなことを言われるとは思っておらず、一瞬驚いた顔をして首を横に振った。

「礼を言うのは俺達の方さ」

「今まで……よく頑張って耐えてくれたね」

 なんだかそう言われると、これまで傷付きながらも駆け抜けてきた意味があったような気がして涙が出そうになる。

 だが今はそれどころではない、締め出されたとはいえウィッカーアウルは心の世界の表層に居るのだから。

「ちょっと話を戻すけどさ……ウィッカーアウルを倒す方法ってあるの?」

 それを聞いた二人は顔を伏せ、再び重く沈んだ顔になる。

「……え? 父さんと母さんは昔奴の大本を倒したんだよね?」

「アレを倒すことは……俺達には不可能だ」

 京助は目の前が真っ暗になった。

 魂のみになった事で力を取り戻し、あんな圧倒的な力を持つ父ですら不可能なのか。

「不可能って……なんで⁉」

「アレはね……あなたの手でしか倒せないの」

「は?」

 京助の手でしか倒せないと言うのならば、アバターを奴に奪われた今、一体どうやって対抗すればよいのか。

「じゃ……じゃあ、俺の手で倒すにはどうやったら?」

「正直なところ……ほぼ打つ手はない」

「打つ手はないって……どういう意味⁉」

「アレはもはやお前の心に出来た、切除も不可能なほど癒着した巨大な腫瘍と言って良い」

 少しずつ目の前の景色が歪んで暗くなっていく。

 ウィッカーアウルを圧倒的な力で撤退に追い込んだ父とここまで導いてくれた母ならばなんとかしてくれるのではないかと思っていた。

 だがこんなはっきりと打つ手は無いと突き付けられるとは思ってもおらず、たどり着いたオアシスが一瞬のうちに枯れ果てはじめたような感覚に陥る。

「どうして……何かしら手は打てなかったの?」

「もしあるとするなら……お前がもっと誰かを頼るべきだった」

「え……」

「もう仕方のない事だけれど、今の京助のように戦っていた事を隠さず、周りの信頼出来る人に本当の自分を明かすしていたら……アレはこんなに大きな力を持たずに済んだかもしれないわね」

「隠すのは間違いだったんだ、相手は誰でも良かった。レイでもいいし、奏音ちゃんでも……お前は戦っている事を隠し続け、そこで溜まった痛みが次第に歪みとなって心を蝕んでいき、結果的にアレへエサを与える事になったんだ」

 沈痛な面持ちで語る父を見ていると胸の内側で何かが弾ける感覚がし、京助はたまらず立ち上がる。

「じゃあ! じゃあどうしたら良かったんだよ‼」

 京助の叫びは、何があっても走り続ける事しか出来なかった少年が背負った数年分の傷の爆発であった。

「俺は十三の誕生日を迎える前に父さんと母さんを失った! 一人きりになった俺の心の支えはジャガックに復讐して侵略を止める事だった‼ そうでもしないと完全に壊れてしまうから!」

 決して誰にも見せようとして来なかった溢れんばかりの思いが、堰を切ったように京助の口から流れ出す。

「奴らには俺の顔もバレてる! イダムの野郎が一人生き残ったから! だから万が一にでも俺がマグナアウルってバレたら周りの皆も危なくなる! 父さんと母さんを失って……奏音まで失ったらいよいよ……いよいよ立ち直れない! だから嘘までついて絶対に隠し通す必要があったんだよ‼」

 京助の悲痛な慟哭に、万路と美菜は辛そうに、だがしかししっかりと息子を見つめている。

「誰にも言えない! 頼れる人も居ない! 一人で立ち続けるにはこんな風に走り続けるしかなかったんだ‼ 俺にはこの選択肢しか無かった……だからっ……」

 言葉が出て来なくなった代わりに、今度は涙が流れてきた。

 全てが始まったあの日から、初めて泣いたような気がする。

 出なくなった言葉の代わりに、涙が止めどなく溢れてくる。

「京助……ごめんね」

「お前が一番辛い時期に……俺達は傍に居てやる事が出来なかった」

「父さんと母さんのせいじゃないって分かってる! でも……」

 その先を言う前に、美菜が京助を抱きしめていた。

 数年ぶりに、そして二度と味わう事が無いと思っていた母のぬくもりに、京助はひたすら涙を流した。

「ごめんね……ごめんね……」

 万路も京助の肩にそっと手を置いて、しばらく家族三人で身を寄せ合っていた。

「ずっとお前が苦しんでいるのを見ていた……助けてやりたかった」

「京助を守るべき私達は……結局何もできなかった」

「よく今日まで耐えてくれた……だがもうひと踏ん張りだ」

「私達にしてあげられる事は決して多くはない。でもアレを倒す方法を一緒に考える事なら出来るから」

「本当に?」

「ええ、一緒に戦いましょう」

「何だってやるさ、地下室に行こう」


 三人で千道邸の地下へ向かい、京助はウィッカーアウルがこれまで口走っていた事を二人に共有した。

「無視……か」

「京助が無視し続けたもの……一応聞くけど、現状はそれが何か分からないんだよね?」

「そうだね、なんだか喉元まで出かかってるような気もするんだけどさ」

「分かった、あなたの感情から考えて骨子になりそうなものを、あなたの行動を振り返りながら考えてみて。その間に私達はアレに対抗するものを考えておくわ」

「実は既に一つ思いついている」

 美菜と京助が腕を組む万路の方を凝視する。

「本当に⁉」

「ああ、理論上はこれで上手く行くはずだ……恐らくアレはマグナアウルと比較してもそこまで強くない筈だからな」

「それ本当に言ってる?」

「もちろんだとも、アレは力の使い方があまりにも単調すぎる。パワーのみで押し切ろうとしてるのが見え見えだな」

「だからゼロアウルがやってたカウンター戦法に手も足も出なかったのか」

 ゼロアウルのようにカウンターを主とした戦法ではないものの、マグナアウルは手数が多く、こちらのペースに引き込むことが出来れば有利に立てるだろう。

「でも問題はどうやって生身と死の力を纏ったアバターっていう圧倒的な差を覆すかだよね」

「簡単に言えば、お前の方からアバターを呼び出してやればいい」

「でも既にあいつがアバターを纏ってるから呼び出せない筈だけど」

「纏っているなら、奪ってしまえばいい。こいつでな」

 万路が自分の左腕をこれ見よがしに叩いた事で、京助は自分の右腕を見る。

「さっきは出なかったけど……」

「アレに細工されていたせいだろうな。やってみるといい」

 拳を小指から握り込んでから脇を閉めて力を込めると、右腕にアウルレットが出現した。

「おお……出来た!」

「よし、それが出たのならばほぼ上手く行くな。俺はアウルレットでアバターを取り返す為の計算をしておくから、京助はアレについて考えておいてくれ」

「わかった」

 美菜が言ったように自分自身のこれまでの行動を振り返りながら、京助は一体全体何を無視していたかを考えはじめた。

 

 万路と美菜が何か話し合いながら計算をする間に、京助は自分自身と問答する事にした。

 なんとなくだが、さっき両親にぶちまけた本音の中に鍵があるような気がする。

(どうして俺は走り続けた?)

 それは折れて立ち止ることが許されなかったから。

(折れて立ち止ったのなら何が起こった?)

 その間にジャガックが多くの人々を傷つけると考えたから。

(……だが俺が一番したかったのはジャガックへの報復だろう?)

 本当にそうか? それだけなのか?

(皆を守りたいとも思っていた)

 人知れず地球を守っていた家族の遺志を継ぎたいとも思っていた筈だ。

(確かに、そんな事も言ってたよな……)

 なんで皆を守りたいと思った?

(皆を失いたくなかった)

 主に誰を失いたくなかった?

(奏音だ)

 想像してみろ、奏音を失ったらどう思う?

(そりゃもう……もうすごい事になる)

 じゃあそのすごい事になるのをどう思う?

(……そうか!)

 目の前に広がっていた暗闇がようやく晴れた。

 ウィッカーアウル(白京助)を構成するものの中核にして、今まで自分が無視していたものの正体。

「そうか……なるほどな……」

 確信したと同時に、京助にはある使命感が生まれた。


「なんだって?」 

 京助が言い出したことに万路と美菜は耳を疑った。

「言った通りだよ」

「そんな……どうしてそんな事をいきなり?」

「奴の正体が分かったんだ」

「分かったのか⁉ だったら……」

「分かったんだ……だからこそ」

 京助はしっかりと両親の方を見て言った。

「あいつは倒しちゃいけない」

 急にそんな事を言い出した我が子に、万路と美菜は困惑して顔を見合わせる。

「倒さないと、お前は目覚めることが出来なくなるかもしれないぞ」

「分かってる。これは倒しちゃいけないっていうより、倒しても意味がないって事なんだ」

「倒しても意味がない……」

「今後一切奴に手出しをさせないためには、倒す以外の方法を取るべきだよ」

「考えを聞かせて」

 京助はウィッカーアウルの正体と、何故倒してはならないのかを両親に語り、それを聞いた二人はその理屈に対して納得はするものの、感情としては複雑な反応を見せた。

「だがそれだとアレと一生共生しなければならないぞ」

「それでもいいの?」

「そもそも……皆そうなんじゃないの?」

「皆そうって?」

「奴は俺が閉じ込め続けた感情が人格を持って、たまたま死徒の代行者になったってだけ……つまり奴も俺の一部なんだ。人は誰でも心の中に奴を飼ってる、父さんと母さんだってそうだろ?」

 息子の言う通り、二人にも心当たりは確かにあった。

「あそこまで奴が強くなったのは、俺が俺自身の心の傷から目を逸らし続けたからなんだ。だから奴を倒してもただの自傷行為ってだけ、倒す以外のアプローチをとるべきだよ」

「……やり方は思いついているのか?」

「上手く行くかは分からない。けどやるとしたら手段はこれ一つきりってのはすでに」

「もしそれをやるなら、恐ろしい目に遭うかもしれないけど……覚悟は出来てる?」

「とっくに出来てるさ、だって……」

 京助はニッと笑ってから両親を見た。

「二人に会えて勇気を貰えたから」

 そんな事を息子に言われると、親としては泣きそうになる。

 自分たちが思っていた以上に、我が子は逞しく育っていたらしい。

「わかった。そこまで言うのなら、俺達はただ見守るしかないな」

「でも覚えておいて、私達は京助をずっと見守って応援しているから」

 京助は大きく頷いた後で、深呼吸してから再びアウルレットを出現させる。

「……じゃあ、始めよう。本当の戦いはこれだからだ」


 京助の心界の表層世界で、ウィッカーアウルは一人で深層世界に向かう為に四苦八苦していると、突如背後にドアが出現した。

「アァ?」

 振り返ると同時にドアが開いて、中には京助と万路と美菜がおり、京助だけが中から出てきて背後の両親を見てから小さく頷くと、万路によってドアが閉められ再びこの世界で二人きりになる。

「なんだ、今更現れて何のつもりだ?」

「終わらせに来た」

「終わらせに来た……だァ?」

「ああ、この不毛な戦い……いつかお前の言った通り自分同士で戦うのは無意味だった」

「知った風な口を……」

「もうやめにしないか」

 まるで諭すような口調の京助に苛立ったウィッカーアウルの全身から黒い炎が噴き出し、更に全身の装甲にヒビが入って弾け飛んで六メートル近くまで巨大化し、再びウィッカーアウルはウィッカーアモンと化した。

「テメェにそんな事言う権利があるとでも思ってんのか! ぶっ殺してやる‼」

 自分の頭上から悍ましい獣に怒鳴られるも、京助は意に介さないどころか更に冷めた様子で告げた。

「まだやるつもりか……残念だ」

「澄ましやがって! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおすッ!」

「そうか、だったら少しお灸を据えるしかないな」

「ウワアアアアアアアアアアアアッ‼」

 猛獣と化したウィッカーアモンの左腕が京助に迫り、その全身を鋭利な爪で八つ裂きにしようとした直後、京助の右手が一閃してウィッカーアモンの腕を凪いだ。

「⁉」

 何故か腕に力が入らなくなり、ウィッカーアモンは自分の腕を掴みながら叫ぶ。

「なんでだ⁉ おい! 行くな!」

「俺のアバターだ、返してもらうぞ」

 ウィッカーアモンの左腕が不定形の靄状に変化すると同時に、京助の左腕が青白い輝きを放つ。

「テメェ! 一体何しやがった!」

 輝く左腕を見せつけながら、京助は得意げに笑って言った。

「お前の左腕を十七次元宇宙から切断し、その部分だけ俺に移したのさ」

 徐々に京助の腕の光が薄れ始め、マグナアウルの手甲を纏った左腕が現れた。

「テメェ!」

「もう一度言う」

 マグナアウルの手甲にアウルレットの次元断裂ブレードを乗せ、京助はウィッカーアモンへと宣戦布告をした。

「俺のアバターだ、返してもらうぞ!」

「ウウウウウウオオオオオオオオオオオオオンッ‼」

 ウィッカーアモンは赤い目を爛々と輝かせて京助に向かって吠え立てると、四足歩行になって後ろ足で砂を巻き上げながら走り出した。

「ハッ!」

 京助は自分を引き裂かんとする腕の一撃をスライディングで回避して懐に潜り込むと、右足を次元断裂ブレードで切断する。

「ギャアッ⁉」

「よし来い‼ こっちだ!」

 京助は右足を突き出して切断された足に向かって叫び、空中へ吹き飛んだ足が青白く光り輝き、その輝きが京助の右足に集まってマグナアウルの右足に変化する。

「おっとと! 高さが左右で違うけどしゃーねぇ……おいどうしたお前、その程度か⁉」

「テメェは……もうマジで……許さねぇ‼」

 煽られて腹を立てたウィッカーアモンは、羽角と背中の棘に赤い電撃をチャージしてフルパワーで京助に放つも、着弾直前に京助が片足で思い切り地面を蹴って跳躍し、空中で側宙しながら次元断裂ブレードで腰のあたりを一刀両断する。

「ウウウウウッ!」

 狙い通り下半身の装甲が一気にこちらに戻り、二十六センチも高い世界に一瞬京助はよろめきそうになる。

「ウウウッ! クオッ……アアッ!」

 体の半分のアバターを取られたせいで姿を維持できなくなったのか、ウィッカーアモンは急激に縮小してウィッカーアウルの姿に戻ってしまった。

 だが左腕と下半身は不定形の黒い靄となっており、焦りからか肩を大きく上下させている。

「もう……やめにしないか?」

「誰がやめるかボケアホが!」

 ウィッカーアウルが怒鳴りつけると同時に赤い鎖が次々と京助に向かって飛んでいき、京助はバク転して回避すると左腕で体を支えると足を振り回して赤い鎖を次々と蹴り飛ばし、一瞬の隙をついて跳躍すると旋回しながら踵落としを見舞った。

「ウウッ! ダアッ!」

ピーコック()ッ!」

 羽角からの赤い電撃を生成した盾で防御すると、京助は距離を詰めて盾でウィッカーアウルを殴りつける。

「ラアッ! ウウウッ……BUOOOOOOOOOONN‼」

 さすがにクラッシャーから放つ黒いビームには対応しきれず、京助は盾を持ったまま後方へ大きく吹き飛ばされる。

「危ねぇ……なッ!」

 思い切り盾を投げつけた事でウィッカーアウルが大きく吹き飛び、京助は畳み掛けるべく次の行動を取った。

スワロー()……それに、こうだ」

 左手に持った剣にアウルレットの次元断裂ブレードを擦り合わせると刀身表面が金色に輝き、サイコエネルギーで形成された黄金の刀身が出現した。

 次元断裂能力を持つ剣を手にした京助は剣を逆手に持つと、再び立ち上がってこちらに向かってきたウィッカーアウルの爪の一撃を回避しながら剣を振るうも、寸での所で回避されてしまう。

「流石に回避を覚えたか!」

「うるせぇぇぇぇええええええええっ!」

 羽角からの赤い電撃が迸って京助を貫こうとするも、京助は左腕からソリッドレイを放って対抗し、しばらくの間拮抗状態で撃ち合いが続く。

「……おおおおおっ!」

「ヌェアアアアアアアアアッ!」

 徐々に距離を詰め始めた京助に焦ったウィッカーアウルが更に赤い電撃の威力を上げるも、京助は一切怯まず距離を詰める。

「おおおおおおっ! オラアアアアアッ!」

 剣を翻してウィッカーアウルの左肩から右肩に至るまで真一文字斬りつけ、返す刀で腹部を切り裂いて装甲を奪い返し、ついでに(ヘルム)を狙うも赤い電撃の威力が弱まっている事もあってかウィッカーアウルの頭にソリッドレイが直撃して大きく吹き飛ばされてしまう。

「アアアアアアアアアアアアアアアッ! チクショォォォォォォオオオオオオッ‼」

「チッ……まあいい。こっちだ! 戻って来い!」

 京助の左肩と胸と腹部、そして右腕に光が収束して、顔以外は完全にマグナアウルの姿になった京助は、最後の仕上げに取り掛かるべく指の関節を鳴らして(ヘルム)以外は黒い不定形の靄になったウィッカーアウルを真っ直ぐに見据えた。

「クソが……なんで勝てねぇんだァァァァアアアアッ!」

 力を失っている状態とはいえ全身が黒い靄状になった事で、ウィッカーアウルは全身を星雲状に分解させながら京助へと襲い掛かる。

「クソッ! セイッ! オラッ!」

 剣を振り回すもこれでは効果が薄い。

「だったら……これだっ!」

 全身から電撃と青い炎を放出して纏わりつくウィッカーアウルを吹き飛ばし、追撃に青い炎を纏ったソリッドレイの槍でウィッカーアウルを遠くに追いやる。

「テメェ……」

「いい加減にもうやめないか? これ以上は何も生まない」

「ふざけんな……俺はお前を叩き潰す!」

「何にそこまで執着するんだ?」

「そう言うテメェはどうなんだ?」

「なに?」

「言っただろ……お前の事を本当の意味で知ってる奴は誰も居ない……お前はあの瞬間死んだも同然! それなのになぜ生き続けようとするんだ! どうしてそこまで生にしがみつくんだ!」

「死んだも同然……本当にそうか?」

 京助はそう言いながらも右手を握り込んでから装甲の上にブレードを展開したアウルレット出現させ、真っ直ぐにウィッカーアウルを見据える。

「確かに本当の俺を知る者は誰も居ない、嘘までついて自分を隠し通したからな……だがな!」

 二本の次元断裂ブレードが金色に輝き始め、その輝きにウィッカーアウルは思わず目を逸らす。

「そこまでして守りたいものが俺にはあった! 確かに俺にしか出来ない事があったんだ! だからおちおち……死んでちゃいられねぇんだよォォォォォォオオオオオオオオッ‼」

「ウェェェアアアアアアアアアアアアアッ‼」

 次元断裂ブレードの輝きが右腕全体に広がり、京助は腕を振り上げてウィッカーアウルへと殴り掛かり、ウィッカーアウルも不定形の靄となった右腕に黒い炎を灯して迎撃にかかる。

「オオオオオオオオッ‼」

「ドゥオオオオオオアアアアアアアアアアッ‼」

 拳が交わる刹那の瞬間、ウィッカーアウルのものよりも京助の拳が先に顔面に届き、ウィッカーアウルの(ヘルム)と体が宙に舞い、京助の手にウィッカーアウルの鳥類の髑髏を思わせる(ヘルム)が落ちてきた。

「……フッ!」

 両手で(ヘルム)に力を込めると、まるで空気が抜けるように黒い靄が発生し、おどろおどろしい髑髏の意匠は消え失せてマグナアウルの(ヘルム)に戻った。

「ふぅ……これで……戻ったな!」

 京助は一度(ヘルム)を天に掲げてからゆっくりと自分の顔に被せ、ついに完全に自分の化身(アバター)を取り戻した事を噛み締める。

「久しぶりだな……この感覚は」

 外側と内側から何かに蝕まれるような感覚ではなく、体の奥底から熱いものが漲って力が湧き出るような素晴らしい感覚をしばらく味わったマグナアウルは、大きく深呼吸してから蹲る黒い靄の方に目を向ける。

「うううあぁ……あうぅ……くあっ! ああっ……」

 徐々に黒い靄は分解していき、その中から白京助が現れた。

「お前ばかり……お前ばっかり! お前ばかりずるいんだよ!」

 そんな子供じみた事を喚きながら、白京助は泣きじゃくっていた。

「……もうこれで終わらせよう」

「⁉」

 近づいて来るマグナアウルに向かって這いつくばりながら腕を振り回して抵抗するも、全く無意味であることは白京助自身も分かっている。

「うわあああ……ちくしょう」

 白京助は腕で顔を覆いながら身を縮こまらせたが、いつまで経っても何の衝撃も来ず、恐る恐る顔を上げるとマグナアウルが自分の目の前で膝をついて座っていた。

「なんだよ……なんのつもりだよ! 殺すならさっさと殺せよ!」

「殺さないさ」

 紐が解けるようにマグナアウルの装甲が分解していって元の姿に戻ると、京助はそっと手を差し出して語り掛ける。

「お前が何かようやくわかった」

「はぁ?」

「お前は俺の……〝恐怖〟なんだろ?」

 白京助がびくりと身を震わせ、その態度で京助は確信した。

「二度と立ち上がれなくなる恐怖、噓がバレるかもしれない恐怖、いつ終わるかも分からない戦いへの恐怖、誰かの死への恐怖、自分の死への恐怖、そして……当人にすら忘れ去られる恐怖」

「……」

 こちらを睨みつける白京助だったが、その目は隠していたものが暴かれた悔しさの色が滲んでいた。

「俺の恐怖がお前を作り出した、そうなんだろ?」

「だったら何なんだよ! そんな事聞いて何がしたいんだよ!」

「……今まですまなかった」

 予想外な京助の言葉に白京助は目を丸くして呆気に取られるも、すぐに京助を睨みつけて喚き出す。

「今更何だ! 今までさんざん俺の事を無視して突っ走り続けた癖に!」

「お前の言う通り、俺は無意識にお前を無視する事にした……直視するのが怖くて、ないものとして扱い続けた。だがそれは間違いだったんだ」

「そんな都合いい事言いやがって!」

「その結果が今の俺だ……傷だらけになってまで走り続けた先で、走れなくなった俺は結局立ち止る事を余儀なくされた」

「今更謝ったって……おせぇんだよ!」

「もう……本当にダメなのか?」

 京助が俯いた白京助の肩に手を乗せると、白京助は涙でぐちゃぐちゃになった顔をこちらに向けた。

「俺達は終わりなのか?」

「ああそうさ! どっちかがどっちかを殺すまで終わりはない‼」

「それは違うぞ」

 京助は肩に乗せた手に少し力を込めて諭すように続ける。

「俺達の恐怖のルーツは心の傷なんだ。どちらかを殺してなり替わったってそれが癒える事は決して無い、だからこの苦しみから脱却するにはどうにかして乗り越えるしかないんだよ」

「もう遅い……俺達は一生傷を背負うんだ!」

「そうさ、俺達が失ったものは永遠に戻らない。だけどそこで燻ってても仕方ないだろ!」

「またそうやってどうせ俺を!」

「いいや違う!」

 京助は静かだが力強い口調で白京助の言葉を遮り、真っ直ぐもう一人の自分を見つめて言った。

「今度こそ俺はお前から目を逸らさない、逃げない、無視しない! だから頼む……一緒にやり直さないか?」

「一緒にって……」

「お前の痛みは俺の痛み、お前の恐怖は俺の恐怖。もう十分苦しんだだろ? 今度こそその痛みを、その恐怖を、その苦しみを俺がしっかり背負うから……今からでも遅くない筈だろ?」

 泣きじゃくりながら手で顔を擦る白京助の姿は、気が付いたら全てが始まった当時の中学一年生の頃のものになっていた。

「俺はお前(恐怖)をもう拒絶しない、受け入れてからまた歩き出すよ。だからもうお前は苦しまなくていいんだ」

「俺は……もう……あんな思いから解放されるのか?」

「ああ、夜は終わりだ……そして共に朝を迎えよう」

 泣きじゃくるかつての自分を抱きしめると、胸の中に蟠るものが搔き消されるような感覚がすると同時に白京助の姿が消えてしまった。

 

「……どうやら、上手く行ったみたいだな。おお?」

 荒廃しきってねじくれたシュールレアリスムの極致のような京助の心界が徐々に変化を始め、荒れた大地に緑が広がって空に美しい満月が浮かび、その月光が優しく京助を照らしている。

 そんなどこか心地よい世界に早変わりしていた。

「これが俺の……何にも蝕まれていない本当の心の世界」

「……驚いたな」

 気が付くといつの間にか出現したドアから父と母が出てきており、感心したように周囲の光景を見ていた。

「本当に死徒の力を戦わずに処理するとはね……これは本当にすごい事よ京助」

「今まで無かった発想だ。流石は俺達の息子だ」

 誇らしげにこちらを見る万路(ちち)美菜(はは)に、京助は照れ臭くなる。

「よく頑張った、これで全て終わったんだ」

「いいや、まだ終わってない」

「まだ?」

「あいつと約束したんだ、もう目を逸らさないって……心の歪みはどうにかして正さないといけない。だから意識を戻してからが本番さ」

 京助は何も言わなかったが、万路と美菜はこれから我が子が何をするつもりなのかを理解していた。

「そうか……やるんだな」

「良く決断したわね」

「やるよ……でもさ、ちょっと怖いんだ」

 それでも微かに笑う京助に、二人は思わず胸が痛くなる。

「だからさ……俺のこと抱きしめてよ。そしたら多分、勇気が出てくるから」

 腕を広げる京助にまず美菜が歩み寄って抱き締め、その後に万路が二人を包み込むように抱き締めた。

「ずっとずっと、見守ってるからね」

「お前なら出来るさ……何だってな」

 両親の体温が、二人の言葉が、何よりも温かい。

 このまま時間が止まればいいのにと、京助は心の片隅で願っていた。


 気が付くと無機質な部屋の中で体を丸めて横たわっており、周囲を見回すと金属で出来たデフォルメされた鳥がいた。

「京助?」

「……お前トトか?」

「目覚めたのですか!」

「生きてたのか……なんか見ないうちに随分変わったな」

 よく見るとまだアバターを纏っており、マグナアウルはひとまずその場から起き上がった。

「とりあえず、来れるか?」

 マグナアウルは自分の左腕を指すと、トトは姿を変えて腕に巻き付いて徐々に装甲内部に潜っていった。

『お前が生きてて良かったよ』

『あなたも無事に死徒の力の支配から抜け出すことが出来て良かったです』

『ここはどこだ?』

『ウィルマース財団ですよ』

『なるほど……奏音はどこに居る?』

『……ついにあなたも知ったのですね』

『色々あったけどな……やるべきことをやりに行こう』

 マグナアウルは立ち上がると、瞬間移動でその場から姿を消すのであった。


 それから十数分後、奏音が一人病室で微睡みながら物思いに耽っていると、突然体が軽くなった感覚がした。

「あれ……ん?」

 物音がしたような気がして体を起こして病室の中を見回すも、何も見つからない。

「気のせ……うわっ!」

 なんと自分の真横にマグナアウルが立って見下ろしており、大声を上げそうになった奏音の口をふさぐと指を立てて静かにするように伝える。

「び、びっくりした……あんたその姿は……」

「おかげさまで元に戻った、礼も兼ねてちょっと話したいことがあって来た。座っても良いか?」

 困惑しつつも奏音はそれを承諾し、マグナアウルは備え付けのパイプ椅子に腰かけてから口を開いた。

「まず初めに……君のおかげで俺は元に戻ることが出来た、そこについて最上級の感謝をしたい。本当にありがとう」

「ああ、どういたしまして……まあ別にやるべき事やっただけだから」

「そうか……少し身の上話をしてもいいかな?」

 これは意外だった、マグナアウルが自分の話をする事は滅多にない。奏音は体を起こして興味津々に顔を向ける。

「俺が何故戦うか……覚えてるか?」

「復讐の為でしょ?」

「そうだ、俺はジャガックに大切な人を奪われた。そしてこの力を得てずっと戦ってきたわけだが……こんな俺にも支えてくれる人たちが居てな、その人たちには俺がマグナアウルとは未だに伝えていないんだよ」

「……ずっと秘密にして戦ってたってこと?」

「ああ、嘘をついてまで隠してたんだ。皆を巻き込みたくなかったんだよ……奴らから守りたかったから」

 自分には共に戦う仲間がいて、両親にはこの事を伝えている。

 以前彼は「これからもこれまでもずっと一人」と言っていたが、正真正銘ずっと一人で戦ってきたのだと思うと、その精神の強さに思わず感服しそうになる。

「なんかすごいね、私には想像できないや……あんたって心も強いんだ」

「いいや、俺が今回ああなったのは、孤独な戦いを続けて心の歪みを無視し続けた結果だ……だから君に今から、俺の全てを話したい」

「わ……私に?」

 さすがに困惑した奏音は目を丸くしながら姿勢を正してしまった。

「なんで私なの? 私が助けたから?」

「いいや、その……俺が守りたかった相手は……」

 マグナアウルは顔を片手で覆って数秒間黙りながら何か迷っている様子だったが、やがて意を決して口を開いた。

「俺が真に守りたかったのは……君だったから」

 そんな告白を受けた奏音は、不気味に思って表情を強張らせる。

「それって……どういう意味?」

 マグナアウルは細く長く息を吐くと、右手を左の首筋に当てて首元と(ヘルム)を分割し、その隙間に指を入れると片手で(ヘルム)を脱ぎ、ついにその素顔を白日の下に晒した。

 梟の意匠を持つ(ヘルム)に隠されていた素顔を見た奏音は、驚きのあまり大きく目を見開いて口を開き、困惑によって口を開閉させるも何も喋れない。

 その様子を見た()()は、安堵しつつもどこか寂しそうに笑ってから、ついにその一言を奏音に告げた。

「俺がマグナアウルだ」

「嘘……でしょ……」

 驚愕と困惑の狭間で、奏音はただただ京助の顔をまじまじと見つめ、京助の頬に触れた。

「どうして……京助が……」

 考えれば「ジャガックに大切な人を奪われた者」は京助にも当てはまる、だが記憶喪失であるという事が邪魔をする。

 だがさっき嘘をついてまで自分がマグナアウルである事を隠していたと言っていた、つまり記憶喪失であることが嘘だとするならば、京助がマグナアウルであるという辻褄が全て合うのだ。

「この前のアレとか……ここ最近人前に出なかったのって……」

「ウィッカーアウルになりかけてたせいだ」

「大侵攻の日に宇宙船を見てたのは……」

「ああ、しっかりとアレが何か理解してたよ」

「加須多穂のリゾートに来れたのも……」

「そういう事さ」

「パテウと戦った時も……」

「離れたのはそういう事さ」

「じゃあデートの時も……私達……」

「全く笑えるよな……結果オーライだった訳だが」

 頭の中でパズルのピースが埋まっていく、お互いがお互いを守っているつもりで守られていたのか。

「どうして……どうして今まで黙ってたの?」

「奴らに……父さんと母さんを殺された時、俺の顔を見られてたから……だからもし俺がマグナアウルってバレたら絶対に皆を巻き込んでしまう……皆を失いたくなかったんだ! それがどうしようもないぐらい……怖かったんだよ‼」

 十五年近く一緒に居て初めて奏音は京助が泣いているのを見た。

「それでも一人で戦い続けたのだって……そうでもしないと二度と立ち上がれない気がしたからで……自分の痛みを直視するのが怖かったんだ! そしたらその痛みはずっと大きくなる一方で訳分かんなくなって! そのせいで今まで俺の事守ってくれてた奏音に酷い事言っちゃって……」

 突如奏音が京助を抱きしめ、京助は涙を流しながらも驚いたように目を見開く。

「もういいよ……もういいから! もうあんたは一人じゃない‼」

「奏音……でも俺は……」

「いい……それはもういい! 許すよ……許すから!」

「奏音……」

 京助の藍色の手甲に包まれた手が、恐る恐る奏音の頭に触れる。

「一つ教えて……いつだったら……いつだったらあんたが一人で苦しむのを止めてあげれたの?」

「それは無理だ……俺は誰にもこの事を明かす事はしなかった、だからそれを気に病むことは無いさ」

 そう言われた奏音は一旦京助を放してから肩に手を置いてから捲し立てる。

「だったらさ! 私にその痛みを肩代わりさせてよ! 出来るものならあんたのその痛みを取り去ってあげたいけど……でもそれはきっと難しい事だからせめて! 一緒にそれを背負う事なら出来るから!」

 奏音の目に光るものが一筋流れ、同時に硬い装甲越しにも奏音の手に込められた力が強くなっていくのを感じる。

「あんたがもし今地獄に居るなら私も行く! ……そうするって告白する時に決めたから‼」

 今まで守ってきたつもりだった奏音がここまで強い女だったとは、京助は思いもしなかった。

「奏音……ありがとう」

 戦う為に作られた硬い手で、京助は奏音の頬を撫でる。

「でもごめん、俺はお前を地獄には連れて行けないから……新しい道に向かおうと思ってる、だから一緒に……来てくれるか?」

 奏音は泣きながらも、京助を見ながら笑って大きく頷いて見せた。

 それを見た京助は微笑み、同時にまるで全ての心の壁が消滅したかのように首から下のマグナアウルの装甲が分解して消失した。

「他の皆はどこに居る?」

「ああ、実はジャガックが出たから……え? 他の皆の事も知ってるの?」

「ちょっと考えたらすぐ分かった、ジャガックと戦ってるんだな? 何か必要なものは?」

「私前の戦いのせいで……」

「さっき治したに決まってるだろ、着替え以外には何が必要だ?」

「そっか……じゃあそこの棚にあるのを取って!」

 奏音は素早く着替えを済ませると、転送鍵を持って京助の肩を叩く。

「行こう」

「ああ、飛ぶぜ」

 京助が目の前の空間に手を翳すと空間が歪んで別の場所に繋がり、二人は躊躇なくそこへ飛び込むのだった。


 大勢のジャガックのサイボーグ兵を相手取っていた四人は、少しずつ劣勢になっていく。

「なんなのこいつらは!」

 決して大人数という訳でもないのだが、どういう訳か異様な回復力と硬さを併せ持つ者ばかりで、ただでさえ硬いのをやっと撃破するもすぐに回復されるのだ。

「四人じゃちょっと……キツいかも」

 その時、突如指揮を執っていたと思わしきジャガック兵が吹き飛び、何事かと思ってそこを見ると、なんと生身の奏音と京助がそこにいるではないか。

「え? えぇ……え⁉ ちょっと⁉」

「何やってるんですか⁉」

 困惑する四人を前に京助と奏音は互いに頷き合うと、奏音は転送鍵を、京助はアウルレットを取り出してそれぞれ天に向けて叫んだ。

「Vモードオン! GO! クインテット‼」

「招……来ッ‼」

 奏音と京助の姿が変わっていき、そこにはミューズとマグナアウルが並んで立っていた。

「はぁ⁉」

「な……え⁉」

「こいつは久しぶりだ……さてと、行くか‼」

「うんっ! 暴れるぞ!」

 マグナアウルはメイスを、ミューズはハルバードを手にすると同時に走り出し、大勢のジャガック兵の波に突っ込む。

「デァラッ!」

 二人の強烈な飛び蹴りがまとめてジャガック兵を吹き飛ばし、マグナアウルのメイスが次々とジャガック兵を粉砕していく。

「おお? 回復持ちか……おっと‼」

 複数体のジャガック兵を抑え込み、マグナアウルは後ろに居るルナとデメテルを一瞬振り返る。

「やあ、どうも」

「……どういう事?」

「これ終ったら説明する。だから俺がこいつら吹っ飛ばしたらビームか何か撃ってくれない?」

 未だに困惑しているが、やることはやらなくてはならない。

「分かった!」

「任せて!」

「よし来た、シュライク(投槍)!」

 マグナアウルは投槍を生成すると抑え込んでいたジャガック兵を吹き飛ばし、間髪入れずフルチャージしたルナが斬撃を、デメテルが高火力ビームを放って追撃し、マグナアウルはその場で旋回して遠心力をかけて槍を投げ、複数のジャガック兵を纏めて消し炭にした。

「サンキュ、次はあっちだ!」

 その場で跳躍した後でムーンサルトスピンを決めると、ミューズとイドゥンとアフロダイが戦っていたジャガック兵に飛び蹴りを食らわせて先手を取ると、この隙に三人の方を振り返る。

「いちおー聞くけど……ウチの事誰かわかる?」

「さあね、林檎の女神様の事なんて知らない」

「わかってんじゃんこれ……多分皆も……」

 マグナアウルは肩を竦めつつ後ろから襲ってきたジャガック兵を裏拳で殴り倒して頭を地面に叩きつけた。

「ちゃんと説明してくれるんですよね」

「ああ、これが終わったらな、今からすんごいのやるから残りを消し炭にしてくれ、いいな?」

「あーったよ」

「了解です、背後は任せて!」

「OK‼ スワロー()!」

 四本の剣を生成したマグナアウルはうち二本にマフラーを巻き付ける、残った二本を手に取って旋回しながら無数のジャガック兵達に突っ込み、ものの三秒で全てを細切れにするとその場から離脱して念力で細切れになったジャガック兵の破片をひとまとめにして浮遊させる。

「今だ‼ やれ!」

「すぅ……ハッ!」

「おおおおっ! シャアッ‼」

 緑色の光の束に包まれた塊が、三日月状の鏃に両断されて爆発して完全に焼失してしまった。

「さてと、残るはあいつだけ」

 参戦した時の生身の状態で蹴っ飛ばして地面にめり込ませた司令塔役がようやく復帰し、マグナアウルとミューズはそれに向かい合う。

「そいつに確かエネルギー送れたよな?」

「……なるほどね、あんまり強いの送りつけて壊さないでよ!」

「わかってるって! さっさとトドメ刺しに行くぞ!」

「合点! バーストGO!」

 バーストモードを発動したミューズが腰のスイッチを三度押し込んでバーストオーバーチャージを発動すると同時に、マグナアウルが手からサイコエネルギーをハルバードの回転刃に送り込み、青白いエネルギーで満ちた回転刃を形成していく。

「今だ‼ 行けェッ!」

「セェェェェエエエエイヤアアアアアアッ‼」

 ミューズは巨大な回転刃を携えると同時に、サイコエネルギーの靄状のシールド纏い、最後のジャガック兵が放つビーム兵器を無効化しながらハルバードを振り下ろし、回復も許さず一撃で爆散させてしまった。

「ふぅっ!」

 ミューズがハルバードを地面に突き立てると同時に勝利の余韻と先程の困惑が交じり合った奇妙な空気が流れ、四人は困惑しながらスーツを脱いで素顔を晒し、奏音もそれに続いてスーツを脱いだ。

「……さあ、新しい道に行くんでしょ?」

「ああ、そうだったな」

 マグナアウルの装甲が分解して空気に溶けていき、ついに京助の姿を露わにする。

「改めまして……」

 皐月、明穂、林檎、麗奈、そして奏音の前で京助は宣言した。

「俺は千道京助……マグナアウルだ」


To Be Continued.

ついに京助は本当の勇気を知り、皆に正体を明かす事が出来ました。

恐怖を乗り越えた京助と、マグナアウルの正体を知ったクインテットの五人はこれからどんな戦いをするのでしょうか?

少年少女達の新しい戦いを見逃さないでください!

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ではまた来週!

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