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青春Double Side  作者: 南乃太陽
夏休み編
14/37

虐殺の奇想曲

新たな刺客であるサイは、なんとマグナアウルをも凌ぐ力を持つアバター使いであった。

マグナアウルを一方的に痛めつけて下すも、咄嗟の機転で撤退を余儀なくされる。

京助はこの強大な敵を攻略するべく作戦を立てようとするも上手く行かない。

だが奏音の何気ない行動により攻略の糸口が!

果たしてマグナアウルはサイにリベンジを果たすことが出来るのか⁉

「ボクはねぇ、アバター使いなのさ!」

 マグナアウルの脳内に、大きな声が響き渡る。

『逃げなさい京助! 相手は格上です! あなた以上の相手なんです‼』

 サイは享楽と憤怒の相が刻まれた面を空に掲げ、より一層笑みを深くしてからそれを自分の顔に重ねた。

轟嵐(ゴウラン)

 掛け声と同時にサイの背から無数のガラス片のようなものが現れてそれらがサイを包み込んで繭となり、やがてそれが結晶化すると中から赤い腕が出現し、結晶を割ってサイのアバター態が出現した。

 サイのアバターは全体的に具足のような形状をしており、そして何より血塗られたかのように真っ赤な装甲は否が応でもサイの『血の嵐を呼ぶ者』という異名を思い起こさせる。

「改めて自己紹介だ、ボクはジェノサイドカプリース。本当はザルク語の発音だが君達の言葉で名乗る事にした。うぅ〜ん、君達の言葉は好きだよ。長いからカプリースと呼んでくれ」

 マグナアウルが一歩前へ踏み出す度に、トトがいつにも増して焦りが滲む真剣な口調で告げる。

『相手はあなた以上に経験を積んだ手練、それも狂戦士です! さっき見たなら分かるでしょう⁉ あの闘気を発するまでは本気を出すどころか戦っているつもりですらなかったんです! 引きなさい京助! 死にますよ!』

 投げ捨てた剣と戦斧を引き寄せると構え、マグナアウルは宣言した。

「バカが、今更引けるか! 死ぬ気もねぇよ! 下がってろお前達!」

 二つの刃に青白いサイコエネルギーが通り、跳躍してカプリースに斬りかかるも、刃が通るどころか弾き返された。

「硬ェ……」

「へぇ、眷属持ちかぁ。羨ましいな」

 五指から白い雷電を迸らせ、カプリースは本格的に仕掛け始めた。

 貫手と刃が何度も交差し、夜闇に眩く光が舞い踊る。

「まだまだいけるだろ⁉ わざわざ着替えたんだから失望させないでくれ!」

「チッ! アイビス(護手鉤)ッ!」

 剣と戦斧を投げ捨てると、鋒が湾曲してフック状になった独特な形状の剣を生成した。

「おお、新しいのが出てきた」

 カプリースが放った貫手を鉤で引っ掛けてもう片方の護手鉤で首を掻っ切ろうと狙うも、それは平手で防がれてしまった。

「よっと……せいっ!」

 護手鉤を跳ね上げてマグナアウルの防御を突き崩すと、雷電を迸らせた手でオープンブローを腹部に食らわせ、それを受けたマグナアウルは地面に跡を残しながら吹き飛ばされた。

「ぐぅっ……」

 電撃による痺れと痛みが体を駆け抜け、思わず膝をつく。

「ホラ立ちなよ、まだまだ戦える(遊べる)だろ?」

 大きく息を吐いて立ち上がると、護手鉤を打ち合わせて青白いエネルギーを発生させ、マグナアウルはその場で旋回を始めた。

「大裂旋‼」

 旋回による勢いを追加してカプリースを引き裂こうと狙うも、逆にカプリースはマグナアウルに突っ込んできて吹き飛ばしてしまった。

「ぐあっ!」

「っと……悪い」

 カプリースの手には護手鉤の先端が握られており、バキバキと音を立てて握り潰して捨ててしまった。

「武器折っちゃった」

「……どんだけだよ」

 もはや一筋縄ではいかないのは目に見えている、どうにかして勝利の算段を捻り出し、マグナアウルは武器を生成する。

アルバトロス(クロスボウ)

 クロスボウを撃つもそれを容易く弾き、二発目も同じように、三発目は手から電撃を放って相殺させた。

「はっ!」

 速連射による大量の矢も冷気や電撃によって相殺するも、流石に拡散矢には面食らって膝をついてしまうカプリース。

「隙有り!」

 マグナアウルのクロスボウから鏃が通常の物とは異なる矢が射出され、カプリースは容易く掴むも鏃が爆発した。

「これが隙か? あんまりがっかりさせないで……」

 爆炎を払って上を見ると、マグナアウルは空中で巨大なミサイルを手に持ってカプリースに投げつけようとしていた。

「へぇ⁉ これは!」

ファルコン(大型ミサイル)ッ‼」

 ミサイルの先端がカプリースに突き刺さり、それと同時にミサイルの装甲がパージされて無数の小型ミサイルがカプリースに降り注ぐ。

「行けぇぇぇぇぇええええっ!」

 本来は飛行形態で使っている武装だが、それだけに威力は絶大らしい。

 無数の小型ミサイルから生まれる爆発が地面を抉り、マグナアウルとカプリースを中心に大きなクレーターが発生した。

「ふっ!」

 爆炎の勢いを利用してその場から離脱すると着地し、手首を揉んで調子を整えた。

「なんでだろうな……ちっとも手応えがしねぇ」

「当たりィ~!」

 クレーターの中からカプリースが跳躍してマグナアウルの前に着地し、首を曲げて鳴らすと哄笑を上げる。

「いや~今のは楽しかった! ミサイルも持ってるんだね! でもまだだ、ボクは満たされてない」

 マグナアウルは先程サイに散々飄々とした態度を取られた事に対して苛立っていた自分を恥じ、もはや自分に残された手段は一つしかないと悟った。

「おお? 格好が変わった」

 (ヘルム)の口元の装甲が開き、肩の装甲(ポールドロン)が変形して肩の可動域が向上した。

「へへぇ、これが君の全身全霊か」

 カプリースの声色が上擦っており、明らかに楽しんでいるのが見て取れる。

「クドゥリをそれで殆ど手も出させずにボッコボコにしたらしいね……かくいうボクもね」

 様々な拳法の型を修得してきたマグナアウルが見たこともない構え方でカプリースはマグナアウルと相対する。

「殴り合うのは大好きなんだ」

 その場で軽く跳躍してからマグナアウルが先に仕掛け、遅れてカプリースが動き、ほぼ同時に互いの顔を狙った一撃を放った。

「フフッ!」

「クッ!」

 互いの拳が自分の顔の真横にあるという状況で、マグナアウルは即座に手刀に切り替えてカプリースの頭を狙うも、カプリースはもう片方の手でマグナアウルの腹部を突いて距離を取った。

(速ぇ……反応も拳も!)

 反射的に蹲った勢いを利用して地面に手をついて半身を持ち上げ、そこから蹴りを見舞うも防がれて弾き返された。

「くっ!」

 蹴りの反撃(カウンター)を喰らったせいで足が痺れた、これではいつものフットワークを生み出せない。

(迂闊だった、足を出すべきじゃなかった)

 マグナアウルの使う技は様々な技を混交させたハイブリッドだが、骨子となっているものが一つだけある。

 それはかのブルース・リーが考案した武術であるジークンドーで、フットワークとステップによって高い機動力を生み出し、そこから高威力の打撃を放つことが出来る。

 よって足に何かあればパフォーマンスに影響が出てしまう。

「なるほど、足か」

「……読みも早いとはな、恐れ入ったよ」

「言ったろ? ボクは戦うのが大好きだ、でもね、()()戦うのはつまらない。頭を使ってこその戦いだ」

 互いに向かい合いながら、マグナアウルとカプリースはゆっくりと円を描くかのように位置を変える。

「そろそろ潮時かな」

「なにがだ?」

「え? こっちから全開で行くの」

 カプリースの両手が白い雷電に覆われると同時に、先程とは比較にならないスピードで襲い掛かって来た。

「うっ⁉」

「ハハッ‼」

 これまでにない程の楽し気な笑い声をひとつ上げると、凄まじいスピードで突きの連打を放ってきた。

(なんだこの……デタラメなスピードと攻撃範囲は!?)

 手に纏った白い雷電の残像が見える程に素早い突きの連打と、自身が使う()()()()のチェーンパンチとは異なる四方八方に広い攻撃範囲。散々戦った末にこんなものが出てくるとはさすがのマグナアウルも内心辟易した。

「どう受ける⁉ 君ならこれをどう回避する⁉」

(クソが! 喋ってる余裕なんてありゃしねぇよっ!)

 今の所全ての突きを見切って回避しているものの、集中力と体力が切れるのは時間の問題だろう。

 極限の精神状態の中でマグナアウルは後方の上空へ跳躍し、武器を二種生成した。

オストリッチ(強化装甲)! ピーコック()!」

 左前腕に無骨で厚い装甲が追加され、更にその上に盾が生成されると同時にカプリースがマグナアウルへ追いつく。

(速いがこれなら!)

 だがこの行動はあまりにも見立てが甘かったと、飛び散る無数の破片を見て否が応でも思い知る事となった。

「はっ!」

 飛び散った破片が追加装甲と盾の残骸だと知覚する頃には、カプリースの貫手が左から刈り込むように迫っていた。

 それを右腕で防御しようとした次の瞬間、肘の辺りに激痛が走る。

「がはっ⁉」

 カプリースは今の貫手でマグナアウルの肘の辺りから右前腕を切断したのである。

「やっとだね」

 そこからはもう何もかもが滅茶苦茶だった。

 光速に達するのではないかと錯覚するほどの速度と、出鱈目な威力を併せ持つ突きが文字通り土砂降りの雨のようにマグナアウルに降り注いだ。

「うおああああああっ!」

「はははははっ! 硬いねぇ君の装甲! あと三秒で七万発目になるけどどこまで耐えられるのかなぁ⁉」

 ダメージの閾値はあっという間に超えて装甲が赤く染まり、それでも殴られ続けて気絶寸前となった時、一際強烈な一撃を喰らって地面へ叩き落とされた。

『京助! 京助!』

「……起きてるよ」

 辛うじて意識の糸を繋ぎ留めようと努めていると、カプリースがゆっくりとこちらの近くへ降りてきた。

「いや~硬い体。手がジンジンするよ……さてと、名残惜しいけどもう終わりだ。残念ながら君を殺さなくっちゃいけない」

「……ハハハハ、そりゃ滑稽だな」

「うーん、この期に及んで余裕なのは良いけど、もう少し説得力が欲しいね」

「生殺与奪を握ってるのはまだ自分だと勘違いしてないか? ノーミソの興奮物質の出すぎで僅かな痛みは感じなかったんだろうな」

 残った左手の指先が震えながらカプリースの脇腹を指す。

「楽しみすぎて足元がお留守だぞ、戦闘狂」

「うん?」

 指された場所を見ると、右脇腹と腕の一部に大量の羽が生えていた。

「あらら⁉」

「起爆ッ!」

 右脇腹に刺さった大量のフェザーダーツが爆発し、カプリースは軽く横へ吹き飛ぶと同時にサイの姿へ戻ってしまった。

「ごおっ……こっは……」

 血を派手に吐き出し、右脇腹から流れる血と臓物を抑えて膝をついた。

「どうだマヌケ、これでトントンだろ?」

 サイはもう一度血を吐き、そしてマグナアウルの方を見る。

「かっ……くっ……くはっ……くくくっ……ははははははは……」

「嘘だろ勘弁してくれ」

 この局面でも笑うとは、まだ怒り狂ってくれたほうがマシだと思った。

「痛いなぁ……はははは、すごいや君は。最高だよ」

 零れた臓物を無理矢理破れた腹に押し込むと立ち上がり、サイは口から血を大量に流しながら無邪気な、それでいて悍ましい笑顔を浮かべて続ける。

「久々に一本取られた、全く最高だね。明日また会おうよ、バッチバチにやり合おうぜ」

 腹の負傷を回復させ、皮一枚で繋がった腕をくっつけると、サイは瞬間移動でどこかへ消えてしまうのだった。

「明日か……イヤな事は続くもんだ」

 しばらくそのままで痛みを癒していると、クインテット達がこちらの様子を伺いに来た。

「あの……生きてるよね?」

「死んでたらどうする? 俺を解剖でもするか?」

「そういうのいいから、立てる?」

 ルナとデメテルに支えられ、なんとか立ち上がるマグナアウル。

「ついて来て」

「なぜ」

「治療を受けてもらう」

「結構だ」

「意地張ってる場合ですか⁉ あなたは腕を飛ばされたんですよ!」

 アフロダイの目の前へ腕の切断面を見せつけると、左手の指先をそこへ突っ込んだ。

「いっ……」

「ううぇっ……なんてモン見せんのよ!」

 抗議の視線を意に介さず指先で骨をつまむと、思い切り引っ張った。

「あっ……」

「えぇ、マジか」

 骨を引っ張ると同時にそこへ新しい腕が生成され始め、無からの人体の生成というグロテスクながら神秘的な光景に全員目を奪われていた。

「これで文句はないな、帰らせてくれ」

「待って、でもまだ……」

 引き留める声も聞かず、マグナアウルは瞬間移動で消えてしまった。

「行っちゃった」

「あんなに殴られてたけど……大丈夫なの?」

「赤くなってましたし、大丈夫とは言い難いのではないでしょうか」

 呼んでおいた迎えと事後処理班に合流し、クインテットは帰路に就くのであった。

「私達が出来る事ってあるかな?」

「う~ん、難しいな。サイからすれば私達って戦ってる相手っていう認識すら無かったんだし」

 皐月の言葉に明穂が俯く。

「マグナアウルに賭けるってのも違う……それはわかってるんだけど」

「でもどうしたら良いんだろう」

 戦いの痛みを引きずりつつ、五人の少女は必死に考えを巡らすのであった。


 その同時期、ウィルマース財団の事後処理班が輸送機の残骸の回収や変形した地形の修復などを行っていると、一人の職員があるものを見つけた。

「あの……井上先輩」

「ん? どうしたの木村君」

「これなんスかね?」

 木村が懐中電灯を向けた先に見覚えのないものが突き刺さっていた。

「あら? これなんだろうね」

 井上が懐中電灯で照らしながらグラスのスキャナを使って何が埋まっているか確かめる。

「……何かの装甲ね。腕か足の、戦闘中に弾かれて飛んで行っちゃったのかな?」

「でもおかしくありませんか? ジャガック兵の装甲とは色も規格も違いますよ」

「そうねぇ、数値の方は?」

 計測器を向けて各種数値を計測し、数秒で端末に情報が表示された。

「放射線や有害物質は出てません。ただ……」

「ただ?」

「不思議な事に……サイコエネルギーの数値が異様に高いんスよ」

「どれぐらい?」

「振り切れてて分からないッスけど、最低でも基準値の二万倍はあります。C-SUITの百倍を軽く超えてますね……」

 井上はガスマスク越しに顎に触れると、大胆にもそれに近付いて引き抜いた。

「ちょっ! 先輩!」

「大丈夫よ、私は何もない。 洗浄するから手伝って」

 井上からトングを渡され、木村は土まみれの謎の装甲をつまみ、放水器で洗い流されて徐々に姿を現すそれを見守った。

「これ腕だわ……ヤなもの拾ったな」

「検索掛けます」

 木村が掛けていたグラスの画像認証で検索を掛けると、財団アーカイブの一つの映像がヒットした。

「……嘘だろ⁉」

「どうしたの? よっぽどヤバい代物?」

「ヤバいなんてもんじゃないッス! こっ……この腕は!」


 サイとの戦いから一時間後、京助は透き通った緑色と濁った朱色の水が浮かぶ浴槽に身を沈めていた。

 水の色の比率は絶えず変わっており、主に朱色の水が増減を繰り返している。

 やがて朱色の水が完全に引き、しばらく後で全身痣だらけの京助が浴槽から身を起こした。

「あの傭兵野郎……人の事笑いながらバッコバコ殴りやがって……」

 湯に溶かした回復薬や治療薬によってみるみるうちに痣が消えるも、殴打による痛みが全く引かない。

「痛ェ……クソッ……」

『生還できたのは幸運でした』

「幸運?」

『ええ、見逃されたのは幸運なんです』

「ちゃんと考えてたんだよ……あそこまで殴られたのは想定外だったけど」

『はっきり言います、あなたは自己評価を間違えています』

「そういうお前は俺を過小評価してるよ」

『あなたが本当の意味でちゃんと考えているのなら、あの場で逃げるはずです』

「じゃあ聞くがな、逃げて何になるんだ?」

『対策が練れるはず……』

 トトの言を即座に京助が遮った。

「そうやって勝てないからって逃げてる間にジャガック共がのさばったらどうする? (マグナアウル)は恐怖の象徴なんだぞ、俺に逃げることは許されない」

『死ぬ気ですか?』

「その気もない」

『……私にはあなたを守る義務がある』

「気持ちはわかるが、それで悲観的になって及び腰になったって仕方ない。だから勝つ方法をどうにかして捻り出さないといけない……わけだが」

 京助は再び浴槽に身を沈め、数十秒経って浮上してから続けた。

「ちっとも思いつかねぇ!」

『……今日以上に体が欲しいと願った日はありません』

 京助は再び浴槽に身を沈め戦いの傷を癒すのであった。


 場所は遠く離れて地球の衛星軌道上、ジャガックの基地艦でのこと。

「さて……今日の検査と治療は終わりだ」

 ジャガック科学部長ザザルバンが背中のアームでモニターを操作しながら本体のみ背後を向いた。

「体の調子はどうだ?」

 背後のマシンベッドが音を立てて傾き、そこへ寝ていたクドゥリが少しだけ体を起こす。

「まだ痛みが消えない」

「そうだろうな、まだ体の中にサイコエネルギーが残留している」

「完全に取り除く術は?」

「サイコエネルギーによる傷は外科的治療や内科的治療を殆ど受け付けない。同等かそれ以上のサイコエネルギーによってのみ完全に取り除くことが出来る」

「チィッ……」

 拳を握り歯軋りをする。未だこの痛みを取り除けないということは、自分はマグナアウルより強いどころか同等のサイコエネルギーを生み出せないという事。

「まあこれでも出来る限りのことはやらせてもらった。そういえば、その右目だが……」

「治すな」

 マグナアウルによって引き抜かれた右目をクドゥリは治療しておらず、患部の衛生環境を保つためだけの彩色されていない仮のバイオ球体を入れていた。

「どうしてだ? 君は銃も扱うのだから両目があった方が……」

「そんなものはすぐ慣れる、それよりも私は奴に刻まれた屈辱を決して忘れぬようにしたい」

 クドゥリの残った左目に憎悪を滾らせて地球のある方角を睨みつけた。

「また戦うつもりか?」

「ああ、マグナアウルは私が殺す」

「そうか……だったら急いで治すことだ」

「なんだって?」

「集中治療の最中だったから知らなかっただろうが、新しく地球侵攻の任に就いた幹部と、雇われた傭兵が地球に派遣された」

 憎悪に彩られた瞳が瞬時に驚愕へと塗り替わり、クドゥリは思わずベッドから降りてザザルへ詰め寄った。

「誰だそいつは、そしてそんな事誰が決めたんだ! ルゲンか⁉ それとも未だ動けないあいつか⁉」

「ゾゴーリ様だよ」

 その名を聞いた途端、クドゥリの瞳に浮かぶ驚愕はさらに強くなった後、すぐに納得と諦観が混じったかのような色に変わった。

「……首領(ゾゴーリ様)直々か」

「お前がやられたとあって大変心配しておられた。新しく派遣された奴は確かパテウ・シャローとか言ったっけな」

「パテウか……あいつなら言う事を聞いてくれそうだ。それで雇われた傭兵っていうのはどんな奴だ?」

「……」

 普段から考えた事や思った事を瞬時に口に出すあのザザルが言い淀んでいる。

「どうした?」

「奴は『スルーナ第五惑星の悪夢』、『血の嵐を呼ぶ者』、『ムーン・フィアの影』、『パラクベギスの魔獣』そして『気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリース』と呼ばれている」

「……サイ!」

 自分が忠を誓ったゾゴーリがそんな決断を下したかと恐れにも似た驚愕を覚えた。

「もういるのか?」

「補給隊に合流するらしい。今頃戦ってるんじゃないか?」

「マグナアウルは……まあ気紛れなる虐殺の化身ジェノサイドカプリースに殺されたとあれば諦めもつく。だが念のため監視を入れておこう」

「あの三人を地球に送ったのは君だったか」

「自己鍛錬とスパイを兼ねてな。ここより広い世界に揉まれれば力もつくと考えたのだよ」

「それよりもあっさりと諦めていいのか?」

 前髪で隠れた右目を撫でると、クドゥリは様々な感情が綯い交ぜになった笑みを浮かべた。

「……複雑だな。このまま奴が殺されてくれればゾゴーリ様の計画が進む、だが奴から受けた私の屈辱は雪げない」

「忠臣としての自分か、武人としての自分か、まあ色々と複雑だろうよ。お?」

 ザザルの本体が入った水槽にメッセージが表示され、それに返信した後で〝肉体〟ごと振り返った。

「いいニュースがある」

「というと?」

 ザザルが答えるより早く、金属製の細長いケースを持った研究員が治療室へ入って来た。

「これは……」

「見せてやれ」

 研究員はケースを抱えると開き、中には丁寧に磨き上げられた一振りの(つるぎ)が入っていた。

「ベナーグか!」

「君の治療と並行して折られたベナーグの修復・改良を行わせてもらった。取ってみるといい」

 よく手に馴染む柄はそのままだが、刀身が前のベナーグとは全く変わっていることを、そのわずかな刃の色の違いからクドゥリはすぐに見抜いていた。

「刀身の素材は何だ?」

「ウラッカだ」

「ほう、あんなものよく精錬したな」

「元のベナーグに使われていたルーベルは将来的に君の能力に耐えられない可能性が高かった。生まれ故郷(ルガーノ)の伝統を重んじる君の期待に沿えない点は残念だったが、以前のベナーグよりも気兼ね無く取り廻せるという点ではこちらの方が優れていると思うよ」

 新たなベナーグの刀身が薄紫に輝き、思わずザザルが三歩程後退した。

「っと……失礼した」

「気を付けてくれ、この水が煮立つと私は最悪死んでしまう。あともう一つ機能を追加した」

「ほう」

「変形しろと念じてみろ」

 すると柄を握っているだけなのにもかかわらず、瞬時に刀身が倒れてロングライフルに変形した。

「おお、自動変形か」

「柄を握っている者のみ変形を受けつける。もちろん鞭剣状態の変形も自動で可能だ」

「ザザル」

「どうした?」

「恩に着るよ」

「なに、これが私の仕事だ」

 様々な苦難や快くないニュースが舞い込む中、クドゥリは愛剣との再会という思わぬ僥倖に思わず微笑むのであった。

 

 翌日の午前中の事、千道邸の門のインターフォンを鳴らす一人の少女が居た。

『どちら様……奏音⁉』

「入れて」

『え、いやそのぉ……』

「いいから」

 鍵が開いたのを確認してから入り、ドアノッカーでドアを何度も叩くとバスローブ姿の京助が顔を出した。

「なんで来たの?」

「看病に決まってるでしょ、いきなり夏風邪拗らせるなんてさ」

「いや感染(うつ)るかも……」

「いいから! そういうのは彼女であり幼馴染の義務なんだから」

「そんな義務聞いた事ねぇよ……」

「いいから入れて、風邪悪化するでしょ」

 押しに負けて京助は奏音を入れ、奏音は入るなりキッチンへ直行して持参したエプロンをつけてから、あらかじめ買って来た材料を広げてから冷蔵庫を開けた。

「ご飯ってどうしてる? もうない?」

「冷凍庫、一番下の右側」

 パック詰めされた米をレンジで解凍すると、奏音は何か調理を始めた。

「あのさ……奏音?」

「いいから座ってて」

 バスローブ姿のまま、京助はソファーに縛り付けられた。

 本当は風邪などひいていない、サイとの戦いで負った傷の痛みがまだ引いていない為に休息が必要と判断したのである。

 よって昨日帰り際に交わした明日も宿題を手伝うという予定を仕方なくキャンセルしたのであるが、休もうと思っていたらこれだ。

(なんか罪悪感がすげーな)

『あなたが昨日逃げておけば……』

『まだ言うか、黙ってろ』

『約束をドタキャンする羽目にも……』

『冗談抜きで黙れ、バングルを炉にぶち込むぞ』

 一日経っても小言を言われるとさすがに苛立ちが勝ってくる。

「はい、おまたせ」

 しばらく待っていると、奏音がお盆に乗せたお手製お粥を持ってきた。

「どうせろくなもの食べてないでしょ」

 朝から地下の冷蔵庫に入れておいた業務用ケバブ肉を丸々一つ喰らい尽くしてきたのだが、怪我の影響もあってかまだ腹は膨れていない為、この申し出は有難かった。

「いいのか?」

「いいの、このために来たんだから」

 奏音は木製のスプーンでお粥を掬うと、三度息を吹きかけて京助に差し出した。

「ほ、ほら! さっさと食べて!」

「い、いただきます」

 おそるおそるスプーンに口をつけると、一見ただのお粥なのにもかかわらず、大変な美味が口に広がる。

「うまっ……」

「え!? ホントに⁉」

「めっちゃ美味い、粥とは思えんわ」

「良かった! 明穂ちゃんありがとぉ~!」

 京助が風邪をひいたと知った奏音は、明穂に連絡を入れてお粥のレシピを考えてもらったのである。

「あと自分で食えるからいいよ、マジで助かった」

 奏音が作ったお粥をあっという間に食すと、京助は満足げにソファーにもたれかかる。

『ボコされて良かったって事もあるもんだな』

『ハァ……』

『何か言うことは無いか?』

『私の負けでした、大変良かったですね!』

 普段見せないやや投げやりな調子のトトの声色を聞いて、京助はニヤリと笑った。

「はいこれ」

「ん? 薬?」

「うん、あんたってあんまり病気しないからこういうの家に無いだろうと思ってさ」

 机に置かれた市販の風邪薬を見て、京助は自分の財布が脳裏に浮かんだ。

「これいくらした?」

「うーん、二千円ぐらいだったかな?」

「野菜とかは?」

「えっと……あ、お金とかはいらないからね」

「なんでよ、払うよ」

「いやいいって、お節介でやったことだし、こんなんで金取るのも気が引けちゃうからさ」

「いやこんなんでってお前……」

「いいから! 早く治してさ、遊ぼうよ」

 奏音はにこりと笑って机上の風邪薬を京助に近付ける。

「これがさ、『内側からスーッドン!』って治してくれるからね」

 この風邪薬のコマーシャルで長年使われてきたキャッチフレーズである、内部に浸透してあっという間に治してしまうというのが謳い文句で、話題になっている女優を起用するのも見どころの一つだ。

「スードンで治ると良いんだけどな」

 いっそのことこの風邪薬で未だ蟠るこの痛みが取れてくれないかと期待したが、残念ながら風邪薬にそんな効果は存在しない。

「治るって、京助って体強いんだからさ」

「そうかな、すぐ治るかね?」

「一晩寝たら治るよ、内側から効くんだから」

「内側からか」

 内側。

「内側……」

 内側からスーッドン!

「内側にスー……んでもってドンと来る……」

 内側(なか)浸透(スー)し、そこで爆発(ドン)

「あ……ああ!」

 京助はいきなり立ち上がると、奏音の手を取って上下に振った。

「ありがとう! 本当にありがとう! 助かった!」

「え……えぇ? なになに? いきなり何?」

「本当に助かった、ありがとう。キスしていい?」

「ダメだよ! 感染(うつ)っちゃうから」

「じゃあ治った後でする、とにかくものすッッッごく助かった。愛してるぜ」

「う……うん、まあそれなら良かった」

 一体何が助かったのか頭の中は疑問符だらけなものの、京助が助かったのならそれで良かったと奏音はそう思う事にした。


 奏音が帰った後で京助は一階の物置の梟を模した隠しスイッチを押し、隠しエレベーターで地下へと向かった。

「いい事聞いちゃった~! ふふふふーん」

『あの風邪薬のキャッチフレーズですか?』

「なんで思いつかなかったんだ? 先入観とは恐ろしいもんだ、まあそれが奴の手なのかもしれんが」

『これから対策を兼ねた訓練ですか?』

「いや……どっちかっていえば実験に近い」

『実験ですか』

「アレまだあったよな?」

『アレとは?』

「ビー玉」

 地下に向かうと念力で小物入れがひとりでに開き、ビー玉が入った袋とガラス製のコップが京助の方に飛んで来て、まずはビー玉を金属製の盆の上にぶちまけた。

「ふぅ……よっ!」

 手を翳すと物質複製によって盆の上のビー玉が四倍近くの分量に増加し、それと同時にガラスのコップも十個に増えた。

「これ何に使ったか覚えてるか?」

『確か九点掌身破(くてんしょうしんは)の修得ですよね』

 九点掌身破、クドゥリに対して使用された浸透勁の応用による身体の内部破壊の技の名前である。

「そう、コップとビー玉を何個も壊しながらやったよな」

 ビー玉の山をコップで掬うと、京助はコップを縦拳で殴りつけた。

 するとコップは割れず中に入ったビー玉のみが全て粉々に砕け散り、まるで噴火した火山のようにビー玉のガラス片が宙に舞った。

「っと危ない」

 舞ったガラス片は全て空中で静止し、すべてビー玉に再構成されて一つを除いて再びコップへと戻る。

『九点掌身破でサイを倒すつもりですか?』

「違うよ」

『では梟爪爆身破(きょうそうばくしんは)ですか?』

「まあ……それの一種になるのかな?」

『なにをするつもりで?』

 京助は一つだけ浮かせたままのビー玉を赤く染めると、それをコップに入れて軽く振った。

「……フッ!」

 強い力でコップを指で突くと、指の直線状にあったビー玉全てに亀裂が入る。

「……」

『成功ですね』

「いいや、失敗だよ」

 別の金属製の盆にコップの中身をぶちまけると、ビー玉の様子を確かめた。

『何をもって成功とするのです?』

「赤いビー玉だけを壊せれば成功だ」

『より一点集中の破壊を目指すという事……さすがにそれは困難なのでは?』

「だからやってるんだ」

『それは……仮にここで成功したとていくら何でも付け焼刃すぎます』

「別にサイを殺そうなんて思ってない」

『……』

 このトトの沈黙の意図は、驚きによる絶句であった。

「いやな、少し気になるんだ。俺が遮ったから聞けなかったが、確かあいつは『ボクはジャガックじゃない』とか言ってた気がしてな」

『あの戦闘狂から何かが聞き出せるとは到底思えませんが』

「いや、ああいう手合いはうまく利用するに限る」

『上手く行きますかね』

「奴に俺を認めさせればいい。戦うに値する者と認めさせたように、俺を強き者として認めさせれば……」

 ビー玉入りのコップを二本指で突くと、ガラスの塊が潰れるかのような音が響いた。

「何かしら話してはくれるかもしれない」

 先程よりも精度が上がった結果を見て、京助はニヤリと笑うのであった。


 それから昼食も取らず四時間、京助はぶっ続けでコップを突いて中のビー玉を壊すという作業を続けていた。

「精度は上がってる……人差し指でダメージソースとなるサイコエネルギーを送り込み、中指でそれに指向性を持たせるためのエネルギーを出すことで精度を担保したいんだが……それだと威力が地味になるんだよな。本音を言えばどっちの指でもダメージを送り込みたい」

 粉々になった赤く染まったビー玉の山を眺め、気分転換のために叩いていた鉄人の方を向く。

『もう二時ですよ』

「そういや飯食ってなかったか、何で俺は腹減ってないんだろうな」

 慢性的な空腹状態である事が悩みの京助であるが、何故か今日は満腹とまではいかずとも満足感を覚えている。

『これは私見ですが』

「うん?」

『あなたの言う〝空腹〟は身体的要因ではないのではないでしょうか』

「俺が腹減るのはアバター召喚で消耗してるせいじゃないって事?」

『おそらくあなたの空腹感は精神的要因かと』

 確かに今の自分が精神的欠陥を多数抱えているのはよく分かっている。

「それあるかもな、でも何がどう作用して俺の心は俺の体に空腹だって感じさせてるんだろうな」

 殺戮衝動と戦闘への渇望、数え出せばキリが無いが特に代表的なものはこの二つだろう。これが今のところジャガックに向いてるから良いものの、客観的に見れば正真正銘のイカれた危ない人間なのは理解している。

「まあその問題が解決するのは当分先だろうな」

 ビー玉を赤く染めながら、自分に向き合うという行為を長い事していないことに気付き、自嘲気味に笑ってビー玉を空中に放り投げるのであった。


 その後も奇妙な訓練を続け一旦腹拵えをしたり等をしていると、日が沈む時刻になった。

「上手く行くかは分かんないけど……やれることはやったと思う」

 山と積まれた赤いビー玉の破片を眺めながら起き上がり、その全てを元のビー玉に再構成して仕舞いこむと、自室に向かって着替えた。

「そろそろか」

 トトに右手首を重ねて右腕を前に出すと、アウルレットが出現する。

『アウルレット、召喚』

 装飾に手を翳すと次元断裂ブレードが展開し、大きく腕を回して空に向かって腕を突き出した。

『次元壁、断裂』

「招来ッ!」

 体を変化させながら跳躍し、暗くなりつつある空に向かって飛び立っていく。

「お、あの車は」

 クインテットのもの思わしき装甲車が見え、マグナアウルは高度を落として近付き、あえて真横を高速で通り過ぎてから先に目的地に到着した。

「おー、やっぱあんただったか」

 数分後に追いついたクインテットが現れ、マグナアウルを取り囲む。

「来たのか」

「来たよ。それが使命だから」

「そうか」

「ちょっといい?」

「協力なら……」

「クドゥリとの戦いで私達はあんたに借りを作った。今日はそれを返す時」

「前の戦いで私達何もできないも同然だったから……今日こそは助けになって何か成し遂げたいんだ」

「だからお願い、何か協力させて」

 しばらく黙っていたマグナアウルだが、首を振ってから答えた。

「そもそもあれを俺は貸し借りだとは思ってない。よってその気遣いも不要だ」

「……そう」

 肩を落とす彼女らに、マグナアウルはふとある考えが浮かび、(ヘルム)の頭の部分を掻きながら言った。

「これは独り言だが、俺が奴と張り付いて戦っていて、俺が一瞬離脱したその瞬間、誰かが隙をつくってくれたらものすごく助かるんだが……そんな奴らに心当たりは無いか?」

 五人は互いに顔を見合わせ、同時に自分の武器を取って戦闘準備を始めた。

「これも独り言なんだけどさ、任せといて」

 デメテルがナックルアームの巨大な拳を握り、マグナアウルも小さくサムズアップを返した。

「それ以前に奴は来るのか?」

「うん、確かに」

「来たよ~ん」

 瞬間移動で突然現れたサイに、クインテットが一斉に武器を向ける。

「もう回復した?」

「怪我自体は治ったが、まだ痛くてな」

「え、大丈夫なの⁉」

「ああそう、痛み取ってあげようか?」

「ハハッ、結構。昨日の痛みがまだ残る中で戦うんだ、ちょうどいいハンデだろ」

 この発言を聞いたサイはより笑みを深くし、ルナは溜息をついてこちらを向いた。

「いちいち相手を煽らないと気が済まないわけ?」

「まあな」

 心底楽しそうに笑いながらサイは刀を背中に掛けると、胸元から憤怒と享楽の相が刻まれた面を取り出す。

「その言葉通りの戦いを期待してるよマグナアウル」

 大きく息を吸って仮面を自分の顔に重ねると、無数のガラス片のようなものがサイの体を包み込んだ。

「轟嵐」

 掛け声と共にガラス片で構成された結晶体が割れ、中からカプリースが姿を現した。

「さてと、昨日宣言した通りバチバチにやろうじゃないか」

「フッ!」

「ハハッ!」

 マグナアウルの手から青い火炎が噴出され、同時にカプリースの手からも冷気が噴出してぶつかり合う。

「ハアッ!」

 互いにもう片方の腕を翳し合うも、しばらく目に見えての変化は起こらなかった。

「何この音……」

「なんかギギギって言ってる……」

 しばらくすると脚部や肩の装甲が明らかに変形しているのが目視でも分かるようになってきた。

「剥がし合ってるの⁉」

「とにかくマズそう!」

 イドゥンのビームライフルで援護するも、光弾は全てカプリースの寸前で静止してしまう。

「クソッ! ……なんつってね」

 準備していたアフロダイの光矢が空中で静止したイドゥンの光弾に命中して爆ぜ、この衝撃に思わずカプリースは後退してしまう。

「いだだ! あっつ!」

 この大きな隙に念力による関節拉ぎと火炎放射を同時に喰らったカプリースに畳み掛けるようにマグナアウルが飛び込んで、二本の指で胸を突いた。

「おわっ! ハハハハッ!」

「おおおっ!」

 体勢を整えて互いの指を繋いでの競り合いになり、握力勝負と腕力勝負が同時に始まった。

「ヘッヘッヘッヘ! 骨が軋むこの感じ! たまらないよねぇ!」

「SMプレイをお望みならドギツいのをブチかましてやるからいい子で待ってろ!」

「本当かい⁉ じゃあ主従逆転しないように気をつける事だね!」

 両者全く同じタイミングで相手を蹴飛ばし、マグナアウルは手を振って握ったり開いたりして痛みを逃し、各部の装甲を変形させて格闘形態へと移った。

「昨日と同じか、じゃあこの前と……」

 カプリースの手が白く光り、激しい電撃が迸る。

「同じ技を使わせてもらおう」

 それを聞いたマグナアウルは、右手を前に出して構えながらカプリースの言葉を嘲笑した。

「ド三流が」

「はぁ?」

 声色から笑みが消えているのを察しつつ、マグナアウルは煽るのを止めない。

「一度見せた技、それに一度喰らった技をだ。それが俺みたいな超一流に通じるとでも?」

 一見ふざけ倒しているかのようにしか見えないこの人物でもプロの自覚はあるようで、一瞬発する闘気に怒りが混じって手に迸る雷電の威力が増したが、すぐに闘気から怒りが消えた。

「ハハハ、一応……何年だっけ? 足掛け三万年かな? それぐらいは傭兵やらせてもらってるんだけどね、ボクのこと冗談でもド三流なんて言ったのは君が初めてだよ」

「能書き垂れてないでさっさと掛かって来い、戦闘バカ」

 ここまで言われた事で逆に面白みが増したらしく、カプリースはまるで狩りが始まる直前にスタートダッシュする猛獣のように姿勢を低くした。

「フフフ……盛り上がって来たねぇ……ウフフフフフ、ハハハハハハハハ!」

 跳躍と共に昨日以上の速度でカプリースの拳が迫り、マグナアウルはその場に立ったまま上体だけを動かして拳を全て回避した。

「おおおお! 口だけ大将じゃなかったみたいだね! ボクの拳を見切ってるなんて大した奴だよ!」

(速い事は速いが所詮は二点での攻撃だから見切れない事はない……相変わらず喋る余裕は無いけどな!)

 しばらくそのままの姿勢で立ったまま回避のみしていたが、じりじりとカプリースが僅かに距離を詰めてくるため、だんだんそれも難しくなっていく。

(嫌な詰め方しやがる……あんな性格してる癖して油断も隙もありゃしねぇ)

 視界の隅に白い軌跡が舞い踊り、緊張感がより増していく。

「ハハハハハ! このレベルで避けるのはさすがだ! けど回避だけじゃダメだよ、いい加減反撃してくれよ、面白くないだろ!」

(好き勝手言いやがって……だったら今すぐ面白くしてやる!)

 突如マグナアウルは開脚して地面に腰を落とすと、真下から二発カプリースの体に指を撃ち込み、開いた足で相手の足を薙ぎ払って倒した後もう一発体に指を打ち込んだ。

「クハハハッ!」

 斬新で予想外な反撃にカプリースは心底楽しそうに笑うと、倒れたまま下半身のみを動かして強烈で素早い両足蹴りを見舞うもこれもマグナアウルは紙一重で回避し、足を掴んでその場で旋回してカプリースを振り回し始めた。

「おぉおぉぉぉおおお⁉ ハハハハハッ! これはっ! 効くな!」

 カプリースを投げ飛ばすもすぐに空中で体勢を整え、大量の電撃弾を放ってきた。

ピーコック()ウッドペッカー(ハンドガン)

 電撃弾を盾で受けながらハンドガンで反撃し、着地してこちらに迫ってくるタイミングで盾を投擲した。

「防御を捨てて……あがががが! ふぅ! おお! 面白い盾だねこれ」

 自分の電撃弾の数百発分の電撃を喰らうも大して気にする様子はなく、再び手に白い雷電を灯して猛烈に殴り掛かって来た。

『何発コイツに打ち込んだか覚えてるか?』

『三発です。〝発動〟にはあと六発打ち込んだ上で起爆の一撃を叩き込む必要があります』

 この猛攻を搔い潜り、あと六度と一撃こちらの攻撃を叩き込まなくてはならない。恐らく一度でもカプリースからの攻撃を許せばあっという間にあちらのペースに持ち込まれて昨日と同じ結果になるだろう。

『一発、一発だけ粘る』

『残り五発はどうするのです?』

『イレギュラーに賭けるさ!』

 カプリースの右から刈り込むような一撃を回避したと同時に体を捻じり、全身の体重をかけて腹に向けて指を伸ばしていく。

「この手は!」

 昨日の戦いで裂き飛ばされ、再生した腕がカプリースの腹に突き刺さる。

「お前との戦いの為の腕だ!」

「うぐぇっ!」

 指二本が強烈な打撃力を生むとは両者予想しておらず、カプリースは腹を抑えて大きく後退した。

「お前達!」

 マグナアウルが叫ぶと同時に跳躍し、まずイドゥンがフルチャージを発動して、未だ体勢を整えられていないカプリースに強烈なビームを撃ち込む。

「とわっ!」

 これに直撃して怯んだ隙にデメテルが指を組んで放つツインロケットパンチを放ち、カプリースは何とか反応してそれを受け止めた。

「油断大敵……」

「自戒のつもりですか?」

「もう遅いけどね!」

 デメテルとアフロダイが同時にフルチャージを発動し、ビームキャリアから射出された黄金の奔流と、弓から放たれた無数の矢が交差し、エナジーアンプリファイアに変形したロケットパンチに命中した。

「うおおおおあああああっ! 予想外!」

「ミューズ!」

「分かってるって! オーバー行くよ!」

 ミューズとルナが同時に腰のスイッチを三度押し込んで戦斧と太刀にエネルギーを送り込むと、怯んでいるカプリースに向かって走り出し、莫大なエネルギーを込めた斬撃を同時に見舞った。

「うおおわああああっ!」

 思わぬ痛手を喰らったカプリースは倒れかけるも寸での所で立て直し、刃を振り抜いたミューズとルナの方を向く。

「ハハハハ……やればできるじゃないか……君達も認め……」

「何油断してるんだ」

 いつの間にやら背後に迫っていたマグナアウルに対応する間もなく、背中に対する攻撃を許してしまった。

「壱! 弐! 参! 肆! 伍‼」

 五発の指が背中に突き刺さり、カプリースは今度こそ膝をついた。

(完成した! あとは折を見て最後の一撃を加えるだけ)

「君達……いつの間に結託してたのかい?」

「卑怯とは言うまいな、この星を守るためだ」

「なるほど……ウフフフフフ! アハハハハハハッ!」

 カプリースは再び手に雷電を灯しマグナアウルへ殴りかかって来た。

「では見せてくれよマグナアウル! 今のボクを打ち負かせないようじゃ! その高潔なる意志は達成できそうに無いぞ!」

 応用したとはいえ九点掌身破を受けると、本来ならば内臓を捻じって千切るような痛みが体中を横断し、まともに動けない筈である。

 だが変わらないどころかこれまで以上の速さで拳を打ち込んでくるのは流石としか言いようがない。

「さっき……ド三流と言って悪かったな」

「どうしたんだい? まさか降伏しないだろうね?」

「お前は一流……間違いなく一流だ……だがな」

「だがな?」

 極限まで集中力を研ぎ澄まし、カプリースの拳の隙を見極める。

「俺は……」

 姿勢を落とし、左足に体重をかけ、マグナアウルは最後の一撃の準備を整えた。

「俺はそれを超える! 超一流だ!」

 左足が放物線を描き、それに伴ってカプリースの右拳が空を切って一瞬だけ首から肩にかけてががら空きになり、そこに吸い込まれるように左足が向かって行き、そしてついに首筋に爪先が突き刺さった。

「!」

 首筋に刺さった一撃によって入り込んだ衝撃とサイコエネルギーが、あらかじめ胸と背中に打ち込んでいた残留サイコエネルギーと共鳴し、それぞれが泡のように一斉に弾けた。

「ぐほごぷぁっ⁉」

 その威力は絶大であり、カプリースの胸部と背中を覆っている装甲が弾け飛ぶと同時に肋骨に似た骨格が前後とも砕けて露出し、それと同時にカプリースの姿を維持できなくなったサイは胸と背中と顔に存在するあらゆる穴から大量の血を流しながらその場に崩れ落ちた。

「うぅ……グロ」

「でもここまでやらないと勝てなかったって事ね」

「ハァッ……フゥ!」

 内部に浸透して爆ぜる(スーッドン)、これが京助(マグナアウル)が立てた作戦であった。

「こっ……こっは……」

「一応教えといてやる、これがクドゥリに対して使った技さ。尤もお前は硬かったから()()()()()()させなくちゃならなかったわけだがな……」

「なるほど……どうりで浸透が甘いわけだ」

 明らかに大ダメージを負っているサイがいきなり喋り出したことに驚き、マグナアウルだけでなくクインテットも目を見開いた。

「うううぅ……ハァ」

 胸と背中に空いた穴が塞がり、サイは口の中に指を突っ込み、嘔吐(えず)いて残存した血を全て吐き出す。

「今後の課題としては威力を保ったままより細く浸透させることだね、そしたらボクをもっと長時間行動不能にできるだろうよ」

 相変わらず口角を上げて世間話をするような調子のサイに対して構えるも、サイは手で制して満面の笑みで告げた。

「今日は本当に楽しかった! マグナアウルは勿論君達クインテットもだ! 内心侮ってて悪かったよ!」

 顎と首に垂れた自分の血を服が汚れるのもお構いなしに拭い、サイは捲し立てるように続ける。

「本当は君達を殺せと言われてたんだが、やっぱりやめた。君達と戦う(あそぶ)と楽しいし……まあなによりコロシの料金じゃないしね。せいぜい作戦中の護衛がボクの仕事になりそうかな」

「あんたはそれでいいの?」

「え、なんで?」

「一応ジャガックなんじゃ……」

 サイは眉根を寄せて笑い出した。

「冗談はよしてくれ、誰があんな組織に好き好んで入るんだよ。あのババアに跪くなんて御免被る」

「……言ってることを纏めると、お前はジャガックに属している訳ではなく金で雇われているって事だよな?」

「そー、それもやっすいの。それで殺してこいだなんてどんな雑魚が出てくるのかと思ったら君達みたいな原石だったんだ。バカだよあいつら、さっさと潰れちまえってんだ」

 ここまでジャガックを悪し様に言う者を地球人以外で初めて見たマグナアウルは、ついに長年心の片隅に留め置いた質問をぶつける事にした。

「ついでに教えてくれ、ジャガックってどういう組織なんだ?」

「……あれ? 知らなかったの⁉」

 それは煽りや嘲笑抜きに、純粋に驚いたかのようなリアクションであった。

「ああそうなんだ……知らなかったんだ。まあ知らなくたって戦えることは戦えるのか」

「いいから教えてください!」

「なんか意外だな……こういうきっかけで知れるのって」

「わかった。楽しませてくれた礼だ、教えてあげよう……あ、ちょっと待ってくれ、思い出すから。なにせ君達の言葉はまだ勉強中でね」

 記憶の中から適した語彙を探り当てたサイは口を開いた。

「ヤクザ、ギャング、マフィア、アウトロー、暴力団、賊。まあ一言でいえば……犯罪集団(シンジケート)かな」

 これには仮面の下で皆目を見開き、背筋に悪寒にも似た何かが走り去った。

「もっ、目的は⁉ 何で宇宙ヤクザが地球を狙うの⁉」

「……それはまだ早いね。近いうちにまた会った時に教えてあげるよ! バイバ~イ!」

「待て!」

 マグナアウルが手を伸ばすも、サイは手を振りながら瞬間移動で消えてしまうのだった。

「犯罪組織……」

「今までそんなのと戦ってたのか……」

 敵組織の内情が明らかになった事で、クインテット達は改めて襟を正す思いをするなか、マグナアウルは頭を抱えて項垂れている。

「ねぇ……大丈夫?」

 ミューズが声をかけ、デメテルも近くによって声を掛けた。

「その……何か色々思う所があるよね」

「クッ……」

「あんたも大変だよね」

「ククッ……」

「ん?」

「クククッ……フフフフフフ……クックックックック……」

「え? 何?」

 マグナアウルは決して項垂れてはいなかった、むしろ笑いを堪えていたのだ。

「カハハハハハハハハ! アハハハハハ! そうか、奴らは! ハハハハハハ!」

「何で笑ってるの⁉」

「俺は戦い始めてもうすぐ三年が経とうとしている。その最中ずっと心の片隅に疑念があったんだ! 奴らにも何か事情があるんじゃないかってな! けどたった今それが全部吹っ飛んだ! 俺は正しかったんだ! 奴らは正真正銘のクズの集まりだったんだ! これからは同情心なんて不要になる! これが笑わずにいられるか!」

 ひとしきり笑い飛ばした後、大きく息を吐いてマグナアウルはクインテットの方へ向き直った。

「とりあえず今日の事は礼を言うぞ。まあなんだ、これから戦いは激化するだろうが、お互い死なずに頑張っていこうじゃないか。それじゃあ、また会えたら会おう」

 幾分か機嫌が良い声色で別れを告げると、マグナアウルはマントを広げて夜空へ飛び立って行った。

 飛び立ったマグナアウルを見送った一行はスーツを脱いで連絡を入れ、その間五人は互いに背を預けてその場に腰かけた。

「あそことあそこの星、なんて星座?」

「矢座じゃないかな、その周りが大三角だよ」

「それにしてもさ……まともなのウチらだけしか居ないんかね?」

「そうかもね。ジャガックは言わずもがな、あいつは味方みたいだけど、どっかネジ外れてるしさ」

「疲れてるのかな、彼は」

「三年もたった一人で戦ってるんです。誰だって疲れますよ」

「……もしもまともじゃなくなることが強くなる条件だとしたら、みんなはどうする?」

 皐月の問いに、しばらく誰も答える事が出来なかった。

「わかんないな、でも私はまともなりに強くなる方法を着実に探したいかな。みんなと一緒にね」

 奏音の答えが夏の夜空と皆の心に染み渡る。

「出来る事をやっていくことが大切だと思うって、お母さんも言ってたし、そんなに焦らなくていいのかもね」

 迎えが来るまでのしばらくの間、五人はそうして夏の夜空を眺めるのであった。


To Be Continued.

サイとの長い腐れ縁の始まりと、ついに露わになったジャガックの実態。

第二章にして物語が大きく動きました。

異能バトルらしい異能バトルではないかもしれませんが、双方の異能を駆使した戦いはいかがでしたでしょうか?

物語はどこへ向かうのか、お楽しみに。

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ではまた来週お会いしましょう!

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サイキックではなくジェノサイドのサイ。 完全に敵とも言い切れない、油断ならない第三勢力ですねえ〜 どうにか勝てて良かったー
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