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青春Double Side  作者: 南乃太陽
激闘編
25/38

様変わりした日常

あの大侵攻から早二ヶ月。

真鳥市の人々はすっかりマグナアウルとクインテットを受け入れ、今や街のシンボルにしてヒーローになっていた。

そんな中、部活動を行っていた生徒が集まる慧習館高校の真上にジャガックの船が!

中には京助の担任である阿澄と、大親友幹人とその姉藤子がおり、ジャガックに囚われてしまう!

果たしてクインテットとマグナアウルは自分たちの学び舎を救えるのか!

 夏休み最後の日、宇宙からの脅威の侵攻により、日々と戦い(ダブルサイド)の境目は完全に崩壊した。

 そんな日から早二ヶ月が経過し、真鳥市の人々はそれなりに順応していた。

「いや~、かっこいいですよね! マグナアウルとクインテットはこの街のヒーローですよ!」

「女の子五人であんな重そうなスーツ着て戦ってるの尊敬しちゃいますね!」

「どんな顔してんだろうねあの五人、多分美人だよな」

「美人じゃなかったら俺は神様の事恨むよ! あんな重荷背負わせといてね!」

「見てくださいよこれ! この金属の羽根マグナアウルがプレゼントしてくれたんですよ! 戦い終わった後こっち見て~ファンサして~! ってみんなで言ったらね……一人一人手渡しでくれたんですよ! マジ優しくないですか⁉ それ以来これお守りっスね!」

「マグナアウル転売ヤーもぶっ飛ばしてくれたんでスカッとしましたね」

「え~なにそれ、俺知らん」

「知らんの? あの金属の羽根あるじゃん」

「ああ、たまにくれるやつ?」

「そう、アレをフリマアプリに出した奴が居たんだけど、羽根が売れる前にそれが爆発したんだって!」

「マジで? それは確かにスカッとしますね~」

「そうなんですよ~! 中にはおもちゃとかゲームとかの在庫も全部ダメになっちゃった奴も居てさ、マジざまあみろって感じだったわ」

「最高だね」

 大画面のテレビが消され、京助はバスローブを着てアップルジュースが入ったワイングラスを片手に小躍りしていた。

「最初はどうなるかと思ったけど、みんな受け入れてくれてさぁ。ボクチャン感激の舞い~」

 ローカル局の夕方のニュースバラエティ番組では、週に二回はマグナアウルやクインテットの特集が組まれ、各種SNSでは賛否あるものの、概ね肯定的な意見が飛び交っている。

「有名な特撮デザイナーが俺の事書いてくれた時はもう嬉しかったな」

『良かったですね、ですが油断は禁物ですよ』

「わかってるよ、戦う時はちゃんとするから……よし、定期連絡だ」

 京助は部屋着に着替えると奏音にビデオ通話を掛けた。

『やっほー京助』

「おう、そっち何にもないよな?」

『うん! 私の方は大丈夫』

「お父さんとお母さんは?」

『大丈夫大丈夫! リモートワークだから基本家にいるよ』

「なら良かった、俺の方は……」

『見ればわかる。持て余してるでしょ』

「バレたか、まあいいや。課題の方は進んでるか?」

『うーん……フフフ……ウッフッフッフ……』

「さてはあんまり進んでないな、まあ今度そっち行った時教えてやるよ」

『えへへ、いつもありがと』

 ジャガックの侵攻により学校も大きく変わった。

 ほとんどの真鳥市の学校は夏休みを延長、慧習館高校の場合安全に配慮して二週間に一度、午前中までの登校日が定められ、あとはリモートかオンデマンドの授業方式を取っている。

「次の登校日まで間に合うか?」

『正直半々って所』

「明日そっち行こうか?」

『いや危ないし……いやでも……』

「俺は大丈夫だって、明日そっち行くから」

『ありがとうございます京助様ぁ……いつも助かっとります……』

「決まりだな、じゃあ明日昼過ぎに」


 翌日、京助は直江家に向かい、誠と和沙に挨拶してから奏音の部屋に入る。

「おいっす、美味いなこのバーム」

「いらっしゃい、でしょ~? 父方の叔母さんが送ってくれたの」

 奏音の父の誠から家に入るなり渡された皿に盛られたバームクーヘンを食べながら、奏音のベッドに腰を下ろした。

「んで、何から手を付けたらいい?」

「うーん、じゃあ数学から」

「了解、やろうか」

 相変わらず頭に入ってくる絶妙な解説に、思いの外早く課題が片付いた。

「あら、もう終わっちゃった」

「うーん、なんか思ったんだけど、最近急に数学への理解力上がってねぇか?」

「そ~お? まあ教え方が良かったからだと思うけど」

「それにしたってじゃないか? 多分俺いなくても時間かければどうにかなってたと思うけどな」

「じゃああんまり進まないのは苦手意識のせいかな?」

「植え付けられた固定観念ってやつは厄介だからな、ていうかさ。奏音は自習行かないの?」

 現在慧習館は登校日ではない日に学校を解放しており、各教室で自習を行うことが出来る。そして日替わりで様々な教科の先生が学校で待機しているため、分からない事があれば質問しに行く事も可能だ。

「あぁ……はは……なんか息詰まりそうでさぁ」

 奏音が自習に行かないのはこんなデタラメな理由ではなく、クインテットの緊急出動に備えるためである。

「まあそうだな、授業二時間分ぐらいならじっとできるけどな、こうずーっと人も疎らな学校の教室で缶詰ってなるとちょっとキツいモンがあるわな」

「でしょ~? 三年生の終わりになったらずっとこんな感じなんでしょ? 先が思いやられるなぁ……」

「奏音はどこの大学行く予定なの?」

「私? 第一志望は宝田大かな」

「ああ、ミスカトニック大学の姉妹校だっけか。まあちょっと頑張れば行けるか」

「京助は?」

「俺? 奏音が行くところかな」

「も~、上手い事言ってぇ」

「いやいやマジ。大学出たら結婚しような」

「う、うーん」

 京助の目が大きく見開き、首元から頬に亀裂が走った。

「いやなのか」

 また京助が物理的に砕け散ってジメジメオーラを出してはたまらない。恐らく家中の生物を腐らせ、建材をキノコの巣窟に変えてしまうだろう。

「いっ、嫌じゃないよ! ただそういうのは……早いかなぁって思ってぇ」

「早いところ結婚したいんだよな。沢山子供欲しいからさ」

「ばっ!」

「賑やかな家庭に憧れてるんだ」

「……うぅ……うん」

 思春期の大半を家で一人過ごしてきた京助にとっては、賑やかな家庭というのは眩しいばかりの羨望の対象なのかもしれない。

「俺んちがやかましくなるぐらい子供が欲しい」

 いったい何人産めばあの大豪邸をやかましくすることが出来るのか想像した奏音は頬を赤らめたが、ふと子供に囲まれている自分達を想像してみるとなんだかそれも悪くない気がしてくる。

「まあこういうの考えるの早すぎたかな。まあ生むのは奏音だから無理強いは出来ないし」

「そう……だね、追々考えよ、追々ね」

 なんだか変な空気になってしまった、京助は必死に話題を探した。

「きのうサーバー入った?」

「ああ、あっぷるわーるど?」

 京助と奏音が入っている某建築ゲームのマルチプレイサーバーである。サーバー主は林檎であるためこの名前がついた。

 夏休み以降、暇を持て余した京助が林檎をゲームに誘ったところ、人を集めた方が楽しいという事で奏音、皐月、明穂、麗奈、そして颯司がメンバーになったサーバーが出来上がったのである。

 発足して二ヶ月程であるが、あまりにも暇を持て余した探索ガチ勢の京助と、建築ガチ勢である皐月と、資材集めガチ勢の麗奈と颯司によってかなりの発展を見せている。

「昨日は入らなかったね~、一昨日入ったよ」

「皐月がヤベーもん作ろうとしてたよ」

「え、どれぐらいヤベーもん?」

「なんかでっかい城塞みたいなの作りたいらしくて、昨日土台作ってたんだよね」

「ホントに? なんかすごそう、今夜行こうかな」

「多分俺と皐月とユメリンゴは居るだろうから遊べると思うぜ」

「わかった、晩ご飯食べたら遊び行くね」

 すっかり変わった日常の中でも、結ばれた友情は変わらない。


 その日は大規模な襲撃行動が無かったため、無事京助達はゲームへログインすることが出来た。

「やっほー、来たぜー」

「お~来たか、ちょっとここ手伝って」

 先に皐月と林檎と麗奈が来ており、麗奈はピッケル片手に地面を掘り進み、相変わらず林檎は遠出してモンスターを狩っているらしい。

「なんか昨日よりデカくないってないか?」

「もっとデカくするつもりだから、送った座標にブロック置いて行ってね」

「後で奏音も来るらしいし手伝ってもらうか」

 走って来た皐月のアバターから資材を受け取ると、京助は作業を始めた。

「こら腱鞘炎なるぞ」

 作業を始めて三十分程した頃、奏音と遅れて明穂がログインしたため、二人へ資材を分けて手伝ってもらう事に。

「本当に大きいねぇ」

「これ素材足りる?」

「だから麗奈に頼んでるんだよ」

「なるほど」

 しばらく三人で作業をしていたが折を見て京助は離脱し、再び探索へ出かけた。

「あ! 京助! コラ! どこ行った!」

「バレたか、いま遠くにいるんだ」

「も~ひどいなぁ、私達に作業押し付けて」

「おいおい、探索だって立派な作業だぜ。貴重な建材を集める絶好の機会じゃないか。昨日行った所にデカい渓谷があったんだよ」

「渓谷⁉ 後で座標教えてください!」

「さすが物資担当、食いつきが早いね」

 しばらく全員が各々の作業をしながら雑談をしていたが、そのうち近況の話になった。

「そっちはどう? 家の近くとかジャガック来てない?」

「ウチの地域は大丈夫よ。レナミちゃんち街に近かったよね?」

「そうねぇ、でもあんまりこっちまで来た事ありませんよ」

「外出するときみんな気を付けてな」

「そうねぇ、登校日でもちょっと怖いもんね」

「学校と言えばさ、私の隣の光井さんちなんだけど」

 現在、明穂の隣の部屋には光井華怜、光井風音、光井寿里を名乗ってガディ、ザリス、ジェサムが地球へ潜伏している。

 ジャガックの存在が表に出た現在でも、この三人と木幡一家の交流は続いている。

「ああ、留学してきたとかで引っ越したってっ子だよね?」

「そうそう、あの子たちジャガック騒動で行こうとしてた学校が全休になっちゃったみたいでさ」

「ああ~それはキチィな。せっかく日本に来たってのに」

「そうそう、でもあの三人それよりも自分たちのお姉さんの方が気がかりだって言ってて」

「へぇ、四姉妹って相当大家族だね」

「だよね、ちょっと歳離れてるらしいんだけど。んでさぁ三人のお姉さん仕事でミスしちゃったみたいで、今色々と大変なんだって」

「悪い事は重なるね」

「全くだよ、早い所あんな奴らどっか行っちゃえばいいのに」

「だよね~、夏穂と颯司がの今後が心配でさ」

「小中学生はな、やっぱり危ないよな」

「ね、姉としては心配でさ。あと私のお父さんお母さんも仕事が忙しいみたいであんまり帰って来れなくなっちゃって」

「ん? こんなご時世で忙しくなって帰って来れない仕事……医者か何かか?」

 思い返してみれば、京助は明穂の両親が毎日遅くまで仕事をしている事ぐらいしか聞かされておらず、具体的にどんな仕事をしているか知らない。

「ああ、京助君って知らないんだっけ?」

「おう、知らない」

「私のお父さんとお母さん、警察官なんだ」

「……へぇ! そうなの!」

 これはあまりに意外な答えに、一瞬反応が遅れてしまった。

「階級何? 警部とか?」

「うーん、そこの所は分からないけど、毎日遅く帰ってくるからそこそこじゃないかな?」

「刑事さんかな」

「警部とか警部補かな……まあいずれにしたってすげぇよ。いつもお疲れ様です」

「ありがと、今度帰って来た時伝えとくね」

 日付が変わるまで遊び明かし、この日は解散となった。


 翌日、佐川家にて。

「ねぇお願いだよぉ姉ちゃーん!」

「えぇ……そんなに泣くほどの事なの?」

「かわいい弟の頼みだと思ってさぁ……」

 幹人が姉である藤子に泣きついていた。

「でも外出るのちょっと怖いし……」

「すぐだからさぁ、ね?」

 事の発端は幹人の部活動である。

 現在慧習館は基本的に登校停止および自習のみ認めている状態だが、部活動となると話が変わってくる。

 大会が近い運動部は体育館と運動場を日替わりで使っており、文化部は自習と同じ扱いとしている。

 当の幹人は美術部であり、いつでも学校へ行って作業できるのではあるが、コンクールが近づいた現在急激に不安になってきたのだ。

「俺の絵を持って帰るには姉ちゃんの車が必要なんだ!」

 要は自分の絵を家に持ち帰って作業をしたいので、藤子に車を出してほしいと幹人は哀願している訳である。

「私免許取ったばっかりなんだけど……」

「いやいや、ちょうどいい練習でしょ、三年間慣れ親しんだ通学路だよ」

「うーん……」

「お願いだよ姉ちゃん、姉ちゃんにしか頼めないんだ」

 頬に手を当てて考えたが、特に断る口実が思いつかない上に、なによりかわいい弟の頼みである。藤子は決心して大きく息を吐いて言った。

「わかった、どうせ学校で作業するんでしょ、一区切りついたら電話して」

 幹人は思わず姉に抱き着き、藤子は驚いたものの小さく笑って弟の頭を撫でる。

「ありがとう姉ちゃん! やっぱ姉ちゃんは頼りになるぜ!」

 これがのちの騒動に繋がるとは、この時藤子も幹人も全く想像していなかった。


 数時間後、幹人は汗をタオルで拭い、絵筆を後ろの机に置いてある黄色い筆洗バケツ半ば投げるように放り込んだ。

「こんなもんか、さてと」

 無数のシミで汚れ切ったエプロンで手を拭い、美術室に備え付けられた水道で手を洗い、姉に電話を掛けた。

「ああもしもし、終わった終った。おう、どれぐらい? 三十分ぐらいね、わかった待っとくわ」

 各種道具を片付けた後、幹人は職員室へ向かった。

「失礼します、二年の佐川です」

「おう、幹人か」

「ああ! 増田先生!」

 今日の自習の質問担当だったのか、幹人や京助ら普通科二年三組の担任である阿澄が居た。

「どうした? 質問か?」

「ああいや、美術部として来たんです」

「そうか、課題進んでるか~?」

「そこそこですね~、分かんなかったら京助に聞きます」

「ああ、京助か。なんかやたら教えるの上手いからなぁ」

「なんでですかねぇ? 血筋かなぁ」

「代々学者の家系らしいからな」


 千道邸の地下にて。

「うぇっくしょん!」

 地下室に派手なくしゃみが響き渡る。

「秋風邪か! こりゃ嫌だな……」

 過酷なトレーニングによって汗にまみれになった額を腕で拭うと、京助は首に提げたトトを見る。

『あなたの体にはウィルスは見られません』

 左手の小指一本で逆さに立っていた所を降りると、京助は大きく息を吐いた。

「じゃあなんだ、誰か俺の事噂してるのか」

『おそらくそうでしょうね』

「全く不届き者め、これで本当に風邪ひいたらどうするんだよ」

 とりあえず京助はトレーニングを切り上げてシャワーに向かうのだった。


 ボヤく京助の事はつゆ知らず、阿澄は職員室の机に向かい、自分の担当しているクラスの事を思い返していた。

「それにしても……全部本当だったとは」

 阿澄が『マトリの謎』の事を知ったのは、学生時代の親友から勧められたからである。

 今学生たちの間で流行っていると聞き、そのこと自体も内容も半信半疑だったが、生徒の会話に聞き耳を立ててみるとサイトの名前が何度か上がっていた為、好奇心に負けて送られてきたリンクからついにサイトを訪れる事にした。

 采姫伝説の記事の完成度には思わず感心したが、メインとなる鳥人間と忍者軍団の話はなんだか嘘臭く、当初はCGを駆使した創作の類かと思っていた。だがあの日以降、それらが全て本当だと嫌でも思い知らされてしまった。

 あの日阿澄は偶然避難区域に居たのだが、不明瞭な映像越しに見ていた鳥人間(マグナアウル)が、実際に目の前で動き回って敵を一人で倒していくのを見てしまったのだ。

「圧巻だったな、あれ」

 今では都市伝説掲載サイトというよりマグナアウルとクインテットの活躍を追うある種のファンサイトのようになってしまった『マトリの謎』だが、阿澄はついつい足を運んでしまうようになった。

「それにしてもいつになったら宇宙人騒ぎは終わるのやら」

 阿澄はマグナアウルとクインテット及び財団は頑張っていると方だと思っている、偶にSNSでネガティブな意見もあるが、この未曽有の脅威に対して死傷者があまりにも少ないのだ。

 だがこの現状のせいで多くの生徒が本来送るはずだった貴い青春の日々がどれほど失われているかを考えると、一人の教員としてなんだか遣る瀬無く気持ちになり、申し訳なくなるのだ。

「いくつ行事が潰れるのやら……」

 文化祭や修学旅行、もしかしたら来年の体育祭、下手をすれば卒業式まで響くのかもしれない。卒業アルバムに載る写真が大きく減り、成人して思い出を振り返った時に本来あるべきものがないというのはあまりにも酷ではなかろうか。

 だがこればかりは仕方がない、なにより命と安全には代えがたい。

「ウィルマース財団やマグナアウルに頑張ってもらうしかないか」

 一人一人生徒の顔を思い浮かべてしばらく待っていると、幹人の声が聞こえてきた。

「どう? 久しぶりだろ?」

「一年前だけど、なんかすっごい懐かしいなぁ、でもあんまり変わってないね」

 幹人の姉の藤子の声がする、おそらく迎えに来たついでに母校を見て回る事にしたのだろう。

「色々見て回りたいけどさ、長く外居ると危ないからね? 早く行こ」

「そうだな、ついて来て」

 おそらく絵を持ち返るために来てもらったのだろう。小さく微笑んでからしばらくすると、何やら低く腹に響く音がし、阿澄は天井を見上げた。

「なんだ?」

 窓を開けて上を見ると、もうニュースで何度も見た飛行船の底面が目に飛び込んでくる。

「あ?」

 一瞬間があり、すぐに点と点が繋がって何が起きたか理解した阿澄は大きく目を見開いて窓から飛び退いた。

「ジャガック!」

 即座に非常ボタンを押して警報を鳴らし、努めて落ち着いた口調でマイクにかじりついて全校放送を行う。

「非常事態、非常事態。これは訓練ではありません、ジャガックの船が校舎上空に出現しました。速やかに避難の準備をし、命を守る行動を優先して取ってください。繰り返します、これは訓練ではありません。先生方は近くの生徒を守り、避難を始めてください」

 マイクを切って大きく深呼吸し、阿澄はスマホと壁に立てかけてあった刺股を取ると、走って美術室に向かうのであった。


 そして阿澄の非常事態の放送は勿論美術室にも届いていた。

「嘘だろ? よりにもよって……こんな時に⁉」

 窓から覗く不気味な影を見て口を押えて震えている姉の肩を抱いて椅子に座らせた。

「ゴメン姉ちゃん……俺が巻き込んじまった、俺が我儘言わなければ……」

「やめて幹人……いいの、家であんたのことを心配し続けるよりかはマシだから……せめて一緒にいて安否がわかる方がいい」

 幹人は意を決して窓じゅうのカーテンを閉め、武器になりそうなものをかき集める。

「念のためこれを」

 藤子にイーゼルのネジを解体して出来た木の棒を渡し、幹人は消火器を携えて外の景色をカーテンの隙間越しに見た。

「来た!」

 ジャガックの飛行船下部から大勢のジャガック兵が降り立って二手に分かれ、一方は校庭の運動部に銃を向けて体育館へ追いやり、もう一方は校舎へ向かおうとしている。

「……」

 何故だか幹人はその写真を撮り、慧習メルクリウスのグループチャットへ投稿した。

『は?』

『え、慧習館じゃん!』

 すぐにレスポンスが返って来て、幹人は現状を簡潔に伝えた。

『ジャガックが()、ねえちゃんと()術室閉じ込められた』

 焦りからか誤字を連発し、他の三人にも幹人の焦りが伝わる。

『ヤバいじゃん! 大丈夫か?』

『今は』

『通報は?』

『増田先生がやったとおもう』

『死ぬなよ』

『がんばる』

 なんとか勇気づけられた幹人は大きく息を吐いたが、突如開いた美術室のドアの音に驚いて大声を上げそうになった。

「二人とも大丈夫か!」

「ま……増田先生!」

 阿澄はジャージ姿に肩まで伸びた髪を纏めており、動きやすい姿になっていた。

「なんだ……ジャガックかと思った……」

「とにかく無事でよかった、連中はもう来てる。バリケードを作るから手伝いなさい」

 とりあえず持っている武器を置き、三人は協力して机と椅子とロープで入り口を塞ぎ、迎撃の準備を整える。

「先生、クインテットへのホットラインには?」

「もう通報済みだ。じき来てくれる」

 隣接された美術準備室に入ってもっと武器になりそうなものを集めておき、バリケードに使わず残った椅子に腰かけて三人で一休みしていると、沈黙に耐え切れなくなった幹人が口を開いた。

「あの先生、姉ちゃんは本来……こんな目に合わなくても良かったんです。俺が無理言って連れてきたんです」

「幹人止めて!」

「万が一があれば姉ちゃんだけでも連れて……」

「バカ! そんなこと冗談でも言うんじゃない!」

 阿澄が肩にかけていた刺股の石突を思い切り床へ叩きつけて怒鳴る。

「舐めるなよ。私は教師で、そして何よりお前の担任だ。たとえ自分がどうなろうとお前達二人を守る義務がある、二人とも絶対に守るからそんな事を言うんじゃない」

「す……すみません」

「安心しろ、絶対に守るからな」

 そんな事を話していると、金属質な足音と共に地球外の言語が聞こえてきて、三人は立ち上がって各々の武器を取って立ち上がった。

「……こっちに来てるな」

 刺股を持つ手に力が入り、阿澄の神経はより鋭利に研ぎ澄まされていく。

 やがて近付いた足音が止まって数秒後、爆発と共にバリケードが吹き飛び、中に一斉に武装したジャガック兵が雪崩れ込んできた。

「うおらああああああっ!」

 幹人の気合と共にジュリアーノ・デ・メディチの胸像が投げ込まれ、先頭二名の頭に直撃し、大きくよろめいた所に阿澄が畳み掛ける。

「せいっ!」

 刺股がよろけたジャガック兵を押し、その煽りを喰らって後続も将棋倒しになり、更にしゃがんで待っていた藤子が棒で足を掬って完全に転ばせてしまった。

「トドメ喰らえ!」

 消火器を倒れ込んだジャガック兵へまんべんなく吹き付け、その隙に武器を奪って逃走する。

「上手く行った! 上手く行ったよ!」

「ええ! ちょっと楽しかった気がする!」

 ふと後ろを見た阿澄の目に、ジャガック兵の銃を持つ幹人が映った。

「おい! なんてもの持ってるんだ!」

「え? これですか⁉ 仕方ないでしょ! 連中にちゃんと対抗できるのはこれしかない!」

「……絶対に持って帰るなよ!」

「当たり前っすよ」

「むやみやたらに撃つなよ!」

「分かってますって!」

 しばらく走っているとジャガック兵の一団に廊下で出くわし、幹人は銃を乱射して牽制し、その隙に阿澄が刺股で抑えようと試みるが、ショック弾に腹を撃ち抜かれてしまう。

「ぐっ! ……ふぅ……」

「いやっ!」

「先生ェェェェエエエエッ!」

 雄叫びを上げながら銃を乱射して二、三人倒すことが出来たものの、ショック弾を喰らって幹人は阿澄のように昏倒してしまった。

「ひっ! 幹人っ!」

 藤子は幹人へ駆け寄って庇うも、ショック弾を喰らって弟の上に折り重なって倒れる。

「散々手間かけさせやがって、殺そうか」

「大事な人質だから殺すな、三人纏めてあそこの建物(体育館)に連れて行け」

 気絶した三人を抱え、ジャガック兵達は体育館へ向かうのであった。


 その頃千道邸では、京助がこめかみに指を当てて慧習館の様子を遠視していた。

「あんの……クズ共がァ!」

 目を開けた途端赤い眼光が不気味に輝き、周囲が大きく揺れてありとあらゆる家具が滅茶苦茶に壊れ、棚の中の皿が散乱して滅茶苦茶になって箸は割れたり引き千切られ、カトラリー一式は原形が無い程に捻じくれ曲がる。

「フーッ! フーッ……落ち着け、落ち着くんだ……」

 一瞬のうちに壊れたものが全て元に戻り、赤く不気味に輝く眼光も引いていく。

「なんて言ってるんだ連中は」

『高校生の命と引き換えに真鳥市民の投降を求めています』

「いつものアレか……クインテットは?」

『もう出動しているようです』

「俺も行こう」

『今回はより慎重に、あなたの友の命が掛かっております』

「ありがとうトト、少し頭を冷やしてから行こう」


 その頃クインテットを乗せた装甲車は慧習館の付近へ到着した。

「思ったより早くこの時が来たね」

「いつかは来るかと思ってたけど、実際その時が来るとドキリとするねぇ」

 学科は違えど全員が慧習館高校に在籍しているのだ、この戦いに入る気合と熱量は一層高い。

「問題はこの数の人質をどう捌くか……」

「監視カメラの映像見れますか?」

 映像を見る限り、人質は全て体育館に集められており、広大な校内をジャガック兵が巡回して他に人が居ないか探している。

「どうしましょうか、人質の解放が先ですかね?」

「っすー……そうね、やっぱりそっちが先決かな」

「おっけ、じゃあ問題はこの見張りだよね」

 出入口に二人ずつ、そして人質の周囲に三人。合計十三人のジャガック兵が居る中で、どうにかして人質を傷つけず助け出す必要がある。

「まあまずは、人質周りの三人から片付けよ。ウチが狙撃(スナイプ)するよ」

「その後どうしよっか」

「私の拘束弾で人質の周りを保護できるよ」

「じゃあウチとカノちゃんで一緒に行動、後の三人は別々の入り口から人質の保護が終わり次第突入って事でいい?」

「OK」

「りょうかいっ!」

「異存ありません!」

 作戦が立ったところで転送鍵を取り出し、スイッチを入れて起動する。

「Vモードオン! GO! クインテット!」

 五人の体に黒い装甲が装着されていき、それぞれのパーソナルカラーにエナジーストリームラインが輝いて戦闘準備が整った。

「よ~し、いっちょ学校を救ってきますかぁ!」

 一般部隊に人質の誘導を頼み、五人は二手に分かれて各々の使命を果たしに向かうのだった。


 新機能の透明化を駆使して抜き足差し足で校舎二階の連絡橋へ辿り着いたミューズとイドゥンは、ここで一旦歩みを止めて他の三人が持ち場に着いたかを確かめる。

「みんなどう?」

『ルナ、配置完了』

『デメテル、準備オーケー』

『アフロダイ、いつでも行けます』

「よし、じゃあいつでも突入できるように準備しといてね」

 スコープを目の位置に降ろし、ドア越しにジャガック兵の様子を確認する。

「この中に入るのは現実的じゃないね」

「じゃあドア越しに撃ち抜くまで」

「ドアとか手摺とか床とかの障害物がある上で、三人一気に撃ち抜ける?」

「ウチを誰だと思ってんのよお姉さん。そっちも準備しといてね」

「はいはい」

 グリップからミューズは戦斧、イドゥンはロングライフルを生成し、摺りガラスと金属で出来た引き戸に銃口を向ける。

「最終調整……よし」

 スコープのツマミとライフルの威力調整用のダイヤルをいじった後で、イドゥンは大きく息を吸ってグリップを握って引き金に指をかけた。

「……スッ!」

 素早く三回引き金が引かれ、三発の常盤色の光弾がドアと手摺とギャラリーの床を貫通して三人のジャガック兵の頭を正確に穿ち、間髪入れずにミューズが三つの穴が開いたドアに体当たりして体育館に入り、拘束弾で人質全員を保護してから透明化を解いて叫んだ。

「みんな突撃!」

 困惑するジャガック兵をよそに体育館側面の引き戸からルナ、デメテル、アフロダイが現れて奇襲をかけた。

「はっ!」

 ルナはブレイガンナックルで二人のジャガック兵を撃ち抜いて凍結させて身動きを止め、ブレードを逆手持ちで展開して高速移動しながらすれ違いざまに切り捨てる。

「これ本当に使いやすい」

 即座に反応したジャガック兵の銃撃を跳躍して回避すると、アフロダイは下に向けて矢を放って動きを封じ、着地する前にARをなぞって両刃のナギナタを転送し、空中で回転を加えてジャガック兵を二人ともズタズタに切り裂いてしまった。

「一丁上がりですっ!」

 デメテルが当たったジャガック兵は銃をデメテルへ連射していたが、ナックルアームの装甲とそこから広がる電磁バリアに全て阻まれてしまう。

「なんだあれ!」

「硬いなんてもんじゃねぇ!」

 ある程度銃撃を受け切ったデメテルはシールドユニットをパージすると、キャタピラユニットをナックルアームに装着して殴りかかった。

「だああああっ! ていっ!」

 デメテルの力強いパンチに加え、高速で動く棘のついたキャタピラが躊躇なくジャガック兵の体を削り取る。

「がああっ!」

 仲間を援護射撃しようとした片割れを察知して振り向かずに高火力ビームで焼滅させ、残ったジャガック兵の攻撃を躱して頭を拳で挟み込み、左右のキャタピラを逆回転させて完全に潰してしまった。

「バカスカ撃ってきて……熱かったんだからね!」

 そして最後に誰も付かなかったステージ右手側のジャガック兵は不利と見て逃げ出そうとするも、そこへギャラリーから降りてきたミューズが立ちはだかった。

「残念、逃がさないから!」

 戦斧の大振りの一撃を避けるも、スパイクからの銃撃を受けて吹き飛ばされ、残った一人も強烈な蹴りを受けて吹き飛ばされ、そこに常盤色の光弾が命中して全てのジャガック兵が片付いた。

「……サンキュ」

 ギャラリーに居たイドゥンに手を振ると、向こうも指で空を切ってハンドサインを返してから飛び降りて五人全員が体育館へ集結した。

「大丈夫ですか?」

 戦斧のスイッチを入れて拘束弾によるバリアを解き、人質の近くへと向かう。

「ああ、来てくれたんですね! ありがとうございます!」

「いえいえ、これが仕事ですから」

「あの、この三人なんですが」

「……あっ」

 三年生と思われる女子生徒達が連れてきたのは、幹人と藤子と阿澄だった。

 三人とも意識はあるものの、目が虚ろで少しぼんやりとしている。

「どうやらショック弾を撃たれたみたいなんです」

「ショック弾を!」

 彼氏の親友とその家族、そして担任教師がそんな危機に陥っていたとはつゆ知らず、ミューズ(奏音)の胸中にがーっと熱いものが広がっていく。

「私達は後回しでもいいですから、この人たちの手当を最優先でお願いできますか?」

「分かりました、そう連絡します」

 財団の一般部隊へ連絡を入れた後、ミューズが幹人を、デメテルが阿澄、ルナが藤子を抱えて体育館を出た。

「す……すみらえん……」

 ショック弾のせいで呂律が回らない口で、幹人が喋り始める。

「ああいや……大丈夫ですよ、迷惑じゃ……」

「あとで……」

「え?」

「あとで……さいん……くらはい」

「え? えぇ……サイン……ですか」

「だめれふか……」

 予想外のお願いにミューズはヘルメットの中で苦笑いし、イドゥンは小さな笑い声を漏らしている。

「ちゃんと治したらあげますからね……それまでちょっと待っててください」

「ありやとございまふ……」

 表情は弛緩しきってはいるが、ほんの少し笑ったのがわかった。

(ウチらがクラスメートって知ったらどんな顔するんかな、佐川急便)

 

 ひとまず人質の解放は終わったが、まだ仕事は終わらない。

 未だにジャガックの部隊が校内と空中にいるため、そちらを何とかしなくてはならない。

「学校にいる奴らとは部隊の人達が交戦中だって」

「じゃあ私達は(あっち)の奴をぶっ潰せばいいかな」

 思い立ったが早速行動、五人は浮遊する宇宙船の近くへ向かい、イドゥンとアフロダイが前へ出る。

「さてと……」

 イドゥンはヘルメットのARの表示に従って空中をなぞって携行型レールガンを出現させ、アフロダイはナギナタの柄を二つに分割して弓の発射部分に装着して攻撃準備を整える。

「準備OK?」

「ええ、そちらは聞くまでもなさそうですね」

「おう、行くよ」

 イドゥンがレールガンの銃口を向けてアフロダイが弓を引こうとしたその時、宇宙船下部からトランスビームが照射されて大勢のジャガック兵と十数機の自律殲滅オートマタが出現した。

「……どうやら向ける先が違うようですね」

「そうね、久々の大暴れタイムだ!」

 イドゥンのレールガンとアフロダイの強化光矢が放たれたのがゴング代わりとなり、ミューズが戦斧を、ルナが太刀を片手に突っ込んでいく。

「はあっ!」

 以前のC-SUITのフルチャージに匹敵するエネルギーを秘めた斬撃がジャガック兵を次々切り裂いていき、大勢いたジャガック兵の三分の一はすぐに片付くいた。

「デカブツの大群が来るよ!」

 まだ無事なジャガック兵を押しのけてオートマタがミューズとルナの方へ迫るも、ドリルのついたナックルアームが飛来して先頭の一体の頭を穿った。

「サンキュ! よし!」

 ミューズは戦斧を仕舞ってからARをなぞってハルバードを出現させると、斧刃のチェーンソーを起動させて後続のオートマタに向かって斬りかかる。

「はあああっ!」

 オートマタの装甲から火花が散り、腰のスイッチを一度押し込んでエネルギーをチャージして送り込み、オートマタを押し返しつつ三体まとめて吹き飛ばしてしまった。

「もっと行くよ!」

 今度は二度腰のスイッチを押し込んでマゼンタに輝くエネルギーの刃が形成され、ミューズはハルバードを振るいながら複数のオートマタを次々切り刻み、トドメにスパイクで強烈な突きを食らわして七機纏めて吹き飛ばしてしまった。

「ふっ! こんなもんよ」

 ミューズが単身で多くのオートマタを倒した傍でルナとアフロダイが残りのオートマタを片付けるべく奮闘していた。

「おおおおおっ!」

 ナギナタを旋回させながら前後から襲い来るオートマタを切り裂き、ルナも太刀とブレイガンナックルを駆使してオートマタを一刀両断していく。

「五人がかりで苦戦してた時が嘘みたい」

 ルナが腰のスイッチを一回押し込み、ブレイガンナックルにエネルギーが蓄積されて冷凍光弾が射出され、周囲一帯のオートマタの足元が全て凍り付いてしまう。

「アフロダイ! ラスト頼んだよ」

「了解です!」

 アフロダイはナギナタの刃を仕舞って柄を二つに割って空中へ放り投げると、腰のグリップを取って弓を生成して合体させ、強化モードに切り替えてから弓を引いた。

 光で形成された鏃とナギナタの二本の刃にエネルギーが溜まっていき、より大きな鏃が形成され、弦を離すと同時にナギナタの刃で形成された巨大な光の矢が動けないオートマタを貫いて完全に焼き払ってしまった。

「一丁上がりです!」

 その頃丁度ジャガック兵達をイドゥンのサポートもありつつ、全員薙ぎ倒してしまったデメテルは、他の四人の方へ合流した。

「お疲れ、これで全部かな?」

「うん、あとは……」

 イドゥンがあれだけと言ってジャガックの船を指差そうとしたその時、再びトランスビームが照射される。

「はああああぁぁぁ!? な……なんで⁉ 意味わかんないんだけど!」

「ねぇ、それはウザいって……」

「嫌がらせみたいな真似するのやめてくれませんかね」

 散々罵られながら現れたのはパワードアーマーを纏ったジャガック兵だったが、いつも戦っている見慣れたものとは違い、二回りほど大きく、目視で分かるほどの重武装であった。

「よくぞこの数の部下を倒したなクインテット! 褒美としてこの新型アーマーで殺される権利をやろう!」

「何だその褒美は」

「褒美になってないよ。ギャングの下っ端だからそんな事すら分からないのかな?」

 デメテルの予想外な毒舌に他メンバーは吹き出し、新型アーマーを纏ったジャガック兵の隊長格は怒りを露わにした。

「地球人のガキの分際で生意気言いやがって! 許さん! これでも喰らえ!」

 無数のミサイルが蜘蛛の巣状の軌跡を描きながら放たれ、それをミューズとルナが斬撃を飛ばし、イドゥンが咄嗟に出したミサイルマシンガンで迎撃する。

「なんか強そう」

 爆炎の中で煙を払いながらルナが太刀を振って言う。

「援軍来るかもしれないし長期戦にはしたくないね」

「じゃあ……」

 ミューズが持っていたハルバードを地面に突き立てると、前に出て宣言した。

「私がバーストする」

「じゃあ、私もバーストしようかな」

 ミューズとデメテルが前に出て、他メンバーは二歩ほど下がる。

「バックアップよろしくね」

 ルナがナックルガンナーの刃を出し、イドゥンが両手に持ったレールガンとミサイルマシンガンを掲げて見せた。

「ありがとう……始めよう! 行くよデメテル!」

「うん!」

 ヘルメットのARの表示に従って空をなぞって両手を広げると音声認識画面に移行し、ミューズとデメテルの声が同時に重なる。

「Bモードオン! バーストッ! GO!」

 するとミューズとデメテルの胸と手足の装甲が変形してより莫大なエネルギーを秘めたコアエナジーストリームラインが露出して輝き、排熱機構から白い蒸気が噴出して変形が完了した。

 これがC-SUIT.V.V(バージョンファイブ)の真骨頂、バーストモードである。

「何だ⁉ なんか変わったのか?」

 困惑する隊長を前にしてミューズは地面に立てたハルバードを引き抜き、デメテルは右手にボールハンマー、左手にニードルスパイクを装備して戦闘準備を整える。

「そのスーツはご自慢のようだけど、すぐに叩き潰してあげる!」

 ミューズが宣言と共にハルバードを両手で握り込んだ途端に回転ノコギリの部分に光の刃が形成され、凄まじいスピードでパワードアーマーに肉薄して刃を振るうも、寸での所で腕で防がれてしまう。

「やっぱりフォースフィールドは備わってたみたいね!」

 だがフォースフィールド越しでもミューズが扱う回転刃を持つハルバードの威力は凄まじく、徐々にフォースフィールドが根負けし始めた。

「うおおおっ! なんだこのパワーは!」

 隊長が急いでダメージを受けている箇所のフィールド層を厚くしようとしたその時。

「後ろがお留守だよっ!」

「なっ!」

「だあああっ!」

 デメテルによる強烈な左ストレートがパワードアーマーの背中に突き刺さり、四本のニードルスパイクからエネルギーが放出されて装甲に四つの穴を残して数メートル吹き飛ばしてしまった。

「くっ! クソッ!」

 あまりの威力に隊長は驚愕する外なかった。

 驚くのも無理もない、バーストモードを発動するとスーツのエネルギー使用量が向上し、一撃一撃の威力は凄まじい程に高まる。

 その数値は旧C-SUITのオーバーチャージの約五倍に匹敵する。

 そんなスペックの事を隊長は全く知らないが、その威力を肌身で感じたため、侮りがたい存在である事を察知してコックピットの操縦桿を握る手により力が籠る。

「いいや認めるか! ルゲン様が設計し作り出したこのスーツの方があいつらよりも優れている!」

 再びミサイルを放つもルナとイドゥンとアフロダイに全て撃ち落とされてしまう。

「馬鹿め! ブラフだ!」

 爆炎の中から間髪入れず赤いビームが射出され、ミューズはそれをハルバードの刃で受ける。

「くっ! うぅっ……」

「いつまで耐えられるか試してやる!」

 ビームの威力が上がって光条が太くなり、ミューズが若干押され始める。

「ミューズッ!」

「大丈夫……いい策がある!」

 少し後退してハルバードをしっかりと持ち直し、ビームを受けながら少しづつ前進し始めた。

「ぬぅぅっ……くっ……おおおっ!」

 一歩一歩だが確実にこちらに近付いて来るミューズに恐怖を覚えた隊長は別の武装を起動し、ガトリングガンをミューズに向ける。

「させないっ!」

 即座にデメテルが腰のボタンを二度押し込み、バーストフルチャージを発動して右手にエネルギーを収束させてパワードアーマーの胸に狙いをつける。

「ボールハンマーロケットッ! パァァァァアアアンチッ!」

 エネルギーで満たされた球状のハンマーがマリーゴールドの輝きを放ちながら軌跡を描いてパワードアーマーに命中し、装甲に大きなへこみを作りながら空中高く打ち上げる。

「サンキューデメテル! これで決める!」

 ミューズはハルバードを振り回して先程受けたレーザーを取り込んでエネルギーに変換してより巨大な光刃を形成すると、腰のスイッチを三度押し込んでバーストオーバーチャージを発動した。

「うおおおおおおっ!」

 胸部と手足の大きなエナジーストリームラインが眩いばかりに輝くと同時に排熱機構から蒸気が噴出し、ハルバードを両手で持つと光刃がより肥大化する。

「はっ!」

 強化された脚力で打ち上げられたパワードアーマーより高く跳躍すると、渾身の力で振り下ろして真っ二つにしてしまった。

「おおおおっ!」

 ミューズが着地すると同時に排熱機構から蒸気が噴出されながら装甲が元に戻り、ハルバードの斧刃に纏っていた光の刃も消え失せる。

「フッ! 一丁上がり!」

 デメテルの装甲も元に戻り、皆が活躍を労うべく周囲に集まった。

「お疲れ! 残量大丈夫?」

「……うん、大丈夫! じゃああの船を……」

 ミューズが言いかけた途端、またもや異変が起こった。

「何の音!」

 先程真っ二つにしたパワードアーマーの残骸から、人間より少し小さい程度のアンドロイドが現れたである。

「何アレ⁉」

「いやはや、大した力だったよ諸君。だが残念だったな、こいつは遠隔操作で動いてるのさ!」

「はぁ⁉ 何それ!」

「後出しも良い所ですよ!」

「今日は一筋縄ではいかないデーなの?」

 つまりこのアンドロイドに〝着せる〟形で新型のパワードアーマーを作っていたのだ。

 困惑する皆をよそに、アンドロイドは各部を変形させてバイク状になると、校庭の土を巻き上げながらどこかへと去って行ってしまった。

「あっ! 逃げた!」

「あの形態で戦うんじゃないのね」

「いいから追うよ! 飛行モード!」

 全員が踵を打ち鳴らすとスーツの背中が変形してジェットが露出し、皆が跳躍すると同時に足から反重力波が照射されて全員が宙を舞い、逃げ出したアンドロイドを追い始めた。

 バージョンアップに伴い跳躍・姿勢補助用のエアロジェットは、最大四時間の低空飛行が可能である反重力波と飛行用ジェットに置き換わった。

「あっちです!」

「見えた!」

 飛行してまで追いかけられているとは想像していないアンドロイドは空中からの攻撃に驚いて転倒しかける。

「うおっ! お前ら飛べるのかよ! くそったれ!」

「逃がすか!」

 イドゥンのレールガンが地面を穿ち、ルナのブレイガンナックルによる凍結光弾が地面を凍らせるも、飛行時の姿勢が不安定であることに加え、相手のドライビングテクニックにより悉く回避されてしまう。

「チッ! 全然当たらない!」

「じゃあ広範囲に当てるまで!」

 ミューズがハルバードを振るって光の刃をアンドロイドの進路にぶつけて空中から浮き上がらせ、更にデメテルがボールハンマーロケットパンチを放って姿勢を完全に崩し、トドメにアフロダイが枝分かれする無数の矢を放った。

「これだけやれば……」

 だが予想に反してアンドロイドは空中に居たまま人型に変形してから体を丸めて降り注ぐ矢を回避すると、そのまま着地して数メートルほどダッシュした後に再びバイクへ変形して逃走を再開する。

「これでもダメなの⁉」

 そしたまた追い打ちとばかりに無数のジャガック兵がテレポートしてきて、アンドロイドはその間を悠々と駆け抜ける。

「もう! イラつくッ!」

 おそらく校舎で一般部隊と交戦していたジャガック兵の残りをここに連れてきたのだろう。

 一斉にこちらに向かって撃ってくるのを空中で広く展開して回避し、デメテルが高火力ビームを放って半分を吹き飛ばした所にルナが畳み掛け、ブレイガンナックルで足元を凍結させてから地面すれすれの斬撃を見舞って全員処理してしまった。

「遅れた! 急ぐよ!」


 バイクに変形したアンドロイドは校舎をぐるりと半周して解放された人質が集められたエリアへ突撃した。

「いやああああああっ!」

 人型形態へ変形したアンドロイドは救急車のルーフをへこませながら着地し、その真下に居た女子生徒がつんざくように悲鳴を上げる。

「ジャガックだ! 撃て!」

「いや待て、人に当たるからライフルはダメだ! 拳銃と電磁棒を使え!」

 財団の一般部隊が拳銃型ビームガンを放つもスピーディーな動きで回避し、アンドロイドは腕からテーザーワイヤを放って複数の一般部隊の者達が感電して倒れてしまう。

「ハハハハ! 他愛ない! 誰かついて来い! 人質に……」

 脅迫は途中で遮られ、アンドロイドは前につんのめった。

「あっ!」

「増田先生!」

 アンドロイドの脅迫を遮ったのは、なんと阿澄であった。

 ショック弾を撃たれた事による身体的ダメージがまだ抜けていないのか、両手に持った電磁棒を正眼に構えて大きく肩で息をし、乱れた前髪越しに上目遣いにアンドロイドを睨みつける。

「ふざけるなよカス共……私の前で生徒を危険に晒したらどうなるか思い知らせてやる!」

 再び電磁棒を振り上げてアンドロイドを殴りつけようとしたが、事も無げに回避されたて反撃を喰らいそうになる寸前、アンドロイドのアイカメラが飛行しながら迫ってくるクインテットの五人を捉えた。

「チッ、まあいい! お前来い!」

「えっ⁉ イヤッ!」

「あっ! おい! 姉ちゃん‼」

 たまたま近くに居た藤子の腕を掴んで抱き、跳躍しながらいずこかへ爆走して行った。

「姉ちゃん!」

「あっ君っ! うおっ!」

 バレー部の顧問のがっしりした体格の男性教諭が幹人を止めるべく羽交い絞めにするも、どこにそんな力があるのかと舌を巻くほどの馬鹿力で腕を振り解き、誰も止める暇もなくダッシュでアンドロイドを追いかける。

 やがて校庭の上に停泊していた船の下で止まると、アンドロイドは藤子を羽交い絞めにして腕から出現させたダガーを喉元に突き付ける。

「このポンコツブリキ野郎! 姉ちゃんを離せ!」

「フフフフ、嫌だね」

「何やってるの!」

「下がって下がって!」

 追いついたクインテットがアンドロイドの方へ駆け寄ると、それ以上寄って来るなと言わんばかりにダガーを藤子の喉に突き付ける。

「いうっ!」

 先端が藤子の喉に少し刺さり、色白の首筋に赤いものがつうと流れる。

「……このっ」

 こればかりは慎重にならなければならないと、この場にいる七人に緊張が走る。

「……彼女を離して」

 ルナが太刀を構えて相手に突き付け、ようやくアンドロイドは喋り出した。

「貴様らクインテットの降伏が解放条件だ、一緒に来てもらうぞ」

 クインテットの五人は顔を見合わせて、ミューズがちらりと幹人の顔を見る。

 幹人は歯を食いしばり、彼女らの降伏か姉の無事を取るか葛藤しているようだ。

「さあどうする? 無辜の一般市民の死か、街陥落の駒を進めるか! どちらだ?」

 アンドロイドを遠隔で操る隊長に対する苛立ちが募るも、こればかりはどうしようもない。

 ミューズが構えていたハルバードを下ろしたその時、自分たちの真後ろで突如膨大な風が吹き荒れる。

「うっ!」

「くっ!」

「今度は何⁉」

 風が止み、吹き荒れる校庭の砂を払いながら前を見ると、そこには藍と焦茶の装甲を持ち、梟を模した(ヘルム)を被った身長二メートルの大男が立っていた。

「マグナアウル!」

 マグナアウルはマントを収納にしてマフラーに変えると、ゆっくりと歩き出した。

「な……なあ! あれ俺の姉ちゃんなんだよ! どうにかして助けてくれよ!」

 幹人には目もくれず、マグナアウルはひたすらアンドロイドへ向かって歩いて行く。

「……クッ、フフフハハハ! 今日は大収穫だ! マグナアウルも連れて行けるとはな! おい止まれ! 女が死ぬぞ!」

「ちょっ……ちょっと! 止まって!」

「ストップストップ! 刺されるってば!」

 制止も聞かず、マグナアウルはただ歩く。

「この! 話聞いてるのか!」

「いっ!」

 藤子は内股に力を籠め、ぎゅっと目を瞑った。

「そんなにこの女を殺したいらしいな! じゃあお望み通り刺してやる!」

 ダガーの刃先が藤子の喉に迫り、幹人とミューズとルナの手が伸びる。

「ダメェェェェエエエエエッ!」

「姉ちゃぁぁぁあああんっ!」

 数秒後、藤子の喉と服は鮮やかな赤に彩られ……。

「ぐっ⁉」

 ることは無かった。

「動かな……なんだ⁉」

 何が起こったかを理解した幹人は大きく声を上げた。

「あっ! あはっ……はははっ! やった! やったぞ! マグナアウルがやってくれた!」

 マグナアウルの腕からチェーンが伸び、それは藤子の横腹を掠めて深々とアンドロイドの胴体に突き刺さっていた。

「ふっ!」

 マグナアウルがチェーンを思い切り引くと、アンドロイドの内部回路が三叉のフックにより抉り出されて姿勢が崩れ、チェーンを巻き取って回路をキャッチした。

「お前みたいなクズとは言葉を交わす気が無かったんでな」

 回路を浮遊させて念力で完全に握り潰すと、遠くへ放ってしまった。

「ちょっと!」

「ヒヤヒヤしたか? 安心しろ、俺は常に人命優先だ」

「心臓に悪すぎます!」

「まあ助かったんだし良いじゃないか、大丈夫か?」

 その場にへたり込んで呆然自失となっている藤子をミューズと幹人が支え、ダガーで出来た切り傷の手当てをした。

「姉ちゃん! やったよ! 無事なんだよ! マグナアウルが助けてくれたんだ!」

 そう言って子供のようにはしゃぎながら自分の首筋にハンカチを当てている弟をの方見ると、ボロボロと涙を流し始める。

「おお⁉ どうして泣くの姉ちゃん?」

「ごめんみきひとあまりにもいろいろおこりすぎてなにがなんだかわかんなくなっちゃった」

 平坦な口調かつ半笑い半泣きで言う藤子だったが、これと言って大きな怪我はしていないようだ。

「さてと、次はアレだ」

 マグナアウルが指した先にはジャガックの船があり、突如今まで静止していた船が動きだし、マグナアウルとクインテットから逃げ始めた。

「簡単に逃げれると思うなよ」

 マグナアウルは両腕を体の前で交差させると腕を立て、その途端鎧の装飾と目が青白く輝くと同時に青白い炎が噴き出して全身を包み込む。

「おおおおおおおっ!」

 学校と恩師、そして何より親友とその家族を狙われた怒りが炎となってマグナアウルの全身を包み込み、やがて背中から炎と化したマントが出現すると、もはや慧習館から数キロ離れた地点に到達したジャガックの船へ一気に飛んでいった。

「おおおおおおっ! 爆炎破身‼」

 青い炎の塊となったマグナアウルがジャガックの船へ突っ込むと同時に船が大爆発を起こし、塵芥すら残さず焼き尽くされてしまった。

「なにやったの? 自爆特攻?」

「前から思ってたけど何でもありすぎるっしょ」

「超能力者ってすごいんだね……」

 そしてまたいつもの如く無傷で帰って来たマグナアウルをクインテットが取り囲んだ。

「遅いよ、何してたのさ」

「すまんすまん、今回は少し慎重にならざるを得なかった」

「慎重って、いつも人質救出はお手の物じゃないですか」

「まあ、ここには少なからず思い出があるからな」

「えっ? そうなの?」

「もしかしてOB?」

「ノーコメント」

 クインテット全員が正直マグナアウルが本当に人間かどうか疑っていたが、ここ二ヶ月の間表立って共闘していく中で、やけに真鳥市内の地理に詳しかったり、今回の発言といい完全に真鳥市で生まれ育った人間であることは間違いないだろう。

「さて、そこのお姉さん、俺が送ろう」

 藤子を抱えてマグナアウルとクインテットは人質が居る所に戻り、ひしゃげた救急車両に手を翳して修復する。

「さてと、これで役目は終わりかな」

「あ、待ってください!」

 幹人から呼び止められマグナアウルは振り返った。

「おう、どうした?」

 正体は知られてないとはいえ、親友に呼び止められると何となくハラハラする。

「サイン、もらえませんか?」

「は? サイン?」

「お願いします! 記念で!」

「は、はぁ……」

 そういえば幹人は以前、鳥人間(マグナアウル)忍者軍団(クインテット)に会ったらサインを貰うと言っていたのを思い出した。

「じゃあ私も!」

「おっ……俺も!」

「すみません、僕も良いですか?」

 最終的にほぼ全ての生徒がマグナアウルとクインテットに群がって、マグナアウルは困惑してしまった。

「色紙ないだろ……」

「あるよ」

「あるのか……」

「私達用の余りがあるだろうから、それに書いてあげて」

 財団救護班が別の車両から持ってきた色紙が入った段ボールを持って来て、即席サイン会が始まった。

「……」

 クインテットの方は慣れ切っているのか、それぞれのメンバーカラーのペンを使って色紙を回してサインを完成させていっている。

「わかったよ、色紙をくれ」

 指から低威力のビームを放って色紙に名前と梟のイラストを焼き付かせ、最後にフェザーダーツを貼り付けて幹人に渡した。

「す……すっげぇ! ありがとうございます!」

「私もお願いします!」

 こんな経験は初めてである、だが同時に自分は広く受け入れられているという事実に、ほんの少しだけ温かい気持ちになるマグナアウルであった。


To Be Continued.

一週間のお休みを頂き、ついに新章の開幕でございます。

人ってそこそこ適応が早いので、新しい脅威がありつつすっかり馴染んでいる様を表現出来ていると思います。

今回は京助の親友組の一人の幹人の美人姉藤子が初登場であり、阿澄先生に少しフォーカスを当てた回でもあります。

これからこんな感じで新しいダブルサイドが始まりますので、ぜひお付き合いいただけたらと思っています。

感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメをよろしくお願いします。

ではまた来週お会いしましょう!

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