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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
37/37

永久の夜の黒き梟

イダムを取り逃がし、同時に体に宿る危険な黒の力に体を侵された京助は誰かに会う事も戦う事も止めてしまい、世間は突然消えてしまったマグナアウルを心配していた。

そんな中、怪我をした幹人の見舞いの為、京助は病院を訪れるも、病院はジャガックに占拠されてしまう。

京助の怒りと恐怖が最高潮に達した時、遂にマグナアウルは新たな力に目覚め、姿を大きく変える。

覚醒した最悪の力を手にした京助は、果たしてどうなってしまうのか?

 雷雲が街を覆い、突如巨大な島が真鳥市に現れてから三週間。

 年越しを迎えてもなおジャガックの攻撃が続く中、街の人々はある不安を抱いていた。

「あぁ~確かにそうですねぇ……ここの所見なくなっちゃいましたよね」

「どうしちゃったんですかね、あの時すっごい音して島吹き飛んでたんで消えちゃったからそれに巻き込まれちゃったのかなぁ……」

「寂しいっていうのもあるけど、何より不安ですよね」

「クインテットも居るけど、何回か六人がかりでやっと倒せたような敵も居たでしょ?」

「私助けられてからずっとファンだったんですけど、そればっかりになんか寂しいです」

「どこ行っちゃったのかなぁ? 俺達ァずっとあんたの帰りを待ってるよ」

「早く戻ってきて」

「マグナアウル」

 あの日からマグナアウルは完全に姿を消し、ジャガックに対してはクインテットのみが事に当たるようになっていた。

 誰もがマグナアウルの事を知っていたが、その誰もが正体はおろか連絡の取り方も知らない。

 クインテットと並び、真鳥市の防衛をたった一人で担っていた梟の戦士の突然の消失に、市民たちは不安を感じていた。


 そしてここに別の不安を感じている者が一人。

 クインテットとして真鳥市を守って来た五人の女子高生のうち一人である直江奏音である。

「奏音ちゃん、大丈夫?」

「……ああ、あはは。ごめん明穂ちゃん」

 取り繕って笑う奏音だったが、やはりその顔に浮かぶ不安の相は隠しきれない。

「謝らなくていいよ」

「そっか、ごめ……んじゃなかったね。あははは」

「はいこれ、作ったんだ」

「ありがと」

 明穂特製のチョコレートクッキーを齧り、奏音の心はなんだか妙な安心感に包まれる。

「落ち込んでたの多分だけどさ……まだなの?」

 奏音は少し顔を伏せ、明穂の方を見てこくりと頷いた。

「やっぱそうなんだ」

「え? そうなの? まだ具合悪いって?」

 皐月もこの話題に加わり、奏音の隣に腰かける。

「そうみたい、なんなんだろうね」

 奏音が心配しているのは京助の事だ。

 京助は年明けの辺りから体調不良を訴え、デートの誘いや通話やゲームのマルチプレイの誘いも全て断り、近頃は文字でのやり取りのみで声も顔も見ていない。

 よほど酷いらしく、以前看病にアポなしで行った際はインターホンから掠れた声で追い返され、幹人をはじめとする男友達に聞いてみても同じような感じらしい。

「こんな体調不良が続くことある?」

「まあ今年の夏は暑かったから寒暖差で体調崩しちゃったのかな?」

「それにしたってじゃない?」

「薬とかはちゃんと飲んでるの?」

「そうみたいね、ほら」

 メッセージアプリには錠剤のパックや粉薬のセットが並んでいる写真が添付されており、その下にドラッグストアで買って来た旨が書かれていた。

「うーん……本当にどうしたんだろうね」

「あー、どうしたのみんな」

「浮かない顔してますね」

 新たに増設された訓練用射撃レーンから帰って来た林檎と麗奈が三人と合流した。

「お、クッキーだ。ウチも食べていい?」

「もちろん」

「あんがとアッキー」

「じゃあ私も……それでどうしちゃったんですか?」

「京助の事なんだけど……」

 これには林檎と麗奈も頭を捻って唸るしかない。

「まだ具合が悪いって言ってるんですか?」

「うん、それにあんまり誰かと話す気力もないみたい」

「ホントどうしたんだろ、あいつらしくないわ~」

 指定の登校日も休んでいたため、担任である阿澄はもちろん、多くのクラスメートも心配している。

「なんか大事には至らないでほしいんだけどな……お願いだから無事でいてよ京助」

 祈る事しか出来ない今の自分が歯痒く、何なら呪わしいとすら思うが、とりあえず今できる事は京助の一日も早い快復を祈る事しか出来ない。

 居るか分からない神様と、かつて戦った相手である采姫に奏音は心の中で手を合わせるのだった。


 奏音が京助の無事を祈っていた同時刻、クインテットの待機所から離れた千道邸では。

「……」

 静寂に包まれたリビングにただ一人座っていたのは目に隈が出来て、険しい表情を浮かべ続けたせいか目つきと表情がかなり悪くなっている京助であった。

「……クソ」

 この三週間で白髪の部分が増えたように感じる。

 原因は分かっている、今は視界から消えているあいつだ。

 自分そっくりな顔をした黒の力の化身が、とうとう心の中の世界から飛び出してきて京助の周囲を平然と歩き回るようになったのだ。

 白京助の性格上、宿主である京助を見つけたなら色々と話しかけてきそうなものだが、どういう訳か話しかけようとして来ない。

 一度口をパクパクさせて困惑している様子が見られた為、何らかの理由でこちらに声を届ける事は出来ないらしい。

 最初はそれを見て良い様だと嘲笑ったものだが、そのうち突然現れてはじっとこちらを向いてニヤニヤしていたり、今後の進退について思い悩んでいる最中に現れては憐れむような、そして嘲笑うような目でこちらを見てくるようになってからは何か言い返せない分余程質が悪いと感じるようになった。

 それに京助を悩ませるのはこの鼻持ちならないもう一人の自分が見えるようになったというだけではない。

 白京助が現実世界でも見えるようになっただけなら幻覚と割り切れば良かったのだが、もっと厄介な問題が京助に付きまとっている。

 ルゲンの毒の影響が未だに抜けておらず、不定期な記憶のフラッシュバックに加え、些細な事で感情が昂ってしまうようになってしまった。

 この毒の影響かは不明だが、町中の人々をマグナアウルとなって殺して回るという悪夢を見てから外出したり誰かと会うのが怖くなり、殆ど人付き合いも自分から断った。

 本当なら京助も誰かと会って遊びに行きたいし、マグナアウルとしてジャガックと戦いたい。

 だが何よりこの状況では誰にも会えないし、戦うなんてもってのほか、いつか見た悪夢のように無差別に人を殺しかねない。

 マグナアウルならそれが出来る、出来てしまうのだ。京助はそんな存在になりたくないし、なる訳にはいかない。

 故にパラクスモウォートでの戦い以降、京助はずっと家に閉じこもり、ひたすら黒の力を制御する方法を模索している。

 だが常に入り続けるジャガックの情報と、負傷者数の話を聞くたびに隔靴搔痒の思いが募り続け、それがまた怒りや不安といったマイナスの感情を増幅させる負のスパイラルに京助は陥っているのだ。

 今日もこうしてどうにか力を制御したりまた再び封印しようと試みているが、どうも雑念が入って上手く行かない。

「なんで上手く行かないんだ。ダメだ、こんなんじゃまた……」

 怒りを抑えようとするとそれがまたフラストレーションとなり、少しずつ心の(おり)となっていく。

 そんな心の澱すら白京助(あいつ)の養分になっていると思うとまた腹立たしい。

「シャワー浴びるか」

 采姫との戦いの際に出会った謎の超能力者神光太郎から教わった「水は全てを洗い流す」という話に従い、京助は感情が爆発寸前になると湯船に浸かったりシャワーを浴びるようになった。

 洗面台の前で上着を脱ぎ、鏡に映った自分の姿を見て京助は溜息をつく。

 隈のある酷い顔をしているというのもそうだが、何より胸の消えない二つの黒い傷跡が京助を憂鬱な気分にさせる。

 いくら治癒能力を発動させてもここだけは全く治らない。父や母が遺した超能力の効果を一定時間倍増させる薬品を使ってもダメだった。

 ルゲンに打ち込まれた毒自体はもう完全に抜けきっている筈なのだが、毒の効果と黒の力が嚙み合ったことで奇妙な作用を呼び、部分的に毒が作用しているという状況になっている。

 それに怒りがある程度膨らむと、脳をスプーンでかき混ぜるような頭痛が発生するというおまけがついている。

「ルゲンとか言ったっけ? お前はよくやったよ……マグナアウルを殺せはしなかったが、ここまで追い詰めたのはお前だけだ」

 大侵攻の時は顔だけ見せてすぐ帰り、小学校占拠事件の時は対マグナアウル専用パワードアーマーとやらを引っ提げてきた割には、あっという間に撃退されてしまった。

 何度も刃を交えたクドゥリや頭は弱いが驚異的な火力を持つパテウと比べ、ルゲンとはそんな残念な奴だと認識していたが、タイミングの問題もあるが三週間も苦しめられた為さすがに認識を改めざるを得ない。

「いかんいかん、シャワーをだな」

 給湯温度を火傷寸前の熱湯に設定し、京助はオーバーヘッドシャワーで心身に溜まった疲れを洗い流す。

 こんなものは対症療法だとは理解している、だが比較的効果的なのはこれしかなかったのだ。

「早く……早く何とかしねぇと……」

 またいつクドゥリやパテウ、そして最大の仇であるイダムが現れるかは分からない。

 それまでにこの力を制御する術を見つけなくてはならない。

 熱湯によって見えない数センチ先が、今の自分の状況を表しているようで、京助は大きく息を吐くのだった。


 シャワーから出た京助がバスローブを着てから頭を乾かしていると、スマホから通知音が鳴った。

 人との関わりを殆ど断った今では、友人たちとのメッセージのやり取りだけが京助の唯一の心の支えである。

 長時間やると直接会いたくなる気持ちが強くなる為、短時間に留めているがそれでもこの苦しい状況を生き延びる気力をくれる。

「あいつらか……」

 通知が来たのは慧習メルクリウスのグループチャット、いつもの四人組のものだった。

「なんだろ」

 ソファーに腰かけてロック画面を開いた京助は、まず目に飛び込んで来た単語に目を見開く。

「入院⁉」

 通知バナーをタップして直接チャットに飛んだ京助は、両手で齧りついてチャットの内容を読み込む。

「嘘だろ……」

 メッセージは幹人のアカウントから送られており、ジャガックとウィルマース財団の特殊部隊との戦闘に巻き込まれた幹人が足を骨折してしまい、今日から入院する運びになった事を幹人の姉である藤子が代理でメッセージを送っている旨が書かれていた。

 片手で顔を覆い、京助は込み上げる感情に全身を晒す。

「最悪だ……最悪だ……」

 もしかしたら、自分がマグナアウルとしてそこへ向かっていたら、幹人が怪我をしなくて済んだかもしれない。

 そんな後悔の匂いを嗅ぎつけてきたのか、隣に白京助が現れてこちらを心底馬鹿にしているような目で見てきた。

 反射的に失せろと言わんばかりの鋭い眼光を浴びせると白京助は肩を竦めて慇懃無礼な一礼を残してまた消え失せる。

「なあトト……これ……」

『京助はどうしたいですか?』

「そりゃ見舞いに行きたいよ、でも……」

『だったら行きなさい。友人の為の行為ならきっと黒の力も活性化しないでしょう』

「大丈夫かな……」

『いつまでもこうしている訳にはいかないでしょう? 徐々に慣らしていくように外出してみるのです。これも対症療法ですが』

 京助は増えた白髪をいじりつつ唇を噛み、大きく息を吐いて立ち上がった。

「決めた」


 翌日、真鳥市立病院の入り口で、弘毅と圭斗が少しそわそわしながら待っていた。

「ホントに来るかな?」

「いやーどうだろう」

 京助も見舞いに来るとメッセージが送られてきており、ずっと体調不良を訴えて学校も休んでいた事もあって幹人含めて三人で驚いたものだった。

「てかあいつ具合悪いって言ってるけど風邪なの?」

「風邪にしては長くない?」

「あいつが病気するとは正直思えねぇんだよな」

「まあ確かに……京ちゃんが病気するかな……」

「となるとやっぱり……心の?」

「ああ……やっぱりか」

「一人で住んでると色々あるんだろうな」

「やっぱりもっと寄り添ってやるべきだったね」

「おーおー、ありがてぇこった。こんなに想われてると泣きそうになってくるぜ」

「わぁおっ! 京助居たんなら……おい大丈夫か!」

「うわ……大丈夫?」

 圭斗も弘毅も京助の顔に浮かんだ隈を見て若干引きながら顔を寄せる。

「ひでぇ顔だろ、自分でもそう思う」

「京助お前……よっぽど悪かったんだな」

「外に出て大丈夫だったの?」

「大丈夫だから来たんだよ、ありがとな。行くぞ」

 京助は微笑んでお見舞いの品が入った袋を掲げ、弘毅と圭斗はサムズアップを返して市立病院に入るのだった。


 受付で面会証を受け取った三人は指定された所に行くと、幹人の姉の藤子に出くわした。

「あ、藤子さん!」

「あら、来てくれたのね!」

「そりゃ来ますよ、大親友の危機ですから」

「この通り差し入れもありますよ」

「京助君具合悪いって聞いてたけど大丈夫?」

「まあぼちぼちやってます」

「無理してきてくれてありがとうね、幹人も喜ぶと思うわ」

「まあ一番乗りに俺達大親友が来たからそりゃ喜びますよ」

「あ~、弘毅君……あなた達は一番乗りじゃないんだ」

「え?」

 首を傾げる三人に、藤子はいたずらっぽく笑って〝サガワ ミキヒト〟と書かれた個室を指す。

 とりあえず三人は病室を覗くと、そこにはデレデレ顔の幹人と、その傍に立つ予想外の人物が立っていた。

「うぇ⁉」

「はぁ⁉」

「なんで⁉」

 三人が思わず声を上げたものだから幹人は思わず体を震わせ、それが足に響いたのか声にならない声を上げて悶絶する。

「ってえな!」

「いやいやそれより……なんで居るの?」

「えぇ……だってあたし……」

 そこに居たのは同じクラスのゴシップガールの木原愛優であった。

「いててて……全く驚かせやがって、見舞いありがとな」

「見舞いありがとなって……てかどういう繋がり?」

「ああ、実は……言っちゃう?」

「う……うん、言っちゃおっか」

 何を言い出すかと思っていると、二人は手を繋いで満面の笑みで宣言した。

「俺達」

「あたし達」

「付き合ってまーす!」

 これはあまりにも予想外、幹人が誰かと付き合えたという事実よりも、まさか愛優とくっついたという事に驚いた。

「マジでか……おぉ、おめでとう」

「何で言ってくれなかったのさぁ?」

「いや~悪い悪い、でも正式に付き合ったの最近なんだよ」

「まあ良かったじゃん、お前にもとうとう春が来たって事でさ」

「そうだぜ京助。これからは……てかお前その顔大丈夫か?」

「んえ、京君も来てるの? うわぁ……大丈夫?」

 やはり増えた白髪と色濃い隈は本気で心配されるぐらいには不健康に見えるらしい。

「出歩ける程度にはなったが、大丈夫とはいかないな」

「マジで病気だったんだな……お前も市立病院(ここ)で診てもらえよ」

「ハハッ、怪我人に心配されちゃ世話ないな」

 相変わらずな京助の様子を見た幹人たちはホッと一安心するのであった。

「まあホラ。お前が退屈しねぇようにと思って色々持って来てやったぞ」

「おお、そりゃありがてぇ! サンキューな!」

 幹人は京助が持ってきた差し入れを受け取り、京助と弘毅と圭斗は藤子から指定した場所に差し入れを置き、軽い部屋の片づけを手伝った。

「まあ、こんなもんかな」

 作業が終わった所で、京助達はパイプ椅子を持って来て幹人の周りに座った。

「ちょっと気になってたんだけど、なんで怪我したの?」

「あーいやいや、逃げてる時にずっこけただけ」

「んもーまたそんな事言ってぇ……」

 何やら愛優と街を歩いていたら襲撃に巻き込まれ、愛優が逃げ遅れた子供を助けようとした所に瓦礫が落ちてきて、幹人が愛優を咄嗟に突き飛ばして庇い、足に瓦礫が落ちてきて骨折したらしい。

「最初突き飛ばされた時びっくりしたけどさ、みきひーってばめっちゃカッコよかった! あたしもっと好きになっちゃった! ちゅっ!」

「や……やめてよ、あ……愛優」

「おぉ~ん? ラブラブですやーん」

「ちゃっかり下の名前呼びになってるし」

 分かりやすくデレデレになる幹人を見て弘毅と圭斗は囃し立てて茶化すが、どうも京助はそんな気になれなかった。

 確かに微笑ましいしめでたい事ではあるのだが、それ以前に自分がマグナアウルとしてジャガックと戦っていたら幹人が怪我をする事なんて無かった、これは防げた事なのだ。

 よく考えればここ三週間でこんな事がいくつあっただろう、きっと沢山の防げた悲劇があったに違いない。

 二人に囃し立てられる幹人を見て、自責の念に駆られながら繕って笑っていると、同じく隣で笑っていた藤子がこちらの顔を覗き込んで来た。

「京助君……なんか顔色悪いね、大丈夫?」

「ああ、いえ……俺は全然。気にしなくていいですよ」

「そう、ならいんだけど……いや、良くないよ。本当は無理してるんじゃない?」

「ちょっと京助顔色悪すぎるぞ、結構お前無理してるんじゃないか?」

 皆が心配そうにこちらを見てくる。

 ここしばらくは何かと険しい顔をする事が多かったからか、些細な事ですぐ顔に出るようになってしまったようだ。

「俺……そんなにヤバいか?」

「ちょっと外の空気吸って来た方が良いんじゃない?」

「そうか……じゃあちょっとそうさせてもらうかな」

 軽く微笑んで手を挙げて京助は個室を出て、その様子を見た幹人は心配そうに愛優の方を見るのだった。

 

 中庭へ出てベンチに深く腰掛けた京助は、体を前のめりにしてトトへと語り掛けた。

「……大事じゃなかったな」

『ええ、そこだけは良かったですね』

「木原っちと幹人との仲も深まって雨降って……ハァ、これも言い訳か」

 結局の所、マグナアウルとして動かなかったことで要らぬ被害を増やしてしまったことに変わりはないのだ。

「俺は……弱い」

『いいえ、そんな事はありません』

「いいや、弱いよ。自分の力にビビって引き籠って……それで親友(ダチ)が怪我してるんだからさ」

『黒の力はあまりにも強大で危険です、むしろ何も考えずマグナアウルとなって無謀に戦いに行かなかったのは英断と言えます』

「かもな。でも制御方法に手間取ってるせいで幹人や色んな人達が怪我したり怖い思いをしてるんだ。やっぱり俺のせいだよ」

『いい加減になさい。あなたは全てを背負い込む気ですか?』

「そうしないとダメだろ、そもそも俺が始めた戦いなんだ。それに俺にはジャガックに対抗できる力がある、だったら戦わなきゃいけないだろ、責任は持たないと」

『あなたはマグナアウルである以前に人間なんですよ。背負える重みにも限界がある、そうやって抱え込み続けるといつか本当に心を壊しますよ』

 気が付いていないだけでとっくの昔に心なんて壊れており、それを放置して戦い続けていたのかもしれない。

 そんな事を考えていると対面のベンチに白京助が現れ、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらに近付こうとしたが、突然不愉快そうに顔を歪めて左を向いて舌打ちして黒い靄と共に消え失せた。

「なんだ? ああ!」

 藤子がこちらにやって来ており、こちらに小さく手を振ってから京助の隣に腰かける。

「弟にパシられちゃったよ」

「ええ? なんて?」

「京助君の様子見て来いって。最近ずっと心配してるんだ」

「そうなんですか?」

「うん、幹人はね、高校入ってからずっとあなた達三人の話をするの。今日何をしたとか、どこに行って遊んだとか……愚痴もたまに聞かされるけど、殆ど楽しい話ばっかりよ」

「ハハッ……ちなみに愚痴って何聞かされるんですか?」

「聞きたい?」

「まあそりゃ気になるんで」

「基本的には妬みよ、たまにイジられたりするとチョームカつくんだって」

 確かに自覚はあるが、そこはお互い様だろう。

「そんな事言ってるけど、あの子はあなたの事すごく大切に思ってるよ。時々すっごく寂しそうな顔するのが気になるって言ってたし」

「そう……だったのか」

 隠しきれているようでボロはそこそこ出ているらしい。

 高校二年間という比較的短い期間での付き合いの幹人ですら気付くのだ、奏音にはどれほど気付かれているだろうかとふと考えてしまう。

「一人で無理したらダメだよ。京助君が頑張ってるの知らない人居ないと思うから、少しは誰かを頼りなさい」

 なんだかふと肩の荷が下りた気がして、京助は息を吐いて微笑んでから藤子の方を見た。

「はい、ありがとうございます!」

 藤子も微笑んで何か言おうとしたその時、突如空に巨大な影が出現した。

「あいつら!」

 京助の誰かを射殺せそうな程鋭い眼光に、藤子は思わず身を震わせる。

「どうし……あっ!」

 巨大な影の正体がジャガックの宇宙船であることに気付いた藤子は思わず両手で口を覆う。

「とうとう病院にまで!」

 船体下部から出現した砲門から白い球体が放出され、それは病院の屋上の辺りで爆ぜて窓ガラスを吹き飛ばした。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 京助は咄嗟に藤子に覆いかぶさって念力を発動し、飛んで来るガラスや細かい瓦礫を全て避けた。

「あのクソ共……あぐっ!」

 瞬時に怒りが昂ったせいか、あの脳をスプーンで掻き回すような頭痛が京助を襲う。

「ごめん京助君ありがとう……大丈夫?」

「大丈夫です……逃げて……ください……」

「でも!」

「いいから早く! あいつら連れて逃げてください!」

 頭を抑えて苦しそうな京助を放ってはおけなかったが、病室には弟だけではなくその彼女と親友二人がいる。

「ごめんね! 京助君も絶対に逃げてよ!」

 藤子が去った後しばらくしてジャガック兵が転送され始め、京助もふらふらした足取りでどこか隠れられる場所を探し始めた。

「うっ! く……いい……ああっ!」

 視界が霞んで赤く染まり、それでも何とか前に進むべく手を伸ばしてどこにあるともつかない目的地へ向かう。

 耳鳴りも始まったが、それでもパニックになる人々の声は確かに聞こえてくる。

 そのうち走ってきた人にぶつかってその場に倒れ、その衝撃で一際ひどい頭痛が襲うも、京助は這いつくばって前に向かっていると、硬く閉ざされたさびれた扉に手が触れた。

「ここだ……ちょっと……借ります」

 ドアノブが見当たらなかったため、物体透過能力で部屋の中に入る。

「う……ううぅ……あぁ……」

 しばらくドアにもたれかかって痛みを慣らして目を開けると、京助は今自分がいる場所に愕然とした。

「霊安室!」

 さっきまで真っ赤に染まった視界が今ではやたらクリアに見え、薄暗い空間なのにも関わらずどこに何かあるかははっきりと感じ見ることが出来た。

 頭痛はよりひどくなって一瞬ぎゅっと目を瞑って前を見ると、あろう事か台の上の死体の腕が垂れているではないか。

「な……なんで⁉」

 京助が疑問を咀嚼する前に、寝台の上の死体が一斉に起き上がってこちらを見た。

「うわっ! ああっ!」

 顔に掛かっていた布が捲れ、京助は更にに驚愕する。

 死体の全ての顔が知っているものだった。

 両親、幹人と弘毅と圭斗、藤子に愛優にクラスメート、そして林檎に皐月に明穂に麗奈。

「ああっ! あああああっ!」

『京助! 惑わされないで! これは幻覚です!』

「許して……許してくれ! 許してくれ! 俺は……俺は! 見捨てたんじゃない! 違うんだ! 許してくれぇぇぇぇっ!」

 瞳孔が広がり血の巡っていない真っ(ちろ)い肌をした友や両親が、ただ自分を見つめながらこちらに近付いて来る。

「俺は……俺には……俺はみんなを助けられなかった! また助けられなかった! 許して! 頼む!」

 己が非力と未熟さのせいで皆が死んでしまった、守ると誓ったものをまた失ってしまった。

 しかも今度は守るだけの力を持っておきながらこれだ。失ったものに何を言っても届かないが、謝る事しか出来ない。

『京助! しっかり! ここには何もいない! あなたは……うわっ!』

 何かの力が干渉して赤い稲妻と共に、京助の左腕のバングルが弾け飛んで転がったが、身を守るように体を縮めて震えながら譫言を喚き続ける京助はそれに気付くことは無かった。

「ごめん……みんな……許してくれ! 俺のせいだ……」

 その時、京助の後ろから血が通っていない白い肌の女の腕がぬうっと伸びてきて、艶めかしくそれでいて強く京助を抱きしめた。

「嘘だ……嘘だ! こんなの嘘だ!」

 顔を見るまでも無い、京助にはこの腕の主がすぐに分かった。

「ええ、嘘よ。今の時点では」

 その腕の主はガチガチと歯を鳴らす京助の顎を撫でるように横へやり、京助に自分の顔を至近距離で見せる。

「でもね、これから起こるわ。全部全部この景色は本当になって、そして死ぬの、みんなも……私もね」

 瞳孔が開き真っ白い顔の奏音が、至近距離でこちらを見つめてくる。

「わああああああああっ!」

 奏音の瞳孔に吸い込まれるような感覚と共に前のめりに倒れ込むと、周囲に居た友人たちの動く死体は完全に消え失せ、京助は薄暗い霊安室に一人蹲っていた。

「はっ……ふっ……うぅ……あっ……くっ……」

 頭痛が蘇ってきたが、それ以上に恐ろしかった。

 さっき起きた事が幻想だなんてどうでも良い。唯々怖い、恐ろしい。

「許してくれ……許してくれ……」

 もはや何に謝っているのか自分でも分からない、だがそうしなくてはならない気がした。

「もう分かったろ?」

「……はぁ?」

 気が付くと白京助が自分を見下ろしており、這いつくばる京助に近寄って腰を下ろして膝立ちになる。

「お前にはもっと力が要る。あの時の中途半端な力じゃない」

 白京助が京助の右腕を取り、不気味な笑みを浮かべながらその腕をゆっくりと撫で始める。

「俺を受け入れろ。敵を倒す力を……いいや、敵を討ち滅ぼす力をなぁ!」

「だがあの力は……」

「良いのか? 今は怪我で済んだが、いずれ死ぬかもしれないぞ。いいや、今起こっている事を考えるともう死んでるかもしれんな」

「!」

 そうだった、今病院にはジャガックが来ている。一刻も早く向かわねばならない。

黒の力(オレ)を受け入れろ。そうすればあんな悲劇は……これからも未来永劫に起こらない」

 まさに悪魔の囁きそのもの、だが今の京助にはそれを拒否する気力も理由も無かった。

 それを現すように白京助の赤い目が光り、同時に京助の右腕に黒い靄と赤い紫電と共にアウルレットが現れる。

「これは……」

 いつものアウルレットとは違う、ガンメタルブラックと白いパーツで構成されて骸骨を思わせる造形をしており、更に手を翳す宝石状の装飾は不気味に赤黒く輝いている。

「おめでとう、こいつはお前の新しい力だ。大いなる梟(マグナアウル)なぞ目じゃないぞ」

 京助はしばらく骸骨を思わせる新しいアウルレットを見ていたが、もはや背に腹は代えられないと決意し、立ち上がってアウルレットに手を翳す。

「うおおおおおおおっ! だあっ!」

 叫びながら展開したブレードを前に突き出すと、目の前の空間にヒビが入って粉々に砕け散り、全く別の異次元空間に繋がった。

「はっ!」

 その中のものを垣間見た京助はそれが何かは全く理解できなかったが、これだけは理解できた。

 これはこの宇宙において最も悍ましいものだと。

「わああっ! ああああああっ!」

「ハハハハハハハ! ハァッ!」

 白京助の目が赤く光ると同時に靄に包まれて京助に憑りつき、するとひび割れた空間から無数の黒い触手を束ねたような靄が現れ、次々と京助に襲い掛かる。

「ああああっ! ぐぅっ! うがあああああっ!」

 異次元空間にいた悍ましい何かの欠片が京助に入り込んでくる。その度に京助の内側の何かが蠢いて活性化し、激痛が走って眼前に火花が散る。

 霊安室で一人孤独な京助の苦悶の声が響き渡り、そして新しい戦いの化身(アバター)が生まれようとしていた。


 病院襲撃の報せを受けたクインテットはすぐに集合して駆けつけ、ジェットから降下して早々入り口を塞ぐ歩行戦車を破壊し、財団の特殊部隊員が入れる状況を作った。

「私達はジャガックを叩きます。その間患者さんや病院スタッフの救出と避難の手伝いをお願いします!」

「わかりました! 健闘を!」

 特殊部隊と別れた五人は、周囲を見回して敵を探知する。

「救急車が……」

 病院救急車がひっくり返されており、無残にもフロントガラスは蜘蛛の巣状にヒビが入り、ヘッドライトと赤色警光灯は粉々に砕けていた。

「今回は一際許せないな」

 この救急車は数年前にクラウドファンディングで集められた資金で購入されたものであり、その上ジャガックの被害に遭ったけが人を多く運んで来たものである。

「そうですね、今回は徹底的にやりましょう」

 皆が思いを再確認する中、中庭の方で大きな音が響き、そこで暴れていたパワードアーマーに五人は狙いを定めた。

「まずはアレから……なんか大きくない⁉」

「新型だね! だあああっ!」

 デメテルのドリルロケットパンチがパワードアーマーの腕に突き刺さり、こちらに振り向いたと同時に突進攻撃を仕掛けてきた。

「うおっ!」

 ルナ以外は左右や上に避けたが、ルナは足の間を滑りながら足をブレードで斬りつける。

「チッ……フィールド持ちだ! みんな気を付けて!」

 突進を避けらたパワードアーマーは腕を地面に叩きつけて急カーブし、その場でビームを放ってきた。

「うわっ!」

 ミューズの拘束弾で強化された電磁シールドでデメテルがこれを防ぎ、そのエネルギーを収束して撃ち返す。

「怯んだ!」

「よっしゃ、ウチに任せろ!」

 スコープで刺さっているデメテルのアームに狙いを定め、フルチャージした光弾を放って半身を吹き飛ばした。

「内側からやればフォースフィールドも張れないっしょ!」

「ナイスです! トドメ行きます!」

 フルチャージしたエネルギーをナギナタに送り込み、アフロダイはパワードアーマーに二刀を叩き込んで倒してしまった。

「よし! 病院の中の敵を探すよ!」

「うん、手分けして探そう!」

 デメテルの提案で五人が別れようとした時、病院のスピーカーがジャックされたのかノイズが響き渡った。

「これジャックされた?」

「なんか嫌な予感がします……」

 アフロダイの言う通り、その嫌な予感は的中した。

『そこまでだクインテット及びウィルマース財団、一切の抵抗を止めて前庭に来てもらおうか。でなければここを船のレーザー砲で吹き飛ばす』

 胸の中にじんわりと広がる嫌な予感と共にクインテットの五人は前庭に出ると、そこには今回の作戦を率いていたと思わしきサイボーグ兵士が立っていた。

「あんたが今回の作戦の責任者?」

「そうだ、私はジャーガスという。さてと、ゲームを始めよう」

 ジャーガスは指を鳴らすと、目の前に二つの集団がワープゲートの中からジャガック兵に連れられてきた。

「!」

 なんと二つの人質の集団の内一方に幹人と愛優がおり、奏音(ミューズ)林檎(イドゥン)は思わず声を上げそうになる。

「嘘でしょ! 幹人! 幹人っ!」

「マジか! ふざけんなよ!」

「クソ共! 幹人と木原を放せ!」

 避難エリアの方から声がする。

(弘毅君と圭斗君に藤子先輩……待って! もしかしたらここに京助も居るんじゃ!)

 奏音(ミューズ)は咄嗟に人質を探したが、京助の姿は無かった。

 とりあえず落ち着いたが、依然として危険が付きまとう事には変わりなく、内心全く落ち着かない。

 今すぐにでも探しに行きたい、そんな心情は全く考慮されず、ジャーガスは説明を始めた。

「ゲームのルールは簡単だ。ただ選択すればいい」

「選択? 何を選ぶの?」

「我々が取った人質の片方は患者とその見舞客、そしてもう片方は医者や看護師といった医療に携わる者達だ。お前達はどちらかを選ぶ必要がある」

 全くふざけたことを言う奴だ。

 ルナが太刀を地面に突き刺しながら食って掛かった。

「ふざけんな……そんなの選べるわけない!」

「そうか、では第三の選択肢をやろう」

「第三の……」

 ジャーガスはニヤリと笑って指を三本立てて続ける。

「完全降伏と真鳥市の譲渡。さあどうする? 真鳥市か、医師達か、患者か……お前達が代表で選ぶんだ」

 病院を襲った時点で今回のは特に最悪な連中なのは分かり切っていたが、これほどまでに腐り切っていたとは。

「さあどうする? どれを取る? 悩め悩め! 病める者とその家族の見殺しか! 医療の粋を見殺しか! それとも故郷か! どれを選ぶ⁉」

 どうしたら良いか。全員を助け、そして真鳥市も渡さない方法はないのか。

「あるいは奇跡に賭けるか、んん? 果たして奇跡が起き……」

 その時であった。

 冬の曇り空が突如ひび割れて穴が開き、そこから黒い靄を纏った刃が付いた真っ赤なチェーンが伸びてきて、人質を囲っていたジャガック兵を全て刺し貫いて消滅させてしまった。

「え?」

「……あ、あれ!」

 チェーンが伸びている空に開いた穴はまたひび割れながら拡大し、不吉な雰囲気を醸し出す靄を噴き出し始めた。

「チッ……何者だ! 私のゲームをよくも! 姿を見せろ!」

 やがてチェーンが全て穴の中に引っ込み、穴の中から足が出現して少しずつ靄に包まれた体が露わになっていく。

「……え?」

「なんで……」

 まるで糸に腕と体を吊られた人形のような体勢でゆっくりと地面に降りていき、ついに穴の中から現れた者の全貌が露わになった。

「一体……どうなってるの?」

「この雰囲気……」

 足を前後に大きく開いて前傾姿勢のまま微動だにしない彼に、この場の誰もが困惑していた。

 それを代表してか、ミューズがついに彼に問いを投げ掛けた。

「マグナ……アウル……だよね?」

 その者は確かにマグナアウルとそっくりだった。だが違う、その違いは赤く吊り上がった目でも、ガンメタルブラックと白で構成された骸骨を思わせる装甲でもない。

 恐ろしい、彼はひたすらに恐ろしかった。

「違う」

 低く重い、全ての生命の根源的恐怖を掻き立てるような、まさに地獄の底から響くような声でその者は答えた。

「俺はウィッカーアウル……全ての敵を終わらぬ夜に落とす者……」

 ウィッカーアウルの目が赤く不気味に光ると靄が周囲へ吹き荒れ、同時に顔を上げて爛々と赤く輝く目をジャーガスに向ける。

「うっ! く……全軍集結! ウィッカーアウルとかいう奴を叩け!」

 ジャーカスが指示するや否やウィッカーアウルを取り囲むようにジャガックの戦力が集う。

「かかれ!」

 それはもはや戦闘ではなかった。

 ジャガック兵が一歩を踏み出した途端、地面からあの刃付きチェーンが飛び出してきて体を貫き、これに貫かれた者は全て跡形もなく消滅してしまう。

 この間ウィッカーアウルは指一本動かしておらず、あまりのワンサイドゲームぶりにクインテットも開いた口が塞がらない。

「この量を一瞬で……フン! だがこいつはどうかな⁉」

 上空の宇宙船から巨大歩行戦車(ウォーカー)が転送され、無数の刃付きチェーンがそれを刺し貫こうとするも弾かれ、ここでようやくウィッカーアウルが振り返った。

「……」

 無言のままウォーカーへ手を翳すと黒い靄と共に赤い稲妻が迸り、ウォーカー表面に張られたフォースフィールドを貫通してコックピットを抉り飛ばし、そこから徐々にウォーカーが消滅し始める。

「何なんだお前は!」

「……永久の夜に沈め」

 拳をゆっくりと握ったウィッカーアウルが腕を大きく振りかぶって思い切り目の前に居たパワードアーマーを殴りつけると吹き飛びながら消滅し、それを見て襲い掛かって来たオートマタの一団の先頭はまず蹴りで吹き飛ばされて後方数体を巻き添えにしながら消滅し、後ろの方に居た者も全て刃付きのチェーンで刺し貫いてしまった。

「何なんだお前はァ!」

 ジャガックの宇宙船がウィッカーアウルの方へ船首を向けるとレーザー砲を発射し、流石のウィッカーアウルも直撃によって吹き飛ばされて病院の壁にめり込む。

「!」

「さすがにきちぃか……」

 クインテットも参戦しようとしたその時、瓦礫と化した病院の壁から足が飛び出し、頭を押さえて呻くウィッカーアウルが現れた。

「ハハハ! さすがのお前でも効いたか!」

「ううう……あああ……UUU……ROOOO……」

 しかし、否。やはりこの程度ウィッカーアウルには効くはずもない。

 全身に黒い炎と赤い紫電が発生し、(ヘルム)(クラッシャー)にそのエネルギーが収束していく。

「ROOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAHAAAAAA‼」

 その咆哮はもはや衝撃波などではなく強烈な一条の光線となって宇宙船を貫いて大きく吹き飛ばし、これもまた完全に消滅させてしまった。

「貴様ァ!」

 ジャーガスが武装を展開し、ウィッカーアウルへ向かって行く。

「おのれマグナアウル! しばらく消えていたと思ったら現れやがって! いつもいつも我々の邪魔を!」

 ジャーガスの放つ銃弾は全てウィッカーアウルに当たる寸前で消え、振り下ろした刃も腕を掴まれて防がれる。

「俺はウィッカーアウル。一つ覚えておけ、俺はお前達の邪魔するために居るんじゃない。俺は、お前達を……滅ぼす為に生まれてきた‼」

 掴んだ腕を乱暴に放り投げて地面に叩きつけ、瞬間移動で回り込んで蹴飛ばし、それを空中で何度も繰り返した挙句上空二十メートル地点で踵落としを食らわせて地面にめり込ませる。

「ウウウウルアアアアアアアアアッ!」

 先程まで静かに戦っていたマグナアウルだったが、これまでは打って変わって雄叫びを上げながら荒々しい戦いぶりに変わった。

「ウオオオオアアアアッ! ダァッ! ガァッ! ヌアアアアアッ!」

 もはやこれは戦闘ではなくジャーガスをウィッカーアウルが一方的に甚振っているだけであり、蹂躙を通り越して拷問と言っても過言ではない。

「ウウウオオオオオオアアアアアアッ!」

 ジャーガスを投げ飛ばして地面に叩きつけたウィッカーアウルは、近くにあった人型の石像に目を付けた。

「フン……アアアアアアアッ!」

 ジャーガスを持ち上げるなりウィッカーアウルが跳躍し、なんと石像目掛けて振り下ろしたのだ。

「ぐおおおおおっ! うぐあああっ! ぐぅっ……」

 石像に腹を貫かれたジャーガスは苦悶の声を上げ、さすがにこの光景にクインテットも周囲の人々も絶句する。

「何をしているーっ! 貴様ら! 早くこいつを攻撃しろーっ!」

 ぎりぎり生き残っていたジャガックの戦力が次々とウィッカーアウルへ向かって行くも、ただの殴打や蹴りで体が引き千切られ、小型ウォーカーに至っては足を引き千切られた上に(クラッシャー)で噛みつかれて直接光線を浴びせられて消滅する。

「フッ! 隙を見せたな! 喰らえ!」

 ジャーガスがトラクタービームで倒れた救急車を引き寄せ、ウィッカーアウルへ力一杯叩きつけた。

「あっ!」

「何てことすんだよ!」

「最低……」

 救急車を攻撃に使ったことに五人は憤るも、当のジャーガスはむしろその様を嘲笑する。

「何とでも言え!」

 ジャーガスが自分に突き刺さった石像を破壊して体勢を立て直し、腕に装着された銃にエネルギーをチャージする。

「これで終わりだマグナ……」

「ヴオオオオオオワアアアアアアアッ!」

 銃を向けたジャーガスに雄叫びと共に救急車が叩きつけられ、ウィッカーアウルが全身の骨を鳴らしながら起き上がった。

 どうやら自分を押し潰していた救急車を蹴り飛ばしたらしい。

「ヌゥゥウウウウ……グオオオオオオッ!」

 ウィッカーアウルはジャーガスの上にある救急車に手を掛け、まるで天に掲げるかのように両手で高く持ち上げた。

「ルオオオオオオオアアアアアアアッ!」

 轟音と共に持ち上げられた救急車が叩きつけられ、ジャーガスが地面にめり込んだ。

「ロオオオオオオオアアアアアアッ! ガアアアアアアッ! ヴァアアアアアアアアオオオアアアアア!」

 ウィッカーアウルは執拗に救急車をジャーガス目掛けて叩きつけ、その度に地面のクレーターが拡大し、救急車の原形が無くなっていく。

「ンンッ!」

 救急車だったスクラップを捨てたウィッカーアウルは満身創痍のジャーガスの頭を掴むと、思い切りスクラップ目掛けて叩きつけ、エンジンか何かが発火したようで大爆発を起こした。

「何なの……あれ……」

 確かにマグナアウルの戦い方は苛烈で、徹底的に敵を叩くようなものだった。

 だがこれは違う、こんな風に見境なく感情任せに、周囲の被害を顧みないような戦いは絶対にしなかった。

「どうしてあんな……」

「別人? ……いや……」

 爆炎の中佇むウィッカーアウルと、その(ヘルム)で不気味に光る赤い目は、よりおぞましいモノに見えた。

「このっ! いい加減にしろ!」

 ウィッカーアウルの顔面にジャーガスのビームガンの掃射が命中し、ウィッカーアウルは思わず仰け反ってしまう。

「マグナアウルだかウィッカーアウルだか知らんが! ジャガックに楯突く奴は叩き潰す!」

 ウィッカーアウルはそのまま至近距離でビームの掃射を顔面で受け続けていたが、やがて足をしっかり地面に着けて上体を思い切り前に倒した。

「はぁ⁉」

 ジャーガスの腕のビームガンは大きく抉られて電気がスパークしており、困惑していると真下からバリバリという音が響き渡る。

「こいつッ!」

 なんとウィッカーアウルはジャーガスの腕を噛み千切り、それを噛み砕いていたのである。

「お前は一体何なんだァァァァアアッ!」

 その質問に答え等あるはずもなく、ジャーガスの体は刃付きのチェーンで全身をぐるぐる巻きにして拘束されていた。

「フゥゥゥゥゥゥ……」

 戒められて動けないジャーガスの目の前でウィッカーアウルの目が不気味に赤く輝き、両手を上下に配置して掌の間にエネルギーを収束させ始める。

「うっ!」

「なにこれ……このざわめきは!」

 何かが、恐ろしい何かが来る。

 本能がそう訴えかけるような感覚が周囲一帯に駆け抜け、避難させた人々が集められた所から悲鳴が上がる。

「ゥゥゥゥゥウウウウウオオオオオ……」

 ウィッカーアウルの掌にさながらブラックホールを思わせる黒く光る球体が発生し、両腕を広げるごとに球体が肥大化していき、それに合わせるかのように本能的恐怖が搔き立てられていく。

「オオオオオオオオッ!」

 ある程度大きくなった球体を一度ぐっと収縮させると、それを持ったままウィッカーアウルは腕を後ろに大きく振りかぶる。

「あっ! ダメ……」

「ドゥオオオオオワアアアアアアアアアアッ‼」

 ウィッカーアウルがジャーガスへ黒い球体を頭から叩きつけた途端、耳を(つんざ)くような悲鳴がしたかと思うと、周囲に衝撃波と爆風が吹き荒れた。

「あぶなっ!」

 咄嗟にミューズが拘束弾を避難エリアへ放ってシールドを張って事なきを得るも、クインテットと財団特殊部隊の面々は爆風に煽られて吹き飛び、病院の外壁も一部破壊されてしまった。

「あっはっ! げほっ……」

 粉塵を払いながら前を見たミューズの視界に飛び込んできたものは、腕を地面へつけて立っているウィッカーアウルの姿であった。

闇黒球(アンコクキュウ)……邪道(ジャドウ)……覆滅(フクメツ)

 そう呟いたウィッカーアウルは立ち上がると、腕を交差してから胸につけ、拳を上に突き出してから天を仰いでクラッシャーを展開する。

「VOOOOOOAAAAAAAAHAAAAAAA‼ GOOOOOAAAAAAAAH‼」

 それはまるで、血気盛んな古代の狂戦士(ベルセルク)が戦果を誇る勝鬨のようであった。

「フッシュゥゥゥゥゥウウウ……」

 勝鬨を終えたウィッカーアウルはどこかへ歩き出そうとした途端、一発の光弾が発射された音が響く。

「……ルナ⁉」

 ルナが立ち上がって天に向けてナックルガンを放ったのである。

 それをウィッカーアウルの背に向けると、堰を切ったように捲し立てた。

「いい加減にしなさいよ……たしかにあんたはジャガックを倒した。倒したよ! でも見てよこの状況! あんたがやったんだよ!」

 見てみればひどい有様である、病院の正面玄関は無事なところを探した方が早く、入退院を正面玄関前でずっと見守ってきた真鳥市出身の彫刻家の手による石像は粉々になり、救急車などはもはや原形もない。

「仲間だって……あんただって仲間だってようやく思えるようになった頃だったのに……ふざけんな!」

 感情に任せてナックルガンの引き金をルナが引くより早く、ルナの眼前に一筋のチェーンが突き刺さる。

「……はっ!」

 自分の足の間に突き刺さったチェーンを見たルナは思わず後退してしまった。

 数ミリずらせば確実に脳天に突き刺さっていた、それをあえてしなかったのだ。これは明らかに警告だった。

「……俺はウィッカーアウル……永久の夜を齎すもの」

 それだけ最後に呟くとウィッカーアウルは何もない空間を殴りつけてヒビを入れると、そのまま異次元空間に入って何処かへ行ってしまった。

「大丈夫?」

「う……うん……」

 マグナアウルに代わって現れた謎の存在ウィッカーアウル。

 その圧倒的な強さを見せつけた彼は、これからの戦いにどんなものを齎すのか。

 その先を暗示するように、冬の空は厚い雲に覆われていた。


To Be Continued.

始まりました、第四章京助編。

今回から京助の内面へ踏み込み、そしてこの世界や物語の謎が次々と明らかになっていきます。

ぜひともノンストップでご覧いただきたいと思います。

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ではまた来週お目にかかりましょう。

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