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青春Double Side  作者: 南乃太陽
激闘編
26/38

小さな勇気が変えた明日

買い物に出かけた京助は同級生からいじめられていた小学生の八坂清桜を助け出す。

関わっていくうちに清桜がマグナアウルの大ファンだと知った京助は親交を深めていき、清桜も自信をつけていく。

だがルゲンの卑劣な作戦により小学校が占拠されてしまい、清桜にも容赦なくジャガックの魔の手が迫る!

清桜の危機を知った京助は怒りを滾らせルゲンへ相対! 怒りの一撃が炸裂する!

 地球の衛星軌道上ジャガックの指令総本船にて、首領(ドン)の座につくゾゴーリは苛立っていた。

「もう……もう二ヶ月だ! 二ヶ月だぞ!」

 ザザルを除いた幹部達へ水の入ったコップを投げつけ、皆一様に目を伏せる。

「二ヶ月経っても街一つ占拠できんのか!」

「申し訳ありません……」

「元はと言えばクドゥリ! お前がマグナアウルとクインテットを殺し損ねたからではないのか!」

「しかしボス……奴らの力は強大です。クインテットに関しては新たな力を手に入れ、マグナアウルはそもそもの力が未知数、そしてジェノサイドカプリースは地球側に肩入れ。己が実力不足を棚に上げる訳ではありませんが、どうしても時間がかかってしまうのは致し方なく……」

「出来ない言い訳など聞きたくもない! そもそも真鳥市を手に入れるのは第一段階だという事を忘れるな!」

 ゾゴーリとしては現段階はありとあらゆる手を尽くしても計略の第一段階でずっと足踏みしている状態であるため、相当な苛立ちが溜まっているのだろう。

「おまけに地球人共のほとんどがマグナアウルとクインテットを支持している、このままだと占拠後に必ず響く! 身を切って表舞台に出た意味が無くなってしまう! それに大侵攻のせいで兵士がかなり減ってしまったのも痛手だ……うぅ……ぐううううっ!」

 四つの手で頭を掴んでぎりぎりと歯軋りを始めて苛立ちを露わにする。

「ボス、良いでしょうか?」

 ルゲンがゾゴーリの機嫌を伺う様に硬い口調で口を開き、ゾゴーリは三つの鋭い眼光で上目遣いにルゲンを睨みつける。

「なんだ、話してみろ」

「この前の作戦が上手く行きそうでしたので、その線で行けば我々の勝利に繋がるのではないでしょうか」

「結局失敗したんだろう」

「いえ、私めに任せてくだされば必ずや成功させてご覧に入れましょう」

 ルゲンに向けて鋭く刺さる三つの視線が注がれたが、やがて大きなため息と共にその視線は遮られた。

「いいだろう、やってみるがいい、必ず結果を出せ」

「は! すぐに取りかかります!」

 幹部達にとって地獄のような会議は、無事幕を閉じたのであった。


 雨が降ろうと槍が降ろうとジャガックが来ようと、腹は減るので食事をしなくてはならない。

「何買おっかな~」

 慧習館襲撃事件の十数日前の学校の無い日の夕方、京助はスーパーへ軽やかな足取りで向かっていた。

『最近空腹による大食いは無くなりましたね』

「言われてみりゃそうだな」

 あの大侵攻で世界へ自分の姿を晒して以降、マグナアウルとなって活動しても後々強烈な空腹感に襲われる事が無くなった。

『元々よく食べるので食料品の消費量は相変らず多いですが、まあ病的な大食いは無くなったのは良い傾向です』

「やっぱりお前が前に言ってた俺の空腹感は精神的要因って説、多分合ってたんじゃないかな」

『最近のあなたは楽しそうですからね』

 この街を守るヒーローとして称賛され、多くのファンがついた事で、空いていた心の穴が少しだけ埋まったのだろう。

「まあ、もう復讐の化身ってだけではいられないからな。マグナアウルは希望の象徴にもなったんだ」

『潰れないように息抜きはするのですよ』

「おう、サンキュ」

 そんなやり取りをしながら広い公園の前に差し掛かると、熟か何かの帰りだろう男子小学生の一団が視界の端に映った。

「ん?」

 なんだか様子がおかしい、共に遊具や持ち寄ったゲームで遊んでいるような微笑ましいものではないのを察知した京助は耳を傾ける。

「おい、逆らうのかぁ? んん?」

「やめて……痛いって……」

「じゃあやれよ」

「嫌だって……叩くのやめて……」

 京助は目を見開いた。これは明らかに一人の子を集団でいじめている所であった。

『京助、落ち着いて……』

 小学生の時からそうだ、京助はいじめという行為を嫌う。

 現場を見つけたら当事者でもないのに必ず割って入り、いじめた相手を心身共に痛めつけてやめさせてきた。

 高校一年生時に小学校時代のクラスメートだった他クラスの生徒数人から林檎がいじめられていると知った時、相手側全員を追い詰めてたった二週間でいじめを止めさせて不登校気味にしてしまったことがある。

 それ故京助のクラスメートは「絶対に敵に回してはいけない」「根に持つと怖い」という共通認識を持ってる。

『許せないのは分かります。ですが相手はまだ子供で……』

「子供だろうと見逃せないね」

 首を曲げて息を吐くと、京助は公園に足を踏み入れわざと大きく足を踏み鳴らした。

『京助、冷静に……』

 大きく足を踏み鳴らした事でいじめっ子達は京助に気付き、びくりとその身を震わせる。

「な……なんだよオッサン!」

「メッシュ入れてカッコつけやがって! ダサダサ男じゃねーか!」

「ダサ男帰れ!」

 いじめっ子たちはヘラヘラ笑いながら帰れコールやダサ男コールを京助に浴びせたが、目を大きく見開いて睨みつけて黙らせる。

「いっ!」

「うわああっ!」

 マグナアウルが使っているマインドコントロールと同じ手法でいじめっ子たちの精神に揺さぶりをかけると、そのまま彼らを睨みつけたままゆっくりと一団に近付いていく。

「なんだよっ! 来んなっ!」

「あ、あっち行け!」

 先程の威勢はどこへやら、震え声で罵声を浴びせるも、京助は構わず歩いて近付いて来る。やがていじめっ子たちの近くで足を止めて、上からぎろりと一人一人の顔を睨みつけた。

「ひぃ……いいいぃぃぃ……」

「ご、ごめんなさぃ……もうしませんから……」

「許してください……俺らが悪かったです……」

 涙と鼻水を流しながらいじめっ子たちは京助から目を離せないでいた。

『京助、子供相手に暴力は……』

 その時、京助の目が動いて右を向き、いじめっ子たちも咄嗟にそちらを向く。

「……え? あっ!」

 いじめっ子の一人が指した方向には、いじめられていた子を抱えて走る京助の姿があった。

 

 しばらく走って公園から離れた桐野川の川沿いのベンチに差し掛かった所で、京助はその男の子を下ろした。

「あぁ~ドキドキした……」

『ドキドキしたのはこっちです、手を出すんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ』

「冷静に考えたら事案だなコレ……明日不審者情報に俺が乗るかもしれん」

 いじめられていた子を助け出すいい作戦だと思ったが、やはり冷静ではなかったらしい。

 今後どうするかとか、もし捕まった時に警察へなんと言おうかとかいう事を考えていると、男の子が絞り出すような声で声をかけてきた。

「あっ、あのっ!」

「え? ああ、おう。大丈夫か? 怪我してないか?」

「ありがとうございます! おっ、おかげで助かりました!」

「ああ、いいのいいの、気にすんな。それじゃな」

「待ってください!」

 呼び止められた京助は苦笑いをしながら振り返る。

「ちょっとだけ……僕の話を聞いてくれませんか」

 これは予想外だった、だが元はと言えば分から乗り掛かった舟であるし、それに全くの部外者である京助になら何か言えるのではないかと彼も考えたのだろう。

 近くのベンチに座って隣を指して座るように言った。

「まあ座れよ、君の名前は何て言うんだ?」

「えっと、八坂清桜(やさかきよはる)って言います。お兄さんは何て言うんですか?」

「俺は千道京助。京助でいいよ」

「京助さん……さっきはありがとうございました」

「いいよ、見逃せなかっただけだし。なんでいじめられてたんだ?」

「分からないです……でも僕……あんまり運動得意じゃないし、絵ばっかり描いてるし、静かだから目を付けられたんだと思います」

「ふーん、まあ強く出てくる奴には逆らえない卑怯者ってこったな。まあそんな奴ら無視で良いんだが、暴力はなぁ……誰かに相談とかはしてるか?」

「先生はあんまり頼れないし……僕は母子家庭で、お母さんに心配かけたくないから誰にも相談できなくて……だから」

「ああ、俺に相談しようって事ね」

 それはかなりキツいだろう、秘密を抱える辛さを京助は誰よりも知っている。

 しかも京助はトトという眷属にして友でありメンターが居るが、清桜にはそれが無い。彼がこの年で抱える悩みはかなりのものだろう。

「そうかそうか……ふむ」

 何か力になってやりたいが、常に京助が出張る訳には行かない。

「清桜のお母さんって優しい人か?」

「え? あぁ……はい」

「じゃあさ、お母さんに言ってみるってのはどうだ?」

「えぇ! でもそしたら……」

「いやな、多分お母さんはな、いじめられてる事を後々知ったらすげー悲しむと思うんだよな、それに俺よりもお母さんに言った方がいじめが無くなる可能性が高い。力になってやりたいけど現実問題俺と清桜って関係性薄いからさ、だから俺よりお母さんに相談しな」

 納得はしたようだが、どうにも煮え切らない様子の清桜に向かって微笑んで言った。

「俺が一緒にお母さんにこの事言ってあげようか?」

「え? そんな……」

「まあ乗り掛かった舟のお節介だと思ってさ。お母さんはいつ帰ってくる?」

「えっと……今日は確か日勤だったので、四時ぐらいになるかなと」

「ふーん」

 左腕のトトを見て時間を確かめるフリをする。

「じゃあ今から帰ったらちょうどいいぐらいかな?」

「そうですね、でもいいんですか?」

「ああ、大丈夫さ。行こう」

 清桜と共に八坂家に向かい、五階建てのマンションの一室に入ると、女性ものの靴が置かれていた。

「お母さん、ただいま」

「清桜おかえ……あら? この人は?」

 京助は清桜の母に頭を下げ、清桜に言う様に目で促した。

「色々あって……来てもらったんだ。上がってください」

 怪訝な目で京助を見る清桜の母だったが、食卓に腰かけてこれまでの経緯を話すとショックを受けて黙り込んだ後に何度も頭を下げて感謝の意を伝えられた。

「ありがとうございました……うちの子を助けてくれたんですね」

「いえいえ、見逃せなかっただけです。それでさっき相談してお母さんに話そうってなったんだよな。どうだ? すっきりしたろ?」

「うん、もっと早く言えば良かった」

 清桜の母は席を立って目に涙を溜めながら清桜に目線を合わせてから言った。

「ごめんね清桜……お母さんお仕事ばっかりで全然清桜の事気付いてあげられなかったね……」

「いいんだよ、お母さんは看護師なんだからあんまり心配かけちゃいけないかなって思ってさ」

「いい? お母さんは看護師である前に、あなたのお母さんなの。気付けなかった私も悪かったけど、何か辛い事があったら絶対に言うようにして」

「うん、ごめんね」

「ううん、謝るのは私」

 清桜は母と抱き合い、その様子を見て京助はどこか懐かしさを覚えて手の甲を頬に当てる。

 こんなふうに母に抱き締められた日が自分にもあったのはなんとなく覚えている、だがそんな日も遠い昔。京助の心の中でより一層ジャガックへの憎悪と、この景色を守る為の戦いへの闘志を燃やすのであった。

「ちょっと部屋に行っておいてくれる?」

「うん、でもなんで?」

「千道さんとちょっとお話したいのよ」

 清桜が部屋に向かった所で、清桜の母がまた礼を言って頭を下げてきたので同時に京助も立ち上がり手を振って遠慮する。

「もういいんですよ」

「いいえ、助けていただいて……ああ、遅れましたが私は八坂麻衣といいます」

「ああ、はい。どうも、してお話というのは?」

「あの、差し出がましいお願いになるのですが、お暇な時にあの子の遊び相手になってやってくれませんか?」

「ええ? はぁ……」

 てっきりいじめの証拠を取って来てくれなんていう難題を言い渡されるかと思っていたが、そんな事ならばお安い御用である。

「まあ自分でいいなら力になりますよ」

「あの子あんまり友達がいなくて、前から気がかりではあったんですが……まさかいじめまでされてるとは……私はこのご時世でこの仕事ですからしっかりと見てやれなくて……どうかお暇な時でいいのであの子と会ってあげてくれますか?」

「ええ、いいですよ。じゃあ今からちょっとだけ遊び相手になりましょうか」

「本当ですか⁉ 助かります……ありがとうございます!」

 

「てことで俺は清桜のお(もり)になったというわけだ」

「本当!? やったぁ!」

「ただ条件がある、敬語は無しだ」

「はい! いや、うん!」

 清桜の部屋をぐるりと見回し、京助は膝を叩いて聞いた。

「学校の友達って何人ぐらいいる?」

「うーん、いつも一緒なのは、三人ぐらいかな。あと……サトぐらい」

「サト?」

「幼馴染の女の子なんだ、怜美(さとみ)って言うんだけど……いつもスンってしてるから最近仲良いか分からない」

「へぇ」

「でも僕の絵を好きって言ってくれる」

「仲いいじゃねーか」

 京助は清桜の額を小突き、清桜は照れ笑いを浮かべる。

「俺も幼馴染の女の子が居たな」

「そうなの? じゃあ今は?」

「俺の彼女でーす」

 ウザいと感じる類の笑顔と共に自慢げにスマホのホーム画面を見せた後、写真フォルダから奏音の写真をスクロールして見せる。

「彼女いたんだ京助君」

「そーお、見てみて可愛いでしょ俺の彼女」

 健康的で快活そうな美人なお姉さん、清桜の目にはそんな風に映った。

「大学生っていいなぁ」

「え? 俺高校生よ」

「え? じゃあなんで髪……」

「ああ、見て」

 白い前髪を一本抜いて見せると、それは根元まで白く染まっている。

「これもしかして地毛?」

「そう、これ地毛なんだよ。昔色々あってここだけ白いんだ」

「なんかかっこいい……」

「そう? 見た目は悪くないし気に入ってるけどあんまいい事ないけどな」

 髪の毛を備え付けのゴミ箱に捨てると、スケッチブックが目に入った。

「おお、これ見ていいか?」

 清桜は一瞬戸惑ったが、うつむき気味に頷くと、京助は最初のページを捲ってみた。

 確かに絵を描くのが好きというだけあって小学生にしてはかなり上手いイラストばかりで、京助は思わず感嘆の声を漏らす。

 特撮ヒーローやアニメのキャラクターなどが描かれたページを何気なく捲っていると、ふとある所で手が止まった。

「これは……」

 そのページに描かれているのは自分だった。それももう一人の戦う時の自分自身。

「それ……初めて書いた時のやつ、もっと後の方が上手くかけてるよ!」

 照れ臭そうに言う清桜を一瞥すると、京助は夢中でページを捲る。

『よく描けてる』

『細部まで観察できていますね。装飾の形状も、武器の形もしっかり描けています』

 小さく息を吐いて京助はスケッチブックを閉じて聞いた。

「好きなのか? マグナアウル」

「うん、マグナアウルは僕とお母さんを助けてくれたんだ」

「そうなのか?」

 いちいち助けた人間の顔は覚えていないが、清桜にとっては一生モノの衝撃だったのだろう。

「大侵攻の日、僕はお母さんと一緒に街に居たんだ。そしたらジャガックが来てね、僕達は避難するように言われた」

 避難の列はかなり長く、そして急遽行われたという事もあってか中々スムーズに行かず、そうこうしているうちにジャガックのオートマタが迫って来た。

「その時に僕は結構近くに居てさ、掴まれる! って思った瞬間にマグナアウルが来てくれたんだ」

「そりゃ……頼もしかっただろうな」

「マグナアウルは強くて頼もしくて……そしてかっこいい! また僕の所にジャガックが来ても、絶対に助けてくれると思う。いつか会って……お話とか握手とかしてみたいな」

 京助にとって清桜はもはやただの知己の一人ではなくなった、自分の大切なファンの一人だ。

「なあ清桜」

「うん?」

「マグナウルみたいに強くなりたいと思うか?」

「そりゃ……少しは憧れるけど、僕は空も飛べないし何もない場所から武器を取り出せないし、超能力だって使えない」

「けど戦い方なら誰だってマネできる」

「戦い方?」

 怪訝そうな清桜に、京助は微笑んでから構えて見せた。

「俺は格闘技齧っててな」

「格闘技の先生になってくれるの?」

「ああ、少しだけなら教えてやれる。ただし、絶対に自分から手を出しちゃダメだ」

「反撃の方法を教えてくれるんだね」

「そうだな、護身術の応用になるかな」

「でも僕……そんなに力強くないし、それに向かい合った時に迫られたら頭真っ白になっちゃうかも」

「大丈夫だ、少ない動作で大きな効果を上げれるものだよ」

 京助は清桜に立つよう促し、理論と仕組みをわかりやすく丁寧に教え、自ら的となって教える事で清桜に技を伝授したのであった。


「とまあそういう事があったんだ」

 帰宅して食事を済ませ、奏音達とのグループ通話とゲームサーバーに入った京助は、今日の出来事を皆に話していた。

「なんか去年のこと思い出したわ」

「そんな事もあったっけ」

 懐かしむ奏音と林檎には、林檎をいじめていた相手を追い詰めた手段に精神作用系の能力を使ったとは口が裂けても言えない。

「でも心配ですね」

「ああ、清桜が? だよな、まあもし……」

「いやいや、違いますよ。京助君が不審者情報に載る事が心配なんです」

「え? あぇ? そっち⁉」

 清桜とのごたごたですっかり忘れていたが、あの悪ガキ共が逆恨みして通報が行く可能性は十分にある。

「だって京助君の容姿って結構特徴的じゃないですか」

「ああ、確かに……情状酌量の余地がある事を願いたいね」

「もし取っ捕まったらウチが涙ながらに演技したるよ」

「まあ補導されることは無いと思うよ。やり方がちょっとアレだったけど結局京助はその子を助けてるわけじゃん」

「皐月の言う通りだと良いんだけどな。もしダメだったら明穂のとーちゃんかーちゃんに早く出してもらえるよう交渉しないと」

「お父さんにもお母さんにもそんな権限ないと思うよ……多分少年課じゃないし」

「こういう時こそセンキョーの影の軍団(シャドー・カンパニー)使うべきじゃね?」

「だからいねーってそんなん」

「何? 影の軍団って」

 林檎は千道家にはその凄まじい財力を駆使して組織された秘密の軍団がついており、代々の千道家当主はそのトップについていて京助は若くしてその王座に座っているのだ、という与太話を面白おかしく尾鰭を付けて脚色しながら皆に話した。

「第一千道家のルーツって飛鳥時代まで遡らねぇし、発端がそこなら組織のセクションの名前がチェスの駒から来てるのはおかしいだろ」

「確かに今の話には粗はあるけど説得力はあるね」

「どこに? 具体的にどこに説得力あったか教えてくんね?」

「あの豪邸の地下になら何かあってもおかしくないと思うし」

「俺んちには半地下の収納しかねーよ」

 地下の施設のことは絶対にバレない作りにはなっているものの、当たらずとも遠からずな話をされるとなんだか動悸が止まらない。

「もしその影の軍団が存在したら、今は空位のクイーンに私が座るのか」

「便宜上空位だけど、カノちゃんが座るのは確定事項だから部下たちに周知済んでるんだよね」

「ああもう始めから仕組まれた出会いだったのね」

「ユメリンゴお前もうその設定で小説書け」

「ああ、なんかそういうの女性向けにありそうですよね」

「『冴えない私が大金持ちで裏社会の王の幼馴染に溺愛されてます』的な? タイトルなげ~」

「何よ冴えないってぇ」

 少々不満気味な奏音を流しつつ、京助は最大の疑問を発した。

「だいたいなんでそんな話広まったんだっけ? 高一の時点であったよな」

「高一から? 息の長い噂だね」

「うーん、たしか京助がさ、幹人君か誰かに『そんな事言ってたら俺の金で雇われた黒い人たちが夜道でお前を攫うかもな』とか冗談で言ってたのが始まりじゃなかった?」

「ああ、そっから尾鰭ついてこうなったのか。まあそんな軍団居ないから……ただ俺の金で雇われた黒い人たちは居るかもしれんが」

「ねぇ怖いって!」

 見慣れた京助の家の地下に、もしかしたら何かあるのではないかと想像して秘かに奏音は笑うのだった。


 清桜と会ってから二日後、メッセージアプリに連絡が入った。

「お、清桜からだ。あの公園で会いたい……じゃあ行くか」

 左手で指を鳴らすと服が外行に変わり、右手で指を鳴らすと部屋じゅうの電気が消えて公園近くの建物の裏に移動していた。

『ビックリです。モノグサ極まりなし』

「うるせーや、たまには良いだろ」

 周囲を慎重に見まわしながら表へ出て公園に向かうと、既に清桜が先に着て遊具で遊んでおり、京助に気付いて手を振る。

「おーい!」

「おう、来たぞ」

 同時にベンチに座っていた清桜と同い年程度の女児がこちらをまるで値踏みするかのように一瞥し、すぐに清桜の方へ顔を向けた。

「この人がその?」

「うん、そう!」

 その女児は不愛想なすまし顔で目を細めて京助の爪先からてっぺんをじろじろと見てから呟いた。

「話に聞くよりマシかな?」

「なあ清桜、会うなりこんなこと抜かす失礼なガキは何者だい?」

「あはは……こいつがサトだよ」

 この女児こそ海山怜美、清桜の幼馴染である。

「まあ清桜に取ってはヒーローだろうけど、要は小学生の子供の喧嘩にしゃしゃり出てきた成人一歩手前の高校生って事でしょ?」

「う~わ、なんだこいつ。かわいくねぇガキ! ブスくれた表情(カオ)しやがって」

 苦笑いで窘める清桜をよそに、怜美はムッとした表情で京助を睨む。

「私がブスって言いたいワケ?」

「ブスくれたって言葉も知らないのか。な~んだ、ただのマセガキだったか、悲しいかなメッキ剥がれるのが早かったな」

 眉根が寄って前髪の分け目から覗く額に青筋が浮き出て、怜美の相貌の光は更に強くなる。

「大人気ない男」

「まだ子供だも~ん、さっき自分で成人一歩手前って言ったじゃねぇか」

 大人気ない事極まりないが、いずれにせよ怜美の完敗である。頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

「あのサトがやり込められた……やっぱ京助君すごいや」

「いやいやこんな大人ぶってるだけのキッズ相手如きなんでもない」

「キッズで悪かったわね!」

「キッズなのは事実じゃない?」

 まさか清桜に突っ込まれるとは思っていなかったのか、怜美は目を見開いて怒鳴りつける。

「このっ……バカ清桜! いつまでハイを引きずってんのよ!」

「なんだよハイを引きずるって」

「清桜から聞けば? バカせんせー」

 なぜか京助の仇名がバカせんせーに決まってしまった。

「また変な仇名が増えた。んでなんでハイになってんだ?」

「今日登校日だったんだけどさ……一発かましてやったんだ!」

 京助は驚いて微笑み、両の拳を差し出した。

「やったじゃん」

 京助と清桜は互いに満面の笑みでグータッチを交わし、怜美は羨ましさを隠しきれない様子で二人の方をちらりと見る。

「どんな感じだったんだ?」

 清桜はジェスチャーを交えて半ば興奮気味に言う事には、今日の授業時間こそ何もなかったが、帰り支度が終わった頃にあの時のいじめっ子達が取り囲んできたという。

「あいつら自分で逃げて行ったくせに僕のせいにしてきたんだ」

「それでそれで?」

「京助君の言った通り挑発したらさ、あっちから手を出してくれたよ」

「肩を押すやつ?」

「うん、肩だった」

 清桜に普段相手に何をされるか聞いた京助は、それを基に対策を立てたのだ。

「最初は確かに怖かったけど……でも京助君が言ってた『何より最大の武器はここぞって時にやる意志と、それを実行に踏み出す勇気だ』ってのを思い出して」

「極めたんだな」

「うん、手を掴んで捻った!」

 京助が教えたのは、肩を掴んできた腕を逆にこちらが掴んで体を曲げて抑え込んで相手の関節を極める技である。

 清桜は見事それをモノにし、見事いじめっ子を撃退して見せたのだ。

「よくやった! えらいぞ!」

 京助は清桜の髪が乱れる程に頭を撫で、清桜は照れ臭そうに上目で笑った。

「あいつ痛い痛いってずっと叫んでたよ」

「いいじゃないか、泣くまでやったか?」

「そこまではやらなかったけど、離したらすぐ逃げてった」

 清桜はとてもすっきりした顔をしていたが、そこに怜美が水を差す。

「こんなことすればやり返されての繰り返しじゃない。言葉で言って止めさせるべきだったのよ」

「甘いよお嬢ちゃん、人をいじめるような奴は言葉で止まるように人間が出来てないの」

「確かにそうだけど……やりかえしたら同じ土俵に上がったことになるでしょ」

「イノシシやらヒグマが畑を襲ってきたら罠を張るなり銃で撃つなりするだろ? それは同じ土俵に立ってると言えるかい?」

「むぅ……」

「いじめは無くならない、これは人間が人間である以上仕方ない事だが、だがいじめをするような奴に断固として立ち向かう姿勢を見せればだいたい黙らせることが出来るのさ」

「まるでいじめする人が動物みたいな言い方するじゃない」

「そうだよ、奴らは猿未満。協調で進化した人類の在り方に背を向ける愚かな連中だ。そんなのに言葉なんて高尚なものは勿体ないと思わないか?」

 綺麗事ばかり言う人間かと思いきや、ドライな事をこうまで平然と言いきって見せる姿勢に怜美はゾッとする同時に感服させられた。

「まあそれは置いといて清桜、今日は記念日だ。なんか食いたいもんあるか? アイスでもハンバーガーでも何でも奢ってやるよ」

「ホント! やったぁ!」

「……ねぇ、私は?」

「うーん、どうしようかなぁ」

 顎に手を当ててニヤニヤとする京助を怜美が頬を膨らませて上目遣いで睨み、清桜が苦笑いしながら怜美の肩に手を置いた。

「お願い京助君、拗ねると面倒だから」

「別に拗ねてないし」

「いいよ、俺は懐が天の川銀河ぐらい広いから奢ってやるよ。まとキュー行こうか」

 どこかホッとした様子を見せた怜美は自分の荷物を持つと、京助と清桜の所へ軽い足取りで向かうのであった。


 まとりキューズモールに到着した三人は、いろいろと見て回った末にアイスクリームチェーン店へ向かい、各々のお気に入りのフレーバーを注文して三人並んで食べ始めた。

「ねえサト」

「なに?」

「ちょっと気になってたんだけど、なんで京助君に突っかかったの?」

 怜美はアイスを一口食べてから少しだけ唸り、怜美は口を開く。

「許せなかったんだ。考えなしにアドバイスして清桜を変えてしまったんじゃないかって」

「つまりどういう事だい?」

「まあさっき話して考えなしじゃないって事が分かったからそこは良かったんだけどさ、でも清桜が変わっちゃうんじゃないかって……」

「変わるってどう変わるんだ?」

「……言わない」

「えぇ、ここまで言ったんなら言ってよ」

「……」

 大口を開けてアイスのコーンを三口慌てて齧ると、怜美は早口かつ投槍に言った。

「優しいあんたが変わるんじゃないかって考えるとこの男が許せなかったのっ!」

 怜美はこの成功体験から優しく大人しい性格の清桜が歪んでいってしまうのではないかと危惧しており、清桜に戦う術を教えた京助に対して疑惑の目と怒りを向けていたのである。

「うーん、変わるのが怖かった……ねぇ」

「まあ私はいじめられてたあんたに何もできなかったから何か言う資格は無いんだろうけどさ……でもどうしても色々考えちゃって」

 すまし顔のかわいくねーガキにも彼女なりに幼馴染を気遣う一面があると見て、京助はニヤリと笑ってコーンを齧る。

「大丈夫だよサト。京助君と約束したんだ、これは向こうからやった時にしか使わないって。あくまで自分の身を守るためのものだって、自分からは絶対にしないって約束したから」

「あと怪我させない事」

「そうだった、こっちも大事」

「大丈夫なの? 優しいあんたはいなくならない?」

「うーん……努力する」

「いなくならないで、あんたの数少ない良い所なんだから」

「数少ないって何さ」

 こんな可愛げがなく一言多い奴ではあるが、清桜にもちゃんと彼の事を見て、そして考えてくれる友人が居た事に京助はホッと一安心して大きく息を吐く。

「まあ大丈夫だろ、清桜は優しい奴さ。そこはずっと変わらない」

「どうしてそう言えるの?」

「だって考えてみな、自分が傷ついてる事を心配させたくないって理由で母親に隠し通したんだぞ? 人間の本質的に優しい奴なんだよ。だから歪むことはそうそうないと思うぜ」

「そうなの?」

「それに優しいだけじゃなく、一歩を踏み出せる勇気も持ってる。本当に強い子だ」

 照れたように頬を掻きながら、清桜は京助から頭を撫でられるのであった。


 三人でアイスを食べてからちょうど一週間後の清桜の小学校の登校日、四日前に慧習館高校がジャガックに襲われたとあってか、真鳥市内の全ての学校及び教職員は緊張感を持って職務に当たっていた。

 そんな先生たちの苦労はつゆ知らず、小学生たちは無邪気に授業を受けていた。

「音楽の授業とか久しぶりだな」

 清春たちはこれから移動教室で一階にある集会室へ行かなくてはならない。

 先生の呼びかけで整列した後、集会室へ移動していると腹の調子が気になり始める。

「サトごめん……これ持って行ってくれる?」

「ハァ? なんで?」

 小声で怪訝な顔をする怜美に申し訳なさそうにしながら同じく小声で言った。

「トイレ行きたい! ごめん!」

「……わかった、あんたの荷物持って行ってあげるから行ってきな」

 清桜は礼を言いながら列を抜け、小走りで一階のトイレの個室へ駆け込み、不快感がする冷えた便座に腰かける。

「ふぅ、授業に間に合うと良いけどな……」

 残念ながらしばらくするとチャイムが鳴ってしまった。授業には遅れてしまったが、きっと怜美が先生に事情を説明してくれるだろう。

「急がないと……」

 個室を出てふと何気なく廊下の窓を見ると青と白というシンプルな色で彩られた空が突然、巨大な灰色の異物で塗りつぶされてしまった。

「え?」

 一瞬の思考停止の後、清桜の脳裡にあの恐ろしい記憶が堰を切った濁流の如く流れ出す。

「じゃ……ジャガック!」

 清桜は即座にトイレへ戻り、掃除用具入れに飛び込んだ。

 端っこで体を丸めて小さくなっていると、クラスの担任教師や母が言っていた「高校にジャガックが現れて人質に取られた」という話を今更になって思い出す。

(まさか……僕の学校に来るなんてぇ!)

 これから自分はどうなるのか震えていると、放送用のスピーカーからザザザ……というノイズや甲高い音が断続的に響き渡り、一際奇妙なノイズ音が走った後にまるで狡猾な蛇を思わせる男の声がスピーカーから流れ始めた。

『小学校の児童及び教職員諸君。私はジャガック幹部、参謀のセ・ルゲンである。見ての通りこの学校は私の部隊が占拠した。なおこの小学校一帯は特殊なフィールドで包まれている為一切の通信手段は無効である』

 それはつまりクインテットへのホットラインが使えず、何かしら外部へ連絡が取れないという事。

『これからそちらに向かう、一切の抵抗を止めて我々の指示に従うように。もし抵抗した場合……』

 爆発音とそれから遅れて大勢の悲鳴がし、清桜はびくりとその身を震わせ、自分の両腕を抱きしめて否が応にも震えを止める。

『容赦しない。賢い選択を期待する』

 その後しばらくすると廊下から機械の駆動音と大きな足音、そして何かが壊される音や騒ぎ声泣き声が響き、ただただ自分の居所がバレないように必死で口を押えて声を発さぬように努めた。

(どうしよう……どうしよう!)

 危うし清桜、果たして少年の運命やいかに。


 そして数十分後、児童と教師は体育館に集められ、当然怜美もその中に居た。

(清桜! 清桜が居ない! どこ行ったのよ!)

 いつもはすました様な態度で居る怜美だが、今回ばかりはそうもいかない。

(もしかして……殺された? じゃあ私達も……殺されちゃうの?)

 周囲を取り囲むパワードアーマーを纏った得体の知れない異星人たちを見て、怜美は溢れ出る恐怖を抑えきれずに涙を流し始める。

(どこに居るの? 私達はどうなるの?)


 てっきり隈なく学校じゅうを探された挙句見つけられると思っていたが、数十分経っても用具入れのドアが勢い良く開かれることは無く、あれだけ廊下から騒がしく響いていた声も今や遠く、パワードアーマー駆動音もしない。

 そして隠れているとだんだん心に余裕が出来てきて、別の事も考えられるようになってきた。

(どうやったらみんなが助かるんだろう?)

 まずもって、何かしらの目的があってジャガックはこの学校を占拠したのだろう。目的が何であれそれは好ましくないものであることは確かで、出来ればそれを防ぎつつ助かる道を探さなくてはならない。

 となると鍵はやはり、未だにジャガックに見つかっていない自分という事になってくる。

(僕に……出来るのかな?)

 かつての清桜だったなら、自分には無理とすぐ否定してここでずっと燻り続けていただろう。

 だが今は違う、清桜の心にある言葉が浮かんできた。

『いいか? 何より大切で最大の武器はな、ここぞって時にやる意志と、それを実行に踏み出す勇気だ』

 京助の言葉が、自分を強くしてくれた恩人の言葉が強く胸を叩いて背中を押してくる。

 清桜は大きく息を吐くと、三年と数ヶ月間過ごした学校の地図を脳裡に思い描き、最短でなおかつあの巨大な船から見えないように正門へ向かうルートをシミュレートし始めた。

「意志と勇気……意志と勇気……意志と勇気!」

 用具入れの戸を開けた清桜は自分の頬をぱちんと叩いて気合を入れ、外に繋がる窓を開けると体をねじ込んで脱出を開始する。

 この時ばかりはまだ大きくない自分の体に感謝しながら慎重に外の木が植えられている土が敷かれている所へ降り立ち、素早く周囲を見回してパワードアーマーが居ないことを確認した。

「んあぁ……」

 室内用シューズが土で汚れてしまっていた。運動靴に履き替えようと一瞬考えたが、そんな暇は無い。

 清桜は姿勢を落として木や先生達が乗って来た車に隠れながら徐々に正門の近くへ向かっていたが、パワードアーマーの駆動音を耳にして、咄嗟に車と塀の間に隠れた。

「フッ……うぅ……」

 口を両手で抑えて少しでも自分から出す音をかき消そうと努めるが、早鐘を打つ心臓の音が周囲にも響いていやしないかと戦々恐々の思いで清桜はその身を縮こまらせる。

 だんだんと駆動音が近付くにつれ聴覚が鋭く、全身の毛は総毛立ち、これ以上早くなることは無いと思っていた心臓の鼓動はより早くなって全身に血液を送り出す。

「……」

 より一層高まった感覚と、引き延ばされた時間の中で清桜は恐怖と戦いながら真横を通り過ぎるパワードアーマーをやり過ごし、駆動音が聞こえなくなったあたりで顔を出して周囲の様子を伺った。

「走ろう!」

 何故そう思ったのかは分からない、そもそも走るのはあまり得意ではないが、今この瞬間だけは誰よりも速く、どこまでも遠くへ行けそうな気がした。

 走りにくい靴底がすり減りかけている室内用シューズを履いているのもお構いなしに、清桜はアスファルトの上を全力疾走で駆け抜けて正門へと向かう。

(僕がみんなを……サトを助けるんだ!)

 秋風に身を任せ、清桜は腕と足を我武者羅に動かしてひたすら走り続けた。


 同時期、鍛錬中の京助の脳裡に無数の写真と短い映像が流れ込んできた。

「清桜!」

 いわゆる虫の報せ、自分や知人あるいは親しい者に危機が近付いている際に働く予知や第六感の類の超能力が発動したのである。

「清桜が危ない! でも警報とかは出てないはず……」

『隠密行動したのかもしれません。急ぎましょう!』

 猛烈な勢いで指を三度鳴らすと、一度目で汗まみれの体が一瞬で清められ、二度目で着替えが完了し、三度目で京助の姿はその場から消失した。


 走り続けて遂に正門を通り抜け、いつも歩いている長い坂を駆け下りていると、白い影が真上を通り過ぎ、轟音と共にアスファルトの破片を撒き散らして清桜の眼前に降り立った。

「ひうっ⁉」

 あまりの急な出来事に、清桜は驚いて尻餅をつき、白いパワードアーマーはこちらを向いて近付いて来る。

「フッフッフッフッフ……逃げられるとでも思ったか小僧」

 パワードアーマーからした声は、あの放送用のスピーカーから響いた狡猾な蛇を思わせるあの声だった。

 つまりこのパワードアーマーを駆る者こそジャガック幹部が一人、セ・ルゲンであろう。

「お前の友の多くが囚われるのを見て臆病風に吹かれて逃げ出したか?」

「ち……違うっ! 僕は助けを呼びに行くんだ!」

「助けか……まあそういう事にしておいてやるとしてもお前のそれは勇気とは言わない、ただの無鉄砲の考えなしというものさ」

 ぎりと奥歯を噛み締めて湧き上がる恐怖心を押し殺し、清桜は震える足で再び立ち上がった。

「何だ小僧、私と戦うか?」

「僕は……僕はお前と戦っても絶対負ける……けど誰かを呼んで頼る事なら出来る!」

「フン……」

 怯える子供の反応を期待したルゲンだったが、当の清桜が啖呵を切って見せたせいか面白くないらしく、即座に肉薄して清桜を掴み上げて空中高く持ち上げる。

「うう! い……痛い……」

 パワードアーマーの腕が清桜の体を容赦なく締め上げ、その痛みに思わず涙が零れた。

「無駄だ小僧! お前は何もできず助けも来ない! そして我々は貴様らのおかげでこの街を手にするのだ!」

「助けは……来る!」

「何ィ?」

「僕が呼ばなくたって……彼はもう気付いてるはず! お前らの事なんかとっくに彼は気付いてる!」

「黙れ小僧!」

 締め上げる力が強くなるのも構わず、半ば喚くように清桜は続ける。

「マグナアウルはいつだってお前らと戦って勝って来た! きっと今にも駆けつけて! 僕を助けてくれるんだ!」

 失敗続きでゾゴーリから責められていたルゲンはこの一言で完全に怒りが爆発し、アーマーの中で鋭い歯を剥き出しにして怒鳴りつける。

「寝惚けた事を! お前は助からない! マグナアウルは絶対に来ない! なぜならお前は今すぐここで! 死ぬんだからなァッ!」

 アームが動いて清桜が上空高く放り投げられ、頭から地面に激突しそうになったその刹那、黒い影が猛スピードで飛来して清桜を連れ去り、上空高く飛翔して地面へ降り立った。

「……あっ!」

 藍と焦茶の装甲に包まれた体が清桜をしっかりと抱きとめ、梟を模した(ヘルム)が優しげな雰囲気で自分を見つめていた。

「来て……来てくれたんだね!」

 マントが収納されてマフラーに変わると、清桜は何度も観察して憧れたその男の名を呼んだ。

「マグナアウル‼」

 マグナアウルは優しく清桜を下ろすと、今度はルゲンのパワードアーマーへ向かい合う。

「クッ……フハハハハ! 来たかマグナアウル! 子供を助けようとするその意志は素晴らしい。だが残念だがこのパワードアーマーは特別製でな! あの大侵攻の日に計測した貴様のデータを基に作ったこのルゲン特別仕様なのだ! 貴様は絶対に私には勝てない、このパワードアーマーがある……」

「言いたい事はそれだけか」

 遮ったマグナアウルの口調はあまりにも冷たく、ルゲンどころか清桜も背筋に氷柱をねじ込まれたかのような感覚が襲う。

「では俺も言いたいことを言おうか。オストリッチ(強化装甲)

 腕に装着された強化装甲をひと撫ですると、マグナアウルは静かに怒りを滾らせて言った。

「絶対に許さん。以上だ」

 死の宣告にも等しいその一言と共にマグナアウルは一瞬でパワードアーマーの懐に潜り込んで胴体を殴りつけると、連続で拳を叩き込んで装甲をボコボコにへこませて、倍以上の大きさのパワードアーマー吹き飛ばしてしまった。

「グウウウウッ⁉」

 アーマー内で鳴り響く警報を背に、ルゲンは目を見開いて驚愕する。

「何故だ! こんな威力……」

「言ったろう、絶対許さんと」

「貴様に許しなど……誰が乞うか!」

 怒鳴りながらアームや背中からビームキャリアを展開すると赤黒い収束ビームを放ち、マグナアウルはそれらを左手で受け止める。

「この威力、いくら貴様とて一分と持つまい! じわじわと苦しんで……」

「煩い」

 マグナアウルの左手に収束したビームのエネルギーが全て右手へ移ると、青白い光線へ変化してパワードアーマーのビームと拮抗した。

「何っ! こんな力は知らないぞ!」

「フッ!」

 光線の威力を上げてビームを完全に押し返すとパワードアーマーは転倒し、今の一撃でビームキャリアは機能不全と化してしまった。

「こんなにも……こいつはこんなにも強いのか!」

「何を寝惚けてるんだ!」

 顔を上げるとマグナアウルが跳躍しており、その手の周囲にはナイフが四本浮遊していた。

ガル(ナイフ)! おおおおおおおおおっ!」

「あああああああっ! やめろっ! やめんかァッ!」

 転倒したパワードアーマーに馬乗りになって胸部装甲に狙いを定め、刃が半物質になっている六本のナイフを手刀に沿って平行に浮遊させると、まるで回転ノコギリのように高速で回転させ、ルゲンのパワードアーマーの装甲を破らんとする。

「引きずり出してやる!」

「やめろと……言ってるだろう!」

 パワードアーマーによる渾身の殴打を喰らい、マグナアウルはよろけた隙に引きずり降ろされて体を掴まれて持ち上げられてしまう。

「散々邪魔してくれたがこれで……」

「ぬおおおああっ! セイヤッ!」

 梟を模した(ヘルム)の、その羽角(うかく)に当たる角状の装飾に電気を帯びたサイコエネルギーが収束し、それがスパークしてアーマーの腕を焼き尽くして切断してしまった。

「うぅっ⁉」

 先程からマグナウルがデータにない威力のデータにない攻撃ばかり繰り出して来る。

(まさかこいつ……あの一対圧倒的多数の戦いでもまだ出し惜しみしていたとでも言うのか⁉ いくら怒りで力が増しているとてこの力の増大はそうとしか思えん!)

 本気で命の危険を感じたルゲンは通信機を掴んでそこに向けて怒鳴りつけた。

「全員ここに集合しろ! マグナアウルが現れた! 全機! 全機で迎撃しろ!」

 即座に正門付近に無数のパワードアーマーを纏ったジャガック兵が現れ、ルゲンは跳躍して船の方へ逃げ出してしまった。

「……クソッ!」

 ルゲンを追いかけようとしたが、無数のアーマーが立ち塞がり、そして何より近くに清桜が居る。

「下がってろ!」

 背後の清桜を一瞥してから先程吹き飛んだ半物質の刃のナイフを飛ばし、マグナアウルは跳躍しながら銃器を生成した。

シュービル(対物ライフル)シュライク(投槍)ウッドペッカー(ハンドガン)レイヴン(サブマシンガン)ブラックスワン(ショットガン)アルバトロス(クロスボウ)!」

 無数の武器が合体して生成され、弩に番った投槍の先端にエネルギーが収束していく。

早贄(ドラグーン)・大翼乱舞!」

 無数のエネルギーを伴って投槍が射出され、複雑な軌跡を描きながら次々と相手を刺し貫いて半数以上のパワードアーマーを破壊してしまった。

「フッ!」

 崩れる銃器の残骸を投げ捨てると、マグナウルは一番近くに居たパワードアーマーに膝蹴りを見舞ってコックピットを操縦者ごと破壊し、更にチェーンで複数のパワードアーマーを拘束して電撃を流して全機吹き飛ばしてしまった。

「これで最後だ、とっておきを喰らわせてやる! オストリッチ(強化装甲)‼」

 脚部に強化装甲を纏うと跳躍し、マントを展開して空中から滑空し、まるで獲物を狙う猛禽のように何度も突進を繰り返し、最終的に一つの場所に固めてしまう。

「おおおおおおッ! 梟爪蹴りッ!」

 強化装甲が展開してさながら狩りの際に梟が獲物を掴み取るようにパワードアーマーを掴みながらエネルギーをぶつけ、大爆発を起こしてついに全てのパワードアーマーを撃破してしまった。

「次はあいつだ」

 だがマグナアウルがルゲンを追う前にジャガックの船は離陸しており、数キロ離れた地点でワープして完全に逃げおおせてしまっていた。

「チッ! クソッ!」

 パワードアーマーの残骸を蹴飛ばして憂さ晴らしをすると、マグナアウルは清桜の方へ向かう。

「マグナアウル……来てくれた!」

「ああ、大丈夫か?」

「うん、怖かったけど……でももう大丈夫! やっぱりマグナアウルはヒーローだよ!」

「君が俺を呼んでくれた。君こそヒーローさ。行くぞ」

 マグナアウルは清桜を抱き上げて肩に乗せると、体育館の方へ歩き出した。


 突然居なくなったパワードアーマーに全校生徒や教師が困惑していると、突然ドアが開いて全員一斉に静まり返った。

「マグナアウルだ!」

 マグナアウルは肩に乗せた清桜を下ろすと、何か言うように促した。

「みんな聞いて! もう大丈夫だよ!」

 困惑する全員に向かって、マグナアウルは更に続ける。

「彼が俺を呼んでくれた。だから俺はここに駆けつけることが出来た」

「清桜が……マグナアウルを呼んだのか?」

「ああ、彼こそがこの学校のヒーローだ!」

 この一言と共に徐々に拍手の音がし、それが体育館を飲み込むレベルの大きな拍手と歓声に変わるのに時間はかからなかった。

「清桜万歳!」

「ありがとう清桜!」

 照れ臭そうに頭を掻く清桜の腕を怜美が引いて人の輪に入れると、全校生徒から胴上げを受けた。

『嬉しそうですね』

『ああ、これで良いのさ。考えうる限り俺が出来る最高のパフォーマンスだ』

 踵を返して体育館の外に出た所、清桜を先頭にして大勢の生徒が追いかけてくる。

「マグナアウル! 待って!」

 普段ならそのまま飛び去っているだろうが、今日ばかりは足を止めて振り返った。

「ありがとう! これからもこの街を守って!」

「ああ、みんな仲良くいい子にするんだぞ」

 清春の笑顔を確認してからマントを広げると跳躍して空高く舞い上がり、沢山の子供たちの感謝の言葉を背に、マグナアウルは青空を翔けるのであった。


 その頃、ジャガックの船が小学校付近で目撃されたとの情報を得て待機していたクインテットは、困惑した様子の白波博士を迎えた。

「どうしたんですか?」

「そのぉ……言いにくいんだが」

「え? まさか死者が……」

「いや死者は出てない……ただ……」

「ただ?」

「全部もう……マグナアウルが解決しちゃったみたいだ」

 この言葉に五人は呆気に取られた後、全員大声を出して様々な感情を発露した。

「ええええ⁉ 今回私達出番なし⁉」

「あいつぅ……全部いい所美味しい所持って行ったなぁ!」

「せっかく新しい戦法を考えたのにぃ!」

「クソー‼ またネットのファン投票で負けんじゃねーか!」

「出番が無いのはいい事ですが、これは無いでしょう!」

 悔しさの大波に飲まれている娘とその友人たちを見て、白波博士は思わず苦笑いを浮かべる。

「待ってろ……次は絶対あんた以上に活躍してやるんだから!」

 待機場の天井に、奏音の悔しそうな叫びがこだまするのだった。


To Be Continued.

こういう話を一度やってみたかったのです!

守るべき対象と正体を隠して関わり合うの良いですよね。

清春君は今後も登場するかもしれません、ぜひお楽しみに。

感想コメント、Twitter(現X)、友達へのオススメぜひよろしくお願いします。

という訳でまた来週お目にかかりましょう!

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