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青春Double Side  作者: 南乃太陽
激闘編
34/38

奴の名はイダム

失敗続きのジャガックについに最古参幹部であるイダム・ジャム=ガトローダが参戦。

かつての戦いで負傷したイダムはサイボーグ義体を引っ提げ、マグナアウルとクインテットへ宣戦布告をする。

そしてついに京助の時計の針が一気に動き出す!

動きだす物語を決して見逃すな!

 ニセモノ作戦も、千道万路の遺産を狙う計画も失敗して以降、ゾゴーリは薄暗い部屋の中で燃え尽き症候群一歩手前のような状態になっていた。

「我々にはもはやこの星の街一つ征服する力もないのか?」

 長年に渡るドロドロの内部抗争の末にこの地位についたから、かなり消耗しているという自覚はあった。

 だが五年以上も経って計画が全く進まず、しかもリスクを取って本格的に姿を現しての侵攻をしてもまだ押し返されている。

「その上クドゥリも……」

 ジャガックの戦力を支える一助となっているクドゥリも、今は傷付いて動けない状態である。

 切れるカードがあまりない上、地球人側はこちらが切ったカードを様々な方法で封じてくる。

「どうすればいいのだ……」

 強大な超能力者であるマグナアウルに負けるなら百歩譲って分かるが、最近クインテットにまで後れを取るようになってきた。

「まったく不甲斐ない奴らばかりで困る」

 頭は切れるが臆病者のルゲン、研究以外に興味を示さずに戦いへ行こうとしないザザル、クドゥリに匹敵する力を持つが直情的でバカなパテウ。

「あの三人をどう使うか。いっそのことバルヴィーに戻って新幹部を選定するというのも悪くないな」

 その時、突如自分の部屋のドアが開き、ゾゴーリは反射的に振り返って入り口の人影を睨みつけた。

「誰だ! 私の部屋に許可なく入ろうとする脳足りんは!」

「フッフフ……それが忠臣に掛ける言葉ですかボス」

 聞き覚えのある声に、ゾゴーリの怒りに歪んだ顔が弛緩する。

「酷いですなぁ。まあそれ以上に新しい幹部を選定するというのも酷い……この俺というものがありながら」

 モーターの駆動音をさせながらその男はゾゴーリの部屋に入り、ゾゴーリは三つの目を見開いて興奮したかのような笑顔になる。

「イダム! お前はイダムなのか‼」

 イダムと呼ばれたその男はまたも駆動音をさせながらその場に膝をついて頭を下げた。

「左様ですゾゴーリ・ジャガック様。このイダム・ジャム=ガトローダ、たった今ここに戻りました」

 ゾゴーリは咄嗟に跳ね起きてイダムの元へ向かう。

「よく戻ったぞ! それにしても随分と遅かったじゃないか!」

「ええ、この機械の体に慣れるのに手古摺りましたよ」

 薄暗闇の中で機械の腕が様々な形を作り出す。

「じゃあ今はもう……」

「ええ、慣れましたとも! この五年間、機械の体で力を使いこなす為のリハビリと訓練を積んで参りました」

「感触は掴めたか?」

「ええ、もうそれは十全に」

 ゾゴーリは心底満足そうに頷き、イダムの頬を下二本の手で包み込む。

「何やらマグナアウルとかいう超能力者に手古摺らされて、ついには我が友クドゥリもやられたそうですね」

「そうなんだよイダム。まさかもう!」

「ええ、今からでも復帰しましょうか?」

「そうかそうか! よしよしよし!」

 先程の物憂げな表情は何処へやら、ゾゴーリはすっかり機嫌を取り戻していた。

「では思う存分暴れて来いイダム!」

「ええ、一つ頼みが」

「どうした? 出来る限りなら聞くぞ」

「パラクラスモウォートをいつでも出せる状態にしておいてください」

「……まあいいだろう、お前の為だ。総動員してやらせる」

 薄闇の中でイダムは片頬だけでニヤリと笑い、駆動音を指せながら立ち上がった。

「では準備を整えて参ります、必ずや成果を上げて御覧に入れましょう」

 イダム・ジャム=ガトローダ。

 ついに動き出した古参幹部の恐るべき挑戦が今始まる。


「おめぇらもちっぽけで下等な原始生物だっつーこと忘れてねぇよな?」

 憎らしいあの声が蘇り、全身の血が沸き立っても足りない程の怒りが込み上げてくる。

「やるじゃねぇか、良い腕をしてるよ。ここで死ぬのが惜しいぐれぇだ」

 そんな事させるか、母さんは俺が守る。

「誰も死なない、必ず生きて帰る」

 そうだ、今日こそ生きて帰るんだ。

「かわいそうになぁ……せっかくこさえたガキなのによ」

 ここで来る、アウルレットを出してマグナアウルになるんだ。

「ガキを殺せ」

 おかしい、アウルレットが出ない。

 このままだとまずい、母さんが死んでしまうではないか。

「美菜ァァァァァァアアアアアアアッ!」

 自分の全身に掛かる赤、父さんの叫び声。

 ああ、まただ。

 また助けられなかった。

「バカな野郎だ。わざわざ死にに行くことも……あるまいに!」

 やめろ、その手を放せ。だが遅かった。

 父さんの血が飛び散り、心臓を抉り出されていくのをただ見ているしかなかった。

 また助けられなかった。

 何度この光景を見ればいいのだろう。もう俺の傍から行かないでくれ、離れないでくれ。

 

 京助がその場に蹲ったその時、突然周囲が一気に暗くなり、自分と父と母の死体以外は一切の人物が消え去ってしまった。

「え? なんだ?」

 中学生の頃の自分ではなく、今の自分の姿に変わっている事に驚いていると、突如父と母の物言わぬ死体が目を見開いて立ち上がった。

「うわっ! はぁっ!? はっ!」

 父は穴の開いた胸から、母は抉れた腹から血を大量に流しながらゆっくりとした足取りで尻餅をついた京助に近付き、顔をギリギリまで近くに寄せる。

「どうして助けてくれなかったの?」

「やめて……やめて母さん!」

「お前の力があれば、俺達は助かった筈だったんだ」

「嫌だ! そんな事言うなよ父さん!」

「死ぬのって……すごく痛いのよ」

「寒さと苦痛の中で……俺達は悶え続けるんだ」

 後悔と絶望、そして垂れ流され噴き出る血に塗れた京助を、瞳孔の開いた四つの目が見つめる。

「ねえ京助、何故幸せそうなの?」

「やめろやめろやめろっ!」

「生き延びたお前にそんな資格あるのか?」

「嫌だっ!」

 言葉の一つ一つが京助の心に針となって突き刺さり、父と母の傷から流れ出る血のように痛みと切なさが込み上げてくる。

「なんでそんな……ハッ!」

 思い出した、これは夢だ。いつも見る後悔と悲しみに塗れた夢なのだ。

「……父さんと母さんはそんな事言わない! 言う筈がないんだ!」

「そうかァ?」

 父でも母でもない第三者の、だが自分がよく知る声が聞こえてきた。

「死人に口無しとは……よく言ったもんだろ」

 父と母の背後の暗闇から出てきたのは、髪の色の比率が逆転し、そして赤く光る不気味な目を持つ京助そっくりな顔をした少年だった。

「本当に父さんと母さんがそう言わないか……分かんねぇだろ?」

 歯を食いしばりながら反論しようとしたその時、けたたましい音と共に急激な上昇感が京助を襲った。


「はっ! はっ! ……ふっ!」

 短く浅い呼吸を何度も繰り返し、全身にべっとりとまとわりつく汗を自覚しながら、京助は悪夢の世界から自分を引っ張り出してくれたスマホのアラームを止める。

『一際酷い悪夢を見たようですね』

 エグザイルクドゥリに負けた際に来たよく分からない異空間でも出会った自分そっくりな少年の事を思い出しながら、京助は上体を起こしてカーテンを開けて日光を浴びる。

「酷いなんてもんじゃないな……」

 自分のサバイバーズ・ギルトがここまで深刻だった事にまず驚いた。

「幸せになっちゃいけない人なんて居ない……だよな?」

 かつて言われたことを思い出し、京助は汗でべたつく体を洗い流すべく立ち上がる。

「嫌な予感がする」

『悪夢を前兆だと考えているのですか?』

「かもな、分からないけど。あの感じからするとなんかの前兆でもおかしくないと思うな」

 シャワーを浴びると強烈な空腹感が襲ってきたため、大食い選手権もかくやという程の大盛りの朝食を摂り、そうしてようやく一息つくことが出来た。

「あいつは誰なんだよ」

『あいつとは?』

「あれ、トトはあいつのこと知らないのか?」

『どんな存在でしょう?』

 京助は先程に夢と異空間で遭遇した自分そっくりな存在について説明し、トトはしばらく何考えた後で口を開く。

『その異空間、もしかしたらあなたの心の中かもしれません』

「心の中?」

『夢界の事は以前話しましたよね?』

「ああ、確か人間の夢からアクセスできる星が持つ異世界の事だろ?」

『その夢界にアクセスする為に一度向かう個々の人間が向かう夢の世界。つまり心の中の世界ですね』

「じゃああいつって……」

『確認しますが、髪の色の比率が白髪が多く、赤い目をしていること以外は同じ容姿をしているんですよね?』

「おう、そうだな」

『それは……タルパかもしれません』

「タルパ……ああ、二重人格の親戚みたいなやつか」

 本来なら神秘学において超常的な力で生み出しされた物体の事を指すが、現代では自ら作り出すもう一人の人格のようなものの名称に用いられる。

『解離性同一性障害の線もありますが、あなたの力によって作り出された応身、タルパである可能性が高いと私は睨んでいます』

 状況に応じた姿を呼び出す力が化身(アバター)なら、有り余る力が人格を持つのが応身(タルパ)

「俺の力が作り出した応身(タルパ)……」

 だとしたら何の力が働き、人格を形成したのだろうか。

「まさか……黒の力?」

 以前サイと交わした言葉が蘇る。

『警告しておく、なるべくその力は使うな』

『それはろくでもないものさ、君の身に破滅を齎す』

『あの力は最終的に使用者すら飲み込む恐ろしくてろくでもないものなんだ。黒の力が強くなったとて最終的に待っているのは恐ろしい結末だ』

 黒の力、とりあえずそう呼んでいるが、この力は一体何なのだろう。

 そして仮にその力がタルパと化したとしたら、なぜ今になって活動を始めたのか。

「破滅……か」

 まだ破滅するわけにはいかない、やるべきことが沢山あるのだ。

「とりあえず過度な力の使い過ぎには気を付けておくよ。お前も俺が暴走しそうになったら止めてくれよ」

『何の為の眷属だと思っているんですか? 任せておいてください』

 左手のバングルを見て微笑むと、京助はソファーに寝転がった。

「そういやもうすぐで正月かぁ……」

『ええ、あの日からもうすぐ六年になりますね』

「六年かぁ……それにしてもここ一年で一気に情勢が動いたよな」

 クインテットと出会って共にクドゥリを撃破して以降、着かず離れずの共闘を続けていたらサイが現れ、半ば味方に引き入れた所でついにジャガックの本格侵攻が始まった。

「ジャガックの事は来年も持ち越しか……まあ俺は良いけど、一般の人達に申し訳ない気持ちがあるな」

『なんでも背負い込むのは違いますよ。あなたは自分が出来ることを最大限にやってます』

「そうか? ならいいんだけどよ」

『真鳥市内であなたはヒーロー的存在として見られていますし、インターネットの否定的意見なぞ泡沫ですからね』

 なんだか少しだけ落ち着く事が出来た気がする。

「連中も年末に向けて何かしら仕掛けて来るかもしれないから、俺もアンテナ張っとかないとな」

 そんな事を考えていると、奏音から通話がかかってきた。

「おー、はいはい。市民生活安全課です」

『もー、何それ?』

「何って、市民生活安全課だよ」

『この前確か殺人課で、その前は……まあいいや、暇だから一緒にゲームしない?』

「ああ、そりゃ良いな! やろう、何やる?」

 京助は指を鳴らしてテレポートで二階の自室へ向かい、パソコンの電源をつけた。

『そりゃ昨日の続きだよ』

「あーはいはい、アレね。わかった」

 指を組んで大きく伸びをし、ゲームを起動させながら他愛のない会話を交わす。

『もうすぐお正月だね』

「だよな〜、なんかあっという間だったよな」

『そうだね、もう私達三年生だよ……』

「俺らも遂に受験生かァ」

『受験生、私大丈夫かなぁ?』

「大丈夫、俺が勉強見るし、よしんばダメでも最終手段として俺の所に永久就職って手があるから」

『え……あ……うぅ……まあ……悪くはないけどぉ……』

「まあ奏音なら大丈夫さ、最近成績伸びてるっぽいし」

 偶に教えに行くと、徐々に奏音の勉強への理解度が上がっており、妙に感心してしまう。

『伸びてるならいいんだけどさ、そういうの自分じゃよく分かんないし』

「大丈夫、俺が着いてるぜ。一緒の大学行って存分に遊ぼうな」

 クリスマスに奏音の家へ泊まりに行ったが、ディープキスを長時間やったぐらいで何も進展はなかった。

 というより他人の実家でそういったことをするのは流石に気が引ける。

(大学までお預けかなぁ、まあ普通はそうだろうな)

 かなりアガリ症な奏音だが、そこは何とかしていくしかあるまい。

「お、入れたぞ」

『あ、了解了解。私も入るね』

 二人は同じサーバーに入り、ゲームをしながら話をしていると、ふとジャガックの話題になった。

『学校ってこれからどうなるんだろうね』

「そうだよなぁ、ジャガックのせいで行けねぇからな」

 今年の京助や奏音の先輩達は、ジャガックの影響がある中で大学入学共通試験を受けなくてはならない。

 一応自習室として学校を開放したり、オンライン・オンデマンド授業などで対策しているが、それでも大きな枷となっているだろう。

『何か先輩達に申し訳……いや、気の毒だなって』

「だよな、ホンットにいい迷惑だよな。行事も全部無くなっちまってよ」

『ねぇ~! ホントにそうだよ!』

 互いにジャガックへの愚痴を語り出すとどこかでボロを出しそうでヒヤヒヤするが、それでも言わないとやってられない。

『クインテットもマグナアウルも頑張ってるけど、やっぱりどうしても完璧じゃないから京助も外出る時は気を付けてね』

「精進します」

『え?』

「ああいや、気を付けるよ。奏音も色々と気を付けてな」

『うん、ありがと!』

 何気なく交わした会話でも、なんだか幸せに思えてくる二人だった。


 地球の衛星軌道上、ジャガック基地艦の病室エリアにて。

 一際豪勢な病室の中で眠りながら体力を回復させているのは、マグナアウルとクインテットと壮絶な死闘を繰り広げた末に相打ちとなったクドゥリである。

「ふんふんふん……ふふふん……」

 病室のドアが開いて鼻歌交じりに入って来た男がクドゥリに手を翳すと、呼吸が浅くなって瞼が開いた。

「やあ」

「……イダム!」

 靄が掛かった意識が一気に吹き飛び、クドゥリは咄嗟に体を起こし、同時に体のどこにも痛みがない事に驚いた。

「瞳の色が変わったのか。確か目玉をくり抜かれたって聞いていたが……」

「どうして……ここに?」

「ついに十全に戦えるようになった」

 微かなモーター音を指せて五指を動かし、心底嬉しそうに腕を広げたイダムにクドゥリは何故かホッとした気持ちになった。

「そうなのか、それは助かるな」

「ああ、今色々と大変らしいじゃないか」

「そうだ。本格侵攻に舵を切ったのに街ひとつ占拠できていない。地球人があんなに強いとは思わなかった」

「地球人は確かに未熟だが侮り難い、俺も一度地球人のガキ相手に不覚を取って何年もじっとしてるハメになっちまったからな。今度こそ油断はしない」

「イダム、今から地球に行くのか?」

「うん? まあそのつもりでいる。パラクラスモウォートの準備をボスに頼んだからな」

「だったら一緒に行かせてくれ! 私には奴らを倒さなくてはならない理由があるんだ!」

 イダムは片方だけ口角を下げると、自分の方に置かれたクドゥリの手をそっと下ろす。

「俺がさっき治したとはいえまだ無理だ。見た所俺と同じ力を手にしたらしいが、まだまだ体に馴染んでいない。休養していろ」

「しかし!」

「しかしじゃない、お前を鍛えた(つくった)のは俺だ。見ればわかる、休め」

 かつての師にそう言われてはクドゥリも返す言葉がない。

「わかりましたよ()()

「それはやめろと言ってるだろう? お前と俺はもう対等で、肩を並べ合わせる戦友なんだからな」

「そうか? 全く追いつけている気がしないが」

「まあいい、ともかく今は休んでいろ。回復したらその力もお前に馴染むだろうよ」

 そういえばさっきは流してしまったが、追放者ケイヴィスの泉で得たこの力をイダムも持っているというのか。

 気になったクドゥリは真っ直ぐイダムを見据えて聞いた。

「イダム、私が得たこの力は……」

「ああ、まだお前には教えていなかったな。こいつは宇宙の根源的かつ強力無比な力だよ、これに勝るものは何もない破壊の力! 武を極める者が夢見る極致! それが俺やお前が得た力さ」

 本当にそうだろうか。

 確かにあの時マグナアウルをも一度退けた程強い力を手にしたのは確かだが、到底そんな素晴らしいものには思えない。

 そもそもイダムがどうやってこの力を得たのか知らないが、少なくともクドゥリのようにどこかに行って外付けで得た物は武の極致とは言えないだろう。

「疑っているな?」

目敏(めざと)いな」

「まあ気持ちはわかるさ。だがこの力が体に馴染んだその時、お前は俺が言った事に深く頷くことが出来るだろうさ」

「……なるほど、そうか」

 要はこの力に置いて行かれないようにしなければならないという事か。

 だとすれば確かにこれは武の極致と言える。

「わかった、日々精進という事だな」

「ああ、せいぜい上手くやれ……クドゥリ」

「なんだイダ……うむっ?」

 イダムはクドゥリの頬を掴み、自分の顔に寄せて至近距離で見つめ合う。

「なんだよ……いきなり」

「お前の目を見てるのさ」

 イダムの機械化された左目が、クドゥリの赤く染まった右の瞳を捉える。

「良い色だ、黒に染まった暴虐的で危険な赤……俺が鍛えた(つくった)お前なら、この力を完全に制御できるだろうさ」

 片頬だけをくっと上げて笑ったイダムに不気味さを覚えると同時に、まだ義体化していなかった頃の面影を重ねて一握の寂しさを感じてしまう。

「私に出来るか? 私はこの力であの子たちを守れるのか?」

「ああ、出来るともよ」

 イダムがクドゥリの頬を放し、椅子から立ち上がりながら言った。

「そういえばザザルがお前の遺伝子から妹達を作ったらしいじゃないか。俺にとっては孫弟子にあたる訳だから、いつか会ってみたいもんだ」

「あの子たちは今地球に居る。いずれ機会があれば私を交えて会おうじゃないか」

「そうか……そいつぁ楽しみだ」

 モーター音をさせながら大きく伸びをした後、イダムはクドゥリに背を向ける。

「行くのか?」

「ああ、散々かわいい弟子と孫弟子を甚振ってくれた地球人にお灸を据えに行くのさ。そろそろ調子乗った地球人にどっちの立場が上か分からせてやらにゃならん」

 再び片頬を吊り上げて笑うと、クドゥリに見送られながらイダムは病室を去るのであった。


 数分後、基地艦内部の整備ドックにて。

「なんだこれは! 聞いてないぞ!」

「ですからルゲン様、何度も申し上げている通り……」

「ゾゴーリ様がそんな事を言ったと? フン、戯言を!」

 何か気に入らない事があったのか、ルゲンが船の整備クルーに食って掛かっている。

「戯言って……お言葉ですが流石にそれはないですよ! ゾゴーリ様直々のご用命なんです!」

「ほう……ゾゴーリ様がアレをいつでも動かせる状況にしろと言ったと……あれが何か知ってるのか?」

「ええ、ジャガック最大級の……」

「その通りだ! あれはジャガックが持つ最大級の攻撃艇でもある! それをこの戦力が不足している状況で動かせと命じただと? 全くふざけるのも大概にしておけ! 第一アレの持ち主は今やここには居ない!」

「居るさぁ!」

 背後からした聞き覚えのある大声にぎょっとした様子のルゲンが眉間に皺を寄せながら振り返ると、数メートル先から微かなモーター音をさせながらフランクな調子で腕を広げたイダムがこちらに向かって歩いて来ていた。

「ここにな」

「あっ……なたは……」

「ああ、お前さん見ない顔だな、俺は幹部のイダム。イダム・ジャム=ガトローダ、よろしくぅ」

 片頬を上げるあの笑い方をしながら整備クルーと握手を交わし、仕事に戻るように促す。

 笑顔のままクルーを見送ったイダムはその表情のまま自分を睨みつけているルゲンの方を見た。

「貴様イダム! 今まで何をしていた!」

「静養とリハビリだな」

「その挙句がこれか! 気でも狂ったか!」

「パラクラスモウォートの事がそんなに気に食わないのか?」

「それも気に食わんが、今更になって貴様がしゃしゃり出てきた事も気に食わん!」

「だから遅れを取り戻そうと作戦を立ててお前に会いに来たんじゃないか」

 ルゲンは言い返そうとしたが咄嗟に言葉を飲み込んで訝し気にイダムを見る。

「私に会いに来ただと?」

「だいたい誰が好き好んでお前に会いに行くんだよ。俺も作戦の事じゃなければお前に会いには行かないさ」

 散々な言われように少し苛立ったが、それよりもイダムが立てた作戦の方が気になる。

「なんだ、私に何かやってほしい事でもあるのか?」

「ああ、そうだな」

 整備ドックの手すりに体を預け、ある一点を指しながらイダムは言った。

「パラクラスモウォートに乗ってほしい」

 ルゲンの眉間の皺が更に深くなり、口角から牙が覗く。

「一体全体何の冗談だ!」

「別にお前に主だった戦力になれとは言ってないし、俺もそんな事を期待していない」

「私をコケにしに来たのか? あんな悪趣味なゲテモノ船になら私よりもパテウが適任だろうさ!」

「俺の愛船をゲテモノ船とは言ってくれるじゃないか……パテウかぁ、確かにあいつを乗せるのも悪くないかもな。だが俺にはお前がどうしても必要なんだよ」

「何だと? 何のために私を乗せる?」

 イダムは片頬だけを吊り上げるあの笑みを浮かべながらルゲンに顔を近付ける。

「お前の隠れた才能を頼りにしたい」

 ルゲンの顔の険が幾分か和らぎ、イダムはもはや説得はほぼ完了したと内心でガッツポーズをする。

「そうか……フッフッフ……なるほど。誰に使う?」

「マグナアウルに決まっているだろう」

「道具は?」

「俺が用意する」

 イダムの機械化された左目の動きを間近で見ながら、ルゲンはあの憎たらしい視線の感触は義体になった今でも変わらないと内心毒付きながら大きく息を吐いた。

「良いだろう、そういう事なら乗ってやる」

「ガハハハ、助かるよ」

「ただし条件がある」

「ほぉ?」

「私を前線に出すな。あんなものの中で戦いたくない」

「わかったいいだろう! 段取りは追って連絡するから、それまでにとっておきを作っておいてくれ」

「急拵え故に細部は期待するな。だが威力だけは期待しておけ」

「おうおう、じゃあ早速取り掛かってくれるか?」

 ルゲンは背から生えたパワードアームを動かして去って行き、イダムは頬に手を当てながら大きく溜息をついて今後の事を考え始める。

「パテウも誘って……各人に作戦を伝える、あとはそれ位か」

 不気味な笑みを浮かべながら、イダムは整備ドックを降りてパラクスモウォートに近付く。

「俺には誰も敵わない。五年間の遅れを取り戻しに行こうか」


 翌日、テレビで動画を垂れ流しながら京助が家事をやっていると、画面が切り替わってローカル局の速報になった。

「お、奴らか」

 念力で動かしていた諸々を急いで片付けてソファーの背もたれを飛び越えて座り、情報を一字一句記憶しようと画面を注視する。

『速報です、ジャガックの宇宙船が真鳥市中心部に出現しました。攻撃を受ける可能性がある為、命を守る行動を優先し、いち早い避難を……』

「分かったからさっさと中継を映せ」

『伝えなくては、これは大事な事ですよ』

「ハイ、すんません」

 未曾有災害保険の適応がされる旨を説明した後、現場の中継映像に切り替わった。

「よし来た来た」

『現場の富士です。ジャガックの船は出現後、浮遊したまま動きを見せません……』

「はぁはぁ、一体何が目的なんだ?」

『今の所動きを見せていませんが、ジャガックの船である事は変わりありません』

 ヘルメットを被った女子アナから地上に影を落とす巨大な宇宙船へカメラが移り、京助は立ち上がって画面を凝視する。

「この型の船……始めて見たぞ」

 大侵攻の際飽きる程見て撃ち落とした中型の人員輸送用の宇宙船と似ているが、幾分か装飾とペイントが派手になり、船体下部に大きな砲台が取り付けられている。

『決して撮影等の目的で近付いたり、不用意に近付くのは……ヒャアッ!』

 爆発音と共に閃光が画面を覆い尽くし、京助は目を見開いて市街地の方角へ顔を向けた。

「撃ちやがった!」

 指を二回鳴らして電気と戸締りと着換えを終え、三回目でテレポートしてビルの上から様子を眺める。

「……チッ」

 ジャガックの宇宙船はビームで地面に矢印マークを描いており、京助は宇宙船を睨みつけて怒りを露わにした。

「ふざけやがって!」

 腕を交差させてアウルレットを出現させ、ブレードを展開して腕を大きく回して腰だめにする。

『次元壁、断裂』

「招来ッ‼」

 アウルレットを取り付けた腕を天に向けて突き出し、京助の体にマグナアウルの輪郭が被さり、莫大なサイコエネルギーを発しながら京助の姿を変えていった。

「はっ!」

 ビルからマフラーを靡かせながら飛び降り、マグナアウルはキャスターやテレビクルーを守るように立ちはだかった。

「あっ! マグナアウルです! マグナアウルが我々を助けに来てくれました!」

 振り返って目で下がるように指示すると、マグナアウルは戦いの準備を整える。

シュライク(投槍)

 投槍に電撃を纏わせて投げつけようとした時、宇宙船からトランスビームが照射され、三人の刺客が放たれた。

「三人だけとは随分と……ん?」

 現れた刺客達が被っているマスク、それは紛れもなくあの日の。

『どうしたんですか?』

『あいつらのマスク……あの日のあいつらと同じだ』

 父と母の命を奪った仇が引き連れていた雑兵のものと全く同じだった。

「まさか」

 宇宙船の方を見ると、いきなりスピードを上げてどこかへ去って行ってしまった。

「クソ! まあいい、こいつらを倒すだけだ!」

 マスクを被った雑兵が武器を取り出してこちらに向かい、マグナアウルも投槍を構えて迎え撃つのだった。


 突如現れた宇宙船の対策には、クインテットも動いていた。

「何なんだろうね、なんであんな真似を……」

 矢印マークを描いて去ったあの行動を皆訝しんでいた。

「誘ってるとか?」

「じゃあ今のウチらは……」

「蜘蛛の巣に飛び込む蝶って訳か」

「誘っているにしても目的が分かりませんよね」

「確かに、白昼堂々誘うって何事?」

 いくら考えても分からない。

「とりあえずぶつかってみるしかない!」

「蜘蛛の巣なら切って焼き払う、それに尽きるね」

 やがて宇宙船は山の近くの開けた場所で停まって降下し始めた為、無重力ジェットを止めて全員降下して戦闘準備を整えた。

「さてと……何が出てくるのやら」

 全員身構えていると宇宙船からトランスビームが照射され、十数人のマスク軍団と、それを率いる異様なオーラを放つ異星人の男が立っていた。

「やあやあ! あんた達がクインテットか、イカすスーツじゃないか!」

 その男の見た目は全体的には二足歩行になったネコ科の猛獣のような姿だったが、体の所々が機械化しており、特に異様なのが右頬が機械化されているため口角を上げることが出来ず、こうして笑う際に片頬だけ吊り上げたなんとも不気味な笑顔になるのだ。

「あんたは何者? 新しい幹部か何か?」

「新しい? 違うね、俺はボスがジャガックの座についてからの最古参の幹部!」

 機械の手足を広げ、心底愉快そうに笑いながらその男はこう名乗った。

「イダム・ジャム=ガトローダ! またの名を蹂躙者の(ボクフズ)イダム!」

 五人は顔を見合わせ、この感覚が間違いではない事を互いに確認した。

 このイダムと名乗った男はフランクな調子でこちらに語り掛けているが、尋常じゃない程の闘気をずっとこちらに叩きつけてくる。

 全く本能的な感覚だが、この闘気はクドゥリ以上のものを感じるのだ。

「まあこうしてめでたく顔合わせとなったわけだが、この街の守護者の一角を担うお前達五人が本当に俺と戦うだけの力があるのか……それは疑問だね」

「はぁ?」

「大層自信過剰なようで。過剰なのは自意識でしょうか?」

 挑発をあの不気味な笑顔で受け流したイダムは、指を五人の方へ向けて更に笑みを深くした。

「今から俺の直属の部下と戦ってもらう。こいつらはちと特別でな、そんじょそこいらの雑魚と一緒にされてもらっちゃ困る」

 イダムが言い終わるその瞬間、寸分違わぬ動きで一斉にマスクをつけた強化ジャガック兵達が展開し、クインテットとイダムの間に立ちはだかる。

「さあ行け! 俺を楽しませてくれ!」

 イダムの指示で強化ジャガック兵たちは次々と武器を引き抜いてクインテットへ向かって行き、五人も自身の武器を構えて迎え撃ち、戦いが始まった。

「はっ!」

「フフフフ……お手並み拝見ェン!」

 真っ先に前へ出たミューズに強化ジャガック兵が電磁双剣で斬りかかり、ミューズは戦斧でそれを弾いてからハルバードを転送して吹き飛ばし、間髪入れずハルバードの回転刃で相手を斬りつけるも、装甲が多少赤熱する程度で殆どダメージが通っていない。

「確かに特別って言うだけの事はあるみたい!」

 デメテルもサイバスを交えた格闘術を駆使して相手に殴り掛かるも、二三発殴られた後にすぐに見切って対応してきた。

「硬い! みんな気を付けて!」

 それはルナもイドゥンもアフロダイも感じていた。

 この強化ジャガック兵達はやたら装甲が硬いのだ。刃や光弾が通らず、その上動きも俊敏で洗練されており、ダメージを与える事がかなり難しい。

「おお、この数の差で互角か。やるじゃないか」

 数の差は約三倍にも関わらず、自ら制定した厳しい基準を通った直属の部下数十名と渡り合うクインテットに、イダムは思わず感心してしまった。

「だがまあ……俺が出る程ではないな」

 特殊金属で出来た超硬質の爪を擦り合わせて火花を散らすと、五体の強化ジャガック兵が追加され、クインテットに向かって行く。

「ああもうクソが! 仕事増やしやがって!」

 イドゥンがレールガンと肩のビームキャリアを放って吹き飛ばすも、すぐに立て直されてまたこちらに向かって来る。

「こうなったら……ハッ!」

 ルナが凍結弾を放って足止めを試みるが、なんと自らの武器を放り投げて凍結弾にぶつけて凍るのを回避し、そのまま腰の拳銃を抜いて銃撃してきた。

「くっ! 何なの本当に!」

 光弾を太刀や凍結弾で弾き落としながらも、敵の多さに徐々に劣勢になっていく。

「多すぎる! それに硬い!」

 デメテルのロケットパンチやアフロダイの光の矢すら、強化ジャガック兵にはあまり効果がない。

「ヤバいかも!」

 その時、上空からミサイルが飛来して強化ジャガック兵を吹き飛ばし、黒い影が一団に加わった。

「フッ! おおっ!」

 両手から電撃を纏った青い火炎を放射してクインテットの周囲に居る強化ジャガック兵を焼いて一時撤退させると、マントを収納しながらクインテットの方を見た。

「大丈夫か?」

「マグナアウル!」

「足止めを喰らっていたものでな。遅くなった」

「助かった! ありがとう!」

「それで……」

「おお! お前さんがマグナアウルか!」

 イダムが心底嬉しそうな声を上げた途端、マグナアウルの動きがぴたりと止まる。

「噂には聞いていたよ! 見た所あの三人は倒したらしい。素晴らしい力だ!」

 振り返りもせず棒立ちなマグナアウルに、五人も違和感を覚える。

「ねぇ、どうしたの?」

 この中でミューズだけが一人、マグナアウルの拳が微かに震えていることに気付いていた。


 その声は京助(マグナアウル)を震わせた。

 あの日から一日たりとも忘れず、憎んでも憎み切れない相手の声。

「……」

 ゆっくりと振り返ると、そいつは居た。所々機械化してすっかり姿が変わっていたが、確かにあいつだと魂と体が全身全霊で認識していた。

 ごく普通の少年が、復讐の化身たる夜梟に変わってしまったのは、あいつを殺す為に全てを捧げてきたから。

 胸の内から熱いものが込み上げ、それに反比例していくように全身が冷えていく。

「……見つけた」

 真の復讐の始まりの言葉は、あまりにも短くシンプルだった。


「俺の名はイダム! あの三人を倒したお前には俺に挑む……うおっ!」

「ひっ⁉」

「うっ⁉」

 イダムが咄嗟にふらつき、クインテットの面々が思わず悲鳴を上げ、強化ジャガック兵が全て頭を抱えて震えてしまう。

 そんな常軌を逸したレベルの殺気がマグナアウルによって発せられ、イダムは片頬だけを吊り上げて笑う。

「おお……すっごい殺気」

「うおわああああああああっ!」

 咆哮を上げてマグナアウルは走り出し、同時に二本指を天に向けて立てて振り下ろすとにわかに空が曇り始め、大雨と共に雷がイダムへ落ちてきた。

「おおっ! 天気を操……ぐおっほほほぅ!」

「うううっ……フゥーッ!」

 自分で呼び寄せた雨に濡れながらマグナアウルはイダムにマウントポジションを取り、左腕で首を抑えて右の拳を振り上げる。

「お前が! お前が! お前が! お前が! おおおおおおおあああああっ!」

 一発一発に全身全霊の殺意を向け、イダムの顔面を殴りつける。

「ううっ! うあっ! だあっ! ううううああああっ!」

 この顔面を一刻も早く原形が無くなるほど叩きのめし、何者も耐えられない程の苦しみを与え、そして殺す。

 父と母と掛け替えのない日常を奪ったこいつにはそれをしなくてはならない。荒れ狂う稲光の中でマグナアウルは再び固くそう誓った。

「ひっはははは!」

「無傷だと⁉ うおっ!」

 笑い声に虚を突かれた隙に投げられ、マグナアウルは心底楽しそうなイダムを睨みつける。

「おいおい、初端(ハナ)っから飛ばしすぎじゃないか?」

「ううう……ああっ!」

 マグナアウルが腕を広げると普段使っている武器たちが莫大な量で生成され、指先をイダムへ向けると銃器は火を吹き、剣や槍は雨粒を蹴散らして時折落ちてくる雷を纏って飛んで行った。

「物質! 生成か! この量を! 一瞬で! 生み出すとは‼」

 イダムは軽い身のこなしで難なく全ての攻撃を避け、一際高く跳躍すると飛んで来る無数の武器や弾、そして雨粒を全て弾いて独自の構えを取った。

「久々の戦いで良いモンを見れたぜ、もっと俺を楽しませろマグナアウル!」

「うるせぇぇぇぇええええええっ‼」

 今度は半物質化した武器を精製して飛ばし、イダムは全て素手でそれらを弾き飛ばす。

「へへへへっ! 中々やるみたいだな……地球人類の虫けらにしちゃあな」

 それを聞いたマグナアウルは空中に浮いた剣を取り、空に十字の軌跡を描いてから合体銃を取って描いた軌跡の方へそれを向ける。

「飛燕……大乱舞‼」

 飛燕斬による斬撃と、黒翼大乱舞が合わさった半物質斬撃弾がイダムへ向かうも、イダムはそれを掴み取った上にマグナアウルへ投げ返し、それをもろに喰らったマグナアウルは吹き飛ばされてしまう。

「ぐうううあああっ!」

 これまでの戦いをただ見ているしかなかったミューズとアフロダイが咄嗟に駆け寄ってマグナアウルを助け起こした。

「……大丈夫?」

「何があったんですか?」

「どけ……あいつは俺が殺す……俺が殺すんだああああっ!」

 マグナアウルはそう叫びながら装甲を変化させた上で手足を半物質化して再びイダムへ殴り掛かる。

「それが格闘形態か! ハハハハ!」

 イダムと同時に拳を引いて互いに拳を打ち付け、その衝撃で半径二十メートル近い範囲の雨粒が吹き飛んで凄まじい衝撃が駆け巡る。

「サイコエネルギーで覆った打撃……」

 これであれだけ殴りつけても無傷だった種が分かった、サイコエネルギーで全身を包んで守っていたのだ。

「ほほう! よく見抜……いたな!」

 イダムは立て続けに飛んで来たマグナアウルの拳と手刀を躱し、お返しとばかりに手刀の連打を放つ。

「ふっ! はっ!」

 マグナアウルはそれを全て捌き切り、蹴りを繰り出すもイダムも蹴りで対応する。

「やるじゃねぇか! どこで習った?」

「独学だ……お前を殺す為にな!」

 蹴りの応酬はしばらく続いたが、突如互いに掌を向けて念力での押し合いに変わり、二人の周囲の雨粒が奇妙な軌跡を描き始めた。

「フーッ……フフフハハハハハハ!」

「ウウウウウウウウウウ……クッ!」

 互いの斥力が限界を迎え二人同時に吹き飛ばされ、ずぶ濡れの土砂の上にマグナアウルが倒れ伏す。

「あっ!」

 向かおうとしたミューズをイドゥンが制止し、首を振った。

「行かない方がいい、行ったらヤバイ!」

 事も無げに立ち上がったイダムを土砂に塗れたマグナアウルが見上げ、一度地面に拳を叩きつけてから膝立ちになる。

「ハァァァァアア……」

 マグナアウルの腕の周囲が燐光を放ち、それはやがて小さな光球となって徐々に光を強めて膨張していく。

「まさかあれ!」

「間違いない! ソリッドレイだ!」

 マグナアウルが生成したソリッドレイの光球はどんどん膨張していき、野球ボール大だったそれはもうバスケットボール大にまで膨張していた。

「あんなのが炸裂したらマズイですよ!」

「みんな手伝って!」

 ミューズはまず全員に遠くへ下がるように言うと戦斧から拘束弾を射出し、デメテルとイドゥンとアフロダイがエネルギーを注ぎ込んで広範囲のバリアに変え、ルナが凍結弾でバリアを硬質化する。

「ううっ! わあああああっ!」

 バリアが完成したと同時に絶叫と共にソリッドレイが放たれ、バスケットボールを通り越してバランスボール大にまで膨張したソリッドレイの光球はイダムに向かって飛来する。

「ごおおおっほほほ! ソリッドレイ!」

 なんとこれもイダムは受け止めたが、マグナアウルは楔形のソリッドレイを放って光球を破裂させ、凄まじい爆発を起こした。

「うっ⁉」

「くうっ!」

 ソリッドレイによって起こった爆発は周囲の地面を揺らし、木々を根から吹き飛ばして山肌を崩し、更に殺気に当てられて動けなくなったジャガック兵を全て焼滅させた上、イダムやジャガック兵が乗って来た宇宙船をも焼き尽くしてしまった。

「……なんて威力」

「何が……何が彼をそうさせるの⁉」

「……仇だよ」

「え?」

「マグナアウルはジャガックに復讐する為に戦ってる……あのイダムとかいう奴が仇なんだ!」

 立ち込める煙と大雨で視界が悪い中、ヒビだらけのバリア越しに目を凝らすと、そこにはマグナアウルと全身から煙を吹き出しているイダムが立っていた。

「無事⁉」

「待ってよ! ジャガック兵も宇宙船も……全部全部……焼かれたのに!」

 立っているとはいえさすがにダメージを負っているらしく、イダムは膝をついて大きく息を吐く。

「ハァ~ア……ハハハハ、やっぱり強いよお前。認める」

 雨の中膝立ちのマグナアウルを指差しながらイダムは片頬を吊り上げ、再び立ち上がって腕を広げると、周囲に巨大な拳や足の形状をした無数のサイコエネルギーの実像が出現した。

「ちょっくら本気出させてもらうぜ!」

 雨粒を文字通り蹴散らしながら足形の実像がマグナアウルへ落ちていき、押し潰される寸前の事であった。

「UUUU……VOOOOWAAAAAAAAAA‼」

 マグナアウルの(ヘルム)(クラッシャー)が展開し、もはや衝撃波と化した声が自分の頭上に落とされんとしていた足形の実像を粉砕したばかりかイダム本人も吹き飛ばし、地面に倒れ伏す前に高速で背後に回り込んでイダムを思い切り殴り倒し、バウンドした所を膝蹴りで打ち上げる。

「ハアアアッ!」

 打ちあがったイダムの足にチェーンを巻き付けて引き寄せようとしたマグナアウルだったが、拳形の実像に殴り飛ばされてしまった。

「ガキが、調子乗ってっと叩き潰されるぞ~。こんな風にな!」

 マグナアウルへ拳や足の実像が次々飛来し、マグナアウルはマントを広げて空中へ向かい、ソリッドレイをイダムへ投擲して反撃する。

「おぉっとっとっと! フンフン!」

 マグナアウルが弾いたサイコエネルギーの実像が、イダムが弾いたソリッドレイが、時にはそれらがぶつかり合って周囲に飛び散って小爆発を起こす。

「このまま戦いが続くと被害がヤバいよ!」

「バリアも持たない!」

「マグナアウル! このままじゃ街に!」

 デメテルが呼びかけるもマグナアウルはこちらに意識すら向けない。

「駄目、完全に戦いに集中してる!」

「それ程までに、あいつを殺したいって言うの?」

 しばらく飛び回っていたマグナアウルだが、地面すれすれを飛んで銃器類と投槍を回収すると組み上げながら照準をイダムに定めた。

早贄(ドラグーン)……超翼乱舞!」

 サイコエネルギーだけではなく、ソリッドレイによって押し出された投槍がイダムへ射出されるも、無数の手が投槍の進路を阻んで無効化された上、地面すれすれを飛んでいることが災いして下から突き上げた拳の攻撃を喰らって吹き飛ばされ、更に足が飛んで来て地面へ叩きつけられる。

「おーい、鳥ちゃんよぃ! 潰されなかったかぁ?」

 雨の冷たさと反比例し、マグナアウルの胸の中の憎悪は更に熱く煮え滾り、泥まみれの体を起こしてイダムの方を見据える。

「キング……」

『いけない、今のあなたが放てば!』

「フィッシャー!」

 トトの制止を振り切ってまでブレードボウを実体化させると、ありったけの力をブレードに込めて先端をイダムに向ける。

「あれは!」

 ミューズの脳裡に無数のオートマタを一瞬のうちに消し去り、大侵攻の際には巨大なコロシアム型宇宙船をも消滅させたあの力が想起させられる。

「やめて! それはまずい!」

 土砂降りの雨中とはアンバランスな程鮮やかで眩い虹色の輝きを纏ったブレードが射出され、イダムへ真っ直ぐ飛んでいく。

「マグナアウル!」

『京助!』

 このブレードボウから射出されるブレードに当たったものは何であろうと強制的に次元下降を起こし、三次元空間から強制的に排除させられる。

 かなり力を消耗させる代わりに必中かつ必殺の最後の切り札なのだ。

「終わりだ、イダム」

「誰が……」

 虹色に輝くブレードは、突如出現した黒くて巨大な拳に握り潰され、まるで咀嚼するように何度か指が動くとそのまま消え去ってしまった。

「なんだと⁉」

「終わりだって?」

 イダムが片頬を吊り上げると同時に全身に黒いオーラが噴き出し、同時に両目が赤く不気味に光る。

「黒の……力!」

「ここまでさせるとは……滅茶苦茶強いぜお前。宇宙の中でも指折りだぜ」

 イダムが腕を向けると無数の大きく黒い腕がマグナアウルへ向かい、マグナアウルもソリッドレイや火炎や電撃で抵抗するも、まるで赤子の手をひねるように両腕を掴まれてイダムの前に突き出される。

「放せ! このっ!」

「無理だよ、こいつは……」

「放せっ!」

 マグナアウルの目が一瞬赤く光り、微かに拘束が緩むもすぐに持ち直された。

「お前これも使えるのか……流石だよ、俺の体が完全に生身だったら俺はお前に負けてた」

「はぁ?」

「恨むんなら……五年前に俺をこの体にしたお前の同胞のガキを恨みな」

「うううっ!」

 自分が、他ならぬ自分自身がイダムを強くしてしまったと言うのか。

「いい戦いぶりだった、だが残念だがもう終わりだ。地球は俺らが貰うから安心してくたばんな!」

「うわああああっ!」

 抵抗虚しく、イダムの黒いオーラを纏った強烈無比なアッパーカットがマグナアウルの顎に炸裂し、マグナアウルは打ち上げられて頭から地面へ叩きつけられる。

「うぐぐ……くあっ!」

 

 全身を駆け巡る凄まじい痛みのなか、京助(マグナアウル)は思った。

(全部……ぜんぶ……無意味だったのか? 届かなかったのか? 俺は……何のために……)

 黒の力に侵されて薄れていく意識の中、京助(マグナアウル)は自問を繰り返し続ける。

「か……のん……」

 意識が途切れる寸前に最愛の人物の名を呼ぶも、それは誰にも届かなかった。


「嘘……」

 あのマグナアウルがほぼ有効打を与えられずに抑え込まれた上で完全敗北した。

 その事実はクインテットを震撼させ、もはや五人の目にはイダムが得体の知れない悍ましい怪物としか映らない。

「さてと、そこで指咥えて見てなお嬢ちゃん達、マグナアウルの……死を!」

 一際巨大な足の形をした黒い実像が出現し、イダムは片頬を吊り上げる。

「教えてやるよ、ジャガックに弓引くと……どうなるかをなァ!」

 止める間もなく落ちてきた黒い足形の実像が地面に振り下ろされ、雨粒を吹き飛ばしながら大爆発を起こした。

「あ……」

 ルナがその場に崩れ落ち、イドゥンは口を押えて後退り、ミューズはいたたまれなくなって思わず雨空を見上げる。

 第一印象は最悪だったし、今でも怪しいと思っている者も居る。だが確かに彼は頼もしい仲間だったし、何度も助け合ってきた仲だった。

 それはこんな形であっけなく終わってしまったというのか。

「ん?」

 黒い爆炎が収まると、そこにはずぶ濡れになりながら、納刀した刀を持った者がまるでマグナアウルを守るように立っていた。

「おっ……お前ッ!」

「あっ……」

「ああ!」

 その人物は真紅の両刃の刀を抜くと、イダムに鋒を突きつける。

「サイ!」

「お前……だったのか! サイィィィィィイイイイッ!」

 雨で張り付いた前髪をかき上げながら、サイはイダムに刃を向けたまま近付く。

「どうもクサい畜生の臭いがすると思ったらお前だったか。イダム」

「ゾゴーリ様が雇った賞金稼ぎの名を誰も言わなかった理由が分かったぜ……お前だったのか」

「まだそんなモノに縋ってるのか」

「黙れ」

「そうじゃなきゃ立っていられなかったもんな」

「黙れ!」

「自分を磨く事から逃げて安易な方法で強くなった気になってる」

「黙れェ!」

「五百年前から全く進歩していない、お前は昔からそんな奴だ。メッキまみれの雑魚が!」

 イダムは黒い拳を飛ばすも、サイの紅蛇は容易くそれを切り裂く。

「彼を殺させはしない、轟嵐」

 仮面をつけながらサイは走り出し、赤いガラス片を全身に纏わせながらカプリースとなってイダムに斬りかかり、イダムも生成した腕で防御する。

「マグナアウルに師が居るとクドゥリから聞いていたが……それはお前か!」

「そうだよ、お前はボクには勝てない。力でも、弟子の育成でもな!」

「うううおおおっ!」

 今度はイダムの方が余裕がない。

気紛れなる虐殺の化身(ガラゼァ・ブランボス)! 俺は昔からお前が気に食わなかったんだよ!」

「ああ、弱った心に嵐が吹けば大層堪えるだろうさ! この臆病者!」

「俺は蹂躙者の(ボクフズ)イダムだ!」

 無数の足がカプリースに迫るも、その全てを切り裂いてからイダムの黒オーラを纏った拳を掴んで氷漬けにして砕き、電撃を纏った蹴りを喰らって吹き飛ばされる。

「ソッ……ハッ!」

 無数の雨粒がその場に停止したかと思うと、カプリースの指示で一気にイダムへ襲い掛かる。

「ふっ! おおっ!」

 イダムは黒い無数の腕でそれを防ぐと雲を裂いて天気を無理矢理変え、腕を掲げて空中へ叫んだ。

「来いッ!」

 するとまたもや地面を影が覆い、何事かと思って顔を上げると、そこには異様な光景が広がっていた。

「島が!」

「浮いてる⁉」

 空に巨大な島が浮いていたのだ。それを見たカプリースは仮面を取る仕草をしてアバターを解除し、サイの姿に戻ってから小さく呟いた。

「パラクスモウォート……また逃げるつもりか」

「お前との決着は持ち越しだ! 俺には使命があるんだよ! お嬢ちゃんたち! お前らにはゲームへの参加資格がある! パラクスモウォートで待ってるぜ!」

 そう言うとイダムは腕の実像で自分を押し出して跳躍して浮遊する巨大な島へ向かうのだった。

「ねえサイ……あれって?」

「あれはパラクスモウォート島。ある星にあった島を丸々宇宙船に改造したものだ」

「ゲームって何?」

「あの島の中で行われるバトルロイヤルサバイバルゲーム、あいつが複数の標的を甚振るときに行われるゲームだよ。君達はその参加者に選ばれた、そしておそらく……彼も」

 倒れたマグナアウルはまだ目を覚ましそうにない。

 五人だけで乗り切れるだろうか?

「パラクスモウォートは船だから外部に対する攻撃機能も備えてる。もし君達がゲームを拒否すれば……」

「街が危ないって事ね」

 もはや五人の心は決まっていた。

「チャージ温存しててよかった」

「そうね、今から敵討ちと思って暴れてやるか」

「ああ、彼はボクが見るから暴れてくると良い」

「あんたは行かないの?」

「出禁を喰らっててね、行くと島がドカンだ」

 結局の所、頼れるのは長い間共に戦ってきた五人なのだ。

「みんな……」

 ミューズの呼びかけに他四人は頷き、それぞれ無重力ジェットを展開してパラクスモウォートを見据える。

「行こう!」

「おうっ!」

 ジェットで飛び去って行く五人を見送ったサイは、横たわるマグナアウルの方を一瞥した。

「申し訳ないことした……まさか奴が仇だったとは」

 敗北したマグナアウルと、敵地に乗り込むクインテット。

 突如現れた強敵と、仕掛けられた一大決戦。

 果たして彼らの勝敗と運命はどうなるのであろうか?

 次回へ続く。


To Be Continued.

遂に京助の仇が登場しました。

今まで敵には必ず一矢報いてきたマグナアウルが、今回ばかりは文字通り手も足も出ず完封されてしまいました。

果たしてこの強大な相手が仕掛けるゲームにマグナアウルとクインテットは勝てるのでしょうか?

来年も変わらず更新しますよ。

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ではまた来年!

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