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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
40/45

焼肉と仲直り

サイと財団によって明かされるこの世界の衝撃的な事実。

何故ジャガックは地球を狙うのか、ウィッカーアモンやクドゥリとイダムが使っていた力の正体、そして一九九九年に地球に何があったのか。

全てが明らかになった時、遂にクインテットとサイ、そしてトトが合流し、ウィッカーアモンからマグナアウルを助け出すために動きだす。

果たして奏音は、無事にこの戦いを切り抜けて京助と仲直りが出来るのか?

 ウィッカーアモンを封じ込めてから十時間後の午前中の事。

 濃い灰色の重厚な壁が取り囲む取調室を思わせる部屋の中でサイは自分の赤い髪をかき上げたり、地面に接着してある机を指で叩いたりして退屈を紛らわせていると、やっと自分が入って来たものとは別の扉が開いて、スーツ姿の女が一人入って来た。

「やっとか」

「ええ、お待たせして申し訳ありません」

「ボクが信用できないか?」

「書類手続きと上層部の決定に手間取っただけですわ」

「違う、これだ」

 サイは床を爪先で叩き、壁を顎で指す。

「すごい素材だな。さすがに壊すのに手間取りそうだ」

「壊すつもりでいたのですか?」

「君面白いね、名前なんて言うの?」

「申し遅れました、私はウィルマース財団裏情報部の甘田(あまた)です。今回あなたを担当させていただきます」

「なるほど、君を財団の代表と考えてもいいのかな」

「ええ、可能な範囲でしたら、あなたのご要望通りこちらが持つ情報をお渡しできると思います」

「可能な限り……ね」

「財団が把握している限りという意味ですから、そこまで身構えなくても結構ですよ」

「なるほど、じゃあ始めようか!」

 サイが両手を上げて姿勢を正し、それを見た甘田は眼鏡を直してレコーダーのスイッチを入れて机の上に置いた。

「これより情報交換を開始、財団代表は裏情報部甘田が担当……では正確性担保の為にあなたのお名前と規定の情報をお願いします」

 サイは深く頷いて規定事項として書かされた書類を思い出す。

「ボクの名はサイ、職業は傭兵で階級は特級、来訪目的は仕事のため。出身種族共に不明……これでいい?」

「結構です。今回はあなたの希望により……クインテットの五人のメンバーにも聞いてもらっておりますが、構いませんね?」

「もちろん」

 

 監視カメラ越しに別室で、今クインテットのメンバーである五人は白波博士と共に緊張の面持ちでモニターを見ていた。

「あ~、始まったよ。なんかキンチョーする」

「珍しいですね、林檎さんが緊張するなんて」

「そりゃウチでもするよ、だってあのサイがウチらに肩入れするってだけでも相当ヤバいと思うし、そんなサイがこっちに来るだけの情報が開示されるってだけでも背筋がゾワーってするね」

 気紛れでフラフラと漂うサイが、マグナアウルを助けるためと血相を変えてこちらに来た事の異常性を全員が肌で感じていた。

「私達も知らない事か……」

「心して聞こう」

 五人の視線がモニターに集中する。

 

「ではまずはそちらの情報から渡していただきます。良いですか?」

「ああ、構わない、何でも聞いてくれ」

「ではまず、ジャガックがなぜ地球へ飛来し、真鳥市を狙うのかを教えてください」

「うん、そろそろ言うべき時期かな」

 以前サイがジャガックの正体を明かした時に、ジャガックの目的も知っている事を仄めかしていた。

 ついにそれが明らかになるのだと、この会話を聞いている者全員がサイの一言一言に耳を傾けている。

「まず前提として、連中は真鳥市が欲しい訳じゃないんだ。本当に欲しいものは真鳥市の……」

 サイは指を一本立てると、天井を指差した。

「上?」

「そう、真鳥市の……地球の上にあるものだ」

「地球の上にあるもの……ではなぜ地球上の真鳥市が狙われるのでしょうか?」

「……ん? 知らないの?」

 今度は上に上げた指を下に向けて続ける。

「ここに何があるのか」

「さあ、私には……」

「ふーん、なるほど。まあそうか、色々知ってるとはいえ観察保護対象惑星の住人にむやみやたらに情報を開示するわけにはいかないからね……まあいい、そこから話すとしよう」

 サイは机を指で叩きながら説明を始めた。

「まず地球に入星するには自分の船で行くか、宇宙港を通る必要がある。地球には六か所宇宙港があって、イギリスとペルーとエジプトとグリーンランドとオーストラリア、そして日本に宇宙港が存在してる」

「まさか日本の宇宙港は……」

「察しがいいね、そう。真鳥市の真上だ」

 まさかこの街の真上にそんな大層なものがあったとは思わず、この話を聞いていた者全員の開いた口が塞がらない。

「じゃあ後は自然と奴らの狙いも導き出せると思うよ」

「と言いますと?」

「奴らはギャング、暴力団なんだ。宇宙でも地球でも考えることは同じさ」

「港……暴力団……その、思いついたことは思いついたのですが、あまりにも馬鹿げているといいますか……」

「多分君が考えている通りだよ。言ってごらん」

 甘田は眼鏡を外して目頭を揉むと、再びかけ直してから口を開いた。

「まさか、港の利権を?」

「ご名答、奴らは日本に繋がる宇宙港の利権を欲しがってる。その第一段階の地盤固めに真鳥市を掌握したいんだ」

 あまりにも世俗的で下卑た目的に一同は怒りと呆れが同時に湧き出て脱力してしまった。

「……なんというか」

「馬鹿だろ? ボクも馬鹿だと思う」

 思わず「私も馬鹿だと思います」と言いかけた所を甘田は堪え、咳払いをして次の質問をする。

「ではどうしてジャガックは宇宙港の利権を欲しているのでしょうか?」

「うーん、これはボクの予想だが構わないかな?」

「ええ、ぜひとも」

 サイ曰く、ジャガックは権力闘争の末の内紛を繰り返したギャングとしては落ち目になってしまったらしく、このまま緩やかに先細りになって他の同業者(ライバル)達に食い潰されるのを良しとしない現首領のゾゴーリ・ジャガックが目を付けたのが他でもないこの地球なのだそうだ。

「そこで港の利権を得るために……というのは分かるのですが、なぜ比較的それほど文明レベルも高くない地球を?」

「この星は……そうだな、言うなれば今〝ホット〟なんだ」

「ホット?」

「気温の話じゃないよ。この星は可能性に満ちている、だからいろんな奴がこぞってこの星に来てるだろ?」

 知り合いの紹介で出会った入星管理官と話したとき、人手が足りず毎日仕事が忙しいと愚痴っていた為、気になってここ数百年の地球に来る異星人のデータを見たらずっと右肩上がりだった事を思い出した甘田は、かえって地球の何が異星人たちを引き付けるのか疑問に思ってしまった。

「私も異星人の地球侵攻の事案は耳にしますが、ジャガックのように表舞台にまで姿を現して侵攻するような者は居ませんでしたよ」

「それだけジリ貧なんだよ。持ち星もほぼ無くなって、本拠地のバルヴィーでの影響力も落ちてるからね。だからジャガックは地球全体どころか、国を攻めるって事が出来ないんだ」

 やっと納得がいった。

 何故標的を真鳥市のみに絞っているのか、日本を征服しようとしないのか。

 だがその理由はあまりにも情けない、正直これは幸運だとすら思ってしまった。

「成程……いい情報でした。ありがとうございます」

「あれ、これで終わり?」

「ええ……そうですね、あなたからの情報は」

「てっきりマグナアウルについて聞かれるのかと思ってた」

「彼に関しては情報提供者が最近現れたので」

「情報提供者だって? 一体誰だ? 会わせてくれないか」

「……その申し出は拒否される可能性が高いですが、こちらの方で一応確認を取ってみます」

 甘田はインカムを取り付けて顔を逸らし、何度か言葉を交わした後でサイの方へ向き直った。

「おめでとうございます、あなたの申し出は受理されました」

「そうか!」

「何ならすぐにでもあなたに会いたいそうです……あら?」

 甘田が取り付けているスマートウォッチを押すと扉が開錠される音がした。

「もう来ていたようですね。どうぞお入りください」

 頬杖をついてなんとなく入り口を眺めていたサイは、そこから現れたものをみて驚きと共に困惑してしまった。

「は……はぁ? なんだあれ?」

 それは金属で出来た体を持つフクロウとオウムを混ぜ合わせてデフォルメしたかのような姿を持つ鳥だった。

 機械細工かと思ったが、その割にはなめらかすぎる上に継ぎ目が全く存在しない。

「こいつが? 情報提供者?」

「水臭いですね、一度話した仲でしょう」

 この男とも女ともつかない不思議な高めの声には覚えがある。

「君は……彼の眷属のトトか?」

「その通りです、あなたも情報提供者としてここに来ているとは意外でした」

「なんだ、精神生命体じゃなかったのか?」

「体を得たのですよ。体を形成するに足りるサイコエネルギーを吸収しましたので」

「はぁ~なるほどね。彼に関してはボクよりトトが詳しいよ、こればっかりは出番はないな」

「そうですね、私ほど彼に詳しい者は居ませんから」

 甘田は微笑んで頷くとトトに一旦出てもらうように連絡を入れようとしたが、サイに手で制される。

「何故止めるのです?」

「これからの質問の答えをトトにも聞いてほしいんだ」

「はぁ……」

「構わないか?」

「内容にもよりますが」

「内容? うむ……じゃあ言おうか」

 サイは少し身を乗り出し、三つの単語を呟くように言った。

「『一九九九年』、『洗濯機』、『アン=ゴル・モア』」

 この三つを聞いた甘田は目を見開き、首筋に鳥肌がぞわりと立つ。

「……本気ですか?」

「ああ、色々調べてもどうも辿り着けない。どうしてもボクは真相が知りたい」

「それはウィッカーアウルあるいはウィッカーアモンに対抗するために必要な情報なのでしょうか?」

「どうしてマグナアウルがああなったのか、ボクは一九九九年に地球で起こったある出来事が関わっているとしか思えない」

 甘田は大きく息を吐き、観念してインカムを取り出した。

「甘田です。提供者が〝Nファイル〟の情報の開示を求めています……カメラを消して……」

「ダメだ。彼女たちにも聞かせろ」

「……何故?」

「彼女は〝アレ〟と戦うんだ。自分たちが戦うモノの正体ぐらい知っておく権利があるだろ?」

「……だそうです。はい、情報開示人数は八名……録音録画は停止ですね、中継は継続、わかりました。では〝解禁〟願います」

 しばらくすると甘田の体が一瞬びくりと震え、大きく息を吐いてサイとトトを見据える。

「これから話すことは一切、他言無用です」


 別室でこのやり取りを見ていた六人は、あまりの急展開に感情が着いて行けなくなっていた。

 遂に明かされたジャガックが何故真鳥市だけを狙うのか、そして突如現れたマグナアウルの眷属を名乗る謎の生き物。

 だがしかし白波博士の関心はそこではなかった。

「〝Nファイル〟……実在していたのか」

「あの~〝Nファイル〟って何ですか?」

「このNは二つの意味がある、ひとつは『NULL(虚無)』もうひとつは『NO(ない)』、あくまで噂だと思っていたが実在していたとは……」

 〝虚無〟と〝ない〟その名を冠するファイルとは一体何なのか。

存在しない(ヌル)であり、聞かれてもそんなものは無い(ノー)と答えられる。国家を超越して地球に関する極秘事項が詰まっていて、地球防衛に携わる限られた者のみが閲覧を許される」

「それが、Nファイル……」

「噂によると大規模記憶改変装置の〝洗濯機〟で消された事案は全てそこに行くらしい」

 これから自分達はその「限られた者」になるのだという緊張感が徐々に室内を包んでいく。

「そんなにヤバいんだ……ウィッカーアモンって」

 緊張が高まる中、モニター越しの甘田に六人の視線が注がれる。


「こんな予言は知っていますか?」

「ノストラダムスの大予言ってやつ?」

「よく知っていましたね、一九九九年恐怖の大王アンゴルモアがやってくる、当時ちょっとしたブームになった終末論ですが……」

「来たんだな、アン=ゴル・モアは」

「ええ、一九九九年の地球には確かに死の尖兵が来訪しました」

「やっぱりか、やっぱりそうなのか」

 サイは満足そうに笑い、背もたれに体を預けて腕を組む。

「ところで、死に関する事は知っているかい?」

「……そう言えばそちらの方はあまり」

「よしわかった、あっちで見てる子達の為にもボクが解説してやろう」

 そう言うとサイはちらりとカメラの方を見てから続けた。

「ここでいう〝死〟は普遍的概念としての死とは異なる。あれは宇宙を蝕んでいる、いわば……バグのようなものだ」

「宇宙のバグ……死とは宇宙のバグなのですか?」

「いいや、死そのものはバグではないよ。ただその宇宙を蝕むバグは、どういうわけか明確な意志を持ってありとあらゆる生命を飲み込もうとするから便宜上〝死〟と言われている」

「その尖兵がアン=ゴル・モアだというわけですか」

「そうだ。アン=ゴル・モアは特に有名な死徒で……ああ、その尖兵の事ね。奴が来訪した星は必ず滅ぼされてきた。」

「必ず……」

「一度だけ滞在した星にアン=ゴル・モアが現れたことがあってね……おぞましかったよ、奴は星に住まう命どころか星ごと消滅させてた。ボクでもただ逃げる事しか出来なかったし、三万年生きてきてあれ以上に恐ろしい光景は見た事が無い」

 あのサイが敵前逃亡を選び、その上恐れているものをどうやって当時の地球人は撃退したのか。

「ボクが分からないのはヤツの襲撃をどうやって回避したかだ、知る限りだとヤツが来訪した星は必ず滅びてるからね。まあ凄まじい技術力を持つ星はヤツの来訪を事前に察知して迎撃に成功して退けたりってのは聞いたことはあるけど、地球には一度降り立っているんだろ?」

「ええ、確かに死徒アン=ゴル・モアは一度地球に降り立ちました」

「どうやって撃退した?」

「信じられない話かもしれませんが……その死徒は我々地球人が殺しました」

 サイは思わず目を見開いて身を乗り出した。

「殺しただって⁉ どうやって?」

「多くの人々が死徒に挑みましたが……最後は一人の地球人の超能力者によって倒されました」

 そんなの与太話もいい所だとサイ鼻で笑いかける。

 サイよりも強力な神々の領域セレスティアル・ディメンションに到達した超能力者が死徒ほどの力を持たない末端に飲み込まれて死んでいくのを見た事もある。

「地球人の……超能力者に?」

 地球人のポテンシャルの高さはサイも認める所であるが、どう考えても一人でアン=ゴル・モアを倒せるとは思えない。

「誰だそれは?」

「そこまでは……」

「私は知っていますよ」

 サイと甘田の視線がトトに注がれる。

「なんだって?」

「彼は自分達や多くの人々の未来を切り拓く為に死徒へ勇敢に立ち向かい、文字通りの死闘の末にアン=ゴル・モアを打ち倒しました。決して少なくない代償を未来で支払う羽目になってしまいましたが……」

 トトの沈痛な口ぶりで、その超能力者が辿った末路を何となく想像できたサイはそれ以上何も言わない事にした。

「何故君が知っている?」

「私をマグナアウルへと遣わした者が彼と盟友だったのですよ」

「なるほど……これも運命の渦か」

 超能力者として魂が高い場所へ上がっていく度に、何か強大な渦が自分を絡め捕って放さないような感覚に陥る。

 今日この一連のやり取りの中で、サイは久々にその感覚を味わった。

「ところで話を戻しますと、あなたがここに来たのはマグナアウルを助けるためでしたよね? アン=ゴル・モアとウィッカーアモンにどういった関係があるのでしょうか?」

「彼に根付く死の力の色濃さは異常なレベルだ、何か別の存在が介入していないとあそこまで強烈にならないと思って探ってたんだ」

「すみませんが、何故彼はアン=ゴル・モアと同じ力を持っているのですか?」

「さあ、そこまでは分からない。こいつも何か知ってそうだけど、君達が知らないならトトには言えない事情があるんだろうね」

 トトはサイの気遣いに感謝の意を示しつつ、首を甘田の方へ向けて言った。

「彼の素性に関わることは言えません。どうかご理解を」

「まあそこはマグナアウルに直接聞くしかないかな。助け出した後の楽しみが増えたよ」

 なんだか楽しそうに笑うサイをよそに甘田は息を吐きながら眼鏡を直し、死の力についての情報を引き出すべく質問を続けた。

「死の力についてだね、そもそもこの力の起源は宇宙のバグを引き起こした異次元に潜む何者かが送り込むそいつの力の一端なんだ。そいつの影響が色濃い場所……言わばパワースポットに行ったり、術や儀式を施す等の方法でその力を得る」

「それで死徒化するのですね」

「いいや、自我が残っているうちは死徒にはならない。死の力を通して異次元から奴は力を得た奴に囁きかけて堕落させ、死の力への依存を高めた所を自我を飲み込んで肉体と魂を奪取して死徒にする。イダムやクドゥリは死徒の前段階と言えるね」

「なんと……ジャガックの幹部も死の力を」

「クドゥリは知らないけど、イダムは儀式で力を得た。奴は地球で一度死にかけたから益々死の力への依存を強めてる、死徒化も時間の問題だろうね」

「そうですか……だったらウィッカーアモンはもう」

 咆哮を上げて暴れ回り、悪魔のような姿に成り果てた彼は手遅れなのではないか?

「まだ大丈夫だ! 幸いな事に彼は直前で踏みとどまっている。ボクはその彼を救いたいんだ」

「熱意は伝わりましたが、どうして彼をそこまでして救いたいのですか?」

「彼は有望な超能力者で、長い間自分の中の怪物に抗い続けてきた。そんな逸材をここで失うのは地球の……いいや宇宙の損失だ!」

 机を叩いて立ち上がって力説するサイに、甘田は思わず仰け反ってしまう。

「それに彼を失うのは君達に取っても損失だろ?」

「ええ……あなたの言う通り、マグナアウルは今や真鳥市の一大戦力です」

「そうだろ、彼を取り戻すんだ。だが死徒相手にボク一人では無理だ、だから……」

「?」

 サイが部屋の角のカメラを振り返り、指を差してニヤリと笑って言った。

「君達に協力してもらう」


「まあやっぱり……そう来たか」

 なんだか超能力だの宇宙だのバグだのとなんだか膨大な情報量を短時間で一気に流し込まれた上に、勝手にとんでもない存在と戦うことを決められた五人は思わず辟易してしまう。

「宇宙のバグか……労働ってモンがあるのもそのせいなんかな?」

 こんなジョークを飛ばさないとやってられないと言わんばかりに、林檎は大きく伸びをしながら言った。

「それにしてもサイですら敵わない相手に私たちが挑むって大丈夫?」

 ウィッカーアウルの圧倒的な力を見せつけられた後では、皐月もこんな弱音のひとつも吐きたくなるだろう。

「うむ……」

 白波博士は皐月の弱音を咎めようとしたが、現状彼女達が置かれている状況を鑑みるにかなり困難な戦いが予想され、咎めること自体が気が引ける。

 なんだか良くない空気が漂う中、奏音だけは一人別の事を考えていた。

(一九九九年に……地球は本当に滅んでたのかもしれないんだ……)

 トトというマグナアウルの眷属を名乗る謎の生命体曰く、数多の星を滅ぼしてきた強大な存在を破ったのは、この星で生まれたたった一人の超能力者なのだ。

(彼はどんな思いで戦ったんだろう?)

 死の力を振るう相手に一人で戦うのは、それはそれは恐ろしかっただろう。

 それでも彼は未来の為に勇敢に立ち向かって死徒アン=ゴル・モアを下し、今の地球は無事に続いている。

「ねえみんな、ちょっといいかな?」

 五人の視線が一斉に自分に注がれた事で一瞬だけ奏音は気圧されたが、胸に手を当てて心を落ち着けて口を開いた。

「明日、やりたい事ってある?」

「明日?」

「奏音、今それ必要?」

「絶対必要、明日やりたいこと……みんなで言わない?」

 今日この後行われるだろうウィッカーアモンとの戦いの事で頭がいっぱいで、いざ明日の事と言われると何も思いつかない。

「そう言うカノちゃんは何かあるの?」

「私ね……京助に謝って仲直りしたい」

 これには皆驚いて軽いどよめきが起こった、あの京助が奏音に対して怒ったのか。

「京助のお父さんとお母さんの事を知ってたことがバレちゃって……知ってたなら言って欲しかったってすごく怒ってたんだ」

「……そっか」

「一九九九年に世界を救った超能力者の人って、未来を切り拓く為に戦ってたからさ。だからきっと私達も未来の事を……一番身近な未来の明日の事を考えればきっとみんなも頑張れるんじゃないかって思って」

 そうだった、ずっと続く戦いで忘れかけていたが、ジャガックを倒して平和な日常を取り戻す事を、そんな未来を想像して戦っていた。

「それによく考えてみてよ、いくら強い相手とはいえあの人、最後は一人で死徒を倒したんだよ? それに比べれば私達って六人も居るんだから大丈夫だって!」

「……ハハハッ! 確かに! そう言われてみればそうだわ」

「確かにちょっと身構えすぎだったかもね、反省!」

「明日の事か……なんかちょっと分かんないかも」

「じゃあ私のお父さんに頼んでどっか良い所行きませんか?」

「麗奈!」

「ダメ?」

「……わ、わかった! 良いだろう! みんな勝ったらいい焼肉屋に連れて行ってやる! 全部私の奢りだ!」

 先程まで漂っていた敗戦ムードが一気に吹き飛び、今やこの場に居る六人の顔はすっかり笑顔が戻っていた。

「じゃあ焼肉と奏音の仲直りの為に頑張ろっか!」

 皐月が拳を突き出し、皆そこに拳を重ねていく。

「絶対に勝つよ! マグナアウルを助けるんだ!」

「応ッ!」


 情報交換が終わった後で五人が別室で待機していると、扉が開いてサイが入って来た。

「ワオ……マジか」

「何よマジかとは」

 五人の顔を見回しながら、サイの顔は若干引き攣っていた。

「まだ子供じゃないか。それをあそこまでの身体能力に押し上げるとは……すごいんだね君達財団は」

「まだ子供と言いましたか?」

 サイの背後からトトの声がし、トトは翼をはためかせて部屋に入って来た。

「子供と言うと……!」

 この場に居る全員の顔を見たトトは、ショックを受けたように固まった。

「え?」

「ど……どうしたの?」

「あなた達が……クインテットだったのですね」

「?」

 なぜそんなにショックを受けるのかが分からない五人は、ただただ困惑するばかりである。

「これも運命の渦ですか……しかし」

 その場で飛びながら俯いていたトトは、意を決したように五人を見据えて真剣な口調で言った。

「あなた達五人がクインテットで安心しました。今マグナアウルは長年潜んでいた自分の中の怪物と必死に戦っています、どうかあなた達の力を貸してください」

 なんだかよく分からないが、とりあえず信頼してくれている事は確からしい。

「まあ……うん、もちろん私達でよければ力を貸しますよ」

「それが使命だし?」

「ありがとうございます……決して今日の事は忘れません」

 ものすごく感激した様子のトトを制し、サイは返してもらった紅蛇を撫でながら話し始めた。

「今回の戦いはあくまでウィッカーアモンとなったマグナアウルを助けるためのものなので、そこをまず念頭に置いておいてほしい。よろしい?」

「よろしい事はよろしいけど、どうやって助けるの?」

「第一プランは今氷の中で活動停止している彼にボクがこの剣を突き刺す」

 短剣を手中で遊ばせるサイを見て林檎が手を上げ、サイは短剣で林檎を差す。

「第一って事は第二もあるんですかー」

「第一は彼が大人しくしていた場合に限る。第二は彼が暴れた時に発動し、君達にも頑張ってもらう必要がある」

「なるほど」

「そこで必要になってくるのが……これ」

 サイが二回指を鳴らすと奥から二人の財団職員がやって来て、ジュラルミンケースに入ったサイが持っているものと同じ形状の二十本の短剣を見せる。

「さっきから思ってたけどなにこれ?」

「この剣で何かするの?」

「アーティファクト管理部門とかいう所にあった特定手順を踏むと増殖する短剣にボクが儀式を施した」

「この剣を刺せばいいの?」

「そう! いわば瀉血のように、こいつを刺して死の力を彼の体から追い出す……一本二本じゃ足りないかもしれないけどね」

「なるほど、私達はこれをウィッカーアモンに刺せばいいのね」

「そういう事。スーツを着たら一人四本これを持っておいてね。さて! 準備も整ったことだし、六人で彼を……」

「いいえ、七人です」

 そう言うとトトは身体を変形させて腕輪になると、サイの上腕に巻き付いた。

『今回に限り、あなたをサポートさせていただきます』

「おお! ボクもとうとう眷属デビュー!」

『今回だけですよ』

「あの~さっきから気になってたんだけど、その眷属って何?」

「一部の超能力者が持てる従者のような存在だね。いろんな形をしているが、どれも主人をサポートしようと働くのは変わらない」

「トトはマグナアウルの眷属なのね」

「いよいよ神だなあいつ」

「それは間違いじゃないな。超能力者は神と呼ばれる存在の前段階だから」

 奏音以外の四人はゾワリとした、明穂は超能力者であるのが確定し、皐月と林檎と麗奈は疑惑とはいえ超能力者になりかけているため、他人事ではないのだ。

「みんなどうかした?」

「ああいやいや、大丈夫何でもない!」

 そういえば自分達には何かしら片鱗が見えているが、奏音からはそういった話は聞かない。

(なんでだろ?)

(気付いてないだけかなぁ?)

「よし、時間は無駄には出来ない。行こう!」

 サイの一言で五人は気持ちを切り替えて、その場で転送鍵を取り出した。

「Vモードオン! GO! クインテット!」

 転送されてきたスーツを見て、サイはそれを半ば感動したように頷き、トトも感嘆の声を漏らした。

「良いもの見たな」

『言えてますね』

 スーツを纏った五人はそれぞれ四本ずつ短剣を受け取ると、腰に提げてからサイの方を向く。

「サイ、行こう。彼を助けに!」

 紅蛇を肩に乗せながら、サイは大きく頷いた。


 無重力ジェットで現地に到着すると、もう既にクドゥリの時と同じようにバリケードが組まれており、その中心では氷の塊が鎮座していた。

「クインテット現着! シールド封鎖を開始します」

 自分たちの頭上で展開されていくシールドを眺めながら、六人は緊張感を高めていく。

「よぉし」

 封鎖完了と自分たち以外の人間が出て行った事を確認したサイは、懐から短剣を取り出して手の中で回転させて遊ばせる。

「どうか第一プランだけで終わらせてくれよアウリィ……」

 純手に握った短剣を、自分が作った氷の中に透過させて突っ込み、ウィッカーアモンに短剣を刺そうと試みる。

「シィー……さよならバイバ……」

 その時、氷で歪んだウィッカーアモンも顔が震え、同時に大きな赤い目がカッと見開いてサイを睨みつけた。

『逃げなさい!』

「ああ言われなくても!」

 異常を察知した五人が武器を構えると同時にサイが作り出した氷の塊がひび割れて砕け、体を振って氷の破片を撒き散らしながらウィッカーアモンが目を覚ました。

「グワアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオンッ!」

 キラキラと光る氷の破片の中心で、ウィッカーアモンは天に向けて咆哮する。

「どうやら第二プラン発動みたいね!」

「そうだな! 轟嵐‼」

 サイが面を着けると飛び散った氷の破片たちが赤く染まり、それらがサイに纏わりついてカプリースの装甲を形成する。

「奴はボクが引き付ける! 君達は隙を見て剣を刺せ!」

 次々と空間が割れ、その隙間から無数のミサイルやレーザー砲が出現し、カプリースに向かって集中砲火を浴びせる。

「おおおおおおっ!」

 紅蛇から放つ枝分かれした電撃でそれらを相殺している隙に、ルナが高速移動でウィッカーアモンの懐に滑り込んで力一杯腹に短剣を突き立てる。

「ギャアアアアアアアッ!」

 傷をつける事は出来たが、硬い装甲に阻まれて刺さるには至らなかった。

「こいつ硬すぎる!」

 なんとか暴れ回るウィッカーアモンの懐から脱したルナはナックルガンで牽制しつつ遠くへ移動する。

「ゴオオオオオッ!」

「君の相手は……こっちだ!」

 渾身の裏拳を喰らって怯んだ所に、カプリースは容赦なく拳と蹴りの連打を食らわせる。

「グオオオオオオオオッ!」

「うおおおおおっ!」

 右手には雷、左手には氷、右足には風、左足には水と、自分の嵐の力を構成する属性をそれぞれ纏わせてウィッカーアモンを叩いていく。

 だがウィッカーアモンもやられっぱなしではない、カプリースの蹴りが飛んで来るタイミングで口を開いて足に噛みつき、そのままカプリースを振り回して地面に叩きつける。

「サイ!」

「あいつはヤバそうだけど……今がチャンスって事よ!」

 イドゥンがすかさずレールガンに短剣を装填し、ウィッカーアモンの大腿部辺りに狙いを定めて即座に放った。

「ガアアアアアアアッ!」

「のぉわっとぉ!」

 痛みに悶えたウィッカーアモンが叫び、解放されたカプリースは何とか着地して足を確かめる。

「やってくれたな、穴だらけで折れてる」

 片足で立ち上がって足を振って修復すると、双方身構えながら出方を伺う。

(一本刺した程度じゃ毒抜きにはならないか、でも一本刺されたからか慎重になってるな)

 唸りながらこちらを睨むウィッカーアモンに対し、カプリースは紅蛇を構えながら負けじと闘気を放って拮抗状態を作り出す。

(いいねぇこの感覚……君が死徒じゃなかったらボクも心から楽しめたんだが……)

 戦闘狂としての自分を抑え込みながら、カプリースは頭の中で膨大な計算を重ねていく。

 だがその拮抗を崩したのは文字通りの横槍だった。

「ハッ!」

「ゴアッ⁉ ガフッ!」

 アフロダイの矢がウィッカーアモンの首筋を貫いていたのである。

「グルルル……ガアアアアアアッ!」

「ヤバいぞ! そっちに来るぞ!」

「今です!」

 ウィッカーアウルがアフロダイの方を向いて飛び掛かろうとする直前、ルナが再び懐へ滑り込んで先程自分が付けた傷を太刀で広げ、間髪入れずに短剣を差し込む。

「ギャアアアアアアアアアアスッ!」

「効果的みたいね!」

 素早く離脱しようとするも鋭い爪から飛んだ斬撃がルナの体を掠め、その余波に吹き飛ばされて倒れてしまう。

「ルナ!」

「うぅ……大丈夫! 直撃だったらヤバかったかも」

 二本差し込まれた短剣により力が徐々に抜けていっている事を自覚したのか、ウィッカーアモンは力を開放して全身に黒い炎を纏いながらクインテットへ突進してきた。

「ヤバいヤバい来た来た来た来た!」

 全員回避しながら攻撃を加えるも、黒い炎に阻まれて悉く無効化されてしまう。

「だから相手はボクだと! 言ってんだろうが!」

 ターンして向きを変えたウィッカーアモンへカプリースが紅蛇で斬りかかるも、口から吐き出した光球を直撃させて吹き飛ばしてしまった。

「うおわっ!」

「サイ!」

「ウオオオオオンッ! ガウッ!」

 ウィッカーアモンの肩から生えた巨大な二本の棘にエネルギーが収束していき、壁に叩きつけられたカプリースへ電撃が直撃する。

「ぐはああああっ!」

 百戦錬磨の気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリースでもこれは効いたらしく、地面へ倒れてのたうち回る。

「いい加減に! 目を覚ましてッ!」

 デメテルのドリルロケットパンチがウィッカーアモンに突き刺さるも、ウィッカーアモンは変わらずカプリースに電撃を浴びせている。

「ダメで……元々ッ! だああああああっ‼」

 残った右腕のアームの指に短剣を挟むと、デメテルは狙い定めてそのままアームを射出してウィッカーアモンの首筋に突き刺した。

「グギャオオオオオオオオオオオオオッ⁉ フーッ‼」

 電撃をクインテットの方へ向ける前に、先程まで電撃の集中砲火を受けていた筈のカプリースが復帰して飛び掛かり、まず踵落としで頭を地面に叩きつけると、首筋に蹴りを叩き込んでより深く短剣を突き刺した。

「さっきはやってくれたなァ! だが雷はボクの専売特許なんだよォ!」

「グフッ‼ ガアッ!」

 ウィッカーアモンがカプリースを貫かんと伸ばしてきた尻尾を掴むと、カプリースはそのままハンマー投げのようにウィッカーアモンを振り回し始める。

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

 スイングで出来た竜巻の中にウィッカーアモンを放すと、カプリースは地面へ落とした紅蛇を引き寄せてウィッカーアモンの周囲を回りながら攻撃を加え始めた。

「これが……血の嵐か」

 カプリースの赤い装甲が目にも留まらぬ速さで周囲を移動する事で、さながら真紅の竜巻が発生しているように見えるのだ。

「ニギュバス・ドス・コーダ‼」

「グオオオオオンッ‼」

 竜巻の中で電撃と亜音速に達する水流弾と旋風を散々浴びせられ、トドメに氷の塊の直撃を受けたウィッカーアモンは竜巻の外へ叩き出されて転がる。

「今です!」

「了解!」

 ミューズがフルチャージで巨大な回転刃を、アフロダイが三日月状の鏃を形成して地面へ倒れたウィッカーアモンへ向けて放つ。

「アアアアア……ギュワッ⁉」

 これで大人しくなるかと思いきやウィッカーアモンは何とか姿勢を立て直すと、口と肩の棘にエネルギーを集約させ、ミューズが放った回転刃を思わせる光輪を形成し始める。

「これって……あの時の⁉」

 ミューズは最初の戦いの際、自分達が放った回転刃をウィッカーアモンが噛み砕いた事を思い出した。

「来るよ!」

 ウィッカーアモンは形成した光輪を光球で撃ち出してクインテットへと放ち、ミューズとデメテルが即座にバーストモードを起動してシールドを張って受け止める。

「ぐうううう……なんてパワー!」

「踏ん張って……ミューズ!」

「オオオオンッ!」

 ウィッカーアモンが肩から赤い稲妻を放って光輪の威力を押し上げ、デメテルとミューズが張るバリアに大きくヒビが入る。

「その場しのぎだけど……ウチも手伝うッ!」

 イドゥンのライフルから緑色のビームが放射されてバリアを修復するが、持久戦に持ち込まれるとこちらが圧倒的に不利なのは目に見えている。

「くっ! ああああっ!」

「てやああああっ!」

 ルナとアフロダイが決死の覚悟で距離を詰めながらウィッカーアモンの肩の棘へ冷凍弾と光の矢を放ち、更にルナはブレードを展開して太刀と二本でウィッカーアモンへと斬りかかる。

「フシュウウウウウッ!」

「バーストGO‼ おおおおりゃっ!」

 バーストモードを展開しながらルナが二本の刃にエネルギーを集約して棘を斬りつけ、意識をこちらに向けさせる事に成功する。

「アフロダァァァァアアイッ‼」

「せやああああっ!」

 ルナの攻撃は陽動と気付いた時にはもう遅い、アフロダイは背中に飛び乗って思い切り短剣を突き刺していた。

「ギイイイイイイイ‼」

 ウィッカーアモンは一際苦しそうな苦悶の声を響かせ、そのまま地面の上でのたうち回り、全身から黒い靄を発し始めた。

「これって!」

「剣の効果が効いてるんじゃない⁉」

「そうだ、死の力が彼から出て行ってる!」

 しばらくすると悶えるような声も手足や尻尾を振り回す音も消え、全員ウィッカーアモンが居た黒い靄の塊に釘付けになる。

「どうかな……やったかな?」

「それがフラグにならないと良いけど……」

 三十秒ほど経った後、四つの連続する金属音がして黒い靄が晴れ、中から黒い人型が立ち上がった。

「ウィッカーアウル!」

「フッシュゥゥゥゥゥウウウ……」

 確かにウィッカーアモンの力を削ぐことは成功した、だがそれも不完全だったらしく、ウィッカーアウルへと戻す程度に留まってしまった。

「まだ剣はある……何度でも突き刺せばいい!」

「うん! 行くよ!」

「シィィィィイイイイッ!」

 ウィッカーアウルは両手を合わせて離し、その間に黒い光球を生成し、バスケットボール大まで肥大化させた。

「ドゥワアアアアアアアアッ‼」

 光球をクインテット目掛けて放ち、本能的に直撃してはマズいと感じた六人は一斉に散って回避し、ウィッカーアウルを取り囲む。

「フルギュラ……」

「DAAAAAAAHOOOO!」

 電撃を放とうとしたカプリースよりも早くウィッカーアウルが口から光線を放って吹き飛ばし、続けざまクインテットの方を向いて地面を薙ぎ払った。

「うわっ!?」

「くっ!」

「ううぅ……これホントに弱体化したの⁉」

 感情任せに暴れ回る分、まだウィッカーアモンの方がマシだったと思えてくる。

「大したビームだ……こいつは堪えたぞ!」

 カプリースが紅蛇に電撃を纏わせ背後からウィッカーアウルへ斬りつけようとするも、ウィッカーアウルはそれを見切って回避し、回避した勢いのまま後ろ回し蹴りを叩き込む。

「うおおおっ……せやああっ!」

「ハアアアアアッ!」

 カプリースの手から放たれる白い電撃とウィッカーアウルが放った黒い靄が空中で激突し、周囲に凄まじい余波が吹き荒れる。

「おおおおおっ!」

「ヌアアアアアアアアッ!」

 互いに出力を上げ、距離を詰めて至近距離で技を放ち合う。

「ぐぐぐぐ……おおおおっ!」

「セヤアアアアアアアッ!」

 お互い空いている方の手にサイコエネルギーを纏うと、双方の顔面目掛けて拳を叩きつけ、完璧なクロスカウンターで再び距離が開く。

「ハッ!」

「グウッ⁉」

 まだ体勢が整っていないウィッカーアウル目掛けてクインテットが一斉攻撃を仕掛け、ウィッカーアウルは連続攻撃に土を付けられる。

「ルアアアアアアアアッ‼」

 周囲に向けて衝撃波を放って全員を吹き飛ばすと、ウィッカーアウルは地面から無数の刃が付いた赤いチェーンを出現させ、腕を前に突き出してクインテットへ差し向けた。

「うっ⁉」

「くっ……いい……」

「いぃ……」

 飛来してきたチェーンを回避しようとするも、次々と地面を穿って現れるチェーンには対応しきれず、全員縛られて宙に吊り上げられる。

「フシュゥ……ドゥワアアアアアアアアッ!」

 ウィッカーアウルは思い切り拳を地面に叩きつけるとチェーンに赤い電撃が流れ、クインテット全員に想像を絶する苦痛が襲う。

「うわああああっ!」

 赤い電撃の効力はスーツの機能にまで及び、各部から火花と煙が散ってエナジーストリームラインが点滅しながら光を失っていく。

「もう……やめろっ!」

 紅蛇から放たれた斬撃がクインテットを戒めていたチェーンを切断し、カプリースは赤いチェーンを掻い潜りながらウィッカーアウルへ向かって行った。

「あの子達と君は共に長い間地球とこの街を守って来た仲だろ!」

 エナジーストリームラインが消えて立ち上がる力を失ったクインテットを守るように、カプリースがウィッカーアウルに立ちはだかりながら拳を振り上げる。

「これ以上やると君は罪悪感に苦しめられることになる!」

 カプリースの拳を防御し、ウィッカーアウルは反撃に蹴りを食らわせてそのまま殴り合いに移行する。

「ヌゥゥウウヲオオオオオオオッ!」

「らぁぁぁぁああああああああっ!」

 この地球で最初にアバターを纏って戦ったあの日の事を思い出しながら、カプリースは電撃を纏った拳をウィッカーアウルへぶつけていく。

(あの時とは違う! 手加減は……ナシだ!)

 自分が持てる力とエネルギー全てを一発一発に総動員させ、スピードを爆発的に上げていく。

「フルギュラス・ジア・ヌーヴァ‼」

 両の拳に白い電撃を纏いながら放った渾身の同時突きは、ウィッカーアウルの纏う黒い靄をも貫通して痺れさせてしまった。

「まだまだ行くぞ!」

「ンンンンッ! ダアアッ!」

 カプリースの渾身の両拳突きを喰らって仰け反ったウィッカーアウルだったが、何とか踏ん張って羽角に赤い電撃を纏わせるとカプリースに向けて放射する。

「それはもう……なっ⁉ しまった!」

 奇妙な事に稲妻はまるで紐状に分解してカプリースに巻き付き、そのまま締め上げて空中に持ち上げる。

「フンッ!」

「ぐっ!」

 ウィッカーアウルが頭を振る度に赤い稲妻で縛られたカプリースが地面へ叩きつけられ、同時に赤い稲妻によるダメージも受け、徐々に装甲にヒビが入っていく。

「ヅアアアアアアッ!」

「がああああああっ!」

 思い切り頭を振り下ろしたウィッカーアウルによってカプリースが地面へ叩きつけられ、更に引き寄せられて腕で胴体をしっかりとロックされる。

「フッシュゥゥゥゥゥウウウ……シィィィイイイイイイッ‼」

 ウィッカーアウルが纏っていた靄が黒い炎に変化し、カプリースの体を蝕み始める。

「うぐぅっ‼ ううううっ……放せっ! やめろっ!」

「グッフッフッフッフッフ……ハハハハハハハ……」

 カプリースを甚振るのを楽しむようにウィッカーアウルが笑い声を上げ、黒い炎はさらに勢いを増す。

『死の力の遮断はこれ以上保ちません!』

『もう少し踏ん張れ! ほんのもう少しで黒い泥を何とか……』

 カプリースの努力も虚しくウィッカーアウルの腕の力はさらに強まり、身を捩る度にきつくなっていく。

「これは……ちとマズ……」

「マグナ……アウルッ!」

 カプリースとウィッカーアウルの後ろから声が響き、激痛に苛まれる体を押して首を向けると、なんと倒れていたミューズが起き上がっているではないか。

「これ以上……自分を……見失うなッ!」

 ミューズはハルバードを振り上げてウィッカーアウルの背に振り下ろし、思わぬ不意打ちにウィッカーアウルはカプリースを放してしまう。

「ドゥワッ! ……フッシュゥゥゥゥゥウウウッ!」

「せやああああっ!」

 バーストモードを起動しながら腰のスイッチを三度押し込み、ミューズはウィッカーアウルへ回転刃を叩き込む。

「グゥウルルルル!」

「押せえええええええっ‼」

 ハルバードに思い切り力を込めて押し込み、腕を交差させて防御するウィッカーアウルを後退させる。

「はぁあああああっ!」

 力の差はウィッカーアウルの方が遥かに上であるが、ミューズはただ決死の猛攻のみでウィッカーアウルを圧倒している。

「この街を守って来たあんたなら! 今ももう一人に自分と戦ってるって! 私は信じてる! だから!」

 回転刃がより大きくなり、ミューズのコアエナジーストリームラインがより輝いたのと同時に全身に巡るマゼンタカラーのエナルギーのラインが眩いばかりに輝いた。

「ウィッカーアウル! あんたはさっさと……出て行けぇぇぇぇえええええッ!」

 渾身の一撃を繰り出すも、ウィッカーアウルはエネルギーで形成された回転刃を拳で白刃取りして砕き、黒い炎の塊を連続で噴射してミューズを吹き飛ばした。

「あぐっ! うわっ! ああああっ!」

 黒い炎の塊が着弾する度にミューズが吹き飛ばされるも、不屈の意思で立ち上がって取り落したハルバードの代わりに戦斧を取り出してまたウィッカーアウルへと殴り掛かる。

「絶対に勝つ! 勝って……仲直りするんだ!」

 振り下ろされる戦斧の連撃をウィッカーアウルは造作もなく全て受け止めると、反撃でミューズの頭部を爪で切りつけて蹴りを入れる。

「くぅっ……ふっ!」

 倒れそうになりながらも起き上がり、戦斧を振ってウィッカーアウルへ向かって行くミューズの姿は妄執すら感じさせる戦い方であった。

「グルルルルル……シィッ!」

 いい加減鬱陶しくなったのか、ウィッカーアウルはミューズの戦斧を拳で払い、出来た隙をついてミューズの首を左手で掴んで持ち上げる。

「ぐっ……うぅぅ……」

 何とか抵抗しようと牽制用の手甲のビームガンでウィッカーアウルを撃つも、全く効き目はない。

「シィィィィイイイイッ……」

 空いている右手にエネルギーを集約させて光球を作り出すと、ウィッカーアウルはミューズの顔にそれを近づけていく。

「やめろおおおおおっ‼」

 寸での所で復活したイドゥンがライフルでウィッカーアウルの右腕を撃ち抜き、光球から発射された黒いビームはミューズのヘルメットの側面を掠め、一部が抉れて内部機構が露出してしまう。

「ミューズを……放して!」

「もういい加減に……しろっ!」

 デメテルのドリルロケットパンチがウィッカーアウルの腕に、ルナが飛ばした斬撃がウィッカーアウルの体へ命中し、起き上がることが叶わなかったアフロダイは弓を引いて拡散する矢を放った。

「グウオッ⁉ シィッ!」

 ミューズを放したウィッカーアウルは再び羽角へ赤い電撃をチャージすると、頭を振って満身創痍のクインテットに向けてそれを放ち、再びダウンさせてミューズの方へと向き直る。

「でああああっ!」

 この僅かな隙に取り落したハルバードを拾い上げたミューズはウィッカーアウルへと再び猛攻を仕掛けるも、もはや体力も突きかけているせいかすぐに躱された上にウィッカーアウルによって黒い靄を浴びせられてしまう。

「いいいいいっ! ()うッ……」

 全身を襲う痛みに耐え切って何とか距離を取った所でミューズは、ヘルメットの損傷部分から黒い靄が侵食して徐々にヘルメットが消滅し始めてることに気付いた。

(もういい、ただ全力で……この瞬間に賭けるっ!)

 決死の覚悟を固めると、ミューズはヘルメットを半ば引き千切るように取って投げ捨て、短剣を抜いてウィッカーアウルの方を向いた。

「オオオオオオオオンッ!」

 ウィッカーアウルもその覚悟を感じ取って全身に炎を纏わせてミューズの方を向くと、戦闘によって解けた髪の毛が隠していた顔が露わになる。

「ッ!」

 何故だ、何故彼女の顔がここにある。一体これはどういう事だ、何の悪い冗談だ。

 もしやずっと自分が痛めつけていたのは、誰よりも守りたいと思っていた他ならぬ彼女だったのか。

「ゥア……ンノ……ン……?」

 この瞬間、ウィッカーアウルの中で白京助によってずっと押しやられていた京助の意識が戻り、体の主導権が揺れ動いた事でウィッカーアウルに大きな隙が出来、そんな事情を知らないミューズはウィッカーアウルへ飛び掛かって肩に短剣を突き刺した。

「アアッ! ゥア……ノ……」

「早く……戻って来て……一緒にまた……この……街を……」

 身体に累積したダメージが限界を迎え、無事に役目を果たした安心感が手伝ってミューズはその場に崩れ落ち、ウィッカーアウルも全身の力が抜けながらも、意識が黒く塗りつぶされる最後の瞬間までミューズの方に手を伸ばしていた。

「うう……ああっ……」

 ようやく黒い炎の抱擁のダメージを回復させたカプリースは何とか起き上がると顔に手を当てる仕草をしてアバターを返還してサイの姿になると、納刀した紅蛇を杖代わりにして倒れている二人の方へ近付き、ミューズへ能力で治癒を試みていると、倒れていた四人がこちらへ集まって来た。

「死んでないよね? 死んでないんだよね?」

「生きてるとも……だけど難しい状況だ、しばらく目覚めないかもしれない」

「そんな!」

「今ボクに出来る事はここまで……とりあえず財団(そっち)の医療施設にこの二人を運ぶんだ」

 連絡を受けてやって来た財団職員に運ばれていく奏音とウィッカーアウルを祈るような気持ちで見ながら、皆は顔を見合わせる。

「ちゃんと戻ってくるよね?」

「ええ……奏音さんなら必ず……」

「うん、だって京助君と仲直りするって……みんなで焼肉行くって言ったし……」

「カノちゃん……絶対戻って来なよ、ウチはまたカノちゃんとセンキョーの三人で馬鹿みたいな話したいからさ……」

 救急車両の後部ドアが閉められて走り去る様を、四人はサイとともに見送るのであった。


 それから数十分後、京助は再び心の中の世界で目を覚ました。

「奏音……あの野郎!」

 京助は自分の体を使って奏音を傷つけた白京助を許すつもりなど毛頭ない。

 何が何でも殺すつもりでいた。

「怒ってるのか?」

 後ろを振り向くとあの捻じくれて溶けたガラス細工で出来た玉座に白京助が頭を抱えて座っていた。

「……当たり前だ! よくも俺の体で!」

「奏音を傷つけたって? ……そこだよ、俺は奏音に怒ってる。お前の何倍もな」

 こいつは何を言ってるんだ、奏音に対して怒る資格など自分にはない筈だ。

「前提が崩れたんだよ……俺は何のためにあいつを守ってたんだ?」

「いい加減にしろ! どこまで自分勝手な事宣えば気が済むんだ!」

「お前……邪魔だな……」

「……ああ?」

 ここで初めて京助は白京助の様子がずっと真顔でなおかつ静かだったことに気付いて、何か嫌な予感を覚えて後ずさった。

「自分同士で戦うのは無意味だと思って避けてたけど……もういい、もう終わらせる」

 白京助は立ち上がるとウィッカーアウルレットを腕に出現させ、次元崩壊ブレードを展開して見せた。

「お前邪魔……殺すわ」


To Be Continued.

遂に京助にミューズの正体が奏音である事が発覚してしまいましたね。

心界で白京助から死を宣告された京助の運命や如何に。

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来週またお目にかかりましょう。

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