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青春Double Side  作者: 南乃太陽
夏休み編
19/37

思い出の景色

加須多穂で感知した謎のエネルギーを調査するべくサイは異星人街を訪れるが、そこで旧知の間柄であるギャンブラーのビグスと再会し、地球の内情を聞き出す。

そして京助はジャガックの研究を潰すべく地下の施設をマークして、フォースフィールドの研究が行われている詳しい場所を見出す。

だがそこは皐月とその亡くなった父との思い出の場所であった。

ルナとマグナアウルとサイの思いが交差する中、戦いが始まる!

 東京都内のある場所、深紅の髪にエスニック風の服の人物が路地裏を歩いていた。

「本当に面白い星だなここ(地球)は、でもなんだかきな臭くなってきたけどね」

 ホロ端末の地図を頼りに妙に開けた場所で立ち止ると、サイは顔下半分に張り付いた笑みを深くする。

「ここかな?」

 一旦後ろを向き、視界の端でその場所を捉えると、存在しなかったはずの一枚の扉が出現していた。

「ビンゴだ、さあ行こうか」

 首を鳴らしてその扉を開けると、そこには日本どころか地球とは思えない光景が広がっていた。

「んん、懐かしいな。この感じ」

 一見すると大勢の者たちでごった返す少し汚れた下町の市場や商店街のように見えるが、ここにいるものはほぼ全員人間ではない。

 ここは外星から地球へやって来た者達が利用するマーケットなのだ。こう聞くと比較的新しいもののように聞こえるが歴史はかなり古く、世界各地で見られる異界に迷い込んだという報告のうち何件かはここに迷い込んだ者がした証言である。

 ちなみにここは富裕層ではなく中流から貧困層が利用するマーケットであり、いわゆる〝ワケあり〟な者どもが集まる事が多い、今回サイがここを訪れたのもそれが目的である。

「クワッ!」

 いきなりサイは妙な声で近くに居た水棲軟体動物と幼生のアザラシを混ぜ合わせたかのようなイャンパ族というヒューマノイドを呼び止めた。

「ククク、キッガク、キキュッキュッキィ?」

 ジェスチャーを交えながら口を開いて喉と舌を鳴らし、相手のイャンパ族の若者は吸盤を持つ長い指を顎に滑らせて何事か考えた後で口を開いた。

「キュッキュウッキ、キッククク、カッ……クッココ、キィ?」

「キィーッ、カウ、チュチュッグァ。コッココウィッカ、クワッ、クワッ」

 日本人どころか地球人が聞いても言語の体をなしてないと思われるだろう音を口から発しながら会話し、サイはそのイャンパ族の若者にこのマーケットで使う事の出来る貨幣を渡し、呼び止める声も聞かず別れた。

「それで現銀河言語対応モジュールを買うといい。イャンパリタンは発音し辛い、上手いって褒められたけどね」

 イャンパ族流の感謝のサインを背中で受け取りながら、さっき彼から聞いた場所へ向かった。

「はい! いらっしゃい、いらっしゃい! ここにはなんでもあるよ~? 宇宙船のエンジンから法規スレスレの銃器改造パーツまで! おいおい、そこのあんた! ちょっと見てかない?」

 比較的人間に似ているが、二組の腕を持ち頭から二本の角が生えている、でっぷりとした布袋腹のヒューマノイドがサイに声をかけてきた。

「ハァ、お前はボクが銃を扱うように見えるのか?」

「おん? おお! おおお! 誰かと思ったらサイじゃねぇか! もう会えねぇかと思ったぞ!」

 四本の腕で抱き締められ、横に生えた角が刺さらないように手で角を押さえる。

「ああ久しぶりだなビグス、てっきりアロンガーヴ・サーキットでの〝玉突き事故〟に巻き込まれてくたばってるかと思った」

「その話は止めてくれぇい、俺はアレで全部失っちまった……」

「全部失ったってどうせギャンブルで稼いだあぶく銭とお飾りの身分だろーが。まさかここに落ち延びて燻ってるるとはな」

「おいおいバカ言っちゃぁいけねぇ! 俺は燻ってるんじゃなくて再起を狙ってるんだ! この星はビジネスチャンスの塊なんだよ! それに物価も安くて飯も美味いときた。最高だね!」

「確かにご飯は美味いよね。ハズレが殆どないのがすごい」

「まあなんだ、昔なじみのよしみだ! 上がってけ」

「何も買わないよ」

「売りつけようなんてしねぇよ! いいから上がれ! 最近ハーブティーってやつを仕入れたのさ!」

 ビグスは下右手でティーポットを取り出し、上左手で湯を入れてセットし、上右手でその中に球状になったハーブを入れた。

「これうめぇんだよ!」

「期待しないでおく」

「あぁん? なんでだよ」

「三百年前にお前の店に行った時、死ぬほど不味いガウバイヤを食わされたのを忘れてないからな」

「いーや! それは俺のせいじゃねぇだろ!」

「従業員のせいって言いたいのか? レシピは俺が考えたとか抜かして自慢しまくってたじゃないか。案の定あの店は潰れたしな! だいたいガウバイヤってどうやったら不味くなるんだ? 三万と九百年ちょい生きてきたけどあれほど不味いガウバイヤは食ったことないぞ!」

「ああもうその事は良いだろ? お前の話を聞かせてくれよ。この星にはなんで来たんだ? バカンスか?」

 サイは大きく息を吐いて足を組んで深くソファーに座り直した。

「とんでもない、仕事さ」

「ほぉ~、傭兵稼業かぁ。依頼主はどんな相手だ? 企業? 星系連合国家? それともジードン警察機構?」

「どれも外れ、だいたいボクはジードンに指名手配喰らってるんだぞ」

「いやあ、恩赦狙いで依頼を受けたのかと」

「恩赦を受ける理由が無い。だいたい本気出さなくたってジードンはボクの準備運動相手にすらならない」

「あながち嘘とは言い切れんな。じゃあどんな奴に依頼を?」

「当ててみ」

 ビグスはポットの湯加減を横目で見て、下両腕で布袋腹を擦り、上右手で角を、上左手で無精髭の生えた顎を撫でながら考えを巡らせる。

「ギャング?」

 サイはにこりと笑ってビグスを指して正解の意を伝えた。

「おお、珍しいな! おまえ気紛れとか言いつついっつも弱者の味方ばっかしてる……」

「ビグスゥ?」

 笑顔と冷気の牽制にビグスはその身を震わせ忙しなく手を動かしてポットをいじり始めた。

「やっややややとっ……雇われたのはっどっどど……どこのギャングだ? ピラ・ファミリーか? フォー・スカルズか?」

「ジャガック」

「ジャガックね……ジャガックゥ⁉」

 先程までサイを恐れていたビグスは腹を抱えて笑い出した。

「ガハハハハ! オイオイどうした! 天下の気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリース様が落ち目のギャングから仕事貰ってるとはな! いくらやるって言われた?」

「信じられるか? たったのこれだけでコロシを依頼しやがった」

 サイの指が五本立てられ、ビグスは身を寄せて声を潜めた。

「単位は共通貨幣(クレジット)か?」

「ああ」

「五百万?」

「十分の一」

 それを聞いたビグスは上の手をバチバチと叩き、下の手で腹を抱えて大笑いした。

「おいおい! あいつら何処まで零落(おちぶ)れりゃ気が済むんだ!」

「最盛期もいつの頃やら、次世代のザニーと呼ばれた連中も今や持ち星はバルヴィーだけ。焦ってここ(地球)で何かしようとしてるらしいが、所詮零細ギャングだから星そのものに仕掛けるなんて大それたことは出来ない」

「ハハハハハハ! あぁ、フゥーッおかしい……そもそも傾きかけてたところを今のボスのヒステリックババアが滅茶苦茶にしたようなモンだからな。んでそのお前の雇い主殿はこの星で何してるんだ?」

「真鳥市って聞いて場所は分かるか?」

「ああもちろんさ、ここに居て商売したり生活する連中の七割は必ず行くからな。となると……なるほどそういう事か、ガハハハハハ、いかにも惨めな状態からの起死回生の一手を狙う哀れな愚か者が打ちそうな手だ」

「ちょっと待ってくれ、ここに三割も不法滞在者が居るのか?」

「分かってて来たんだろ? お前も元々〝こっち〟の人間だしな」

 サイは子供時代を思い出して笑みを深くし、ちょうど出来上がったハーブティーに口を付けた。

「どうだ?」

「ああ、悔しいが美味い」

「そりゃ良かった、そうだ話を戻すとだな」

 空いている下二組の手を叩いてサイの方を指差し、ビグスは身を乗り出す。

「なんでジャガックの依頼を受けた?」

「最初断ろうと思ってた、安値で仕事引き受けたらボクのブランドイメージに傷がつくと思ったからね。だけど前々からこの星の噂を聞いててさぁ、これを機に行ってみようと思ってたんだ」

「なかなかいい星だろ?」

「ああ、それに地球人の好敵手(遊び相手)も見つかった」

 ティーカップを口に運ぼうとしていたビグスの腕が止まり、今の言葉を脳内で反芻した後、こちらを見据えて目を見開いて平坦な口調で聞いた。

「マジ?」

「マジ」

「…………はぁ~! ほぉ! そんなにか!」

 ビグスはサイと古い付き合いであるため、サイの伝説的な強さをその目で見てよく知っている。

 それだけに遊び相手が務まる者がどれほどの力を持つかを理解しているのだ。

「確かにこの星、妙に高次元に達してる超能力者が多くてな。まあ無自覚な連中も中には居るだろうが」

「そうなの?」

「ああ、人口七千と二百億人の中で超能力者は六割とされるそうだ!」

「待て待て! 七千二百億人って言ったか?」

「ああ、知らないのか。この星の夢界(ドリーム・ワールド)はデカいんだ、こいつはそれを足した数字さね! 俺ァまだ行ったことはねぇが、斜向かいのサトゥーラの姉ちゃんが言うには最高の場所らしい」

「へぇ……確か人間の発表では総人口は約八十億人、単純計算で九十倍の大きさって事か」

「面白い事に地球の夢界には宇宙があるらしい」

「夢界はその星に住まうものの集合意識が生み出したもう一つの世界らしい……この説が正しければ、地球人類の想像力の大きさには脱帽モノだね」

 ビグスは口角を上げて笑うとハーブティーを飲み干し、しみじみと感慨深く言った。

「それにしても、まさかお前と対等にやり合えるほどの奴が居るとはな」

「その好敵手の事で……聞きたいことがある」

 サイはその笑顔をビグスの顔に寄せ、当のビグスは思わず顔を離してしまう。

「この星で〝洗濯機〟は機能しているか?」


 朝六時、目覚ましを念力で止めてから京助は起き上がり、指を鳴らして窓を開けた。

「やっぱ自宅から見る朝日が一番だな」

『どこかに遊びに行く度に言いますよねソレ』

「だって間違いないだろ? ここに家建てたご先祖様にありがとう(グラッツェ)! さてと、飯だ」

 あの加須多穂での旅行で京助は魚料理にハマり、帰って三日間ずっと魚ばかり食べている。

「今日も魚だ」

『飽きませんね』

「明穂のアレまた食べたくてさぁ」

 明穂が作っていた川魚の味噌漬けが美味すぎて頭から離れず、京助はその味を再現しようと躍起になっているのだ。

「まあ魚料理の楽しさに目覚めたからってのもあるな。レシピは教えてもらえるし、慣れれば魚も簡単に捌ける」

 そうこうしているうちにサーモンが焼き上がり、京助はそれらをあっという間に平らげてしまった。

「どっかに頼んで漁師さんから直接買い取ろうかな?」

『まだ鮮魚店の魚を全て買い占めるという方が現実的かと』

「これじゃ全然足りないと思うんだよ、今日から夏休みが終わるまでに色々やらないといけない事があるからな」

 加須多穂で戦ったあのウォーカーに、京助は思う所があるのだ。

『あのウォーカーのフォースフィールドがそんなに気になりますか?』

「どうやってサイコエネルギーを遮断する技術を作った? それが昨日から気になって気になって仕方ない」

 今後この技術を使ってくるとなれば、戦いは益々難しさを増すだろう。

「大翼乱舞すら弾いたんだからそりゃ強力だぜ。だが何かしら穴はあるはず」

『その穴をどうやって見つけますか?』

「今のところ考えてるのは……」


 朝食を摂った後京助は自室の隠し扉を開き、地下へ向かって行動を始めた。

「俺が探知できないだけで奴らはかなり巧妙に隠れてる」

 地下等に隠れたジャガックの基地を見つけ出し、研究データを盗み出す。それが京助の作戦であった。

「この前だってボロを出さなければ俺にもクインテットにも気付かれなかったしな」

『その潜伏先を見つけ出す方法に何か宛はあるのですか?』

「地脈にダイレクトに接続して自分自身の()で確かめる」

『確かにその方法なら炙り出すことは出来ますが、星の力があなたへ逆流する可能性がある為、お勧めできるやり方ではありませんね』

「大丈夫さ逆流する前にリンクを切るよ」

 地脈に接続するというのは、滅茶苦茶なほど高い水圧が流れているパイプのど真ん中に入り込んで、一時的にそれと同化するのだ。

 いかに高い力を持つ超能力者とはいえ、こんなことをすればエネルギーの耐久キャパシティを超えてしまう。

「危なそうなときはお前が教えてくれ」

『京助、これは探知機を作った時のようにあなたの力を張り巡らせるのとはわけが違うんです』

「分かってるって、でもやるしか……」

『やるなとは言いません、しかし私が制止した際「あともう少し」等と言うのは絶対に止める事。場合によっては本当に命を落としますからね』

「わかったよ、善処する」

『星の力が持つ力は未知数です、体内器官が焼き付いて能力が弱体化する可能性もあります』

「……わかった、お前が止めたらやめるから」

 新しい真鳥市の紙製の地図を取り出し、目を瞑って頭に押し付けてリンクを形成した。

「よし……始めよう」

 小さく深呼吸して地面に片耳と手をつき、京助は地面と一体になるイメージを浮かべる。

(来た!)

 なにか熱いものが自身に流れ込む感覚がし、京助は意識を撹拌させるように潜っていく。

「あったぞ!」

 地脈を通して隠された物が京助の脳裡に次々と浮かび上がり、それが見つかるたびにリンクされた地図に小さな点が刻まれていく。

『京助』

「は⁉ もう終わりか?」

『いえ、あと残り三十秒です』

「分かった! ギアを上げる!」

 地脈に深く潜り込むと、京助の胸の辺りから金色に光る謎の模様が発生し、それに伴って体温が上昇し始めた。

『深すぎます、戻ってこれませんよ!』

「分かった、引き揚げながら探す!」

 徐々に謎の模様が京助の顔や腕に向けて広がっていき、それに伴い体温も上がっていく。

『残り十秒!』

 刻一刻とタイムリミットが迫る中、模様がついに目に達し、京助の瞳が煌々と輝き始めた。

『京助!』

「うわっ! ふぅ……」

 徐々に消えていく自分の体に刻まれた謎の模様を眺めながら、京助は興味津々にその様を見て笑った。

「これが……星の言葉か」

 父の研究ノートやデータにこれと似た模様と、それに関するいくつかの記述があるのを思い出した。

『ええ、解読すれば面白い事が分かるやもしれません』

「アンティキティラ島の機械の真相とか?」

『もしかしたら』

「やめとく、謎は謎のままでいい」

 無事帰って来られたとはいえ、膨大なエネルギーにその身を晒したせいで風邪の引き始めのような気怠さが拭えない。

「あぁ~あ、つっかれた……」

 机の上に置いた穴が点在する地図に目を通し、京助は寝転がりながら今後の作戦を考えるのであった。

「んでだ……これは多いのか少ないのか」

 地脈に潜って探した結果ジャガックの基地は全部で九か所、時間切れで探せなかった箇所もあるだろうが、少なくとも隠れている連中の居所は今や丸裸だ。

「しっかし近頃あんまり探知システムに引っかからないと思ったらこんな事になっているとは……」

『あなたやクインテットが大暴れした結果ですね』

「これいい事なのかなぁ? かえって探索を複雑化させてる気がする」

『結果的に組織の撲滅を望むのなら、避けて通れない過程ですよ』

「そうか、そうだな。ゴキブリでも学習するらしいし、連中も学んでるって事か」

 今後の行動を考えながら、京助はソファーに寝転がるのであった。


 そしてその日の夜、あるジャガックの地下基地の扉が爆破された。

「なっ! なんだ⁉」

 働いていた下級構成員達が何事か警戒しながら扉付近に近付くと、そこから低くぐぐもった声がする。

「どうもこんばんは、死ね」

 立ち上る爆煙の中から青白い輝きを放つ両目と、梟の意匠の(ヘルム)を認めたその瞬間、まるで蜂の巣を突いたような大騒ぎが起こった。

「マッ、ママッマグナアウルだぁぁぁぁ‼」

ヘロン(ガトリング砲)

 飛行形態の際に使うガトリング砲で周囲の者達を次々と蹴散らし、奥へ奥へと進んでいく。

「逃げろ!」

「おいやめろ! 閉めるな!」

 奥へとつながる重い扉が閉まりそうなのを確認すると即座にガトリング砲を捨て、両手を翳して念力を発動させる。

「閉まらない⁉ なんでだよ!」

 手を返してこちらに引くように向けると、徐々に扉がひしゃげて遂に破壊されてしまった。

オストリッチ(強化装甲)

 腕に装着した強化装甲をチェーンで繋げるとまるでハンマー投げのようにそれを放り投げ、多くの構成員をミンチにして奥への通路を作り出した。

シュライク(投槍)

 その後もひとしきり大暴れした後、逃げようとしていた研究員らしき昆虫型ヒューマノイドをチェーンで捕まえて逆さ釣りにした。

「ひぃぃぃ! いいいい!」

「おい、言葉分かるか?」

「ああああ!」

「分かるかって聞いててんだよ! 殺されたいのか!」

「ばがりばずぅ! ばかりばずがらごろざないでぇ!」

「ここの責任者は!?」

「へぇっ⁉」

 チェーンから電流を流して研究員を痺れさせた。

「あああああっ! いぃぃぃぃあああああっ!」

「次聞き返したら感電死させるからな。ここの責任者はどこにいる!」

「ごごのじた! ごごのがいのじだですぅ! いじばんじだのいっごうえぇ!」

「ご苦労」

「え?」

「聞き返したな」

「へぇっ⁉」

 哀れな昆虫型ヒューマノイドを超高圧電流で外骨格すら残さず焼き尽くした後、マグナアウルはその場で軽く跳躍すると床を粉砕しながら潜り、最下階までぶち抜いた後でチェーンで這い上がった。

「ひぃっ!」

 近くに居た悲鳴を上げた女性型ヒューマノイドを念力で締め上げて空中に浮かせた。

「くかっ……かっ……」

「偉いやつはどこだ? 指で示せ」

 その通りに向かうといかにもな風貌な中年男のヒューマイノイドが居た。

「なっ⁉ マグナアウル!?」

 目の前で締め上げていた女の頭を引き抜いて机の上に投げ捨てると、マグナアウルは責任者を引き寄せて襟首をつかんだ。

「質問がある」

「なにも、ごはっ!」

 腹部に手を突っ込まれたが痛みもないうえ出血はしていない、おそらく透過能力によるものと考えた男は血の気が引いた。

「わかった! 言う!」

「サイコエネルギーを用いたフォースフィールドの研究をしていたのはここか?」

「違う!」

「じゃあどこだ?」

「い、言ったら命だけは助けてくれ!」

「いいだろう、(アタマ)に思い浮かべろ」

 そう言うと腹に突っ込んだ手を頭に移し、記憶から場所を抜いた。

「ご苦労」

 そう言うとマグナアウルは物体透過能力で地面に責任者を埋め込んでしまった。

「な! なんでだ! 命は助けてくれると……」

「ああ、だから見逃してやった。あとは勝手に生き延びろ」

 そう言うとマフラーがマントに変化し、それが靡くと同時に周囲に黒い炎が発生した。

「ひっ! いぃあ! あああっ! あああああああ!」

 黒い炎が地下施設を飲み込む中、マグナアウルは地面を突き破って夜空を駆けるのであった。


「久々に楽な仕事だったな」

『強敵も居ませんでしたからね』

「強敵と言えばあいつって本当に自分の仕事してるの?」

 護衛を任されたと言いつつ、サイがまともに〝護衛〟をしている所を京助は見たことが無い。

『だから気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリースと言われているのかもしれません』

「今度呼び出された日に聞くか」

『……まさか心を許したわけではないでしょうね?』

「まさかぁ! その気紛れな刃が俺に向く可能性がある事なんてとっくに理解してるさ!」

『あの男……男? 女? ともかくあいつは危険です』

「たしか性別が無いんだよなあいつって。ジェンダーレス? ニュートラルって言うのかなああいうのって?」

 とはいえサイは地球人の尺度で計れるような存在ではない、考えるだけ無駄かと思い直すのであった。

「まあ仕事しない凄腕傭兵さんのことは置いておいてだね。あいつから聞き出せたのはここらへんなわけだ」

 地図上につけられた九か所の点のうち、一つにバツがつき、三か所丸が付けられている。

「明日にでも下見に行くか」

『一番近い場所にしますか?』

「そぉ~……だな。ここにするか」

 この場所で意外な人物に遭遇するとは、まだこの時京助は想像すらしていなかった。


 サイの質問の意図が分からず、ビグスはなぜそんな質問をしたのか聞き返した所、驚くべき答えが返って来て思わず面食らってしまった。

「それホントか?」

「ああ、間違いない」

 弛緩しきった頬肉を震わせて笑っていた先程とは一転、ビグスは上下の腕を組んで目を瞑った。

「俺ァこの星に来たのはつい二、三年前なんだ。実の所突っ込んだ事情はよく知らねぇ」

「お前ならそこらへんスルスルッと調べられるんじゃない?」

「あぁ、そりゃ買いかぶりすぎだ」

「そうかぁ……」

「まあそんな落ち込むねぇ、このプリヴリー=ビグス・ディゴー! お前との友情に賭けて調べ上げてやろう!」

「ハァ……イマイチ信用していいのかどうか迷うな」

「まあいい、知ってる限りのことは話すぜ」

 ビグスは声を潜めてサイに顔を寄せる。

「まずこの星は大物の息がかかってる。これはまず間違いねぇ」

「大物って誰だよ」

「お前ですら手出しできない連中って言ったらどうする?」

「……」

 大真面目な顔で言っているあたり、おそらく担ぎ上げようとした冗談の類ではないだろう。となるとそういう連中は一つしか思い浮かばない。

神々(セレスティアルズ)……か」

「そうだ、その中でもとびっきりの大物がこの星に目をかけてるらしい」

「なんでこんな辺境の星に目を付けてるんだ?」

「さあなぁ、そこまではわからねぇが、何らかの意図があるのは確かさ」

「じゃあなんで動かない? あんな零細ギャングなんか連中が動けば一発で潰れるはず」

「俺の推測だが、人類を育ててるんじゃないか?」

「となると異様な程同じ種族の中の超能力者の比率が高いのも頷ける」

「ああ、目醒めた者やその関係者やお偉いさんならまだいい、だがまだ一般人は準備段階といったところ……そう考えると」

「〝洗濯機〟はこの星に存在している」

 ビグスは上下の右手でサイを指差して「ファニック(ビンゴ)」と言った。

「よしよし、まあこの考えが当たっている前提としてだ、問題は起動したかどうかだ」

「だいたいお前……なんで〝洗濯機〟に拘るんだ? 大規模な証拠隠滅を行うほどの事なんか……」

 その時、サイの胸元から警報に似た通知音が鳴り、そこから端末を取り出し、ビグスははだけた胸を凝視してごくりと生唾を飲む。

「またボクとしたいか?」

「じょっ……冗談キツイぜお前ぇ!」

「まあいい、一瞬で萎えさせてやる」

 端末のホログラムに地図とザルク語が表示され、それを見たビグスは一瞬で青ざめた。

「これがボクがこの星に〝洗濯機〟があると踏んだ根拠だ」

「う……ウソだ……こ、こんな事あって良い筈がねぇ、あってたまるか!」

 狼狽えるビグスを前にしてもなお、サイは笑みを崩さなかった。

「五千年前を思い出すな」

「やっ! やめろぃ! あんな事思い出さすな!」

「という訳だ」

 サイはホログラムを消して端末を戻すと、普段と変わらぬ調子で告げる。

「〝洗濯機〟がいつコレに関するものを消したのか、調べといてくれ」

「わっ……わかった! お前の頼みだ……ホントなら……こんなのに関わりたくもねぇが……ベストは尽くす」

 それを聞いたサイはより笑みを深くし、礼と称してかなりの大金を置いて出て行くのであった。


「ふ~ん、困ったな」

 ジャガックの工場兼研究所を襲撃した翌日の昼、京助は聞き出した場所へ下見に向かったのだが。

「人、めっちゃ多いなぁ……」

 そこは真鳥市でも観光地になっている山の中、街を望む展望台や山頂の電波塔へ繋がるロープウェイなど、建造物もかなり多い。

 更に夜には電波塔がライトアップされるため、もしかするとそれ目当てでより多くの人が来るかもしれないのだ。

「てかここ結構前からあるけど、こんな所の下によく基地作ったな」

『活動初期に建築会社を乗っ取っているので、それで地下基地を作れたのかもしれません』

「現実問題ここで戦うとなると、やっぱ危ないよな……」

『揺れなどの影響は出るでしょう』

「どうしようかなぁ、どうしたもんかなぁ」

『場所を変えますか?』

「うーん、放置したらしたで危ないじゃん」

『ですが夜間戦闘での影響も考えると……』

「ハァ……」

 前髪の白髪部分をかき上げてがしがしと掻き、目の前を往く人々を眺める。

「あーあ、やっぱここじゃなくて別の所にしようかな」

「もったいないなぁ、それ」

 地図を開こうとすると、誰かが隣に座って来た。

「え? おお、皐月じゃん」

「やっほ、偶然だね」

 思わぬ場所で思わぬ人物と出会った京助は出しかけた地図を引っ込めた。

「どうしてここに?」

「ああ俺ぇ? うーん」

 馬鹿正直にジャガックの基地がある場所を下見に来たとは言えない、というか言ったところで分からないだろう。

「散歩かな、よく考えれば有名な観光地なのにここに来た事一回もなかったしね」

「そう、センスいいね」

 何故だか皐月は機嫌が良さそうだ。

「そっちはどうして?」

「うーん、話すと長くなるんだけど……そうだ、お昼一緒にどう?」

「えぇ? まあ良いんだけど……」

 彼女の友達と二人きりで食事をするというのはなんだかマズい気がしないでもない。

 京助の背後に長く歪な二本の角を生やし、目を除いて真っ黒になった恐ろしい表情をした奏音が、圧倒的なオーラと共に三又の槍を片手に肩をがっしりとつかんでくるビジョンが浮かび、思わず身震いしてしまう。

「大丈夫だって、奢らせようなんてしないし、奏音も許してくれるって」

「そうか、なら大丈夫かな」

 皐月ならきっと間違いはないだろう。だが時計を見ると十一時過ぎ、昼食にはまだ早い。

「ちょっと写真撮らせて」

「え、俺の?」

「バカ違う、景色」

 皐月の写真撮影にしばらく付き合った後、展望台のレストランに向かった。

「ここ本当に美味しいんだ」

 窓際の絶景を望む席に座って、皐月と京助はメニュー表を開いた。

「確かに値段もそれ相応って感じがする」

 どれも少々値が張るものだ。

「大金持ちの舌にも合うよ」

「よせよせ、毎食フォアグラとかしてないから」

『去年の三月』

『うるさいっ!』

 実は二週間だけ毎食フォアグラ生活を興味本位でしたことがある。

「何にしようかな~」

 何故だか幾分皐月は嬉しそうである。

「なんだろう」

「ん? なに?」

「なんかすごく楽しそうだな」

 そう聞くとどこか寂し気な笑みを浮かべると、窓の景色を見ながら小さく言った。

「ここ、家族の思い出の場所なんだ」

「家族ってお母さんと?」

「うん、お母さんと私と……そしてお父さんの」

 言われてみれば、皐月の父のことをよく知らない。

「お父さんって……」

「死んだ。私が五年生の頃に」

「……ああ、ごめん」

「いいの、京助の方が……」

「いやいや、比べるものじゃない」

「それもそっか……ごめんね、変な感じにしちゃって。頼もう」

 メニューをじっくり見たり色々オススメを聞いた末、京助はエッグアンドハンバーグを、皐月はローストビーフサンドを注文した。

「楽しみだな」

「期待してていいよ」

「ハードル上げるねぇ」

 やがて料理が運ばれてきて、二人は手を合わせて食べ始めた。

「おお、マジで美味いな」

「んふふ、でしょ」

「ところでさ、ここにはどんな思い出があるの」

「ああ、私のお父さんは天体観測が趣味だったんだ」

「へぇ~そうなんだ! なるほど、確かにここはお誂え向きだもんな」

「うん、自前の望遠鏡を車に積んでさ、三人でよく星を見に行ったよ。ほら覚えてる? 私達が小学校入ったばっかりのときに、金環日食があるって大騒ぎになってたの」

「ああ~……言われてみりゃそんな事もあったな」

「お父さんたら学校休ませてここに連れて来てさ、お母さんはその時仕事で来れなかったけど、二人で日食見て……その後一緒に怒られたっけ」

「学校休んじゃダメでしょって?」

「ううん、なんで私を仲間外れにしたの! ってさ」

「ハハハッ! 実久さんらしいや」

 友人の亡き父の思い出の場所、そこに邪悪の根が蠢いている。

『トト』

『決断されましたか』

『ああ、ここの地下をぶっ潰す』

『やり方は?』

『いい手がある、なるべく使いたくはなかった手だけど』

 

 そしてその日の夕方、クインテットが招集され、いつもより困惑している様子の白波博士が皆の前に現れた。

「お父さん?」

「センセ、なんか様子がおかしいッスよ」

「ああ、失礼失礼。実は……こんな事が」

 白波博士は個人用携帯を皆に差し出し、そこには名前が文字化けした相手との個人チャットが表示されている。

「え、何コレ」

「……『白波圭司博士か』『マグナアウルだ』『ここの地下に連中がいる』『財団の力が必要だ、封鎖してくれ』『俺も行く』」

「イタズラ……の線は無いか」

「この画像が場所か。どれどれ……!」

「皐月ちゃん?」

 そこがどこかをしっかりと理解した皐月は目を見開いて地図を睨んだ。

「ねぇ、前に話したお父さんとの思い出覚えてる?」

「ああ、あの展望台……まさか!」

「そう、それがここ」

 白波博士含めて皆驚き、皐月は白波博士の方を見た。

「封鎖はしてますか?」

「ああ、今部隊を動かしている」

「終わり次第行きましょう。たとえ嘘でもいい、この目でそれが本当か確かめたい」

 

 完全に封鎖された夜の展望台にクインテットの装甲車が入り、五人は周囲を見回しながら降りた。

『封鎖隊が調べた所、基地やそれらしきものの痕跡はまだ見られなかった。このまま捜索を続けるが、君達の方でも探してくれ』

 ヘルメット上部にマウンドされたモジュールを下ろして各種レーダーを確認しながら捜索が始める。

「特に何も言われてないって事は、マグナアウルも来てないって事だよね」

「彼から連絡があるって事は、もしかしてまだ探してたり?」

「まだ見つかってないのかもしれませんね」

 展望台エリアを抜けて山林の方へ向かうも、各種レーダーには全く反応が無い。

「うぅ~、本当にあるのかな?」

「もしなかったらあのフクロウ野郎とっちめてやる」

「おお、怖い怖い」

「ひぃっ!」

 いつの間にかさっき通った大木の枝にマグナアウルが逆さまに立っていた。

「急に現れるのやめてくれる?」

「無理だ」

 そう言いながら木から飛び降り、五人の方へ近づくマグナアウル。

「博士に連絡したのはあんた?」

「そうだ」

「……じゃあ言ってたことは本当なの?」

「もちろんだ、裏は取れてる。場所も探し当てた」

「本当に⁉」

「この先だ、ついて来い」

 しばらく歩いた先でマグナアウルは立ち止ると、腕を思い切り地面に叩きつけて引き上げた。

「ここに隠し扉があった」

「……よく見つけたね」

「執念だ」

 マグナアウルについて警戒しながら地下へ向かうと、エレベーターがあった。

「さてと……」

 軽くその場で跳躍しようとしたマグナアウルの肩をミューズが掴んで制止した。

「壊さないでね、私達行けなくなるから」

「……そうか、失礼」

 エレベーターのボタンに手を翳すと一瞬でやって来て、クインテットとマグナアウルはカーゴ内に乗り込んだ。

「……」

「……」

(気まず……)

 身長二メートル越えの全身装甲に身を包んだ巨漢が発する威圧感は凄まじく、狭い空間内ではどうしても委縮してしまう。

「ねぇ」

「どうした?」

「なんで協力を要請したの?」

 ルナの問いに対してマグナアウルはしばらく黙っていたが、耳の裏辺りを掻きながら答えた。

「友人のため」

 それを聞いたミューズ、デメテル、イドゥンは思わず顔を見合わせた。

(いたの⁉)

 クドゥリの発言にどれほど信憑性があるかはさておき、マグナアウルは地球人らしい。そう考えるとプライベートもあるのだろうが、いまいちそんなイメージが湧いてこない。

「一人でやろうと思えば出来たが、大勢の人間に累が及ぶかもしれない。となるとここは恐らく永遠に封鎖されてしまう、それだと彼女はきっと悲しむだろうからな」

 ルナはヘルメットの下で小さく微笑むと、マグナアウルの肩に拳を乗せた。

「ありがと、正直ちょっと見直しかけてる」

「そうか……」

「でもまだ完全には信じてないから」

「好きに疑え。俺も好き勝手やるだけさ」

「もうそろ着くよ」

 イドゥンがライフルを構えて最前に出て、アフロダイが弓のエネルギー弦に手をかけて事に備える。

「……」

 緊迫した空気の中、扉が開いて全員一斉に駆け出した。

 だが周囲には誰もおらずもっと奥へ進む必要がありそうだ。

ブラックスワン(ショットガン)。俺には少しやる事がある、お前達は破壊に専念しろ!」

 それだけ言うとマグナアウルは壁を壊しながらどこかへ走り去ってしまった。

「行っちゃったよ」

「相変らずドアから入るって考えはないみたい」

「私達は敵を探しましょう」

 モジュールを下ろして生体反応を探り、五人は階下へ進むのだった。


 一方マグナアウルは道中で敵を見つけ次第撃ち殺して進み、ついに電子機器らしきものを見つけた。

「監視カメラとその制御装置か、ここから入り込めるな」

 指の先からチェーンを伸ばし、機器に深く入り込んでいく。

「どれだ、サイコエネルギーに関する研究データを寄越せ!」

 脳内に浮かぶ無数の糸のイメージを基に、有象無象のデータを潜り抜けていく。

「……見つけた!」

 無数にある糸の先に見える赤い糸へ向かって潜っていき、それを手繰り寄せてデータを回収する。

『データ回収完了です』

「メモリを作る!」

 側頭部に手を当てて引っ張ると記憶の塊が生成され、それらはすぐに二つのUSBメモリの形になった。

「よし、今から存分に暴れてやる」

 マグナアウルはその場で軽く跳躍すると、床を破って階下へ向かうのだった。


 クインテットは徐々に歩を進め、研究エリアにまで進出した。

「はっ!」

 向かってくる戦闘員の頭にミューズの手斧が刺さり、別の戦闘員を拳銃で撃ち抜きながら手斧を回収して前へ進んでいく。

「だああっ!」

 デメテルの回し蹴りが先鋒の戦闘員を後退させ、その隙にロケットパンチで一気に吹き飛ばし、そこへアフロダイの光の矢が降り注ぐ。

「サンキュ」

「どうも」

 やはり思い出の地を穢されているとの思いがあってか、ルナはいつも以上に攻撃が苛烈である。

「せやあああっ!」

 一振りで何人も斬って突き刺し、そして薙ぎ倒す。

(やっぱり相当キレてるね。いいよ暴れな、ウチがしっかりバックアップするから!)

 ルナの背後からやってくる戦闘員をイドゥンは次々と撃ち抜いて邪魔を排除する。

「ここから……出てけ!」

 チャージして刀身にエネルギーを纏わせた状態でまるで槍投げのように太刀を投げて複数の戦闘員を刺し貫いてしまった。

「……ふぅ」

 あらかた戦闘員を片付けたことを確認したルナは刺さった太刀を取るべく壁へ向かった。

「!」

 まだ意識があった倒れた戦闘員がルナに向けて銃を向けていた。

「ルナ! 危な……」

 だが銃が放たれる前に、哀れな戦闘員は上から降って来た黒い影に踏みつぶされてしまった。

「ん? 終わったか?」

「さっき終わった、ナイスタイミング」

 マグナアウルは瓦礫から降りると先へ進んだ。

「二度と使えないよう完全にここを破壊する、先へ進むぞ」

 ルナは自分の太刀を引き抜き、マグナアウルのすぐ後ろについて行く。

「ここ何階まであるの?」

「下にあと三階層、この真下が実験エリアだそうだ」

 階下へ向かうと広大なアリーナのような場所に出て、その真ん中に巨大な柱が聳え立っていた。

「なにこれ?」

 近づくと下部に消灯したモニターが付属しているのが見え、マグナアウルはそれに触れて内部構造を解析する。

「……いいか、取り乱さないで聞いてほしい」

「え?」

「こいつはだいたい二十五メガトンの威力を持つ……爆弾だ」

 皆が驚くと同時に、宇宙語表記の数字がモニターに表示され、カウントダウンが始まる。

「爆弾⁉」

「ヤバいじゃん! 二十五メガトンって……」

「史上最強の威力を持つ水爆のツァーリ・ボンバの半分の威力だ。だが半分とはいえこんな山軽く吹き飛ばすなんて造作もないだろうな」

 ルナ(皐月)の脳裡に思い出の詰まった展望台が突然爆発し、電波塔やレストランが焼滅していく光景が浮かぶ。

「そんなの許さない! 絶対に!」

「大丈夫だ、あと……約五分。俺がこいつを……」

 その時、マグナアウルの背後に何かが現れ、彼を羽交い絞めにした。

「なんだ⁉」

「ボクでーす」

 突如現れたサイに驚く皆の前で、サイはマグナアウルを消してしまった。

「サイ⁉」

「何のつもり⁉」

「アウリィを借りるよ」

「何考えてるの⁉ 爆弾が……」

「あっそう」

 愚弄するかのように片足を上げて肩を竦めたサイは笑って告げる。

「爆発しないと良いね、頑張って」

 そのままサイも消えてしまい、残ったのは五人だけになってしまった。

「サイッアク! ああもうッ!」

「私達だけでどうにかしないと……」

「どうにかなるかな?」

「とりあえず外装を外して解体してみては……」

 その時背後のシャッターが開き、中から一機の三メートルほどの大きさのロボットが出現した。

「ねぇ、誰かサイアクの上位互換の言葉知らない?」

「あれって……自律殲滅オートマタだよね?」

 背の曲がった大きな類人猿を思わせるオートマタは、顔に当たる部分についた三基の回転するカメラアイで三人を認識すると、自身の拳をついてゆっくりとこちらへ向かってきた。

「ねぇ、一人抜けても大丈夫?」

 ルナに視線が集まるも、そのまま毅然として続ける。

「私が爆弾を解除する、時間は無駄に出来ない。みんなにはあいつを頼みたい」

「……ホラ」

 イドゥンが自分のヘルメットに装着されたスコープを渡し、ルナに着けるように言った。

「これは?」

「互換性はあるから着けられるはず、色々役に立てると思うから。まあウチは予備あるから大丈夫」

 そう言って予備のスコープを取りつけ、四人でルナの前に出る。

「半径二メートル圏内には絶対に近付けない」

「ありがとう、絶対に解除するから!」

 ルナがスコープを取り付けて太刀を爆弾の外装に突き付けた直後、オートマタはナックルウォークで四人の方へ走り出した。

「行くよ皆! あいつをぶっ壊す!」

「はい!」

「うん!」

「しゃあっ!」

 オートマタが跳躍し、様々な色の光刃や光線がそこへ向かって伸びていく。


 そのころ満天の星空を戴き、カラフルな光で彩られた電波塔が目を引く展望台では、マグナアウルがサイに食って掛かっていた。

「何のつもりだ」

「今からボクと戦ってもらう」

「爆弾があるんだぞ!」

「五分あるだろ? 五分以内にボクを退けられれば……」

「ふざけるな! 今はお前の気紛れに付き合ってる暇はない!」

 サイは納刀した状態の刀の柄頭で顔を掻くと笑みを更に深くして言う。

「ふざけてないし気紛れじゃないよ、緊急事態なんだ」

「俺は戻るぞ」

 後ろを向いたマグナアウルの背に凄まじい気迫が叩きつけられた。

「こうすれば……本気って分かってもらえるかい?」

 そう言いながらサイは刀の柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜き始める。

「!」

 鞘から抜かれた刃は何とも奇妙な造りであり、反りの部分にも刃があった、そして何より刃の色は眩暈を起こしそうな程深い紅色をしていた。

「本気か!」

「光栄に思う事だ、ボクに紅蛇(コーダ)を抜かせたのは数える程度しかいない。ふぅ、紅蛇も娑婆の空気が美味いとさ……んじゃ、始めようか」

 憤怒と享楽の相が刻まれた仮面を被り、サイは大きく息を吐く。

「轟……嵐ッ‼」

 一層気合が入った掛け声と共にサイの体がガラス結晶のようなものに包まれ、そこから巨大な刃が突き出て結晶を破壊し、中から斬馬刀サイズの紅い刀剣を持ったカプリースが現れた。

「本気のボクを……味わってもらうよ!」

 その宣言と共にカプリースの周囲が一瞬で凍り付き、その上の滑るようにカプリースが近付いてマグナアウルへ紅蛇を振り下ろした。

「くっ! スワロー()!」

 二本の剣を取り出して二撃目を仕掛けてきた所に反撃するも、剣が紅蛇と交わった途端、まるで木の枝の如く簡単に折れてしまった。

「なっ!」

「紅蛇はある刀工の最期にして最高の傑作なんだ、そんじょそこいらのナマクラと一緒にしないでくれ!」

「クソッ! アルバトロス(クロスボウ)! ブラックスワン(ショットガン)! レイヴン(サブマシンガン)!」

 三つの銃を合体させたマグナアウルはカプリースに向かって強力な一撃を放ったが、紅蛇で弾かれてしまう。

「弾いただと?」

「ハァッ!」

 氷で滑りながらの遠心力を利かせた大振りの一撃をカプリースが見舞い、ギリギリでマグナアウルは紅蛇を念力で抑え込んだ。

(なんだこいつ……これはサイの念力じゃない! まるで刀自体が押し返してるみたいだ!)

 氷の上で徐々にカプリースに押されていき、マグナアウルも後退していく。

「この……負けて……たまるかっ!」

 全力で押し返すと同時にカプリースはそのまま滑って後退し、紅蛇には青い炎がちらついていた。

「ほ~、紅蛇に押し返した上に火をつけたか」

「これでいいだろ、爆弾が……」

「まだまださ、先に言っておくが今から本気で仕留めるつもりで行くから覚悟しなよ」

 そう言うと周囲の冷気がより増し、カプリースは氷上を走り出し、空気すら凍らせて多角的で立体的な攻撃を始めた。

「はははっ! そぉらっ!」

 マグナアウルの装甲にまるで散弾のように細かい粒子が勢い良く当たり、思わず氷上で滑ってしまう。

「何だよ今の……」

 当たった部分に手をやると、そこだけが凍り付いている。

「今のは……水か!」

 そういえば初めて会った時「嵐はボクの専売特許」という事を言っていた事を思い出した。

(雷、水、氷、そしてこの高速移動は……風か)

 能力の傾向が分かってきた。

 考えてみるとこの戦法を無数の生き物相手に取れば水の粒子は体を簡単に穿ち、周囲一帯は血の雨になるだろう。

「まさしく『血の嵐を呼ぶもの』って訳か!」

「分かったみたいだね! さあどうする! これをどう抜ける! そらよっ!」

 マグナアウルは氷の上を転がってカプリースの水粒子攻撃を躱しながら手に青い炎を宿し、思い切り地面に叩きつけた。

「下らないな」

「なに⁉」

 超高温を発生させたはずだが、氷は全く溶けないどころか炎を消してしまった。

「まだ絶対零度なんて信じているのかい⁉ 下らない三次元空間の物理法則など無視してしまえ!」

 再び飛んで来た水粒子を剣で弾くも、剣の刀身のほとんどは凍り付いている。

(物理法則を無視だと? 何でもありかよ……)

 足にスパイクを生成してなんとか立ち上がると、散弾のように放たれる水粒子を跳躍して回避しながら旋回蹴りを放ち、周囲に生成された氷の塊とフェンスの一部を両断してしまった。

「うおっ!」

 氷の足場が崩れたカプリースはそのまま滑りながら体勢を整えてマグナアウルの方を見たが再び立ち上がって紅蛇を構えた。

「次元を断った……君は自分の力の本質を知らないようだ。だが、ボクが知りたいのはそれじゃない」

 その瞬間マグナアウルは吹き飛ばされ、体当たりされたという事を自覚する前に上から叩き落とされ、地面に辿り着く前に白い電撃弾を何発も喰らう。

「ぐあっ! くそっ!」

「君の力を見せろ! もったいぶるな!」

 倒れた所に水粒子弾を喰らい、激痛と共に体の所々が凍結してしまう。

 凍り付いた体を擦りながら、マグナアウルは反撃の一手を狙う。


 オートマタは自慢の巨腕を振り回し、自分の周囲を飛び回る者達を排除せんとしていた。

「くっ……はっ!」

 弓を槍に変形させ、アフロダイはチャージを発動して穂先にエネルギーを送り込み、槍を旋回させてオートマタの足を斬りつける。

「くらえっ!」

 足を斬りつけられた上にロケットパンチを喰らって仰け反ったオートマタは、内部機構を擦り合わせて〝咆哮〟を上げると顔側面から二門のレーザー砲を展開して放ってきた。

「あぶっ!」

 レーザーをミューズとデメテルがシールドを展開して弾き、この隙にイドゥンが背に乗ってライフルを乱射し、苦しそうな咆哮を上げて暴れ出す。

「あっちは大丈夫かな?」

 振り返るとルナが二本の小太刀を使って爆弾の外装を外し、スコープを覗きながら構造を解析していた。

 よく見ると爆弾の先にある壁にレーザーの跡が残っており、先程のレーザーが掠めてもなお気にしていない事から相当の集中力で爆弾を扱っている事がわかる。

「今は大丈夫そうかな」

「残り三分二十七秒……」

 腕を変形させて音波を放って殴ってくるオートマタの攻撃を避けながら、四人は爆弾からオートマタを遠ざける。

「ぐっ!」

「ミューズ!」

 拳こそ当たらなかったが、音波が命中して吹き飛ばされてしまった。

「くっ……ふっ!」

 拳銃と手斧を合体させて戦斧にすると、再び拳を振り下ろそうとするオートマタにフルチャージしてエネルギーが満ちた刃を向けた。

「やあああっ!」

 拳と斧刃が交わった瞬間、まるでバターを切るかのようにオートマタの腕が縦に引き裂かれ、オートマタは咆哮して痛みに悶える。

「みんな今です!」

「よし!」

 デメテルがロケットパンチでオートマタを吹き飛ばして壁に叩きつけ、そこにイドゥンがオーバーチャージを発動してアフロダイに向けて光弾を放ち、その光弾を穂先で受け取ったアフロダイはオーバーチャージを発動しながら槍を振り回し、跳躍して緑と紫の光の軌跡を描きながらオートマタの胸に槍を突き刺した。

「せやああああっ! てやっ‼」

 オートマタは断末魔の咆哮と共に壁ごと爆散し、アフロダイは槍を振ってエネルギーを散らし、勝利を飾るのだった。

「お疲れ」

「ありがとう、お疲れ様です」

「後は爆弾と……彼の行方か」


 カプリースの攻撃は苛烈さを増し、マグナアウルは打つ手が無くなっていく。

「このままだと死ぬぞ!」

 もう後がない、禁じ手を使う事にした。

「知らんぞ……どうなっても!」

 マグナアウルが手を叩きつけると黒い炎が発生し、周囲の氷は一瞬でそれらに飲み込まれる。

「!」

 黒い炎はカプリースをも飲み込もうと燃え盛るが、紅蛇の一振りで吹き飛ばされ、そのままカプリースの周囲に円を描くように残った。

「やはりこれは君だったようだね……一つ聞くが、この力が何か分かっているのか?」

 一切の攻撃行動を止め、カプリースは真剣な調子で聞いた。

「さあな、知らないんだ。この炎は気がついたら出せるように……」

「炎? 君はこれが炎に見えるのか?」

 黒い炎が燻る地面を紅蛇で抉り、マグナアウルの前に突き出す。

「どう見ても炎だろ?」

「どう見ても炎だって? ボクにはこいつが蠢く泥の塊に見える」

 カプリースは足元の黒い炎を踏みつけると一気にそれが体に燃え移ったが、それはやがて胸元の一点に集中して消えてしまった。

「死避け……あってよかった」

 腰元から黒く燃える札のようなものを取り出し、やがてそれは朽ちていった。

「サイ、お前はこれが何か知ってるのか?」

「警告しておく、なるべくその力は使うな」

「なに?」

「それはろくでもないものさ、君の身に破滅を齎す」

 カプリースの体が結晶化し、それが割れてサイの姿に戻った。

「それじゃ」

「おい待て!」

「知りたいことは知れた、今日は気分が悪いから帰るよ」

 追いかけようとしたが爆弾の事を思い出し、断腸の思いでマグナアウルは瞬間移動した。

「あ、来た!」

「大丈夫だった?」

「俺のことは良い、それより爆弾は?」

「まだ解除中」

 ルナが集中して爆弾を解体しており、まるで何かを探しているようにも見える。

「あと何分だ?」

「さっき二分ちょうどだったね」

「俺が運び出す」

「待って、あんた飛べたよね? そのときの最高速度どれぐらい?」

「マッハ六十」

「ろくじゅ……一分切るまでやらせてあげて」

「……分かった、一分切ったら俺が爆弾を運び出して宇宙空間に放り投げる」

 そんなやり取りも雑音と判じる程、ルナは爆弾に集中していた。

(これは……私がやる、私の仕事なんだ)

 小太刀でパーツを外し、スコープによって表示される指示に従って切れる配線を的確に切っていく。

(記憶が正しければ、アレはあるはず。必ず見つけ出す!)

 マグナアウルと自分の仲間たちが見守る中で、時間だけが無情に過ぎ去っていく。

「一分二十三秒……」

「いつでも準備は出来ている」

 残り数秒で仕事を全うできなければ爆弾はマグナアウルへ預けられる。

 そんな逆境の中、ルナの手はある物に触れた。

(これは⁉)

 スコープで調べてそれ周辺の構造を解析し、自分が求めていたものか確かめる。

 そしてついに判定が出た。

(これだ! 見つけたんだ!)

「三……二……一……」

「ふっ!」

 カウントが止まり、一瞬の沈黙がその場を支配する。

「……成功?」

「解除……」

 ゆっくりとルナが振り向き、爆弾に寄りかかって答えた。

「大成功!」

 クインテット達はガッツポーズして飛び跳ね、抱き合ったりハイタッチして喜びを分かち合い、マグナアウルは大きく息を吐いてその場に座り込む。

「良かったぁ! どうやって解除したの⁉」

「どんな爆弾にも誤作動を起こした時用に緊急停止スイッチがあるの。宇宙でもそれは同じかなって思ったから、それをずっと探してたんだ」

 緊張の糸が切れたのか、そのままずるずると床へ崩れ落ちてしまう。

「あー疲れた……」

「おう、お疲れ様」

 マグナアウルが何か小さいのを投げ、ミューズがそれを受け取った。

「えっ、USBメモリ?」

「協力への礼だ、そいつは絶対に役に立つ。白波博士に渡すと良い」

 カプリースの水粒子弾によって痛む身体を起こしながらマグナアウルは立ち上がった。

「あのさ、礼ついででさ」

「ん?」

「上まで……連れて行ってくれない?」

「ついでに爆弾も」

 少々うんざりするような顔を見せたが五人と爆弾に触れて瞬間移動し、夜の展望台へ向かった。

「わあ……」

「きれい……」

 大仕事をこなした後のせいか、こころなしか星がより美しく見える。

「あ、フェンスが……」

 マグナアウルが指を向けると、両断されていたフェンスが元通りにくっついた。

「これでいいか? じゃあ俺は帰るぞ」

 マントを広げて星空の彼方へ飛び去ったマグナアウルを見送り、五人はスーツを脱いでベンチに腰かけた。

「皐月」

「うん?」

「良かったね、いい仕事ぶりだった」

 奏音のサムズアップに、皐月はとびきりの笑顔とサムズアップを返すのだった。


To Be Continued.

皐月にフォーカスした回です。

十四話で星座に詳しかったのは実はこんなバックボーンがあったんですね。

そしてサイがついに本気を出し、マグナアウルが手も足も出なくなるほど追い詰めていましたね。果たしてサイは一体何を警戒し、そしてビグスは何を恐れているのでしょうか?

まだまだ夏は続きます、感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメをよろしくお願いします。

ではまた来週!

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