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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
38/45

黒き梟の羽ばたき

黒の力を使いウィッカーアウルとなった京助はその力に恐怖し、もう一人の自分である白京助を責め立てる。

だがそれが自分の本性だと言われた事で動揺し、これまでの戦いの意味を見失いかける。

そんな葛藤する京助に容赦なくクドゥリとパテウの手が迫る!

果たして京助はウィッカーアウルの力を使いこなすことが出来るのか?

 ジャーガスが率いたジャガックの軍団と、ウィッカーアウルの登場によって半壊した病院にて、ウィルマース財団の後処理班が作業を行っていた。

「ねえ聞いた? 木村君」

「何すか井上先輩」

「今回の病院、三割ぐらいジャガックのせいじゃないらしいよ」

「えぇ? じゃあ何が壊したんですか? クインテット?」

「違うよぉ! マグナアウル!」

「えぇ⁉ マグナアウルがやったんですか⁉」

 木村が驚いてエネルギー汚染探知機を止め、井上の方に近付く。

「でも確か……マグナアウルってここしばらく現れてなかったんですよね?」

「そうねぇ、でも今日の戦いでいきなり現れたみたい」

「でもちょっと信じられないなぁ、俺も後処理やってて分かるっすけどマグナアウルってなるべく周囲に被害出さないように立ち回るじゃないすか……こんなひどい戦い方しますかねぇ?」

「そう、私も気になってさ、ちょっと上がって来た情報見てみたんだけどね」

 井上が提げていたタブレット端末を操作し、木村に表示された写真を見せる。

「はぁ? 何すかこれ?」

「そう、変でしょ? ホラ」

 井上がタブレットを操作し、二枚の写真を表示する。

 そこにはマグナアウルの全身と今日の戦いのウィッカーアウルが映っていた。

「これマグナアウルですか? 似てるけど……全然違うでしょ」

「そうだよね、なんかこの人、自分の事を〝ウィッカーアウル〟って名乗ったらしいの」

「ウィッカーアウル……妖怪梟? じゃあ別人なんすかね?」

「どうかな、さっき検知してくれたサイコエネルギーの残留粒子はまだ鑑定中だからなんとも……」

「くぉら! お前達、仕事中に俺の前でサボっておしゃべりとはいい度胸だな」

「うわっ! マツさん!」

 二人に絡んできたのは若松という年配のベテラン処理班員である。

「そ……そんなマツさん、私達はただ仕事に必要なお話をしてたんですよぉ……ねぇ木村君?」

「そ……そうですよマツさぁん」

「へっへっへ……そうかそうか、んじゃあ仕事熱心な誰かさん達が一階に行ってくれると俺達ァ助かるんだがなぁ」

「い、一階ぃ⁉」

 一階は特に損傷や瓦礫がひどく、足を踏み入れた時に作業をするのにも困難そうだと感じた事を思い出す。

「行ってくれるな?」

「は……はいぃ……」

 一応瓦礫の運び出しをするのは井上と木村の仕事ではないのだからと自分を納得させ、仕方なく若松の強引な頼みを引き受ける事にした。

「はぁ……派手にやったなアウル君」

「アウル君って?」

「今日出てきたウィッカーアウルって名乗るあの人の事」

「井上先輩はどう思ってるんですか?」

「どうって……私はマグナアウルと同一人物かもしれないって思ってるよ、まあ色々分からないから断言できないけどさ」

「俺は別人だと思いますよ。前あったじゃないですかニセモノ騒動」

「ああ、去年あったねそんな事」

 雑談しつつ瓦礫を乗り越えながら木村がエネルギー探知機のスイッチを入れると、早速反応があった。

「お、入れ食いじゃん」

「どれどれ……サイコエネルギーに似てるエネルギーがあっちから来てますね」

 探知機の反応を頼りに進むと、金属製の固く閉ざされた扉が出現した。

「これは……なんだ?」

「何だろうね? 病院の人呼んでくるか」

 井上が外の仮設休憩テントで待機していた医師の一人を呼んでくると、扉を見て一目で手を叩いた。

「ああ、霊安室ですよここは」

「えぇ⁉ 霊安室⁉」

 霊安室からエネルギー反応がある。

 それが何なのか否が応でも想像できてしまい、木村と井上は顔を歪めて互いの方を見る。

「はははは、大丈夫ですよ。ほぉら」

「あっ、ちょっと先生!」

 ボタンを押すと霊安室の扉が開き、薄暗い部屋に二人は拍子抜けしてしまった。

「一昨日からホトケさんは居ませんよ。まあ気の済むまで調べてください」

 幽霊の類ではなさそうで二人は安心したが、やはり少し慎重に足を踏み入れて探知機で反応元を探る。

「どこだ? 足元か……」

「ん? ねえ、これじゃない?」

「んお」

 木村が井上の指した方へ目を向けると、何か金属の輪っかが見えた。

「これっすね、何だろ」

 しゃがんで見ると、鳥と月の意匠を持つ装飾品らしいことが分かった。

「ブレスレット?」

「バングルだね、かっこいいデザインだな」

 井上がしゃがんだ木村の横から手を伸ばしてひょいとバングルを拾い上げてしまった。

「あっ! ちょっと先輩! それから高エネルギーが漏れて……」

「うっ」

 井上が小さく息を漏らした事で、木村は一気に顔面蒼白になって背筋に氷を差し込まれたかのような感覚に陥る。

「先輩ッ! 先輩ッ!」

「……大丈夫ですよ」

「え?」

「ちょっと高エネルギーに当てられただけですから。気にしなくて構いません」

「なんで敬語なんすか?」

 井上は防護マスク越しに頬を叩くとにこりと笑って立ち上がった。

「んひひ、ちょっと脅かしただけだよ、ゴメンね木村君」

「んもぉぉぉ……ビビらせないでくださいよ先輩!」

「ゴメンゴメン、今度なんか奢ってあげるから」

「別にいいっすよ。一応洗浄受けといてくださいね、なんかあったらヤバいんで」

「大丈夫だって、これぐらい何ともないから」

「俺が怖いんすよ! 行きますよ、まだまだ反応しそうなところあるんで」

 木村が前を向いた途端井上の左目が美しい黄色に輝き、素早くバングルを左手につける。

 一体何が彼女に起こったのか、この時は誰にも分らなかった。


 千道邸の地下にて。

「はっ! はっ! はっ!」

 邪悪で強烈な黒の力によって変化したアバターであるウィッカーアウルを味わった京助は、自分でも全く抑えが効かない猛獣のような力に恐怖し、床に這いつくばって短く息を吐いていた。

 咄嗟に左手を見た京助は肝が冷えて目を見開いた。

 トトが居ない、頭の中を探知して呼びかけるも全く反応がない。

「そんな……ウソだろ?」

「ああ、あの眷属か、邪魔だからどっかに行ってもらった」

 あの忌々しい自分そっくりな嘲るような声が聞こえ、京助は上を向くと、白京助がかつてない程愉快そうな笑みを浮かべて立っていた。

「なんだって⁉」

「あの時のお前の感情を食って俺は成長出来たんでな。邪魔な奴には消えてもらった」

「テメェ!」

 京助が立ち上がって白京助の胸ぐらを掴み上げて壁に押し付け、すぐに違和感に気付いてその手を放して数歩後ずさる。

「お前……ウソだろ……」

「ヘッヘッヘッヘッヘッヘ! そうさ! 俺な! 実体を持てるようになったんだよ! お前のおかげでなァ!」

 なんだかとんでもなく取り返しのつかない事をしてしまった気がして、京助は後ずさってからソファに腰かける。

「あの眷属には心底ムカついてたもんでな。俺の現実世界への干渉を徹底的にブロックされてたもんでよ」

 まさか白京助の声が聞こえなかったのはトトが妨害してくれていたのか、では今その枷を失った白京助の力はどれほどのものなのだろうか。

「今頃どうなってるだろうな。あらかたもう消滅しているだろうな」

 京助は指を銃の形にして指先から衝撃弾を放つも、白京助は黒いシールドを形成してそれを防御する。

「ざぁんねぇんだったな……俺はお前だからいくら攻撃したって無駄だよ」

「クソ……」

「ていうか疑問なんだが、何がそんなに不満なんだ? お前は強くなれたじゃないか」

「それが問題なんだ! なんだよあれは!」

 ウィッカーアウルになった時、自分の奥底から吹き付ける強烈な熱をまるで制御できなかった。

「あんなのもうケダモノそのものじゃねぇかよ!」

「なんだよ、スタイリッシュな戦い方が良かったって?」

「そうじゃない! あんな戦い方……ジャガックと変わらないだろ!」

「甘いんだよ! 甘い!」

 嘲笑するでもなく白京助は顔を怒りに歪ませて京助に詰め寄る。

「お前にはジャガックへ復讐する者としての自覚が足りない! だからそんな甘ったれた発言が出てくるんだ!」

「どこが甘いんだ! 言ってみろ!」

「ジャガックへ復讐しようとするのなら同じ場所へ堕ちようとしてでもやり遂げる! そんな意思すら持てなかったから復讐に何年も時間がかかってるんだよ!」

「復讐するからこそ、同じ場所に堕ちたらいけないんだろ!」

「それが甘いと言ってるんだ! 怒りが! 奴らに対する怒りが足りないからそんな寝惚けた事が言えるんだ!」

「お前は何も分かってない! 奴らに対して怒るからこそ同じ場所に堕ちたらいけないんだろう!」

「そうか? 一見お前が言っている事は立派だが、心の奥底はそうでもないらしいぞ」

「なんだって?」

「ウィッカーアウルになった時のお前の暴れぶりが何よりの証明だ」

「違う! あれは……」

「力は力さ、ただあるだけ」

「でもあれは……」

「でもも何もない……お前が黒の力と呼ぶ力は少しばかりほかの力より感情に左右されるってだけのただの超能力だ、言うなればお前はただ新しい力が暴いた隠された願望のままに暴れただけに過ぎない」

 隠された願望。

 ただただ力任せにジャガックに怒りと憎悪をぶつけ、周囲を顧みないで暴れるのが自分の心の奥底に秘められていた願望だとでも言うのか。

「なんでそんな……なんでそんな事がお前に言えるんだ。お前に俺の何が分かる!」

「分かるさぁ! 嫌って程分かってるし知ってる事さ! というか最初に言った事、もう忘れちまったか?」

 白京助はぐっと顔を近づけてニヤリと笑って京助を指差した。

「お前は……俺なんだよ。だから俺は、お前の事は全部……ぜぇ~んぶ知ってる」

 そうだった、あまりにも考え方や性格が違うからすっかり抜け落ちていたが、こいつは確かに自分自身から生まれたもう一人の自分なのだ。

 だがどうしてもジャガックと同じになる事を、京助は受け入れることは出来なかった。

「お前がもう一人の俺で、俺が隠していた願望を知っていようと俺はそれを否定する! 奴らと同じところに堕ちるような戦い方は! 俺の戦い方じゃないからだ!」

 白京助は心底つまらないものを見たかのように鼻を鳴らして笑うと、首を曲げて後ろを向いた。

「だったら次の戦いで証明して見せたらどうだ? まあどちらの言ってることが正しいかは今にわかるだろうがな」

 そう吐き捨てて白京助は黒い靄に包まれながら姿を消し、京助はエレベーターで自室に向かってベッドに倒れ込む。

「俺の……隠れた願望」

 白京助には啖呵を切って見せたが、京助は内心不安であった。

「これが俺の……本性?」

 今まで誰かを守りたい、誰もが無事でいてほしい願っていた思いは全部建前に過ぎず、本当はただただ復讐の事だけを考えて暴れ回るのが本性だというのか。

「いいや! 違う! 違う筈なんだ……俺は……」

 確かにこれまで復讐として沢山のジャガックを殺して回り、一部は非常に残酷な方法で殺してきた、これは事実だ認めざるを得ない。

 だがそれだけじゃなく、今の自分を形作ってくれた友人たち、とくに奏音の事を守りたくて誰にも言わず隠れて戦ってきた。

「ああそうさ、奴の言う事は俺を惑わす為のデタラメなんだ。何引っかかってんだ俺……」

 だがこれも、今自分の隠れた願望から目を背けたいだけの虚飾な建前だとすれば?

「うぅぅ……クソ! どうなんってんだよぉ! わっかんねぇよ!」

 京助は今、生まれて初めて本当の孤独になったのだ。

 眷属を名乗っていたが、トトは良き助言者として静かに見守ってくれていた。

 だが今はもはやそれも無く、同時にこの悩みや不安といった思いをぶちまけられる相手も居ない。

 自分がこんなにも脆いとは思ってもみなかった。

「でも……やるしかねぇんだ、どうなろうが絶対やってやるんだ」

 もはや京助に後退という選択肢は無い、踏み出せば走り続けるだけ。

「見てろよ……俺は絶対、奴らと同じ場所には堕ちない」


 ウィッカーアウルが齎した影響は、衛星軌道上のジャガックの基地艦にまで届いていた。

「なにぃ⁉ マグナアウルが再び現れただと!」

 パテウはそう言っていきり立ち、クドゥリとイダムは大きく目を見開く。

「マグナアウルかは不明ですが、当危険人物は自身の事をウィッカーアウルと名乗っております」

 モニターに表示されたウィッカーアウルの姿を見て、クドゥリは顎に手を当てて目を細めて呟く。

「アバターが変質しているな。何かが奴の魂を変えてしまったか?」

「その何かはもう分ってるだろクドゥリ?」

「……なるべくその可能性は考えたくなかったが、やはりそうなのか」

 ついにマグナアウルも黒の力を得たのかと、なんだかうんざりする気持ちにさせられる。

「この三週間現れなかったのは、魂が変質していた期間と考えていいだろう。となれば厄介な相手だぞ」

「そうか、もうアバター自体には体が慣れている……戦闘時の映像は?」

 いきり立つパテウと小さくなって隅で縮こまっているルゲンをよそに、クドゥリとイダムはウィッカーアウルが大暴れしている様子を観察する。

「アバター剥離等は起こっていないから確かに体は慣れているが、以前の私のようにどうやらこの力に完全に振り回されているようだな」

「だったら今のうちに叩いておいた方がいいのではないか?」

「そうだな、明日にでも出撃したほうが良いだろう」

「明日にでも⁉ だったら俺が行く! 明日こそ俺が奴を倒す!」

 イダムとクドゥリが顔を見合わせ、暗にどうするか言葉を交わさずやり取りし、クドゥリがパテウの方を見た。

「逸るなパテウ、力に振り回されているとはいえ、ただでさえ強い奴は今や新たな力を手に入れている。確実に仕留めるために私も行こう」

「それも一理あるな! いいだろう! あの三人も連れて行くか⁉」

「……うむ」

 状況的には連れて行った方がいいだろう、大侵攻の日に自分とパテウと妹達の計五人でマグナアウルを囲んだ時、圧倒していたのだから。

 だがクドゥリの内心には、あの三人を危険から遠ざけたいという思いが常にある。

 ただでさえ強力なマグナアウルが、黒の力を手に入れて向かって来るのだ、これほど危険なものはないだろう。

「連れて行け」

 イダムがクドゥリの肩に手を置き、片頬だけを吊り上げて笑う。

「これも勉強だ。連れて行くといい」

 クドゥリの口の中に苦いものが広がったが、それを悟られぬように無理に呑み込んで首を縦に振る。

「そうだな、三人には私から連絡しておこう。お前は出撃準備を整えておいてくれ」

「相分かった! 早速準備に向かおう!」

 パテウが去った後で、クドゥリは力を抜いて背もたれに体を預け、その様子を見ながらイダムが聞こえるような大声で言った。

「クドゥリよう、何でマグナアウルは強くなったのか知らねぇか?」

「さあ? だが奴はあの力をある程度使えていた、こうなるのは時間の問題だったんじゃないか?」

「それもあるだろうがな、物事にはなんでも原因ってもんがある。そうだよなぁ⁉ セ・ルゲンさんよぉ?」

 体をびくりと震わせてルゲンがこちらを向き、つっかえながら反論する。

「なっ! なんだと! うぃっ……ウィッカーアウルの出現は! わっわわ……私のせいだとでも言いたいのか!」

「まあ毒をぶち込めって言ったのは俺だ。だがお前の毒をザザルに分析させたところ記憶と感情に作用する成分が見つかった……」

 クドゥリはそれを聞いてはっと目を見開いてルゲンの方を見た。

「超能力は種類はどうあれ強烈な感情で爆発的に成長する。お前やったな?」

「……私のせいか?」

「まあ……そうだな」

「私だけのせいか! 第一お前だって大口叩いてた割にはマグナアウルを殺しきれず、挙句ジャガック最大級の攻撃艦を失った! お前にだって責任はあるんじゃないか⁉」

 ルゲンに指を突きつけられたイダムは肩を竦めて口を曲げた。

「まあ攻撃対象の排除が面倒になったのは仕方がない。明日の戦いはクドゥリに頑張ってもらうしかないだろう」

「私だけか?」

「パテウは火力だけだ、マグナアウル改めウィッカーアウルには逆立ちしたって勝てまい。だから俺が頼りにしているのはお前だけだ」

「……そうか、重責だがやり遂げるよ」

「死ぬなよ、お前はジャガックの要だからな」

 クドゥリは様々な感情を噛み締めながら、会議場を出るのだった。


 翌日の事、衛星軌道上から場所を移して真鳥市の某マンションの、ガディとザリスとジェサムの潜伏先では。

「おや、通信ですわ」

 久しぶりの通信に三人は心がざわめきつつ、ソファに座ってテレビモニターを接続すると、クドゥリの姿が映される。

「あら! お姉様!」

「お久しぶりですわ!」

「お体の方は大丈夫でしょうか?」

 クドゥリは柔らかい笑顔を浮かべてから口を開いた。

『私はもう大丈夫だ、そっちは変わりないか?』

「ええ、一刻も早くお姉様に追いつけるように鍛えておりますわ」

「こちらは楽しく……いえ、しっかり任務をこなしております!」

『そうか、なら良かった』

「お姉様、私達に用という事は出番という事ですか?」

『ああ、少々困難なミッションだ』

 それを聞いた三人の表情がにわかに強張る。

「困難……」

「いいえ構いません、お姉様の為なら私達はどんな困難にも挫けません」

 再びクドゥリの口の中に苦いものが広がる。

 自分の為なら三人は一切の迷いなく命を(なげう)つだろう。だからお前達を連れて行きたくはないんだ、という言葉を呑み込んでクドゥリは努めて冷静に三人へ今回の任務を告げた。

『今日我々はウィッカーアウルを叩く。お前達は私とパテウの補助をやってもらう』

「ウィッカーアウル!」

 さらに強力になったマグナアウルの情報は三人にも届いており、以前よりも苛烈になった戦い方に三人は内心恐怖を抱いていた。

『大丈夫だ、お前達の命は必ず守る』

「ですがお姉様……お姉様の命は」

『安心しろ、私達は必ず勝つさ』

 姉の不敵な言葉に鼓舞された三人は笑顔になって頷く。

『私は必ず勝つよ。今の奴は力に振り回されている、そこを我々の連携で突き崩すんだ』

 敬愛する姉であるクドゥリがそう力強く言うのだから、三人はなんだかみるみる力が湧いてきたような気がした。

「分かりました! 我々の力を発揮する時が来たようですね!」

「鍛錬が無駄ではない事を証明して見せます!」

「今日が奴の最期の日……そのつもりで臨みますわ」

 内心の苦々しい思いを悟られぬようにクドゥリは頼もしげに笑って大きく頷いて見せ、すぐに凛とした表情になって姿勢を正す。

『ではこれより戦闘準備を始めろ、場所と時間は追って連絡する』

 通信が切れ、一旦部屋の空気が緩んだが、すぐに張り詰めた空気に戻った。

「久々の戦いです」

「失敗などもってのほか」

「必ずや成果を上げて見せましょう」

 三人は戦闘服を纏い、毎日の手入れと点検を欠かさなかった武器に最後の点検を行い、十全に準備を整えた。

「後は待つだけ……」

「過度の緊張は禁物」

「いつも通りやればいいのです」

 高ぶる気持ちを士気に変え、三人はクドゥリからの連絡を待つのであった。


 ジャガックの強者達による新たな襲撃が行われようとしている事を知らない京助は、かつてない程ぐちゃぐちゃになった心に整理をつけるために桐野川の川沿いのベンチに来ていた。

「俺の……本当の思いは……」

 このベンチは京助にとって思い出深い、奏音から放課後のキャッチボールに誘われたあのベンチである。

 ここから見るあの時から少しだけ変わった景色を見れば、何か分かると思っていたがやはり何も分からない。

 自分の事は自分がよく分かっているつもりだったが、それは案外簡単に突き崩されるものだったらしい。

「うう……くそ……」

 ここで色々考えようと思っていたが、外に居て大丈夫かという考えが雑念となって思考を邪魔してくる。

 毒の影響か黒の力の影響か、未だに些細な事で感情が昂るのだ。あの悪夢のように無辜の人々を虐殺しないかと、外の空気に体が触れている時はずっと肝が冷えっぱなしだ。

 実際ここに来るまでもかなり危うく、自転車や信号に対して苛立って手を翳して握り潰してやろうかと何度も頭に過りかけた。

「やっぱり俺の本性は……あいつの言う通り……」

 京助が視線を落とすと波打つ川に自分の姿が映った。

「!」

 奇妙な事にここにずっと一人でいたのにも関わらず、隣に誰かが座っているではないか。

「貴女は……」

 彼女の装いはおおよそ現代のものとはかけ離れており、だがしかし現代の価値観から見ても長い艶やかな黒髪が似合う美人であった。

「采姫様……どうして⁉」

 いつの間にやら隣に座っていた采姫は京助の顔を見ると、静かに口を開いた。

「なに、恩人が道に惑うておったら助けるものが世の情けじゃ」

「でも貴女はあの時確かに……」

「彼岸へ渡ったと思うたか? 妾はまだ彼岸には逝かぬよ、妾は真鳥の地(ここ)を見守り続けなくてはならぬ」

 もしかしたら采姫はあれからずっと陰で見守ってくれていたのかもしれない。

 そう思うとなんだか温かいものが胸の奥から込み上げてきて、なんだか活力が湧いてきた。

「采姫様、どうして俺の前に姿を?」

「警告の為じゃ、そなたが得た力についてのな」

「やはり……ウィッカーアウルは」

「そうじゃ、そなたの新たな化身たる妖梟(ウィッカーアウル)は妾を縛り続けていた力と同じ」

「教えてくださいませんか、この力って何なんです?」

「妾も詳しく語る事は出来ぬ。だが一つはっきりしているのは、森羅万象を壊す力であるという事」

「森羅万象を壊す?」

「易しく言えば……死の力じゃな」

 死の力。

 なんとも陳腐で聞きようによってはあまりにも幼稚で笑い飛ばしたくなるような言葉だが、今この力に悩まされ、そしてこれまで何度も死に直面した京助はそれが確かな事実であると心の底から理解した。

 そして同時に今自分の中に巣食い、そして相手にしようとしているもののあまりの強大さに思わず辟易してしまう。

「死の力だなんて……どうやって抵抗すればいいんですか」

「言うは易いが、行うには並大抵の精神では貫き通せぬ事をせねばならぬ」

「やり方はあるんですか⁉」

「ああ、一切の憎悪を捨てる事」

「憎悪を……」

 言うは易く行うは難し。まさしく采姫の言う通りだ、憎悪を捨てるなんて以前ならともかく、今の京助に出来るだろうか?

「この力はこことは異なる世界に潜む異形によって送り込まれたもの。そやつは妾たちの次元に直接干渉出来ぬが故に寄生した者の感情を使う、それが最も結びつきやすいのが……」

「憎悪なんですね」

「その通り、結局は自身の感情により縛られるのと同じ事。かつての妾と同じ轍をそなたに踏ませたくはないのじゃ」

「采姫様……」

「勇気を持て、若き梟の武士(もののふ)よ。そなたには……おっと、この先は妾から言うたら野暮というもの」

「待ってください、そんな勿体ぶって……」

「一つ妾から言えるとするなら……そなたが思っている以上に、そなたの想い人はそなたの事を案じておるぞ」

「え? それって……」

「もう妾に出来ることは無い。くれぐれも憎悪に縛られてはならぬぞ」

「待ってください! 采姫様!」

 京助が手を伸ばすも、もう采姫の姿は消えていた。

「結局俺は、何をすればいいんだよ」

 答えをくれるものが居よう筈もなく、座ったまま頭を抱えて途方に暮れていると、後ろから声が掛かった。

「京助君! 京助君だ! おーい!」

 下校中と思わしき清桜が手を振ってこちらに走って来て、ランドセルを投げ出して隣に座った。

「今日は意外な奴に会う日だな……」

「さっきも誰かと会ったの?」

「ああ、まあな」

「……なんだか元気ないね、大丈夫?」

 こちらを見上げる清桜に向けてなんとか笑いかけて見せるも、顔色の悪さと目に出来た色濃い隈は相変らずだったため、かえって病的に見えてしまう。

「具合……悪いの?」

「心の問題でな、今色々大変なんだ……」

「心の問題……何か悩みでもあるの?」

「多分お前に言っても仕方ない事だと思うんだ」

「ちょっと話してみてよ、まあ僕が答えられる範囲になっちゃうけど……」

 八歳も年下の小学生が、自分を慮ってくれている。

 状況が好転するかはともかく、京助はその真っ直ぐな誠意に応える事にした。

「自分の事が分からなくなっちまったんだ」

「自分の事が分からない?」

「ああ、ずっと信じてやってきた事が……なんだか違うかもしれないって、最近思うようになってきたんだよ。それから自分の事も分かんなくなって、悩んで悩んで悩みまくって、誰にも会わず一人きりで居たら……こ~んな顔になっちまった」

 あまり重苦しい感じにならないように自嘲気味に笑う京助だったが、そんな笑顔も清桜はあまりに真剣に見るものだから、かえって気まずくなってしまう。

「僕にはアドバイスとかは出来ないかもしれないけど、一つだけ言える事があるよ」

 そうして清桜は自信たっぷりに胸を張って言った。

「京助君は優しい人。これは間違いないよ」

「俺が……優しい?」

「だっていじめられてた僕を助けてくれた人が優しくない筈ないから」

 屈託のない輝かしい満面の笑みから京助は目を逸らしたかったが、どういう訳か目を逸らすことが出来なかった。

 さながら闇に包まれた時に現れた一筋の光に縋るかのように、京助はその笑顔から目を背ける事が出来なかった。

「多分、僕よりその事を相談するのに相応しい人居ると思うよ。ホラ、前に言ってた幼馴染の彼女さんとかさ」

 そろそろ誰かに助けてほしいと言う時期が来たのかもしれない。

 采姫の言う勇気は、誰かに打ち明ける勇気だったのか。

「お前に背中を押されるとはな……」

 清桜の頭を撫で、京助は立ち上がって大きく伸びをし、周囲の空気を肺いっぱいに取り込んだ。

「ありがとうな、お前に会えて良かったかもしれない」

 清桜と別れた後、京助はその場で奏音に通話を掛けた。

「出てくれよ……勇気が萎えないうちにな」

 意外にも二コール目が鳴らないうちに通話が繋がり、京助の心臓の鼓動は少しずつ速くなっていく。

『……京助⁉』

 かなり心配しているような声色である。無理もない、幹人たちからあの後姿が見当たらないという情報は行っているだろうから。

「奏音、ごめんな。心配かけたな」

『大丈夫なの? 無事なの⁉』

「ああ、無事だよ。とりあえずな」

 電話越しにため息が聞こえる、張り詰めていた緊張が切れたのだろう。

『……良かった! ……本当に良かった!』

「いきなりだけど、会って話したいことがあるんだよ」

『えっ⁉ ……それって……』

「別れ話じゃないから安心してくれ……とりあえず今から……」

 そこまで言いかけた直後、スマホからジャガックの出現を知らせる警報が鳴り響いた。

(こんな時に来やがって! クソッタレ!)

「ごめん、明日いつでもいいからさ、俺の家に来てくれないか? そこで話そう。話したいことが山ほどあるんだ」

『待って……いやうん、わかった、気を付けて避難してね』

「ああ、ありがとう奏音。また明日」

 通話を切った京助は、急いで人気のない場所に向かってウィッカーアウルレットを右腕に出現させ、赤い装飾に手を翳そうとする。

「く……」

 手を翳しかけた所で、京助の中の何かが待ったをかける。

 本当に行って良いのか? 本当にその力を制御できるのか?

「でも俺が……俺がやるしかねぇんだッ!」

 手を翳して次元崩壊ブレードを展開させると、歯を食いしばりながら全力で前の空間を殴りつける。

「うおおおおおああああああっ!」

 粉々に砕けた空間の隙間から無数の黒い靄が現れて京助の体を包み込み、まるで体を蝕むように京助の姿をウィッカーアウルへ変えていく。

「フンンンンッ! ヌアッ!」

 先程開けた次元の穴を更に破壊して広げると、ウィッカーアウルはその中へ姿を消し、戦いの場所へ赴くのであった。


 クドゥリとパテウと三姉妹を乗せた宇宙船は真鳥市を一周しながら無辜の人々を威圧していた。

「奴の事だ! 我々に必ず食いつくだろう!」

 戦いたくてうずうずしているパテウにクドゥリは内心そんなに早く来るものかと思っていたが、警報が鳴り響いた事で少しばかり驚いてしまった。

「来たか!」

「しっかり掴まれ、いつでも脱出できる準備を整えておけ」

 警報から間もなくして宇宙船が大きく揺れ、何事かと思って皆窓を見ると、上の方から無数の刃のついた赤いチェーンがこちらに向かって飛んで来ていた。

「あれに当たると一瞬で消滅する。気を付けろ!」

 クドゥリの警告に従いパイロットはしっかりと操縦桿を握り込んでレーダーの反応を頼りに追尾してくるチェーンを回避していたが、四方八方から襲い来るチェーンに対応できず、ついに船体にチェーンが貫いたのを皮切りに様々な場所からチェーンが飛び出し始め、ついにパイロット事コックピットを貫いた辺りで徐々に宇宙船が消滅し始めた。

「マグナアウルめ! どこに居る!」

 クドゥリは愛剣ベナーグを取り出すと床を丸く切り取って蹴飛ばし、四人に飛び降りるように指示した。

「奴の罠だぞ! 誘い込まれたかもしれん!」

「ですがパテウ様、ここに居る方がよっぽど危険ですわ。空は奴の主戦場ですから」

「ジェサムの言う通りだ。早く降りるぞ」

 そのままクドゥリは真っ先に穴の中へ飛び込み、三人がそれに続き、パテウは周囲を覆い尽くす真っ赤なチェーンを見てようやく決心を固めて穴の中へ身を投げた。

 そうして五人が地面へ降り立った頃には既に乗って来た船は船体の九割が消滅しており、ガディとザリスとジェサムはまだ姿を見せていないのにここまでの被害を出したウィッカーアウルへ内心恐怖を抱いた。

「……来る」

 黒の力を得た事で再生したクドゥリの目が何もない上空のある一点から離れなくなり、他四人も不思議に思いながらそこを見ていると、空間に無数のヒビが走ってガラスのように粉砕され、そこから両手を広げたウィッカーアウルが現れた。

「フッシュゥゥゥゥゥウウウ……」

 ウィッカーアウルが醸し出す凄まじい殺気に、黒の力を手に入れて死線を乗り越えたクドゥリですら思わずたじろいでしまう。

「く……フン! マグナアウルめ! 何やら新しい力を手に入れたらしいがその程度で我々が怯むとでも思ったか!」

「今日こそお前には負けない、私達の力を見せてやりますわ」

 不気味な赤い瞳をこちらに向けたウィッカーアウルは静かに、そして重苦しい声色で話し出す。

「勘違いするな、マグナアウルはもう居ない。俺はウィッカーアウル……そしてお前達に訪れるのは敗北ではない」

 全身に黒い靄を纏い、赤い瞳を光らせてウィッカーアウルは宣告した。

「死だ」

 死を宣告された五人は一瞬だけたじろいだが、いきり立っていたパテウが足を踏み鳴らして叫びながらウィッカーアウルへ向かって行った。

「パテウ! 待て!」

「止めるな! この舐め腐った奴に一撃喰らわさないとどうもにも事が収まらん! うおおおおおおおっ!」

 パテウは走りながら体中の武装を展開してウィッカーアウルに放つも全て着弾の直前に黒い靄によって消滅させられ、すぐにショックエッジを展開して斬りつけるが、刃から発した衝撃は全て効かなかっどころか、頭を掴まれて身動きを封じられてしまう。

「は! 放せ!」

 ウィッカーアウルの纏う靄が濃くなってパテウの体に接触した途端、パテウの全身に火花が散り、硬いパテウの装甲全てに亀裂が入る。

「うぐああああああっ!」

「パテウ!」

「パテウ様を放しなさい!」

 ジェサムのフルパワーの銃撃が飛んで来るも、ウィッカーアウルは気にも留めず、そのままパテウの体を持ち上げて腕に力を籠める。

「ヴオオオオオオオオッ!」

 咆哮と共にウィッカーアウルが回復が追いつかないパテウを頭から地面に叩きつけ、その上蹴りで胸の一部を粉砕した。

「貴様!」

 クドゥリと共にガディとザリスとジェサムがウィッカーアウルへ向かい、銃撃と三本の剣から斬りつけられるも、ウィッカーアウルの装甲には全く刃が通らない。

「何故だ⁉」

「ヌェエアッ‼」

 ウィッカーアウルが叫ぶと四人は吹き飛ばされ、クドゥリが地面に転がる寸前頭を掴まれて再び地面に叩きつけられる。

「お姉様! もう許さない!」

 ガディとザリスが斬りかかろうとするもウィッカーアウルが見向きもせず手を翳しただけでその場に戒められる。

『なんなの……これっ!』

『全く抵抗……出来ないっ!』

 クドゥリの頭をもう一度地面に叩きつけながらウィッカーアウルは翳した手を反転させて上へ挙げると、ガディとザリスの体が宙に浮き始める。

「姉さん達!」

「DUOOOOO!」

 ジェサムが銃撃するより早く、ウィッカーアウルがクラッシャーから衝撃波を放って吹き飛ばしてしまう。

 またクドゥリの頭を地面に叩きつけながらウィッカーアウルが翳していた手を握ると、ガディとザリスが凄まじい速度でぶつかり、そのまま地面に投げつけられる。

「う……くっ……ああ……」

「お……姉……様……」

 その言葉が、愛する妹の助けを求めるその言葉が、意識が朦朧とし始めていたクドゥリの脳を活性化させた。

「ああああっ! ぬおおおっ!」

「グッ!」

 ベナーグを鞭剣にしてウィッカーアウルの首に巻き付けると、思い切り前に振り下ろして無理矢理自分から引き剥がす。

「グア・ザリシューレン‼」

 鞭剣に溢れんばかりのエネルギーが満ち、クドゥリの能力で眩いばかりの光が周囲を照らし、宙に浮いたウィッカーアウル目掛けて蛇のように迫った。

「喰らえ! 今日で終わ……ッ!」

 投げられて滞空していた筈のウィッカーアウルが全くあり得ない不可解な軌道で地面に吸い寄せられるように着地した後、こちらに向かって至近距離に高速移動してきたのである。

「ドゥワァァッ!」

「ぐうはぁっ!」

 高速移動した勢いのまま迫って来たウィッカーアウルに思い切り殴られて吹き飛び、クドゥリは何度も地面に転がった。

「このっ! お姉様を何度も! 許さないっ!」

 大ダメージを負いつつもガディとザリスとジェサムが立ち上がってウィッカーアウルへ向かって行き、それぞれで攻撃を加えていく。

「はっ!」

 ジェサムが銃撃でウィッカーアウルの気を引きつつ、ザリスが鞭剣でウィッカーアウルの腕を封じ、ガディがその間に刀身に溜めていたエネルギーを解放し、刃を振り抜いて斬撃を飛ばしてウィッカーアウルへ斬撃を叩きつけた。

「流石に多少は……ぎっ!」

 突如ザリスが武器を握ったまま硬直し、鞭剣に赤い電撃が走って徐々に黒い靄に包まれていく。

「フウウウウオオオオオオオッ……ルオオオオオオオオオアアアアアッ‼」

 ウィッカーアウルが叫びながら自分の腕に巻き付けられた鞭剣を振り回し、ザリスをチェーンハンマーの様に振り回してガディとジェサムに叩きつける。

「グワハハハハハハハ! ハァァァァーッ!」

 さながら笑っているかのような咆哮を上げながらウィッカーアウルは三人を痛めつけていると、何処かから光弾が飛んで来て鞭剣を断ち切った。

「ヴゥゥッ!」

 ウィッカーアウルが光弾が飛んで来た方を見ると、黒の力で形成された刃を持つベナーグを携えた二刀を持つクドゥリと、回復を終えて復活したパテウがこちらへ迫っていた。

「その子たちから放れろッ!」

「今日がお前の最期だぁっ! グアッ! ……ジェサムイアッ‼」

 黒の力が込められた飛ぶ斬撃にウィッカーアウルは吹き飛び、そこへパテウが無数のミサイルや光弾を叩き込み、ドドメにクドゥリのライフルがウィッカーアウルを貫いた。

「貫いた!」

「流石お姉様ですわ!」

 こればかりはウィッカーアウルも膝をつき、苦悶の声を漏らす。

「ヴウ……グググ……アアッ」

「ん?」

 この中でクドゥリだけが妙なことに気付いた。

 自分が撃ったのはウィッカーアウルの腹である、ではなぜ今ウィッカーアウルは頭を押さえて苦しんでいるのか。

「ウオオオオオオオオオオオオッ!」

 その疑問が解消されるより前にウィッカーアウルの咆哮が轟いて、三百六十度全方位に赤い稲妻が迸った。

「ぬああああっ!」

「ぐううううっ!」

「いやあっ!」

 全員を吹き飛ばしたウィッカーアウルは自分の体を両拳で殴りつけて全身に黒い炎を纏い、真っ直ぐクドゥリ目掛けて突進してきた。

「ガアアアアアアッ!」

 ウィッカーアウルの指先から伸びた鋭利な爪が黒の力を込めたベナーグと切り結び、クドゥリは猛攻を打開するべく爪を受け止めながら新しいベナーグをライフルモードにしてウィッカーアウルの腹へ光弾を連射するも、黒い炎が光弾を呑み込んで攻撃を無効化する。

「今度は攻撃を無効化してきたか! 熱くなって来たじゃないか!」

 周囲を鼓舞するつもりで言ったが、内心クドゥリはどうやってこの怪物を突き崩すか分からないでいた。

(力に振り回されていようが関係ない……奴の戦闘センスが本能レベルで繰り出されているからよっぽど厄介じゃないか!)

「RRRR……RVOOOOOOOOOAAAAAAAAHAAAAA‼」

「くっ! なんだ……これは!」

 ウィッカーアウルのクラッシャーから放たれた光線を回避しようとするも、横に薙ぎ払われたためクドゥリは咄嗟に両刀を交差して防ぐ。

(そうだ、この力を……私の力に転換すれば!)

 新しいベナーグを下ろし、黒いベナーグのみで光線を受け止めたクドゥリは、莫大な力をその身に受けた。

「うううおおおっ! ハァッ!」

 光線を吸収したクドゥリの全身はエグザイル化を始め、右目が赤く輝いて戦闘服が黒い炎で形成されたドレスになり、頭部から三本の捻じれた角が生えてくる。

「お姉様!」

「その姿は!」

「ウィッカーアウルと……同じ力!」

 二振りのベナーグを横に薙いで刀身を六本に増やすと、クドゥリはウィッカーアウルへ走って行く。

「あああああっ!」

「シャアアアアアアッ!」

 ウィッカーアウルの腕と黒いベナーグの三本の刃がぶつかり、周囲へ凄まじい程の瘴気が撒き散らされる。

「もうお前が……私より強いとか……あの時の復讐戦だとかはどうでもいい! ただ私はあの子たちを守る! 絶対にお前から! ガディとザリスとジェサムを守るんだ!」

 獣のように咆哮して暴れ回るウィッカーアウルには、もはや言葉を解する理性はないと思っていたクドゥリだったが、これはとんだ思い違いであり結果的に自分の首を絞める事となった。

「アアアアアアアアアアアアッ!」

 クドゥリの言葉が逆鱗に触れたウィッカーアウルは、これまでの咆哮ともまた違う慟哭にも似た叫び声を上げて念力波でクドゥリを吹き飛ばし、超能力を織り交ぜながらこれまで以上に苛烈で容赦のない攻撃を始め、クドゥリを防戦一方に追い詰めていく。

「ぐっ……ううっ! はっ!」

「アアッ! ダァッ! アアアアアッ!」

 飛んで来る念力波や黒い炎や赤い稲妻を回避しながら、ウィッカーアウルが繰り出す一撃一撃が即死級の打撃を捌きつつも徐々にクドゥリは後退していく。

「お姉様が!」

「私達も……くっ!」

「……出来ない」

 二人の戦いがあまりにも苛烈でなおかつ高レベルなため、全く入っていく隙が無いのだ。

「でもこのままだとお姉様が!」

「下手に援護すると却って奴に付け入る隙を……」

 どこで援護しようと迷っているうちに、ウィッカーアウルが呼び出した刃付きのチェーンに肩を切られ、その一瞬の隙を突かれてクドゥリは赤い稲妻を浴びせられた。

「うわああああっ!」

「お姉様っ!」

 赤い稲妻を喰らってクドゥリがベナーグを両方とも取り落した所に、ウィッカーアウルは更に赤い刃付きチェーンを呼び出し、両手首と両足、胴体と首を戒める。

「くそっ……放せっ!」

「シィィィイイイイイッ!」

 ウィッカーアウルが身を屈め、全身に纏っていた黒い炎を更に滾らせる。

「ヴアアアアアアアアアッ‼」

 一際大きな咆哮を天に向けて放つと、クドゥリの前から高速移動して後退し、両の掌を合わせてブラックホールを思わせる黒い光球を作り出す。

「まずいですわ!」

「くっ! えいっ!」

 ジェサムがクドゥリを戒めているチェーンを撃つも、どういう訳か全く効果がない。

「なんでっ! 何故ですの!」

「お前達っ! 逃げろ!」

「何を言いますのお姉様!」

「早く逃げろ! 私の事はいい!」

「お姉様を置いてなど私達には出来ません! どうせなら共に……」

「馬鹿者! 早く逃げろ! このままだと……」

 そうやり取りしている間にウィッカーアウルが作り出した黒い光球は市立病院で見せたものより遥かに巨大に膨れ上がり、その光球から発せられる威圧感に思わずクドゥリの顔に恐怖が浮かぶ。

「はっ……はぁっ!」

「ハァァァァ……デェェェェヤァァァァァアアアアアアッ!」

 黒い光球を持ち上げたウィッカーアウルがクドゥリ目掛けてそれを投げつけ、地面の粉塵を巻き上げて旋回しながらクドゥリに迫る。

「お姉様っ!」

「うっ!」

「うおおおおおああああっ!」

 クドゥリが死を覚悟したその一瞬、巨大な背中がクドゥリの前に躍り出て守るように立ち塞がった。

「パテウ⁉」

「消え失せろぉぉぉおおおおっ!」

 無数のミサイルやレーザービームや砲弾が光球へ飛んでいき、以前に奥の手だと笑いながら話していたチャージキャノンレーザーが展開して光球を押し留める。

「くおおおっ! がぁっ!」

 だが理外の力は高火力なキャノンレーザーをも呑み込んで、ついにパテウへ命中してしまった。

「あああああっ! なんだこれはっ!」

「パテウッ! そんな……パテウ!」

 貴族然とした怜悧な表情は崩れ、今やクドゥリの顔は恐怖に歪んでいる。

「声を! この声を止めろっ! 止めてくれ! 俺の中に⁉ やめろっ! 俺の中に入ってくるなぁぁぁあああーっ!」

 光球に取り込まれたパテウは半ばパニックに陥っており、それを見たウィッカーアウルは光球を浮かせ、腰を低く落として光球へ狙いを定める。

「シュウウウウウ……ドゥワッ!」

 助走をつけて跳躍したウィッカーアウルは体を縦に旋回させて遠心力を付けながら全身の黒い炎を足に集約させる。

「やめてくれ! 頼む! もうやめてくれ! あああああああああっ‼」

「デェェェェェエエエラアアアアアアアッ‼」

 パテウの胸にウィッカーアウルの飛び蹴りが突き刺さり、それと同時に足の黒い炎と光球に取り込まれたパテウへと収束し、無数の力の奔流がパテウを中心にして周囲へと駆け巡り、クドゥリの拘束が千切れて三姉妹と共に吹き飛ばされた。

「うぅ……くっ……ああ! パテウ! パテウ!」

 粉々になって喚いているパテウの方へクドゥリが駆け寄り、胸像のようになったパテウを抱き上げる。

「パテウ! しっかりしろ!」

「クドゥリか⁉ 助けてくれ! あいつが……あいつが来る!」

「大丈夫だ……私がここに居る! お前は助かる、いつもみたいに回復するんだ!」

「ダメだ! あいつが俺を呑み込む! 怖い! 怖いんだ! 助けてくれ!」

 初めてパテウが怖がっている顔を見た気がしたクドゥリは、頬に手を当てて勇気付ける言葉を掛けた。

「出来る! ウィッカーアウルとクインテットにリベンジするんだろ! 早く回復するんだパテウ! お前なら出来る!」

「あいつが来る! あいつがもうそこまで来てる! 口を開けて! あいつを追い払ってくれ! 声を止めてくれ!」

 パテウの破片を集めればどうにかなるかとクドゥリは周囲を見回したが、ここで初めてその破片がまるで何かに蝕まれているように消え始めているのに気付いた。

「そんなパテウ……ダメだ! 行くな!」

「クドゥリ! 助けて!」

 ついにこの本体も消え始め、絶望に歪んだ双眸がクドゥリを見据える。

「ひっ……」

「死にたくない……」

 パテウが、死んだ。文字通り跡形も残らずに。

「パテウ……パテウゥゥッ!」

 クドゥリの拳が地面に打ち付けられ、粉塵が巻き上がって地面に亀裂が走る。

「フッシュゥゥゥゥ……」

 ようやく地面に降り立ったウィッカーアウルの息遣いが聞こえ、クドゥリはその後姿を睨みつけた。

「よくも……パテウを!」

 腕に黒い炎を纏って殴り掛かるも軽くいなされ、落としたベナーグを引き寄せて斬りかかるもクラッシャーで刀身を嚙み砕かれた上に角を掴まれて地面に投げられる。

「くっ! あっ……」

 そのまま地面に倒れ伏したクドゥリの頭を起こしたウィッカーアウルは、もう片方の手で肩を掴むと、クドゥリの白く美しい首筋に噛みついた。

「ううううっ! あああっ!」

 顔に血がかかったのに全く気にせず、ウィッカーアウルは抵抗出来ぬようクドゥリの半身を起こして腕をがっちり拘束し、乳房を掴むと口からクドゥリのサイコエネルギーを吸い取り始めた。

「あっ……うんっ……やめっ! ああっ……」

 徐々に力が失われていった事で角が靄となって消えていき、黒い炎のドレスも所々破れた戦闘服に変わっていく。

「あいつっ!」

「お姉様になんてことをっ!」

「許せない……殺す!」

 もはやクドゥリへの凌辱と化したウィッカーアウルの行いも、クドゥリが人質となっている以上三人は手を出せない。

 ウィッカーアウルがクドゥリのエネルギーを吸い尽くす頃には、クドゥリの命も危ないだろう、そうなれば次に矛先が向かうのは自分達だ。

「もう……奴を止められる者は居ないんですの⁉」

「いるよ、ここに」

 聞き覚えのある中性的な声が聞こえ、三人が振り返ると赤い髪にエスニック風の服が特徴的な刀を携えた人物が立っていた。

「あなたは!」

気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリース……」

「特級傭兵……サイ!」

 サイがやってきたことに気付いたウィッカーアウルはクドゥリの首筋から口を放し、口の中の血を吐き捨てると顔じゅうの血を拭ってサイの方を見る。

「あれほど警告したのに、君も呑まれたか……〝死〟に」

「シュゥゥゥウウウウッ……」

 サイの姿を見てかウィッカーアウルの体に黒い炎が灯り、目が不気味に赤く輝く。

「そうか、完全に呑まれる前に斬り伏せるのが情けというものかな?」

 紅蛇を背に担ぐと享楽と憤怒の相が刻まれた仮面をつけ、サイは深く呼吸してウィッカーアウルを見据える。

「轟……嵐ッ!」

 無数の赤いガラス片がサイにまとわりつき、カプリースの装甲を形成すると同時に双方走り出し、全力の突きを繰り出して拳をぶつけ合った。

「ドゥオオアアアアアアアアアアッ!」

「おおおおおおっ!」

 そのまま力を込めてカプリースがウィッカーアウルの拳を粉砕し、ウィッカーアウルが困惑した隙に背中の紅蛇を引き抜いて叩き斬ろうとするも、無数のチェーンが紅蛇を縛りつけて阻まれる。

「くっ! ハァッ!」

「シィィィイイイイイッ……」

 思い切り紅蛇を引っ張ってチェーンを破壊するも、ウィッカーアウルは腕を再生させており、そこから赤い稲妻を放ってきた。

「うおっ! やるな……だけど雷はな……ボクの専売特許だという事を忘れるな!」

 赤い稲妻を紅蛇で受け切ったカプリースは、紅蛇に残った電撃を自分の力に変換し、紅蛇の赤い両刃の刀身に白い電撃が迸る。

「フルギュラス・ジアス・コーダァッ!」

 紅蛇の先端から白い電撃がウィッカーアウルへ放たれ、ウィッカーアウルは全身に纏う黒い炎でそれらを全て呑み込み、両掌を合わせて黒い炎を纏ったソリッドレイを形成して投げ返してきた。

「うおっ!」

「オオオオオオッ!」

 ソリッドレイを何とか受け止めるも黒い炎を纏っているせいで否が応にもダメージを受けてしまう。

「厄介だな、わかり切ってた……事ではあるけど!」

 飛んで来たソリッドレイを切り伏せながら、カプリースは紅蛇を地面に突き刺して拳を突き合わせてサイコエネルギーを発散させると、そのまま拳にエネルギーを集約してウィッカーアウルへ殴り掛かった。

「ドゥワッ! オオオオワッ! デヤァァアアッ!」

 飛来するソリッドレイの塊を全身に浴びつつ、カプリースはウィッカーアウルへまっすぐ走って行く。

「これでもッ! 喰らえぇぇぇぇええッ!」

 カプリースの右拳がウィッカーアウルの顔面に突き刺さり、同時に右拳に纏っていたマイナス一兆度に匹敵する冷気がウィッカーアウルへ襲い掛かって上半身を一瞬で凍り付かせ、そのまま後ろに倒れたウィッカーアウルの足を掴むと、カプリースはウィッカーアウルをジャイアントスウィングの要領で振り回し始めた。

「うおおおおおおっ!」

 カプリースが持つ嵐の力が内包する風の力で徐々にスウィングの速度が上がっていき、竜巻のように周囲のものを巻き上げ、カプリースが足を放すとウィッカーアウルはその風に攫われて空高く飛ばされていった。

「おおおおおらぁぁぁぁあああああっ!」

 風によって上空高く打ち上げられたウィッカーアウルへ跳躍したカプリースの電撃を纏った踵落としが炸裂し、ウィッカーアウルは真っ逆さまに地面へ叩き落とされた。

「ウオオオオオオオアアアアア!」

 ウィッカーアウルの痛みによる苦悶の声を聞きながらカプリースはその数メートル先に着地し、紅蛇を引き寄せて警戒態勢を取る。

「シィィィィ……イイイイイッ!」

「……」

 次の攻撃に備えて紅蛇を構えていると、ウィッカーアウルの体に変化が訪れた。

「イィィィィ……グルルルルルル……」

 徐々に全身の装甲にヒビが入り、まるで何かがウィッカーアウルという殻を破って出て来ようと試みているようであった。

「グルルルル……フッシュゥゥゥゥゥウウウ!」

 (ヘルム)の目の部分が割れ、中からぎょろりと動く凶獣を思わせる赤い瞳が覗き、目の前のカプリースを睨みつける。

「ヴゥゥゥゥゥウウウ……ガウッ‼」

「彼が飼っていた怪物がこれか! さあ早く姿を見せろ!」

「ウヲオオオオォォ……ガフッ⁉ グ……ギギ……ウゥゥゥ……」

「なんだと?」

 カプリースの挑発に咆哮を上げようとした凶獣だったが、どういう訳かすぐにウィッカーアウルの装甲が修復され、徐々に元の姿に戻っていった。

「嘘だろ」

「ウゥゥゥ……アァ……」

 苦しんだままウィッカーアウルは後ろの空間を殴ると、空いた時空の穴に入って姿を消してしまうのだった。

「……まさか」

 仮面を取る仕草をしてカプリースはサイの姿に戻り、ウィッカーアウルが消えて行った空間を見つめる。

「まだ完全に呑まれてないのか⁉」

 黒き梟の羽ばたきは、硬直しつつあった状況を動かし始めた。

 そして未だにウィッカーアウルを御しきれない京助は、果たしてどこへ向かって行くのか。

 今後の戦いを、決して見逃すな。


To Be Continued.

ジャガックの幹部の一人をついに撃破しましたが、あまり喜べる勝利ではありませんでしたね。

果たしてサイや采姫は何を知っていたのか、そしてウィッカーアウルの内側に潜む怪物とは一体……。

物語は加速していきます、決して見逃さないでください。

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ではまた来週! 必見ですよ!

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