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青春Double Side  作者: 南乃太陽
激闘編
29/38

クドゥリの選択

ジャガックの幹部達は度重なる失敗を首領であるゾゴーリから詰られる。

失敗続きで調子が出ないクドゥリは、久しぶりに幼い頃の夢を見る。

全てを失った過去を振り返り、今守りたいものと手放したくないものを再認識したクドゥリは、マグナアウルとクインテットからガディとザリスとジェサムを守る為についに動き出す!

クドゥリの知られざる過去とは? そして彼女がした悍ましい選択とは一体?

強敵クドゥリがさらなる進化を遂げる!

 地球の衛星軌道上、今やジャガック本拠地と化した巨大基地艦の中で、ジャガック幹部達は浮かない顔をしていた。

 それもそのはずである、自分達の主が大層お怒りなのだから。

「この前はパテウ、その前はクドゥリ、その前はルゲンだったか」

 首領のやけに平坦で冷静な口調になんだか嫌な予感がどんどん積もりに積もってくる。

「パテウはクインテットと謎の勢力に、クドゥリのは幽霊に、ルゲンはマグナアウルに完全にしてやられたと……」

 頬杖をつくのに使っている左下腕以外の十五本の指が机を叩く一定のリズムが途絶えた後、机を叩く音が会議室に響く。

「どうしてそんなに手古摺るんだ! もう本格侵攻に乗り出してから四か月以上も経っているんだぞ!」

 ゾゴーリの苛立ちは尤もである。

 まずゾゴーリとしては真鳥市占領の〝その先〟があり、この戦いを制するのはゴールではなく通過点に過ぎない。

 まずもって通過点にすら辿り着けない苛立ちが累積しているのだ。

「お前達に問題意識があるのか⁉ 私は甚だ疑問だぞ!」

 それにゾゴーリは犯罪シンジケートのトップなのだ、そういう世界は往々にしてメンツが全てであり、舐められたら終わりだ。

 凋落の陰りが見えたジャガックを立て直す為に地球を狙っているのだが、技術レベルや種族レベルも大きく開いた相手に全面戦争を仕掛けてなお陥落させることが出来ずに時間をかけすぎている事を知られたら、もはや笑い者にすらならない。

「なんとしてもこの街を手に入れなくてはならない……他の惑星の支配領域も徐々に減っているんだからな」

 確かにゾゴーリの計画が上手く行けば再び爆発的に勢力を拡大できる可能性はある。

 だがその前に立ち塞がる壁があまりにも大きすぎる。

「とりあえず各々がなすべき事を考えておけ、自分の命を削る覚悟でな」

 なんとか今回はこれで解放され、各々自分たちの部屋に戻った。

「ふぅ……」

 クドゥリは部屋に戻るなりベッドに倒れ込むように入り、そのまま仰向けになって細く長く息を吐く。

 近頃の戦いはどうも上手く行かず、調子も出ない。

 服のボタンすら緩めずベッドの上でしばらくただただ見飽きた天井を眺めていた。

 思い返せば自分の人生はいつも好転しかけた途端に上手く行かなくなり、そこから徐々に転落していく。

「悲観しても……仕方がないかな」

 手を翳して念力を使って靴下を脱いでからボタンを緩めて楽な状態にして、微睡みと(うつつ)の狭間の世界へ落ちていく。

 半分になった視界がぼやけ、意識にも靄が掛かっていく。

「いかんいかん……」

 手袋を念力で取って服を脱いでハンガーにかけ、クドゥリはそのままボディウォッシュの為のタンクへ向かった。

「服を脱ぐのすら面倒だと感じる日が来るとはな」

 クドゥリが服を脱ぐたびに、肌理の細かい美しい白磁のような肌が露わになり、筋肉質でありながらどこか女性的な肉感を感じさせる芸術的な肢体が湯気に当てられて独特の光沢を出す。

「ふぅーっ!」

 頭を振りながら纏めていた紫色の長髪を解き、眼帯を外して肌をぬるい液体で満たされたタンクに沈めてから蓋を閉め、適度に調整された温度の水で体が清められていくのを感じる。

「うぅん……」

 内部から念力で外側のボタンを操作してマッサージ機能をオンにし、クドゥリはそのまま眠りについた。


 夢を見た。

 約二千年間の人生の中で、最も楽しかった子供時代の夢を。あの時はルガーノは美しく楽しくて愉快な所だと、まだ幼いクドゥリは信じて疑わなかった。

 大きな家の庭で三兄と次姉と三姉に父が剣術の稽古をつけており、それが終わると自分と遊ぶ約束になっているため、その辺を走り回ったり、短い棒を見つけて兄姉のまねごとをして適当に遊んでいた。

 そのうち長兄と次兄を連れて母がやって来た。

「おお戻ったか。じゃあ少し早いが、今日はここで切り上げようか」

「良いんですか父上?」

「ああ、たまには家族全員で遊ぶのも良いだろう。それに……」

 逞しく温かな腕が自分を抱きかかえる。ああ、なんて懐かしい。

「我が家のお姫様がそこでずっと退屈そうにしていたからな」

 遥かに高くなった視界に、満面の笑みの父の顔と愛おし気に自分を見る母と兄弟姉妹達が映る。

 いっそのことここで時間が永遠に止まってしまえばいいのに。

「そうですね、久々にクドゥリと遊びましょう」

 兄弟姉妹たちが自分の名前を何度も呼ぶ声が、褪せていく景色と共に反響していく。

 ぼやけ始めた世界の中、父の言葉だけがはっきりと聞こえた。

「お前は私の宝だよ」

 お父さんお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃん、行かないで。

 

 意識が戻るととっくにタンクのマッサージは終わっており、適温調整機能だけが働いていた。

「出るか」

 このところの失態続きとゾゴーリからの名指しの叱責で、柄にもなく過去への感傷に浸ってしまったようだ。

 部屋着を着てから湯を沸かして半透明の黄色い飲み物を作り、そのままベッドの上に腰かけてから色々と物思いに耽る。

「嫌な夢を見たな。あんな夢は二度と見るまいと思っていたが」

 クドゥリにとって故郷ルガーノはもはや美しく楽しくて愉快な場所ではなく、むしろ憎んでも憎み切れない場所になっている。

 それに思い出の詰まった家はもうない、半ば自分で壊したようなものだ。

 それどころか夢に出てきた家族ももう全員この世には居ない、父母も兄姉も全員死んだ。同族ルガーノンに殺されたのだ。

 貴族の地位や家族をすべて失い、故郷すら捨てたクドゥリにとっての過去の(よすが)は、今やマグナアウルによってへし折られたベナーグの柄のみ。

 片目を抉られた痛みと共にあの屈辱の日を思い返していると、ふとマグナアウルが言っていた事を思い出した。

『よくも俺の前で……家族の話などできたものだ!』

 あの時は九点掌身破を喰らった事に気を取られて流していたが、マグナアウルが復讐の化身を自称していたり、投降すら許さず皆殺しにすると公言している所から鑑みるに、彼はもしかすると家族をジャガックに殺されたのではないか。

「それが正しかったとして、あいつの家族を殺したのは誰だ?」

 藪を突いて蛇を出すどころか、わざわざ怪物を揺り起こして怒り狂わせるような真似をした者がこのジャガックの中にいる。

 遡って考えると、約十年ほど前からジャガックはこの星に手を伸ばし、その過程で多くの地球人を秘密裏に利用して始末してきた。

「となると……あいつをやった子供?」

 ジャガックにはクドゥリとルゲンとパテウとザザルの他にもう一人幹部が居り、五年前に体の大部分を失う大怪我を負って以来この艦内でずっと療養している。

 なぜその彼が馘首(クビ)にならないのか、それはひとえに圧倒的な力を持つ実力者である上に真鳥市に潜り込む際の暗殺部隊は彼が率いていたからだ。

 クドゥリとサイが千年前に出会ったのも彼が引き合わせたからである。尤も五百年前に縁を切られたらしいが。

怪物(マグナアウル)を揺り起こしたのは……あいつなんじゃないのか?」

 彼程の実力者に大怪我を負わせた子供がマグナアウルだとするのなら、あの出鱈目な強さも納得がいく。

「……あり得ないか」

 超能力を覚醒させた直後に一気に力を放出すると、体が追いつかず焼き尽くされることが多い。

 しかも子供である、運が良くて廃人だろう。

 だがその子供ではなかったとしても彼が手に掛けた地球人は多いし、彼じゃないにしてもジャガックが手に掛けた者はそれ以上だ。

「まあこんな事を考えても仕方がないな」

 お前のせいでマグナアウルが生まれたと仲間を責めている場合ではない、誰がやったかをいちいち特定するよりも強くなる方法を模索する方が早いように思う。

 認めるのは癪だが、マグナアウルは自分より強い。

 何かしら強くなる方法があれば良いが、一朝一夕で強くなるものじゃないし、ゾゴーリはそこまで待ってはくれない。

 自分はどうすればいいのか、顔を両手で拭ってから壁に掛けておいた折れたベナーグを眺める。

「誰か私を……」

 導いてくれ。

 喉元まで出かかった言葉を思わず飲み込む。これではいけない、自分は今や導く側なのだ。

 ジャガックの兵隊だけではない、今は地球に居る三人の妹達を導き、そして守ってやらねばならない。

「どうやって守る?」

 それは強くなるしかない。

「だからどうやって……」

 結局の所、また全てを失うのだろうか。

 それだけは嫌だ、不思議とあの三人への執着めいた愛情がふつふつと心の奥から湧き出てくる。

「ガディ、ザリス、ジェサム……」

 最初はマグナアウルを倒すための手駒になれば良いと思っていた。

 だが血を分けた存在が自分を姉と慕い、寝食を共にしているうちに、徐々にクドゥリの中で三人の存在は無視できない程大きくなっていった。

「お前達は私が守る。たとえ命を懸けても」

 自覚した思いと決意を新たに、どうすればいいか考えていると過去のあるやり取りが思い浮かんだ。

『君はルガーノンなのか! ルガーノⅢに行った事はあるかい? ボクはそこで恐ろしい経験をしたんだ』

 初対面のサイに会うなりそう捲し立てられた。

 その話が母からベッドタイムストーリーとして聞かされたルガーノのある伝説が結びついた時、クドゥリの奥底から熱が噴き出し、それが彼女を突き動かした。

「何だってしてやる……私はもっと強くなるんだ」

 藁でも何でもいい、掴めるものならなんだって掴んで利用する。

 今のクドゥリにはそんな暗い熱意が宿っていた。


 三十分後、クドゥリの姿は艦内ドックにあった。

「クドゥリ様! ご用命でしょうか?」

「楽にしていい。私のファルバス・デロイはどこだ?」

 ファルバス・デロイとはクドゥリが個人で活動する際に用いているスターシップである。

「ええ、あちらにありますが」

「飛べるようになるまでどれぐらいかかる?」

「簡易な整備は定期的に行っていますが、どこまで行かれるのですか?」

「エノーヴェルートを通った先に出るナニア星系へ行きたい」

「エノーヴェですか、長距離ですねぇ……ですがお任せください、すぐに人員を集めます」

「分かった、ついでに船内の清掃もよろしく頼む」

 一時間で整備や点検が完了し、クドゥリは礼を言ってスターセールのファルバス・デロイに乗り込む。

 スターセールとは宇宙船の一種であり、宇宙に吹く〝宇宙風〟を推進力にして進むいわばヨットのような宇宙船である。

「こいつを飛ばすのは二百年ぶりかな」

 そう言いながら荷物を置き、コックピットに座ってエンジンをかける。

 二百年ぶりとはいえ、操作は体に染みついていた事でつつがなく行うことが出来た。

「これから出る。ゲートを開け」

『了解、いい旅を』

 エンジンがかかったと同時にゲートが開き、スターセールは基地艦から勢い良く飛び立った。

「いい旅になると良いが……」

 宇宙空間において高速道路のような役割を果たすフーン・ウェイを探していると基地艦から通信が入り、クドゥリは思ったり早かったことに苦笑しながら応答する。

『おいクドゥリ、何をしている?』

 モニターの真ん中にゾゴーリの顔が映り、厳しい色を浮かべた三つの目線がクドゥリをモニター越しに射貫く。

「すみませんボス。連絡するべきでした」

『どこに何をしに行くつもりだ?』

「どこかは言えませんが、何をしに行くかという問いには答えることが出来ます。一言で言えば強くなるためです」

『強くなる? 修行にでも行くつもりか! 今お前が抜けたら……』

「大丈夫ですボス、すぐに戻りますから。フーンに入るのですみませんがこれで」

 通信を切ってからフィールドセール()を船の後部に展開し、ファルバス・デロイは特殊空間に突入して光速の何万倍もの速度で宇宙空間を突っ切るのだった。

 

 僅か数時間でファルバス・デロイはエノーヴェルートを走破し、地球から何光年も先のナニア星系に辿り着いた。

「久々だな、胸糞が悪い」

 ナニア星系第四惑星ルガーノ、ここがクドゥリの故郷である。

「報復の時まで故郷の土を踏まないつもりでいたが……行くのは衛星だし良しとするか」

 フィールドセールを折り畳んでルガーノの第三衛星へ向かって飛んでいく。

「着いた……」

 時間を見るとここは夜になろうとしている、丁度いい。クドゥリは必要なものを持って暗闇に溶け込むべくローブを纏ってからファルバスを降り、腕のコンソールで迷彩を施して目的地へ歩き出した。

「ああちょっと! そこのあなた!」

 同族の警備員らしき男に呼び止められた。

「もうここはお終いなんです。また明日いらっしゃってください」

「お終い?」

 よく見れば目的地の周辺は電磁フェンスで囲まれており、この土地の謂れを記したパネルが設置されている。

「観光地になっていたのか……全く」

 虫酸が走る思いを顔に出さないよう努めて、クドゥリは顔を伏せたまま男の方を向く。

「もう入れませんのでまた……」

「この地の謂れを知っているか?」

「ああ、追放者の伝説でしょう? あんなのはまやかしで……ぐわあああああっ!」

 どういう訳か電磁フェンスのエネルギーが全て警備員に向かい、クドゥリは事切れた同族を虫の死骸を見るような目で一瞥するとその場から立ち去った。

「私はそうは思わない。私は第二の追放者ケイヴィスになるのだからな」

 電磁フェンスの障壁を自身の能力で難なく無効化して奥へと入っていく。

「ここか……」

 洞窟と、その奥の暗闇からせり出てくる瘴気にも似た昏い湿気がクドゥリの頬を不気味に撫でる。

 ここは『追放者の泉』あるいは『ケイヴィスの泉』と呼ばれる洞窟内に湧き出ている泉である。

 ルガーノの建国神話によれば、元々実力主義で弱肉強食の色が強いルガーノンの間でも恐れられた豪傑ケイヴィスが裏切りを受けてこの洞窟に追いやられ、中で〝何か〟に憑りつかれて狂ったように大暴れし、一時はルガーノ最大の大陸の半分を焦土にしたとされる。

 その伝説にあやかり、クドゥリはより強大な力を得るべくここへ来たのである。

 眉唾物の伝説とは言い難く、サイはここで恐ろしいものを見たという。あの気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリースが恐れたものがこの洞窟の深淵にあるのだ。

「その力を……私に!」

 クドゥリは漂っている不気味で嫌な湿気をものともせず洞窟へ足を踏み入れ、拝借した電磁フェンスのエネルギーの光を頼りにひたすら歩いて道を行くと、本当に泉が湧き出ている広い空間に出た。

「あった! あったぞ!」

 確かに伝説の泉は実在した、それに進むのに夢中で気付かなかったが瘴気にも似た嫌な湿気の濃度が凄まじく濃くなり、ケイヴィスを狂わせるだけの何かがそこにあると確信させるに足るものがあった。

「……」

 息を飲みながら荷物を置き、迷った末に左手の手袋を取って泉に手を突っ込む。

「普通の水だ」

 冷た過ぎずかと言って湯とも言い難い、そんな気持ちの悪くなる温度である。

「……何をすればいい」

 伝承によればここにはルガーノン達がやってきてルガーノⅢという名がつく前から〝何か〟がおり、ケイヴィスはこの泉を見つけた途端に身の毛もよだつ経験をしたらしい。

 だがここには昏い湿気を放つ泉があるだけで、特に何かがあるわけではなさそうだ。

「飲めばいいのか?」

 掬った水を飲んでみたが、特に何も起こらない。

「だったら……」

 クドゥリは荷物の中から折れたベナーグを取り出してから全ての服を脱ぎ去り、深呼吸を繰り返した後大きく息を吐いて泉へ足を踏み入れた。

 黒く暗い泉の中で美しく白い肢体と紫色の長髪が広がり、まるである種の芸術的な趣きを感じさせる。

「まだダメか、かくなる上は……」

 頼りの綱だった灯りを消し、クドゥリは完全なる闇の中へと飛び込んでから目を瞑って自身とそれ以外の境界を破壊し、この環境へ自分を徹底的に溶け込ませるのであった。


 水を通して泉と繋がり、もはや自分の体がどこにあるかも分からない程になった頃、また夢を見た。

 今度は記憶の再生ではなく、まるで紙芝居(ダイジェスト)のように場面が次々と切り替わるものだった。

 それも自分にとって辛いものばかりで、母から父が謀殺された事を聞かされた事に始まり、その後の一家襲撃によって目の前で家族を惨殺される様子がありありと浮かび。

 憎しみのあまり覚醒した能力を使い、放たれた炎を利用して家ごと全ての刺客を焼き尽くしたが、結局捕らえられて黒幕に監禁され、そこでも大暴れした挙句売り飛ばされてしまった。

 それからは放浪の旅が始まり、名前も知らない惑星で倒れた所で映像は途絶えた。

「どうして今更こんな……」

 そう呟いた途端、突然拡散していた自我が収束するような感覚がして、目を開けるとうつ伏せになった状態で足首までの深さの水が張っている床の上に倒れている事に気付いた。

 慌てて手元を確認すると、幸いな事に折れたベナーグはしっかりと握っており、一安心したクドゥリは立ち上がって周囲を見回す。

「ここはどこだ?」

 周囲に漂う瘴気にも似た湿気は相変らずだがここはどこか違う、はっきりと何かが居る。それを肌身で感じるのだ。

「く……どぅり……」

 途方に暮れていると自分の名を呼ぶ声がし、振り返ると瘴気の塊のような黒い霧が集まっており、それは徐々に筋骨隆々の同族の姿に変わっていった。

「!」

 クドゥリはすぐに理解した。

 この男こそルガーノの建国神話に登場する追放者ケイヴィスであると。

「あなたは……あなたは追放者ケイヴィスなのか⁉」

 突如現れたケイヴィスは唸りながら体を構築すると、クドゥリを爪先からてっぺんまで見回した。

「……あっ!」

 自分が全裸であった事を思い出して咄嗟に前を隠し、ケイヴィスはそれを見て興味なさげに口を開く。

「俺はケイヴィスとかいう者ではない。この姿は最後にここへ来た男の姿を借りただけ」

「じゃあ……」

「俺は■■■■■■そのもの」

 聞き取れない。まるで精神が防衛のために耳を塞いでいるかのうようだ。

「力が欲しいんだろう? だからこんな所に来た、違うか?」

 クドゥリは頬を染めたままケイヴィスの姿をした何者かの方を見上げる。

「力を私にくれるのか?」

「お前の中に潜む憎しみと心に空いた穴を気に入った。さあ俺を受け入れるがいい!」

 ケイヴィスの姿が分解されて黒い霧に変化し、クドゥリの右の眼窩に飛び込んできた。

「うわあああっ!」

 そのままクドゥリは仰向けに床から倒れてのたうち回る。

「がっ! うぅぅうううっ! ぐあああああっ! わああああっ!」

 白い肢体がびちびちと音を立てながら暴れ、撥ねた水が水冠や波紋を作り出す。

 決して痛くはないが、自分の中に入って来る得体の知れない何かを精神と肉体の両方が追い出すべく全力で抵抗している。

 それに入って来た何かが体の中で暴れているのが手に取るようにわかり、それが不快で苦しくて仕方ない。

「受け入れろ、俺を受け入れるのだ、それでお前は強くなれる」

 自分の中に入って黒い霧は脳まで侵食したらしく、ついに直接語り掛けてきた。

「失う前に全て壊してしまえ。邪魔するものは薙ぎ払え」

「邪魔するもの……マグナアウル! クインテット!」

 憎悪の感情が沸き立つと共に不快で仕方なかった感覚が嘘のように静まり、徐々に凄まじい快感へと置換されていった。

「は……はははは……クククク……クハハハハハ! 倒す! いいや! 殺す! 壊す! 破壊する!」

 笑い続けるクドゥリの右の空の眼窩には血のように赤い瞳が不気味に輝いていた。


 目を覚ますと体が泉深くに沈んでおり、クドゥリは慌てて水をかき分けて浮上する。

「ふはっ! はっはっ……はっ……ふぅ……」

 髪をかき上げるとなんだか視界が広い、右目を触るとバイオ球体ではなく新しい目が形成されていた。

「夢じゃなかったのか! じゃあ……」

 実際に起こった事だと自覚すると、あの快感と共に笑いがせり上がって来た。

「ククククク……クカカカカ……」

 抑えきれぬ笑いと共に、自分のするべきことが脳裡に浮かび上がる。

「そうだ……奴らを殺すんだ……」

 ケイヴィスの泉の入り口で、赤い光が不気味に輝いた。


 数時間後、猛スピードで飛翔体が近付いているのを探知したジャガック基地艦は、即座に警戒態勢に入った。

「レーダー写真出ました!」

「表示しろ!」

「……ファルバス・デロイ⁉」

 クドゥリが駆る船がどうしてあんなスピードを出しながらこちらに近付いているのか。

「ゾゴーリ様に連絡しろ!」

 ファルバス・デロイが驀進しながらこちらに近付いている事はすぐにゾゴーリに伝わり、ゾゴーリは即座に連絡を取った。

「何をしているクドゥリ! このままではぶつかるぞ!」

『ぶつかりませんよボス! 私は今単独で地球に向かっています!』

「単独ぅ⁉ 馬鹿を言うな! 兵を……」

『そんなものは要らない! 私は強くなった! 強くなったんですボス!』

 明らかにクドゥリの様子もテンションもおかしい。

 ずっと笑い続けている上にファルバス・デロイのスピードも上昇している。

『見ていてくださいボス! マグナアウルを! クインテットを! 邪魔する者全てを! 私一人で! ぶち壊ぁぁぁぁあああああすっ!』

 ファルバス・デロイはそのままの勢いで基地艦すれすれを通り抜け、地球目掛けて一直線に突き進むのだった。


 オンライン授業を受けていた京助達生徒は、突如けたたましく鳴り響いたスマホに意識を奪われた。

『出番のようですね』

『最近多くねぇか?』

 命を守る行動が最優先という事で授業は中断され、京助はパソコンから離れてスマホを見ると、真っ先にマグナアウルの文字が見て取れた。

「何だ? ……クドゥリじゃねーか」

 アップされた動画を見ると、鞭剣状態のベナーグを振り回して何故か大笑いしながらマグナアウルとクインテットを出せと喚き散らしている。

『兵は居ないようですね』

 兵を引き連れていないのも変だが、いつも被っていた兜を付けず、長い髪を振り回しながら素顔を晒して暴れているのも気になる所。

「なんか今日のアイツは色々と変だな。まあ危険極まりないし行かないとかな」

『罠かもしれませんよ』

「ん~それじゃ様子見しつつって感じかな」

 着替えてから瞬間移動で現場近くに向かい、京助はビルの上に伏せて一人大暴れしているクドゥリの様子を眺める。

「クハハハハ! 壊す! 殺す! 全部全部! 殺ぉぉぉぉおおおおすッ!」

 出動した財団の部隊の攻撃は全く効いていない。

 そもそもクドゥリにビーム兵器は無効であり、実弾兵器もベナーグの刀身と迸るエネルギーを操作して切り裂いている。

「あーあー、酷いったら無いな。とうとう頭までおかしくなっちまって」

 何が楽しいのかクドゥリはずっと哄笑を上げながら「壊す」「殺す」「マグナアウルとクインテットを出せ」「私は強くなった」という四つの言葉をずっと繰り返している。

「壊れたレコードかよ、てかこれすぐ行った方が良いよな? 敵とはいえ酷いぞこれ」

『あれだけ囲まれていても兵が出てきてません。罠である可能性も低そうですね』

「……ん? おいあれ」

 京助はクドゥリの顔の違和感に気付いた。

「目が治ってるぞ、なんか赤いけど」

『確かに……あ、少しお待ちを』

 トトが何かに気付いたように黙り込み、しばらくすると再び口を開く。

『あの目から強烈なエネルギー……いいえ、瘴気を感じます』

「瘴気だって?」

『彼女の中に何か得体の知れないものが入り込み、それが表面に出ているのがあの赤い目だと考えられます』

「あいつをおかしくしてるのはその瘴気って事か」

 ジェットの音に気付いて上を見るとクインテット専用の重力ジェットがやって来たのが見えた。

『あっちも到着しましたね』

「俺も行くか、フッ!」

 京助は短く気合を入れて両腕を胸の前で交差させて左手を引くと、右腕にアウルレットが実体化し、次元断裂ブレードも自動的に展開される。

『アウルレット、召喚。次元壁、断裂』

 そのまま腕を大きく回して天に突き付けて叫んだ。

「招来ッ!」

 体にマグナアウルの輪郭を纏いながら跳躍し、マフラーを靡かせながらクインテットより少し早くクドゥリの前に降り立った。

「お望み通り来てやったぞ」

「なんだ、あんたも来てたんだ」

「まあこれで役者は揃ったって訳ね」

 マグナアウルの横からクインテットの五人も現れ、クドゥリは攻撃の手を止めてこちらを見る。

「クフフフフ……来たな私の邪魔者よ」

「邪魔者はお前の方だ」

「部下の兵隊やらあんたの妹は連れてきてないの?」

「妹……あの三人は私が絶対に守る!」

 なんだか会話になっていない、様子のおかしさにマグナアウルは近くに居たアフロダイと顔を見合わせた。

 とりあえず六対一の状況を向こうから作り出してくれたのは好機だ。

「まあいい、これ以上暴れられても困るし始めるよ!」

「フフフフフ! アハハハハハ!」

 六人が一斉に武器を構えたのと同時にクドゥリの右目が赤く光り、それに気付いたデメテルがシールドを展開しながら前に出た。

「危なっ! うわっ!」

 クドゥリの右目から放たれた赤黒い光線がデメテルを吹き飛ばし、第二射を撃とうとするもマグナアウルに阻まれた。

「ピーコック! ハッ!」

 半物質化した三枚の盾を使い光線を反射してクドゥリにぶつけるも、ベナーグで弾いてしまう。

「そう来なくては……フフフフフフフフ! アーッハッハッハッハッハッハ!」

 ひときわ高い哄笑を上げると得物を左手に持ち替え、懐から折れた先代ベナーグを取り出してから空に掲げて咆哮にも似た声を上げた。

「うおおあああああああっ!」

 クドゥリの目が赤く輝くと同時に全身からどす黒いオーラと赤い雷電が噴き出し、白を基調としたクドゥリの服が見えなくなる程あっという間に包み込んでしまう。

「うっ!」

「うおっ!」

「ぐぅぅ……」

 突如発生した黒いオーラと赤い雷電に六人は後ずさりし、その黒いオーラに包まれたクドゥリの哄笑はより大きく恐ろしく響き渡る。

(この黒と赤の力は! 違う……でも近い!)

 マグナアウルはこの黒と赤の力が采姫のものと同じ根源から来たものだと本能的に感じ取っていた。

(もっと近いものがあったはずだけど……ああクソ! 思い出せない!)

 死者だった采姫よりも人間の寿命を超えるルガーノンが齎すバイタリティのせいか、はたまた超能力者としての才気溢れるクドゥリが扱うせいか、今のクドゥリが采姫を凌ぐ力を持つことは火を見るより明らかだった。

「火と水……」

 光太郎のアドバイスが使えるかもしれない。

 だが今目の前で荒れ狂う黒い塊を焼き払ったり洗い流せるビジョンが全く浮かばない。

「それでもやるしかねぇ!」

 サブマシンガンとショットガンを生成してから合体させ、オーラの衝撃や赤い雷電の直撃に耐えつつ前に躍り出て銃口を向ける。

「喰らえ!」

 引き金を引くと銃口から半物質弾ではなく超高温の熱湯が広範囲に拡散しながら噴き出し、黒いオーラを払って行く。

「隙が出来た!」

「みんな今です!」

 マグナアウルが作り出した〝安置〟にてクインテットが駆け付け、ミューズはスパイクビーム、ルナは凍結弾、デメテルは高火力ビーム、イドゥンは拡散ユニット付きロングライフル、アフロダイは光の矢で黒い靄の柱に向かって一斉射撃を浴びせた。

「これ効いてる⁉」

「さあな! 俺には何とも言えん! だが嫌な予感はする!」

「キグウだね……ウチも嫌な予感がするよ!」

 瞼の痙攣を気にしながらイドゥンは肩のミサイルも展開して放つが、全く黒い靄の柱が晴れる気配はない。

 それでもしばらく攻撃を続けていると、腹に深く重く響く声が靄の柱から聞こえてきた。

「その程度か……だったらこちらから……行かせてもらうぞ‼」

 突如黒いオーラが消し飛ぶと同時に凄まじい衝撃波が四方八方を撫でつけ、マグナアウルとクインテットは全員後方へ大きく吹き飛ばされる。

「うわっ!」

「やっ!」

「ごはっ!」

 マグナアウルは空中で体を軸に回転しながら姿勢を保って着地し、デメテルはロケットパンチを地面に打って滞空時間を長めに取ることで重力軽減装置を使用する隙を作り、何とか着地して前を向く。

「なに……あれ!」

 そこに立っていたのは確かにクドゥリだった、だが一目で今までと違うのが分かる。

 戦闘服ではなく左足と背と腰回りが大胆に出た黒と薄紫色のロングドレスのようなものを纏っており、その素材はまるで炎のように揺らめいていた。

 それに手足や顔に時折赤い稲妻が走る赤黒い刺青のような模様が浮かんでおり、それが集中している右手に握られていた折れた先代ベナーグは、まるで骨を思わせる形状の黒い刀身が形成されている。

 そして最も変化したのはクドゥリの頭部である。

 紫色の長髪の左半分が血塗られたかのような真紅に変わったのも目を引くが、あの黒いオーラを纏った節くれだってカーブを描く角が頭から三本生えているのだ。

 倒れたほかのメンバーもクドゥリの変貌に気付き、呆然として言葉を失っている。

「化物……」

 何故だか背筋に氷を刺し込まれたかのような悪寒が止まらない、デメテルが立ち尽くしているとマグナアウルが立ち上がって異形化したクドゥリをまじまじと見てから言い放った。

「おいおい何だその恰好は、マシだったツラがもっと酷くなってやがる」

 明らかに強くなった強敵に構わず挑発するマグナアウルに背筋が凍ったが、当のクドゥリは狂気的な笑みを浮かべて二振りの剣をこちらに向ける。

「違う……」

 ミューズは以前戦った時に至近距離で拳銃を乱射したが、その時の見下すようだがどこか気品を感じさせる笑みとはまるで違う、自分を偽る仮面をかなぐり捨て闘争本能を剥き出しにした笑みだった。

「私は強くなった、これで分かっただろう?」

「強く? 醜くなったの間違いだろ」

 まだ煽り続けるマグナアウルにデメテルとルナが抗議の視線を送りつつ、各々再び武器を構えて事に備える。

「強くなろうが醜くなろうが……私達のやることは変わらない!」

「そうか……では向かって来るがいい!」

 ミューズが戦斧ルナが太刀を振ってクドゥリに向かい、少し遅れてアフロダイが槍とナギナタの二槍流で、マグナアウルは半物質化した刀身の剣を片手に突っ込んでいく。

「フハハハハ! 来い来い来い!」

 体に纏った炎が更に吹き荒れ、それにミューズとルナとアフロダイは足止めされ、マグナアウルのみが突破するも今度は頭の角それぞれから放射される波打った光線に足止めされる。

「くっ!」

「一歩も動いてないのにこの力⁉」

「全部全部! 壊すっ!」

 クドゥリが全身を使って二本のベナーグを前に振るうと鞭剣状態となってマグナアウルの後方のクインテットへ襲い掛かる。

「危ないッ!」

 アフロダイが槍とナギナタを駆使して弾くも、まるで意思を持っているかのように剣先が執拗に迫って来る。

 デメテルのドリルハンマーロケットパンチやイドゥンの援護射撃もあり、ミューズとルナも辛うじて攻撃をいなしていたが、一瞬だけクドゥリに背を向けた隙に体に纏った炎を直に喰らい吹き飛ばされてしまった。

「ミューズ! アフロダイ!」

「くっ! お前た……」

「人の心配をしている場合か!」

 剣で防いでいたビームの威力が上がって胴体に直撃し、マグナアウルも吹き飛ばされてしまう。

「ぐああああっ!」

 凄まじい痛みに耐え、転がったマグナアウルは膝立ちとなってまるで生物のようにうねるベナーグを操りながら炎を纏うクドゥリを睨む。

(考えろ……どうやって倒す⁉)

 炎とベナーグの斬撃が厄介なのは一目見てわかる。よって近づく必要がありそうだが、それもあまり現実的ではない。

 手をこまねいていると、倒れたままのミューズがこちらに這い寄りながらマグナアウルに言った。

「あの火を突破できるのはあんただけ……私達があの剣と火を引き受けるからあんたは本体を叩いて!」

「大丈夫なのか?」

「甘く見ないで、ちょっと油断しただけ!」

「そうか……死ぬなよ」

 ミューズを助け起こすと他のメンバーも前へ出て、それぞれの武器を転送し構えてなおも笑い続けるクドゥリへ向かい合う。

「みんな……行くよっ!」

 ミューズの発破で五人は叫びながら突撃し、クドゥリは真正面からそれを迎え撃つ。

「はあああああっ!」

 ミューズは誰よりも速く前へ進み、飛来してきた炎球を跳躍して避け、空中を狙って突き刺しに来る剣の先端をハルバードで弾くと同時にフラーに蹴りを入れて軌道を変える。

「やるな! お前達は本当に強くなったようだ……だったらこれはどうだ!」

 柄を手繰り寄せて腕を交差させ気迫と共に腕を広げると右目が光り、双方のベナーグの刀身が三本に分かれて合計六本の刃がアスファルトの地面やビルの壁や窓に爪跡を残しながらクインテットに襲い掛かる。

「増えた⁉」

「だったらこれです!」

 咄嗟にアフロダイはナギナタを分割して空中に放り投げ、自分の槍へ合体させてトライデントにすると、ベナーグの刀身を挟み込んで腕を返してへし折ってしまう。

「無駄だ……無駄無駄無駄無駄!」

 クドゥリの右目が赤く光るとへし折った先から即座に刀身が再生し、攻撃の手をより苛烈にして向かって来る。

「まるで触手みたい!」

「捕まったらズタズタにされる触手なんて御免被るけどねっ!」

 ルナは凍結弾を撃ち込みながら太刀とブレードで応戦し、デメテルは左腕に防御用のシールドを展開しつつドリルで反撃、イドゥンもあらん限りの光弾やミサイル弾を撃ち込んで自分や仲間達に迫る刀身や刃先を退け、時折クドゥリ本体へ銃撃するも炎に阻まれてしまう。

「お前達……」

 クインテットの奮戦に当てられたマグナアウルはマントを展開し、全身に力を行き届かせて次なる攻撃の準備を始める。

「俺も……行くぜぇぇぇぇえええええっ!」

 立ち上がる勢いを利用して前方へ跳躍すると同時に全身を青い炎に包み、クドゥリに体当たりをぶちかましてついに大きく後退させた。

「動いた!」

 その場から一歩も動かず一方的にこちらへ攻撃を当てていたクドゥリを大きく後退させたマグナアウルにクインテットは一瞬呆気に取られたが、すぐに二人の行方を追いかけた。

「クハハハハ! 私に近付けるとはやるじゃないか!」

「今度は両目をくり抜いてやる!」

「喰ゥらえぇぇええええっ!」

「フッ!」

 クドゥリの頭の三本角から発する光線を収束させて放ち、マグナアウルは羽角から発する電撃光線で迎え撃つ。

 お互いの光線が眼前で激しい光を発し、それに伴い互いの体に纏った炎が滾って掴みあいながら戦いの舞台を空中へ移す。

「ああもう!」

「今度は空中⁉」

「あっち行ったりこっち行ったり!」

 イドゥンはすかさず自分のライフルに武装を追加してクドゥリを狙い、アフロダイもトライデントの刃先に溜めたエネルギーを振って斬撃を飛ばして援護する。

「ぐうう……くおっ……」

「うぐぐぐ……くふふふ……」

 至近距離の撃ち合いも双方限界が近付き、一際強烈なものを浴びせて距離を取ってクドゥリは刃を一つにした二本のベナーグを、マグナアウルは槍を生成して構えて再び向かって行った。

クレイン()……おおおおおおっ!」

「来い……来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!」

 ベナーグとマグナアウルの槍がぶつかり合う度に凄まじい衝撃波が周囲へ駆け抜けてガラスや鉄片は宙を舞い、アスファルトにはヒビが入って破片が飛び散る。

『まずい……このまま続けると被害が拡大する!』

『空中や他所へ誘導は不可能な以上、短期決戦で撃退あるいは鎮静化させるしかありませんよ』

『それが出来れば……』

「苦労はしねぇ!」

 槍の石突で左手の薄紫色に光るベナーグを思い切り弾くと地面に石突を突き立てて体を浮かせ、腕から電撃交じりの光線を放ってクドゥリの頭に命中させた。

「ぐあああああああああっ!」

 牽制の為の一撃だったがかなり効果があったらしく、クドゥリはベナーグを取り落して頭を押さえて悶絶した。

「くぐうううう……ううう!」

 粉々になったアスファルトの上で悶えるクドゥリにここぞとばかりに反撃しようとしたが、クドゥリはベナーグを引き寄せてマグナアウルの足を斬りつけようとする。

「ふっ!」

 辛うじてベナーグを槍で弾いて防御し、クドゥリはベナーグを取って構える。

「やはり……お前は……私から全てを奪う者……」

「何だと」

「お前はここで……必ず殺す!」

 両手に炎を纏わせてからライフルモードにしたベナーグでマグナアウルへ乱射し、マグナアウルは咄嗟に無数の盾を生成して防御するもあまりの弾幕の勢いに貫通されてしまう。

 無数の弾丸に被弾しながらも立ち上がり、マグナアウルは怒りの叫びを上げた。

「私から全て奪うだ? 先に奪ったのは……そっちだろうが!」

 両手の指を二本立てて腕を交差させて瞬時に大きく広げて、マグナアウルは電気と青い炎を帯びた無数の剣や戦斧や護手鉤そして槍を生成し、クドゥリに向かって差し向けた。

「数の暴力で私に勝てるとでも⁉ 随分と甘く見てくれたな!」

 クドゥリはベナーグを長剣にして雨霰と降り注ぐ剣や槍の数々を弾いていたが、ついに弾き切れずに何本か被弾してしまう。

「うぐっ! ぐあっ!」

 この一瞬の隙にマグナアウルは飛ばした剣の一振りを取ってクドゥリの後方を指してぐるりと円を描くと、今度は無数の銃器が現れてクドゥリの体を狙い始めた。

「小癪な! 真似を!」

 両方のベナーグを鞭剣状態にし、左手の薄紫色に光るベナーグを渦巻状に巻き取って盾にして銃弾を防ぎながら、右手の黒いベナーグでずらりと並ぶ銃器を破壊する。

「工事の人……スマン!」

 声高にそう詫びたマグナアウルは地面に剣を突き刺して地割れを起こしてクドゥリを落として拘束しようとするも、咄嗟に跳躍して回避されてしまった。

「小手先のその場しのぎばかり……」

 マグナアウルへ黒のベナーグを叩きつけようと振り返るも、地面に刺さった剣があるだけでマグナアウルの姿はどこにもない。

「どこに行った……そんな小細工ばかりして何のつもりだ!」

「こうするつもりだ」

 真後ろから声がして振り返ると大きく拳を振りかぶったマグナアウルがおり、目の前で肩のアーマーが変形し、(ヘルム)のクラッシャーが露出して徒手空拳特化形態へ変化する。

(この姿は!)

 自身の体に刻まれた痛みが蘇って気を取られた一瞬の隙に、クドゥリは思い切り顔面を殴られて地面に叩き落とされた。

「ぐふ……うぐぐ……」

 痛みが憎悪に変換され、その憎悪が体中に循環されて闘争意欲を掻き立て、クドゥリに再び立ち上がる力を与える。

「本気で来るか……」

「コォォ……」

 大きく深呼吸してからマグナアウルは両の拳を握って構え、クドゥリと向かい合って数秒静止していたが、突然構えを変化させると同時に疾走して拳を振りかぶった。

「おおおっ! この程……ぐっ!」

 大振りの突きをベナーグでいなして回避したかと思いきや、マグナアウルはそのままの勢いでその手を地面について後方回し蹴りを顔面に叩き込んだ。

「やはりお前はそう来なくては!」

 片手で逆立ちしている状態の軸手を狙ったクドゥリの刃先でのひと突きを寸での所で避け、マグナアウルは空中高く跳躍しての高い打点の蹴りを叩き込むも腕を交差する事で防がれ、更に振りほどかれて空中で一撃喰らって吹き飛ばされてしまう。

「前みたいにはいかねぇか」

 明らかにクドゥリの反応速度は速くなり攻撃の重さは以前より増している。

 さっき斬られた部位をひと撫でしてから構え直し、マグナアウルはもう少しギアを上げる決断を下した。

「おおおおっ!」

 走りながらマグナウルの体が再び青い炎に包まれ、クドゥリも血に塗れた顔でニヤリと笑うと炎を纏ったベナーグを鞭剣状態にして向かって来るマグナアウルへ差し向ける。

「ダーツ! 起爆! フッ!」

 青い炎に包まれた無数のフェザーダーツの爆発がベナーグへの牽制となり、爆発で視界が塞がった隙にクドゥリ目掛けてマグナアウルは左腕からチェーンを射出し、クドゥリの体と首に巻き付けた。

「くっ! 離……げはっ⁉」

 クドゥリが抵抗する暇も与えずマグナアウルは思い切りチェーンを引いてクドゥリを引き寄せて腹に蹴りを入れ、吹き飛んだ所をもう一度引き寄せて顔面に掌底突きを食らわせて大きく引き離す。

「調子に乗るなっ!」

 ベナーグの柄を交差させて鎖を引き千切り、今度はクドゥリが全身の炎を纏って突撃してきた。

「くっ!」

 つかみ合いではマグナアウルが有利に立つものの、クドゥリは自分の能力でマグナアウルが纏う炎を消し、一方的にダメージを与えられてしまう。

「うぐぐ……あああっ!」

 振りほどこうとするがクドゥリはこのままマグナアウルを焼き殺さんとしがみついてベナーグを巻き付ける。

(まずい……振りほどかないと!)

 視界の端で不気味に笑うクドゥリをよそに何とか脱出するべく藻掻いていると、突如クドゥリの拘束が解かれて解放された。

「やっと追いついた!」

 倒れたマグナアウルは何とか動かせる首を上げると、背中に大きな傷を負っているクドゥリと、それに相対するクインテットが見えた。

「邪魔……するなああああっ!」

 クドゥリが飛ばした黒と薄紫の斬撃と、ミューズのハルバードとアフロダイのトライデントの斬撃が空中で相殺され、そのまま近接戦闘へ移行する。

「ふっ!」

「セイッ! はぁあああっ!」

 フルチャージ分のエネルギーが乗ったミューズのハルバードの回転刃が黒いベナーグの骨ばった刃を容赦なく削り取り、間髪入れずにアフロダイのトライデントがクドゥリの足元を突き刺しに来る。

「この小むす……ぐっ!」

 遠距離から銃弾が飛来し、咄嗟に左手のベナーグの柄で防いだもののその部位が凍り付き、炎で溶かそうとする前にマッハ三で飛来したレールガンの弾丸が飛来し、凍った前腕が粉々に砕け散ってしまった。

「うわぁっ!」

「ルナ! 斬り裂け!」

「了解ッ!」

 ルナの青いく輝く太刀とブレードががら空きになった左半身にめり込み、寸での所で胴への深い一撃は避けられたものの足を切られて崩れ落ち、更にバランスを崩した所へベナーグが折れてミューズのハルバードの斬撃が胸を横断し、クドゥリは思わず仰け反る。

「最後に一発! 持って行け!」

 デメテルがオーバーチャージを発動して両拳を組んでダブルロケットパンチを放ち、崩れたクドゥリの胴と顔をロケットパンチの先端に取り付けられたキャタピラユニットが容赦なく削り取る。

「ぐあああああっ!」

 クドゥリは現状が信じられなかった。前回クインテットと戦った時は殆ど片手間で倒してしまったというのに、今では五人がかりとはいえ自分を追い詰め負傷させた。

『クインテットの方が強いと?』

『さあな、まあ見どころはある奴らだ』

 かつてマグナウルと交わした言葉が脳裏に浮かぶ。その通りだった、今やクインテットの実力は自分の妹達を超えるどころか、こうして強くなったはずの自分すら追い詰めている。

「あぶない」

 咄嗟に言葉が出てしまう。マグナアウル以上にあの子たちはクインテットと戦う事が多かった、このままでは危ない、クインテットに殺されてしまう。

「お前らも! 絶対に殺す!」

 体に纏った炎が黒一色となり、瞳が完全に消失して目そのものが赤く輝き、その熱と衝撃にクインテットは思わず顔を覆う。

「まだくたばらないの⁉」

「それに手足も再生してます……」

 黒い炎が手足の形状を模り、それが晴れると模様の入った白く美しい手足が再生していた。

「ぐ……おお……うああ……」

 クドゥリの近くに倒れていたマグナアウルが黒い炎に当てられて苦しそうに呻き、ミューズは咄嗟にマグナアウルを助けるべく駆け出した。

「ミューズ危ない!」

「ウオワアアアアアアアアッ!」

 絶叫しながらクドゥリがこちらに走って来たが、突如赤い何かが横から猛スピードで迫ってクドゥリを吹き飛ばしてビルへ叩きつけてしまった。

「え?」

「なんで……あっ!」

 目も眩むほどの赤一色の甲冑のような装甲を身に纏い、その肩には斬馬刀にも似た巨大な両刃の刀を背負ったその巨躯は紛れもなく。

「サイ!」

「やあ、久しぶり」

 大侵攻以降全く姿を消していたサイことカプリースであった。

 カプリースは刀を背負ったままマグナアウルを引きずるミューズに念力で手を貸し、起き上がったクドゥリをまっすぐ見据える。

「ジェのサいど……かプリぃす!」

「全く、目先のものに気を取られてろくでもないものに手を出すからそんな無様で惨めな格好を晒す羽目になるんだよ。あいつと同じ轍を踏みやがって」

 そうぶつぶつ言いながら再び叫んでこちらへ斬りかかって来たクドゥリを紅蛇すら使わずなんなくいなすと手から白い電撃を浴びせ、クドゥリを苦悶させる。

「多少は強くなったろうがろくでもない邪法を使ってる時点でボクに勝てると思うなよ」

 一瞬クドゥリの能力で電撃が弱まるも、カプリースは容赦なく威力を上げて攻め立て続けた。

「小賢しい真似をするなよ、大人しくやられておけ!」

 それでもクドゥリは立ち上がり、全身に電撃を受けながら目を不気味に赤く光らせてベナーグを振るってカプリースへ向かう。

「忘れたか! 君を鍛えたのが……一体誰なのかを!」

 利き手ではない左手で紅蛇を操ってクドゥリの全力の一撃を容易く受け流し、背中に蹴りを叩き込んだ上に背中を踏みつけその場に縫い留める。

「すごい、あれを手玉に取ってる……」

「ウチらと戦った時、いかに手抜きつつ遊んでたのがよく分かるわ」

 なおも喚きながら抵抗しようとするクドゥリに、カプリースはより体重をかけて問いかけた。

「クドゥリ、もう止めにしろ。これ以上やると君は君じゃいられなくなる。ろくでもない目に遭うぞ」

 だがもうクドゥリはケダモノのように喚くだけで、カプリースの説得に耳を貸そうとはしない。

「そうか……仕方ない」

 クドゥリを離してカプリースは後方へ跳躍すると、追いかけてきたクドゥリに掌を向けた。

「うっ⁉」

「わっ! 寒ッ⁉」

 なぜか一瞬突き刺すような寒波が皆を襲ったのだ。

「何ですか今の⁉」

「ねえあれ!」

「え? うわ……」

 クドゥリが居た場所には巨大な氷塊があり、よく目を凝らすとその中にクドゥリが閉じ込められていた。

「ふうぅ……疲れた」

 カプリースはアバターを解いてサイの姿になり、クインテットの方へ向かって来る。

「ざっとマイナス三千万度の冷気を食らわせてやった」

「まいなすさんぜんまん?」

「そんな事出来……無いとも言い切れないか」

 なんだかサイなら出来てしまうような気がする。

「クドゥリは今はボクの氷に閉じ込められてるけど……あの適応速度なら持って三日で出てくるかもしれない」

「え? あんたでも倒せなかったって事?」

「冗談じゃない。あんなのいつでも殺せたよ」

「じゃあなんで?」

「いつもの気紛れ?」

「よいかね君達、これは地球人の戦いだ。ボクはあくまで手を貸すだけ、クドゥリは君達クインテットとそこで伸びてる彼で倒すべきだ。と考えている」

 確かにサイの言う事にも一理ある、弱気になって誰かに頼る姿勢を見せるのは良くないと、五人は胸に手を当てて自省した。

「まあ二日の間に対策を立てておくんだね。あとこれは独り言だが、ドームのようなものがあればクドゥリと戦っても周囲に被害が出ないかもよ」

「……サイって意外と良いやつなのかな?」

「いやボクは……」

「いつもの気紛れでしょ」

「そういう事、さてと」

 サイはマグナアウルを担ぐと、最後にと前置きして続ける。

「アウリィはボクが治療する。君達は頑張って対策を立ててくれたまえ」

 五人が頷いたのを見て指先で空を切ってハンドサインを返すと、サイは瞬間移動で去って行った。

「対策か……」

「技術班の方たちが作っていたフィールドシャッターが役に立つかもしれません」

「いずれにせよ、帰ってから連携とか色々考えないとね」

 来たる第二戦目に備え、クインテットは気を引き締めるのであった。

 果たして強化したクドゥリを前にして、マグナアウルとクインテットはこの街を守り切る事は出来るのだろうか?

 次回に続く!


To Be Continued.

ジャガック側の主人公と言っても過言ではないクドゥリにフォーカスした回でございます。

なぜ彼女がジャガックに与していたのか、そしてベナーグを折られて狼狽えた意味がここで明らかになったかと思います。

そして久々にサイが登場しました、次回はどうなる?

感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメをぜひよろしくお願いします!

ではまた来週!

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