ベイサイド・サマータイム 後編
楽しいひと時は一変!
ジャガックの基地を探知した警報が鳴り響く!
京助にバレないように慎重に動く奏音達。
おとりを設置し秘かに動く京助。
楽しい夏を守る為、ここに両者が一致団結する!
バーベキューも終わり、コテージに戻って露天風呂を堪能した一行は、寝るには早いという事で何かしらやる事が無いか探していると、麗奈がある物を片手に走って来た。
「ウノがありました!」
「おお、サマーキャンプにピッタリ! ド定番アナログゲームだな」
「または友情崩壊ゲームとも言う」
「なんでそんなこと言うのよ」
「ドロー2の集中砲火を延々喰らえば誰だってイラつくっしょ」
「あぁ、それは言えてる」
「結託してターゲットにされて集中的にやられたら誰だって嫌だもんね」
色々言いはするものの、皆ウノをやる事には賛成なようだ。
「ん、待って麗奈。それウノか?」
「え、間違いな……あれ?」
「ん?」
「おぉ?」
「あれぇ~?」
「ほー?」
よく見ればそれは「ウノ」ではなく「ウノ ハンパねぇ!」であった。
「なんだ〝ハンパねぇ!〟って。何がどう〝ハンパねぇ!〟んだ?」
京助が両手の二本指を伸縮させるたびに変顔をし、その様子を見た皐月が拳で口を押えて背後を向いて笑を堪える。
「なんかデフォルトでドロー8とかありそうだね」
「友情崩壊度が加速してくねぇ」
「そういえばハンズでウノに似たドスってカードゲームが売ってるの見た事ある気がする」
「このハンパねぇ! も派生の一種なのかな?」
「説明書あるだろ、読んでみようぜ」
箱を開けるとカードの裏面が出てきた。
「待て待てなんか嫌なモンが見えたぞぉ……なんだ『NO MERCY』って」
「なるほど……だから〝ハンパねぇ!〟んですね」
「ノーマーシーって……どういう意味だっけ?」
「容赦ない、無慈悲って意味だよ。なんかヤバそうなウノって事はわかった」
付属している説明書を全員で囲んで読み始める。
「基本ルールは同じみたいね。でもワイルドカードが色々追加されてるみたい」
「でもドロー4にワイルド機能が無くなって色付きになってるね」
説明書を読み進めていくごとに、六人の顔が歪んでいく。
「ディスカードオール、全ての同じ色のカードを捨てれると……しょっぱなからやべぇモンが出てきたぞ」
「ス、スキップエブリワンだとぉ……こんな事が許されていいの?」
「リバースとワイルドドロー4が悪魔合体してる……」
「ワイルドドロー6だ……ついに6が出たよ。それに七と零のルールがよりスリリングなゲームにしてるよぉ」
「十枚ドローもある……こんなん出されたらウチ手ェ出るかも」
「純正のワイルドカードが廃止されてルーレットになってますね、あとさすがにゲームオーバーの概念も追加されたみたいです……」
「確かにこいつぁ……」
その名の通り、これぞまさに。
「ハンパねぇ……」
六人の声が同時に重なった。
「でもさ……楽しそうじゃね?」
「確かに、こいつで遊ぶと普段と違うスリルが味わえるかもな」
「ウノ自体やるの結構久しぶりだったりするからね」
「じゃあ早速やっちゃう?」
「さんせーい!」
面白さの為に無視するルールと罰ゲームを決め、その後のじゃんけんの結果、勝ち上がりにより最初の親は京助になった。
「よし、俺の華麗なシャッフルを見るがいい」
手早くカードをかき混ぜた後で海外のショート動画でよく見るようなシャッフルをひとしきりやって見せ、怪しまれない程度の念力を使ったパフォーマンスを交えて配り始めた。
『京助』
『ハイハイ分かってるって、こんぐらいでバレないよ』
「すごいねさっきの」
「偶に流れてくるからさ、何回か見てたら覚えちゃってな」
各自七枚分、合計四十二枚を配り終えた京助は余り札を二つに分け、その中間からカードを一枚取ると余り札を元に戻す。
「よしさて……ああ、ワイルドカードだ。えーっと、改めまして……よし!」
始めは黄色の三から始まった。
「始めよう、みんな自分の手札見ていいよ」
各々思い思いの反応を抜け目なく観察した京助は、まず同色のカードを出して無難な切り出しでゲームを開始させた。
ゲームが動いたのは二週目、明穂が零を出した時だった。
「はーい、手札一斉交換でーす」
「おお、どうする? どっちに交換する?」
「うーん……時計回りが良いんじゃね?」
左隣の林檎の発言を京助は聞き逃さなかった。
「いや、それだと面白くねぇ、コイントスだ」
「い! いんじゃね? まあ運次第だし」
取り繕ったがもう遅い、林檎は中々良いカードを持っているのは確定だ。
財布の小銭入れの五百円玉を取り出してからディーラー権限でトスをし、やはり自身の能力でイカサマをして裏を出した。
「裏だ」
「クソがぁっ!」
林檎が座ったまま数十センチ浮き上がり、その場に崩れ落ちた。
「サイアクサイアクサイアクサイアクサイアク」
「あのなぁお前、わかりやすすぎるんだよ」
「呪う、絶対に呪う」
「やめろよウノごときで呪われたくねぇ、ほらさっさと手札寄越せ」
中には渋々渡す者も居たものの、皆手札を交換したが林檎だけは頬を膨らませて渡そうとしない。
「林檎ちゃ~ん? ゲームの進行に支障が出ますので早く渡しましょうねぇ~?」
「……」
お互いにカードの端を持って引っ張り合いになる。
「人呼んで仏の京助さんも怒りますよ~」
「いい? ウチにドローカード出したら……」
「だからウノごときで……」
「泣くから」
「は?」
「あんたはウチを泣かせたという社会的汚名を背負う、そしてその二つ名の通り社会的に仏になるんだよ」
「まあそれもゲームの運次第って事で」
「えぇ~? 京助ってば林檎ちゃんタゲるつもり~? サイテー」
「なんでそっち側に着くんだお前は! いやさ、リバースとかある訳じゃん?」
「その場合私に来るんですよ~、京助君はひどい人です」
「ああ終わった、何も出来んわ俺」
冗談はさておきゲームは無事再開され、四週目の皐月の番の時の事。
「く……出せるカードがこれしかない」
ワイルドカラールーレットを出してから山札からカードを取るが、三枚を超えたあたりから露骨に表情が変わり、七枚目からついに唸り出した。
「ククッ……ヒヒッ……」
「ちょっとっ……京助ッ……笑ったらっ……ダメでしょっ……」
「さすがに……これはっ……」
ようやく目的の色を引き当てた時には手札の合計は十四枚になっていた。
「ダァーハハハハ! あー災難でござんしたねぇ~」
「ああ! 人の不幸を笑ったな!」
「うーん、他人がされてるの見る分には確かに面白いなこれ」
「カードショップ天海開店だな、あとで開店祝いとして花輪送っとくわ」
「ちょっと母さん! 京助がいじめてくるんだけど!」
「うわ汚ねぇ! やめろよ言いつけんぼ!」
とはいえカラールーレットを出した皐月のターンは終わったため、歯軋りしながら隣の奏音に譲るのであった。
「ごめんね皐月」
「え?」
「えいっ」
奏音が出したのはワイルドリバース4であった。
「ハァ、ホンットに……嫌い、大嫌い。ものすごく大嫌い」
「イヒヒ~ン」
うんざりした顔をして後ろへ仰け反った皐月だが、すぐに姿勢を起こして奏音に詰め寄る。
「一応聞かせて、色は何?」
「色? うーんと、青かな」
「ありがとう奏音! 撤回する、やっぱり大好き!」
そう言って皐月は青いドロー4を三枚、赤いドロー4を二枚と緑のドロー4一枚ずつを出し、林檎のターンが回って来た。
「ねぇもうサイアク、絶交」
「残念でした」
「……されるじゃんセンキョーに」
演技たっぷりに泣く振りをして林檎が出したのはドロー⒑とドロー6二枚、このまま行けば合計五十枚、受け取った時点で負けが確定する。
「何だお前ェ、散々ブーブー言ってたくせに人の痛みには無頓着なのか?」
「いやでもやる分は楽しいしね、でもあんた……」
「そうだよ、ホラヨ」
京助が出したのはドロー⒑、受け取った時点で敗北確定の爆弾は更に威力を増した。
「出し惜しみしている場合ではありませんね」
麗奈も同じくドロー⒑を出し、このままでは七十枚が奏音に襲い掛かる事になる。
「麗奈ちゃん……ごめん!」
「はい?」
「えいっ!」
出したのはワイルドリバースドロー4、合計七十四枚が麗奈に襲い掛かる事になった。
「え? えぇ⁉」
いつもは優雅さを醸し出している麗奈だが、今回は小さく「こんなの、こんなのって……」を連呼しながら流石に慌てている。
「え、マジで?」
「これレナミちゃんガメオベラ?」
必死にカードを探すも有効打を捻り出せそうなカードは存在しない。
「…………無いです」
その宣言と共に皆は大騒ぎ、麗奈は一人崩れ落ちた。
「カードショップ白波開店おめでとう!」
「いやそれにしても合計何枚? えーっと、ひいふうみい……七十九枚か!」
「大アルカナと小アルカナ合わせたタロットカードとだいたい同じぐらいかな?」
「こんなのって無いじゃないですかぁ!」
「いやだってカードスタックさせるルールで数の上下関係ルール無視しようって言ったの麗奈ちゃんだしね」
「みんなひどいです! 私をいじめて……」
「大丈夫だって、カードショップ開店した暁には客一号として行ってやるから」
「お父さん! 京助君がいじめてくる!」
「親連れて来た奴言いつけんのずるいわ!」
泣こうが喚こうが負けは負け。麗奈は七十九枚所持で脱落し、麗奈の持ち札はシャッフルされた後山札に加えられた。
「あー楽しいなウノって」
「……フン!」
「ゲーム継続ね」
麗奈が飛んで京助からになり、ゲームが進んでいく。
「クソ、俺もついにこいつを……」
二周したころ、京助がワイルドカラールーレットのカードを出した。
「あー、カードショップ千道開店?」
「花輪送っときますね」
「好き勝手言いやがって、すぐ引いたるわい」
結局十枚近く引き、手札は合計十八枚になってしまう。
「花輪送付決定ですね~、客第一号は私と奏音さんで手繋いで行きますね」
「チクショー!」
口ではそういうものの、京助は内心ほくそえんでいた。
(早く俺の番回って来ないかな~)
明穂により林檎がスキップを喰らい、思ったより早く順番が回って来た所で、京助は不気味な笑顔を浮かべる。
「何その笑顔は」
「絶対ヤバい、私達死ぬかも」
「さてと……パーティーの時間だベイベー!」
まず出したのはスキップエブリワン。
「はぁ⁉」
「はい、また俺のターンね」
そして次に出したのはディスカードオールに束ねられた九枚のカードであった。
「うわ!」
「はいどうぞ」
「京助君の手札一気に元に戻っちゃった! ヤバいよ!」
しかし奏音は見抜いていた。
(あの顔……絶対まだ何かある!)
案の定、奏音の予感は的中した。
「ハイドーン」
次に京助のターンが回って来た時、あろう事かドロー4を四枚投下したのである。
「うわ! ヤバいことすんね!」
ドロー6で奏音は事無きを得たが、これを押し付けられたら確実に二十五枚を超えてゲームオーバーになるだろう。
「悪いけど死ぬわけにはいかないから!」
「私もだよっ!」
「へあっ⁉」
現在四十二枚の爆弾が林檎に迫っていた。
「させるか!」
リバースドロー4で順番が逆転し、明穂は大慌てで温存していたワイルドドロー6を出した。
「ヤバッ!」
ドロー⒑を皐月と奏音が出し、七十二枚の爆弾が京助の頭上に吊り下げられた。
「……」
京助は無表情を貫き通し、周囲に緊張が伝わっていく。
「んっ……」
「まさか……」
「えぇ……」
正確には三十七秒後、京助のポーカーフェイスが破られ、同時に一枚のカードが場に叩きつけられた。
「あっ!」
「これは!」
「ふははははは! リバースドローだぁ!」
七十六枚の爆弾は今や奏音の頭上に吊り下げられている。
「……嘘でしょ」
これが決定打、七十六枚の爆弾は奏音の所で爆発し、ゲームオーバーとなった。
「シャァァアアッ! 脱落回避ィ!」
「ねぇサイテー! ホンットにサイテー! 彼女ハメるのは九千不可思議歩譲って良いとして、それ喜ぶとかホントにホントにホンットに! あり得ないんだけど‼」
まさかの隠し玉に京助が喰らうと思っていた麗奈はもはや唖然としていた。
「あぁぁぁ! みんなでやるゲームは楽しいなぁ! 神ゲーだなぁ! ハンパねぇ!」
奏音にどつき回されながら京助はゲラゲラと笑っている。
「サイテー! サイテー! バカバカバカバカ! 京助のバカ!」
「ウチ前集中砲火された事あって嫌い寄りだったけどやっぱウノ好きかもしれんわ」
「シャーデンフロイデに林檎が脳を焼かれている……」
「フゥ! サイコーだぜ、気分がいい」
完全に脳内麻薬の虜である、もはや何を言っても今の京助にはファンファーレだろう。
「もう! 京助なんか! き……き……」
奏音は歯噛みした後持っていたカードを投げ捨てて皐月に泣きついた。
「皐月ぃぃぃぃいいいい! 京助に嫌いって言えないよぉぉぉぉぉおおおお!」
「え、なにその新手の惚気は」
「悔しぃよぉぉぉおおお!」
「え~、俺のこと大好きじゃ~ん」
「うるさい! あんたなんか大ッ! ……大ッき……やっぱ言えないぃぃぃぃぃいいい!」
「ハイハイ分かったっての……」
大泣きする奏音をよそに、ゲームは再開されるのであった。
「いや~激戦だった」
この後は皐月は自分が出したドロー6が切っ掛けのしっぺ返しを食らって三十六枚で脱落し、京助は仕掛けられる攻撃をひらりひらりと躱しながら最初にゲームを上がり、そして最後は明穂と林檎の大接戦となった。
最初こそ明穂が優勢だったものの、七のカードのルールで手札が交換されて逆転し、林檎がゲームを上がって決着がついた。
「いひひ~、ウチ大勝利~」
「おめでとうユメリンゴ。ウノリンゴって呼ぼうか?」
「それはヤメテ」
「負けちゃったけど……まあ三位か」
明穂がニヤッと笑って脱落組を見て、三人は腕を組んでぷいっとそっぽを向く。
「一応順位つけると、センキョーが一位でウチが二位、んでアッキーが三位。サッキーが四位で……どっちがドベ?」
奏音は何故か言葉を発さず、麗奈に向かって自分の胸に手を当ててから両手で七の数字を作り、少し場所をずらして両手で八の数字を作った。
それを見た麗奈は同じく自分の胸に手を当てて、両手で七の数字を作った後、場所をずらして四の数字を作る。
だがそれを見た奏音は顔を顰め、激しく手を振りながら「自分は覚えてる」「本当は七十九だろう」といった類の意向を伝え始め、それを見た麗奈は目を伏せて顔を竦めて両手で九を作って見せた。
「もう喋れよ」
「私がビリですっ!」
やけくそ気味に言った麗奈を見た林檎はニヤリと笑うと、スマホを取り出しながら言った。
「レナミちゃん、罰ゲーム……覚えてる?」
「うぐっ……えぇ、なんでしたっけ」
「今ならオトク、選べる三種の罰ゲーム付き」
「三つもやりませんからっ!」
「選べるって言っただけなのに、サービス精神旺盛だな」
「お父さん! 京助君が……」
「もういいってそれは!」
麗奈は三種類の罰ゲームから悩んだ末に選んだのは、林檎が引っ張って来た甘々シュチュボの脚本から指定された一文をカメラの前で感情こめて読み上げるというものであった。
「イヤー! こんなのダメですッ!」
「まあでも……罰ゲーム入れようって言ったの麗奈だしね」
「てか麗奈ちゃんってさっきから自分の提案で自爆してない?」
そもそもドローカードの数字の序列ルールの無視も、罰ゲームの導入も麗奈の提案である。
「うぅ……何も言い返せません」
いい感じのものを見つけ、項垂れながらも麗奈は明穂が向けるカメラの方を見る。
「ハァ……やります」
拳を顎に当て、潤んだ上目遣いでカメラを見ながら、麗奈は口を開いた。
「お兄ちゃんの事……ずっと待ってたんだよ?」
沈黙の最中、林檎が京助の方を見て「審査員、どうですか?」と聞き、京助は自分を指差しながら「え、俺が審査員なの?」とリアクションし、とりあえずその辺にあった紙にある文字を書いて皆に見せた。
「GOAT……って何?」
「え~、グレイテスト・オブ・オール・タイムだそうです」
「そんなに良かった?」
しばらく固まっていた麗奈は顔を押さえて崩れ落ち、よく見ると耳まで真っ赤になっている。
「恥ずかしかった……お嫁にいけないです……」
「引く手数多っしょ」
「ヤダなぁ、シュチュボで婚姻申し込んでくる奴」
「言えてる」
「もうウノはこりごりです……」
もう一度ウノをやろうかと京助が提案したものの全員から強い拒絶を受け、その後はテレビに備え付けられていたゲーム機を使って対戦型格闘ゲームをやったりして、皆思い思いの夜を過ごすのであった。
二日目の朝、蝶番が軋む音で奏音は目覚めた。
「んん……」
「ああ、すまん。起こしちまったか」
「京助……おはよ」
時刻は朝八時半、そろそろ起きなくてはならない。
「どこ行ってたの~」
「シャワー入ってた」
「どっか行ったの? ふぁぁ……」
奏音は目を半開きにしたまま、寝癖がついた髪をかき上げる。
「目覚めが良かったからここら辺ぐるって回って来たんだ」
未だにふにゃふにゃの奏音の顔を引っ張って遊んでいたが、目が覚めてきた奏音に威嚇されたのでやめた。
「目覚め良かったって、いい夢でも見た?」
「ああ、父さんと母さんの夢だ」
奏音は思わず目を見開いて京助の顔をじっと見る。
「それ本当?」
「ああ、久しぶりに楽しい時の夢を見たんだ、起きた時は切なかったけど、いい夢だったよ」
「そう、良かった」
笑う京助の顔に触れ、近寄って来た京助の口に指を置く。
「なにこの指は?」
「チューはなし、朝で歯磨いてないから!」
「俺は気にしない」
「私が気にするの!」
しゅんとなった京助になんだか申し訳ない気もしながら、二人は階下に降りて皆で朝食を囲った。
「今日は何をしようか?」
白波博士の問いに京助がビュッフェのソーセージをパンに乗せながら答えた。
「近くにいい感じの山があったんですよね」
「ああ、あの山か! あそこには川があって遊べるぞ。車で行けるから連れて行ってやろう」
「お父さん、そこでバーベキューしたらどう?」
「一応リゾートの一部だから機材はあるが、昨日の夜もバーベキューだったし、それになぁ……」
「これですね、やりたくなりますもんね」
実久がプルタブを開ける仕草をする。
「車だから無理か……」
「あの~」
おずおずと颯司が手を上げ、皆から注目されたことに若干の気まずさを覚えながら口を開いた。
「俺……流しそうめんやってみたいっす」
皆ハッとしたような表情になり、お互いの顔を見合う。
「たしかにサマーキャンプの定番だよね」
「そうめんは飽きる程食べたけど、流しはやってないかも」
「いや~いい気付きだったね颯司、さすが! 偉い!」
「そこ気付かなかったわ、さっすがアッキーの弟だね」
「でも流しそうめんの諸々の設備ってあるんでしょうか?」
「どうだったかなぁ、多分あるとは思うんだが」
「無けりゃ作ればいい」
「え?」
「みんなでいい感じの竹見つけてきて作ればいいだろ? それもそれでいいアクティビティじゃん」
「作るの⁉ 私も作りたい! 竹切りたい!」
「夏穂ちゃんには……早いんじゃないかねぇ、竹って意外と強いんだぜ」
「京助お兄ちゃんのイジワル!」
「い、いやなぁイジワル言ったんじゃなくてなぁ……」
夏穂にそっぽ向かれた京助は慌てて取り繕うべく何か代案を考える。
「まあまあ、竹でスリングショット作ってやるからそれで我慢してくれ」
「ホント⁉」
「パチンコ玉飛ばせる奴ね、空き缶も一発で穴が開く」
「危ないもの妹に渡さないでね……」
朝食を摂って休憩した後、白波博士の運転で山の中へ向かい、倉庫の中へ入っていく。
「お、これじゃない?」
皐月が「ながしソーメン」と書かれた段ボールを見つけ、京助と二人で運び出した。
「これちゃんと大人数用だね」
「組み立ては後でやるかね。よし! 遊ぶか!」
流れの緩い所を泳いで水を掛け合ったり、また水鉄砲で撃ち合いをしたり、一部は白波博士について行って上流で釣りをした。
「白波先生……すごい!」
「私にかかればどんな場所でも入れ食いさ!」
「私が捌いてもいいですか?」
「おお、できるのかい?」
「調理科なんで!」
焼いた魚を想像して思わず舌なめずりをした白波博士は、再び大物を釣り上げるのだった。
「夏だねぇ」
「ああ、夏だな」
水着姿で濡れた髪を後ろに撫でつけながらそうめんを啜り、京助達は川の流れや照り付ける太陽といった大自然を満喫していた。
「センキョーのオリジナルブレンド汁めっちゃうめーじゃん。めちゃくちゃ麵が進むわ」
「だよね! 京助お兄ちゃん、お姉ちゃんと同じぐらいすごいかも!」
「いやいやそりゃないって……」
「にしてもこういうの、高校生になってするとは思わなかったな」
「そうねぇ……この自然の中で食べるそうめんがこんなにウマいとは思わなんだ」
そうめんを啜ったり流れてくる麺を取り合ったりしていると、鼻腔を香ばしい匂いがくすぐった。
「焼けたよぉ!」
明穂が団扇片手に皆へ呼びかけ、それと同時に全員が明穂へ群がった。
「みんな早いよぉ」
「美味そうだな」
「サッと焼いただけだけどね。余ったのは今夜味噌焼きにするつもりで浸けてまーす」
「マジで明穂ちゃん居て良かった、旅が何十倍も楽しくなってるよ」
「ありがと奏音ちゃん」
「そうデスかね? んふふふふ」
何故か明穂本人よりも弟の颯司の方が嬉しそうである。
「美味い飯ってのはやっぱ人生を豊かにするわけだな。将来立派なシェフになるぜ」
「そんなぁ、まだまだ道半ばだよ」
「姉ちゃんあれ言わないの?」
「あれって?」
「ホラ、光井さん達に言ってたやつ。料理道は道じゃなくて海みたいなもので、深海に僅かな装備のみで向かうように行っても行ってもキリがない……」
「ヤーッ! やめてぇ~っ! 恥ずかしいっ!」
明穂は颯司に半ばタックルするかのように飛びかかり、体を密着させて口を塞ぎ、耳元で囁くように言った。
「あんまり人前で言わないでっ!」
だが颯司の方はというとそれどころではなかった。
お互い水着姿ということもあり地肌が密着し、腕に立派なモノが二つ……。
(姉ちゃんの……姉ちゃんが……俺の腕に! ヤバイ!)
「あぁっと……明穂サン?」
「え? あぁ、オホホホホ、何ですの京助殿?」
相当焦っていたせいでどういう訳かエセお嬢様のような口調になっており、京助は苦笑しながら続ける。
「颯司苦しそうだよ、解放してやれよ」
「……あっ」
白目を剥いて顔を真っ赤にしている颯司にようやく気付いた明穂は慌てて飛び退いた。
「ごめん颯ちゃん! 苦しかったよね! ごめんっ!」
「あ……あわわわ……」
言葉をうまく話せなくなった颯司の顔に水鉄砲を撃ち、何とか現実に引き戻すのであった。
そうめんと魚を食べ尽くした後はまた二時間ほど遊び、疲れた皆はコテージに戻って一休みしていると、突如警報が鳴り響いた。
「!」
白波博士とクインテットメンバーは血相を変えて音の方角を睨んだ。
(なんでこの警報が⁉)
これは緊急出動要請の際の警報と全く同じであった。
(今ここで?)
そして京助の方も。
『おいトト』
『ええ、間違いありません』
『〝何か〟があるな』
両者ともジャガックがこの付近で何かをしていることに気付いたのである。
「この警報なんだ?」
「ちょっ……ちょっと待っててくれ? 確認してくるから」
白波博士が向かうと警報が消え、しばらくして走って戻ってきた。
「誤報だったみたいだ! すまないね」
「な~んだ……ふあぁ、眠くなってきた」
「あ、遊びすぎなんじゃな~い?」
「そうだな、ちょっと昼寝してくる」
京助の思わぬ申し出に五人は目だけを動かして意思を伝える。
「メシ前には起こして」
そう言ってあてがわれた部屋に向かい、京助は素早く左右を見て眉間に二本指を乗せて自分の頭を押すと、京助の口から煙が吐き出されてそれは京助瓜二つの姿になった。
「んで本物君、俺は何すればいいの?」
「寝るだけでいい、もし呼ばれたら俺に伝えてくれ」
「了解、おやすみ」
自分のドッペルゲンガーがベッドに潜り込もうとした直後、迫る足音を聞いた京助は咄嗟に窓から飛び出てコテージの外壁に張り付く。
「危ねぇ……油断も隙もあったもんじゃねぇな」
そのまま跳躍して反応があった場所へと向かった。
「寝てる、大丈夫」
颯司はドアの隙間からベッドに横たわる京助を確認すると、階下で様子を伺う姉に向けて大きな丸のサインを出す。
「よし! 急ごう!」
「転送鍵はあるな⁉」
五人はしたり顔で微笑むと、コンマ一秒以下のずれもなく同時にポケットから取り出して見せた。
「いつも携帯しろって言われてますからね」
「いい子たちだ」
「白波先生、私にも何かできないでしょうか?」
「お母さん!」
「そうですね、機材を扱えますか?」
「やってみます」
「わかりました、具体的な位置を割り出すのを手伝ってもらいます。君達はここで待機してくれ、位置が分かれば私がそこへ送り届けよう」
白波博士と実久はコテージを出て近くのホテルに向かい、受付として待機していたスタッフに断り、社員証を翳して隠し部屋に入る。
「こんな所があったとは……」
「有事の際にはここが避難場所になります。災害時もそうですが、地球外からの侵略や総攻撃が起こった時にこそ真価を発揮する手筈です」
「だからホテル事業にも手を出してるのね……納得したわ」
自分が勤めている会社とはいえ、実久は財団の底知れなさに畏敬の念すら覚えた。
「実久さん、このタイプは使えますか?」
「ええ、化学部が使っているのと同じものです」
モニターに付いた電源ボタンを押し、周辺の地図を表示して今なお発生している微弱な信号を辿り始める。
「出ました!」
「おお!」
画面を見るとそこは入り組んだ山中にあり、車で行くのは難しそうである。
「これはちょっと……どうしますか白波先生?」
「……ちょっと君、いいかい?」
「はい?」
受付のスタッフに白波博士が声をかけ何やら耳打ちをした後で、棚の中に吊り下げられていた鍵を受け取った。
「先生、その鍵は?」
「それは見てのお楽しみです、あの子たちを呼びましょう」
皆をホテルのエントランスに呼び出すと、先程の隠し部屋のさらに先にあるドアを受け取った鍵で開錠する。
「うわぁ……」
「すっげ」
そこには近未来的な外観の隠し通路が広がっており、先の見えない通路をいくつもの電灯が手前側から点いて廊下を照らした。
「こんな所あったんだ」
「ああ、この先にある物を見ればみんなぶったまげるぞ」
何やら楽しそうな白波博士は小走りで先へ向かうと、通路の途中の左手側にあった大きな扉の前で立ち止った。
「ああ、武者震えがする。こんなの久しぶり……若い時以来だからな」
何やらニヤニヤしている白波博士を遠巻きに見ながら顔を合わせていると、徐々に扉が開き始めた。
「おお、これは……」
「こんなのが……こんな所に」
「ハハハハハ! これぞ財団の技術の粋! 無重力ジェットさ!」
そこにはステルス機を思わせる大型ジェットが鎮座しており、そのあまりのアンバランスさに白波博士以外は口をぽかんと開けて眺めているのみである。
「まだ試作段階だが……フッフフ……これを飛ばせるとは思わなかった!」
「待って先生、飛ばせるの?」
「お父さん、昔は次世代飛行技術の研究をしてたんです」
「その通りだ! 飛行機関連の免許は網羅している! 早くみんな乗るんだ!」
博士が自分のスマホを操作するとジェットのエンジンがかかって昇降口が開き、全員乗り込んだのちに扉が閉まる。
「すげぇ、めっちゃ広いじゃん」
「今後もこれで出動できたらいいのにな」
「そうなるときは有事だ」
「ああ……だったらヤダ」
「ここが操縦席? 操縦桿とか何もないね」
「どうやって動かすんですか?」
「見て驚くなよ」
操縦席のボタンを押すと博士の周囲に立体映像画面が展開され、そこに手を翳すと小さな二つの球体が手中に収まった。
「これは手の動きで操作する。簡単なコツさえ掴めば誰だって動かせるよ」
「私でも?」
「ああ、皐月君だって動かせるよ。何なら颯司君や夏穂ちゃんでもな」
「それは言いすぎじゃないデスかね……」
「どうだかね、早くつかまれ! 発進するぞ!」
手中の光球を動かして操作すると、滝壺に偽装された隠しハッチが開き、それと同時にジェットが垂直に浮遊してその場で加速した。
「うわあああああっ⁉」
「速い速い速い!」
「潰れちゃうってぇ!」
「ハハハハハハ! フォーゥ!」
白波博士はまるで子供のようにはしゃぎながらジェットを飛ばし、他六人はあまりのスピードに驚いて座席や隣の者にしがみつくばかり。
「こんなのバレないんですか⁉」
「安心しろ、光学迷彩を施してあるし、無重力技術を使っているから音はほとんどしない。それにな」
「……そっ、それにぃ⁉」
「これ飛ばすのめちゃくちゃ楽しいぞ! ハハハーッ!」
悪夢めいた飛行は約十数分で終わりを告げ、白波博士はジェットを止めた。
「ハァ……名残惜しいがフライトは終わりだ。快適だったかね?」
「いいえちっとも……」
「全然名残惜しくないッス……」
「有事じゃなくてももう乗りたくない」
「お父さんが『飛行バカ』って言われてたの何故だかわかった気がする……」
「そうか、フィードバックしておくよ。さあ、ここから降下してもらうがいいかね?」
荒いフライトでグロッギー気味だった五人はすぐに立ち上がり、各々の転送鍵を掲げる。
「若いっていいわね……お母さんへとへとだよ……」
認証コードで鍵パーツを出し、頭上のスーツを展開して四肢に黒い鎧が装着されていく。
「全員装着! GO! クインテット‼」
全員がスーツを纏い、実久と白波博士の方を振り返った。
「おお、実際に娘がスーツ着るのを見るの……なんか新鮮」
「じゃあ、いっちょガンバって来ます!」
ルナがサムズアップした所で背後の降下口が開き、皆そこへ向かいながら追加武装を取った。
「気を付けて行くんだぞ!」
白波博士の激励を背に、皆は次々と降下していくのだった。
そして京助は山の中を飛びながら回り、やっと正確な位置を目視することが出来た。
「あれだな、見た感じ地下施設っぽいな……んでこの音はなんなんだ?」
『静かですが……確かに何かが来ていますね』
「シィィィーンって感じだな、何だろう」
さらに目的地に近付くと妙な気配がやってきた事に気付き、目を手で覆って千里眼の応用を発動する。
「光学迷彩が使われたデカいジェット機……これたぶん地球製だな。という事はだ」
何もない空間から黒い影が五つ降りていく様を見て、京助はニヤリと笑った。
「来てたのか」
『早く行かないとあなたの分が無くなりますよ』
「分かってるっての!」
アウルレットを右腕に出現させて手を翳し、次元断裂ブレードを展開したと同時に跳躍する。
『次元壁、断裂』
「招ッ! 来ッ‼」
空中でマグナアウルに姿を変えると、そのまま地面を突き破って地下へ深く潜るのであった。
「わっ、何この音?」
巨木に偽装された出入口を蹴破って侵入して数分後、急に響いた爆音にイドゥンはライフルを向けて警戒する。
「結構遠くだね」
「確かに、見た感じ実験場っぽいから何か失敗した音なんじゃないかな?」
「あるいは……彼が来ているのかもしれません」
「あ~、あり得る。上から突き破って来たのかも、ドアから入るって概念を持ってないからさ」
エレベーターに乗り込んで最下階に降り、そこで一同は息を飲んだ。
「これは……」
「兵器工場!」
まず目についたのは見上げる程の高い天井と、ずらりと並んだ大量の中型歩行戦車、その少し上にはホバークラフトと思われる乗り物が並んでいた。
「これだけの量よく作ったよね」
「一体誰が……あっ」
「あら……」
「おぉ……」
大勢のヘルメットを付けた作業員が固まってこちらを見ていた。
「ハハ、どうも」
デメテルがグレネードを射出したと同時に戦闘が始まり、作業員たちは腕のマルチコンソールをいじって装甲を纏うと一斉に突撃してきた。
「オラオラ! 久々の乱戦じゃい!」
「はっ! 喰らえっ!」
ミューズの拘束弾やルナの斬撃飛ばしの援護がありつつライフルを乱射しながら敵の第一陣を切り開き、イドゥンは素早く歩行戦車の真下に滑り込んだ。
「あ、悪いこと思いついた」
イドゥンはそのままウォーカーを吊るしていたフックを撃ち抜いて地面に降ろすと、ハッチを無理にこじ開けて中に入るとハッキングを仕掛ける。
「よーし、起動。みんな! 一機鹵獲したよ!」
「おお、よく出来たね」
駆動音を響かせながら足が動き出し、主砲が火を吹いて対面のラインに並ぶウォーカーごと戦闘員を吹き飛ばしてしまった。
「おわっ! 気を付けてよ!」
「ゴメンゴメン! 今からちょっと暴れるから気を付けて!」
八本脚を伸縮させて飛び上がり、戦闘員を押しつぶしながら付属のマシンガンを放っていく。
「ちょっと上……乗るよっ!」
デメテルが主砲を鉄棒のように掴んでウォーカーの背に飛び乗ると、ビームキャリアを展開して高火力ビームで周辺一帯を悉く焼き尽くし、他メンバーも追随してウォーカーの背に乗った。
「いい移動手段だね」
「今回はこれ使って大暴れしてやっかんな!」
近くの壁を主砲でぶち抜き、五人は別エリアへと向かった。
「よしこれでここ等一帯を……うわわわわっ⁉」
銃声と共にいきなりコックピットに細かい穴が開き、足が削れてバランスが崩れた。
「ちょっと何⁉ 何事⁉」
「ああああっ! 落ちるっ!」
「危なっ! 掴まって!」
「どっから来た⁉」
「……はぁ?」
聞き覚えのある低くてぐぐもった声が聞こえ、バランスを崩して傾いだウォーカーの上からクインテット達はその声の方角を見た。
「マグナアウル!」
「来てたんだ……」
サブマシンガンを構えたマグナアウルがこちらを見ていた。
「そ、そうだ! ちょっと危ないでしょ! なんで攻撃したの!」
「すまな……いや、そんなものに乗っている方が悪いだろ」
「ああ、たしかに。ごめん」
鹵獲したとはいえ敵陣の兵器を使っている上にいきなり壁を破って出てきたとなれば誤解されるのもやむなしだろう。
「怪我は無いか? 死後一時間以内までなら完璧な形で蘇生できるぞ」
「その確証はあるの?」
「試したからさ」
「どうやって?」
「出来れば知らない方がいい類の話だが……」
「あ~いい、言わなくていいよ。みんな大丈夫?」
ハッチが勢い良く開いてイドゥンが現れ、極度の緊張状態からの反動からかその場に崩れ落ちた。
「誰かウチの体に穴空いてないかだけ確認して?」
「空いてないよ」
「良かった……てかどうしよ、移動手段が潰されたよ」
「こんな広い所いちいち歩くの大変だし……」
「それに戦闘にも使えて便利なのに……」
「あーあー分かったから全員そこからどけ」
やや投げやりな調子のマグナアウルに従うと、左腕からフック付きチェーンを取り出して壊れたウォーカーに投げつけ、しばらくするとチェーンに電撃のようなものが走り、損傷部分が直ると同時に装甲が変化した。
「おお!」
「こんな事も出来るんですね!」
「ありがとうマグえもん」
「なんだマグえもんって……まあいい、移動と戦闘にはそれを使うと良い。ちなみにあっちならすでに制圧した」
ごたごたで気付かなかったが、煙や火が向こうの扉からちらちらと見えている。
「となるとあっちだよね」
「そうだな、シュービル」
対物ライフルが轟音と共に巨大な青白い半物質弾を吹き、扉どころか壁に巨大な大穴を開けた。
「毎度思うけど本当にデタラメだよね」
「行かないのか? だったら俺が全部片付けるぞ」
慌てて五人は改修ウォーカーに乗り込み、浮遊して移動するマグナアウルの後を追う。
「おいでなすったな」
騒ぎを聞きつけたのか戦闘員達がホバークラフトやホバーバイクに乗って飛来し、奥からは小型ウォーカーがぞろぞろと這い出してきた。
「イドゥン! ぶちかませ!」
「言われなくても! やってやるよっ!」
先程よりも強力な砲撃が戦闘員達を吹き飛ばして床を抉り、それでも回り込んでくる小回りの利くホバークラフト隊をミューズやアフロダイが射貫き、ルナとデメテルが遠方のウォーカー隊を薙ぎ払う。
「アルバトロス、ウッドペッカー」
マグナアウルの方は対物ライフルにクロスボウとハンドガンを合体させると、さらに長くなった銃を相手に向けて鏃型の青白い光弾を射出し、ホバークラフトや小型ウォーカーをぶち抜いて壁に大穴を開けた。
「これも喰らいな!」
補助アームにマウンドされた機銃から青い炎が噴き出し、戦闘員や工場ラインを次々と焼き尽くしていく。
「逃がすかっ!」
「セイッ!」
ミューズの拘束弾が開かれた扉に張り付いて逃走を阻み、そこへ間髪入れずにルナの斬撃が飛んで、逃げ出した敵をほぼ殲滅してしまった。
「まだいるな。スワロー」
マグナアウルは銃を地面に突き立てると、無数の剣を生成してこちらに向かってくるウォーカーの一団を全てズタズタに引き裂いてしまう。
「さてと、あっちには何がある?」
「そりゃ行くっきゃないよね?」
「だな」
ウォーカーの主砲で壁を壊して先へ行くと、そこにはクインテットが使っている中型ウォーカーより遥かに巨大な超大型三足歩行ウォーカーが二台待機状態で鎮座しており、そのうち一台に数人の戦闘員が乗り込もうとしているのが見えた。
「させるかっ!」
「喰らえっ!」
主砲、高火力ビーム、飛ぶ斬撃と合体銃による一斉攻撃で戦闘員ごとコックピットが抉られ、それと同時にウォーカーが爆発して戦闘員達は吹き飛んでしまった。
「よし、今度はあっちを!」
もう一台を破壊しようと主砲を放つも、なぜか全く効いていない。
「ん? なんで?」
「はっ!」
「えいっ!」
ミューズやアフロダイがチャージして追撃するも同じく効果は全くない。
「だったらこいつはどうだ?」
先程使った剣を引き寄せて銃先端に番えると引き金を引いて射出したが、剣は命中した途端粉々に砕け散った。
「……まさか」
そのまさかだよと言わんばかりに待機状態のウォーカーから駆動音がして、折り畳まれた足が展開して地響きのような音を立てて地面に着き、その身から様々な武器を展開しながら立ち上がった。
「なぁ……なんじゃこりゃ!」
ただでさえ待機状態で自分たちのウォーカーよりも大きかったものが、各部を展開したことでさらに巨大になっている。
「なるほど、効かなかったのは表面にサイコエネルギーを使ったフォースフィールドを張っていたからか! 一旦引け! こればかりはあまりにも分が悪い!」
「アンタほどの奴がそう言うな……うわあああっ!」
僅か数センチ先に尖った脚が突き刺さり、イドゥンはウォーカーを操作して咄嗟に回避して先程小型ウォーカー隊と戦った場所へ逃れるも、その巨体を生かして壁を破壊し、前方四門の機銃でマグナアウルとクインテットが乗るウォーカーを追い回し始めた。
「くっ!」
「ちょっと待ってて! デメテル! バリア張るよ!」
ミューズは拘束弾を上空に放ち、デメテルが高火力ビームを放ってドーム型バリアを発生させて凌ぐも、圧倒的な弾幕に思わず後退してしまう。
「おいデカブツ!」
マグナアウルの呼びかけへ巨大ウォーカーが振り返った所に、先程ウォーカー隊を全滅させた時に使った無数の剣が飛来し、その圧倒的物量を前に少々仰け反ってしまった。
「貰った!」
瞬時に背後へ回って合体銃を放ち、鏃型の光弾がウォーカー本体に命中するも、多少の焼跡と電撃が走った程度で大した効果は上がっていない。
「チッ、ダメか。ブラックスワ……ぐあっ!」
主砲がマグナアウルの足元に着弾し、咄嗟に回避するも床を抉るほどの一撃は凄まじい衝撃波を生み、空中のマグナアウルとクインテットのウォーカーを吹き飛ばした。
「ああっ!」
「くっ!」
大きく揺れるも咄嗟に立て直して後退し、巨大ウォーカーに攻撃を加え始める。
「喰らえっ!」
デメテルによって放たれたロケットパンチがウォーカーに張り付いてエナジーアンプリファイヤとなり、全員フルチャージを発動して攻撃を加える。
「全然効いてない!」
「かと言ってオーバーするわけにもいかないし」
再び始まった砲撃を回避しながら適度に反撃しつつ、フラッシュグレネードを使ってその隙に工場ラインが崩れた所に身を隠した。
「あれ強すぎ!」
「どうにかして潜り込めないかな?」
「無理でしょう、近付いたら蜂の巣か踏みつぶされます」
「じゃあどうすればいいの?」
「……考えがある」
いつの間にか隣に来ていたマグナアウルに皆驚くも、本人はさほど気にせず物陰から機銃を掃射しながら自分たちを炙り出そうとしている。
「無事だったのね」
「お前達はここを出て逃げ回りながら攻撃を続け、俺が合図したら一斉に畳み掛けろ。もしかしたら突破口が開けるかもしれん」
「そんな事して私達大丈夫なの?」
「安心しろ、お前達は大手を振って帰れるさ」
「わかった、信じるからね! イドゥン!」
「アイアイキャプテン! 皆行くよ!」
ウォーカーの脚が伸縮して跳躍し、それと同時に主砲と副砲が火を吹き、エナジーアンプリファイヤに吸い込まれて大きく仰け反るも、即座に反撃を開始した。
「ミサイル! ミサイル撃って来た!」
「任せてくださいっ! ハッ!」
アフロダイの光の矢が分散してミサイルを撃ち落とすも、今度は機銃の掃射が始まる。
「ミューズ、拘束弾で機銃を封じれる?」
「多分出来ると思うけど、そこまで長続きはしないよ」
「少しでいいよ、やっちゃって!」
ミューズの拘束弾により機銃の先端にドーム型バリアが形成され、機銃がスパークして破壊されてしまった。
「よし、今だ! やれお前達!」
全員再びフルチャージを発動し、今度はイドゥンも加わって一斉射撃を加えた。
「ブラックスワン、レイヴン、シュライク!」
合体銃にショットガンとサブマシンガンを加え、先端に投槍を番えて後ろに回り込む。
「うおおおおおっ!」
マグナアウルの装飾が青白く輝き、先端に番えた投槍にエネルギーが収束していく。
「早贄・大翼乱舞ッ‼」
銃器五個分のエネルギーが籠った投槍が突き刺さり、超巨大ウォーカーはついに前のめりに倒れてしまった。
「おおおおぉ!」
「倒しました!」
一点に攻撃を集中させることでフォースフィールドの層を厚くし、その分薄くなった後方へ攻撃を加えることで撃破するという戦法は功を奏し、有効打を与える事に成功したのである。
「フッ……」
合体銃が崩れ去り、クインテットの方へ向かおうとした時、皆予想だにしない事が起こった。
「⁉」
「マグナアウル! あぶな……」
倒れたウォーカーの主砲が動いてマグナアウルに向かって火を吹き、直撃を受けたマグナアウルは壁を二枚突き破って叩きつけられ、立ち上がりながらダメ押しとばかりにミサイルを放って止めを刺し、三本足で地面に立ってクインテットのウォーカーを追い回し始めた。
「ヤバイ!」
「みんな! 手足の磁力パットオンにして掴まって!」
ウォーカーの外壁に皆が張り付いたのを確認したイドゥンは脚部のタイヤで周囲を疾走し、巨大ウォーカーの追跡を躱した。
「ウチの記憶が確かなら……行けるはず!」
ウォーカーが跳躍して壁に張り付き、巨大ウォーカーはそこへ容赦なく主砲とミサイルを叩き込んでくる。
「くっ!」
なんとかすぐ別の壁に張り付いて事無きを得た。
「バカスカ撃ってくるな……」
定期的に反撃するも、フォースフィールドのせいで一切攻撃が通らないのだ。
「どうにかしてあのフォースフィールドを切れ……うわっ!」
砲撃は激しさを増し、その上ミサイル下部にマウンドされたレールガンが容赦なく五人が乗るウォーカーを駆り立てる。
「お、渡りに船だ!」
壁に張り付いて逃げ回っていたのが功を奏し、壁に穴が開いて外界と繋がり、イドゥンは主砲で穴を広げるとウォーカーを素早く穴へ潜り込ませ、断崖絶壁を上り始めた。
「センセ、センセ、聞こえます?」
『おお、イドゥン。どうかしたのかね?』
「今あの飛行機に乗ってます?」
『ああ、待機してるよ』
「その飛行機に銃とかは積んでます?」
『ああ、もちろん』
「じゃあ今から送る座標に来てください。なる早で頼んます! 追っかけられてるんです!」
『お、おう! わかった!』
白波博士がジェットを急行させると、断崖に開いた大穴から不気味な昆虫を思わせる三本足の巨大歩行戦車が這い出していた。
「今着いた! あれだな!」
『そうッス! ちっちゃいのはウチらが乗ってるので撃たないでくださいね!』
「あのデカブツを叩き落とせばいいのね」
「そうですな……実久さん、何をするつもりですか?」
「さっきあっちに砲台があるのが見えたの。使えるでしょう?」
「ええまぁ……」
「私がやります、先生は操縦を」
少し不安だったが、他に任せられる者も居ない。梯子を上る実久を見送り、白波博士はゆっくりと絶壁に機体を寄せる。
「発射準備は?」
「整いました!」
「ではもう少し近付きます。私の合図で撃ってください!」
巨大ウォーカーはその長い足を活かして大差がついたクインテットが乗るウォーカーに刻一刻と近付いており、追いつくのは時間の問題と言えた。
「まだです、もう少し」
ウォーカーが脚を伸ばして崖に足を付けようとしたその時、白波博士の声が響く。
「今です! 撃って!」
実久の二本の親指が力強くスイッチを押して、放たれた波打つ強力なレーザービームが巨大ウォーカーを撃ち抜き、巨大ウォーカーは大きく揺れて足を踏み外し、煙を吹きながら海の中へ落下していった。
「おおお! やった! やった! 私がやっつけた!」
やっと断崖を上り終えたウォーカーの上からルナがこちらへサムズアップをして、実久は思わず手を振り返した。
「いや~試作兵器ながら大した力だ、これなら実用化も……」
白波博士がそう言いかけた途端、海中から水柱が上がって超巨大ウォーカーが現れ、轟音を立てながらクインテットのウォーカーの前に降り立った。
「この……こんのっ!」
無事である様を見せつけるように駆動音を響かせ、三本の足を動かしながら主砲をクインテットのウォーカーに向けたその時、断崖の方から爆発が起こった。
「今度は何⁉」
巨大ウォーカーのコックピットの中の戦闘員や、クインテット五人が振り返った先で〝それ〟は徐々に姿を現した。
「……なんじゃこりゃ!」
「無事だったのは良いけど……」
「これってあまりにも……」
「デタラメだよねぇ」
海坊主のように姿を現した巨大ウォーカーと遜色ない程の大きさの二足歩行ロボットであり、その上に腕を組んで立っているのは勿論マグナアウルである。
「お前達の隠し玉、頂くぞ!」
マグナアウルが立っている場所が装甲に覆われ、背中のジェットで加速して巨大ウォーカーに殴り掛かった。
「うわっ!」
マグナアウルの駆る巨大ロボットの踏み込みにより地面や木々が大きく揺れる。
「みんな掴まって! 振り落とされるよ!」
殴り倒されたウォーカーは地面から主砲を放とうとするも、もう一度殴られて主砲が曲がってしまい、ついでとばかりに脚を引き千切られてしまった。
「お前達! ありったけの火力をこいつに叩き込め!」
マグナアウルの巨大ロボが満身創痍のウォーカーを空中に放り投げ、そこへすかさず腰のスイッチを三度押し込み、クインテットがオーバーチャージを発動した。
「だあああっ! しゃあっ!」
ロケットパンチがエナジーアンプリファイヤとなって空中で固定し、そこへイドゥンの光弾とアフロダイの光矢が畳み掛け、更にデメテルが高火力ビームを浴びせる。
「はぁああっ!」
「セイヤァッ!」
マゼンタと天色の二色の斬撃が飛んで突き刺さり、ついにフォースフィールドが切れてウォーカーの各部が悲鳴を上げた。
「夜は終わりだ! そしてお前に……朝は来ない! ビッグスワロー!」
巨大ロボットサイズの大剣が生成され、同時に刀身が眩いばかりに青白く輝いた。
「トドメだ! 大飛燕斬‼」
ウォーカーにV字の切れ込みが走り、マグナアウルのロボットは夕日と爆発を背に勝利を飾るのであった。
加須多穂から離れた森の中、ライト級インターセプターの中でサイが一人寂しく泣いていた。
「えへぇ~ん……無視されたぁ~、アウリィに無視されたぁ~」
京助が旅行に行った影響で、ジャガック検知システムを悪用した呼び出しが出来ず、待ちぼうけを喰らって泣いているのである。
「ボクというものがありながらどこに行ったんだよぉ……」
インターセプターのモニターにザルク語の表示が出され、それを見たサイはいきり立った。
「うるさい! 次ボクに生意気な口利いたら燃料にザビノーを入れてやるからな!」
ザルク語の文章の出力速度が上がり、それを読む度にサイがモニターを指して怒鳴りつける。
「もう怒ったぞこのポンコツAIめ! ダチュリンマーケットでガビニアに頼んでお前の性格を矯正させる!」
怒っているのだろうが、サイの顔下半分は笑っているためいまいち迫力に欠ける。
「あーあ、そういう事言うようになったんだな。立派だ立派だ、明日ダチュリンに……」
そう言いかけた時、インターセプターの警報がけたたましく鳴り響いた。
「……おい、いくらなんでも警報を出すのはやりすぎじゃないか?」
モニターに短く否定の意のザルク語が表示される。
「違う? じゃあ何の警報だこれは?」
モニターをいじって何を警告しているのか確かめると、サイは思わず目を見開いた。
「嘘だろ? これが……これが地球に?」
顔の下半分に張り付いていた笑みが消えている。よほどの緊急事態なのだろうか。
「でもなんですぐ消えた? まさか……誰かがアレ制御しているとでも言うのか⁉」
サイはインターセプターから出ると、しゃがんで両手を地面に着けて地脈を読み取り始める。
「信じられない、まさか……こんな……」
加須多穂の方を見て、サイ再び笑いながら小さく呟いた。
「フフフ……彼、案外とんでもない大物かもしれないぞ」
マグナアウルが黒い炎でジャガックの工場を焼き尽くしたのを見届けた後、クインテットは白波博士の操縦するジェット機に乗り込んだ。
「認証、脱装」
無重力ジェットに入り次第皆スーツを脱ぎ、少し疲れた様子で座席に座った。
「ハイみんなお疲れ様~」
「あ、ありがとうございます!」
「お母さんありがと!」
実久が全員にペットボトルを配り、各々額や首につけたり、一気に飲み干したりしているのを確認し、白波博士は微笑んで言った。
「君達、本当によくやった。帰ろう、京助君と颯司君と夏穂ちゃんが待ってる」
「帰ったらご飯ですね!」
「ああ! みんなで美味い物を作ろう!」
ジェットを翻して一行はホテルへ戻り、各々伸びをしながらコテージに向かう。
「京助まだ寝てるかな?」
「寝てると良いんだけどさ」
静かにドアを開けると、待機していた颯司が走ってやってきた。
「お疲れ、無事で良かった!」
「心配してくれたの? ありがとさん」
明穂がぐりぐりと颯司の頭を撫でていると、大欠伸しながら京助が降りてきた。
「あぁ~あ……おお、皆さんお揃いで」
一瞬皆焦るも、奏音が前に出て微笑んで京助の手を取った。
「おはよ、ご飯にするよ」
「……そっか、じゃあいっぱい食うとしますか!」
互いに大切な人が無事であるという事に安堵しながら、夕食やその後のことに思いを馳せるのであった。
To Be Continued.
今日は八月三十四日ですね、皆様いかがお過ごしでしょうか。
まだ九月ではありません、私の世界ではまだ夏休みは続いております!
閑話休題、楽しい旅行から一転、そこで出くわす敵と、バレないように奔走する両陣営、最高にハラハラしたのではないでしょうか。
旅行は終わりますが、京助と奏音達の夏休みはまだまだ続きます。どうぞお付き合いください。
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ではまた来週!




