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青春Double Side  作者: 南乃太陽
夏休み編
13/37

嵐を呼ぶ異邦人

新たな戦いを呼び寄せる嵐がやって来る……。

夏休みに入って京助は有頂天になるも、やはり不安は隠せないでいた。

そんな中、クドゥリを倒して以降現れなかったジャガックに動きがあり、クインテットが出動。

サイと名乗る謎の刺客は一体何者なのか?

新章開幕!

 あれはひと夏の出来事だった。

 俺の人生の中で多分今後一生忘れられそうもない夏になったのは間違いないだろう。

 夢が現実を侵食してきたのか、誰かがいつの間にやら現実を夢に()げ替えてしまったのか。

 そんなことは分からないけど、多くの人にとってはまさにバカげた悪夢としか言いようもないだろう。

 始まりはそう、あの嵐から。


 怒涛の日常を送っている者達にとっても、あの期間はやってくる。

「え~、連絡事項は以上かな。では最後の号令を波川さんどうぞ」

「起立、礼」

 間延びしたさようならの声が教室に響く。

「よし! 良い夏休みを!」

 校庭に出るなり京助は叫んだ。

「やったぁぁぁぁあああ! サマーヴァケェーィションが来たぞ~‼」

 幹人、弘毅、圭斗をはじめとした十数人の男子衆で不思議なダンスを踊りながら待ちに待った休暇を祝う。

「いええええい!」

「ウゥフゥ~!」

「ジャンボ~リ~ミッ〇~!」

「あぁ~あぁぁあああ! 真夏のジャンボリ~!」

 ひとしきり騒いだ後、拳をマイク代わりにして京助が圭斗に聞いた。

「夏休みのご予定は?」

「これからバスケ部の練習漬けです……」

「そちらは?」

「塾の夏期講習です……」

「そっちは?」

「野球部の合宿です……」

「んでそっちは?」

「補習です……」

「そっちは……」

「水球です……」

 大騒ぎムードから一転全員どんよりし始めた。

「そうですか……まあ時間見つけて楽しみましょう」

「そうでございますね……」

(あっぶねぇ~俺の予定言ったら殺されてたわ)

 こんなどんよりしている中で、これからの予定を言おうものなら市中引き回しの上磔獄門、良くて終生遠島という名のシカトを喰らうに決まっている。

 気付かれないように抜き足忍び足で校門を抜けようとすると後ろから大声が飛んで来た。

「おそ~い!」

「い!」

「たっく、ちょっと待っててなんて言うから何すんのかと思えばバカ騒ぎして、見てらんねーっての」

 待たせていた奏音と林檎が待ち構えていた。

「ごめんごめん、ちょっとね二人とも静かに……」

「今から三人でカラオケ行くんでしょ?」

「ぐわ⁉」

「モタモタしてっと時間無くなるじゃん」

「あぅぐ……」

「なに、どうしたの?」

 校門の影から顔を出すと、先程別れたクラスメートの怨念渦巻く視線が飛んで来た。

「キョウスケ……」

「オマエハ……ウラギリヲオカシタ……」

「ウラギリモノニハ……シヲ……」

「ちょっとなんで後ろ見て……ああ……なるほど」

「後ろって何が……ああ、ドンマイセンキョー」

 京助は奏音と林檎を脇に抱えると、猛ダッシュで逃げ出した。

「待てコルァ~!」

「市中引き回しの上磔じゃ~!」

「ファラリスの牡牛にぶっこんでやらぁ!」

「車裂きにしろぉ!」

「鍋攻めだぁ!」

「千道邸に火を放てぇ!」

「やめろ! 放火すんな! 具体的な拷問名を言うな! てか俺悪くねぇし!」

「捕まえろォ!」

 大勢で追いかけているにも関わらず、京助は誰にも追いつかせることなくあっという間に距離を放してしまった。

「ハァ……ハァ……アハァ……アイツ……どんなカラダしてんだよ……」

「俺達が……こんななってんのに……なんで疲れてねぇんだ……」

「直江と……夢咲の事抱えて……なんで……滅茶苦茶早く走れるんだ……」

「なんでアイツ……スポーツやらねぇの?」

 いろいろ思う事はあるが疲れた一行は、とぼとぼとその場を後にするのだった。

「よーし、何とか撒けたな」

「それよりさ……」

「降ろしてくんね?」

 逃げる事に専念しすぎて二人を抱えていることをすっかり忘れていた。

「おっと、わりぃわりぃ」

 二人を下ろすと、奏音が腹の辺りに手を当てて頬を紅潮させている。

「どうした? あ、強く引き寄せすぎたか?」

「ちげーよ」

「え?」

「耳貸し」

 上体を倒した京助の耳元で、林檎は小声で話し始めた。

「カノちゃんはね、あの日から様子がおかしいの」

「あの日って?」

「アンタの家に泊まった日からだよ」

「マジで?」

「マジよ、アンタと触れると特におかしくなる。その……した?」

「……しました」

「したの⁉」

「ダァッ! 耳元! うるせぇ!」

 さすがにハッとした奏音が二人の方を振り向いた。

「ど、どうしたの⁉」

 片耳を抑えて顔を顰めている京助と、口を押えて驚いている林檎に奏音は状況が分からず困惑している。

「いってぇ……キーンってなった!」

「やったんだ……マージか」

 首振り人形のように京助と奏音を見た林檎は心の中にあるぐちゃぐちゃな感情を処理しようと試みる。

「センキョーと……カノちゃんが……した……しちゃったんだ」

「何をそんなに驚いてるんだ」

「だって……したんでしょ?」

「ま、まあしたけど……そんなに取り立ててビックリする程のことかな?」

「え、ウチがおかしいの? もっと段階踏んで……でもナジミだからそういうのすっ飛ばせるのかな?」

 京助と奏音は顔を見合わせしばらくジェスチャーのみでやり取りしていたが、突然奏音が何か思いついたかのような仕草をし、林檎の方へ向き直った。

「あのね、多分勘違いしてると思うんだけどさ」

「へあ?」

「私達がしたの、キスだから」

 〝キス〟という単語を聞いた途端林檎が固まり、徐々に足元から頭の先まで真っ赤になっていき、それを見た京助と奏音はニマニマと笑いながら林檎の肩に顎を乗せた。

「アレアレ、何をしたと思ったのかなァ~?」

「林檎ちゃんって意外とムッツリスケベ?」

「なあなあ何をしたと思ってたのか教えてくれよ、ちゃーんとはっきりと言葉に出してな」

「意外と欲求不満だったり?」

「……せ」

 目を瞑って眉根を寄せて歯を食いしばり、林檎は真鳥市中に響き渡る大音声を響かせた。

「ウチを殺せぇぇぇぇぇぇぇええええええ‼」


 場所は移ってとんこつしょうゆ・イハラ。

「な~悪かったって、機嫌直せよな」

 机に突っ伏して頭から湯気を出している林檎を宥めながら、京助はメニューを眺めていた。

「お願いセンキョー、お願いカノちゃん、ウチの事どうか殺してくれ」

「殺さねぇよ」

「ヤダよ、なんで殺さなきゃいけないのよ」

「今すぐ光の粒子となって消え去りたい」

「仕方ないって、誰だってするよあの場では。煽ってごめんね」

「可及的速やかに昇天したい」

「まあしょうがない、勘違いは誰にでもあるよムッツリンゴ」

 京助が言い終わったコンマ以下の時間で口をムの字に曲げた林檎が勢いよく顔を上げる。

「コラァおまマジで! 誰がムッツリンゴだ!」

 京助に攻撃を仕掛けようとするも、頭を抑えられて封じ込められてしまう。

「おー、ムッツリちびちびアタックが出たぞ」

「プフッ……ムッツリちびちびアタック……」

「もう許さん、丑の刻にアンタんちの近くで釘を打つ音色が響いても知らんから」

「奢るから機嫌直せって、全額ポイントで」

「それもそれでなんかモヤモヤする」

「ほら早く決めろって、な?」

 持っているメニューを渡し、林檎は口角をひん曲げながら良さげなメニューを探す。

「高いの頼んでやる」

「いいの林檎ちゃん? そんな事したらカラオケ奢りジャンケンに負けた時に痛い目見るよ~」

「そうだった……」

「それにあんま食べれる方じゃないだろ?」

「こんなの余裕だし」

「じゃあ食べ放題……」

「無理無理無理無理、多分ウチ破裂する。まあ食べれる範囲で頼むか」

 京助はスペシャルイハラ、奏音は味玉ラーメン、林檎はレディースラーメンに様々なトッピングを追加して注文した。

「トッピングで金使わせようって魂胆だな?」

「バレたか」

「まあでも俺ダイヤ会員だからトッピング三個までなら無料なんだよね」

「うらやましーわ、なんかこういうランクアップする系のポイントカードとかで一番上に行ったこと無いんよね」

「雨垂れロックをディグるという言葉もあるわけだからね。ユメリンゴも何かガチッてハマる物があればいつか達成できるさ」

「なによ〝雨垂れロックをディグる〟って、無いよそんな言葉」

 奏音が呆れ気味に笑っていると、先に奏音が頼んだ味玉ラーメンがやって来て、次にトッピングだらけのレディースラーメン、そして最後にスペシャルイハラがやって来た。

「ではいただきましょう」

 三人で手を合わせてから五分も満たない頃に、京助が手を上げた。

「おっちゃーん! 替玉粉ネギ抜きで!」

「あいよぉ! 待ってな!」

「え、待って早くね?」

「こんなもんだよ、三回替玉するんだよね?」

「おう、たりめーよ。来た来た」

 皿に盛られた替玉にコショウを振りかけると、味玉をスープに溶かし、これも五分かからず食べ終えると今度は半味玉と替玉を同時に注文し、奏音が替玉を注文する頃には完食していた。

「マジであんたどうなってんの? 胃袋にブラックホールでも詰まってんの?」

「いやこんなもんだろ」

「いやお兄ちゃ……アニキはそこまでじゃなかったんだけど」

「まあ人によるんじゃないか?」

「いやまあそれは良いんよ、ウチらが気になるのはなんでこんだけ食っても太らないのかって事よ」

「そりゃ人並みに鍛えてるから」

「人並みでその腹筋の硬さは無理でしょ」

「確かアンタ酔拳のマネ完コピできたよね? ああやって鍛えてるんじゃない?」

 奏音と林檎の脳裡に、原っぱで頭と両腕と膝の上に水の入った小さな茶碗を置いて姿勢を維持したり、何十枚も重ねられた瓦を片手で抑えつけて割ったり、上裸になって酔っぱらったかのような動きで演武をする京助の姿が想起された。

「いやいやないないない、九十九パーセントない」

「じゃあ一パーセントはあるじゃん」

「いやないから、ここに変なヤクザ的な迷惑客が来て因縁つけられても椅子で反撃とか出来ないから」

「椅子使うまでもないって事ね、全部拳でボコせるから」

「なんで俺が武の達人みたいに思われてるのかは分からんのだけども」

「まあ武の達人かどうかは置いといてさ、京助って運動神経良いよね」

 思い返せば体育の際には運動部顔負けのパフォーマンスをこなし、今年の四月に行われた体育祭のリレーではサッカー部と野球部とバスケ部と互角の走りをし、学校で行われる行事等の設営作業では大量の椅子を右脇に抱え、左手で長机を抱えて運んでいるのを何度か見た。

「今思えばアンタ意外とすごいよね」

「意外とってなんでぇ、俺は何時何時(いつなんどき)もすげぇよ」

「湧き上がる自信が羨ましいよ」

「だって奏音に告白されたんだぞ、すごいに決まってるだろ」

「がほっ!」

 奏音は啜っていたラーメンを思わず吹き出し、京助は飛んだ汁を机に備え付けのティッシュで素早く拭き取った。

「ちょっとぉ! いきなりはやめてよ!」

「だって事実じゃん」

「いきなり来られるとドキッとするの!」

「じゃあイヤ?」

「イヤじゃないけど……」

 林檎は頭を掻きながら深く溜息を吐き、頬杖をついて言い捨てた。

「見てらんねーわ、夫婦(めおと)漫才」


 イハラを出た後でカラオケに入り、フリータイムドリンクバーありで入店した。

「よーし歌うぞ~」

「ドリンクバー俺取ってこようか?」

「いやいいよ、ウチがやる」

「ああ、じゃあ私がやる」

「いいって俺がやるよ」

「「どうぞどうぞ」」

「うわやりやがったな……何が良いか言え、心優しい京助様が取って来てやろう」

「メロソで」

「私カルピスで!」

「わかった、烏龍茶に炭酸水な」

 ツッコミも聞かず京助はすりガラス越しにピースを残してドリンクマシンへ向かって行った。

「大丈夫かな?」

「ねぇカノちゃん」

「ん~何?」

「最近さ、すっげぇ平和じゃね?」

 奏音は目を細めて大きく頷く。

「そうだよねぇ~、ほんっとに平和だよね。やっぱり幹部のクドゥリを倒したのが大きいのかな?」

「無事倒せたからカノちゃんはセンキョーとデート出来たし、こうして三人でカラオケにも行けてるってワケ。まあフクロウちゃんには感謝しとかないとねー」

「そうだね~、本当に協力してくれて助かった。彼のデートは上手く行ったのかな?」

「ねぇ、ちょっといい?」

 林檎が奏音に顔を近づけ、小声で囁くように聞いた。

「キスした方? それともされた方? どっちなん?」

「……された方」

「されたんだ……どんな感じで?」

 奏音はあの時の事を思い出して唇を触り、深呼吸して話し出した。

「月の見えるテラスに連れてってもらったの」

「え、アイツの家にそんなのあるの?」

「うん、すっごく綺麗だった。小学生の頃に行ったハワイ旅行で見た星空の何倍もね」

「すげーな、天体観測向きならサキちゃんが喜びそうだね」

「あ~確かに」

「まあ話を戻すと、そこでキスされたの?」

「……うん」

「なんかセンキョーって妙にロマンチストな所あるよね」

「確かに」

「いいなぁ……ウチも恋してぇな」

「林檎ちゃんってどんなのがタイプなの?」

 ぼんやりと浮かんで来た満面の笑みの兄の桃弥を両腕を振り回して消し去り、顎に親指と人差し指を当てて考えた。

「身長はいらん、差があっても困るだけだし」

「まあ二十センチ差があると色々不便って言うらしいね」

「となるとウチの場合百六十九までか」

「あれ? 二センチ伸びた?」

「うるさーい! 話を戻すとうーん……頭良い奴かな?」

「やっぱインテリがいい?」

「そうねぇ~、インテリって訳じゃなくて……頭が良いってかハナシの引き出しが多い奴かな」

「なるほど、会話重視か。身長以外でルックスとかのご要望はありますかお客様」

「……笑顔かな」

「笑顔?」

「よく笑う奴がいい、しょうもない事じゃなくてちゃんとした事で笑う奴かな」

 京助の居ない間に二人は恋愛談義(恋バナ)で盛り上がるのだった。


 時は戻って京助が廊下に出た直後。

「ハァ……なんか平和だよな」

『いけないですか?』

 左腕の朱鷺のバングル(トト)を見ながら、京助は歩きながら続ける。

「いい事なんだろうけどさぁ、なんかこうこの平和は違うって気がするんだよな」

『どう違うのです?』

 ドリンクバーのマシンがある階のボタンを押し、腕を組んで小さく溜息をつく。

「なんつーかさ、こう……嵐の前の静けさって言うの? そんな感じがするんだ」

『より大きな敵が襲来すると?』

「連中の性質はケダモノそのものだ、ケダモノみたいな連中は揃って絶対に忘れないものが一つだけある」

『といいますと?』

「屈辱だよ」

『バーニャラ・クドゥリが復讐に来るのを警戒しているのですね』

「いや、あんだけやったんだからクドゥリはしばらく動けないだろうよ。多分あいつはジャガックでも指折りの手練れだったはずだ」

『だから?』

「なんか新しい奴が出てきそうな予感がするんだよねぇ~」

 目的の階についた所に先客が居たため口を噤み、コップ三杯とソフトクリーム用のカップを三個取った。

『新しい強敵があなたの前に立ち塞がると?』

『そうだな、今は俺から受けた屈辱をどう返すかを考えている雌伏の時。いずれ奴らはその牙を剥く』

『それが目下の懸念点という訳ですか』

『ああ、油断ならない。一度は追い詰められた上に手の内を明かして取り逃がしたんだ。嫌でも慎重にならなくちゃな』

 コップ内に溜まっていくカルピスを眺めながら、京助は溜息をつく。

『少なくとも今あなたが出来る事が一つだけあります』

『うん? というと?』

『たとえ仮初であろうとも、今の平和を享受して英気を養う事ですよ。こうして何のために戦うのか、守るものを再確認するのです』

 京助は小さく笑い、左腕のトトをちらりと見た。

『なるほどな』

 ジュースとソフト達をお盆に乗せ、京助はエレベーターに乗り込んだ。

「よーし! 今日もハジけてハジけまくるぜ‼」


「やって来たぜ良い風! 青い空何やっても良いんじゃね⁉ そんな気分でぇ! 巨大(ぶってぇ)!」

 数時間歌い続けた事に加え、林檎の低音シャウトと京助と奏音が振り回すタオルにより、カラオケ部屋は熱気に包まれていた。

「濡れたまんまで!」

「いっちゃってぇ~!」

FOOOO(フォー)!」

 普段のストレスをここぞとばかりにぶつけ、三人は大いに楽しむのであった。

 楽しい時間はあっという間、すぐに十八時になりジャンケン負けの結果、奏音が会計を持つことになった。

「フリー三人分は高いよぉ……」

 よよよと泣きながら奏音はセルフレジのQR決済で会計を終え、三人は真鳥駅前のフードコートに入った。

「まあ持ち回り的に言えばウチがみんなに奢る感じだよね?」

「さ~てめっちゃ高いやつ頼むぞぉ!」

「お……お手柔らかに」

 注文が揃ったところで、三人はカラオケの話に花を咲かせた。

「それにしても奏音の歌滅茶苦茶上手かったよな」

当たり(あったり)前じゃん! アマチュアの範囲ではあるけどもう十年以上教室通ってんだから!」

「でも原キーでボカロはすげえって」

「あれボイロだよ」

「大変失礼をばいたしました。まあでもすごいのは変わりない」

「正直有料級だと思う」

「そーお? そう言われると会計払った甲斐があったよ。でも京助も上手かったよね」

「まあセンキョーは世界的バンドのボーカルだから」

「別に慧習メルクリウスは世界的どころかローカル的ですらねぇよ」

「あの歌また聞きたいなぁ、ミキ君と角ちゃんと圭斗君と組んでさ」

「まあ今年の文化祭も期待しといて」

「マジで?」

「また出んの⁉」

「この前集まったときにフィーチャリングメンバー探そうつってたんだよね」

「じゃあ私も立候補していい?」

「ああいいよ、白波さんだっけ? あの子も呼んだら……」

「だーっ!」

 京助の口を奏音が塞ぎ、口を耳元に寄せて囁いた。

「麗奈ちゃんがギターやってるの内緒でしょ!」

「あ、やべぇそうだった!」

「あれ~? センキョーとレナミちゃんって知り合いだったの?」

「あぇ? ああ、最近知り合ったんだよ、偶然奏音と一緒にいる所に会ったんだ」

「そうなんだ、でもレナミちゃんが首を縦に振るかね?」

「まあそこの問題もあるか……まあまだ四ヶ月あるし、そこまでには募集掛けときたいよなぁとは思ってる」

「期待しとくよお兄さん。まあ話を戻すとまたカラオケ行きたいよね、今度は大勢でさ」

「やっぱ大勢だと楽しいよな、歌える歌は減るけどさ」

 呼び出しベルが鳴り、各々の注文した料理を取りに向かい談笑しながら完食して席を立った。

「楽しかったね!」

「また集まろうよ、海とかプールに行ってさ」

「まずは課題だよな」

「ああ……そうだった」

「なんで思い出させるかね」

「まあまあ、手伝うからさ。誰かの家に集合してやりゃいいじゃん」

「それも思い出かな、ほんじゃまた連絡ちょーだい」

「うん! じゃーね!」

 暗くなり始めてようやく、三人は分かれて帰路に着くのであった。


 その日の夜、地球の大気圏を一台のライト級インターセプターが突っ切り、そのまま真鳥市内の森の中に着陸すると、機体下部の扉が煙を吹き出して扉が開いた。

 中から出てきたのはアイバイザーを掛けたヒューマノイドであった。

「――――、――――――……」

 そのヒューマノイドは地球のどの言語とも合致しない不思議な言語を喋ると、ニヤリと笑う。

「―――――――……―――――――――‼」

 ヒューマノイドはアイバイザーを外すと、夜の真鳥市に心底愉快な笑い声を響かせた。


 夏休みに入ってから一週間、京助は完全に暇を持て余していた。

「あーあ、ヒマだ」

 今は朝八時半、課題はもうとっくの昔に終わらせた上に、ジャガックも目下完全に沈黙している。

 六時には必ず起きる習慣が根付いているため、起きたらゲームをするかサブスクで配信されている作品を見て昼に惰眠を貪り、夕方に起きたら地下へ行って疲れるまで鍛錬をするというサイクルを繰り返している。

「まーるで味がしねぇ」

『だらけていますよ、しっかりなさい』

「だーって退屈なんだもーん」

『外に行ってみてはいかがですか?』

「何があるんだよ外に」

『奏音さんに連絡してみては?』

「……ダメもとで連絡すっか」

 スマホを取り出し、奏音にメッセージを送る。

「お、『宿題手伝って』だって。行くか」

 京助はものの一分で支度すると自宅を飛び出し、誰かに見られていないのを確認しながら短距離瞬間移動を駆使して奏音の家に向かった。

「ぴんぽーん」

 インターホンを押すと和沙が出てきた。

「おはようございます和沙おばさん」

「あら京助君! いらっしゃい!」

「え!? 嘘! もう来たの! 待って待って待って!」

 玄関越しにホットパンツにタンクトップのみの奏音が横切ったのを目に焼き付けた。

「ごめんなさいねぇ、うちの子ダラしなくって」

「いやいや、俺もこんなもんですよ」

「上がってちょうだい、オレンジジュースぐらいしかないけど」

「いやいや、氷水でいいです」

 先に上がって待っていると着替えた奏音に手招きされ、ガリガリと氷を噛み砕きながら奏音の部屋に向かった。

「模様替えした?」

「ちょっとだけね」

 ベッドに頭から飛び込んでしばらくそのままでいると、奏音がバチバチと背中を叩いてきた。

「痛い痛い痛い、なんだよいきなり」

「吸うな!」

「は?」

「私のベッドを吸うな!」

「いやいやそんな意図じゃ……ははーん、そういう事か」

 以前奏音が自室に来た時、京助のベッドの上でしばらくうつ伏せになっていた事があったのを思い出した。その時は疲れているのだろうと思って気にも留めていなかったが、この発言を聞くと話が変わってくる。

「さては奏音お前……あの時俺のベッド吸ってたな?」

「ギッ⁉ そ、そんなやましい事するわけ……」

「ああ、やましいって自覚はあるんだ」

「うぅ……」

「まあよくある墓穴の掘り方だわな、自分がやってることは他人もやってると思うってやつ。ちょっと前から思ってたんだけど、奏音って意外とムッツ……」

 ここで奏音は限界を迎え、顔を真っ赤にして短く奇声を発すると口からエクトプラズムを出してその場に崩れ落ちてしまった。

「あらら、ちと揶揄いすぎたか」

 奏音をアームチェアに座らせ、しばらく落ち着くのを待ってから二人で課題に取り組み始めた。

「京助はもう終わらせたの?」

「うん、三日で」

「三日⁉」

 本当はその半分である、全教科同時進行すれば何とかなった。

「早くない? 数学とか多かったよね」

「俺ルーズリーフ使ってるから補充できるんだよね」

「……まさか」

「そういう事」

 あらかじめ問題集を解いておき、提出日が近くなればさも最近解いたかのような体で差し替えれば良いのだ。

「ずるー……いやでもその分先に解いてるのか、昔からホントに変わったタイプの面倒臭がりだよねアンタって」

「一周回った面倒臭がりってイインチョに言われて言い得て妙だと思ったわ」

 京助は後顧の憂いを無くす為なら努力を惜しまないタイプの面倒臭がりなのである。果たしてそれが面倒臭がりと呼べるのかは分からないが。

「まあまあ早くやるぞ、今日で数学をなるべく半分以上終わらせる」

「は、半分⁉」

「早く終わらせて後々遊ぶんだよ!」

 根気強く丁寧に教え、なんとか目標としていた半分を終えた。

「お……終わった」

「半分な。今十一時半か、あと三十分他の教科やる? 数学だけとか味気ねーだろ?」

「そうだね……じゃあ化学で!」

「化学か、すぐ終わるだろ」

「それはアンタの場合ね」

「大丈夫だって、奏音ならすぐ終わる」

 宣言通り、四十分で全部片付いた。

「十分オーバーしたけど終わったから良しって事で」

「大変だった……でもなんかこれだけ片付いた時点でだいぶ楽になった気がする」

「……ちょっと待ってて」

 部屋を出ると和沙がテレビを見ていたところに出くわした。

「あれ、もうお昼の時間ね、何か食べるかしら?」

「いやいや、おばさんの手を煩わせるわけにはいかないんで何か二人で食べてきますよ」

「あらぁ~助かるわぁ」

「ここだけの話あいつ家事手伝わないですよね?」

「そうなのよ、あの子洗い物頼むとまず『え~』って言うのよ。困っちゃうわ」

「聞こえてるからね二人とも!」

 ドア越しに大声で殴られた。

「まあプチデートならあの子も喜ぶと思うから……えーっとちょっと待っててね」

 和沙は食卓の上に置いてあった自分の財布から一万円札を取り出して京助に差し出し、京助は面食らって三歩後退した。

「いやダメですそれは。ダメです」

「いいのよ、これで何かおいしいもの食べてらっしゃい。余った分は京助君の生活費にでも……」

「いやマジでダメですそれは、ガチのダメです。本ッ当にダメ、良くない」

「つべこべ言わない! 臨時のお小遣いと思いなさい!」

 シャツの胸ポケットに折り畳んだ万札をねじ込まれ、京助は嬉しいような畏れ多いような、そんな気分になるのであった。

「奏音~! 準備は⁉」

「準備って⁉」

「京助君がどっか連れてってくれるって!」

「すぐ行く!」

 胸ポケットにねじ込まれた万札を何とも言えない気持ちで見つめ、京助は溜息をついてそれをズボンのポケットに入れるのであった。


「行ってきまーす! さて、今日はどこ行くの?」

「どこ行こうかな~、ちょっと高い店行く?」

「え~いいの?」

「軍資金が入ったんだ」

「また八桁の特許料入ったの?」

「いやそういう訳じゃ……」

「まさか九桁⁉」

「まあ違うけど……予想外の軍資金ってだけ、まあいいや。行こう」

 京助と奏音はバスと電車を乗り継いで少し遠くの町へ行き、手焼きハンバーグの店に向かった。

「初めて来たな」

「ここな、ペレットでジューッて焼けるんだけどよ。それが本ッッッッッッッ当に美味いの!」

「へぇ~、すごい溜めたからにはおいしいんだろうな」

 京助の言う通り、奏音が今まで食べた中で一番美味いハンバークと言っても過言ではなかった。

美味しい(ほひしぃ)~!」

「美味い食べ方を教えてやろう、まずちょっと切るだろ? そうそう、それを焼く前にソースに浸けてみ」

「このまま生で行くの?」

「いやいや違う、んな事したら腹壊すぜ。浸けたやつを焼くんだよ」

「どれどれ……おお、もう香りが違うね」

 立ち上る煙からソースと肉の焼ける香りが鼻腔を駆け抜けていく。しっかり焼き上がったのを確認した後で奏音はそれを口に運んだ。

「……有罪だよこれ……美食罪があったら一発アウトだよ」

「チーズ欲しくなるよなぁ~」

 美味さに感動していると、ふと京助が赤身が残った状態で食べているのに気付いた。

「まだ赤身残ってるけど、レア好きだったの?」

「どっちかって言えばブルーレアが好きかな、赤身残ってる方が美味い」

 付け合わせの人参をペレットで焼きながら、京助は久々の味に頬を緩ませた。

「今までこの店で食ったハンバーグで一番美味ぇ」

「あれ? なんか変わったの?」

「まあな、目の前に最高の女がいる」

「調子いい事言っちゃってぇ」

「マジだってーの」

 デザートのパフェも完食し、二人は店を出た。

「あと軍資金が五千円弱ある」

「じゃあさ、あんまり来たことないところに来た事だし、街ブラしちゃう?」

「いいな、たまには味変と行こう」

 調べてみると近くに大きなモールがあるのが分かり、そこへ向かってみる事にした。

「家族連れ多いねぇ」

「夏休みだからな」

 手を繋いでモールへ向かい、近くのスクランブル交差点に着いた時の事。

「やあ君達! ちょっといいかな?」

 背後からそこそこ大きめな声で声を掛けられた。

「あはい?」

「なんですか?」

 振り返ると紙の地図で顔を隠した京助より少し背が低いぐらいの人物が立っていた。

「えーっと……何か御用で?」

 顔を隠していた地図を下げると、二人は思わず感嘆の声を漏らした。

 まず目についたのはエスニック系の独特な服を着て、深い赤の髪の毛をしていることである。

 そしてその人物は男にも女にも見えるし、無垢で無邪気な子供のようにも、数多の経験を積んできた大人のようにも見える不思議な顔立ちをしている。

 だが唯一言える事があり、それは満面の笑顔が似合う美人だという事だ。

「失礼、地図を見ていた。ボクは遠くからこの街に来たんだが、行きたい場所があるんだ」

 どうやら観光客(インバウンド)らしい。

「道を聞きたいんですか?」

「そうだね、まとりキューズモールってここからどう行けばいい?」

 京助と奏音は顔を見合わせると、持っていた地図を借りてどうやら逆方向に来た事を説明した。

「あ~ちゃちゃちゃちゃ、どうやら別の路線のバスに乗ってしまったようだね」

「十四番のバスに乗って五つ後のバス停で降りて、路面電車に乗れば行けますよ」

「なるほど、ここら辺は初めて来たもんでね」

「どこからいらっしゃったんですか?」

「遠くから」

「えっと、具体的な場所は……」

「遠くだ」

 エスニックな服がよく似合う彼の者は笑みを深め、奏音は困って頭を掻いた。

「外国から来た感じッスか?」

「あぁ、ある意味ではそうだね」

 これには驚いた、あまりにも流暢な日本語を話しているため、始めのうちはその可能性に全く思い至らなかった。

「へぇ~日本語お上手ですねぇ」

「まあね、仕事柄いろんな所に行くからさ。言葉はすぐに覚えちゃうんだ」

「仕事で来たんですねぇ、何してるんです?」

「自営業の肉体労働だね、めちゃくちゃ儲かるし天職だよ」

 一体どんな職業なのだそれは。二人はそんな条件に当てはまる職を考えたが、何も思いつかない。

「ありがとう! 助かったよ、あのバス停から……」

 その時、低いクラクションの音が辺り一面に木霊し、何事かとそこを向くとアスファルトをタイヤで削るトラックと、その前に立つ未就学児と思わしき子供が見えた。

「あっ!」

 京助が反射的にトラックを念力で引っ張ろうとしたその刹那、真鳥市の地図が宙を舞った。

「はぁ⁉」

 トラックの数メートル先に、あの観光客が子供を抱きかかえて立っていた。

「……ふぅ、危ない危ない」

「だっ……大丈夫ですか!」

 トラックの運転手とその子の母親と思わしき人物が駆け寄り、観光客は笑顔でその子を母親に渡した。

「こうも熱いと集中力が落ちるよね、気を付けてね」

 名前も言わずその場から離れ、京助の近くに落ちていた地図を拾った。

「す……すごい、どうやったんですか?」

「別にすごくはない、体が先に動いてた」

 再び笑うと踵を返し、手を振ってちょうどやって来たバスに乗り込むのであった。

「かっこいいなぁ、ああいうの」

「そうだな……」

 この場で一人、京助だけが気付いていた。近くのアスファルトに深い足跡がついていたのを。

『トト、あいつは……俺の同類(超能力者)か?』

『ええ、間違いありません』

『そうか……』

 今思えば、これが嵐の第一陣だったのかもしれない。


 夕食をモールで済ませて京助と別れて帰った少し後、財団から呼び出しがかかった。

「やっと動いたか」

 妙な高揚感と共に地下基地へ向かうと、すっかり日焼けした皐月が待っていた。

「久しぶ……わ、どうしたの?」

「ああ久しぶり奏音」

「すごい焼けたね」

 褐色になった頬に触れられ、皐月は楽しげに微笑んだ。

「お母さんが有給取ってくれてさ、旅行を兼ねた天体観測に連れてってくれたんだ」

「へぇ~いいなぁ! 後で写真送ってよ」

「任せろ、いっぱい撮って来たから。なんかスマホと望遠鏡接続できるユニットみたいなの買ったからキレイに撮れてると思うよ」

 そのうちメンバー全員が集合し、白波博士からの今日の敵についての説明を待った。

『やあ久しぶりだね君達……おお、各々楽しんでいるらしい』

「私もどこか連れて行ってほしかったんだけどー」

 むくれて見せる麗奈に白波博士は頭を掻きながら苦笑いして頭を下げた。

『ゴメンな麗奈、必ず埋め合わせはする。みんなの前で約束する』

「なら良いんだけどさ」

 珍しく子供っぽいところを見せた麗奈に内心微笑ましく思いながら、白波博士は続けた。

『今回は恒例の補給の阻止だ』

「まあ恒例って言っても、なんだか久しぶりな気がするよね~」

『そうだな、最後の補給阻止はマグナアウルが初めて我々の前に姿を現した日だからな』

 あの日からもう数ヶ月が経とうとしているとは、なんだか信じられない気がする。

『だが気を付けなくてはいかんぞ。君達はジャガックの幹部を倒した、奴らも警戒を強めているだろう』

「りょーかいでーす」

 五人は装甲車に乗り込み、ここ一週間どう過ごしたか等の話題で談笑しつつ士気を高め、着いたと同時にグラスを掛けて外へ出た。

「近いね」

「ちょっと歩いた先かな」

「輸送機も停まってるからすぐ動いたがいいかも」

「じゃあここで着ますか?」

「そうねー、準備は良い?」

 奏音の問いに皆は転送鍵を取り出して見せて答え、全員一斉に認証キーを展開した。

「全員装着! GO! クインテット‼」

 C-SUITを纏った五人は各々武器を取り、イドゥンを先頭に気付かれぬよう移動した。

「一発ドカンとやるから、その隙に乗じてアタック掛けるよ」

 こちらを振り返って小声で言うイドゥンに、皆は了解の意のハンドサインを返した。

「よーし」

 自分のライフルのバレルの先端に特殊弾頭を装着すると、自分のヘルメットの右側面についたスコープを倒して狙いを定めた。

「フゥ……」

 吐息と共に引き金が引かれて先端の特殊弾が輸送機の装甲に張り付き、作業をしていた雑兵がそこを振り返ると同時に爆発した。

「ゴーだ!」

 皆一斉に走り出し、物資を捨てて武器を持った雑兵に斬りかかっていく。

「やっ!」

 ミューズのビームハンドガンからの光弾やルナが飛ばした斬撃で次々と雑兵が倒れていき、デメテルのパンチで吹き飛ばされた者達をイドゥンとアフロダイが撃ち抜いていく。

「気のせいかな?」

「何が⁉ あぶなっ!」

「なんか少なくない⁉」

「それウチも思った!」

 やけに雑兵の数が少なく、彼らを指揮するサイボーグ兵も居ない。

「これもしかして罠じゃない⁉」

「どうだか! やれるだけやってヤバかったら撤退で!」

 ある程度雑兵を倒した所で逃げ出す者も増え、もうやる事が無くなってしまった。

「……これで終わり?」

 ルナが退屈そうに太刀を肩に乗せて言い、ミューズも訝しがりながら周囲を見回す。

「これ招集されるような事態かな?」

 基本的にクインテットが招集されるのは、財団の一般部隊が対処しきれない場合である。だがこれは一般部隊でも対処可能だろう。

「なんだろね、退屈しのぎと思って呼び寄せたんかね?」

「それは無いと思いますけど……脅威予測AIは何を弾き出したんでしょうか?」

「うーん、たぶんボクじゃないかな?」

 声がした方へ振り返ると同時に武器を向けると、鞘に入った刀を抱えた人物が輸送機の上にしゃがんでいた。

「……え?」

 その人物は深い赤色の髪にエスニック系の独特な服、そして笑顔が似合う美人だった。

(あの時の観光客の人!)

「よっ……と!」

 輸送機から飛び降りると、彼の者は皆の前でにこりと笑って見せた。

「いや~面白い! 良いものを見せてもらった」

「何者?」

「ああ失礼、名乗ってなかったね。ゴホンゴホン」

 わざとらしく咳払いして、背負った刀を杖代わりにして名乗った。

「ボクはサイ。君らの敵だ」

 サイと名乗った彼の者は、自分達の敵と宣言した割には相変わらずにこにこしているだけで敵意どころか闘気すら感じない。

「敵なのは見ればわかる、ジャガックのサイボーグなんでしょ」

「ジャガックのサイボーグぅ? あはははは! 面白いこと言うね君」

「茶化すのも……いい加減にしろ!」

「んえ? おおお!」

 ルナの太刀の一振りを上体を逸らして回避し、サイは刀の鞘を持った。

「なんだよ~戦う(はじめる)なら言ってよ!」

 小馬鹿にしているとも取れる飄々とした態度に多少苛立っていたクインテット達がこれを機に一斉に斬りかかって来た。

「よっ! おっとっと! ハハッ!」

 サイは複数の場所から飛んでくる攻撃を全て回避し、さながらそれを楽しむような素振りを見せている。

「みんな下がって!」

「え、何?」

 ミューズが手斧とハンドガンを合体させ戦斧に変えると、スパイクから拘束弾を射出した。

「あ~! も~! やめてよぉ!」

 閉じ込められたのにも関わらず、サイは相変わらずふざけたかのような態度を崩さない。

「閉じ込められるの……イヤなんだよねッ!」

 デコピンで電磁障壁を軽く弾くと、あろう事か障壁が粉々に破壊された。

「ウソ……」

「ウソみたいだろ? でもホントなんだよネ」

 肩を竦めるサイにイドゥンとアフロダイがミューズに加わり、一斉射撃を加えた。

「おーおーきれいだねー」

 しかし全ての光弾はサイの直前で静止し、イドゥンのものを手でどかせ、アフロダイの光矢を指で弾いた。

「熱かったな、大した威力だ。喰らったら痛そーだねー」

「まさかコイツ……」

「クドゥリと同じ能力を……」

「はぁ? バーニャラ・クドゥリとボクが同じ? 君達ホントに面白いね」

 世間話でもするかのような調子で笑い出し、初めて五人はこのサイという人物に不気味さを覚えた。

「ねぇ……気付いたんだけどさ」

「なに?」

「さっきからあの刀、一回も抜いてない」

「もっと言うなら……我々に対して一度も攻撃していません」

 刀を持っているものの、それを抜かないどころか攻撃を避けるばかりでこちらに何もしてこない。それどころかまるで無邪気に遊んでいるようで闘気すら感じない。

「だったら攻撃を引き出すまで!」

 デメテルがサイに向かって走り出し、ビームキャリアからビームを放って牽制しつつ殴りかかるも、サイはその両方を避けてしまう。

「よっと! ハハア!」

「でやっ! せいっ!」

 デメテルのパンチをわざとアクロバティックに避けて見せ、攻撃の手がより苛烈になった所で拳を掴まれた。

「あ~うん、だいたいわかって来た」

「くっ!」

 もう片方の拳も簡単に掴まれる。

「戦ってて感じたなんとも拭い難い違和感……今わかったよ」

 離脱するべく振り払おうとするも、まるで縫い留められたかのように動かない。

「君たち正規の訓練受けてないだろ?」

「⁉」

 動揺した所を畳み掛けるようにサイは握った手に力を籠め、デメテルのナックルアームが音を立てて軋み始め、それに伴いデメテルは徐々に立っていられなくなり膝をつかされる。

「ビンゴか。そのスーツにはボディーラーニング(肉体学習)機能と補整AIか何かで君たちが戦えるまでに調整しているんだろうけど……一目でわかった。根本的に動きに体が慣れてない」

「それがどうしたって言うの!」

「うーん、まあ簡単に言えばこれから起こる事態を招くことになる」

 突如サイは背後に迫っていたアフロダイを念力で引き寄せると槍の先端を掴み、その先端から勝手にビームを発射してデメテルを吹き飛ばした。

「デメテ……きゃっ⁉」

 槍を掴んだままサイはアフロダイのみを吹き飛ばし、奪った槍をまじまじと見つめて弓に変形させたり戻したりして弄んだ。

「ああ、わかった。こうだ!」

 どういうわけかグリップを操作する術を見つけ、様々な武器に変形させて楽しんだ。

「あははは! これ面白いね、一個貰っていい?」

「ふざけんな!」

 緑色の光弾の弾幕がサイに迫り、それらは後方へスキップするサイの眼前で全て止まり、それに構わずイドゥンはライフルを連射し続ける。

「弾幕を張るなら……ここまでやらないと!」

 サイが緑色の光弾を指で弾くと、静止していた光弾が一斉に細かく分裂し、全て複雑怪奇な軌跡を描いてイドゥンに襲い掛かって来た。

「あとそうだ」

 吹き飛ぶイドゥンを顧みることなく自分が持っていた刀を上に放り投げると、背後に迫っていた戦斧と太刀を親指と人差し指で挟んでへし折った。

「な⁉」

「ウソ⁉」

「バレバレだよ、超能力者相手にするならうまく立ち回らないと……」

「超能力者……ぐあっ!」

 二人の腹に肘鉄をかましてから放り投げて落ちてきた刀を取り、柄尻を何もない場所に向けた。

「例えばさっきからそこで見てる彼みたいにね」

 肘鉄の鈍い痛みに耐えつつミューズが反射的に顔を上げ、サイはニヤリと笑って上体を逸らし、その上を黒い影が猛スピードで通りかかった。

「速いねぇ」

 上体を起こしながら振り返ると、そこにはマントを広げたマグナアウルが立っていた。

「ああ、君がマグナアウルか! 会いたかったよ!」

 相変わらず殺意と敵意と憎悪を怒りで煮込んだような殺気を発しながらゆっくりと振り返り、それに対してサイは相変らずニコニコと笑っているだけである。

「お前……なんなんだ?」

「えぇ? なんなんだって?」

 マグナアウル(京助)もサイがあの観光客であることに気付いていたが、この言葉はそれに対するものだけではなかった。

ジャガック(クズども)の探知システムにお前は引っかからなかった。それでも俺がここに来たのはこいつらがお前と戦ってる情景が頭に浮かんだからだ。何者なんだお前は」

「自己紹介しろって? ボクはサイだよ。君をぶち殺せって言われてるんだ」

 マグナアウルのマントが収納されてマフラーに変わり、いつの間にか手にはサブマシンガン二丁が握られていた。

「だったら話は早いな、ジャガックならお前は俺の敵だ!」

「えぇ? ジャガックぅ? ボクが?」

 サブマシンガンの連射をダンスのような動きで回避して跳躍すると、空中でローリングしながらマグナアウルの背に自分の背を預けた。

「勘違いしないでくれ、ボクはジャガックじゃ……おっと!」

 マフラーがサイの首を絞め上げようと巻き付くが、腕を挟めて即座に抜け出し、続く銃撃も納刀したままの状態で剣を振って防いだ。

「とっと……煙が出てる」

 鮮やかな緑色の鞘に着弾した場所から煙が立ち上っている。

「……(スワロー)

 剣を生成すると驚いている様子のサイに斬りかかり、これまた回避を始めたが、激しく素早い斬撃を前についにサイは納刀状態の刀でマグナアウルの剣を受け止めた。

「いちいち取り出してると思ったが物質生成か! 硬度も申し分無いし、なかなかの使い手じゃないか!」

 サイの刀を弾くと今度は脇腹を狙うも、後ろを向いた状態で剣を防がれた。

「話に聞いてた以上だね! どうやら君は相当訓練を積んでいるらしい! 期待が高まって来た!」

 気分が高揚したせいかサイはマグナアウルの剣のフラーに人差し指と中指を歩かせ、それを見たマグナアウルは剣を引き抜き、そのままの勢いで投げ捨てた。

「さっきから忌々しい奴だッ! ……ルースター(メイス)ッ!」

 剣をメイスに持ち替え、重量のある一撃がサイを狙う。

「ほほう! ただ振り回してるわけじゃない! ひっはっは! フゥ! 地球(ここ)に来た甲斐があるってものだ!」

「すぐに出て行くことになるだろうさ、この世からな! イーグル(戦斧)ッ!」

 マグナアウルは戦斧とメイスの二振りでサイを追い詰めんとするも、サイは笑いながら避けるだけでこちらに攻撃は一切してこない。

「そんなに避けるのが好きか、だったらどこまで行けるか試してやる!」

 投げ捨てた剣とサブマシンガンから同じものが無数に分裂すると、浮き上がって一斉にサイに向かって飛来した。

「おおお! なんて念動力(サイコキネシス)だ! 素晴らしい!」

 サイは一瞬だけ飛来する剣に手を翳すも、何も起きないと知るや否や跳躍して飛ぶ剣を足場にして走り出した。

「ははははっ! 面白いよ君!」

「チィッ!」

 剣の群れの上を走り回るサイにサブマシンガンの大群が押し寄せ、文字通り雨霰(あめあられ)の弾丸を放つ。

「おぉっとっとっとぉ!」

 サイは跳躍すると体を旋回させ、鞘に納めた状態の刀で飛んで来る弾丸を弾き、一際高く跳躍すると手中から電撃を帯びた光弾を放って宙に浮くサブマシンガン達を撃ち落とした。

「ようやっと戦う気になったか。ハッ!」

 腕からチェーンを射出してサイを引きずり降ろそうとするも、地面代わりにしていた剣を蹴飛ばして狙いを狂わし、サイは着地して迫る剣を手から放つ冷気でその場に縫い留めた。

「爆雷炎嵐ッ!」

 マグナアウルはメイスと戦斧を振るうと、その先から火炎と雷電を纏った竜巻を発生させ、それが徐々にサイに向かって行く。

「嵐か、嵐はボクの専売特許だぞ!」

 サイが指揮棒のように刀を向けると、マグナアウルが発生させた竜巻が三倍の大きさに膨れ上がり、ダメージを受けて動けないクインテット達の場所にも影響を及ぼし始めた。

「くっ!」

 マグナアウルは未だ動けそうにないクインテット達の方を見ると、竜巻の中へ腕を突っ込んで引き裂くように左右へ開いた。

 するとあれほど巨大な竜巻やそこから出ていた炎や雷も、始めから何もなかったかのように霧散してしまった。

「おぉ、あはははははっ!」

 刀を持ったままサイは笑いながら手を叩いて喜び、マグナアウルはそれを見て拳を握り締めた。

「そんなに楽しいか?」

「えぇ? 今の戦い? うーん……」

 納刀したままの刀を振り回して弄びつつ、サイは先ほどの笑顔とは打って変わって口角を落とし、マグナアウルの方を見て言った。

「大して楽しくはなかったかな」

「なにぃ?」

 サイは口笛でも吹きそうな感じで両腕を頭の腕に回して落ち着きなく歩き始める。

「まあまあ聞いておくれよマグナアウル、君はとても面白いんだ。でもなんていうかさ、グッて来ないんだよねぇ~グッてさ。足りないんだよ、伝わってこないんだ! 面白さを楽しさに昇化するものがさぁ!」

 そして刀を振り回してマグナアウルに向けて言った。

「一端でもいいからさ、本気見せてくれない? これじゃちっとも楽しくないよ」

 (ヘルム)越しにも分かる程の歯軋りの音を響かせ、マグナアウルは落ちていたサブマシンガンを引き寄せた。

「そうか……そんなに死にたいか! だったらとっておきで殺してやる!」

 目や装甲の装飾が青白く輝き、それと同時にクドゥリとの戦いでも見せなかった青白い衝撃波を周囲に振り撒き始めた。

「うっ!」

「これが……彼の本気⁉」

「おぉ……そうこなくちゃ」

 まさに怒髪天といった様相のマグナアウルは怒鳴りつけるように武器の名を言った。

ウッドペッカー(ハンドガン)! ブラックスワン(ショットガン)!」

 新たに生成した異なる種類の銃器を合体させ、出来た大型の銃器をサイに向けるなり先程周囲に拡散していた強烈なエネルギーが全て銃口に集約され、それを見たサイはニヤリと笑った。

「黒翼ッ……穿舞ゥッ‼ おおおおおあああああああああっ‼」

 円錐状になった光弾がサイに向かって伸び、それを避けようとした途端光弾が億単位で分裂し、四方八方から襲い掛かる。

「おぉ、そんな事出来るんだ。器用だ……」

 言い終える前に全ての光弾がサイに命中し、火炎に寄らない超能力爆発と、遅れて火炎を伴った爆発が発生し、壊れた輸送機や周囲の木々を薙ぎ倒した。

 爆発の直前、背を向けたマグナアウルの腕から大型銃器が崩れ落ち、それと同時にマグナアウルは大きく息を吐いた。

「お前達、生きてるか?」

「全く……殺す気かよ、おかげで助かったけどね」

「生きてるな、動けるか?」

「なんとかね……」

「ウチは無理、誰か助けて」

 肩を抑えるデメテルにルナが肩を貸し、動けないイドゥンをアフロダイがおぶさった。

「おかげで助かりました」

「別にどうってことは無いさ、あの忌々しい奴は消えた。万々歳だ」

「また助けてもらったね」

「別にそんなつもりはない、お前達が勝手に助かってるだけだ」

「そんなこと言って……」

 胸を押さえたミューズが後ろの景色に目をやったのは偶然だった。そして彼女はそこにあってはならない物を見てしまった。

「あ……ああっ‼ ウソでしょ⁉」

「どうした? ……なっ⁉」

「え⁉」

「うそ……こんなの……」

「これは……なんてこと!」

「サイッアク……夢なら醒めてくれ」

 そこに立っていたのは、全くの無傷のサイであった。

「ぷっ……くくく、ふふふふふ……あは……あははははは! あーはははははは!」

 サイが笑い出したその刹那、凄まじい気迫が周囲を駆け抜けた。

「うっ……」

「うぅ、この感覚……」

 この気迫はマグナアウルが敵に対して発しているものによく似ていた。だがこれは違う、マグナアウルは殺意と敵意と憎悪を怒りで煮込んだかのような殺気を発するが、サイのものは違う。

 例えるなら、無邪気な子供が遊んでほしい時のような。それをそのまま闘気に挿げ替えた、生物として最も根源的で、尚且つ純粋(プリミティヴ)な闘争意欲の発現と言えた。

「この星に来て正解だった、ボクを楽しませてくれる奴、そして何より戦うに値する奴が居た」

「今までは、遊びだったと?」

 サイは刀を背中に提げると、身の上話を語り始めた。

「ボクは傭兵なんだ、いわば金貰ってシゴトする戦闘狂。君達の星の言葉で言うなら三度の飯より戦うことが大好きなのさ、そうやって星から星へ飛び回ってたらそのうち血の嵐を呼ぶ者とか言われ出したんだよ」

 サイの目は殺戮者のものですらなく、まるで褒められた子供のようであり、それに対してクインテットとマグナアウルは背筋に冷たいものが走った。

「ホントはこんな安いシゴトは沽券に関わるから受けないつもりだったけどさ……来て正解だった」

 マグナアウルはすぐに気を強く持ち、サイの前に一歩足を踏み出した。

「ああ、来てくれるんだね。嬉しいよ……そういえばボクはね、君と同類なんだ」

「それはどういう意味だ?」

 サイはエスニック風の服の胸元から右半分に享楽、左半分に憤怒の相が刻まれた面を取り出した。

「ボクはねぇ、アバター使いなのさ!」

 マグナアウルの脳内に、大きな声が響き渡る。

『逃げなさい京助! 相手は格上です! あなた以上の相手なんです‼』

 サイはその面を空に掲げ、より一層笑みを深くしてからそれを自分の顔に重ねた。

轟嵐(ゴウラン)


To Be Continued.

ついに始まりましたよ第二シーズン夏休み編。

恋に遊びに新しい敵!

新たな強敵サイはこの物語にどんな風を吹き込むのか。

次回、サイの恐るべき力が発揮されます。

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ではまた来週!

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