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青春Double Side  作者: 南乃太陽
夏休み編
24/38

それでも俺/私達は立ち上がる

ついに京助はもう一人の自分を白日の下に晒し、ジャガックへ真正面から立ち向かう事を決意する。

容赦ない侵攻をたった一人で食い止め、ついにクドゥリやパテウら幹部が待つ船へ。

果たして真鳥市を救えるのか?

そして出動できない奏音達クインテットはどうなる?

新たなる戦いの幕開けを決して見逃すな!

 夏休み最後の日、一機の円盤とそこから流れ出した声によって日常と戦い(ダブルサイド)の境目が音を立てて崩れ始めた。

 ジャガックは自分たちの存在と、マグナアウル及びクインテットの存在を真鳥市を通して世界中へばら撒いたのである。

 そしてその十三時十三分から十四時十三分までの一時間は、関係者の生涯で最も長い一時間になったであろう。


 自宅のテレビでジャガックの声明を聞いた京助は、自分の膝に肘をついて頭を抱えて唸っていた。

「奴ら……本気だ」

 今の所ジャガックが何の目的があって地球とこの街を狙っているのかを京助は知らない。だがその主目的の達成及び自分(マグナアウル)とクインテットの本格排除のために、自分達の身を世界中に晒すという捨て身の作戦を始めたのだ。

『本気になってこんな真似を仕出かすという事は、同時に連中(ジャガック)はもう後に引けないという事です』

「それは分かってる。だけどそれは喜んでいい事じゃない、むしろ憂慮すべき事だよ」

『どういう意味ですか?』

「奴らは犯罪者の集まりなんだ、心なんてこれっぽっちも持たないケダモノ共の集まりなんだよ。そんな奴らを後に引けなくなるほど追い込んだらどうなるかぐらい想像が付くだろ?」

『あなたは連中がもっと悍ましい事をすると考えているのですね?』

「そうだな……何をするかは正直想像つかないけど……」

 京助の脳裡に『マトリの謎』の管理人である宏太の言葉が思い浮かぶ。

『俺達が信じてる日常やセカイって言うのは、案外脆いものだよ』

 全く以てその通りだ、自分は壊れたセカイの感触を嫌と言うほど知っている、そしてその後に味わう事になる地獄の味も。

「また俺は……失うのか」

 あの日いきなり失った父と母のように、奏音まで失ってしまうのだろうか。

「嫌だ……絶対に失ってたまるか」

『落ち着きなさい、まずはジャガックとその他機関の動きを見ましょう。情報収集を忘れずに』

 テレビをつけたまま、京助はスマホとタブレットを念力で引き寄せて三つのツールから情報を集めるのだった。


 クインテットの面々はジャガックの出した声明に様々な反応を示していた。

 奏音は歯を食いしばって拳を握り締め、皐月は顔面蒼白で椅子の上で体育座りをし、明穂は弟の颯司と夏穂に自分の安否と絶対に家から出ないように電話越しに言い含め、林檎は目を瞑って腕を組んでソファーに体を投げ出し、麗奈は落ち着きなく部屋をぐるぐると動き回っている。

「いい? 何回も言ったけど絶対にお家から出たらダメだからね?」

『分かってるよお姉ちゃん!』

「いい返事ね、お兄ちゃんの言う事聞いていい子にしてなさい」

『夏穂は俺が見とくから、心配しなくていいよ』

「助かるよ颯司」

『姉ちゃん』

「ん?」

『絶対に帰って来てよね』

「帰って来てって……当たり前じゃん」

『俺ら待ってるから』

「……ありがとう、それじゃあ切るね」

 明穂の電話が切られたことで一時的に待機所に沈黙が訪れ、何とも言えない張り詰めた空気が周囲を包み込む。

 この空気に耐えられなくなったのか、ずっと何かを考えこんでいた様子の林檎が姿勢はそのままに口を開いた。

「ウチらどうなるんかね?」

「どうなるって?」

 皐月がそのままの姿勢で林檎の方へ顔を向ける。

「いやさ、一時間後に諸々の結果が出て、ジャガック共と戦うとするじゃん」

「うん……」

「ウチらの素顔とかって公開されんのかな……ってふと思って」

「それは無いと思いたいけど……」

「だよね、財団(ここ)ならウチらを守ってくれそうだし」

 そんなことを話していると、モニターが点灯して神妙な面持ちの白波博士が映し出された。

『先程政府関係者と各種敵対性宇宙人対策組織との会議が終わった』

「どうなったんですか?」

『我々は連中と交渉も譲歩もしない。財団含めて全力を挙げてジャガックに抵抗することで合意したよ』

 白波博士の知らせを聞き、ひとまず皆はほっと胸を撫で下ろす。

『市民の避難誘導は財団私有部隊と公安X課(じゅっか)と警察や自衛隊で行う事になった。君達の身の安全は財団だけでなく各種対策組織と連携して保護する、だから安心してほしい。以上の事を後で記者会見で発表する事になってる』

「じゃあ時間が来たらもう戦えるんですね?」

『いや……無理だろう』

 神妙だった白波博士の顔が曇り、皆驚愕と不安が綯い交ぜになった顔でモニターを見る。

「どっ……どうして⁉ どうしてなのお父さん!」

『昨日の戦いでの損傷がまだ修復されてない』

「じゃあ私達は……」

『私達も全力を挙げているが、すぐには無理だ』

 ある種の強烈な苛立ちから来る不安がじわりじわりとこの空間に広がっていく。

『とにかく、しばらくの間はここで待機をしておいてくれ』

 白波博士が頭を下げるとモニターが切れ、ただただ重苦しい雰囲気が蟠っていた。

 しばらくすると、どこかから何かをぶつける音がして、皆が音の方を見ると、麗奈が壁を叩いていた。

「フーッ……フーッ! うわあああっ!」

 麗奈は叫びながら強い力で何度も壁を叩き、ついには壁を蹴り始める。

「あああっ! ううっ! うわっ! ぐうっ! あああああああっ!」

 慟哭にも似た無念の思いの発散が、待機所に空しく木霊するのであった。


 そうして一時間後、官房長官とウィルマース財団との共同記者会見が行われてジャガックへの抵抗が宣言され、その様子は電波ジャックにて様子を見ていた宇宙に居るジャガック本隊へ届いていた。

「クッフッフッフッフ……見たなお前達! 地球人共は敗北を選んだぞ」

 ゾゴーリは後ろの真下にずらりと並ぶ無数のジャガック兵へ向き直り、その様子を見て満足そうに笑う。

「お前達は今から地球へ向かい、抵抗する者を徹底的に叩き潰し、地球人共にその様子を見せつけ、我々の盤石な支配の基礎を固めるのだ!」

 上下の右腕を掲げてゾゴーリは宣言し、ジャガック兵たちは同じく腕を挙げて歓声を上げる。

「だが! だが! あくまで忘れるな! 私が欲しいのは焼け野原ではない! 必要以上の損傷を街に出すな! だが抵抗する者は容赦なく叩き潰せ!」

 先程以上の歓声が広い船内に響き渡り、ゾゴーリはそれを見て満足そうに哄笑を上げると、背後の偏光ガラス越しの地球を指差して半ば怒鳴るように叫んだ。

「行ってこい! 地球へ我々の全てを刻み付けてやれ!」

 ジャガック兵達は手にした銃をぐるりと回転させて持ち直すと一糸乱れぬ行進を始め、各々のその先にある戦闘機へ乗り込み始める。

「クククク……さてお前達」

 近くに控えていた幹部達へ向き直り、上下の腕を合わせてニヤリと笑いながら聞いた。

「どうするつもりだ?」

「どうするとは?」

 上右手で自分の髪をくるくると弄りながら上左手でザザルの方を指差す。

「戦闘向きじゃないザザルはまあ良いとして、他のお前達は今からどう動く? ルゲン、言ってみろ」

「はっ! はい! 私としましては……そうですな、自ら戦いに出るより戦闘指揮を執ろうと考えております」

「ふーん、まあ良いだろう。パテウ、お前は?」

「は! 私はクドゥリと行動を共にしたいと考えております!」

「成程、クドゥリは?」

「しばらくの間は表へ出ません」

「ほう? ではいつ出るつもりだ?」

「奴が現れた時、私が出る時はその時しかありえません」

「奴が来た時か……奴は来るか?」

「ゾゴーリ様が今が好機として地球へ向かったように、奴も必ず食いつきます。この街を守るために必ず」

 下右手で顎を撫でると、大きく息を吐いて頷いて偏光ガラスの方を向いた。

「……お前達の考えは分かった。では機が熟すまで待つがいい」

 円盤の前に三基のポータルが形成され、ゾゴーリ達はジャガックの艦隊が次々とその中へ入っていくのを見届けるのであった。


 真鳥市では避難や戦車や私有軍の配置をしている最中、ようやく円盤に動きがあった。

「こちらAブロック、ジャックの円盤が動き出しました」

『了解、ABCブロックは戦闘態勢に入れ。避難誘導もっと急げ』

「了解」

 戦車やミサイル砲が円盤に向けられるも、円盤は各部パーツを回転させて自身の機体を分解し始め、やがて本体を中心に三つの巨大なリング状のパーツが分離し、そのリングの中にエネルギーが満ちた。

「なんだ? なんだあの輪っかは⁉」

 まるでその疑問に答えるかの様にリングから次々とジャガックの艦隊が出現し、低い飛行音を響かせながら飛び立ち始める。

()ェッ!」

 戦車砲からビーム光弾が、ミサイルポッドから震盪ミサイルが放たれ、何機かの戦闘機を撃ち落とす代わりに人員輸送ガンシップから反撃を喰らって戦車が吹き飛ばされ、そこへジャガック兵や自律殲滅オートマタが降り立って進撃を開始した。

 ついに大規模侵略が開始され、撃ち合いの白兵戦が始まる。

「あのロボットはまずいぞ! 見つけ次第優先的に破壊しろ!」

 オートマタに集中砲火が突き刺さって幾機かが破壊されるが、その爆炎から後ろに控えていたオートマタが跳躍して走り寄って装甲車を殴り飛ばし、また別の個体が顔面下部からのレーザーで周囲を薙ぎ払う。

「まずいまずい!」

「ここは死守しろ! まだ避難が終わってない!」

 オートマタだけではなく、無尽蔵とも思える数のジャガック兵が道を埋め尽くしており、その銃撃によって徐々に財団とX課の連合部隊は押され始めた。

「増援はまだか!」

「来るにしたってここを持ちこたえねぇといかんだろ!」

「このクソ宇宙人共! 退きやがれぇぇぇえええっ!」

 兵士たちの怒号とビームガンの音が、真昼の真鳥市のあちこちから響き渡る。


 中継やSNS越しに戦いの様子を見ていた京助はついに無言で裏口を出ると庭へ向かい、今激闘が繰り広げられている方角へ顔を向ける。

『行くのですか』

「ああ」

『自分の姿を世に晒すという事がどんなことになるか、理解はしていますか?』

「今この街に必要なのは希望だ、復讐者の俺はそれに相応しくないかもしれない。でもこの街の希望を誰かが背負わなくちゃいけなくて、それが俺しか居ないのなら……喜んでその役を引き受ける」

 並々ならぬ決意を見せた京助の腕に、アウルレットが出現した。

『あなたの決断をしかと受け取りました。全てをぶつけてきなさい、この街の希望になるのです』

 京助は腕を立ててアウルレットに手を翳して次元断裂ブレードを展開し、ゆっくりと腕を回して空に拳を掲げて叫ぶ。

「おおおおおっ! 招来ッ‼」

 今この瞬間若き梟は、新たな戦いへと飛び出していった。


 戦線は徐々に後退し、戦車も装甲車もひっくり返されるか使い物にならなくされるかの中で皆必死に戦っていたが、ついに避難中の列の寸前まで追い詰められた。

「クソッたれ!」

 複数の自律殲滅オートマタが機能不全と化した自分たちの同型機の屍を踏み越えて疾走しながらこちらへ向かって来る。

「やばいぞ! アレを止めろ!」

 ついに一機が避難者の列へ辿り着き、悲鳴を上げる避難者に向かって手を伸ばしたその瞬間、一筋の光がそのオートマタの真上を横切って動きが完全に停止した。

「おい……なんで止まった?」

 オートマタだけではなく、あれだけいたジャガック兵がまるでモーセの十戒の如く吹き飛んでいた。

「待て! あいつは何だ?」

 一人の連合軍兵士が指さした先には、全身に藍と焦茶の鎧を纏い、梟を模った(ヘルム)を被った身長二メートルの大男が一振りの剣を持って立っている。

「あいつは……まさか!」

 彼は戸惑う兵士や大勢の避難民たちの方へゆっくりと振り返ると、ぐぐもっているが低く力強い声で告げた。

「俺のこと……怪しい者と思うかもしれない。でも一つだけ約束させてくれ」

 銃を向けていた連合兵士は銃を下ろし、まるで怪物を見るような顔をしていた避難していた市民の顔が少し柔らかくなった。

「俺は連中から必ずこの街を守る。だから今日だけでいい! 俺を信じてくれ!」

 次第にオートマタを斬ったのも、ジャガック兵を吹き飛ばしたのも彼であると理解した一部の兵士や避難民が拍手を始め、それが徐々に連鎖していった。

「……ありがとう」

 思った以上に温かかったこの街の住人たちの反応に、大男はほっとしたように息を吐いて剣を握り直す。

「待ってくれ!」

 戦いを始めるべく前を向いた大男にを一人の兵士が呼び止める。

「あんたは確か……やっぱりそうだよな?」

「俺の名はマグナアウル」

 人員輸送ガンシップが再びジャガック兵を運び込み、マグナアウルはそれに向かって一人構えながら続けた。

「夜の最中のこの街に、一つの(きぼう)を灯す者だ!」

 噂になっていた存在のまさかの登場に兵士たちは沸き立ち、それを背にマグナアウルは走り出す。

 そして首領(ボス)直々に指名までした因縁の相手を前に広く展開して一斉掃射を始めたジャガック兵だが、マグナアウルはそこへ躊躇なく突っ込んで念力で全員吹き飛ばし、うち二人を念力で空中へ放って上空の輸送ガンシップのエンジン部分に叩きつけて墜落させた。

レイヴン(サブマシンガン)ブラックスワン(ショットガン)ウッドペッカー(ハンドガン)!」

 まずマグナアウルの両手にサブマシンガンが生成され、そこに追加パーツとしてショットガンとハンドガンが加わり、二丁の合体銃が生成される。

「これでも……喰らえッ! 黒翼! 乱舞ゥゥゥウウウウッ!」

 青白い半物質弾が戦闘機を次々と焼滅させた後、ポータルにも銃口を向けたが表面のフォースフィールドに阻まれて全く効いていない。

「ダメか」

 無尽蔵にポータルから供給される敵を潰せない以上どうすれば良いか。頭をフル回転させた結果、避難民の安全の保護が先決であると考え、マグナアウルは腰に銃を下げると地面に手をついて避難民に最も近づいている敵を探し出す。

『八時の方向五十三メートル、近いです』

「殲滅開始だ!」

 マントを広げたマグナアウルはマッハ越えの速度で目標地点に辿り着くと腰に提げた銃を乱射して兵列の三分の二を削り、残った真ん中の三分の一の前に立ちはだかる。

「ミンチにしてやる! スワロォーッ()!」

 マントを仕舞うと剣を四本生成し、うち二本を手にして残り二本をマフラーに巻き付けると、高速で旋回しながら宣言通りジャガック兵や自律殲滅オートマタを切り裂いていく。

 さすがに暴れ過ぎたのが目についたのか、複数の戦闘機がこちらに向かって撃って来た。

「チィッ!」

 アスファルトに何重にも重なった円を描きながら旋回を止めて手を翳してビーム光弾を全て空中に縫い留めると、マグナアウルは(ヘルム)の口部分を展開して怒りの限り叫んだ。

「人に……当たるだろうが!」

 その怒りに当てられて空中で縫い留められたビーム光弾の威力が何十倍にも跳ね上がると、マグナアウルの持つ剣にそのエネルギーが収束して身長を超える程の剣を形成し、それを思い切り振り抜いて斬撃を飛ばし、空を舞う戦闘機や輸送ガンシップを巻き込んで次々と焼滅させる。

『十一時の方向、オートマタとパワードアーマーの大群が来ます』

 背後の避難の列の数メートル前に持っていた剣を突き立てて安全を確保し、マグナアウルは指を鳴らして調子を整える。

「だったらスクラップにするまでだ! オストリッチ(強化装甲)!」

 脚部に追加された装甲によって跳躍力が強化され、一跳びでマントも不要なほど空高く飛び上がると、マグナアウルは再び旋回しながらドリルのようにパワードアーマーの大群へ突っ込むと、粉塵の中から躍り出て複数機のパワードアーマーにタックルを仕掛けた。

「ぬうっ! でやあああっ!」

 足の力をフル活用して十機以上のパワードスーツを押し返すと、よろけつつもパワードスーツが集中砲火を放ってきた。

「させねぇよっ!」

 マグナアウルの念力でビームやミサイル、実弾などを空中に縫い留めたは良いが、その背後から無数の自律殲滅オートマタがやって来て、覆いかぶさるようにしてマグナアウルを羽交い絞めにする。

「クソッ! 抜かった!」

 やがてスズメバチに(たか)るミツバチのように丸いボール状になってマグナアウルの四肢や胴を掴んだオートマタ達は〝仲間〟が損傷するにも関わらず、すし詰め状態の狭い空間の中で顔面下部や腕からレーザーカッターや赤熱した回転ノコギリを出してマグナアウルへ向けてきた。

「ぐううううっ! このっ! 俺から……離れろっ!」

 手足や背中、そして腹に容赦なくレーザーや高熱のノコギリが押し当てられ、眩い火花が飛び散って暗い空間を微かに照らす。

「ガラクタ共め……調子乗ってんじゃねぇっ!」

 オートマタのボールを体に纏わせたまま空中へ飛び上がると、全身から超高圧電流を放出して全てのオートマタを黒焦げにしてしまった。

「フゥッ!」

 黒焦げになったオートマタは次々とマグナアウルから剥がれ落ちていき、若干電気を放出しながらマグナアウルはパワードアーマーの集団に指を向ける。

「次はお前らだ……」

 何機かが戦闘隊形になる寸前、マグナアウルの指先から超高圧電流が迸り、それが掠ったパワードアーマーは半身を焼かれて機能不全と化した。

アルバトロス(クロスボウ)

 腰に提げていた合体銃の先端にクロスボウを取り付けて引き金を引くと、鏃型の半物質弾がいくつにも分裂してパワードアーマーに突き刺さり、それが爆ぜて多くの仲間を巻き込んでパワードアーマーが吹き飛んでしまった。

「トドメだ! ピーコック()!」

 複数枚の盾が生成されてパワードアーマーを囲むように配置され、それと同時にマグナアウルの装甲の装飾と目が青白く輝いて、合体銃の先端に鏃型のエネルギーが形成されていく。

「爆翼大乱舞!」

 盾に囲まれた無数のパワードアーマー達は脱出を試みるも叶わず、無数の鏃型の光弾が盾の壁の中で乱反射し、全てのパワードアーマーは爆散して完全に焼滅してしまった。

「よし、次は⁉」

『九時の方向、目視で確認できます。すぐそこです』

「了解!」

 合体銃を投げ捨てるとマントがはためき、即座にそこへ飛んでいく。

『気を付けなさい、基本的に雑魚が多いですが、幾人か手練れが居ます』

「そうか、アイビス(護手鉤)

 先端が鉤になった二振りの剣を取り、またもや敵の大群に突っ込んでいく。

「いちいち構ってやるほど俺は優しくないんでな! 全員ズタズタにして引き裂いてやる!」

 そう叫びながらマグナアウルは刀身で一刀両断、鉤部分に頭や手足を引っ掛けて次々とジャガック兵を解体していると、二振りの短槍を持った上級兵と槍を持った上級兵が左右から同時に攻めてきた。

「ふっ!」

 マグナアウルは跳躍で武器を躱すと、すかさず滞空中の自分へ素早く槍を向けた上級兵の一撃を回避しつつ槍に鍵を引っ掛けて着地と同時にへし折り、動揺した隙をついて喉を引き裂いてしまった。

 仲間を目の前で殺され怒った短槍使いが訳の分からない宇宙言語を喚きながら向かって来るも、マグナアウルは冷静に護手部分に着いた刃で短槍を受け止め、相手の腕に鉤を引っ掛けて引き千切る。

「フッ!」

 そのまま護手鉤を投げつけて短槍使いを串刺しにして、なおも向かって来る敵兵へ顔を向けた。

クレイン()……在庫処分だ、掛かって来い!」

 槍の穂先が青白く輝いて、マグナアウルは雑兵たちを撫で切りにして文字通り在庫処分の如く敵を処理していき、大剣を持って斬りかかってくる上級兵の一撃を避けてから背中を蹴飛ばし、近くにいた槍使いの上級兵の足を穂先で斬り落とした後で頭を思い切り叩いて破裂させる。

 そして死体の山へ突っ込んでしまった大剣使いはすぐに立ち上がってもう一度剣を振り下ろしたが、マグナアウルは槍を高速で回転させて相手の大剣を縦にへし折ると、そのままの勢いで槍を回して相手の体をズタズタにしてしまった。

 もう正攻法では勝てないと踏んだ上級兵たちは輸送ガンシップに乗り込んで、備え付けの機銃をマグナアウルに向けて放ったが、マグナアウルは槍を高速回転させて盾にし、吸収したエネルギーを先端の穂先に集めてガンシップへ思い切り投げつける。

「!」

 気付いた時にはもう遅い、自分たちが放ったビームのエネルギーによって強化された槍が炸裂し、ガンシップは空中で大爆発を起こすのだった。


「うわあああああっ! このっ! このっ! このっ! 辺境の惑星の! ちっぽけな! 虫ケラ! 如きがァッ!」

 先程から地球での戦いの様子をずっと見ていたゾゴーリはとうとう癇癪を起して暴れ出し、四本の腕と二本の足をめちゃくちゃに振り回して机や椅子に当たり、控えていた二人の従者の胸や顔を手加減なしで殴りつけた。

「たった一人で私の兵を押しているだと! ふざけるなよぉっ! ヴァアアアアアアッ! アアアアアアアッ!」

 奇声を上げながらひとしきり暴れ回ってゾゴーリが落ち着いた頃を見計らい、クドゥリが指令室へ連絡を入れる。

「アレを二台を出せ。そう、アレだよ……大丈夫だ、私が許可したと言えばいい」

 床の上で肩を上下して深呼吸していたゾゴーリの三つの目が上目でクドゥリの方を見る。

「まだ行かんのか⁉」

「ええ、まだです。今は奴を消耗させているのです」

「奴の消耗と兵力の消耗は釣り合うのか!」

「はい、ここで殺せるのなら。クインテットが居ない今、奴を殺す絶好のチャンスです」

 それを聞いたゾゴーリは大きく溜息をついて再び椅子に座った。

「ご安心をボス。アレが壊されたら私は行きます」

「本当か?」

「はい、ですので私はここで失礼させてもらいます。パテウと打ち合わせがあるものですから」

 小さく笑って頭を下げると、クドゥリは部屋を出ていくのであった。


 マグナアウルはジャガック兵を屠り、空を飛ぶ戦闘機を撃ち落としながら街を走っていると、どこか異なる形状の輸送ガンシップが二機ポータルから出現した。

「なんだよあれ……」

『輸送船であることは一目瞭然ですが、おそらく兵ではなく別の何かを運んでいると考えられます』

 やがてその二機はマグナアウルの方へ飛んで行くと船体の三分の一を構成していたカーゴを切り離し、カーゴはパラシュートすら開かず落下して地面に突き刺さる。

「爆弾か!」

『いいえ』

 マグナアウルは持っていた剣を構えて二台のカーゴを睨みつけていたが、やがて側面が開いて見覚えのある形状の金属の脚が現れた。

「そうか、お前か……」

 カーゴの装甲をパージし、中から出現したのは加須多穂のリゾートで開発されていたあの巨大歩行戦車(ウォーカー)だった。

「全く、嬉しくないオールスターだな! レイヴン(サブマシンガン)ウッドペッカー(ハンドガン)ブラックスワン(ショットガン)シュービル(対物ライフル)ヘロン(バルカン砲)アルバトロス(クロスボウ)!」

 手中に対物ライフルが生成され、その周囲に各銃器のパーツが生成されて合体していき、マグナアウルは完成した合体銃をウォーカーに向ける。

「お前に付き合ってる暇はない! おおおっ!」

 弩の先端に取り付けられた多銃身が回転しながら無数の円錐型の半物質弾が放出され、ウォーカーに次々と刺さっていく。

『フォースフィールドは相変らずですね。アレを使ってみては?』

 若干の後退こそしたものの、ウォーカーは表面に傷一つついていない。

「まだ温存だ、中からブチ抜いてみる!」

 マグナアウルは背中に合体銃を背負ってから主砲から放たれるレーザーを回避しつつ走り出し、遠くにいる二台目のウォーカーに向かって跳躍して、物体透過能力でウォーカー内部に入り込んで中を乗っ取ると、主砲のパワーを上限まで上げてもう一機のウォーカーに向けてレーザーを放った。

「よし!」

 いきなり仲間から砲撃されてよろけたウォーカーの隙をつき、瞬時にウォーカーの背後に回ったマグナアウルは背中の合体銃を取る。

「おおお! 極翼! 大乱舞ッ!」

 莫大なサイコエネルギーが二台のウォーカーに突き刺さり、マグナアウルが背後を向いた途端、ウォーカーは二台とも大爆発を起こした。

「フッ……」

 自分の手の中で崩れた合体銃の残骸を投げ捨てると、今度こそポータルを破壊するべく向き直る。

「今度こそアレを……ん?」

 なんだか様子がおかしい。

 三つのリングの内側を満たしていたエネルギーが全てかき消え、本体の方へ倒れながら元の円盤状の形態に戻ってしまった。

『一体何のつもりでしょうか?』

「まさか撤退するんじゃないだろうな⁉」

 勿論そんなはずはなく、ポータル円盤は高度を上げながら空中で上下を逆転させると、折り畳まれたリングが解体され始め、三つ分のリングが合わさった巨大なポータルを形成する。

「これはデカブツが来るぞ」

 三つのリングが合わさった巨大ポータルにエネルギーが満ち、やがてその中から一回り大きい透明なドームを乗せた円盤が現れた。

「!」

 ドームの中はまるでコロッセオのようになっており、その観客席に当たる部分に見覚えのある人物がいる。

「クドゥリ……」

 クドゥリは無数の兵士の屍の山の前にいるマグナアウルを片方の目でしっかりと見据え、隣にいる二足歩行の爬虫類に何事かを呟いた。

 

「あれがマグナアウルだ、現物は初めて見たか?」

 クドゥリは隣にいるルゲンの方を見て言い、ルゲンは顎を撫でて息を吐く。

「確かに……恐ろしげだ」

 自分は戦闘向きではない為に一度断ったものの、クドゥリとパテウから「一度現物を見ておけ」と言われて連れて来られたのだが、確かに来て良かったかもしれない。

「雰囲気に説得力があるな」

「そうだろう! 俺も初めて相対した時にすぐ分かった! 奴は強大な力を持っているとな!」

「本当に奴を倒せるんだろうな?」

「ああ、これで仕上げだ」

 クドゥリが指を鳴らすとポータルから無数の輸送ガンシップが現れ、次々と着陸してこれまで出撃したジャガック兵に匹敵するほどの戦力を送り出し始めた。

「本気だな」

「ああ、ここで奴を潰す。今日、この場でな」

 三人はコロッセオの観客席から、マグナアウルへ向かって行くジャガック兵を見守るのであった。


 さすがのマグナアウルも、この圧倒的物量を前に辟易せざるを得ない。

「あいつら……無茶苦茶しやがって!」

 ふと脳裡にクインテットは何をしているのかと過ったが、この量ではさすがに焼け石に水である。

「少し……心細いな」

『アレを使っては?』

「いいや、まだ温存だ! ハッ!」

 マグナアウルが両腕を振るうと無数の銃器と刀剣やミサイルが空中に生成され、右手が振り下ろされると同時に半物質弾の雨霰がジャガック兵を迎撃する。

「続け!」

 念力により剣や槍や戦斧が半物質弾の間を縫って射出され、徐々にジャガック兵の隊列を削っていく。

「おおおおおおっ!」

 マグナアウルは雄叫びを上げながら跳躍して、空中を飛び交う武器のうち剣と戦斧を取ると刃を半物質化させて無数の兵やオートマタ達の中に飛び込み、一振りで十人以上を切り裂いて進もうとするが、やはりこの圧倒的物量を前に歩みは遅い。

(多すぎる!)

 度々念力で相手を吹き飛ばしているものの、押し返すたびに反発が強まっており、何度も呑まれそうになる。

(まるで海だな……このままだとまずい!)

 とうとうマグナアウルは後方に跳躍して距離を取り、少しづつ後退しながら列を捌き始める。

「クソッ、進めない! このままだとまずい!」

 そうして徐々に押し返され始めたその時、空中から何かが降ってくると同時に辺り一帯が瞬時に凍結した。

「やあ」

「ヘヘヘヘ……本当にオールスターだな」

 氷で出来たクレーターの中心に居たそれは、具足に似た装甲を軋ませながら、巨大な斬馬刀めいた赤い両刃の刀を振った。

「サイ!」

「やあやあどうも、頑張ってるみたいじゃないか」

 マグナアウルはカプリースに近付き、大きく息を吐いて問いかける。

「お前も俺を潰しに来たか?」

「ああ、いやいや。もう連中とは縁が切れた」

「は?」

「クライアント側のコンプライアンス違反ってやつ。料金分の金をブン捕ってサヨナラしてきた」

「じゃあどうしてここに?」

「まあどうもボクが金引っこ抜いたせいで奴らがこんな事しでかしたっぽいんだよね。だから少しだけ責任を感じてる」

「お前に責任感というものがある事に俺は今驚いてるよ」

「失敬な、こう見えてもプロの傭兵だ。気が向いた仕事は全部やってる!」

 それは果たして責任感があると言えるのだろうか。

「とにかく奴らと戦うんだろ? だったらこんな所で消耗したらダメだ、ここはボクに任せろ」

「フッ、どういう風の吹き回しだ?」

「気紛れな風の吹き回しさ。さあ早く行きなよ、ホラ氷が割れそうだ」

 どうやら悠長にしている時間はないらしい。マグナアウルはカプリースへ背を向けて前を見る。

「これは君達地球人の問題だが、乗り掛かった船だ。気紛れな風として首を突っ込ませてもらうよ」

「礼を言うぞ」

「おう、行ってこい」

 マグナアウルがマントを広げて跳躍した直後、氷の壁が砕けてジャガック兵が雪崩れ込んできた。

「さてさて、お前らは幸運だよ。宇宙屈指の殺しのプロに一緒くたにされて処理される(しぬ)んだからな!」

 紅蛇に風を纏わせて振るうと無数のジャガック兵や自律殲滅オートマタがそれに巻き込まれて竜巻と化し、カプリースはその風の向きに従って回りながら巻き込まれたジャガック兵に攻撃を始めた。

「アグラ・ゴル・コーダァッ‼」

 放たれた無数の水流弾がジャガック兵の防護服や皮膚を切り裂き、その中を白い稲光が激しく舞い踊り、成す術もなく赤き死の嵐に巻き込まれていく。

「はははは! こんなのは久しぶりだ! 遠慮しないでもっと来い! ジェノサイドカプリースからの死のプレゼントだ!」

 赤い竜巻の中に、楽し気で恐ろしい声が響くのであった。


 カプリースがジャガック兵を大掃除しているのを背に、マグナアウルは走ってコロッセオに徐々に近づき始めた。

「クソッ! 邪魔だ!」

 なおも邪魔する兵やオートマタ、そしてウォーカーを潜り抜け、ついに兵士たちの波の上へ向かう。

「うおあっ! でやっ!」

 巨大ウォーカーのミサイルを避けつつ主砲にチェーンを巻き付けてより高く飛び上がり、剣と戦斧を投げ捨てて斬撃を飛ばして敵兵の波を吹き飛ばす。

レイヴン(サブマシンガン)ブラックスワン(ショットガン)オストリッチ(強化装甲)!」

 生成した四丁の銃を合体させて二丁の合体銃にし、マグナアウルは強化装甲が割れる程の渾身の跳躍と同時に銃を真下に向ける。

「うおおおおおっ! 黒翼! 乱舞ゥウウウッ!」

 膨大なエネルギーが推進力となってマグナアウルの体がさらに空高く押し上げられ、ついにマグナアウルは空中のコロッセオへ辿り着いた。

「フッ……ハァ……ハァ……」

 ついに敵の喉元へ辿り着いた、息を整えると観客席にいる三人の敵を真正面から見据えマグナアウルは手を広げて挑発した。

「さっさと降りて来い、マグナアウル様が謁見してやる」

 その様子を見たクドゥリが不敵に笑い、ルゲンを挟んで隣にいるパテウの方を向く。

「どうする?」

「ダァーッハッハッハッハッハ! 面白い! たった一人でここに乗り込んできた勇気を買ってやろうじゃないか!」

 これ以上は自分の領分ではないとルゲンは溜息をつくと後ろを向き、パワードアームの駆動音を響かせて帰路に就いた。

「マグナアウルの事は任せる、戦うなり殺すなり好きなようにするがいい」

 マグナアウルは簡易ワープゲートで去ったルゲンを追おうとするも、それを阻むようにクドゥリとパテウがコロッセオのフィールド内に降り立つ。

「久しぶりだな……マグナアウル」

 クドゥリの声には熱く滾るドロドロとした殺意が込められていたが、マグナアウルはそれを軽くいなして行った。

「ああ、その眼帯似合ってるぞ」

 自分の左目の部分を叩くマグナアウルに対してクドゥリは舌打ちしてベナーグを引き抜き、パテウは体の各部を変形させて、砲門になった右腕をマグナアウルに突き付けながら言った。

「俺もクドゥリもこの日の為に今一度鍛錬を積み直した! 今日こそ雪辱を果たす!」

「フン、お前の屈辱が雪げるのは俺を倒した瞬間じゃないだろ?」

 もはや空中からでも分かるほど巨大になったカプリースの赤き死の嵐を見たパテウは地団駄を踏みながら答えた。

「当然ジェノサイドカプリースも倒す! だがまずお前が先だ!」

 パテウの宣言と共にクドゥリは耳に手を当てて兜を装着して戦闘服に身を包んだ。

「今日がお前の最期だ、愛した故郷の者達に見守られ死ぬがいい」

 クドゥリの宣告にもマグナアウルは全くもって怯まない。

「何寝惚けた事を言ってるんだ、今日は本格侵攻に乗り出したものの、あっけなく撃退された宇宙ギャングの幹部が無様な敗北を晒す日だよ。記念日として休日になるかもな」

 小馬鹿にするような調子にパテウは地団駄を踏みつつ、背中からミサイルキャリアを出現させた。

「減らず口を言いおって!」

「私もパテウも以前とは一味違う」

「そっちこそ俺を甘く見るなよ」

 マグナアウルは刀身が青白く輝く二振りの剣を取り出して構え、クドゥリはベナーグの刃を分割させて振るい、パテウは各種砲塔にエネルギーをチャージする。

「では始めようか!」

「ああ、お前らの夜は……ここで終わりだ!」

 クドゥリのベナーグがしなってマグナアウルへ向かって伸び、同時にマグナアウルはパテウが放ったミサイルをベナーグにぶつけて軌道を逸らすと、瞬時にクドゥリへ肉薄する。

「くっ!」

 マグナアウルの半物質剣が振り下ろされる直前、ベナーグが長剣状態となって二つの剣と交差した。

「忘れたかマグナアウル! 前の戦いでお前は勝ったかもしれんが、剣の腕は私が上だ!」

「それはどうかな! 俺があの時のままだと考えてるなら、そのオメでたさに涙が出るな!」

 互いの剣が弾かれ、二筋の青い光の軌跡と一筋の薄紫色の光の軌跡が激しくぶつかり合う。

(なんだこれは! 確実に腕が上がっている!)

(しかしなんだこの刃の周りのエネルギーは……掠ったらヤバいかもな!)

 互いの強化を感じつつ、両者は一歩も引かない。

「ハアッ!」

「セアッ!」

 両者同時に剣を弾いて後退し互いの刃にエネルギーを籠める。

「グア・ガディラック!」

「飛燕斬・比翼連理!」

 青い二つの斬撃と薄紫色の斬撃が空中でぶつかり合い、膨大なエネルギーを周囲に撒き散らしながら爆ぜた。

「ぐっ! クドゥリ!」

「人の心配をしてる場合か!」

 爆炎の中から現れたマグナアウルへパテウは反射的にミサイルやビームを放つも、ミサイルはあらぬ方向へ飛んでいき、ビームのエネルギーは全て足の強化装甲へ集約されていく。

「おおおっ! せあっ‼」

 光の軌跡がパテウの肩を抉り取り、ちょうど袈裟斬りになるような形でパテウの体は真っ二つにされてしまった。

「がああっ! ぐっ! はああああああっ!」

 パテウは真っ二つにされた体で痛みに耐えつつマグナアウルへビームを放つも、それら全てを回避されてしまう。

「残念だったなロボット野郎!」

「おあっ! 貴様! 俺をロボットと言いやがったな!」

「無駄な足掻きを止めて大人しくスクラップにされろ!」

「いいや、無駄じゃないしスクラップになるのはお前だよ」

 後ろを振り返るとパテウが放ったビームを全て吸収したベナーグが粉塵の中で輝いており、刃が分れると同時にマグナアウルへ襲い掛かる。

「てあっ! はあっ!」

ピーコック()!」

 ベナーグの一撃は盾に阻まれたが、その先端がマグナアウルの背に迫り、クドゥリは勝ち筋を見出し笑う。

(このまま奴の背を貫く! そして……⁉)

 先端は確かにマグナアウルの背に届いている筈だったが手応えが妙だ。それもそのはず、マグナアウルはメイスを生成して背中に隠していたのだ。

「オラッ!」

「ぐうっ!」

 クドゥリは引っ張られて壁に叩きつけられ、ようやく全身をくっつけて回復したパテウへ向かう。

「貴様! よくもクドゥリを!」

「さっきからクドゥリクドゥリってうるさいんだよ! 惚れてんのかよ⁉」

 振り下ろされたメイスをハンマーに変形させた右腕で防御し、左腕をバルカンにしてマグナアウルを牽制する。

「うるさいうるさい! いちいち癇に障る奴だ! この日の為に増やした銃器は五十個! その威力とくと味合わせてくれるわ!」

 パテウの胸と腹と太腿が変形して銃身が飛び出し、電撃や炎を帯びた実弾が次々と射出される。

「くっ!」

 初撃は姿勢を低くしながらメイスで薙ぎ払って吹き飛ばし、次の弾幕は前方に跳躍しながら盾で受け切り、三度目の弾幕が放たれるよりも先にマグナアウルは盾を放り投げ、先端が青白く光ったメイスで盾を打ち抜いてパテウに命中させた。

「ハッ! マズイ!」

「喰らえッ!」

 メイスのスパイクが盾に命中し、盾が粉々になると同時にパテウは後方へ吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

「消耗してなおこの力……流石だな」

 立ち上がったクドゥリの方を振り返り、メイスを肩にかけてマグナアウルは言った。

「今かつてない程俺はキレてるもんでな。怒りが俺の力を底上げしているのかもしれん」

「そうかそうか……だがそれはいつまで持つかな?」

「なに?」

「出番だ、我が愛しの妹達よ!」

 驚いて簡易ワープゲートへ目を向けると、戦闘服に身を包んだガディとザリスとジェサムが現れ、フィールドへ降り立って各々の武器を取ってから言った。

「久しぶりねマグナアウル」

「ああ、あの時ぶりか」

「前はジェノサイドカプリースに阻まれましたが……今やもう奴は居ない」

「あなたからのアドバイス、ありがたく実践させていただきましたわ」

「なんであの時あんなこと言ったかな俺は」

 過去の自分を飛燕斬で斬りつけてやりたい気分になったが、後悔をしてももう遅い。

「一対五か……まあそこのロボットもどきを七対一で囲んだことがあるから文句は言えないか」

「またロボットと言ったな! もう許さん!」

「落ち着けパテウ、もはや勝機はこちらにある」

 クドゥリはベナーグを長剣にし、マグナアウルの方へ向ける。

「今日こそ潰すと決めたんだ、貴様の命運はもうとっくに潰えた!」

 その宣言と共にクドゥリはガディと共に斬りかかり、マグナアウルはスライディングで回避するもジェサムとパテウの銃撃が飛び、反射的にメイスでビームを薙ぎ払う。

 反撃にエネルギーを溜めたメイスでジェサムへ殴りかかろうとするも、ザリスが鞭剣を振ってメイスを叩き落とし、そこへクドゥリが斬りかかる。

「くっ!」

 咄嗟にベナーグを肘と膝で挟み込んで受け止めはしたものの、パテウのミサイルが飛来すると同時に先の折れた大剣を振り上げたガディが向かってきたため、マグナアウルはまず念力でミサイルをザリスとジェサムの方へ飛ばし、ガディの足元をチェーンで掬って転ばせた。

「あぐっ!」

「ガディ! 貴様よくも!」

 長剣形態のベナーグが瞬時にライフル形態へ変形し、マグナアウルの腹部に一際強力な光弾が命中する。

「ぐあっ! ううっ……フッ! スワロー()! アイビス(護手鉤)!」

 マグナアウルは吹き飛んで壁に叩きつけられたものの腹を抑えて立ち上がり、護手鉤と剣を持って再び五人へ向かって行く。

「何度やっても無駄だ! はぁっ!」

 ザリスの鞭剣がマグナアウルへ伸び、マグナアウルは護手鉤のフックで鞭剣を巻き取ってパテウへ斬りかかろうとするもクドゥリとジェサムの銃撃を喰らって完全にペースを崩された。

「はぁっ!」

 ガディが渾身の一撃をマグナアウルへ叩き込み、すかさずジェサムが強化弾を叩き込んでマグナアウルを打ち上げる。

「ダァーッハッハッハッハッハ! でかしたぞ! 喰らえい!」

 背中から出現した高エネルギー砲を叩き込まれ、まるで人形のようにマグナアウルは空を舞う。

「ザリス」

「はいお姉様! おおおおっ! でやっ!」

 ザリスの鞭剣が空中のマグナアウルを引っ張って振り回し、何度も壁へ叩きつける。

「トドメだ……グア・ザリシューレン‼」

 鞭剣状態になったベナーグがマグナアウルを胸を捉えてフィールドの上に叩きつけられる。

「終わりだ! 死ねっ!」

「ぐあああああっ!」

 巻き付いたベナーグから高エネルギーを流し込まれ、マグナアウルを中心に周囲一帯が大爆発を起こした。

「ダァーッハッハッハッハッハ! さすがの奴も生きてはいまいて!」

「フフッフ……まあここで終わらせるのも惜しい敵ではあったがボスの命だ、仕方あるまい」

 だが皆の予想に反して黒煙と粉塵の中で肩を抑えたマグナアウルが足を引きずりながら現れ、これには三姉妹とパテウは愕然とし、クドゥリも驚いた後口角を上げる。

「生きていたか」

「ああ……ゲホッ……おかげで慢性的な肩凝りが取れたぜ、ありがとよ」

「減らず口は健在だな、やはりそう来なくては」

 膝をつくマグナアウルに、恐怖していた四人は安堵した。

「どうした、掛かって来いよ。俺は見ての通りボロボロだ、殺すなら今だろ。俺が怖いのか?」

「誰がお前など恐れるか!」

「どうだか、お前達三人は俺に散々ビビってただろ。あの時の悔しそうな顔ったらなかったよ」

「もう殺す! お前は終わりだ!」

 武器を振り上げて襲い来る三人を前に、マグナアウルは立ち上がって両手を広げて迎え撃つのだった。


「もう待ってられない!」

 もはや限界だった。奏音、皐月、明穂、林檎、麗奈にとってマグナアウルは決して仲間ではない。

 だが彼女らにとって彼はもはや無視できない存在であり、孤軍奮闘する彼をただ待ちながら見るだけというのは耐えられない。

「ねえお父さん……私達このまま何もできずここで待つだけなの? この街の危機に、彼の危機に……じゃあなんで私達を集めたの?」

「落ち着きなよ……って言いたいけどウチももう無理かも……これしんどすぎるって」

「このまま終わりたくはない……私を送り出した家族に顔向けできないよ」

「このまま嬲り殺しにされる彼を見るだけってのは絶対嫌」

「今行けるなら、私は生身だって行くよ。体がズタズタになろうが喉元に噛みついてやる」

 各々のフラストレーションが溜まる中、部屋の自動ドアが開いて白波博士がやって来た。

「スーツは!」

「まだだ」

 皆の苛立ちが頂点に達し、麗奈が博士に飛び掛かって白衣の胸ぐらを掴み上げる。

「私達がどんな思いで! どんな思いで……」

「その思いは本物か?」

 真剣な口調で問う白波博士を間近で見た麗奈は手を離し、またまっすぐ目を見据えて力強く頷く。

「他の皆はどうだ?」

 皆口にこそ出さなかったものの、全員の思いは同じである事は痛いほど伝わってくる。

「どんなリスクがあっても、君達は今戦うか?」

 皆が頷いたのを確認した博士は、持っていた財団のロゴが入ったジュラルミンケースを突き出した。

「ならばこれを使え」

「これって……」

 白波博士はケースを開いて中を見せると、そこには五つの転送鍵が入っていた。

「まさか……」

「時間がない、自分のを取り次第私について来なさい」

 各々のコードネームが刻まれた転送鍵が行き渡ったのを確認すると、白波博士は五人を連れてエレベーターに向かう。

「遅くなって済まなかった。溜まった思いをこいつと共に思う存分ぶつけると良い」

 奏音はその手に収まる新たな武器を強く握り、空を仰いで力強く笑って宣言した。

「待っててマグナアウル、今度は私達が助けるから」


 満身創痍での一対五はもはや自殺行為と言ってよく、再びマグナアウルは追い詰められてしまった。

「フッ、随分手古摺らせたがこれで終わりなようだな」

「何言ってんだ、ようやく温まった所さ」

「本来なら一対一で決着を付けたかったが、ボスはそれを許さなんだ」

「要は一人じゃ俺に逆立ちしたって勝てないから集団で囲むようなマネしたんだろ?」

「貴様!」

「いい、こればかりは反論は出来ない」

 膝をつくマグナアウルにベナーグの剣先を向けて口角を上げて続ける。

「だが運が悪かった、いくら強くても運が無くてはな」

 そしてクドゥリは自分なりの敬意を以てマグナアウルを葬らんとベナーグを大きく振り上げた。

「強き地球の戦士よ、お前のことは永遠に私の記憶に……」

 そこまで言いかけたその時、ジャガックのものではない大型戦闘機のエンジン音が近づいてくることに気付いた。

「なんだ⁉」

 振り返った直後にその戦闘機はクドゥリ達目掛けて光弾を放ち、全員が飛び退いて戦闘機へ釘付けになる。

「あの戦闘機、まさか!」

 やがてフィールドの上にやって来た戦闘機は、機体後方のタラップを開けながら停止し、その中から黒い鎧に身を包んだ五人の人影が現れた。

「貴様たちは!」

「フッ……遅ぇんだよ」

 五人はタラップから飛び降りるとまるで敵からマグナアウルを守るように立ち塞がった。

「ごめん、待たせちゃった?」

「ああ、かなりな。お前らが本当の女神に見えるぜ」

 ミューズとデメテルに助けられて立ち上がったマグナアウルは違和感を覚えた。

「ん? なんかスーツのデザイン変ったか?」

 よく見れば胸部や手足のデザインが大きく変わっている。

「そう、バージョンアップしたんだ!」

「その名もC-SUIT.(バージョン)(ファイヴ)! 以前の私達とは違うんです!」

 プロジェクト・アウルハンドの成果は、この土壇場で実ったのである。

「そうか、それをこさえてて遅かったのか」

「ホーホー文句言わないの、今からウチらが一兆倍の働きして取り戻すから」

「だからしばらく休んでて」

「バカ言うな、俺も行くさ」

「もう大丈夫なの?」

「おかげさんでな、だいぶ元気が出た」

「そう、じゃあ……」

 クインテットの五人が突き出した拳に自分のものを重ねると、マグナアウルは彼女らと並び立った。

「お前達……よくも邪魔したな!」

「我々の勝利に王手だったというのに!」

「忌々しい女共だ!」

「運が無かっただけだろ、お前たち三人の姉貴の言う通りさ」

 マグナアウルに姉の言葉をそっくりそのまま返されたことに腹を立て、武器を握る手に力が籠る。

「何人来ようと関係無い! すでに貴様らの攻略法は出ている!」

 苛立ったクドゥリが手を翳してエネルギーを遮断しようとしたが、五人のエナジーストリームラインは点滅すらしない。

「ざんねーん、対策済みなんだなこれが」

「おっと、汚い手が使えなくなったみたいだな」

 眉根を寄せて怒りを露わにするクドゥリの前にパテウが躍り出て、地団駄を踏みながらあの馬鹿みたいな大声で怒鳴りつけた。

「ええい面倒だ! また再び叩き潰すだけ! 勝負だ‼」

 パテウの砲撃をマグナアウルとクインテットは跳躍して回避し、第二ラウンドが始まった。

「新しい武器、試すなら今!」

 ミューズがAR表示に従って空中で手を翳すと、ハルバード型の武器が転送され、それを空中で振り回して真下のガディへ斬りかかった。

「新しい武器(おもちゃ)を持ってきたようね……だが我々には勝てないぞ!」

「そう? これを見ても言える⁉」

 競り合っている刃からモーター音と共に火花が飛び散り、ガディが怯んだ隙を見逃さず、ミューズは刃を返してガディの大剣を弾き飛ばしてしまった。

「チェーンソー!」

「私達を侮らない事ね!」

 勿論新たな武器を得たのはミューズだけではない、ルナとアフロダイが同じく手を翳すと新しい武器が出現し、それぞれジェサムとザリスに向かって行く。

「くっ! はっ!」

 ザリスの鞭剣がアフロダイに振り下ろされる寸前に、持っていた棒の両端から二つの刃が現れ、ナギナタ状の武器となって鞭剣を弾いてザリスに斬りかかる。

「変な武器ですこと!」

「蛇腹剣使いには言われたくはありませんね!」

 ジェサムと相対するルナの方は、ジェサムの銃撃をいつもの太刀を弾いた後、左手に持ったナックル型ビームガン(ナックルブレイガン)で反撃する。

「あなたも飛び道具を使うようになったんですね」

「これをただの飛び道具と思ってもらっちゃ困る!」

 次の瞬間、ジェサムが反応できない速度でルナが迫り、とっさに回避するも脇腹に一撃喰らってしまう。

「くっ! 今のは……」

 背後のルナを見ると、左手で青く輝く刃を持っていた。

「これは銃にも刀にもなる。これが無敵の二刀流だ!」

 そしてパテウにはデメテルとイドゥンが付き、遠近両面から攻めていた。

「はっ!」

「こいつ! どこからこんなパワーを生み出した!」

「怒りに決まってるでしょっ!」

 大振りの一撃でパテウを吹き飛ばし、新しい武器を転送する。

「ボールハンマー! ドリル!」

 デメテルのナックルアームにボール型ハンマーとドリルが追加され、ハンマーのより強烈な打撃が体をへこませ、ドリルがそこを削り取っていく。

「俺の体が!」

「穴空いたって? じゃあもっと開けたげる!」

 イドゥンが両手を翳すと左右で異なる形状の銃器が出現し、左手の銃をパテウに向ける。

「バン!」

 紫電と共に実弾が射出され、削り取られたパテウの体を大きく抉り、間髪入れずイドゥンが右手のミサイルランチャーを叩き込んで吹き飛ばし、ミサイル弾がパテウの「内臓」に不具合を起こしたせいか上半身が大爆発してしまった。

「がああああっ! ぐぅっ!」

 過剰回復能力が発動して瞬時に回復したものの、内臓の不具合は相当堪えたらしく、腹を抑えて蹲ってしまった。

「こんなんじゃ終わらせない、あんたは私達の街に手を出して家族を危険に晒した……一万回復活したって私は殴り続けるからっ!」

 完全に旗色が変わった事を察したクドゥリは、目の前のマグナアウルを睨みつける。

「どうした、なんでそんな目をする? むしろお前にとって願ってもない好機だろ」

「どういう意味だ?」

「俺と一対一でやりたかったんだろ? 邪魔者は居なくなったんだし、思う存分やろうじゃないか。どうした、俺が怖いのか?」

「誰が貴様など!」

「それとも……ボスが怖いのか?」

 目を見開いたクドゥリを見て、図星を射止めたマグナアウルは(ヘルム)の中でニヤリと笑った。

「お前は俺を一人で仕留める自信がなかった、その上舐めてかかっていたクインテットが強くなってやってきた。何一つ目的を達成できなかったお前は何されるんだろうな」

 奥歯を噛み締めたクドゥリが腕のコンソールのスイッチを入れると、円盤が凄まじい速度で上昇し始めた。

「ククク……どうやらお前の言う通り、今回は私の運が無かったようだ。だがお前……いいやお前達はここで殺す!」

 急激に上から掛かるGに晒された全員は姿勢を落として辛うじて立ったままの姿勢を維持する。

「この船はある程度の高度に達すると自動的に落ちていく! マグナアウル! お前は逃げるかこれと心中するかの二択だ!」

「ふざけるな! お前らごと心中なんてゴメンだ! 今すぐ止めろ!」

「私らごと? ククククク……勘違いするなよ」

 再びコンソールのスイッチを入れると、三姉妹の姿が消えた。

「死ぬのはお前達六人だけだ」

「クドゥリ貴様ァッ!」

「さらばだ強き者よ、二度と会う事も無いだろう」

 跳躍して蹲るパテウを掴むとクドゥリも消え、後に残されたのはマグナアウルとクインテットの六人のみになってしまった。

「ねえ! 聞いてた⁉」

「こんなのが高高度から墜ちたら……もはや爆弾が炸裂するのと変わらない!」

「この船を……解体するとか?」

「もし解体した破片が真鳥市に降りかかる事になる……これもこれでマズいっしょ」

「じゃあ打つ手ナシ……って事ですか?」

 五人で力を合わせればこの船を吹き飛ばせるだろう、だがこの大きさの船の残骸が真鳥市の中心街に叩きつけられることになる。

「なあ、お前達。飛べるか?」

 上から掛かるGに耐えつつ、五人はマグナアウルの方へ向かう。

「飛行って事?」

「飛行まだは行かずともパラシュート無しのスカイダイビングは出来るか?」

「出来るけど高度に限界が……」

「ここは……だいたい中間圏の三十キロだ」

「もう無理、限界はせいぜい十五キロから二十キロぐらい」

「そうか……じゃあこいつが再び落ちるまで踏ん張ってられるか?」

「……何をするつもり?」

「いい作戦がある、お前らも俺も生き残り、こいつは跡形もなく消える」

「そんな上手く行く?」

「タイミングさえ合えばな。現在の高度をしっかり測っておけ」

 イドゥンがヘルメットに取り付けたスコープを倒し、遠方の景色から現在の高度を割り出した。

「共有した、今上空三十九キロ」

「宇宙ってどこから宇宙でしたっけ?」

「百キロだから、今の私達はギリギリ地球に近い」

「空気は大丈夫か?」

「一応このスーツは深海や宇宙空間でも二十時間生きられるよ」

「それは良かった、後は踏ん張れるかどうかだな」

 やがて少しづつ時間をかけてではあるが徐々に円盤は高度を上げていき、とうとう五十キロを超えたあたりで不安が広がっていった。

「こんな状況じゃなければ、この景色は楽しめたのにね」

「そうだね、空ってこんなに青かったんだ……」

「空も良いですけど、下を見るのも良いですよ」

 自然と都会的な街並みが織りなす独特な雰囲気を持つ街、真鳥市。足元に広がるこの街では様々な人々が息づいて生活している。

 その中には自分たちの家族や友人、そして大切な人が居て、まだ顔も知らない人々にもそんな人たちが居るのだ。

 それを決して奪わせてはならない、絶対に戦い、そして守り抜かなくてはならない。

「二度と俺から奪わせやしない……」

 マグナアウルがそう呟き、クインテットの五人は頷く者や、首を傾げるもの、黙って反芻する者など各々様々な反応を示した。

「もう七十キロ……お?」

 一瞬だが円盤の上昇が完全に停止し、徐々に高度が落ち始める。

「来た!」

「ハンドマグ! 急いで!」

 クインテットの五人は掌と膝に強烈な磁力を発生させてフィールドの地面に張り付き、マグナアウルはマフラーを伸ばして柱に結びつけると念力で自分の体を縛りつけた。

「くっ……うぅ……」

 あっという間に落下速度が上昇速度より早くなり、円盤はごうごうと音を立てて大気を押しのけて真鳥市の中心街目掛けて墜ちていく。

「五十五……五十!」

 下がっていく高度に比例するように緊張感が増していき、急激に変わった気圧により耳に錐を刺すような痛みが走る。

「どんどん速くなってる! 気を付けて!」

 やがて上空三十キロ地点を過ぎ、もうすぐダイブ可能領域へ突入するとあってか、六人の緊張感は最高潮に達した。

「二十過ぎた!」

「行け! 飛び降りろ!」

 スーツの手足から磁力が失せて五人は一斉に宙を舞い、背中と足からのジェット噴射で円盤よりも早く地上へと落下していく。

「ちょっと! マグナアウルは⁉」

 少し遅れてマグナアウルは念力での戒めを解き、マントを靡かせてクインテットより早く地上へ向かい、ある程度行った所でマントを広げて振り返った。

「トト、使うぞ!」

『許可します』

「キングフィッシャー!」

 マグナアウルが生成した武器は、何とも奇妙な武器であった。

 最も形状が近いものはクロスボウだが、矢と弩部分が一体になったブレード状になっており、ポンプアクションの要領で弩を引くと、よりクロスボウに近い見た目になった。

「ほとんど賭けだが……うまく行ってくれよ」

 マグナアウルは自分と円盤、そして世界を俯瞰的な視線で見るイメージを構築し、ブレード部分が虹色に輝き始める。

「行けぇぇぇえええッ!」

 引き金を引くと虹色の軌跡を描きながらブレードが射出されて円盤に深く突き刺さると同時に、そこを中心として青い闇が広がった。

「うっ……あれって!」

「あの時と同じ!」

 青い闇の中から次々と無数の光が生まれては舞い踊り、さながら小さな宇宙がここに生まれたかのようであった。

「きれい……」

「確かに……ありゃ宇宙だわ」

「何が起こってるんでしょう?」

 やがて発生した小さな宇宙は円盤を全て飲み込むと徐々に収縮して完全に消え失せ、マグナアウルの言う通り円盤は跡形もなく消えてしまった。

「フゥ、上手く……行ったか」

 安堵のせいかマグナアウルは脱力してしまい、ブレードボウの射出装置を手放しながら落下速度がより早くなっていく。

「危ない!」

「力の使い過ぎだよアレ」

「みんなで支えるよ!」

 ミューズとデメテルがマグナアウルの肩を取ってジェット噴射で勢いを殺しながら地上へ向かい、ついに六人全員が無事に地上へと生還することが出来た。

「ふっ! ただいま地球」

「愛しき麗しの大地ってカンジね」

「良かったです、一時はどうなる事かと」

 二人に支えられたマグナアウルはなんとか立ち上がって大きく伸びをして言った。

「借りが出来たな。大きなのがな」

「ううん、違うよ」

「私達も何回も助けてもらったし、この程度じゃ返せたとは思わないよ」

「そうか、ともかくこの街を何とか守ることが出来た。俺一人じゃ無理だったろうな」

「でも連中に大手を振って侵略する機会を与えてしまった……これは大きな損失だね」

「そうだな、だが悪い事ばかりじゃない」

 マグナアウルは振り返り、五人へ力強くこう告げた。

「俺たちが居る、それをこの街の皆に知ってもらえたじゃないか」

 夏休み最後の日。日常は崩れ去り、セカイは大きく変わり出してしまった。

 だが今日の戦いで六人の少年少女が「真鳥市に希望あり」とその身を以て示したのだ。

 変わった世界でもマグナアウルとクインテットの戦いは続く。

 ジャガックを打倒する、その日まで。


夏休み編 完


「あー、もしもし。ああ、知ってるよ。真鳥市だろ? まさか攻めてくるとはね……「洗濯機」を回すのは連中が全員くたばってからでいいだろう。やれるさ、あの六人ならやれる……ん? おいおい、そんな下らないマネ絶対するな。彼が心を開かなくなる、彼が彼自身のタイミングでこちらに正体を明かすまで待っていろ。いいか、僕からの厳命だ。絶対にマグナアウルの正体を探り当てようとするな。部下にもきつく言っておいてくれ……おう、うん。わかった、いろいろ大変だろうが頑張ってくれ」

 男は電話を切り、別の所へ電話をかける。

「おお、今回は出たな。もう知ってるか、さては〝見た〟な。これで地球は二百と三十二回目の大規模侵略の危機に晒された事になる……どうでも良くはないだろう? お前は京助君の魂に巣食うアレの事しか考えてないんだな……そうだな、認める。アレは僕も危惧している、京助君はお前と同じ属性だ、だから万一アレに食われたら脅威だ。そんな事になれば……万路と美菜がやってきた事は全部パァだ……彼は強い、だがもうガタガタなんだ。まあ今の所大丈夫だ、きっとうまく乗り越えられる。ああ、まかせろ……ていうかたまにはお前が地球に来い! 近いうち? あの子も会いたがってるだろうしな。じゃあな、今度そっちに行くよ。おう、それじゃ」

 電話を切ったその男――和平零は髪をかき上げながら椅子に深く座り込んだ。

使者(メッセンジャー)も楽じゃないな……さてと」

 つきっぱなしのテレビから、今日の侵攻の生々しい爪跡を残す真鳥市の映像が流れている。

「君は一人じゃないんだぞ、京助君(マグナアウル)


To Be Continued.

今まで秘密裏に戦ってきた分、自分の姿を晒すのは勇気がいる事です。

それでもなおマグナアウルはたった一人で愛する人が居るこの街を守るべく戦うのです。

そして彼の勇気に応えるべく、クインテットも強化形態を引っ提げて今まで助けられた分のお返しと言わんばかりに駆けつけました。

壊れた日常を代償にして、新しいものが生まれた。

そんな形で夏休み編は幕引きとなります。

再来週投稿の次回からは第三章の激闘編が始まります、まだまだ続くぞダブルサイド。

感想コメント、Twitter(現X)、お友達へのオススメ等よろしくお願いします。

ではまた再来週、激闘編でお会いしましょう。

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