表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春Double Side  作者: 南乃太陽
夏休み編
22/37

ここで何が起こってる?

京助は慧習メルクリウスのメンバーで集合し、男友達による思い出作りをすることに。

美食に映画やゲーセンと楽しんでいた所、クラスメートの愛優とばったり会い、一緒にカフェに行く事に。

そこで待ち合わせていた愛優の兄はまさかの人物だった!

 貨物船撃墜作戦が終わって夜十時を回った頃、夢咲家の自室にて桃弥は意を決してある人物に電話を掛けた。

「出るかな?」

『はい、もしもし』

 五コール目で相手が出た事で小さく笑うと、桃弥はフレンドリーな声色で切り出した。

「コーちゃん! 久しぶり俺だよ!」

『え? まさか……夢咲桃弥か?』

「ザッツライト! モモちゃんですよ~」

『マジか! 久しぶりだなモモ! 元気そうだな、いつも見てるよ!』

 このコーちゃんという人物は桃弥と親しい間柄らしい。

「シェケラ!」

『今の何語?』

「アラビア語」

『相変わらずすごい記憶力してるね』

「言語って楽しいよ?」

『俺には真似できそうにないな、んふふ』

「ところで俺のチャンネルどう?」

『さっきも言ったけどいつも見てるよ。当然登録もしてるし、てかもうすぐ百万行きそうだったよな?』

「そうそう、今九十八万人」

『すげーなぁ、スパチャいっぱい来てたもんね。旦那はん稼いでまんなぁ』

「コーちゃんも稼いでるんじゃない?」

『いやぁ、俺の方は微々たるもんだよ。ちょっと生活の足しになるぐらい』

「まあ俺の方はメンシプもやってるから、今はそれで生活できてるかな、メンシプ入ってる?」

『いや入ってない』

「入れよぉ!」

『お~なんだ? 親友を金蔓にしようって?』

「人聞きが悪いこと言うなってぇ」

 しばらくの間しょうもない事で笑い、昔の話やお互いの近況やオカルト的な話題を話し合ったりして、夢中で時間が過ぎていく。

「そうだ、妹さん元気?」

『もう元気元気よ、学校であった事とか面白かった事ずーっと喋ってんの。あと自分の部屋にいるとき以外すっごいついてくる』

「羨ましいなそれ、林檎にされてみたいわ」

『そっか、モモの妹ツンデレなんだっけ?』

「いやでもあれはあれで良いんだよ。まあ我らシスコン同盟としてだね」

『俺はシスコンではない。せめてブラザー同盟と言え』

「妹の事嫌いじゃないならそれはシスコンだ」

『極論かつ暴論、暴極論(ぼうごくろん)だそれは』

「じゃあイヤなの?」

『そんなイヤな訳ねーだろ? 家族仲が良いのはありがたい事だよ』

「じゃあいいじゃん」

『じゃあって……てか、どうしたんだ急に? こんな話する為にかけて来たの? まあ別に俺は良いけどさ』

 桃弥はしばらく笑ったまま回転椅子に揺られていたが、意を決して話し出すことにした。

「鳥人間に会った」

 電話の向こうでも分かるほど、短く静かな驚愕の声にならない声がする。

『本当か?』

「内緒にしてくれと頼まれたけど、コーちゃんには言っとかないとかなって思ってさ」

『どんな奴だった?』

「俺のファンだった」

『はぁ⁉』

 この「はぁ⁉」には「ふざけるな」と「担いでいるのか?」という意味が含まれている事を桃弥は理解したが、事実そうなのだから仕方ない。

「いやいやマジなんだって。握手してくれって言われたし、俺の地元知ってたから確実に配信も見てる」

『……えーっとじゃあ、帰省してるのか⁉ いやいい、それは後で聞く。じゃあ、えっと……その……』

「ここからは俺の推理だが、彼は普段は人間として日常生活を送っているんじゃないか?」

『そうか……超常世界に住まうナニカじゃなくて、彼もまた一人の……待てよ、彼と話が出来たのか⁉』

「あ、ああ……出来たけど」

『じゃあ、あの時俺がモモに話した質問の事……』

「慌てるねィ、ちゃーんと覚えてましたよ」

 電話の向こうで相手が立ち上がった音がしたのを聞き、桃弥は思わず笑みを零した。

『彼は……なんと?』

「事態は結構深刻らしい。今起こっているのは〝戦争〟なんだと」

『戦争……』

「俺達地球人類と、宇宙の犯罪組織との戦いらしい」

『宇宙の犯罪組織と……じゃあ俺が見たあれって……』

「そうだな、俺を拉致った連中と同じだよ」

『そうか……え? 拉致られたの⁉ ああ、だから鳥人間と会ったのか。じゃあ忍者軍団とは会ったかい?』

「これ以上喋ると明日か明後日あたりに俺が桐野川の土左衛門(水死体)として見つかるかもしれんが、それでも話すか?」

 さすがに親友を殺すわけにはいかず引き下がるしかなかった。

『分かった』

「物わかりが良くて助かるよコーちゃん、ホントは俺も全部話したいけど無理なんだ。悪く思わないでくれ」

『いいんだ、少なくともここで何が起こってるかは知れた。それだけで大収穫さ』

「この事書くの?」

『いや、書かない。書いたって荒唐無稽で誰も信じられないだろうからな』

「じゃあまだ続行?」

『そうだな、何のためになるか分からないけど、誰も知らない事実を多くの人に伝えたい』

「そうか、頑張れよ」

『そっちこそももたろー。チャンネル百万行くの待ってるからな! 金盾見せてくれよな!』

「おう、俺も『マトリの謎』楽しみにしてっから!」

 コーちゃんの本名は木原宏太、ネット上では同じ名前を使い『マトリの謎』の管理人をやっている。


 夏休みも終わりが近い、高校生としては遊んでいられるのはここまでだろうという事で、慧習メルクリウスのメンバーで集まってどこかで遊び倒そうという提案がされ、翌日十時に真鳥駅前にいつメンが集合する事になった。

「誰が遅れるか見物だなぁ」

 相変わらず一番乗りの京助は日陰のベンチに座って腕を組み、悪魔的な笑みを浮かべる。

 びりっけつにどんな罰ゲームをやらせようか考えていると、圭斗がやって来て手を伸ばしてきた。

「うぃー、久しぶり」

「やっと休みが取れたよ」

 圭斗は京助とグータッチからの握手をして隣に座り、水筒の氷水に口を付ける。

「熱いねぇ」

「あれ日光って呼んだらダメだぜ。殺人光線だわ」

「俺達は体育館だから良いけど、野球部とかテニス部とかヤバいと思うよ」

「なぁ~、死者出てもおかしくねぇよ」

「実際毎年結構な割合で救急搬送されてるらしいからね、俺も気を付けなきゃ」

「だな、多分これ九月になってもしばらく続くぜ」

「やだなぁ、秋の大会に響くよ」

 運動部の圭斗にとっては、熱中症は身近な話である。

「京ちゃんはいいよね。ヨーロッパの避暑地でバカンスでしょ?」

「んなバカな」

「別荘十軒をそれぞれ別の国に持ってるもんね」

「な訳ねーだろ、まあ加須多穂のリゾートには行ったよ」

 圭斗が驚いたような顔をしてニヤリと笑って脇腹を狙って小突こうとするも、京助はそれを悉く回避する。

「直江さんと行ったの?」

「まあね」

「いや~、彼女と二人っきりでリゾートですか」

「ああいや、奏音の友達とその家族と何人かで行ったんだよね。ひぃふぅみぃ……結局十人で行ったんだ」

「なんだ、まあでも楽しかったろうな」

「ありゃ最高の夏だった。水着の美少女がたくさん」

「幹ちゃんあたりが食いつきそう」

「確かに言えて……言えて……あ」

「あら……」

 空から降り注ぐ灼熱の殺人光線とは別に、こちらに向かって目で殺人光線を放つ者がいる。

「多分ヒートビジョンだよあれ……」

「あいつクリプトン人だったのか……」

 地面が割れる程の足音を響かせながら、幹人が二人の元へやって来た。

「千道京助君や……」

「なんだい幹人」

「その話詳しく聞かせろ。写真付きで」

「え? イヤだけど」

「なんだとぉ! 貴様‼ いつもいつも女子に囲まれやがって!」

「いや話はするけど写真は見せないぞ。だって奏音の水着とか誰にも見せたくないし」

「京ちゃんたまに独占欲エグイ所見せるよね」

 幹人は泣きながら地面をゴロゴロと転がり、ちくしょうちくしょうと譫言のようにつぶやくのだった。

「ああもう揃ってる……うわっ! 幹人が変な事になってる!」

「気にすんな、いつもの発作だから」

「なんで俺には出会いが無いんだぁ……」

「恋愛病か」

「恋愛羨ましい病だな」

「不治の病ですねこれは」

「ヤダよ恋したくてスーパーマンになるの」

 京助、圭斗、弘毅の脳裡に胸にMと書かれた白と赤のスーツを着た幹人が空を飛んでいる様子が浮かび、思わず笑い出してしまう。

「クソォ……みんなして俺をコケにしやがってぇ」

「まあまあ昼飯奢ってやるからさ……弘毅が」

「ハァ⁉ 寝耳に鉄砲水じゃわ! なんで俺なんだよ!」

「だって一番最後に来たじゃねーか」

「あぁ? ああぁ……あお……確かにそれもそうか」

「このパターンで納得するのかよ」

 時計を見るともう十時十分になっていた。予約していた映画に遅れてしまうと、四人は急いで真鳥駅の駅ビルのエレベーターに駆け込むのだった。

「後で八百円俺にくれな」

「一人八百円?」

「そう、俺は天才だからクーポンで抑えておきましたので」

「お前マジで有能」

「ポップコーンは各自でどうぞ」

「四人だと映画中回し食いしないといけなくなるしな」

「それだと気が散るもんな」

 十四階に到着し、京助は券売機へ、残り三人はポップコーンとジュースを買いに向かう。

「お、まだ買ってんな。すみませーん!」

 まだ注文している三人の間に滑り込み、京助は氷抜きのオレンジジュースとキャラメル味のポップコーンを頼んだ。

「後は上映時間まで待つだけだね」

「いや、パンフ買わないと。誰か買うか?」

「じゃあ俺買うわ」

「圭斗と幹人は?」

「いい」

「買わないわ」

「おけおけ、後で出せよ」

 パンフレットを二冊買ってようやく一休み出来た。

「一応今のうち八百円渡しとくわ」

「あ~そうだった、弘毅はパンフ代合わせて二千円な」

「ちょうど小銭無かったから逆に助かるわ」

 全員から映画代を受け取って小銭で重くなった財布を仕舞う。

「それにしてもホラー映画を映画館で見るなんて初めてな気がする……」

「これ結構怖いらしいよ」

「やめろよそういうこと言うの!」

「結局の所どうなの、京助ってもう見たんだよな?」

「ああ、今日で四回目」

「四⁉」

 これまた不吉な数字に幹人は自分の体に抱き着いて丸くなって小さくなる。

「どうなの? 怖さ的には」

「うーんまあそうだな……十段階中五ぐらい」

「こいつ心臓に剛毛生えてるから怖さのバロメーターが参考にならねぇんだよ!」

 言われてみれば半年前に京助の家に当時話題になっていたホラーゲームをやりに遊びに行った時、皆が叫んだりビビる中、京助だけ涼しい顔をしていた事を思い出した。

「じゃあさ、これ相当怖いんじゃね?」

「確かに……俺も怖くなってきたかも……」

「なんだかさっきから寒気がして」

 その時、背中を丸める幹人の耳と首筋に京助はニヤリと笑って口から冷たい空気を吹き付けた。

「ぎぃやあああああああああああっ‼」

「どわあっ!」

「わあああああっ!」

 連鎖反応で飛び上がって驚いた三人を見て、京助は座っているソファーをバンバンと叩きながら悪魔的な大笑いを上げた。

「イヒヒヒヒヒヒ! ウハハハハハハ! ウヒーヒヒヒ! ヒーッ! ハハハハ!」

「京助テンメェェェェエエエエエエエーッ! やっていい事と悪い事があんだろうがァッ‼」

 幹人が反射的に半泣きになりながら京助のアロハシャツの襟首を掴んで締め上げる。

「ヒーッ! ウハハハ……フゥ! あー面白い……最高だぜ」

「何が最高じゃ! ぶっ殺すぞ!」

 半泣きの幹人と涙を流しながら笑い続ける京助を見て、弘毅は頭を抱えてぼそりと呟いた。

「なんでこんなビビリなのにホラー映画見に行こうとしたの?」

「だってよう……これも……お前らとの思い出だと思って」

 それを聞いた他三人はニヤリと笑って顔を見合わせた。

「そんな風に思ってたの?」

「わざわざ無理してかわいい奴」

「かっ! かわいくねぇ! 揶揄うな!」

「ごめんね幹ちゃん意地悪して。ちゅーしてあげる」

「やめろ! 俺のまだ誰にも触れさせてない天使のような唇が汚れる!」

「何だ汚れるとは、こんな美少年を前にして何を言う」

「俺はゲイじゃない……」

 騒いでいたら時間となった、四人はポップコーンとドリンクが乗ったお盆を持って上映館に向かう。

「席順どうする?」

「誰か隣に居てくれ……出来れば京助は外してくれ」

「ひでーなぁ」

「お前絶対イタズラするだろ!」

「見てる間はしねぇよ、今まで俺がホラー映画を見るとき何か仕掛けた事あったか?」

「う、うーん?」

 そう言われて思い出してみればそんな事をやったことは無い、偶にちらりと京助の方を見ると、大抵の場合真顔かつ真剣な様子で画面に釘付けになっている。

「確かに」

「大丈夫大丈夫、手ェ握っててやっから」

「やめろ気持ち悪い! お前彼女持ちだろうが!」

「はいはい、遅れるぞ」

 四人は八番スクリーンに入り、各々様々な思いを秘めながら席に着くのだった。


 約九十分後、少し疲れた様子の弘毅と、強張った顔の圭斗、そして笑顔の京助に魂の抜けた様子の幹人が引きずられながら八番スクリーンから現れた。

「やー、怖かった」

「心が休まる瞬間が無い……てか京ちゃんはなんで笑ってるの? 上映中頷いてたよね?」

「いや~三回見て色々考察してみたんだけどな、今回見てて新しい気付きがあったんだよ。近年稀に見る傑作Jホラーだぜ、これDVD待ちだな」

「そんなにか、ていうかさ……」

「――――」

 幹人は真っ青な顔で白目を向き、口角に泡を溜めながらさっき見ていたホラー映画内で登場した架空の経文を譫言のように繰り返している。

「これ取り憑かれたべや」

「京助ってお祓いできる?」

「俺んち行けば出来るかも、まあそのうち元に戻るだろ」

 脱力した幹人を引きずってソファーに座らせてしばらく待つと、三十分経ってようやく正気を取り戻した。

「あああぁ……二度と映画館でホラー映画なんて見ねぇ」

「まあそう言わずにぃ、十月に面白そうなのが上映されるんだよ」

「おもっくそテスト期間だね」

「大丈夫大丈夫」

「良いよな頭が良くて彼女がいて金持ちのお前は」

「そう僻むけどお前な、滅茶苦茶美人でお淑やかなお姉ちゃんが居るだろうが」

 幹人の姉である佐川藤子(ふじこ)は大変な美女として知られ、慧習館OGの大学一年生である。

 一年生の時に在学期間が被っており、口さがない先輩からあの姉からどうやってこの弟が生まれるのかとよく言われたものだ。

「彼女と姉はちげーだろうがよ!」

「まあ天は二物を与えずと言うし」

「お前ら目を覚ませ! 目の前に二物どころか三物与えられてる奴が居るぞ!」

「いやでもさ幹ちゃん、実は藤子先輩と幹ちゃんは実は血がつながってなくてっていう神展開が……」

 圭斗の発言に幹人は目を見開き、顎に手を当てて目を瞑って前のめりになりながら何かを考えだし、二分経ってから絞り出すように言った。

「……ダメだ。やっぱり姉ちゃんは俺の姉ちゃんであってほしい」

「めちゃくちゃ悩んでやがった」

「汗かいてやんの」

「でもいいのか? ふぅ~じこちゃ~んはいずれ彼氏作って……」

「ルパンやめろ? まあいずれ姉ちゃんは結婚するだろうけど、その幸せを祝福するのが弟というものさ」

「お前良い奴だな」

「そしてかわいい」

「良い奴ではあるけどかわいくねぇし」

 頬を掻きながら照れている幹人を見ていると、京助はなんだか友人として一言言ってやりたくなってくる。

「まあでも幹人は顔は悪くねぇからそのうち出来るよ。藤子先輩見習ってお淑やかになれば周りの皆も見直すと思うぜ」

「なぁ、薄々思ってたんだけどさ」

「おうどうした弘毅」

 弘毅は言おうか言うまいか迷っていたが、意を決して口を開いた。

「幹人ってさ、藤子先輩のせいで理想高くなってる説ない?」

 それを聞いた途端京助と圭斗は口を開いて頭を抱えて首を振る。

「あーあ、弘ちゃんそれはダメだよ」

「言って良い事と悪い事があるぞ」

「え、俺タブーに触れた?」

「ごりごりタブーだよ。増田先生の独身歴聞くのと同じぐらいタブー」


 慧習館高校職員室にて。

「……へぇっくしゅ! うぅ……なんだろ、夏風邪かな?」

 業務中の京助達の担任教師である阿澄が、自分以外誰も居ない職員室で大きなくしゃみを響かせる。

「もしかして誰かに噂されたか? フフ、そんな事ないよな」

 自分のデスクに戻って錠剤タイプの葛根湯を飲み、再び仕事に戻るのであった。


 ようやく幹人が歩ける程度に回復したので、二階上にあるレストラン街に向かう事にした。

「俺ァ嫌だよ……高いの幹人に奢らないとなんだし……」

「なんか朝方にそういう約束したっけな」

「いいよもう、自分で出すからそれぐらい」

 四人で地図の方へ向かい、何を食べるか話し合う。

「ここのホルモン美味いらしいよ」

「あ~、そこな」

「ん? どうした弘毅」

「一週間前にファザーに連れてってもらった」

「あ、じゃあやめとく?」

「そうだな、助かるわ」

「何喰いたい?」

「魚って気分でもないし……うーん、おお! ここはどう?」

 圭斗が指した所は大阪に本店があるという串カツの店。

「串カツかぁ、いいかもな!」

「色々食べれて楽しいかもね」

「行こうぜ! 善は急げだ!」

「二度漬けすんなよぉ~」

 今の四人の胃はもはやブラックホール、美味を求めての新規開拓に少年たちは心を躍らせて向かうのであった。


「いや~、圭斗マジでナイスプレーだわ」

 牛タン串を頬張りながら、京助は満面の笑みで言う。

「大当たりだぜこの店」

「でしょ?」

 幹人がやたら伸びるチーズと格闘しつつアスパラを咀嚼し、嚥下しながら持っている串を指差す。

「これ美味いぜ! チーズアスパラ豚巻き! 絶対食った方がいい!」

「マジで?」

「この後あご出汁醤油唐揚げと大葉巻きも来るんだからな、ちゃんと考えて注文しろよ?」

 京助の忠告もどこ吹く風と、皆大量に頼んでは全て胃の中に消えていく。

「ウィンナーが魚肉じゃない。本当に素晴らしい事だぜこれは」

「大葉巻き本当に美味いね! ニンニク串も美味い!」

「また来ようぜ……卵美味!」

「いつか奏音と行こう。マジでうめぇ、ご飯千杯行ける」

「これ食ってご飯千杯?」

「んあ、ヨユー」

 皆に忠告する割には、なんだかんだ一番食べるのは京助なのであった。


 場所は移って同じ駅ビル内のゲームセンター。京助はゲームセンターの喧騒が苦手であるため外で待っていようとしたが、どうしてもと言われてついて行くことに。

「長い間居る訳じゃねぇから大丈夫だって」

「なら良いんだけど、なにすんだ?」

「お前が好きそうなやつ」

「そんなのあるのか?」

「じゃーん!」

 幹人が指したものは、パンチングマシンだった。

「まあ確かに大好きだけどな……」

 一つ懸念点がある、それは壊してしまう可能性があるという事。

「これ素手でやったらダメ?」

「あ~多分怒られるよ」

「あそう、おっけ」

 壊さずなおかつ高得点を文字通り叩き出す為のシミュレートをしながら、その場で軽く跳躍してストレッチを始めた京助を三人が囃し立て、コインを入れて人数を選択してゲームが始まった。

「じゃあ一番気合入ってそうな京助選手はラストな」

「初挑戦の人間のハードル上げるかね普通」

 京助はそうボヤきつつ腕を交差させて肩の筋肉を伸ばし、第一陣の弘毅の挑戦を後ろで見守る。

「いけー! 水球部の意地見せつけろ~!」

「ウチの学校に水球部はねぇ! オラッ!」

 気合と共に殴りつけた結果、平均中の平均程度の値になり、眉を顰めて首を傾げて納得行ってない様子を見せて圭斗にグローブを渡す。

「これで二百行ったら秋の大会優勝」

「お、大きく出たな」

「ッフ! シャアッ!」

 本人としては満足いくパンチだったようだが、惜しくもスコアは百九十七。

「えぇ? なんで? 壊れてるんじゃね?」

「まあでも平均より高めじゃねーか。次俺か、俺の力見せたるわ」

 圭斗からグローブを受け取り、幹人は腕をぐるぐると回してミットに拳を突きつけた。

「行け~! 美術部主将!」

「うるせー! 何だ美術部主将って!」

 小馬鹿にしているとも取れる激励に噛みつきつつ、有名格闘家も真似していた某格闘マンガに登場する構えを取り、幹人は大きく息を吐いて再び息を肺に取り込む。

「ホワアアアアアアッ! タァッ!」

 ブルース・リー顔負けの怪鳥音と共にパンチが放たれたが、悲しいかなスコアは平均以下。

「お前その感じでこの数値は恥ずかしいよ」

「やっぱ幹ちゃんかわいい担当で売りだしたが良いんじゃ?」

「うるさいうるさいうるさい!」

 顔を赤らめて半泣きになる幹人の肩に京助が手を置いて指を左右に振る。

「どけひよっこ共、俺が本物の突き(パンチ)ってのを見せてやる」

「お、すげえ自信」

 京助はグローブを受け取ってミットに立ち位置を調整し、深呼吸して目を瞑る。

 そして京助が目を開けた瞬間、普通ならしないような音が鳴り、一瞬だが三人はゲームセンター全てが静寂に包まれたかのような感覚に陥った。

「何だ……今の」

「踏み込みと腰と捻り、それがキーワード」

 脅威の三百越えのスコアを叩き出して満面の笑みでピースをする京助を見て、三人は口をぽかんと開けて呆然とするしかない。

「もう一生京助には……京助様には逆らえないな」

「え? いや、え?」

「なんなりと我ら忠臣めにお申し付けくださいませ京助様」

「じゃあ焼きそばパン買って……いや違う!」

「お暑いですからね京様、冷たいお水はいかがでしょうか?」

「いやもういいってそのノリ!」

 その後京助が叩き出したスコアを誰も超えることが出来ず、真鳥市内にとんでもなく強い奴が居るという噂が立つのはまた別のお話。


 ゲーセンを出てこの後何をするか考えていると、弘毅が何かに気付いたように立ち止った。

「どうした弘毅」

「あれ」

 弘毅が指した先に、スマホをいじって退屈そうにしている少女が居る。

「ん? あれって……」

「あ! そうじゃん!」

「木原ちゃんじゃん」

 木原愛優(あゆ)、京助や奏音のクラスメートであり、またの名を慧習館のゴシップガール。二年生どころか普通科を飛び出し、慧習館高等学校の全てのゴシップは何故か全て彼女に集まってくる。

 それでいて皆が面白いと思えるような、誰も悲しまないニュースをいち早く拡散する、そんな女子である。

「うぉーい! 木原ちゃーん!」

 京助が声をかけると愛優はすぐにこちらを向き、満面の笑みを咲かせて両腕を振りながらこちらに走って来た。

「みんな~! 超久しぶり~! 慧習メルクリウス勢揃い! ナニナニ⁉ ライブの練習?」

「いや~、男四人でむさくるしく遊び回ってるだけ」

「そうなんだ! 何してたん?」

「飯食ったりゲーセン行ったり、んでホラー映画見たりしたな」

「ホラー映画……もしかしてこれ?」

 愛優が今日四人で見たホラー映画のポスターに描かれた女優がしている印象的なポーズのマネをして見せる。

「そうそう! それ! 朝の上映で見たんだ」

「マジ⁉ あたし夕方から見に行くんだ! どうだった……あ! 言わないで! ネタバレはダメ! いやでもうーん……じゃあ……どれぐらい怖いかだけ教えて!」

「あぁーそうだな十段階で……」

 言いかけた京助を幹人が押しのけて胸を張ってから言った。

「ぜーんぜん怖くない! 俺なんか欠伸してたわ!」

 京助と弘毅と圭斗は眉を顰めて口を歪め、何とも言えない目で幹人を見る。

「えぇ~ホントに?」

「もう笑ってたわ」

「ただし泣きながらだけどね」

「オイ! 言うな!」

「見てよ木原この痣! 隣に座ってたこいつに掴まれたんだよ。痛いったらないよ」

「みきひー相当ビビってたんだ~」

「やめろやめろ!」

「最終的にはこいつ俺にしがみつきながら気絶してやがんの。こーんな顔して」

 京助は白目を向いて舌を出して変顔をして見せ、幹人に胸倉を掴まれて揺らされる。

「キャハハ! すっごい変!」

「こーんなね、こーんな」

「そんな顔してねぇ! ……してねぇよ……してねぇよな?」

「まじでこーんな顔だったよ。こーんな」

 京助は〝こーんな〟と言う度に変顔をし、それを見て愛優はころころと笑い出した。

「そういや木原ちゃんは一人で見に行くの?」

「んーん、あたしのお兄ちゃんと」

「そうなんだ、そういやユメリンゴが木原ちゃんに兄ちゃん居るって言ってたっけ」

「あー、そうだ! 思い出したんだけど、林檎ちゃんにお兄ちゃん居るって知ってた?」

 幹人と弘毅と圭斗がまるで雷に打たれたかのようなショックを受けるが、京助だけは頬を掻いて苦笑いを浮かべる。

「ああ、あのアクが強い人ね」

 今度は四人の視線が一気に京助に注がれた。

「知ってたの⁉」

「ああ、知ってるっちゅうか、会った事ある」

 今度は愛優も雷に打たれたかのようなショックを受けて、思わず京助ににじり寄った。

「どんな人だった⁉」

「眼鏡かけてて、多分頭がいいと思うんだけど……ちょっとまずみんな想像してくれ、目瞑って」

 皆が目を瞑ったのを確かめてから京助は口を開く。

「まず夢咲林檎を思い浮かべてください」

「うんうん」

「眼鏡をかけて縦に引き伸ばしてください」

「うん? うんうん」

「性格をほぼそのままでアクティブな感じにしてください」

「うわぁ……」

「それにシスコンを加えたら夢咲桃弥という人間になります」

「アク強っ!」

 四人全員反射的にそう叫んでしまった。

「すげー人だったよ。奏音と一緒にユメリンゴの家に行ったんだけど、俺が彼氏と勘違いされてさぁ、覚悟しろって殴りかかられたよ」

「結構アグレッシブな兄貴だな」

「え~大丈夫だったの?」

「ああ全然、腕掴んで投げたから」

「おお、それで?」

「蹴って来たからひっくり返して、それでも掴みかかって来たから空中殺法ぶちかまして関節極めた」

「これあながち嘘とも言えんな」

「キャハハ! 喧嘩売る相手間違えたって感じ!」

「まあ二重の意味でそうだよねこの場合」

 しばらく五人で話していると、唐突に思い出したかのように愛優が手を打つ。

「ね、せっかくだからさ、一緒にどっか行かない?」

「え、待ち合わせしてるんでしょ?」

「うーん、ちょっと遅れるって言ってたから、どっか食べに行かない? おやつ時だし丁度良いと思うよ」

 

 四人は愛優に押されて駅前二階の陸橋にある様々なパフェが売っている喫茶店に入った。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「六人です! 今五人ですけど、後から一人……」

「かしこまりました、ではこちらに」

 丸いテーブルに案内され、五人は何故か二冊しかないメニュー表を囲って見始めた。

「ああそうだ、お兄にここ居るって連絡しないと」

 愛優がメッセージアプリで兄に連絡を入れ、隣に居るどきどきしている様子の幹人に気付かず体を寄せてきてメニューを見る。

「なんだこれ、万単位の値段のパフェだ」

「これどうやって食うの?」

「見ろよこれ、五万だってよ。信じられねぇ」

「ああ、多分アレだよな」

 弘毅が指さした先には三人がかりでやっと持ち上げられそうな、スポーツのワールドカップの優勝杯にフルーツとクリームと甘菓子をちりばめたかのような、もはやパフェと呼んでいいかすら怪しい食べ物の食品サンプルがあった。

「ああ、こんなにデカいのか」

「そりゃ五万もするわ」

「え、なになに? あれ食べたいの?」

 愛優が笑いながら聞いてきたが、京助弘毅圭斗の三人は苦笑いで首を傾けた。

「今日は無理だよ、前もって予約しないといけないみたいだから」

「あ~そうなんだ」

「てかここに小さく書いてあるわ『これらのメニューは一週間前にご予約を頂いております』って」

「完全にパーティー向きだな」

「京君これ一人で食べれる?」

「……多分……ギリ行ける」

 ギリでも行けるのかと幹人と弘毅と圭斗は開いた口が塞がらず、愛優は口元を抑えて笑い出す。

「まあいいや、お店のメーワクになるからちゃんと頼も」

 五人はメニューのページを捲り、いろいろ言い合った末に注文する商品を決めた。

「圭斗パフェじゃないんかい」

 他の皆がパフェを頼む中、圭斗だけがベーコンレタスサンドを頼んでいた。

「いや~、ベーコンが厚そうでおいしそうだったからつい、それにあんまり甘いものって気分じゃなかったから」

「ホントにベーコン好きだよな」

「そーなの? けーちゃんってベーコン好き?」

「マジでベーコンに目がないんだ。毎食食ってるんじゃねーかってぐらい」

「遠征の時の朝食ビュッフェでベーコンめっちゃよそって先輩に怒られたんだっけ?」

「あったねぇそんな事も」

「まとキューの向かいの……」

「洋食屋・さざめき?」

「知ってる⁉」

「私そこの常連ですよ。俺のベーコン好きはそこから始まってるからね」

「ああ、あそこか。確かにあそこのベーコンエッグバーガー美味いよな」

「へぇなんてところ? さざめき?」

「そうそう、今度行ってみな。飛ぶぜ」

 しばらくして幹人と圭斗の注文したものが届き、残りの三人が来るのを待っていると愛優のスマホが鳴る。

「あ、お兄がもうすぐ来るみたい」

「木原ちゃん兄ってどんな人なんだろうな」

「ちょっと想像つかねぇな」

 幹人の脳裡に巨大な鉛筆が複数本現れ、それらが日焼けした金髪でゴールドのチェーンネックレスを巻いたガタイが良いチャラ男風の男を描き出した。

「やっぱ木原がギャル風からお兄さんもそれっぽい感じかね?」

「ギャル風ってなによう。お兄は全然あたしとタイプ違うよ」

「そうなの?」

 幹人の脳裏に浮かんだチャラ男が大きな消しゴムで消し去られ、再び巨大な鉛筆達がやたら度の強い瓶底眼鏡を掛けた猫背の男が描いていく。

「あたしさ、おバカちゃんじゃん?」

「どういう意味でおバカちゃん?」

「勉強的な意味で」

「確かに」

「いや思ってなくても否定しろよ」

「ヒヒヒ、いいんだよジジツだし。でもさ、お兄はすっげー頭良いの」

「何歳上なの?」

「四つかな、ちな慧習OBだよ」

「へぇ~! じゃあさ、ギリギリふぅ~じこちゃぁ~んと在学期間被ってるんじゃね?」

「だから俺の姉ちゃんをルパンみたいに言うのやめろ?」

「あー、藤子先輩ね。美人だよね~、カワイイってか美人って感じ。みきひーはカワイイけど」

 急にそんな事を言われた幹人は脳のニューロンが一瞬で活性化し、この世の全てを理解したと同時に椅子から転げ落ちた。

「おお、おお⁉ どうしたどうした?」

「キャハハハ! ごめん! ビックリしちゃった?」

 隣にいた弘毅に助け起こされ、打ち付けた頭を擦りながら椅子に座り直す。

「俺、カワイイのかな?」

「なーんだお前、俺らが言ってた時は必死こいて否定したクセに」

「そーゆートコもカワイイよみきひー」

 滅茶苦茶わかりやすくデレデレになる幹人に、腕を組んで口角を下げた京助が隣の圭斗に耳打ちした。

「これ出来てる?」

「十中八九」

「カップル成立するかね?」

「ある程度期間を経て幹ちゃんが押せばなんとかなるんじゃ?」

 まさか恋がしたいと言った日にこんな事になるとは京助達も予想外である。

「てかこうも分かりやすくなるもんかね?」

「直江さんといる時の京ちゃんもそんなもんだよ」

「マジでぇ? 気ィ付けよ……」

 付き合っていない相手ですらこれなのだ、勝手知ったる仲である上で付き合っている自分はどれほど酷いのか。まさに人の振り見て我が振り直せというやつだ。

「それにしても良かったな幹人、春到来だぜ」

「や、やめろよ、人前だぜ」

 その人前で頭から椅子から転げ落ちたのは一体どこのどいつだ。

 愛優のパフェが運ばれてきて、それと一緒に皆で自撮りしたりしていると、一人の男性客が入って来た。

「あ、おーい! お兄! こっちこっち!」

「おお! 愛優……ああ、お友達がいっぱいだね」

 どんな人かと皆一斉に注目したが、知性を内包した爽やかな雰囲気を感じさせる素朴な顔立ちをしており、大学のオープンキャンパスのポスターに選ばれてそうな感じの青年であった。

「どうも、始めまして」

「お邪魔させていただいております」

 軽く頭を下げ、愛優の兄は唯一空いた席に腰かけて、愛優は兄の肩に手を乗せてべったりと身を寄せた。

「紹介するねっ! 私のお兄、木原宏太です!」

 宏太は少し照れ臭そうに笑ってみせ、京助はなるほど違うタイプだと一人納得する。

「君達は愛優と同じクラスの子たち?」

「そうですね」

「そうなんだ、いつも妹がお世話になってます。その……いつもうるさいでしょ?」

「お兄! 何てこと言うの!」

「いえいえ、妹さんのおかげでいつも楽しい学校生活を送れてますよ」

「ほらー! けー君もそう言ってるじゃん!」

「いやー家ではいっつもキャハキャハ笑ってるんで学校でもそうなんじゃないかとね」

「確かによく笑いはしますね」

 愛優は唇を尖らせながら頬を膨らませると、スプーンでパフェをかき込んだ。

「まあこんなに素敵な子たちに囲まれて妹もいつも喜んでますよ」

(しっかりしとる……)

 家庭事情はよく分からないが、明穂の家のように親が不在がちなのであろうか。

「ところで、みんなはどうしてここに? 遊ぶ約束してたとかじゃないよね?」

「ああ、元々俺ら四人で集まってたんですよ」

「そこで偶然……あ、ありがとうございます! 偶然木原ちゃんに会いましてね」

 京助が受け取ったパフェを食べながら続けた。

「お兄さんが来るまで暇だからって事で、ご一緒させてもらったんです」

「ああそうなの? なんかゴメンね無理矢理みたいになって」

「いいえ、おかげでこの良い店を知れた」

 宏太が小さく微笑んでメニューを取り、小ぶりのキャラメルパフェと紅茶を注文して一息つく。

「ところで、みんなはなんで集まったの?」

「ああ、映画ですね」

「あたし達が今から見に行くやつだよ」

 宏太は目を見開いて頷き、少し考えてから聞いた。

「……どうだった?」

 愛優がスプーンを置いて耳を塞ぎ、それに気付いた宏太は口にチャックをかける仕草をする。

「ネタバレはダメか」

「まあ誰でもそんなもんっすよ」

「どれぐらい怖かった?」

「十段階中五段階ぐらいっすね」

「そんなもんか」

「あ、お兄さん、こいつの言う事信用しない方がいいっす」

「こいつ恐怖という感情がマヒしてるし、心臓が櫛すら通さない剛毛で覆われてるんでマジで参考にしないでください」

 心臓が櫛すら通さない剛毛で覆われているという言い回しに、木原兄妹は思わず二人して笑ってしまった。

「キャハハハ! 京君もう何あってもビビらないじゃん!」

「すごいな、えーっと……」

「あ、千道京助です」

「ああ、君があの?」

「そー、このコが京君、イケメンだよね~」

 そう言われると普段なんて言われているか少し気になってくる。

 分かりやすく機嫌を良くした京助に他三名が口角を下げて湿った視線を浴びせ、京助はチャドフェイスをして顎のラインを指で撫でて見せた。

「京助君はホラーが好きなの?」

「ええ、ホラーだけで飯一万杯行けますよ」

「嘘つけ」

「キャハハハ! 食べすぎ~!」

「ハハハハ」

 宏太は小指で眉毛の辺りを掻きながら身を乗り出して京助に近付く。

「まあ君が三度の飯よりホラーが好きって事はわかった。まあ御察しの通り、俺もホラーが好きなんだ」

「やっぱそうなんですか、じゃあ今回のアレ期待して良いですよ。考察要素がすごいのなんの、今回含めて四回も見ましたもんね」

「四回も! 結構筋金入りだね、脱帽ものだよ」

「そんな事ないよ、京君よりお兄の方が凄いモン」

「そうなの?」

「いやいやそんな……」

「あの事言っちゃいなよ、別に隠してるワケじゃあるまいし」

「愛優」

「お兄はね、地域密着型ホラー・オカルト専門サイトの『マトリの謎』の管理人なんだ」

 その瞬間、京助の灰色の脳細胞が全て活性化し、精神の宮殿(マインドパレス)の奥深くからある記憶を引っ張り出す。

 それらすべての点が線で結ばれた途端、京助の精神は空高く飛び上がり、天蓋を突き破って太陽系を抜け、天の川銀河を突っ切って即座に戻り、それと同時に椅子から崩れ落ちた。

「うええええ⁉ 嘘ォ⁉」

 周囲が顧みられなくなるほど、これは京助にとって衝撃だった。

「そうか、そうか! 管理人の名前はコーちゃん、お兄さんは宏太だから……オーマイ……」

 頭を抱える京助を見ながら宏太は、大きく溜息をついて愛優の方を見る。

「別に隠してたわけじゃないけどさ……びっくりしちゃってるじゃん」

「お兄はホラ友が出来る、京君は憧れの人に出会える。みんなハッピーじゃん」

「あの……握手してください」

「お、俺も! いつも見させてもらってます!」

 京助と幹人が握手を求め、宏太は少し照れ臭そうに応じる。

「いやー驚いた……まさかこんな所で……てか木原ちゃんのお兄さんがコーちゃんだったとは」

「人って六人(あいだ)に挟めば絶対に会いたい人に会えるらしいけど、まさか一人挟んで会えるとはね」

「びっくりびっくり……たまに体張ってますよね?」

「まあね、いかにホラーとはいえ、検証は大事だよ」

「検証は大事って、それにしても大木町の采姫(ことひめ)伝説の取材記事って本当にすごいですよね」

「ああやっぱり? あの時は楽しかったな、いろんなお寺とか史跡とか巡って、関係者に話聞いたっけ」

 采姫伝説は真鳥市に伝わる戦国時代のある悲劇が発端の怨霊伝説である、現在は没地とされる場所に丁寧に祀られており、畏敬の念を込めつつパワースポットとして真鳥市の住人に親しまれている。

 そして『マトリの謎』内での采姫伝説に関する記事は関係者への取材や文献等のソース元を示しつつ、独自の考察がなされて完成度の高い記事になっており、鳥人間や忍者軍団に次いで人気である。

「元々ホラー好きで、ちょっとサイト運営とかに興味あってやってみようってなったんですか?」

「ああ、いや~……うん、元々趣味範囲でやってたんだけど、本腰を入れ始めたのには大きな切っ掛けがあったんだ」

「切っ掛け?」

「聞かせてくれませんか?」

 宏太は腕を組み、しばらく唸ってから意を決して口を開いた。

「ある意味では、俺も目撃者だったのかもしれない」

「……何を見たんですか?」

「今から約三年前、大雨で起こった小規模な土砂崩れにバスが巻き込まれた事故……そこに俺と愛優は居たんだ」

 真剣な口調に、京助達四人は引き込まれていく。

「でもあれは土砂崩れによる事故なんかじゃない、俺はその場でたった一人見たんだ」

「何を……ですか」

「鳥人間さ」


 大雨の中山道を木原兄妹を含めて六人を乗せて進んでいたバスが、謎の爆発と山肌の滑落に巻き込まれてスリップしながら停止し、乗客の殆どは気絶する中で宏太だけが目覚めた。

「うぅ……愛優! 愛優!」

 隣に座っていた妹が息をしているのを確認すると、なんとか状況を把握するべく、曇ったガラスを手で拭って外の景色を見ようとする。

「!」

 宏太は思わず息を飲んだ。なぜならそこにはおおよそ現実とは思えないものが屹立していた。

(サスカッチ⁉ ヒバゴン⁉)

 雨で視界が悪いためよく見えないが、類人猿のような巨大な人型がこちらに背を向けて立っており、よくよく目を凝らしてみると上を向いて何かを見上げているらしい。

「……あれは!」

 まるで鳥の羽の如くマントを広げた人型の影が空中に浮遊しており、類人猿はそれを見上げていたのである。

(飛んでる、しかもこの雨の中空中で微動だにせず静止してる……一体何者なんだ?)

 やがて空中の人影はマントをはためかせて雨に濡れる道路の上に降り立って、巨大な類人猿と向かい合う。

 不思議な事に類人猿の方が体格が大きいのにも拘らず、マントの人影が放つ威圧感は凄まじかった。

 類人猿は拳をついて走り出して相手に殴りかかり、その相手は雨を蹴散らしながら目にも留まらぬ速さで背後に回り込み、その一瞬顔がこちらを向いた。

(鳥! 鳥人間だ!)

 大雨の中青くて鈍い光を放つ大きな両目と、嘴がはっきりと見える。

(なんだ、こいつはなんなんだ⁉)

 再び向かってきた類人猿の腕をいつの間にか持っていた一振りの剣で斬り落とし、そのまま剣を構えて相対する。

「機械!」

 斬り落とされた腕からは血骨ではなく紫電を迸らせる配線が覗いていた。

(何なんだ⁉ ますますわからない!)

 その刹那、鳥人間が大きく跳躍したかと思うと空から一筋の稲光が閃き、彼が持つ剣に落ちて眩い光を放ち、後に響いた雷鳴と共にその類人猿を一刀の下に切り捨ててしまった。

「……」

 もはや声も出なかった、当時まだ十九歳の宏太にとってこの体験はあまりにも衝撃的だったのだ。

「!」

 いきなり振り返った鳥人間に思わず薄目を開けつつ気絶した振りをすると、彼はバスに手を翳してバスを覆っていた土砂を念力めいた力で吹き飛ばした。

 その後、鳥人間はバスを飛び越え、宏太は慌てて反対側の窓にかじりついてガラスの曇りを拭うと、遥か遠方の武装集団に向かって剣一本で向かって行ってしまった。

「俺達を……彼が守ってくれたのか?」

 席に戻った宏太の目と脳裡に、あの空中で静止する鳥人間の姿が焼き付き、まるで雷に打たれたかのように動けなかった。


「やっぱり、鳥人間ってヒーローだったんですね、いや~俺もそう思ってたんです! 何かと戦ってる様子が目撃されていたらしいですし……」

 幹人が嬉しそうに自説を語る横で、京助は驚きを隠せないでいた。

(俺が……俺が切っ掛けだったのか?)

 確かに覚えている、戦いを始めてから一ヶ月ほど経った雨の強い日の事、ギリースーツを身に着けたパワードアーマーを相手にしていた。そいつを追い詰めた際に、ミサイルで山肌を崩して逃げ出し、それにバスが巻き込まれたのである。

「この話……誰かに話したりとかって」

「愛優と俺の親友ぐらいにしか話してないかな。君達は……まあ何で話したんだろうな、不思議と話したくなっちゃった」

「……どうしてこの体験が切っ掛けになったんですか?」

 京助の問いに宏太は眉を小指で掻きながら小さく笑って答えた。

「あの体験をしてから、俺はどうしても知りたくなった。この街で一体何が起ころうとしているのか……俺はこれが何かの前触れのように思えてならなかった。だから募集をかけて目撃談とか動画や写真を集め、現地に行ったりもしたよ」

「木原ちゃんはこの話信じるの?」

「うーん、あたしは鳥人間の事見てないしなぁ……でもお兄がこんな嘘つく訳ないし、なんなら目撃情報いっぱいあるし、少なくともここで何かあるのはあるんじゃね? ってぐらいには思ってるよ~」

「そうか……」

「ただ一つ言いたい事がある。俺達が信じてる日常やセカイっていうのは、案外脆いものだよ。別に恐怖を感じている訳ではないけど、真鳥市の現状を知らせたいって思いが……ずっと胸の奥に燻り続けてるんだよ」

 笑いながら目の奥に鈍い光を宿す宏太が放つ独特な迫力に、京助達四人は思わず気圧されてしまった。

「俺は何が起こってるか知りたいし、なるべく多くの人にここで何が起こっているのか知らせたい。あの日雷に打たれてから、俺はずっとそう思ってる……なんて、ちょっと文学的過ぎるかな?」

 照れ臭そうに笑うと、宏太はいつの間にか来ていた自分のパフェにスプーンを入れた。

「ゴメンね! なんか変な話をしちゃったね」

「いやいや! 面白かったっすよ!」

「たまにしか見てなかったけど、今度ちゃんと見てみようかな」

 皆の話す声をどこか遠くに聞きながら、京助は無数の思いを秘めつつパフェを食べるのであった。


 いつメン四人と夕方六時まで遊び回って帰宅した後、京助は宏太の言葉について考えていた。

「俺達が信じる日常やセカイは案外脆いもの……か」

 言われてみれば自分だってそうだ、両親を殺されたからこのセカイに飛び込んだのだから。

『罪悪感を抱いているのですか?』

「いいや、少し考えさせられるところがあってな」

 誰にだって、これは起こりうることだ。そして自分にだってもう一度起こるかもしれない。

 そう考えると京助は反射的に自分のスマホを取っていた。

「ああもしもし、いま大丈夫か?」

『うんうん、全然大丈夫! ね、顔見せてよ』

「ああ、見せる見せる」

 スマホに映った奏音の顔を見ると、なんだか安心した気分になる。

『どうしたのいきなり?』

「なんかさ、ちょっと声聞きたくなったんだよ」

『寂しくなっちゃった?』

「まあそういう事にしといて」

 奏音とビデオ通話で話しながら、京助は自分にとっての温かなセカイに浸るのであった。


To Be Continued.

まさかの人物が気になるアノ人の関係者や親族だったって事ありますよね?

そうなると世界は狭いと我々は思い知るのです。

友達と遊んでいると、まさかの『マトリの謎』の管理人と出くわす京助。

宏太の言葉は、きっと京助の中で生き続ける事でしょう。

もう十月ですが夏休み編は残り二回、最後まで目を離さずついて来てください。

感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメをよろしくお願いします。

ではまた来週!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ