失った者達の戦い
故郷ルガーノの衛星の泉に潜む黒の力でエグザイル化したクドゥリはを倒す為、マグナアウルは危険な力を解放した上、クインテットとも協力して挑むことに。
サイからクドゥリの過去を知らされた京助は、それでも自分の守りたい者と復讐の為にクドゥリに挑むことを決意する。
果たしてマグナアウルとクインテットは、クドゥリに打ち勝つことが出来るのか?
意識が戻るも目を開けられる元気がないような、ともかくぼやけた意識の中で、京助は二つの温かい気配が自分に寄り添っているのを感じていた。
それは同時に懐かしくもあり、このままずっとここに居て溶けてしまいたいような、そんなある種の誘惑めいた感覚と共に目を開けると、懐かしい顔が二つ浮かんでいた。
「これだけは言いたかった……今までよく頑張ったね」
「たった一人で踏ん張っている。お前はとても強い子だよ」
二人から頭を撫でられ、思わず笑みが零れる。
そしてその二人が何者かを認識した京助はにわかに全身に力を込めて起き上がった。
「父さん! 母さん!」
咄嗟に手を伸ばすも両親の姿はもうどこにもなく、代わりに奇妙な空間に移動していた。
「は?」
まるでシュールレアリズムとカオスとナンセンスをごった混ぜにして出力したかのような、それはそれは奇妙な空間が視界を覆い尽くしている。
「なんだここ……」
京助は一歩踏み出してしっかり歩ける確認した後でその奇妙な空間を歩き出し、自分がどうなったかを必死に思い出そうとする。
「クドゥリと戦った後……結局俺はどうなったんだ?」
組みつかれて焼かれそうになった所まではなんとか思い出せた、だがその後がどうしても思い出せない。
あの後どうなったかはどう考えても思い出せないが、別の事を思い出した。
「黒い炎!」
クドゥリの纏っていた炎は、京助が超能力に目覚めた頃から使えた黒い炎に似ていた。
放てば対象を一瞬で飲み込んで焼き尽くす力を持ち、京助は主に証拠隠滅のためにこの力を使っていたが、サイに警告されて以降は使わないようになったあの力。
「待てよ……確かクドゥリに俺は」
最初のクドゥリとの戦いで黒い炎を腕に浴びせた際、クドゥリは大ダメージを負っていた。
「じゃあなんで俺は無事だったんだ?」
いいや、もしかすると。
「……ここって」
その先を思考するよりも前に、背後で足音がして振り返ると、思い切り肩を押されて空中に投げ出される。
「お前は⁉」
自分を押した者の顔は紛れもなく自分自身だった。だが瞳は赤く、そして髪の色の比率が完全に逆転していた。
「うわあっ!」
急に地面に沈み込むと同時に、視界へ強烈な光が差し込まれた。
「ハァーッ!」
目が覚めると全く見覚えのない所に居たが、すぐにここはあの悪夢めいた場所ではなく現実世界である事だけは認識できた。
「おお、目が覚めたか」
聞き覚えのある高めの声がしてそちらを向くと、サイがコップを持ってこちらに向かってきた。
「飲みたまえ、疲労なんて吹っ飛ぶぞ」
手を伸ばしてコップを受け取ろうとした時、京助は自分の手がマグナアウルの装甲に覆われていない事を認知し、全身が総毛立って両手で顔を隠しながら思わずその場から飛び退いた。
「大丈夫だよボクは誰にも言わない」
呆れながらサイはそう言うが、京助は全く落ち着かない。なにせマグナアウルを知る人物に初めて素顔を晒したのである。
「そんな問題かよ!」
『京助、落ち着いてください。サイと話しました』
「え? どうやって⁉」
これは予想外である、サイから偶に修行をつけてもらうようになって以降も、トトはサイを警戒していたはずである。
『バングルに触れてもらい、サイの心の中で話しました』
「良い眷属だ、忠実で君のことを第一に考えてる」
『サイは気紛れですが、一定の交友を結んだ者は決して裏切りません。そういう者です』
「信用してもらう為にトトをボクの心の中に招き入れた、裏切るつもりなら見抜かれてるよ」
あのトトが絆されている。何はともあれ素顔を知られたのが敵よりマシかと考え、京助は顔を覆っていた両手を離した。
「ほら飲んで」
恐る恐るカップを受け取って飲み干すと、なるほど確かに疲労感が消し飛んで活力が湧いて来る。
「そういやここはどこだ」
「ボクのスターインターセプターの中だよ」
「すたぁいんたぁせぷたぁ?」
『個人用宇宙船の一種ですね。ここは居住スペースのようです』
サイは椅子に座って腕を広げ、満面の笑みで京助に言った。
「ようこそボクのゼバル号へ、君は地球に来て初めてのお客さんだよアウリィ」
この姿でアウリィと呼ばれるのはなんだか違和感が凄い気がするが、そこはサイなりに気を使っているのだろうと早く慣れるよう努める事にした。
「ああ、そうだ。なんで俺はここにいるんだ?」
「まずはそこからだね」
サイは簡単にこれまでの経緯を話し、京助は大きく溜息をつく。
「あいつらが助けてくれたんだな」
「うんうん、新しい装備ってのも多少関係してるんだろうけど、結構力がついて来てるよ。それよりも彼女たちの装備……ああいや、やめておく」
「やめるなよ」
「いや、確定していない情報を喋る訳にはいかない」
このサイという人物は気紛れだが、変なところで芯が通っている。だからこそ完全に信用できない人物ではないのであるが。
「ところで聞きたかったんだが、なんであの日から全然表舞台に出て来なかったんだ?」
「今やこの戦いはジャガックと君達地球人との戦争になってる。だからボクが出張るのは何か違うんじゃないかなって思ってね」
「でもお前、俺に修行つけてくれた時に正式な滞在許可証は貰ってあって、移住も視野に入れてるって言ってなかったか」
「まぁ……うん」
「それにお前、内臓式の翻訳モジュール入れずに独学で日本語喋ってるんだろ?」
「それはボクが今まで行ったどの星でもそうだよ」
「しかもお前、それ」
近くの机には、京助が愛飲している高級緑茶の茶葉が置いてあり、サイは咄嗟に後ろ手でそれを取って自分の後ろに隠した。
「あの唾棄すべき奴らとは違って、お前は地球に馴染もうとしてる。だから遠慮する必要なんてないんじゃないか?」
「でもボクは君達を殺そうとしたんだぞ」
「最初の一回きりだろ。それに俺はお前のおかげで強くなれた」
サイは照れ臭そうに笑うと小さく息を吐いて椅子に深く腰掛けた。
「地球人からそう言ってくれるなんて嬉しいね……まあ雑談はこの辺にしてだ」
サイが指を鳴らすと空中に映像が浮かび上がり、氷漬けになったクドゥリの写真が表示される。
「目下の問題はこいつだ」
「今こうなってるの?」
「ああ、マイナス三千万度の冷気を喰らってこうなってる」
「今度その物理法則を超越した冷凍能力の使い方を教えてくれ」
「簡単だよ、物理法則を無視すればいい。今の君ならきっとできる」
そのやり方を聞いているのだが以前も同じような返しをされたため、自分で何とかやるしかないだろう。
「脱線しかけたから戻すと、クドゥリのあの炎は……」
「ああ、俺の黒い炎だろ?」
「気付いてたか。その通り、別種だけど本質的には君に根付く黒の力と同質だ」
やはり同種の力だったようだ。
京助は口をムの字に結んで自分の掌を眺め、サイはそれに構わず続ける。
「本来なら君がされたように抱きつかれようものなら、五秒と持たず死に至る。だけど君が無事なのは君が黒の力を多少扱えるからかもしれないね……あるいはクドゥリの力を少し吸収したのかもしれない」
「じゃあ俺って強くなったワケ?」
「うーん、あの力は最終的に使用者すら飲み込む恐ろしくてろくでもないものなんだ。黒の力が強くなったとて最終的に待っているのは恐ろしい結末だ、だからその強化はあまり喜べるものじゃないよ」
今更ながらここ数年にわたってそんな力を使い続けていた事が恐ろしくなってくる。
「でも今回の一件で君はあの黒の力に対する耐性がより強くなっているはずだ。だから君はより長時間クドゥリと近距離でやり合える可能性が高い」
「そうか……」
とりあえず戦いの土俵に立てるようで京助は一安心した。
「だが問題は君がクドゥリを倒せるかだよ。当てはある?」
安心こそしたものの、また別の問題が浮上した事で京助はまた唸る事になった。
「その悩み方は大方上手い方法はあるけどそれに問題がありそうな感じだね」
京助は上目遣いにサイを見ながら絞り出すように言う。
「あるには……ある」
「へぇ、あるんだ。どんなの?」
「ソリッドレイ」
サイは一瞬何のことか分からないといった風に上を向いたが、言葉の意味を脳内で照会してそれが何なのか気付くと思わず立ち上がって京助に顔を寄せた。
「使えるのか⁉ アレを!」
「ああ、完全に習得するまでに……」
京助は両掌を合わせて力を込めて離すと、その間に凄まじい光を放つ青白く光る楕円形の光の塊が発生していた。
「三年かかったけどな!」
サイは腕だけアバターを呼び出して京助が出したソリッドレイの塊に触れ、思わず感嘆の声を漏らす。
「三年で……凄いな、ボクは習得を諦めて自分の特性を磨くことにした」
「あの嵐を発生させるのもなかなかヤバいし、アバターを一部分呼び出すことの方がよっぽど凄いよ」
掌を再び合わせてソリッドレイの塊を握り潰し、京助は少し疲れたように一息ついた。
「なんでそんなものが使えたのに今まで使って来なかったんだい? それさえあればクドゥリどころか大侵攻の時ジャガックは倒せただろうし、ボクと初めて戦った時だってあんなことにならずに済んだのに」
「使うにあたって懸念すべき問題が二つある。まずこいつを使うと消耗が激しいんだ」
ソリッドレイとは、簡単に言ってしまえば硬さを持つに至るまで高濃度に凝縮したサイコエネルギーの塊である。もちろん超強力なのだが、当然ながらその分体力を他の力よりも大きく使う。
「まあそりゃそうか、仮にボクが使えたとしても結構疲れるだろうね」
「まあこっちはどうでも……良くは無いけど、どうでも良い。問題は二つ目の方、周囲への被害だ」
「ああ、まあそうだよネ」
マグナアウル程の力を持つ者が自身のエネルギーを高濃度に凝縮したものを投げつけようものなら、当然余波は凄まじいものになり、当たれば良いものの外してしまえばジャガック以上の大損害を周囲に与えてしまうのは想像に難くない。
京助はそれを恐れて今までこの力を使ってこなかったのである。
「よりにもよってあの女は市街地に現れやがった。山の中とかならまだ良かったけどさ」
「……一つ聞くけど、あの子たちと共闘しないのはなんで?」
京助はそこの話を突っつかれるとは思わず、思わず黙り込んでしまう。
「共闘……確かにした方がいいってのは分かってる。けどな……」
「ちゃんとした理由があるなら聞かせてくれ。どんなものでも笑いやしない」
京助はいずれ話すべきだと思っていた事もあり、大きく息を吐いてから意を決して口を開いた。
「まずは戦う理由から話さなくちゃならない。俺はな……両親をジャガックに殺された」
「……なるほど、それで連中の壊滅を狙ってたのか」
「そうだな、今俺の周りにはそんな俺を支えてくれた良いやつらばっかりなんだ。だからもし俺の素性が明らかになれば、間違いなくみんなに累が及ぶ。俺はそれが怖いんだよ」
俯き加減で話していた京助がサイの方をちらりと見ると、サイもなにかを思い出すような遠い目をしてどこかを見ていた。
「……わかるよ」
「お前にもそんな奴いるのか?」
「ああ、ボクの友達は脛に傷がある奴かどうしようもない奴ばっかりだけど、特別な例外が二人だけいる」
「そうだったのか」
「あいつの出自に関わってるんだけどね」
そう言ってサイは自分の愛刀である紅蛇を指差し、いつもの笑顔をどこか柔和に変えて見せる。
「まあまとめると、君としては彼女らを信じたいけど、周囲の人間を守りたくてそれが踏み出せないって訳だね」
「そんなところだ。前はこれは俺の戦いだからって思ってた部分もあったけど、今はそんな感情はない……だが、今回ばかりは折れるべきかって思ってる自分も居る」
「君はあの子たちと共同で作戦を立てて戦うこと自体に抵抗はないんだよね」
「もちろん」
「あくまで君が恐れているのは自分の姿を晒す事だと……じゃあさ、ボクが仲介役になろう」
この突飛な提案に京助は思わず固まってしまう。
「コネクションあるの⁉」
「ない」
サイが平然と言ってのけるものだから京助は思わずベッドから転げ落ちる。
「じゃあダメじゃねーか」
「これが出来るんですよお兄さん。君と同じ手を使えばね」
君と同じ手、つまり以前修行を付けていた時のように探知システムを悪用した方法であろうか。
「そうやって呼び出して対面で作戦を立てるんだな」
「でもこのご時世で呼び出すのもアレだからこの手は使えない」
「それもダメじゃん……」
「だったら手は一つ」
サイが座っている椅子がひとりでに移動して居住スペースの開けた場所に向かい、そこで手を広げると空中に見た事も無いし分からない言語で構成されたキーボードらしきものとモニターが投影され、それをものすごいスピードで叩きながら何かを入力し始める。
『これがザルク語が、文字は初めて見た』
『地球のどの言語の文字とも一致しません。不思議ですね』
曰くサイを拾った盗賊団の首領が使っていた言語であり、現代でザルク語話者は徐々に減ってきているらしく、修行終わりに疲れてへばっている時に嘆いていたのを覚えている。
「なんだ? うん、分かってる」
サイが誰かと喋っている。
サイの眷属かと思ったが、以前の発言からして眷属はいない筈である。
「誰と喋ってるんだ?」
「ん? ああ、この船に搭載されたサポートAIのデラムだ。元々一万年前の時点で型落ちだったリサイクルショップで投げ売りされてた軍用艦のAIでね、ひどく口が悪い上にポンコツでどうしようもない馬鹿だよ」
サイが投影しているモニターの上に大きく赤い文字が投影され、京助は一目で悪罵に片足を突っ込んだ抗議の一文だと見抜いた。
「よぉし、完了」
ポキポキと指を組んで鳴らし、サイは満面の笑みで親指を空中に投影されたモニターに向ける。
「何が完了なんだ?」
「真鳥市にあるウィルマース財団の関連施設をハッキングした」
「はぁ⁉ 何でそんな事を!」
「クインテットとあの子たちを纏める財団に居るボスと話す為さ」
「そんな事して大丈夫なのかよ?」
「まあ兵隊送られても全員返り討ちにする程度造作も無いし大丈夫かなって」
確かにサイ程の実力があれば大丈夫だろうし、危なくなったら別の場所へ飛んで行ってしまえばいい。
そんな事を考えていると、サイがどこかからカメラのようなものを持ってきて色々と接続したり設定をいじり始めた。
「今からビデオ通話するけど、顔とか大丈夫?」
しばらく考えた後断って外に出て、京助はアバターを召喚して戻って来た。
「お前といるとこっちがしっくり来るな」
「声も変えてるんだね。筋金入りだ」
ボタンを押すと通話が開始され、何と実際に繋がったではないか。
(なんてこった……)
『表示がない! 何者だ⁉』
「緊急だ、クインテットもしくは彼女らを纏めている者に繋いでくれ。ボクの名はサイ、これだけで通じる筈だから」
『緊急……わかった』
しばらくするとビデオ通話で白波博士の顔が大写しになり、サイはあの笑みで出迎えた。
『君があの賞金稼ぎのサイか』
「その通り、初めまして。あなたのお名前は?」
『私は白波と言う、一応クインテット関連の責任者となっている』
「オーケー、じゃあ今後の戦いに関する事をボクが君に伝えれば彼女たちにも伝わるって事でいい?」
『今後の戦いと言うのは、エグザイル化したバーニャラ・クドゥリとの戦いの事で良いのかね?』
「あの形態をはみ出し者と表現するか……いいや、追放者か? オーケー、じゃあボクたちもそれに倣おう。話を戻すとクドゥリ・エグザイルとの戦いに限り、君達クインテットに共闘したいと言っている者が居てね。彼を仲介する為にシステムに侵入させてもらった」
『わかった、害意はないんだな。してその彼とは?』
サイが指を鳴らすとカメラが動いてマグナアウルを画角に収まった。
『おや……君だったか』
「どうも白波博士。どうしても顔を晒せない以上こんな形でしか連絡を取れなかった、すまない」
『君からの頼みだったか。わかった、少し待っていていくれ』
白波博士が何か机の上操作をすると、クインテット全員のイニシャルとパーソナルカラーが表示された窓が表示された。
『え? サイに……マグナアウル⁉』
『どういう事ですかこれ……』
「やっほーみんな」
『少々事情があってな、私から説明しよう』
これまでの経緯を話した後、ミューズは肯定的な反応をし、デメテルは以前共闘を提案した際に逃げられた事もあって少々マグナアウルに対して不満そうで、それ以上にアフロダイはハッキングで侵入してきたサイを不審がっているなど、クインテットは五人それぞれ様々な反応をしていた。
「すまない、この状況になった以上俺はどうしても素顔をみだりに明かせない。どうか理解してほしい」
どこか哀願するような声色なマグナアウルに、ルナが口を開く。
『……その兜は誰かを守るための仮面でもあるって事?』
「その通りだ。どうかわかってくれ」
しばらくの間沈黙が周囲を覆ったが、やがてミューズがそれを破った。
『それでもなんとか連絡を取る方法を考えてくれたんだよね?』
マグナアウルは静かに頷く。
『あんたが歩み寄ってくれたんなら、私達も歩み寄るべきだね』
「いいのか?」
『ミューズはそれで本当に良いの?』
『今回の戦いは絶対に彼の力が必要だよ』
『確かに私達じゃあの黒い炎を突破できないからね……』
『仮にクドゥリを閉じ込めたとしても、あの炎を突破できなければ私達が一方的にやられるだけですからね』
『そうか、マグナアウルにも守るべきものがあるんだね、突っかかってごめん』
『それよりも早く対策決めね? こうしてるうちにクドゥリが目覚めるかもしれないからさ』
とりあえず無事にエグザイル化したクドゥリを倒す為の共同作戦会議が開かれる事になり、サイはマグナアウルの方を振り返ってサムズアップを掲げるのだった。
二時間と少しで会議は終わり、マグナアウルはアバターを解除してベッドへ倒れ込んだ。
「お疲れさん」
「お前には感謝しないとな」
「なに、かわいい弟子が困ってるんだ。協力ぐらいさせてくれよ」
『とりあえず駒は進みましたね』
周囲に被害が出ない方法を確立する事と、クインテットの協力を仰ぐことは出来た。
あと必要なものを考えた時、京助はある事に思い至って口を開いた。
「そう言えばお前って確か、クドゥリと知り合いだったよな?」
「んえ? ああ、あいつの師匠と友達だったんだ。そのツテで千年前に知り合った」
「師匠が居たのか」
「そうだよ、そいつがジャガックに居たからクドゥリはジャガックに入ったみたいだね。そいつとは五百年前に絶縁したから消息は知らないけど、顔出したらいなかったから多分どっか行ったんだろうね」
そんな過去があったとは意外も意外である。
「俺と戦ってる時、あいつは何度か家族の話をしてたんだよ。何か知らないか?」
「ふむ……少し長くなるがいいか?」
「ああ、聞かせてくれ」
「ナニア星系第四惑星ルガーノ、ルガーノ人あるいはルガーノンと呼ばれる白い肌に黒い結膜、紫色あるいは赤色の髪を持つ二足歩行のヒューマノイドタイプの種族が暮らす星に彼女は生まれた」
「あいつルガーノンって言うのか」
「ルガーノンは開拓者の末裔だからか結束が強く血気盛んで弱肉強食を是とする気風が強い、そんな種族の中で彼女は大国のある貴族の七人兄弟の末娘として生まれた」
思い返してみれば確かに立ち居振る舞いや戦い方に野性的だがどこか気品あったのは、彼女が貴族だったからなのだろう。
「じゃあいいとこ生まれのクドゥリがなんで宇宙ギャングにまで零落れたんだ?」
「どうやら当時のルガーノでは結構激しい権力闘争があったみたいでね、彼女の父親が敵対勢力に謀殺されたんだ」
「そう言えば二回目に戦った時……父上の残した家伝の剣とか言ってたよな」
それでへし折った時にあんなに取り乱していたのかと、数ヶ月ぶりに納得がいった。
「……なんかモヤモヤする」
京助にとってクドゥリも殲滅すべき敵のうちの一人である。
だが残された家族を想起させる縁となるものを失えば、精神的に相当来るものがあるだろう。家族を失う痛みを知っている者としては何故だか悪い事をした気分になる。
「いいやぁ、君は悪くないよ。クドゥリは私欲のために無辜の命を奪った者に加担したんだ。自分の行いが返って来ただけだよ」
「そういうもんか? なら良かったんだけど」
「話を戻すとバーニャラ家の敵対者はクドゥリの家に火を放ち、母親と兄弟姉妹を目の前で皆殺しにしたそうだ。クドゥリはその時に力に目覚めたけど捕らえられ、なんやかんやで放浪して、ジャガックに拾われたそうだ」
「こうまで符合してるとなんだか変な運命的なものを感じるな」
「君がどうしてこの道に進んだのかも詳しく聞きたいね」
京助はなるべく詳しく父と母の死と、これまでの戦いの数々を語って聞かせ、それと同時に特定されない範囲で今自分が守りたいものも静かに、それで居て力強く語る。
「そっくりだね、君とクドゥリは……だが君は友人に恵まれていたが、彼女はそうじゃなかった。この差でこうも開きが出るのだから人生と言うのは何とも不思議なものだね」
こうして話してみると、京助から見たクドゥリに対する印象ががらりと変わってくる。
「クドゥリはあの時俺の事を自分から全てを奪う者と言っていた。今のあいつに残されているのは……あの三人か」
「クローンの妹達……何とも哀れだね、失ったものを再生産しそれに執着し続けているのは」
何があったのかは分からないが、クドゥリはマグナアウルやクインテットから妹達を守るべく行動したのであろう。
「クドゥリの力の根源が黒の力っていうのは分ってるけど、どうやってあの力を得たんだ?」
「ボクの推測になるが、彼女はルガーノⅢへ行ったんだと思う」
「ルガーノって三つもあるのか?」
「ルガーノの第三衛星の事だよ、古くからの伝説があってそれにあやかろうとしてあの力を得たんだ。まあそこの事を教えたのは他でもないボクなんだが……」
「じゃあ半ばお前の所為じゃねーか」
「いやだって教えたの千年前だよ? さすがに時効でしょ」
「千年か、じゃあ許す」
「なら良かった……ああ、大事な事を言いそびれる所だった。エグザイル化して強くなったとはいえ、クドゥリには大きな弱点が出来た」
「おお! どこだ?」
「角だよ」
サイが自分の頭を指で叩き、京助は大きく頷いて腕を組んだ。
あの時頭を蹴った時に苦悶していたのはそういう事だったのかと今更ながら納得がいく。
「あれには黒の力が蓄積されてる。折ればクドゥリに大ダメージを与える事が出来て、三本全てを根元からへし折れば元の姿の戻すことが出来る。だが黒の力の塊に直接接触すればこちらも無事じゃ済まない……気を付けて挑む事だ」
京助は頭の中でクドゥリとの戦いのシュミレーションをし、有り得る限りの最悪の状況を何度も思い描く。
そうしているとサイが珍しく口角を下げて真顔になってから京助に顔を寄せてきた。
「な……なんだよ、近いよ」
「いいかい、よく聞いてくれ。この戦いに勝つ事は君にとって特に大きな意味がある戦いになる」
「全ての勝利に意味があると思ってるけど、どうしてそう思うんだ?」
「言い方は良くないかもしれないけど、これは何かを失った者達が自分に残ったものを守る為の戦いだ。クドゥリはあの三人の妹達、そして君は自分を支えた周囲の友人達」
京助の表情も、より真剣味を増していく。
「君は彼女とジャガックに示さないといけない。自分の思いと抗い戦い続ける意志の強さをね」
「……ああ。いつも以上に気合い入れて、いつも通り勝ってくるぜ!」
サイは歯を見せて力強く、そしてどこか柔らかい笑みを浮かべてサムズアップを向けた。
「頑張ってこい! 期待してるよ!」
市街地のど真ん中に鎮座する異形の美女が閉じ込められた氷像の周囲では、ウィルマース財団の職員達が建設作業に追われていた。
彼らは今回の共同作戦最大の要である特殊フィールド発生装置をクドゥリの周りに建設しているのだ。
敵と直接戦って華々しい戦果を挙げるクインテットだが、彼女らの活躍はこうした裏方に支えられていると言っても過言ではない。
今日も彼らは表で戦う戦士達の一助となり、地球を守る戦いの手助けをするのであった。
そしてその日はついに訪れた。
「氷塊温度上昇中……推定六十分でクドゥリが目覚めます!」
「いよいよか、準備は出来てるな?」
白波博士が後ろを振り返り、転送鍵を握り締めてこの時を今か今かと待ち望んでいた奏音達はそれに力強く頷いた。
「よし、マグナアウルに連絡する。君達はスーツを着てジェット前に集合だ!」
五人は誰が言いだすでもなく輪になり、同時に転送鍵を差し出して鍵状のパーツで円陣を組んだ。
「Vモードオン! GO! クインテット!」
色とりどりの光を放ちながらスーツが五人の頭上に転送され、展開して手足や胴体を包み込んでいった。
「よし……みんな段取りは入ってるよね?」
ルナの問いに皆頷いたりサムズアップを返したり、またガッツポーズをするなど各々の反応しつつ、戦闘前の雰囲気を作り始める。
「相手はかつてない程強くなってる。でも私達とマグナアウルが組めばもはや無敵の布陣です! どんな相手も乗り越えられます!」
「五人揃って最強の私達と最強のマグナアウルが揃えば掛け算で超々最強だよ!」
「ッシャ……滾って来たァ」
「むしろ圧倒する、そのつもりで臨もう」
「みんな! 行こう!」
ミューズの一声で全員ジェットに乗り込み、強大な敵との戦場へ向かうのだった。
そして京助の方は、サイから連絡が来るのを今か今かと待っていると、警報システムが鳴り響いた。
「来たか!」
サイからの呼び出し用に調整した警報であることを確認し、京助は立ち上がって軽いストレッチをして首を鳴らしながら庭先へ出る。
「よし、宇宙人の美女に思い切りぶちかますか」
『ええ、徹底的にやりましょう』
京助は腕を胸の前で交差させて展開すると右腕にアウルレットが装着され、同時に次元断裂ブレードが展開される。
『次元壁、断裂』
「招……来ッ‼」
京助の体にマグナアウルの輪郭が重なり、それと同時に空高く跳躍して戦場へ向かった。
「今日こそはっきりさせてやる、どっちの思いが上かをな!」
無重力ジェットとマグナアウルが現場に到着すると一目で分かる大きなグラウンドが設置されており、財団の職員に通されて六人はその中へと入る。
全員がそこへ入ったのを確認すると、グラウンド上部のアンテナからパラボラが展開して特殊なフォースフィールドが照射され、クドゥリが閉じ込められた溶けかけの氷塊と共に六人を閉じ込めた。
「これが破られない事を祈るよ」
「破られる前に倒せばいいでしょ」
「じゃあしっかりとしたサポートを頼むぞ」
軽口をたたき合っているとクドゥリが閉じ込められている氷塊に大きなヒビが一筋入り、氷塊が爆ぜると共についにクドゥリが脱出を果たした。
「フシュゥゥゥゥ……」
水蒸気と共に体に纏ったあの炎を滾らせ、赤一色に不気味に輝く目をこちらに向ける。
「マグナ……アウル! クイン……テット!」
クインテットはそれぞれの武器を取って構え、マグナアウルは装甲を変化させてエグザイルクドゥリに向かい合う。
「私からは……もう! 奪わせない!」
体に纏った炎を角と二振りのベナーグにも纏わせてクドゥリが突っ込んできた。
「速っ⁉」
「まず……」
クドゥリが前に居たマグナアウル剣を振り下ろす直前、マグナアウルは掌から光の球体を射出し、クドゥリはそれを喰らってまともに吹き飛んでフィールドに叩きつけられてしまった。
「効果覿面だな!」
あれほど打撃を喰らってもすぐに立ち直ったエグザイルクドゥリが、まともに喰らったとはいえ苦しみ呻きながら倒れ伏している。
「ウゥ……」
「すごい……」
「これが……ソリッドレイ」
「手筈通り行くぞ、角を集中して狙ってくれ」
苦しみ呻いているものの、角にダメージは入っていない。クドゥリは頭を振りながら立ち上がり、両方のベナーグを鞭剣状態にして振りかざした。
「散って!」
ベナーグの刃が地面へ叩きつけられる前にクインテットはグラウンド内へ展開し、マグナアウルは手甲の鉤爪からソリッドレイで構成された光の刃を生成して鞭剣を切断する。
「みんな今だ!」
イドゥンが発破をかけると同時にクドゥリの角を狙い撃ち、それは身体に纏った炎で防がれたものの、一瞬クドゥリがイドゥンへ意識を向けた隙にミューズがハルバードの回転刃を頭に向けて振り下ろす。
「おおおおっ!」
「ガオオオオオッ!」
クドゥリは即座にベナーグの刃を再生成して防御して反撃を加えようとするも、そこへルナも加勢して拮抗状態へ持ち込まれた。
「ぐうっ……うううおおおおっ!」
「行っけぇぇぇえええっ!」
回転刃とベナーグのエネルギー刃の接触による激しい火花が散り、クドゥリは遠距離から来るデメテルやイドゥン、そしてアフロダイの攻撃を炎のバリアで防ぎながら標的をミューズとルナへ完全に移した。
「ワタシガ……マモル!」
より力を込めてミューズとルナを吹き飛ばし、炎を纏ったベナーグでトドメを刺そうとしたその時。
「お前の相手は……俺だぁぁぁぁぁぁあああっ!」
マグナアウルの雄叫びと共に超高度からの片足飛び蹴りが無防備になったクドゥリの頭に炸裂し、ついに左側の角が中程から折れた。
「ぐわああああっ! ……うううううああっ!」
「やった! 角が折れたよっ!」
「油断は禁物です……根本じゃないし、まだ一本です」
苦しむクドゥリの頭の左側から黒い靄が噴出し、それによる影響からか体に纏っていた炎の色が抜け始め、黒一色から薄紫色に変化していく。
「ふ……うぅ……ハァ……」
地面に手をついたクドゥリの目はもう赤一色には輝いておらず、心なしか顔にも理性が戻っていた。
「やってくれたな……」
角が折れて黒の力が体から出た事で理性を取り戻したようだ。
クドゥリは両方のベナーグを杖代わりにして立ち上がると、マグナアウルへ右手の黒いベナーグを向けて宣言した。
「この代償は高くつくぞマグナアウル!」
「その前に俺がお前を倒す!」
長剣状態の黒いベナーグとソリッドレイの刃が交錯し、クドゥリはもう一方のベナーグでマグナアウルの腹を狙うもソリッドレイの盾で防がれる。
「その力……まさかサイコエネルギーの! やはり貴様は生かしてはおけん! あの子たちの為に今ここで殺す!」
「この前から聞いてれば好き勝手言いやがって……全部お前達がやってきた事だろうが!」
「何ィ?」
光の刃が互いの顔を照り返し、その状態でなお両者は顔を近づけて睨み合う。
「いいかよく聞けバーニャラ・クドゥリ……お前の悲しい過去の話と、今守りたいものがあって強くなりたがったって話……全部聞いた!」
「私の過去を知ってるのか!」
「ああ、その上で言ってやる。そんな事俺にはどうだっていい!」
「貴様ァ!」
「俺はジャガックに大切な人を殺された! もう二度と戻ってこない! そして今の俺には守りたい人がたくさん居る!」
「……」
クドゥリのベナーグに込める力が弱まった事を悟ったマグナアウルが、更に踏み込んでクドゥリのベナーグをソリッドレイの刃と盾で弾き飛ばす。
「それを守る為に、そして何より二度と悲劇を生まないために! 俺は決して……後に引けないんだよッ‼」
マグナアウルによる羽角からのビームとエネルギーの籠った蹴りがクドゥリを後退させ、両腕に発生させていたソリッドレイの刃と盾を合成させて半月状に再形成すると、まるでブーメランのように放り投げた。
「私だって……私だって!」
自身を切り裂こうと飛来した半月状のソリッドレイの刃を何とか砕いてから跳躍し、クドゥリはマグナアウルへ斬りかかるも両手をソリッドレイで覆って片手白刃取りで防がれる。
「もう失うのはたくさんだ! たくさんなんだ!」
「だったらなんでジャガックに加担する!」
「ここが……ジャガックが私の居場所なんだ! お前達はそれを奪う悪魔だ!」
「何だと⁉」
両者拮抗していた所にロケットパンチが叩き込まれ、クドゥリはへつんのめった所に手刀を喰らってしまう。
「さっきから好き勝手な事ばかり言って……悪魔はあんた達ジャガックでしょ!」
デメテルがアームを引き寄せて猛烈な勢いで殴り掛かり、ミューズとアフロダイもそれに加わって苛烈な攻撃を仕掛ける。
「守りたいものがあるだなんて、侵略者の言うセリフじゃありません!」
ハルバードとナギナタの素早い連撃に、さすがのクドゥリも防戦一方になり始める。
「そっちが先に侵略してきて、たくさんの人の命を奪っておいて! あんたたちが居なければ今でも幸せに生きてた人たちが居るんだ!」
「黙れ! 黙れ! うるさい! うるさい! 私には……がっ!」
後ろに回っていたイドゥンがレールガンを連射して炎のバリアを無理矢理突破してクドゥリの腕を撃ち抜き、そこへミサイルマシンガンを容赦なく叩き込む。
「ジブンは良くてヒトはダメって? ふざけんなっての、反吐が出るわ!」
思わず前に倒れ伏したクドゥリの後頭部の角をデメテルが掴んで引き起こした。
「今だ! ルナ! 斬って!」
「任せろっ!」
フルチャージを発動したルナが重力減少装置を応用した高速移動でクドゥリの角に刃を食いこませ、更に左手のナックルからブレードを展開して二刃で斬り込む。
「折れろぉぉぉおおっ!」
「うううううああああっ!」
クドゥリの能力で太刀とブレードの表面のエネルギーが減少し、威力が徐々に削られていく。
「せやああっ!」
そこにアフロダイのナギナタとミューズのハルバードの回転刃が叩き込まれ、ついに後頭部の角は根元から切断されてしまった。
「うううああああっ‼ がああっ!」
「やった! あと一本半だ!」
クドゥリの方ももう後がないと自覚したのか、倒れたまま体に纏った炎を更に滾らせて腕を再生して落とした得物を引き寄せると、右目から赤黒い稲妻状の拡散ビームを放って自分を取り囲むクインテットを薙ぎ倒してしまう。
「うわあああっ!」
「くぅあっ!」
「おい! 大丈夫か!」
吹き飛んだクインテットの方に意識をやったマグナアウルに対し、人の心配をしている暇があるのかと言わんばかりにクドゥリはビームを収束させた。
「ピーコック!」
マグナアウルは咄嗟に生成した盾の表面をサイコエネルギーで覆い、十層仕立てのシールドでビームを防ぐも、クドゥリのビームはそれを容赦なく貫通しようとする。
「それで……いい! もっと来やがれ!」
マグナアウルの挑発にクドゥリは立ち上がって更にビームの威力を向上させ、ついに一層目のシールドを破壊してしまう。
「そんなもんか! 所詮強くなってもその程度か!」
「私を……舐めるなァ‼」
更にベナーグの刀身を擦り合わせて黒と薄紫の二筋の螺旋状のビームを放ち、一気に四層のシールドを割ってしまった。
「こんな……もんか?」
六層目のシールドが割られた頃、マグナアウルはクドゥリのビームを思い切り弾き、残ったシールドを集約させると盾を思い切り前へ突き出した。
「喰らえっ!」
盾に記録された喰らったダメージと、シールドに使ったサイコエネルギーが全てソリッドレイに変換され、光の奔流がクドゥリへ叩きつけられる。
「くっ……うううっ!」
クドゥリのビームとマグナアウルのソリッドレイがぶつかり合い、グラウンド内を強烈な閃光が埋め尽くす。
「もっともっと! 持って行けぇぇぇえええッ‼」
一時押されていたマグナアウルだが、よりエネルギーを込めてソリッドレイの威力を押し上げて競り合いに勝ち、クドゥリをグラウンド上方の特殊フィールドまで吹き飛ばした。
「今だ!」
腕からソリッドレイの刃を発生させると、最後に残った右側の角を狙って振りかぶるも、ベナーグで防がれてしまう。
「クソッ!」
「そうはさせない……うおおおっ!」
そのままつかみかかって自分ごとマグナアウルを地面へ叩きつけ、そこで揉み合っているうちにクドゥリはベナーグを両方とも取り落してしまった。
「ベナー……がはっ!」
落としたベナーグを引き寄せようと腕を伸ばしたクドゥリへ、マグナアウルが容赦なく首を狙った強烈な回し蹴りを浴びせる。
「くうっ……うぅぅっ!」
念力の制御が狂ってあらぬ方向へ飛んでいき地面へ刺さったベナーグを見て、クドゥリは炎を滾らせてマグナアウルへ飛び掛かってマウントポジションから殴りかかった。
「うわあああっ! ううっ! うわああっ! ううっ! しゃああああっ!」
もはや技術や能力すら乗っていない純粋な殴打がマグナアウルの顔面を打ち据える。
「お前さえ……お前さえ! 居なければ! 居なければぁぁぁああああっ!」
一層力を込めた一撃がマグナアウルへ突き刺さる寸前、マグナアウルがその拳を掴んで巴投げでクドゥリを投げ飛ばす。
「俺さえ居なければ……だと⁉」
先程のお返しとばかりにクドゥリの首を掴んで頭を壁際に向けて投げ飛ばし、壁に叩きつけられた所に回り込んで腕を掴んで背負い投げで地面に叩きつけてからマグナアウルはクドゥリへ怒鳴りつけた。
「そもそもお前達が俺を生んだんだ! この絶望と復讐の化身を! お前達のせいで……俺は明けない夜を彷徨い続けている! お前達を全て殺して! この夜を終わらせたいんだ‼」
地面へ叩きつけたクドゥリの首根っこを掴んで顔面に狙いをつけて拳を振り上げるも、咄嗟にクドゥリが引き寄せたベナーグが脇腹に突き刺さってしまった。
「がぁはっ⁉」
「死ね! マグナアウル!」
クドゥリはマグナアウルの脇腹に刺さったベナーグを取って更に深く刃を押し入れ、マグナアウルは瞬時にベナーグをへし折って体内に残存した刃を引き抜くと、回復能力で傷を塞ぐ。
「やってくれたな……やって……くれたな!」
マグナアウルの両腕両足がソリッドレイに覆われ、振り下ろされたベナーグとぶつかり合う。
「うおおおおおおおおおっ!」
「さあああああああああっ!」
光る手足がクドゥリの繰る二振りの刃と幾度となくぶつかり合い、それぞれの軌跡が美しくも激しく舞い踊っている。
「グア・デロイ・ガディラック!」
ベナーグの薄紫と黒のエネルギー刃が肥大化し、そのままマグナアウルへ飛ぶ斬撃として放たれたが、マグナアウルはそれを受け止めるとソリッドレイに変換し、光る手足に刃を精製して再びクドゥリへ殴り掛かる。
「おおおおっ! シャアッ!」
マグナアウルのソリッドレイの剣がクドゥリの出す炎の盾を裂いてクドゥリの体を切り裂き、この隙を逃さずマグナアウルは攻撃を畳み掛けた。
「お前! だけじゃない! 俺は! 全ての! ジャガックを! 殺す!」
蹴りの連撃や踵から生えた刃でクドゥリを切り裂き、最後に両拳を渾身の力突き出してクドゥリを後退させる。
「二度と悲劇を……繰り返させない!」
掌底突きが炸裂する直前、クドゥリは地面を蹴って後転してベナーグをライフルモードへ切り替えた。
「グア・デロイ・ジェサムイア!」
黒と薄紫の光弾が四方八方からマグナアウルへ襲い掛かり、マグナアウルは咄嗟に掌に溜めた攻撃用のエネルギーを薄く引き延ばしてドーム状に変化させて防ぐ。
「おおおおおっ!」
ドーム状に変化したバリアを纏ったままクドゥリに突進し、すれ違いざまにバリアを右手に収束してクドゥリに手刀を浴びせて大ダメージを与えた。
「うぐぅ……くっ!」
「らあああああっ!」
ついにクドゥリの角に手を掛けたが、折るべくと力を籠める前に腕を掴まれて防がれる。
「うぅ……うぅぅぅっ!」
「ク……ソが!」
クドゥリはマグナアウルの腕を捻り上げて無理矢理角から腕を離させると、もう片方の手に持ったベナーグをマグナアウルの腹へ突き出した。
「がっ! このっ!」
腹へ刺さる前に掴んで防いだものの、もはや追い詰められているのはマグナアウルの方である。
クドゥリもそれを悟ったのか、ニヤリと笑って徐々に力を込めていく。
(この状態で……前みたいに炎で攻撃されたら!)
この状態で焼き尽くされようものならもはや勝ち目は無いに等しい。
(やるしかねぇ!)
「ああああああっ! てあっ!」
マグナアウルは全身をソリッドレイで覆ってクドゥリを吹き飛ばし、更に手からソリッドレイを楔形にして飛ばし、クドゥリを徐々に追い詰めていった。
「くっ……うぐっ!」
ベナーグでソリッドレイを弾いていたが、雨霰と降り注ぐソリッドレイに対応しきれずいくつか被弾し、クドゥリはついに膝をついてしまう。
「喰らえ!」
全身に行き渡ったエネルギーを拳に収束させ、マグナアウルはソリッドレイの奔流を放ってベナーグを破壊し、トドメに助走をつけた旋回蹴りを放ってクドゥリを徐々に消耗させていく。
「貴様ァ……せやあああっ!」
マグナアウルがしたようにクドゥリは小型の火球を放って反撃を仕掛けつつ立ち上がろうとするも、突然足が動かなくなった。
「うおっ! 何事だ⁉」
なんと吹き飛ばされてダメージを負ったはずのイドゥンとルナが自分の足にしがみついており、更にこの隙にミューズとアフロダイが自分の腕を取って羽交い絞めにし、最後に残ったデメテルがクドゥリの首に腕を回して締め上げた。
「貴様らァ! やはりあの時……完全にトドメを刺すべきだった!」
「マグナアウル! 折って!」
ミューズの叫びにマグナウルが頷いてクドゥリが炎で抵抗するよりも早く懐に入り込み、右側の角と左側の半分に手を掛けると、半ば引き千切るように角をへし折ってしまった。
「やああああああっ! いやだあああああっ! うわああああっ!」
クドゥリの苦悶の絶叫と共に黒い靄が周囲に吹き荒れ、マグナアウルもクインテットも吹き飛ばされてしまった。
「うっ……うぐ……はぁ……」
強烈な黒の力を浴びて地面に強く叩きつけられたが、これでクドゥリを完全に倒すことが出来ると、マグナアウルはすぐに体を起こして全裸で気絶してうつ伏せに倒れているクドゥリの方へ狙いを定めた。
「これで終わりだクドゥリ、ウッドペ……がっ!」
マグナアウルの体に赤い紫電が走り、藍と焦茶の装甲が赤みがかって前のめりに倒れてしまう。
「どうして……こんなっ……時にっ!」
ソリッドレイの使用によって体力を大幅に消耗し、前回の戦いから蓄積していたダメージが閾値を突破し、ついに反動が来てしまったのだ。
しかも今回の反動は一際強烈でもはや立っている事すらままならず、徐々に視界もぼやけ始める。
「クソ……せっかく……手に入れた……チャンス……なのに!」
クドゥリの方へ手を伸ばすも、もはやとっくに限界を通り越したマグナアウルにはそんな力は残されておらず、失意のうちに意識を手放すのであった。
気が付くと赤く染まった空を背景にサイとクインテットの五人が自分を覗き込んでいた。
咄嗟に自分の足を触ると硬い感触がし、ひとまずアバターは解けていない事に安堵する。
「あら、目覚めたみたい」
起き上がって体を確認すると装甲がまだ赤く染まっている。
「大丈夫? 身体が赤くなるとマズいんじゃない?」
「まあな……クドゥリはどうした?」
俯き加減に首を振ったミューズを見て、マグナアウルは溜息をついた。
「あの後ジャガックの船がクドゥリをトランスビームで回収してすぐにその場を去ったんだ。さすがに私達もギリギリで対応できなかった」
「責めちゃいない。俺だって最後の最後でこうなったせいで仕留め損ねたんだからな」
なんとも苦い雰囲気が漂う中、それに耐えきれなくなったサイが口を開いた。
「まあトドメは刺し損なったけど、これで連中へ牽制の一手を打ち込めた。その意味は大きいと思うよ」
「確かに、これでウチらやフクロウちゃんが出るまでもないコマゴマした襲撃もいったん収まるといいけどね」
「そうだね、それもそれで市民生活への脅威だ……そしてアウリィ、今回の戦いは君の勝ちだ。君は身をもって自分の思いの強さ証明したのさ」
怠く重い体に、純粋な賞賛の言葉が染み渡る。
「染みるぜ」
「ちょっと……こんなサイってこんなキャラだったっけ?」
「それよりもいつの間にかこんな仲良くなってたんでしょうか」
「これも気紛れ?」
トドメを刺せずとも、今回は勝利を収めることが出来た。その事実を噛み締めながらマグナアウルは重い体でなんとか立ち上がると、マントを展開し夕焼け空を仰ぐ。
「もう行っちゃうの?」
「ああ……体を休めたいからな」
「そっか、今日はありがとうね」
「礼を言うのはこちらの方だ。お前達のお膳立てがなければ、この戦いはきっと負けていた」
マグナアウルはクインテットの方を振り返り、一人一人のヘルメットで覆われた顔を見る。
「復讐が目的である俺とは違って、お前達は心の底からこの街と星を守りたいと思っている。今回の戦いはその思いの勝利でもある、これはとても素晴らしい事じゃないか?」
いきなりマグナアウルから賞賛の言葉を受けた五人は思わず顔を見合わせた。
「急に何~? 褒めても何も出ないっての」
「ふふふ……今後の励みになります」
「こんな事言われるの……なんか新鮮だね」
「嬉しいような薄ら寒いような……でもありがと」
「じゃあ今回は私達六人の思いの勝利なんだね」
「ああ、俺達の思いがクドゥリを破ったんだ……いつか本当の意味で共闘できるといいな」
「え、今なんて……」
「二度は言わない、では」
マントを広げてマグナウルは沈みゆく夕日に向かって飛び去って行き、クインテットとサイはその様子を見送った。
「彼やっぱり……」
「シャイだね」
「まあ気楽に待ってあげなよ、アウリィはその……複雑なんだ。きっと近いうち素顔を見せてくれるさ」
「なにか知ってるの? じゃあ教えてよ」
「後ジャガックの目的もいい加減に教えてくんない?」
「うっ……うーん……バイバイ!」
来た時と同じようにテレポートで去ってしまったサイを見てお互いに肩を竦め、クインテットの五人は互いに肩を寄せ合って夕日を眺めるのであった。
「いつか本当の意味で、私達が共闘できると良いな」
To Be Continued.
いかがでしたでしょうか?
マグナアウルとクインテットの共闘も何度目かはわかりませんが、いつか正式に手を取り合う一歩となった事は間違いありません。
そして黒の力とは一体?
まだまだ謎ばかり!
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ではまた来週お会いしましょう!




