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青春Double Side  作者: 南乃太陽
激闘編
32/38

変幻自在⁉ ニセマグナアウルの脅威!

クドゥリが倒され、進まない真鳥市の征服に苛立ったゾゴーリは、ついに自分で思いついた作戦を実行に移す!

それは偽物のマグナアウルをジャガック側から送り込み、偽の正体を明かす事だった!

一気に動きにくくなった京助は窮地に陥ってしまう。

だがニセマグナアウルは子供達との交流で心境に変化が……。

果たしてこの偽物作戦はどのような結末を迎えるのか?

 ゾゴーリ・ジャガックは苛立っていた。

 この地球という星に目を付けてから早数年、文明レベルも大したことがない発展途上の星のそれも街の一つ程度あっという間に侵略できるだろうと思い、自分は本拠地で指示を出し後は全て幹部に任せようと思っていた。

 だがゾゴーリの予想に反し幹部達はいつも失敗ばかりで遅々として侵略は進まず、その上自分が出張って存在を公表して全勢力を差し向けてなお侵略は進まず、むしろ最終目標まで遠ざかっているまであるのだ。

「くそ……」

 苛立ちが止まらない。

 新たな力を得て真正面から挑んだクドゥリは今や倒れて戦闘不能、パテウやルゲンの人質作戦も結局は防がれてしまった。

「うぅ……マグナアウル……クインテット……忌々しい地球人め!」

 侵略が進まないのも全てマグナアウルとクインテットのせいだ。

 というよりマグナアウルが強すぎる。わざわざ故郷に出向いて強化されたクドゥリに殺されなかったばかりか逆に倒してしまったのだから。

 その上真鳥市民からの人気も高く、クインテットと並んでシンボル的存在にもなっている。

「倒すだけじゃダメだ……倒した上で地球人共の心を折らねばならん」

 それにはどうすれば良いのか、ゾゴーリは下の両腕を組み、上の腕で頭を抱える。

「マグナアウルよりも強大な……いいやダメだ」

 ルゲンが大侵攻で得られたデータを基にしてマグナアウルを上回る力を持つパワードアーマーを作らせて珍しく自ら出陣したが、どういう訳か圧倒されて逃げ帰る羽目になった。

「マグナアウルを上回る力を持つ兵力を作れないことは無いが……これはまだ時期尚早だ」

 クドゥリの話によると、マグナアウルはまだ完全に本気を出した事がないらしい。

 相手の底が見えない状態で自分のカードを切るなど愚の骨頂である。

「だが……奴もまた心ある地球人だ」

 マグナアウルは怪物のように恐れられているが、度々激昂する所が見られ、そもそもジャガックへ挑むのは復讐の為であるらしい。

「精神に揺さぶりを掛けられればあるいは……」

 マグナアウルを倒す一手になるかもしれない。

 そう思い立ったゾゴーリの脳に一閃、天啓が降臨した。

「これなら!」

 ゾゴーリは三つの目を細めて不気味な笑みを浮かべ、早速邪智を駆使したたくらみを実行に移すのだった。


「は、ただいま参上いたしました」

 ゾゴーリの呼び出しに恭しい態度で現れたのはルゲンである。

「そんな畏まらなくてもよい、楽にしろ。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」

「聞きたい事でございますか」

 ゾゴーリは椅子を回してルゲンの方を向き、足を組んで頬杖をついて言った。

「お前の部下の兵士で変身能力を持つ者を探している。心当たりはないか?」

「変身能力でございますか……」

「ああ、種族として変身能力を持つ者でもいいし、超能力として変身能力を持つ者でも構わん」

「ゾゴーリ様、貴女の考えはこの不肖ルゲンには計りがたく……」

「ああ、そういえば説明がまだだったか。では説明してやろう、そこにかけろ」

 ルゲンはアームを背中に仕舞い、ゾゴーリの部屋の椅子に腰かける。

「簡単に言えば、私自らマグナアウルを潰すために動こうと思ってな」

「なんですと⁉ それはあまりにも!」

「戯け、直接戦いに行くわけがないだろう。マグナアウルを潰す作戦を私が自ら立案すると言っているんだ」

「我々が不甲斐ないばかりに、どんな言葉で……」

「畏まるなと言っているだろう。いいから聞け」

 ゾゴーリは三つの目を細めてニヤリとしながら心底楽し気に邪悪なる陰謀を語り始めた。

「いいか、今回私が目指すのは地球人の心を挫き、同時にマグナアウルの戦意を削ぐという作戦だ」

「はい……」

「簡単に言ってしまえば、マグナアウルの偽物を用意するのだ」

「偽物……ですか」

「こちらが用意した兵力が我々の偽物と戦い、その後偽物は自分の正体を公表する!」

「ほう!」

「もちろん公表するのは架空の人物として正体だ。当然周囲の人間は偽物のマグナアウルに群がるだろうな」

「なるほど……そこで我々について見せて信用を完全に失わせるわけですな」

「ああ、そこで我々はフェードアウトするんだ! マグナアウルは市民からの信頼を失い石を投げられ、クインテットとの協力関係にも亀裂が走り敵対する! こんな事になれば奴がいかに怪物の如く強かろうと心ある限り必ず精神が揺さぶられるに違いない!」

 感心したルゲンはゾゴーリに拍手を送り、当のゾゴーリは満足げに笑って自分の椅子にふんぞり返った。

「そのために必要なのはある程度高い力を持つ変身能力を持つ兵士だ。どうだ? お前の部下に何か心当たりはないか? 一人で構わない」

「今の所居りませんが、私の直属の部下全てに掛け合ってみましょう。必ずや貴女様の御眼鏡に適う戦士を連れて参ります」

 跪いて頭を下げたルゲンをゾゴーリは満足げに見下ろし、四つの腕を広げてから告げる。

「よろしい、では今から始めよう……今日からマグナアウルの名はジャガックのものだ」


 数日後、ゾゴーリはルゲンに呼ばれて服についた装飾をゆらゆらと揺らしながらその場所へ向かった。

「ついに見つけたかルゲン!」

「はい、奴は貴女の求める基準に達しております。このルゲンが請け負います」

「そうか、連れて来い」

「仰せのままに、入れ!」

 ルゲンの声と共に背後の部屋の扉が開き、大柄な昆虫型ヒューマノイドの男が入って来てゾゴーリとルゲンに跪く。

「ほうほう……ナキトシュラガラパドリアス族か。なんという名だ?」

「お目通り感謝するでやんす、あっしはベルファグ村のヅーイと申しやす。この通り学の無い田舎者でやんすが、ジャガックの首領様のご期待を超える働きをいたしやす故、どうかご勘弁願いやす」

 田舎者丸出しの独特すぎる口調にゾゴーリは一瞬顔を顰めたが、こんななりでも連れてきたのなら実力は確かなのだろうと思い直して心を鎮めた。

「ではヅーイ、お前は強いか?」

「へえ、まだまだジャガックでは新米ですが、腕っぷしには自信があるでやんすよ」

「正式登用の際のテストで最高ランクの成績を叩き出しております」

「よろしい、次の質問だ。お前は演技が上手いか?」

「そうだな、この通り私はいかなる存在にもなりきることが出来る」

 なんとヅーイの口からゾゴーリそのままの口調かつゾゴーリそのものの声がし、思わず二人は後ずさる。

「へっへ……ご無礼をお詫びいたしやす。この通りあっしは様々な者に化けることが出来るでやんす、お望みとあらばゾゴーリ様、貴女にだって化けて見せやしょうか?」

 自信たっぷりに笑うヅーイを見て、ゾゴーリは満足気に頷いた。

「良かろう、その無礼もお前の自信の現れと取っておこうか」

「寛大な処置に感謝致しやす」

「では最後の質問だヅーイ……お前はジャガックとこの私に忠誠を誓うか?」

 ヅーイは目を瞑って頷いた後で、ゾゴーリとルゲンの方を向いて静かに聞く。

「ゾゴーリ様、どうかあっしの話を聞いてくれやすか?」

「ああ、話してみろ」

 深く呼吸して調子を整えたヅーイは、ゆっくりと語り始めた。

「感謝致しやす。知っての通りあっしの種族であるナキトシュラガラパドリアスは、原始的な生活をしている者が多いんでごぜぇやす。あっしの生まれた所はフェルナーⅡの山の中だったんでごぜぇやすが、ガキの時分に土地開発の煽りを受けて端金渡されて追い出されやしてね……親父やお袋を初めとした大人達はガラサン星系のアビュルーⅣのベルファグ村に落ち延びやした」

 これは宇宙の辺境の治安が悪い地域ではよくある話だが、確かに当人にとっては悲劇という他ないだろう。

「元々あっし達は慎ましい生活をしていたんでありやすが、移住に関する諸問題やら周辺住民とのあれやこれやで、貯蓄はあっちゅう間に使い果たしてしまいやして……だからあっしのような若い衆が働きに出にゃならんのです」

 そこまで語ったヅーイは立ち上がって捲し立て始める。

「故郷から出たばかりで右往左往していたあっしを拾ってくださったのは他ならぬこの組織でさぁ! あっしにはこの組織に貰った多大なる恩があるでやんす! それを自分の才能で返せるなら本望でさぁ!」

 ヅーイの熱量に心底満足したゾゴーリは三つの目を細めてニィッと不気味に笑うと上左手の指を鳴らし、背後の窓を展開してヅーイに地球を見せた。

「では行くがよいヅーイ。お前の力でマグナアウルを倒す一歩を切り拓くのだ!」

「へぇ! 必ずや結果を出してご覧に入れやしょう!」

 ヅーイが去った後、未だ笑い続けているゾゴーリに気付いたルゲンは不思議に思って真意を問う。

「何故笑っておられるのでしょうか?」

「考えてもみろ、あいつは外の世界をあまり知らない。強い奴をそこそこの金で長く飼えると考えればいい買い物だとは思わないかルゲン?」

 その心底邪悪な笑みに長年仕えてきたルゲンも思わず身震いしてしまう。

「確かにそうですな……万が一奴が幹部になったとしても褒賞はそこまで高くなくて済みそうですな」

「もしかするとクドゥリ……いや、イダム以上の逸材かもしれんな」

 イダム。

 その名を聞いたルゲンの顔が一瞬不快そうに引き攣り、ゾゴーリに気付かれる前に平静を装った。

「まあ、クドゥリとイダムは相当なやり手だ、せめてヅーイはクドゥリの親衛隊の三姉妹に並ぶ程度の働きを期待しておこうか」

 ついに始動したニセマグナアウル計画、果たしてこの恐るべき計画はどのような爪跡を残すのだろうか?


 恐るべき計画が始動している事はつゆ知らず、京助はクリスマスの予定についてずっと考えていた。

「何なんだろうな……」

 クリスマスデートをしようと言った二日後、奏音と通話した時に『今回は全部私が予定立てていい?』と言われたのである。

 その際に奏音の家に泊まれる準備だけしておいてほしいと言われ、それ以来京助の頭はクリスマスの事で頭がいっぱいなのだ。

 外出する度にまるでこの憂鬱な状況を吹き飛ばさんとするかのように派手になっていくクリスマスの飾りを見ていると、ついつい奏音の事を考えてしまう。

「一体何が起こるんだ……」


「おいーす、奏音来たぞ……何だこの箱」

 奏音の部屋に入ると、大きな箱が置いてあるのが目に入る。

「これクリスマスプレゼントか? いいな直江家は、おじさんとおばさんからまだプレゼントを貰えて……うわっ⁉」

 突如箱がバラバラになり、中から奏音が出てきた。

「おま……ちょ……何だその恰好⁉」

 京助はいきなり奏音が現れたから驚いたのではなく、奏音の着ている服に驚いたのだ。

 というかこれは服ですらない、ピンク色のリボンを全身に巻き付けて局部のみを隠している服未満の何かである。

「京助……あの日から今まで、あんたはクリスマスプレゼントを貰ってないんだよね?」

 倒れた京助にほぼ裸の奏音が覆いかぶさり、上気した顔がぐっと近づく。

「だから今年は特別……私があんたのプレゼントになるから」

 お互い赤い顔が接触寸前に近付き、奏音の形の良く程よい大きさの乳房が自分の胸に当たり、更に首筋を撫でられて背筋に官能的な感触が走る。

「あ……かっ……奏音っ⁉」

「忘れられないクリスマスにしよっ?」

 そう囁かれて耳たぶを甘噛みされ、辛抱たまらなくなった京助は……。


『バカなんですか?』

「あーっ! おい! よくも水を差してくれたな!」

 今の情景は全て京助の妄想である。

 健全なる男子高校生による不健全な妄想に過ぎない。

『脳が変な働きをしていると思って見に行ってみたらこれですよ。さすがに突っ込みたくもなります』

「あと少しで奏音の全てが見れたというのに……」

『所詮妄想のものでしょうに』

「妄想のものでも見たかったんだよ!」

『形状は算出済でも乳輪の大きさや乳首の色などは全くの未知な訳ですから結局は虚しい妄想ですよ』

「うるせ~! くそ! もう一回あの情景を……だーダメだ! 雑念が入って集中できない!」

『それこそ雑念では?』

 何度やってもあの妄想を完全再現することが出来ず、京助は長く大きい溜息を吐いてからスマホをいじり始めた。

「あー、なんか来たっぽいな」

 ジャガックの襲撃を知らせる通知が届き、京助はスマホを充電ケーブルに差してアウルレットを出現させようと手を前に伸ばす。

『あれ……京助、お待ちを』

「んー、なんだ俺が行くまでもないって?」

『変なんです』

「変って?」

『テレビをつけてください』

 よく分からないがトトに従ってテレビをつけ、ジャガック襲撃の速報がやっている局に合わせると奇妙な光景が広がっていた。

「……は⁉」

 カメラには確かにジャガックが送り込んだ球体に手足や武装を生やしたかのような重厚な見た目のロボットが映っている、だがその前に立ちはだかるのは……。

(マグナアウル)⁉」

 何故だ、そこに立っていたのは他ならぬもう一人の自分である。

『どういう事でしょうか』

「わかんねぇ……けど行くぞ! 何が起こってるか確かめるんだ!」

 指を鳴らすと瞬間移動しており、超能力が無くなったわけではない事がこれで証明された。

「あいつか……」

 マグナアウルは自分の方を向いたジャガックのロボットに指を突きつけて宣言した。

「よく聞けジャガック! この街はこの俺が生きてる限りお前達のような悪魔の好きにはさせないぞ!」

「俺はそんなベタベタな事言わな! ……っと危ない」

 戦場を囲む群衆から少し離れている所から見ているとはいえ、人に見られたら危ない人物と思われてしまう。色々思う所はあるがここは我慢である。

「フン! こっちとしても貴様との付き合いに飽き飽きしていた所だ! この最新型殲滅ロボットのザファーで息の根を止めてやる!」

「いざ勝負だ!」

 なんだこいつはと顔を歪めていると、突然戦闘が始まった。

「喰らえっ!」

 ザファーのビームがマグナアウルを撃ち抜こうとするもマグナアウルはそれを跳躍で回避する。

「今のは避けたら人に当たるだろ! 周囲を見てから……アアッ! イライラする!」

 周囲の被害を顧みず、スタイリッシュな上辺だけの跳躍回避に京助は苛立ちを隠せない。

フラミンゴ()!」

「フラッ⁉ フラミンゴォ⁉」

 武器の生成コード設定の時に候補から真っ先に外した鳥の名前が出てきた事に驚いていると、マグナアウルは片刃の直刀を取り出した。

「おりゃあああっ!」

 ザファーに斬りかかるも太刀筋は熟練こそしているも凡庸で、まだまだ力でゴリ押している感じが丸見えである。

カカポ(チェーンハンマー)!」

 これまた生成コードの候補から真っ先に外した名前が飛び出したことに京助が驚き苛立っていると、今度はチェーンで繋がれた棘付き鉄球型ハンマーを取り出して振り回しながらザファーに攻撃を加え始める。

「うおおおっ! しゃあっ!」

 それでも力だけはあるようで、遠心力を乗せた一撃でザファーは吹き飛ばされてしまう。

「あ……」

 ザファーが浮き上がった一瞬、マグナアウルの全貌が見えた。

「違う」

 マグナアウルの藍と焦茶の装甲の所々に灰色のラインが入っており、(ヘルム)の目尻が尖っている。

 更に腕と足に三本のカッターが追加され、爪先の梟の爪の意匠である装飾が無くなっており、代わりに奇妙なほどに先端が尖っていた。

「……遊星から来た兄弟」

 特撮番組でよくある〝ヒーローの偽物〟のお約束をなぞるかのような特徴に、京助はなんだか脱力してしまった。

 だがこれで分かった、この目の前で戦っているふざけた野郎はジャガックが遣わせた偽者のマグナアウルである。

「これで終わりだ!」

 ニセマグナアウルはチェーンハンマーを投げ捨てると助走を付けながら跳躍し、空中で何度も旋回しながら片足を突き出す。

「アウルキィィィィイック!」

「そんな技はねぇ!」

 京助のツッコミと同時にザファーが爆散し、周囲の群衆は勝利に歓声を上げ、ニセマグナアウルに群がって来た。

「みんなありがとう、本当にありがとう! ちょっと聞いてくれ!」

 ニセマグナアウルに群がっていた者達はしんと静かになる。

「実は今日……見せたいものがあるんだ」

 そう言って取った行動に京助は思わず目を見開いた。

「初めまして、鳳梟一(おおとりきょういち)って言います!」

 なんとニセマグナアウルはアバター体を返還し、人としての姿を晒したのである。

「え……マジか!」

「めっちゃイケメン!」

「モデル? 俳優?」

 群衆の称賛の声に気を良くしたのか偽りの人間の容姿でニセマグナアウルは白い歯を見せて笑うと、腕を広げて勇ましく語り始めた。

「今まで俺は自分正体を晒すことを恐れていた。けど最近、みんなから応援されることが増えてきて……やっと決心がついた! これを俺からの信頼の証として受け取ってほしい!」

 やられた、完全にやられた。

 もしここでこの唾棄すべきくそったれを偽物だと詰ろうものならばむしろこっちが糾弾される、こちらが本物であると証明できない事を上手く利用されてしまった。

「今回は見逃そう……必ず後悔させてやる」

 京助は掌に息を吹き付けて羽毛を一枚生成して空中へ飛ばすと、そのまま人混みの中へ姿を消すのであった。


 ニセマグナアウルが現れてから数日。

(へっへっへっへ、上手く行ったでやんすよ)

 容姿端麗な地球人の姿で往来を歩きながら、ヅーイはここ数日で受けた称賛の声を思い出して感傷に浸っていた。

(それにしても、あんなに黄色い声援を浴びたのは生まれて初めてでやんすなぁ……気分がいいでやんす)

 さっきせがまれて書いたサインや、握手を求められた手の感覚を思い出していると、近くの公園で子供たちが言い争っている声が聞こえてきた。

(本物が全く現れない事が不安点ではあるでやんすが……お? なんだ?)

「絶対違うって!」

「なんでそう頑固なんだよ」

「まあ確かにネットじゃそういう意見もあるけどさ」

「断言できるよ! あれは絶対違う!」

 何やら喧嘩が起こっているらしい、喧嘩を仲裁すれば好感度が上がり、裏切って見せた時に与える衝撃も大きいだろうと考えたヅーイは仲裁に向かう。

「こらこら君達、何喧嘩しているんだい?」

「あ! マグナアウルのお兄さんだ!」

「ホントに⁉」

「本物だ!」

 今話題の時の人が現れた事に殆どの子供たちは大興奮でこちらに走って群がって来たが、何人かはこちらを不審そうに見ていた。

「ハハハ、何だい君達。どうしてそんな目で俺を見るんだい?」

「そう! そうだよ! 聞いてよマグナアウル!」

「聞く聞く、どうして喧嘩してたかお兄さんに言ってごらん?」

 故郷のベルファグ村でよく喧嘩の仲裁をしたなと懐かしく思いながら、子供の訴えに耳を傾ける。

「あいつら、あのマグナアウルは偽物だって言うんだぜ!」

「ごっは⁉」

 予想外の精神的ボディブローを喰らったヅーイは思わず擬態が解けそうになった。

「ななな、なんでそう思ったでや……そう思ったんだい?」

「あいつ自身から聞いてよ」

 そう言って一人の少女が指した先に居たのは京助と心を通わせ、ルゲンによる小学校占拠事件解決の立役者となった少年、八坂清桜(やさかきよはる)であった。

「正直に言ってよ、あなたは偽物でしょ?」

 かつての清桜からは考えられない程堂々と物怖じせず言ってのける様子に、ヅーイは内心たじろいだ。

「何を言うんだい、俺は正真正銘マグナアウルさ」

「じゃあいろいろ違うのはどう説明するのさ!」

「違う?」

 清桜はランドセルからスケッチブックを取り出してページを捲る。

「おお、上手な絵だね」

 ヅーイはスケッチブックに触れようとしたが、清桜はヅーイを睨みながらそれを振り払って東屋の机の上に皆に見えるように置いた。

「相変らず上手いよね」

 そこには見開きでマグナアウルが描かれており、どちらも色鉛筆で彩色されていた。

「いい? こっちが今までのマグナアウル、それでこっちがここ何日かで出てくるようになったマグナアウル」

 ヅーイも含めて子供達もスケッチを囲んで見て、皆様々な反応を見せる。

「確かにこうして見ると全然違うなぁ」

「でもこのぐらい……うーん……」

 最初は清桜の事を疑っていた子供も、これを見せられて揺らいでいる。

「許せないんだ! 僕の命の恩人の名前を騙るような奴は!」

「確かに……清桜ってあの時マグナアウルに直接助けられたんだよね」

「そっか、そんな清桜君が言うならあれは偽物なのかも」

「なんか疑ってごめんね、もう少し話を聞くべきだったかも」

(ま、まずい! なんとか……誤魔化さないと!)

 疑惑の視線が増えていく中、何とか誤魔化せないかヅーイが考えていると、別の所から誰かが駆け寄ってくる声が聞こえた。

「おーい! 清桜!」

 助かったと思って一安心していると、髪の毛の一部が白い高校生程度の少年がやってきた。

「あ! 京助君!」

「どうしたんだみんな集まって? あ……ああ! マグナアウルさんじゃありませんか! ファンなんです! 握手してください!」

「あ、ああ! 握手ならいつでもかんげ……」

「違うよ!」

「……違う?」

 困惑する京助に清桜とその周囲の子供たちが口々に事の経緯を説明し、机の上のスケッチブックを見せた。

「はぁ~、確かにこうしてみると違うなぁ!」

 またもや訪れた危機に、ヅーイの管型の心臓が早鐘を打つ。

「そうだ! 証明になるいい手がある! マグナアウルはな、つよーい超能力が使えるんだ」

 何を言い出すかと思ってヅーイは京助の方を見たが、その目に宿る不気味な光に反射的に後退りしてしまった。

「どうですか? この子たちの前で超能力を実演してみたら証明になりませんか?」

「は……ハハハ、そうだね!」

 これは困った、ヅーイの到達次元はせいぜい良くて八次元程度、この姿やあのマグナアウル姿はアバターではなくただの種としての固有能力で変態しているに過ぎない。

 初歩的な念力(サイコキネシス)発火(パイロキネシス)ぐらいなら出来るが、到底本物には及ばない。

 だがここで断ってしまうと、ますます疑念を深めてしまう。よってヅーイにはこの申し出を受ける以外の選択肢は無いのだ。

「いいだろう! ドンと来いさ!」


 二分後、ヅーイは目隠しをされて公園の真ん中に放置されていた。

(あっしは何をされるでやんすか……)

 京助からは「予知能力のテスト」としか聞かされていない。

 当然ヅーイには予知能力は備わっていない、よって長年の狩猟生活で培った鋭敏な感覚が頼りだが、本来の姿ではない今どの程度それが発揮できるか。

 不安に思っていると、風を切る音が迫ってきて咄嗟に伏せて躱し、子供たちの感嘆の声が聞こえてきた。

「おお、やるなぁ」

 今何が起こったかというと、目隠しをしたヅーイに向けて京助が一人の少年から借りたバットでフルスイングを見舞ったのである。

「ハハハ……君もね」

 体が熱いのか寒いのか分からなくなってくる中、ヅーイにとっての地獄の時間は続いた。

 京助のバットのスイングは一切の躊躇いも手加減もなく、かつ時々変則的な軌跡を描く。

 そしてとうとう。

「ハァ……ハァ……うぐぅっ⁉」

「もらった」

 右肩にバットが命中し、ヅーイは倒れてしまった。

「あああ! ごめんなさい!」

 人間的な外見をしているものの、やはり中身は人間より遥かに丈夫な異種族、骨折こそなかったが、まるで内側から何かが破裂したかのような感覚にヅーイは思わず悶絶した。

(なんだこれ……内側から痛みが来るでやんす!)

(人体の感覚じゃねぇな。確信した、こいつ宇宙人だ)

 なんとか肩を抑えながら立ち上がり、ヅーイは痛みに冷や汗をかきながらサムズアップを上げた。

「ごめんなさい……大丈夫ですか?」

「あ……あぁ……俺はマグナアウルだからね」

 強がって見せたが、子供たちの反応は冷ややかである。

「みんな見てくれ! ちょっと失敗したけど大丈夫みたいだ! どうかな? これで証明になったかい?」

「なってなーい!」

「清桜が正しいよこれ」

(うぅ……どうすれば……)

「そっかぁ……じゃあごめんなさい。も少し証明に付き合ってくれますか?」

 子供たちが見ている、使命よりも良い恰好をしたいという意欲がふつふつと湧き出てきて、ヅーイは京助の方を見る。

「お手柔らかに頼むよ」

 自分の名前を騙ったくそったれ野郎を次はどう甚振ってやろうか考えながら、京助は次の〝証明〟の準備に取り掛かるのであった。


「つ……疲れた……」

 散々な目に遭った、念力と発火の証明と言われて石を投げられ、瞬間移動の証明と言われて今度は複数人の子たちからボールを持って追われ、京助からはバットで追い回された。

「どうだい皆? この人が本物だと思う人!」

 おずおずと手を上げたのが三割程度。

「偽物だと思う人!」

 清桜を筆頭にさっと素早く七割の子供たちが手を上げる。

「そっかぁ……でもまあ、この人は色々付き合ってくれる優しい人なのは間違いない。本物か偽物かはともかく一人一人お礼を言おう!」

 普通にお礼を言う子や、失望した目や冷めた目を向ける子、清桜は睨みつけながら軽く頭を下げるだけで立ち去り、ヅーイはなんだか疲労感が増した。

「ありがとうございました……あの……」

「……ああ、どうしたんだい?」

「私は、あなたがマグナアウルだって……信じてますよ」

 その言葉に目を見開いたヅーイは膝をついて目線を合わせる。

「本当かい?」

 奇しくもその子は真っ先に駆け寄った子の一人であった。

「あの時ジャガックのロボットから私とお父さんを助けてくれたのはあなたなんです。だから……」

 故郷ベルファグ村の幼いきょうだいやその友人たちをその子に重ねたヅーイは微笑んでその子の頭を撫でた。

「ありがとう。君は何て言うんだい?」

「小春、植野小春」

「小春、君の事は絶対に忘れないよ」

「ホントに!」

 ヅーイの胸の奥から温かいものが湧き出ると同時に、冷たく鋭い針が喉元を突き刺す。

 マグナアウルとしても、助けたのも全部嘘なのである。

「ああ、絶対に忘れないよ。君のおかげで……マグナアウルとしてやって行けそうだ」

 小春に向かって微笑むヅーイの奥にある罪悪感を、京助はしっかり見抜いていた。


 今日は散々な目に遭ったが、最後に贈り物を貰った事で、なんだか温かい気持ちになったヅーイは本来の姿に戻ってから、ジャガックが用意した秘密の拠点の床に寝転がった。

「ふふふ……小春……いい子だったでやんすなぁ」

 なんとなく十二番目の妹に似ている気がして微笑んでいたが、ふとある事に思い至ってその笑みは消えてしまった。

 小春は最初の戦いで自分に助けられたと言っていた、という事は自分たちジャガックのマッチポンプのせいで命の危機に晒されたという事だ。

「あっしはなんちゅうことを」

 今後また狂言戦闘のせいで小春が巻き込まれる可能性だってあるのだ。

 小春だけではない、子供達が巻き込まれるかもしれないし、たとえ巻き込まれたのが子供ではなかったとしても、誰かの親や兄弟姉妹が傷つき命を落とすかもしれない。

「でも……あっしは……」

 ジャガックには恩がある。だがこんな事を続けるのは心が痛い。

 小春の事が皮切りになったのか、ここ数日で受けてきた称賛を裏切るのが、今になって辛くなってきた。

「いいや、あっしはジャガックなんだ。ゾゴーリ様に生かしてもらってるんだ……でも」

 色々考えていると玄関のチャイムが鳴り、思考が中断された。

「お待ちを、今出るでやんす!」

 兵士が補給に来てくれたのだろうと思ってドアを開けると、そこに居たのはロングコートを纏い、フードを目深に被った男だった。

「間違えてやせ……うおっ!」

 何かしら反応するよりも早く、ヅーイは男に胸ぐらを掴まれて拠点から引きずり出された上に放り投げられ、翅を展開して空中で姿勢を制御して地面に着地した。

「何モンだ!」

「何者かだって?」

 男はフードを取ると、露わになったその顔には梟の面が取り付けられていた。

「お前こそ誰だ」

「お前は!」

 ヅーイが動きだすよりも早く男の右腕にガントレット型の装飾が出現し、手を翳して二本のブレードを展開して腕を上に突き出した。

「招来ッ!」

 眩い熱と光が周囲を駆け巡り、ヅーイが反射的に瞑った目を開けると、まず飛び込んできたのは沈みかけの夕日に照らされる梟の(ヘルム)だった。

「本物!」

「偽物という自覚はあったらしいな。俺の名前の使用料を払ってもらう」

 ヅーイは腕を交差させて擬態能力を発動し、ニセマグナアウルに変身する。

「払ってもらう? びた一文払わねぇでやんすよ。もうマグナアウルはあっしらジャガックのモンでぇ」

「払うのは金じゃない……命だ」

 そう宣言するなりマグナアウルは猛スピードで突っ込んで来て、ニセマグナアウルは突き出された腕を掴んで投げ飛ばした。

「少しはやるようだ……スワロー()

フラミンゴ()!」

 マグナアウルが剣を生成したのを見てニセマグナアウルも対抗して、今度はこちらから仕掛ける事にした。

「でやっ!」

「ふっ!」

 膝をついたままのマグナアウルへニセマグナアウルが剣を振り下ろすも剣の腕の差は明確であり、マグナアウルは容易くいなしてじりじりと追い詰めにかかる。

「分が悪いでやんすね! ダック(ブランダーバス)!」

 咄嗟に距離を取ってブランダーバス(ラッパ銃)を放つも、マグナアウルは銃弾を全て斬り捨て、唖然とするニセマグナアウルに肉薄して剣による突きを見舞う。

「うっく!」

ウッドペッカー(ハンドガン)

 ニセマグナアウルが左へ回避した所にマグナアウルが生成したハンドガンの連射を打ち込み、吹き飛ばされたにも関わらずなおも連射を続ける。

「ぐっ……ぐあっ! カカポ(チェーンハンマー)!」

 丈夫な外骨格でも容易く貫通した半物質弾の威力に慄きつつ、ニセマグナアウルはチェーンハンマーを生成して跳躍して旋回しながら遠心力を乗せた一撃を見舞い、マグナアウルを吹き飛ばしてしまった。

「うおっ!」

「まだまだぁ! キーウィ(苦無)!」

 吹き飛ばされたマグナアウルへニセマグナアウルは円錐型の苦無を投げつけて追撃したが、マグナアウルはチェーンを近くの木に巻き付けて回避しつつ体勢を立て直し、ニセマグナアウルの正面へ着地する。

「うっ! おおおっ!」

 ニセマグナアウルは一瞬たじろいだがマグナアウルへ掴みかかり、しばらく揉み合うがマグナアウルがニセマグナアウルの膝を横から軽く蹴った事でバランスが崩れて後退してしまう。

「オラッ! ……ってぇ!」

 そのままマグナアウルがニセマグナアウルへ顔面目掛けた強烈な手刀を浴びせるも、予想外に硬い外骨格に指を痛め、手を振って痛みを逃す。

「くっ……ほあっ!」

 ニセマグナアウルが咄嗟に跳躍して逃れようとしたところへ、マグナアウルは青い炎と電撃のコンビネーションを放って撃ち落としてしまった。

「うう……ぐぅぅ……」

 銃撃によるダメージに響いたのかニセマグナアウルは腹を押さえて苦悶し、ついに擬態が解除され、元のヅーイとしての姿に戻ってしまう。

「もう終わりだ偽物、諦めて殺されろ」

「……あっしァ……まだ……死ぬわけにゃいかん……村のみんなが……待ってんだ!」

 ヅーイはそう言って立ち上がると、再び体を外骨格で覆って姿を変化させた。

「……ほう、それがお前の本性か」

 複眼に大きな触覚、左腕には鋏で右腕には鎌が備わり、尾には一目で毒があると分かる針が備わっている。

「こいつはあっしの狩装束でさぁ……あっしを本気にさせた事、あんたといえども後悔するぜマグナアウルさんよ!」

 そう言うなりヅーイは背中の翅を高速で動かしてマグナアウルへ突進して空中へ持ち上げた。

(こいつ! さっきと動きが全然違う!)

 なんとか振りほどいて拘束を解くも、ヅーイは尾から白い粘液の塊を飛ばし、マグナアウルは被弾して叩き落とされた。

「蜘蛛の糸かこれ!」

 火で焼いてヅーイの方を見るも、もうかなり遠くになってしまっている。

「逃がすか!」

 

 ヅーイはマグナアウルに一杯食わせた事で有頂天になっており、飛びながら哄笑を上げていた。

「逃げ切れた! あっしは生きて……ッ!」

 体を掠めた光弾に咄嗟に振り返ると、三メートル弱ほどの大きさの小さな戦闘機がこちらへ迫っていた。

「こいつぁ確か飛行形態!」

 飛行形態のマグナアウルは容赦なくガトリング砲をヅーイに浴びせ、ヅーイは複眼と飛行能力を活かして回避するもマグナアウルはしつこく食らいついて来る。

「やっぱり一筋縄では行かねぇ野郎でやんすなぁ!」

 尻尾から毒針弾を放って対抗する藻マグナアウルは旋回して容易く回避し、今度はミサイルを放ってきた。

「くっ!」

 ばら撒かれた無数の小型ミサイルへヅーイが蜘蛛糸弾を放って自滅させたのを見るや、今度は中型ミサイルを生成して放ってきた。

「こいつ! どれほど弾を隠してやがんでぇ!」

 中型ミサイルには蜘蛛糸弾は効かず、ミサイルが接近する直前にヅーイの尻尾から超高温ガスを噴射して自滅させる。

「さすがにネタ切れで……あぁ?」

 マグナアウルの機体下部に、巨大なミサイルが生成されるのを見てしまった。

「嘘だろ!」

 巨大ミサイルが発射され、ヅーイは進路からなるべく距離を取ることで回避するも、装甲がパージされて現れた無数のクラスターミサイルは避ける事は出来ず、ヅーイは大ダメージを受けながら夜の真鳥市へ落下していくのだった。


「ああっ!」

 夜も更けたの真鳥市では、多くの会社帰りの人々や登校日の学校や塾だった生徒等でごった返しており、そこへ何かがクレーターを作りながら落ちてきた事で大騒ぎになった。

「えっ⁉ 何⁉」

「自殺者か?」

「とりあえず危ないから下がって!」

 そのうち野次馬が出来てきて、皆粉塵が舞うクレーターへスマホを向ける。

「ああ……うぅ……」

 苦しそうな呻き声と共にクレーターから出現した明らかに人間ではない手を認識した途端、野次馬の多くは小さく悲鳴を上げた。

「こいつ宇宙人か?」

「てことは……ジャガック?」

「……あ、ねえ! 見て!」

 一人が別の方向を指した事で皆一斉にそこを向く。

「おお!」

「マグナアウルよ!」

 月をバックにマントを広げたマグナアウルがゆっくりと降下しており、我が町のヒーローの登場に多くの真鳥市民たちが湧いた。

「マグナアウルが来てくれたぞ!」

「待てよ……てことはこいつ……ジャガックの宇宙人か!」

 クレーターの周りに居た野次馬達は蜘蛛の子を散らすように後ずさった。

「このクソジャガック! お前達のせいでウチの坊主が怪我して入院してんだよ!」

「二か月前にあんた達が壊した図書館! 私の思い出の場所だったのに!」

「うちの子があんた達のせいで学校が全休になって! 友達に会いたいって寂しそうな顔するのよ!」

「ウチのおばあちゃんなんかやってた店がお前らに潰されたんだよ!」

「私達なんか学校行事全部中止! あんた達みたいな侵略者のクズのせいで! どうしてくれんのよ!」

「ジャガック! 出てけ!」

「そうだそうだ! 出てけ出てけ!」

 出ていけのコールと数々の罵詈雑言が満身創痍のヅーイに浴びせられ、意識が再び朦朧としていく。

(ジャガックは……こんなに恨まれてるでやんすか……)

 ヅーイはジャガックが買っている恨みを生で感じ、それは同時に自分が受けた偽りの称賛の裏返しであると理解した。

(あっしは……この罵詈雑言を……見ず知らずの星の赤の他人に吹っ掛けようとしたでやんすか……)

 村を救う金のため仕方がないと言い聞かせてきたが、この仕事で得た金を郷里の家族や村人たちに渡せるのだろうか?

(あっしは……あっしは……)

 朦朧としている意識は、首への痛みで引き戻された。

「終わりだ」

 マグナアウルに首を掴まれ、三本の鉤爪を向けられる。

「くぅ……ぐぐぐ……」

 苦しい。

 故郷の狩りで高い所から落ちて体を痛めたり、首を締めあげられるなどよくあった事だが、今はそれ以上に心が苦しい。

 少しばかり後ろ暗い組織だとは薄々感付いていたが、まさかここまで恨みを買っているとは想像だにしなかった。

「うがああっ!」

「くっ!」

 ヅーイは渾身の力で鋏をマグナアウルの腹に突き立てて尻尾から蜘蛛糸を発射してその場に縫い留め、再生させた翅で一目散に逃げ出す。

「……ああっ!」

 青い炎で体にまとわりつく粘性の糸を焼き尽くすも、途中でワープしたのかもはやヅーイの姿はどこにも見えなっていた。

「大丈夫だった?」

「ん?」

「いつもありがとうね」

「頼りにしてますよっ!」

「早い所ジャガックなんてみんなぶっ飛ばしちゃって!」

 市民たちが口々にマグナアウルへ感謝の言葉を掛け、マグナアウルは取り逃がしただけに少しばつが悪いように感じた。

「ありがとう、だが今度からジャガックを見かけたらすぐに距離を取るんだ。なるべく君達を巻き込みたくないからな」

「あ……あはは、ごめんなさい」

「あらら、迷惑でしたかしら?」

「大丈夫だ。君達の安全は俺とあの五人が必ず守る」

 そう言うとマグナアウルはマントを広げ、月光へ向かって飛び去って行くのであった。


 翌日、ニセマグナアウルに取り付けた探知羽毛を追い、京助は市街地へ向かった。

『あの恥知らず野郎、俺にボロ負けしておいてよくのこのこ街に出れるな』

『恥を知っているなら自分達の恐怖の象徴に化けたりなんかしませんよ』

『てかクインテット側があれ以来何も反応無いの怖くねぇか?』

 マグナアウルの正体公表についてウィルマーズ財団は当日に会見を行い、纏めると当人とコンタクトを取って今後の連携を計っていく事と、それが完了するまで何も答えられないという事を言っていた。

『まあコンタクトなんて取れる訳ねぇよなそもそも鳳梟一なんて人間は存在しねぇんだから』

『何とかしてこびり付いたこの印象(ヨゴレ)を落とせないものでしょうか?』

 今回のニセマグナアウルの作戦が悪辣な点は、マグナアウルが正体を公表したという事実を作った事だ。

 これで一気に動きにくくなってしまった、いっそのことマグナアウルの姿で往来で暴れまくってくれた方がまだ手の打ちようはあったように思う。

『しっかしあいつどこに居るんだよ……あ』

『見つけましたね』

 人間の姿をした擬態野郎は、電化製品店の前のベンチが置いてあるだけの小さな公園で大勢の人達に囲まれていた。どうやってとっちめてやろうか考えていると、この前清桜と一緒に居た小春という少女を見かけ、京助は苦虫を一万匹まとめて嚙み潰したかのような顔になった。

『行かないのですか?』

『そーりゃ行きたいけどな……ああクソ……俺はどうすりゃ良いんだ』

 そもそも会いに行ってどうするかを全く考えていなかった。

 前回はどの程度の力を持っているかを試す目的でテストという名の嫌がらせが出来たが、今回は特に何をするという訳ではなく、本性を隠した状態では嫌がらせ位しかする事がない。

『まるで俺の方が悪役みたいじゃねーか! クソが! 余計な事しやがって!』

 全く以て悪辣だ、もしここで戦いを挑もうならこっちが偽物扱いだ。

 どうすれば良いか苛立っていると、空中でワープゲートが展開して見覚えのあるロボットが現れた。

「あいつ!」

 ジャガックのザファーという侵略ロボットである。よく見れば細部が異なっており、この数日で改修された事がわかる。

「計画……実行!」

 野太い声がザファーのスピーカーから発せられると同時にその丸い体から生えた手足を振り回し、胴体にある〝目〟の部分から赤熱光線を放って周囲のものを焼き尽くし、我が物顔で進撃を始めた。

「あれこれ考えてる暇は無いみたいだな」

 どこか隠れられる場所を探しておると、ヅーイと小春が一緒にいるのが見えた。

「何やってるんだ?」

 京助は逃げる人々や野次馬に紛れ、ヅーイの様子を伺う事にした。

 

 ザファーがスピーカーから発せられた計画実行は、ヅーイに向けた言葉である。

 つまり今日が〝裏切りの日〟なのだ。

 だがヅーイは揺れていた、裏切った後の姿を見られたくない。

 だから周囲に居た人間は全て逃がしたのに、肝心のあの子だけは自分の傍にいる。

「小春ちゃん、逃げるんだ!」

 ヅーイは屈んで小春の肩を持って真剣な口調で諭すも、小春は首を振ってヅーイを真っ直ぐ見据えて言った。

「大丈夫、マグナアウルは無敵だから。それに私、近くで戦ってるところをちゃんと見たいんだ」

「う……」

「どうしたの?」

「……わかった、あまり近付き過ぎないようにな」

 ヅーイは小春を連れて野次馬達の群れに突っ込み、野次馬の一人が〝マグナアウルの人〟に気付いた途端騒ぎと共に道が開け、ヅーイは内心の迷いを悟られぬようにザファーの前へ出た。

「ふぅ……ハァァアアアアッ!」

 気合と共にヅーイの姿が外骨格で覆われ、ニセマグナアウルの姿に変化し、周囲の人々から歓声が起こる。

「計画を実行する。準備は良いか?」

 ニセマグナアウルは後ろを振り返ると、歓声を浴びせる群衆たちに交じって小春が小さくガッツポーズをしてこちらへ熱い眼差しを向けていた。

「どうしたヅー……うおっ!」

 ニセマグナアウルはその場で跳躍して強烈なアッパーカットをザファーに浴びせ、攻撃を受けるとは思ていなかったザファーはひっくり返ってしまった。

「貴様! 何を考えている⁉」

「さぁ、あっしァ何を考えているんでやしょうね」

「ふざけるな!」

「だがこれだけは言えるぜ……」

 ニセマグナアウルはザファーに指を突きつけて宣戦布告を突きつけた。

「あっしァ子供を傷つけるような奴ァ絶対に許さねェ! 恩義がある相手だろうとそれは変わんねェんだ! 勝負だジャガック!」

 もう彼はニセモノではない。

 ヅーイとしての戦いが今始まった。


「ゾゴーリ様! すみませんでした……あいつがまさか……」

 一連の状況を見て顔面蒼白なルゲンをゾゴーリは手で制してニヤリと笑った。

「安心しろ、手は打ってある」

 上左手の指を鳴らすと、合計五つの物体が地球へ送りこまれた。

「裏切りの悲劇の演目は変更……今からはマグナアウルの処刑ショーだ! あーはっはっはっはっは!」

 ゾゴーリはモニターに映し出された地球の状況を狂気じみた笑顔で見つめるのだった。


 マグナアウルの姿を借りたヅーイはザファーと互角以上の戦いを繰り広げていたが、突如ワープゲートが展開して新たに現れた五体のザファーに思わず動きを止めてしまった。

「なんだあいつら!」

「貴様専用の処刑隊だ!」

 ザファーとやり合える力を持っていたとしても、それは一対一での話。

 合計六体のザファーとやり合うのは流石に無理がある、声援虚しく殴られ撃たれ投げ飛ばされ、あっという間にヅーイは劣勢に追い込まれていった。

「くそ……フラミンゴ()!」

 剣を使ってザファーの伸縮自在の腕を斬り払うも、改修に当たって組み込まれたナノマシン回復機能により瞬時に復活するため、キリがない戦いを強いられる。

ダック(ブランダーバス)!」

 ブランダーバスの広い銃口から無数の散弾が発射され、分厚い装甲をぶち抜くもめぼしい効果は得られない。

「だったらキー……うぐああああっ!」

 ヅーイの胴に三体のザファーの目からの光線が直撃して吹き飛ばされ、外骨格の表面を焦げる臭いと痛みを感じ、必死で立とうとするも力が入らずとうとう擬態が解除されてしまった。

「……なんだあれ?」

「どうしたんだ?」

「虫……人間?」

「マグナアウルが……虫人間になった?」

 ヅーイは傷だらけの体で前を向くと、丁度目を潤ませながらこちらを見ていた小春と目が合った。

「マグナアウル? 大丈夫?」

 もう隠し立てはできない、だったら死ぬ前に心残りを解消しておこうと、ヅーイは痛ましい笑顔を小春に向ける。

「済まねぇな小春……あっしはマグナアウルなんかじゃねェ。みんなに嘘……ついてたんだ」

「どう……して?」

「あっしァ……ジャガックだったのさ」

 その衝撃的な告白にどよめきが起こり、小春も潤んだ瞳を見開いた。

「マグナアウルを孤立させるためのニセモノ役があっしサ……今思うと捨て駒だったんだな……ざまあねェ」

 自嘲的に笑うヅーイの腕を二対のザファーが掴み、処刑の準備を整えるべく引き摺っていく。

「小春と会えて、ようやく目が覚めた……そのうち本物かクインテットが来るさ。じゃあな、短い間だったけど……楽しかったでやんすよ」

 引き摺られていくヅーイを見て、群衆は複雑な感情を抱きながらその様子を見守っていたが、ただ一人ヅーイの為に叫んだ者がいた。

「ニセモノじゃないっ!」

 伏せられたヅーイの顔が上がり、その先には震えて泣いている小春の姿見えた。

「あの時あなたは! 確かに私とお父さんを助けてくれた! あの瞬間は間違いなく! あなたはマグナアウルだった! だからお願いっ! もう一度……もう一度立って……」

 最後の消え入りそうなか細い声までしっかりと聞き届けたヅーイは満足げな笑みを浮かべた。

「あっしにゃもったいねェ冥途の土産をもらったでやんす」

「誰か! 誰かあの人を助けて! 死んじゃうよ!」

「これでもう、思い残す事ァ……」

 その時、ヅーイの腕を捕らえていたザファーのうち一体が突如爆発し、何か風を切るような音と共にもう片方のヅーイの腕を捕らえていたザファーの腕が切断される。

「あん?」

 爆炎の中心から再び風を切る音がしたかと思うと黒煙と炎が霧散し、中から黒いマントを靡かせて槍を持つ巨漢が現れた。

「あれは!」

 藍と焦茶の装甲、梟を模した(ヘルム)、青く輝く双眸は。

「本物の……マグナアウルだ!」

 真のヒーローの登場に群衆は今まで以上に沸き立ち、マグナアウルは満身創痍のヅーイの方へ歩み寄る。

「あっしを……助けた? どうして⁉」

「さあな、俺は何をしてるんだろうな」

「はあ?」

「ただこれだけは言える、俺は子供を泣かせる奴は許せない。それだけだ」

 そう言うとマグナアウルは目を丸くしているヅーイに手を翳し、緑色の光の粒子を放って傷を治していく。

「チャンスをやる。もしお前があの子へ罪悪感を抱いているのなら、俺と共に戦いこの事態を収めろ! それがお前に出来る唯一の贖罪だ!」

 完治した体を見つめたヅーイは大きく頷いて立ち上がると、腕を交差させて外骨格で全身を覆って狩装束を纏う。

「やらせてくだせぇ……梟の旦那!」

「フフッ、いいだろう、足は引っ張るなよ」

 マグナアウルは槍の穂先を、ヅーイは鋏を五体のザファーに向け、同時に走り出した。

「裏切者めが! よくも事態を悪化させてくれたな!」

 向かってきたザファーの赤熱光線をマグナアウルが槍を旋回させながら防ぎ、その隙にヅーイが下に潜り込んで鎌で足を切り裂き、切断面に蜘蛛糸弾を放出して再生を阻む。

「やるな! せやっ!」

 赤熱した槍でザファーを切り裂いたマグナアウルは、槍を投げ捨てるとこちらに向かって触手のように腕を伸ばして来るザファーの腕を踏み台にして跳躍する。

シュライク(投槍)! 発火!」

 青い炎を纏わせた投槍を力一杯投擲して二体のザファーに突き刺し、そこへヅーイが尻尾から超高温ガスを吹き付けた事で大爆発を起こした。

「一丁上がり!」

スワロー()! 飛燕斬・穿‼」

 こちらに向かって飛んでくる様々な光線やミサイルを全て弾きながらマグナアウルはザファーを貫き、ついに残り一体にまで追い込んだ。

「最後の一体でやんすね!」

「決め手は決まりだな」

「へぇ?」

「アウルキックだ」

 ヅーイは笑うと背中の翅を展開して飛び上がり、足に尻尾を巻き付けてから一気にザファーへ降下飛行を始める。

「ふおおお……」

 マグナアウルの装甲が近接戦闘型に変化し、それと同時に右足に青い炎や紫電等が迸り、やがてソリッドレイが発生して足を包み込む。

「アウル!」

「キィィィィイックッ!」

 ヅーイの超高温ガスによる爆炎蹴りと、マグナアウルのソリッドレイを纏った蹴りが同時に突き刺さって最後のザファーが撃破され、同時に群衆の声援は大歓声に変わった。

「やっぱ本物は違うでやんすなぁ……」

「なに、俺もそこまで立派なもんじゃないさ」

 狩装束の擬態を解くと同時にヅーイの方へ小春が駆け寄り、涙でいっぱいの笑顔を向け、ヅーイは優しく頭を撫でる。

「教えて、あなたの本当の名前は何?」

「あっしは……いいや、誰かの名を騙ったあっしには本当の名を名乗る資格はありやせん……」

「そっか……でもあの時のお礼がしたくて」

「じゃあその感謝の気持ちを、周りの人たちに使うでやんすよ……ふっ、柄にもねェ事を言っちまった」

 小春はしっかりと頷いたあと、少し恥ずかしそうにヅーイの方を見ながら聞いた。

「あの……また会えますか?」

 ヅーイは小春とマグナアウルの方を見て、静かに首を振る。

「残念でやんすが、もう会えそうにねぇな……」

 塞ぎ込む小春に、ヅーイは屈んで目線を合わせる。

「もう会えないけど、あっしは小春の事を絶対に忘れねェ。小春もずっとあっしの事を忘れないでくれやすか?」

「……うんっ!」

 最後の別れを交わした後、何度もこちらを振り返っては手を振る小春を見ながら、ヅーイは隣にいたマグナアウルへ言った。

「済まなかったでやんすよ。あっしの考えなしだった」

「もういいんだ。お前は贖罪をやり遂げた」

「……いい街だな、ここァ」

「ああ、だからこそ守ってるのさ」

 ヅーイの名残惜しい視線が、十二月の曇天へ吸い込まれていった。


「……」

 一目でわかる、今のゾゴーリの顔は怒りと不快さが交じり合った恐ろしい顔をしている事が。

 ルゲンには彼女の事を直視する自信は無かった。

「……マグナアウル、いつか貴様をこの私に跪かせ、その行いを後悔させてやる」


 ニセマグナアウル騒動から二日後、京助は突然サイに呼び出された。

「なんだよ、また鍛えてくれるのか?」

「まあそれも良いけどさ、今回は会わせたい奴が居るんだ」

 ゼバル号へ招き入れられた京助は椅子と来客用の異星の葉を使ったブレンドティーを勧められ、困惑している間にサイはビデオ通話の準備を始めた。

「おいおい、顔は……」

「ああ、いいんだよ。こっちのカメラはオフだからさ」

 ザルク語のモニターを操作して、サイはビデオ通話を開始した。

「あいつ出るかな。この時間空けとけって言っといたけど」

 しばらくするとホロモニターに側頭部に大小四本の角が生えた四本腕のヒューマノイドが現れた。

「会わせたいのはこの人?」

「いやぁ、会わせたいのはこの不摂生のロクデナシじゃないよ」

『誰が不摂生のロクデナシだぁ⁉ お前の頼みを何度聞いてやったと思ってる⁉』

「お前だって何度ボクに助けられたと思ってる?」

 ビグスは痛い所を突かれたと頭を抱えて溜息をつき、何の用だとサイに問うた。

「新人を紹介してくれ」

『ああ、新人な。おい! ちょっとこっち来な』

 ビグスの呼びかけに現れた者を見て、京助は思わず目を見開いた。

『ご無沙汰でやんす、サイさんに……梟の旦那』

「あいつ……マジか」

 画面越しに照れ臭そうに笑うヅーイと得意げなサイを見比べ、京助はこの驚きを発散しようと試みる。

「あの時に一連の戦いを見てたんだ。その後途方に暮れてた彼と接触して話聞いてみたら金に困ってたみたいだし、ビグスの店で雇わせた」

『真面目に働くのも贖罪かなって思いやすんで……これからはビグスの旦那の下できっちり働かせてもらいやす』

「……ああ! 頑張れよ!」

 改心したヅーイに対し、不思議と悪感情は湧いてこない。

「ジャガックの連中もこんな風にみんな改心すりゃいいのになぁ」

「そうだな、そうなれば君の出番はなくなるよね」

 心を入れ替え新たな一歩を踏み出したヅーイの門出に、京助はささやかなエールを送るのだった。


To Be Continued.

ヒーローあるある、偽物が出てくる。

やりたかったんです偽物回、ヅーイは今後再登場するかもしれません。

もしかしたらもう一度肩を並べて戦ってくれるかも?

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ではまた来週!

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