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青春Double Side  作者: 南乃太陽
遭遇編
12/38

君の日々を守りたい

クドゥリという強大な敵を前に京助はマグナアウルの真の力を解放する事を決意する。

一方奏音は戦いとデートの不安により父の前で泣きじゃくり、これまで感じていた思いを全て告白する。

そして再戦当日、マグナアウルにミューズは頭を下げ共に戦うように頼み込む。

マグナアウルの答えは?

そしてデートには無事行けるのか?

第一章の完結を決して見逃すな!

『リンクの方は問題ありません、今後マグナアウルの招来で不具合があることは無いでしょう』

 千道邸の地下、なんとか帰って来た京助は生身の腕を凝視しつつ体の調子を確かめた。

「あんな技術があったとはな。すっかり油断してた」

『明日に備えましょう、奏音さんに連絡を』

「ん? 何で奏音に連絡するんだ?」

『明日は強敵と戦うんです、夜通しの戦いになるやも……』

「ああ、なるほど、言いたいことはわかった」

 自分の言いたいことに理解を示してくれたかとトトは内心安堵したが、その数秒後に放たれた言葉は全く予想していないものだった。

「けどデートは中止しないし、早急に決着をつけるぞ」

 正確には五十七秒間の沈黙、その後に京助の脳裡に怒号が響いた。

『はあああ!? 何を言ってるんですかあなたは! 中止しないは百歩譲ってまだしも早急な決着とは何ですか! 現実が見えていないんですか!』

「いいや、俺は誰よりも正確に現実を見てるさ」

『あなたは楽観的すぎます』

「お前は俺が一度不利になったのを見て悲観的になりすぎてるだけだ。ただの悲観を現実を見ているとは言わない」

『相手はアバターを剝がす技術を持つんですよ』

「そうだな、知ってる。てか喰らったの俺だし」

『あの炎を使う訳にはいかないんですよ』

「わかってる、というか俺がしたくない」

『しかも相手取るのは剣術の天才と言えます』

「ああ、身に染みてる」

『それでも早急に決着をつけると言うのですか』

「ああ、それも俺の大勝利だ」

『どうやって』

 訝しむトトに笑みすら浮かべて京助は短く言ってのけた。

「本領を発揮する」

『……何を言い出すかと思えば、本気を出したぐらいで勝てる相手ではないことぐらい分かっているはずでしょう』

「本気を出すとは一言も言ってない、本領を発揮すると言った。お前なら意味が分かるはずだろ」

『本領……そうですか、あの戦法を取るのですね』

「分かってくれたか」

『一応無策ではないということはわかりましたが、それで勝てる確信があるのですか?』

「ある、それにさ」

 立ち上がって大きく伸びをしてストレッチをしながら京助は続ける。

「これで勝ったとしてもデートを中止したら、実質負けみたいなモンだろ」

『というと?』

「俺は復讐の為に戦ってはいるが、それと同時にみんなの日々を守るために戦っている。つまりな」

 宣言にも似たどこか穏やかだが、確かに芯のある声色で京助は言った。

「デートを中止したら奏音の日常を奴らに壊されたことになる。そんなことになったら俺は千道京助として負けるんだ」

 確かに表情や声色こそ穏やかだったものの、こうなった京助は梃子でも動かないことをトトはよく分かっていた。

『ではあなたは二重の意味で勝とうとしているのですね』

「そうだ、俺はマグナアウルとしても勝つし、千道京助としても勝つ。絶対にな」

 京助の右手がゆらりと動き、その刹那凄まじい速さで動いて周囲に風を巻き起こす。

「この()で必ず、勝利を捥ぎ取る。マグナアウルとしても、千道京助としても」

 前方に突き出された右手の先が仄かに青白く光っていた。

 

 京助が決意を固める中、奏音の方は揺らいでいた。

「……」

 ちょうど一週間前には同じ場所でガチガチに緊張しながらも、どこか期待と夢に満ちていた。

 だが今は違う。靄と暗雲と悲観が立ち込め、思い描いていたデート風景がセピア色に染まり、少しずつ朽ちていく。

「どうしよう」

 深夜の一人部屋に行き場を失った小さな呟きが漂う。

「……うぅ」

 チャットアプリでメッセージを紡ぎ、送信ボタンを押そうとする。

「……ううぅ」

 できない。

 やるべきなのはわかっている、だができない。自分の中の何かが阻むのだ。デート中止の旨を告げるメッセージを全て消し、奏音はベッドの上に転がり込む。

 何故だろうか、結局は問題の先延ばしにしか過ぎないのだが、どういうわけかほっとしてる自分が居る。

「いっそ……」

 全てを打ち明けるべきだろうか?

「……何考えてるの私」

 こんなものただのエゴイズムだ。自分は一瞬楽になるのだろうが、京助はきっと辛い思いをする。

「京助を苦しませようって……私最悪だわ」

 正直な所泣きたかったが、涙が全く出てこない。

「なんでだろ……ハハハッ」

 乾いた笑いが天井に登って消えていく。そのまま何もする気が起きずボーっとしていると部屋がノックされた。

「うん」

「奏音、入ってもいいか?」

 父の誠の声がする、誰かと話すような気分ではなかったが、断る理由もない。

「うん」

 心配そうな誠が顔を出したのを見て、奏音はベッドから起き上がって膝を抱えて座った。

「座っても?」

「うん」

 誠は勉強机のデスクチェアに目を向けたが、少し考えた後に奏音のベッドの上に座った。

「隣は嫌か?」

「ううん」

「そうか、良かった」

 ぎこちない笑い顔に、奏音は伏し目がちな小さい笑顔を返す。

「……父さんな、お前が帰って来てからずっと悲しそうな顔してたからな、心配だったんだ」

「気付いてたの?」

 奏音は帰ってくるときは笑顔でと決めている。だから今日もなんとか取り繕ったつもりだったが、やはり親は誤魔化せないようだ。

「当然だろ? これでも十六年と少しはお前の親をやってたんだ。すぐわかったさ」

 なんだかこの場から消えたくなってきた。すぐ見抜かれた取り繕った笑顔、ただ一瞬の苦しみから逃れたいが故にこの事を京助に話そうとしたこと、中止の旨を連絡しないで先延ばしにして安心していること、それらすべてがあまりにも浅ましく思えてきて悲しくなってくる。

「その……明後日、もう時間的に明日か、まあ京助君とデートに行くんだろ? どうしてそんなに塞ぎ込んでるかだけ教えてくれないか?」

 しばらく膝に顔をうずめて黙っていた奏音だったが、やがてぽつりぽつりと話し出した。

「今日初めて敵の組織の上層部と戦ったんだ。すごく強くて……手も足も出なかった」

「そんなに強かったのか」

「彼が助けてくれたけど……その彼ですら引き分けに持ち込むのがやっとだった」

「ウルトラアウルだっけ?」

「マグナアウル」

「そう、超能力者とかいう奴だ、今日戦った敵はそんなに強かったのか?」

「うん……どんな相手でもやすやすと倒してた彼が組み伏せられて……よく分からないけど能力を使えなくさせられて正体を暴かれそうになってた」

「……それでよく無事に帰ってこれたな。本当に良かった」

「彼が引き分けに持ち込んだの……でもさ」

 顔を上げて感情の籠って無い瞳で虚空を見つめ、奏音は機械的に続ける。

「明日また戦うんだ。あの強い敵と」

「なるほど……そうだったのか」

 おそらく奏音の中ではいろんな感情が渦巻いており、それをどう処理して良いかわからないのだろう。

「怖いのか」

「うん、でもそれでこうなってるわけじゃない」

「父さんに何で塞ぎ込んでるか言えるか?」

 奏音はゆっくりと先程京助にデート中止の旨のメッセージを送ろうとして送れなかった事、いっそのことすべて話してしまおうかと一瞬でも思ってしまった事、そして先程話してる時に自分の浅ましさに消え入りたくなったことを洗いざらい話した。

「この話、誰にも言わなかったのか?」

「言えないよ、言えるわけない」

「どうして?」

「だってみんなは……自分の命を懸けてるんだよ。それなのに私だけはデートの事考えてるだなんて……言えないじゃん」

 誠は顔を拭い、かけるべき言葉を必死に探した。

「奏音、お前はどうしたいんだ?」

「どうしたいって?」

「正直にな、今自分が思ってること、あるいはやりたいことでもいいから父さんに教えてくれ」

 靄のかかる頭を少しずつ整理していると、誠が驚いたようにこちらを見ているのに気付いた。

「なに?」

「奏音、大丈夫か?」

「なんで?」

「いやその……泣いてるから」

「え、嘘?」

 手を顔にやると確かに泣いていた、それを自覚すると同時に堰を切ったように思考が鮮明になって行く。

「私……私……京助に会いたい」

「京助君に会いたい……か」

 まるで頭の中で膿のように溜まっていた靄が流れ出すように涙が流れ始め、胸がどんどん締め上げられる。

「全部話したい、でも無理! だって京助のお父さんとお母さんは奴らに殺されたんだから! だから京助はあの時の事を忘れた! それなのに私は京助に話して楽になろうとしてる最低な人間!」

「奏音、それは違う!」

「どこが違うの! 皆が明日戦って生き延びれるかって問題に直面してるのに私はデートの事しか考えれなかった! 自分のことしか考えれない! 私は……」

 誠は咄嗟に奏音の肩を掴み、そして抱きしめた。

「落ち着きなさい奏音。いいか、普通の子は地球を守るなんて重責を背負えないんだ! それをお前は一年以上弱音も吐かずやってきたすごい子なんだ! もっと本音を言え! 俺がなんだって全部受け止めてやる! 力不足かもしれないがそれが父親としての責務だ!」

 この日、四年前に京助が事故で重体と聞いた時以来、奏音は久しぶりに父に縋り付いて声を上げて泣いた。

「会いたいよ! デートもしたい! あいつらに勝ちたい! 死にたくない! ……京助に会いたい‼」

 泣き疲れるその瞬間まで、奏音は父の腕の中でずっと思いを爆発させるのだった。


 翌日、運命の日であろうが学校はいつも通り行かなくてはならない。

 とっくのとうに勝算が見えている京助は特に気負わず登校して過ごしていたが、なんとなく上の空の奏音の事が気になってしまう。

「どうしたんだ奏音の奴」

『明日の事で上の空になっているのでしょうか?』

「それにしたってじゃないか?」

『勝負事に挑む直前にはある種の諦観に至るのかもしれません』

「大丈夫かな……」

 一人考えても仕方ないと感じた京助は、林檎に助言を求める事にした。

「へい」

「わふっ! ナニよ!」

「あれ、珍しいな、いつもなら気付くのに」

 京助は背後から音もなく忍び寄って大声を出すイタズラを最も得意とするが、何故か林檎だけはこれに引っかからない。大声を出す寸前に必ず振り向かれてエアデコピンを喰らう。

「ちょっと考えゴトしてたの!」

 不意打ちを喰らった林檎はぷりぷりと怒って腕を振り回し、京助は頭を押さえて攻撃を無効化した。

「おお、ちびちびアタックが出たぞ」

「おあ! オマエ言ったな! ぶっ飛ばしてやる!」

 今度は足まで出たが、二十七センチの壁は厚く届かない。

「ユメリンゴはスーパーちびちびアタックを発動した。しかし何も起こらなかった」

「おま、マジで……身長吸い取る呪いかけんぞ」

「ハイハイ落ち着いて林檎ちゃん。俺ァ聞きたいことがあるんだ」

「ウチの事ちびちび言ってた奴に教えるものなんてねーよ」

「バニヨープレミアム、三個セット」

「何なりとマジェスティ」

「奏音の事だ。なんか上の空だけど何か知らないか?」

「あー……」

 林檎は何か言いづらそうにしており、一分近くかけて口を開いた。

「デートの事じゃない? アンタ何か聞いてない?」

「いや、何も?」

「え、何も?」

「うん、何も聞いてない」

 何故か林檎は驚いた様子で小さく「そうなんだ……何も言わんかったんだ」と呟いたのを京助は聞き逃さなかった。

「え、何? なんかあったの?」

「え、いやそういうんじゃ……」

「どういうの?」

「だからその……」

「え、怖い怖い怖い怖い怖い、何がヤバい事あったの?」

「いやその……なんて……言えばいいの……カナ?」

 こんな林檎の顔を初めて見た、いつもボケッといているか笑っているかのどちらかだが、困惑しているのは初めてである。

「何かあったとか?」

「その……ちょいとエッチな話なんだけども……人のそういう事情に踏み込むのもなぁ~って思って」

「え、そういう相談されてたの?」

「まあね、とりあえず嫌がる事はやめときってコト!」

「やだなぁ、俺が奏音に嫌がる事一度でもしたか?」

「まあ大丈夫って言ってはおいたけどさ、カノちゃんすっごくアガリ症だから」

「知ってる、けどな~んか偶に大胆になるんだよな」

「んね、ウチでもビビる時あるもん。まあ明日は……大丈夫だと思うよ。杞憂ってやつ」

「そだな、また今度奢るわ」

「おう、覚えとけよ~忘れたら身長吸い取るから」


 そして放課後、帰りのSHRが終わった後で帰り支度をしていると、奏音が京助の元へやって来て手を差し出してきた。

「ねえ、一緒帰ろ」

「……おお、おお! 勿論!」

 奏音の手を取り、京助は学校を出る。

「なんか今日あったのか?」

「ううん、何でもないの」

「だってずっと変だったし」

「京助は知らなくていいの」

 なんだよそれと言いかけた所で、奏音が手の握り方を変えて体を寄せて密着してきた。

「なんだよ、ちょっと歩きにくいじゃんか」

「嫌?」

「全く嫌じゃないね」

「ならいいじゃん、ちょっとの間でいいからさ、こうさせてよ」

 体を寄せてくる奏音に少し困惑しながらも、まんざらでもない京助は微笑んで帰り道を行く。

「なあ」

「なーに?」

「……なんでもない」

「なにそれ?」

「聞くのもヤボな事聞こうとしたんだ」

「そう」

 それから二人は何も話さなかった。気まずい雰囲気もなく、ただ体を寄せ合うのが心地良く、二人だけの世界を味わっていた。

「こっち来てよかったの?」

「うん、家の前まで行きたい」

 自分の家との分かれ道を過ぎても、奏音は京助にひっついたまま離れない。

 何故だかいつもより短かった道を歩き切り、千道邸の家の門の前に着いた。

「明日も来るんだからいいのに」

 それに対して奏音は答えず、京助の両手を握って向かい合う。

「ねえ、約束させて」

「どうした?」

「明日絶対……行くから」

「え? デートにって事?」

「うん、絶対に行く。約束させて」

 京助にとっては意味が分からなかったが、奏音の真剣な眼差しに押されて一言「そっか」としか返すことが出来ない。

「じゃあ約束の証、受け取って」

「証? それって……」

 奏音は京助の腕を引くと頬に唇を重ね、十秒間そのままの状態でいた。

「……はぁ、約束ね。バイバイ! また明日!」

「……おう、またな!」

 走り去っていく奏音の後姿を見送った後で京助は自宅に入ってドアにもたれかかり、キスされた部分を手の甲で触れた。

「キスされたぞ」

 初めて頬にキスされたが、何故だかものすごく冷静になる。

『ええ、そうですね』

「柔らかかった、ものすごく」

『その先を味わいたいのなら、あなたは二重の意味で勝つしかない』

「なんだ〝その先〟って……そうだな、準備して飯食ったら行こうか」

 食事と家事を済ませた後、瞬間移動で現地へ向かい、京助は深呼吸してから両腕を胸の交差させ、左手を引いてアウルレットを出現させた。

『アウルレット、召喚』

 右腕を平行にしてからその上に左手を重ねて次元断裂ブレードを展開し、腕を大きく回して天に向かって拳を突き出した。

「招来‼」

『次元壁、断裂』

 マグナアウルに姿を変えながら、京助は勝利への決意をより固くするのであった。


 京助と別れて一時間後、財団の地下基地に向かった奏音を待ち構えていたのは林檎だった。

「ねえ、ちょっといいカノちゃん」

「うん、何?」

「明日の事なんだけどさ」

「うん」

「何も言わなかったの?」

 奏音は複雑な感情が入り混じった笑みを浮かべ、小さく頷いた。

「そうだよ、何も言わないようにした」

「大丈夫なん? もし行けなかったらアイツ……」

「行くよ」

「……宛はあるの?」

「あるよ、賭けだけど」

「賭けって……」

「いつもそうだったでしょ」

 微笑む奏音の瞳の奥には、大事をやり遂げると決めた者特有の鈍い輝きが宿っていた。

「勝てるかなんて、賭けだった。私達素人が悪い宇宙人に立ち向かうのなんて、それこそバカげた大博打。でも覚悟を決めて力を合わせて飛び込んだから今がある」

「ツキに見放されない?」

「ううん、ツキなら回って来てる。きっと勝てる……いや、勝って見せるよ」

 奏音は握り締めた拳を前に突き出し、林檎は大きく溜息をついてその拳に自分の手を重ねた。

「見てらんねーよ」

「んふふ、そうだろうね」

「でも楽しそう。何があってもバックアップするよ」


 そして全員が揃い、装甲車で昨日の場所へ向かっている最中、奏音の提案で円陣を組むことにした。

 肩を組んで頭を突き合わせ、互いを鼓舞して気持ちを高揚させる。

「今日の戦いが今までで一番の強敵を相手にすることになる」

「どんなに傷付こうが、たとえ倒れようが、絶対に勝つ」

「それがみんなを守る事に繋がるから」

「最後まで全力でやってこ」

「地球を私達の手で守るんです」

「絶対にッ!」

「勝つッ!」

 掛け声とともに足を踏み出して気合を入れると、円陣を解いて転送鍵を取り出した。

「コード認証! 全員装着! GO‼ クインテット!」

 奏音(ミューズ)皐月(ルナ)明穂(デメテル)林檎(イドゥン)麗奈(アフロダイ)は再び円陣を組んで気合を入れると、拳を突き合わせて空気を作った。

「よし、準備開始!」

 エネルギー拡張パックや各種追加装備を身に着けた頃には到着しており、装甲車を降りて戦場に向かうと珍しくマグナアウルが先に来ていた。

「お、今日は早いんだ」

「お前達……来たのか」

「そりゃ来るよ、使命だから」

「そうか」

 再び前を見たマグナアウルの方へ、ミューズが一人で向かって行った。

「ミューズ?」

「……何か用か?」

「前にさ……好きな人が居るって言ったじゃん」

「言ってたな」

「明日さ、その彼とデートするんだ。私」

「へぇ」

「だからさ……」

 深々と頭を下げ、ミューズは熱のこもった声で続けた。

「お願い、今日だけでいい、これ限りでもいい! 一緒に戦って! 一緒にバーニャラ・クドゥリを倒して! お願いします!」

 ミューズの思わぬ行動に他の四人がお互いに顔を見合わせる。

「マジか……」

「確かに一緒に戦えば何とかなりそうではありますけど……」

「でも今後も共闘は無いって彼は言ってたし……」

「でもああまでされたら……」

 マグナアウルはしばらく黙ったまま立ち尽くしていたが、残りの四人の方を振り向くと言った。

「お前達、横一列に並べ」

「え?」

「お前もだ、早くしろ」

 全員がとりあえずマグナアウルに従って整列すると、マグナアウルは腕を振って仄かに光る揺らめく塊を生成した。

「衝撃に備えろ」

「え? は?」

「衝撃って……」

 困惑する五人をよそにマグナアウルは揺らめきを投げつけるように腕を翳した。

「うわっ!?」

「おおっ!」

 痛みや吹き飛びこそしなかったものの、腹の芯に響くような一撃がやって来た。

「ちょっと何すんのさ!」

「今の何の攻撃⁉ まさかスーツを……」

「話ぐらい聞け、今お前達には超能力によるエネルギー操作が無効化されるようになってる」

「え、それマジ?」

「体も軽いだろう? 身体能力も上げたし、それに伴って動体視力をはじめとした感覚も鋭くなっている」

「確かに、すごく軽い」

 ルナがその場で飛び跳ねて腕を回したりして体の調子を確かめる。

「俺が掛けたバフはスーツを脱ぐまで有効だ。後お前達は親衛隊を相手にしてくれ、俺は敵将を叩く」

「わ、わかった、ありがとう。……でもどうしていきなり協力してくれたの?」

「……共感したからでは不足か?」

 これは意外だった、ミューズはマスク越しに微笑んで首を振った。

「ううん、十分だよ」

「そうか、背後は任せた」

「ちょ、ちょっと待って!」

「何だ青いの」

「だから私はルナだって、(ここ)に書いてるでしょ? ……それでもしあんたがヤバくなったらどうするの?」

「ならない、俺には勝算がある」

「でも万が一があるでしょ」

「じゃあお前達が俺を守ってくれ、その時は全力で叫ぶ」

 表情の伺い知れない(ヘルム)の瞳が、何故か笑っているように見えた。

「そう、わかった! じゃあはい」

 ミューズが拳を突き出し、アフロダイとデメテルが続き、遅れてイドゥンが、最後にルナが拳を出した。

「……ハァ、わかったよ」

 マグナアウルは五人の拳に自分のものを重ね、こうして正式に今夜限りの共同戦線が結ばれたのだった。


 そしてジャガックの飛行船がやって来たのは、それほど時間が経ってからではなかった。

 昨日と同じようにトランスポートビームが地面に照射され、クドゥリと三人の親衛隊が現れた。

「昨日はどうもありがとう、この私によくもハッタリをかましてくれたな」

「ああ、こうも簡単に騙されてくれて爽快だったよ」

「煽んなバカ」

 クドゥリは凄絶な笑みを浮かべ、ベナーグを引き抜いてこちらに向ける。

「ハッタリと腕の分を上乗せしてこれまでの礼をたっぷりしてやろう。あれは大層応えたぞ」

「お前も痛がるんだな、まあこれからもっと痛がることになるがな」

「めちゃ煽るじゃん……まあウチらそっちを相手しないからいいけど」

 ガディ、ザリス、ジェサムら三人も自身の得物を抜き、両陣営は完全に戦闘準備を整えた。

「では手筈通りに」

 ミューズが親衛隊に刃を向け、意図を理解した三人はその場から移動した。

「今回は三人離れないわよ」

「構わない、こっちも準備してあるから」

「まあ急拵えだけどね」

「それは言わない約束っしょ」

 両陣営が構えたのを見届け、クドゥリがマグナアウルに向き直る。

「手を組んだようだな」

「色々あってな、まあ今回限りだ」

「すぐにあの子たちは五人を血祭りに上げる、その次はお前だ」

「どうだか、あの三人は素質と能力に頼ってるだけで大して強いとは思わんがね」

「クインテットの方が強いと?」

「さあな、まあ見どころはある奴らだ」

 クドゥリはベナーグを振り回し、構えてからマグナアウルを挑発した。

「さあ武器を取れ、甚振ってやろう」

 しかしマグナアウルはそれに首を振り、クドゥリは出鼻を挫かれた気分になった。

「なんだ()らないのか?」

「俺がなんで武器を使うかわかるか?」

「は?」

「そのままの意味だ」

「知らん、武器を使うのは戦う為以外になかろう」

「違う、慈悲だ」

「慈悲だと?」

 戯れの問いに対してわざわざ真面目に答える気もなかったものの、予想外の答えに思わず構えを解いた。

「どういう意味だ?」

「俺はお前達を心底憎んでる、だが同時にお前らのようなケダモノと違って人でありたいとも思ってる。だから一握りの慈悲は忘れないようにしているんだ」

「それが武器を使う事と何の関係がある」

「苦しまず逝かせるためだ」

 突然マグナアウルの(ヘルム)の口部分の装甲の一部が展開して(クラッシャー)が剥き出しになり、同時に肩部分の装甲がパージされた。

「まあ色々すっ飛ばすとな、俺には武器を使うより強くなる戦法があるって事だ」

「ほう、それを私に使うという事か」

「そうだ、お前は強い。だからこちらも慈悲を捨てて全身全霊で行くことにした」

 マグナアウルの両手が弧を描きながら青白い燐光を発し、右手を軽く握って引き、左腕を垂直にして平手のまま前に突き出した。

「まさか……徒手空拳の方が強いとは言うまいな」

「その通り、この体(俺自身)が武器だ」

「フフフフフ……クッハハハハハハハハ! ハァ、随分と舐めてくれるなッ!」

 予備動作の一切ないノーモーションの怒りの斬撃。コンマ以下の瞬間、ベナーグは確かにマグナアウルを捉えている筈だった。

「⁉」

 手応えのなさに違和感を覚えるのと、腹部に強烈な痛みが突き刺さったのは同時だった。

「ごはっ!」

 その場から数メートル吹き飛び、ベナーグを鞭剣にして地面に突き刺して体勢を整える。

(何が起こった⁉)

 土煙の中で、姿勢を低く落としてこちらに拳を向けるマグナアウルを見てようやく、クドゥリは何が起きたのかを理解した。

「……お前、どうやら本当に素拳の方が強いらしいな」

「〝舐めてくれるな〟と言ったな」

 マグナアウルはゆったりとした動きで構えを変え、左拳を顔の前に持ってくると右手を伸ばして指先をクドゥリに向ける。

「舐めているのはお前の方だ。俺の恨み、俺の憎しみ、俺の殺意、そして俺の決意を……決して甘く見ない事だ」

 クドゥリは刺さったベナーグの先を引き抜くと、再び構えてマグナアウルを睨みつけた。

「フン、一撃入れた程度で調子に乗るなよ。私の強さとお前の決意、どちらが上かは今に分かる!」

 ベナーグの刀身がうねり、マグナアウルの方へ襲い掛かった。


 そしてクインテットと親衛隊は。

「あちらは始まったようですわね」

「ええ、こっちも始める?」

「今にお姉様が加勢しますわ」

「どうだか、吹っ飛ばされてたみたいだけど?」

「あの程度すぐに倒せます。マグナアウルとお前達を倒せば邪魔者は消える」

「邪魔者はあんた達だよ。それも地球のね」

 ルナが太刀を構えて宣言し、ガディも先の折れた大剣を両手で振り上げてそれに応える。

「では続きと行きましょうか! 今回は三人一気に行くわよ!」

 その宣言と共にガディは走り出してイドゥンに向けて剣を振るったが、イドゥンは上体を逸らして回避し、背後に向けて一発撃った。

「ぐっ!」

 思わぬ痛みに背を抑え、ガディは後ろを睨みつける。

「すげー、あいつの言う通り効くじゃん」

「これで能力の差はゼロになったね」

「決めるのは互いの実力のみ」

「調子に乗るな!」

「何をやったか知らないが能力を封じたとて我々の方が実力は上だ!」

 怒鳴りながら放たれたジェサムの銃撃をデメテルが電磁シールドで防ぎながら肉薄し、ロケットパンチを放って怯ませた所にミューズの戦斧の一撃が飛んで来た。

「くっ!」

「ジェサム! 伏せなさい!」

 襲い来る鞭剣の一撃を転がって回避すると、戦斧を分割して拳銃と手斧に変えて拳銃を乱射して牽制しながら肉薄した。

「近距離戦は苦手みたいね!」

 手斧と短剣の連撃に距離を置こうとするも、ミューズは執拗に距離を詰めて攻撃してくる。

「このっ! しつこいですわねっ!」

 ザリスは鞭剣を回収して長剣に戻し、突きの連撃を食らわせて再び距離を取ろうとするも、ミューズは的確に突きを捌きながら手斧と短剣を合体させて戦斧に戻すと、ザリスの長剣を弾いてスパイクから光弾を放った。

「くっ!」

 着弾の刹那、ガディの大剣のフラーが入り込んで光弾を防いだ。

「ガディ姉さん……」

「下がりなさいザリス、お前の相手は私よ」

 ミューズは刃を撫でて構えると、マスクの中で小さく笑ってガディを挑発した。

「そう来なくちゃね」

「お互い望むところという訳ね!」

 大振りの一撃を受け、逆に押し返してよろけた隙にドロップキックを叩きつけた。

「ぐはっ!」

「ふっ! 体が軽いって最高!」

「こんな……こんなに素早く動けなかったはず!」

「人間は日々進化する、アンタたちはどう?」

「チッ! 舐めるなァッ!」

 ガディの大剣の一振りから三重の飛ぶ斬撃が放たれ、ミューズは初撃をスパイクからの銃撃で、二撃目と三撃目は同じく自身も斬撃を飛ばして相殺し、立ち上った煙の中に突っ込んでガディに斬りかかった。

「くっ! ぐぐうぅっ!」

「ううう……おおおおおっ!」

 互いの得物が弾かれ、両者同時に跳躍して空中で激しい剣戟を繰り広げた。

「どうしてそこまでして我々に抗う! 地球とジャガックでは比べ物にならない差があるんだぞ!」

「だからってね! アンタらみたいな大切な日常を奪う悪魔に立ち向かわない言い訳にはならない!」

「何⁉」

「私達の! 日々の! 邪魔を! するなっ‼」

 激しい怒りの四連撃を食らわせ、背面のロケットパックでより高く飛び上がると、そのまま空中で前転して脳天に蹴りを叩き込む。

「うわっ!」

 剣が間に合わず腕で防いだものの、骨までダメージが行った嫌な感触と音がし、ガディは何とか受け身を取って着地した。

「姉さん!」

「ガディ姉さん!」

「二人ともこっちに来なさい……」

 妹達が近寄るにつれ、回復能力がより加速する。

「こいつら、これまでとは一味違うわ」

「ッハ! 今更気付いたっておせーよ」

「今日の私達は特に負ける訳には行きませんから」

 アフロダイがミューズの肩を叩き、ミューズは頷いて戦斧を肩に乗せる。

「今日ここにはね、絶対に勝つ、ここで終わらせるぐらいの勢いで来てるの。だから全力で来な、そうじゃなきゃやられるよ?」

 三人は気を引き締めて武器を構え直し、クインテットと向かい合った。

「今度こそ引き離せないように……三人同時に行くわよ!」

 両陣営走り出し、刃と刃が混じりあった。


「ぐっほっ……かっ!」

 クドゥリは後退しながら口を押えて盛大に血を吐き、殺意の籠った目で目の前のマグナアウルを睨みつける。

「なんだ、お前はこんなものだったのか?」

「黙れ!」

 刃を振るうもまるで流水のように刃を躱され、カウンターの蹴りが飛んでくる。

「かほっ……」

 以前とはまるで違う、自分の攻撃がまるで当たらない。

 素早さと軽快なフットワークによって生み出される独特なリズムから繰り出される攻撃(オフェンス)と、回避による踏み込みすら組み込まれた流れるような反撃(カウンター)

 これまで聞いてきた戦い方とはまるで違う、技量と実力が完全に嚙み合った戦い方だった。

「さて、クドゥリよ。お前この戦いが始まってから何回血を吐いた?」

「なんだと……」

「覚えてないのか?」

「貴様……私を侮辱するか」

「親切心で言ってやってるんだ。お前は何回血を吐いた?」

「何が親切心だ……この期に及んで貴様からの慈悲など反吐が出る!」

 ベナーグの柄を倒してライフル状態にすると十数発を一気に乱射し、一発一発がクラスター爆弾の如く何百発に分裂してマグナアウルの方へ飛来する。

「ふっ!」

 複雑怪奇な軌跡を描く光弾の隙間を正確に縫ってクドゥリに肉薄すると、距離を取ろうと繰り出された蹴りを自分の腕で受けると同時にカウンターの蹴りを放った。

「くあっ!」

「まだまだ……これからだ!」

 吹き飛ばされたクドゥリに追いつくと、拳を縦拳に変えて連続突きの一種であるチェーンパンチを繰り出し、更にクドゥリを吹き飛ばす。

(この……私が……こんな星の……ちっぽけなアバター使い如きに!)

 吹き飛ばされて土と薄い色をした自身の血で体を汚しながら、クドゥリは怒りと共に闘志を滾らせた。

「許さない……」

「ん?」

 口から流れる血を袖で拭いながら、クドゥリはベナーグを杖代わりにして立ち上がり、より殺意の籠った目でマグナアウルを睨みつけた。

「私の力より……お前の決意が上などとは、認めないッ!」

 ベナーグの刃が分割して鞭剣になり、凄まじい速さでマグナアウルに巻き付いた。

「うおっ!」

 首に巻き付こうとするのを回避したが左腕に巻き付けられて、引き寄せられると強烈なストレートを喰らった。

「ぐわっ!」

「おおおおおっ!」

 間髪入れず蹴りの連撃が飛んで来て、そのまま振り回されて木々に叩きつけられ、最後は空中に投げ出された。

「斬り裂か……れろッ‼」

 クドゥリは十字に交差した斬撃を飛ばし、それを見たマグナアウルはマフラーを伸ばしてその先端を鋭利にすると、その場で高速旋回して斬撃を相殺し、クドゥリの方へそのまま迫った。

「くっ!」

 ベナーグを振るって反撃するも、圧倒的な遠心力の前にクドゥリは後退するしかなかった。

「セアッ!」

 突如マグナアウルが旋回を止めると同時に蹴りを肩に喰らわせ、反撃や防御が間に合わず遠心力のかかった鋭い蹴りが肩を引き裂いた。

「あぐぅっ!」

 痛みを堪えながら肩の傷を回復させると、クドゥリはもう反撃の隙も与えぬとばかりに素早い連撃を繰り出し、マグナアウルはこれまでと異なり防戦一方に追い込まれる。

「私をここまで怒らせたのは褒めてやる! だが同時にお前の命運はここで尽きた!」

 回避と防御を繰り返し、手甲やブーツに赤熱した刀跡が付けられていく。

「喋れるうちに聞いてやる! 何か言い残すことはあるか⁉」

 クドゥリの予想に反し、返って来たのは笑い声とこの言葉だった。

「お前は何度……血を吐いた?」

「チィッ!」

 大振りかつ横薙ぎの一撃、これで仕留められるはずであった。

 硬い音と共に何かに阻まれるような感覚が体を襲う。

「⁉」

「もう一度聞く」

 マグナアウルは膝と肘でベナーグを挟み込んでいたのだ。

「お前は何度、血を吐いた?」

「くっ⁉」

 至近距離で胸と喉と眉間を突かれて仰け反り、反撃の突きも腕を掴まれて阻まれた。

「あと一回」

「なに?」

「あと一回お前が血を吐けば〝完成〟する」

 クドゥリはベナーグを渾身の力で引き抜くもまた脇に挟まれて動きを封じられる。

「いい加減厄介だな」

「なんだと?」

「ウオォラッ!」

 脇に挟んだベナーグをマグナアウルは思い切り殴り、中程からへし折ってしまった。

「!」

「これでやりやすくなった」

「貴様ッ……よくもっ!」

 クドゥリの左手が淡い紫色に輝いてマグナアウルの方へ飛んでくるも、マグナアウルは容易く回避してその勢いのままクドゥリの顔面目掛けて貫手を放つ。

「うぅっ!」

 折れたベナーグで防御し、至近距離で互いに睨みあう。

「貴様……ベナーグをよくも……父上が遺した家伝の(つるぎ)をよくも!」

「……チッ」

「はぁ?」

 次の瞬間マグナアウルの左腕が蛇のようにうねってクドゥリの顔面に伸び、顔の右半分に感じた事のない類の痛みを覚え、その刹那に顔面を強く殴られる。

「がふっ!」

 殴り飛ばされたクドゥリが血と共に割れた歯を吹き出して前を見るもやけに視界が狭く、それに被っていたヘルメットのバイザーの右側が割れていた。

「まさか貴様ッ!」

 マグナアウルが握っていた拳を開くと、黒くどろりとした固形に近い粘液状のものが流れ落ちた。

「私の……目を!」

 マグナアウルは一瞬のうちにクドゥリの眼球を引き抜き、それを握ったまま顔面を殴りつけたのである。

「もう絶対に許さ……ぎっ!」

 目にも留まらぬ速さでマグナアウルのローキックが炸裂し、左膝を完全に(ひし)がれ、右膝も煽りを喰らって曲がってしまった。

「よくも俺の前で……家族の話などできたものだ!」

「何を言って……!」

 おかしい、何もしていないのに動いただけで体の内側が痛い。それも一箇所だけでなく、複数の箇所が痛むのだ。

「〝完成〟したらしいな」

「なんだと……くぅ……」

「九回だ」

「なに……がだ!」

「お前が血を吐いた回数だよ」

 クドゥリの体液の残った左手を払うと最後の親切で教えてやると前置きして言った。

九点掌身破(くてんしょうしんは)。俺が独自に編み出した技でな、浸透勁の応用で身体内部に蓄積するダメージを与えるんだ。始めは大したことは無いが、だんだんと知らぬうちにダメージが溜まり、九発目でまともに動けなくなる。おっと、治癒は無駄だぞ、これはただの拳法じゃなくて超能力との合わせ技だからな」

 今思い返してみるとそうだ、途中から自分の体が思うように動かず、技にキレがなくなっていた。これもこの技による影響だろうか。

「これで弱らせてから()ろうと思ったが、気が変わった。お前はとっておきで殺してやる」

 マグナアウルは右手の指を親指、人差し指と中指、薬指と小指に三分割すると、弓を引き絞るように後ろに引いた。

梟爪爆身破(きょうそうばくしんは)。幻の十発目、即ち禁断の技だ。こいつを喰らえば蓄積されたダメージが全部活性化して暴れ出す。想像できないほどの痛みだろうな」

 身を捩って逃れようとするも、体中に走る痛みと膝を潰されたせいでまともに動けない。

「夜は終わりだ、そしてお前に……」

 マグナアウルの腕が迫るなか、クドゥリの脳は全ての情景をスローモーションにして捉えた。

(こんな……ここで私は終わるのか⁉ こんな星の上で恥辱と血に塗れ……こんな奴に殺されるのか!)

 マグナアウルの右手の爪の先がクドゥリの腹に一ミリほど突き刺さった時、背後から金属が空を切る音が響いた。

「何だ⁉」

 咄嗟に背面回し蹴りで飛翔物を蹴落とすと、見覚えのある先の折れた大剣が地面に突き刺さった。

「これは……うおっ⁉」

 首に鞭剣が巻き付き、背後から声がする。

「今よ!」

 ジェサムが自分のライフルをクドゥリに投げ渡し、ガディと二人でクドゥリを抱き起して支える。

「お前達……」

「三匹増えたな……尤も無意味極まりないがな!」

 自分の首に巻き付いたザリスの鞭剣を玩具のように引き千切ると、マグナアウルは四人と向かい合った。

「オイコラァ! 待ちやがれっての!」

「あんたたちの相手は……うわ、嘘でしょ?」

 いきなり戦いを放棄した親衛隊を追いかけてきたクインテットが見たのは、両足と片目を潰され、大量に血を吐いている手負いのクドゥリだった。

「これ……アンタが一人で?」

「そうだ、全部徒手空拳でやった」

「徒手空拳って事は、素手……って事ですよね?」

「す、素手?」

 クドゥリは残った瞳でマグナアウルとクインテットの五人を睨みつけ、ジェサムのライフルを向けた。

「みっともないぞ、負けを認めろ」

「……待っていろ。次は必ず、勝つ」

 ジェサムのライフルを上に向けるとクドゥリと三人の親衛隊の姿が煙に包まれ、それを見たマグナアウルは焦って煙幕の中へ突進した。

「クソ!」

「イドゥン!」

「もう調べてる! ……ダメ、完ッ全に逃げた」

「畜生がッ!」

 マグナアウルは残された地面に突き刺さったままのガディの大剣を蹴飛ばし、近くの木を数本まとめて切り裂いて岩に突き刺さって止まった。

()り損ねたッ」

「まあまあ落ち着きなよフクロウちゃん」

「フ、フクロウちゃん⁉」

「あ、ヤベ本人の前で言っちゃった」

「倒し損ねたとはいえ深手を負わせたので結果的に勝利と言えるのではないでしょうか?」

「そんなもんか?」

「まあ何がどうあれ、今得られた結果を喜ぶべきじゃないかな?」

「ハァ、お前達に諭されるとはな。まあいい、(恐怖)を刻み付けてやったと考えるべきかな」

「まあその……」

 青いの(ルナ)が前に出て、マグナアウルへ手を差し出した。

「アンタが居なければ今回は勝てなかったと思う。まだアンタのことは完全に信用できないけど……ありがとうね」

「殊勝じゃないか。まあ礼は素直に受け取っておくよ」

「私からも言わせて! 勝てたおかげで……デートに行けそう。本当にありがとう!」

「うん、楽しんで来い」

 マフラーが伸びてマントに変化し、背を向けたマグナアウルにミューズが声を掛けた。

「最後に聞かせてよ」

「なんだ?」

「私の何に共感してくれたの?」

 顔だけで振り返り、聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でマグナアウルは答えた。

「俺も明日デートなのさ」

 飛翔によって生まれた風に煽られながら、五人は月夜に向かって小さくなっていくマグナアウルの姿を見送った。

「……そうだったんだ」

 ミューズの肩をイドゥンが軽く小突き、拳を差し出す。

「ま、良かったじゃん」

「これで何の憂いもないね」

「うん、良かった……」

 イドゥンの差し出した拳に自分のものを重ねると、スーツを脱いで一息ついた。

「最後彼はなんて言ったの?」

「んふふ、内緒」

「はぁ~? なにそれ! 教えてよ!」

 憂いの晴れた奏音の顔は、かつてない程に晴れ晴れとしていた。


 翌日、京助は十個の目覚ましに叩き起こされ、殆ど浮遊しながら風呂場に向かってシャワーを浴び、前日用意した大量の肉料理を詰め込むだけ詰め込んで腹五分ほど満たした後に洗面台に立った。

「顔良し、肌良し、歯は今磨いてる、髪は……」

『顔を洗ってからにしましょう』

「そうだな」

 シャツを脱ぎ、顔を洗って水気を飛ばし、念力によって髪を整えていく。

「ワックス要らず~」

 髪を整えた後四人で買った服に袖を通し、必要最低限のものをボディバッグに入れて玄関の前に立った。

「財布に十万、小銭もたっぷり。靴よし、昨日帰ってすぐ磨いた……よし、行くか」

『京助』

「え、何か忘れてたりする?」

『行ってらっしゃい、楽しんで』

「おう……行ってくるわ」

 そして一時間早く集合場所であるまとりキューズモールの時計台に着いた京助は、真下のベンチに座って足を組んだ。

「来るよな?」

『きっと』

「約束してくれたもんな」

『彼女を信じましょう』

 昨日キスされた右頬に手を当て、行き交う人々を呆然と眺めていると、スマホの通知が来た。

「お、『もうすぐで着くよ』って! おおお!」

 周囲を見回していると見覚えのあるカーキ色のワゴンがこちらに向かっているのが見える。

「えーっと『七〇三三』、奏音の車だ!」

 時計台の前にそのワゴンが止まると、助手席側の窓が開いて和沙が顔を出した。

「久しぶりね京助君!」

「ドモドモ、ご無沙汰しております」

「楽しんでらっしゃいね」

「奏音を頼んだぞ」

 直江父母とそんな話をしていると後部座席のドアが開いて奏音が姿を現した。

「……」

「おお」

 薄い青のフレアスカートに白いシースルーのシャツ。

「お待たせ……変、かな?」

「変じゃない、すごく……キレイだ」

 自然に笑ったはずが、どういう訳か少しぎこちなくなってしまう。

「そう……京助もすごく似合ってるよ」

 いつも見慣れている筈の笑顔が眩しい。

「じゃあ、後は若い人たちでね」

「楽しんで来いよ~!」

 走り去る車から手を振る和沙に手を振り返すことも忘れ、二人はしばらく互いに見つめ合っていた。

「とりあえず……荷物預ける?」

「うん!」

 宿泊用の荷物が入った大きめのリュックサックをキューズモール一階のロッカーに預け、京助と奏音はそのまま近場のまとりズーアンドパークに向かう事にした。

「家族連れ多いね」

「まあ土曜日だしな」

 受付のタッチパネルを操作していると、割引の画面が表示される。

「家族割、学割、子供割、カップル割」

「ほい」

「おわ」

 カップル割のボタンをタップし、奏音はいたずらっぽく微笑んだ。

「なに~文句ある?」

「全く無いね!」

 セキュリティーゲートにチケットのQRコードを翳し、二人は手を繋いで入場した。

「はぇ~随分変わったな!」

「そっか、小学生ぶりだもんね」

「キツネザルのエサやりってまだやってる?」

「場所変わったけどやってるよ! でも京助が一番行きたいところは違うんじゃない?」

「ん、俺が好きそうな場所?」

「楽しみにしといて!」

 亜熱帯の植物園を兼ねた鳥類コーナーをはじめ、キツネザルのエサやりや有蹄類のコーナー、そしてワラビーや別の動物園からやって来たというチーターの展示巡り、ついに目的の場所に辿り着いた。

「あ~」

 いわゆるふれあいコーナーにて、鳥類スペースで複数のフクロウに囲まれて京助は大変ご満悦な様子である。

 シートを掛けた膝に留まったエリーという名のメンフクロウを愛でている。

「癒される、天国ってここなのかもしれねぇ」

「エサあげれるんだって」

「マジで? やりたい」

「買って来たよ、食べるかな?」

 奏音がコップに入った肉片を付属のピンセットで渡すと、エリーは顔だけを動かして飲み込んだ。

「おわ、こうやって食べるんだ……それにしても首すっごく曲がるね」

「俺も貰っていい?」

「いいよ、コップは私持つね」

「おう、サンキュ……さ~てエリーちゃ~ん、ご飯ですよ~」

 先程よりも大きめの肉片を平らげ、エリーは京助の方へ身を寄せてきゅるきゅると鳴き始めた。

「……甘えてる!」

「ホントに⁉」

「そう、この声甘えてる声なの!」

 膝の上のエリーの頭を撫でながら京助は目を細めて細く長く息を吐いた。

「ハァ~俺こいつ連れて帰る」

「コ~ラ、ダメでしょ」

「もう俺エリーの為ならなんだってする。部屋一つエリーの為に使う」

「むぅ……」

 奏音が頬を膨らませて若干エリーに嫉妬心を覚えていると、女性スタッフがこちらにやって来た。

「お兄さん凄いですね、エリーちゃんあんまり懐かないんですよね」

「ほぇ~そうなんですね、なんかすっごい懐いてくれてますけど」

「エリーちゃんメンフクロウなんですけど、メンフクロウって顔がハート形で世界一美しいなんて言われてるんですね」

「確かにハート形ね、かわいい」

「だから恋愛成就の神様なんて言われてたりするんですよね」

 エリーの頭を撫でる手が止まる。

「お兄さんとお姉さんにぴったりだと思います!」

「あ……あっははは! そうデスかねぇ⁉」

 笑い声で誤魔化しつつチラリと奏音の方を見ると、いつもの照れ方とは違って口元を抑えつつこちらから俯き気味に目を逸らしている。

 それがどうも色っぽい。

「奏音さ~ん?」

「ん」

「エリー撫でる?」

「うん」

 少し控え目にエリーの頭を撫でた後でエリーをスタッフに引き取ってもらい、ウサギや犬とじゃれ合ってからふれあいコーナーを後にした。

「恋愛成就の神様なんだって」

「もう成就してるじゃん」

「ハハッ、言えてる。ずっと続くと良いな」

「もう十年以上一緒なんだよ?」

「お前が美人でよかった」

「なに~? ブサイクだったら振ってたって事? さいてー」

「そんな事ねぇよ、どんな顔でも奏音は奏音だ」

「それブサイクって意味? ひどーい」

「美人だって言ったろ~?」

 尻尾すら動かさないレベルで微動だにしないシマウマと、括りつけられた木の枝を長い舌でべろべろと舐めているキリンをベンチから眺めながら二人は身を寄せ合った。

「もう十二時か」

 懐中時計の蓋を閉じてポケットに入れると京助は腕を組んだ。

「ワニの所行こうと思ったけどあっちのレストラン行く?」

「いや、あっちの広場に行こ」

「ん?」

 奏音に従い広場に向かい、パラソル付きのテーブルにつくと、奏音は持っていたバッグから風呂敷を取り出した。

「え……嘘マジで?」

「んふふ……作って来たんだ」

 まさかお手製弁当が食べられると思ってもみなかった京助は感動のあまり思わず口を手で押さえた。

「マジか……予想外、ものすごく予想外」

「おいしいかは分からないけど、頑張って作ったんだ。お母さんと、途中からお父さんとね」

「三人がかりか……さっそく食べていい?」

「うん、はい箸」

 ビニールに包まれた木製の箸を取り出し、いただきますと唱えてから箸をつけようとすると奏音がそれを制止し、自分の箸で取ったものを京助に向けた。

「え?」

「た、食べて! あーん!」

 デートの定番のあーんである。京助は戦いに挑む侍のような心持で咳払いをすると、口を開けて奏音の箸を待った。

「ど、どうぞ」

 ジャガイモとコンニャクと少しの肉、口の中を甘い醤油の味が駆け巡る、甘めの味付けの肉じゃが、ただそれだけのはずだった。だが何故だろう、全身の細胞が沸き立っている、まるでマグナアウルになる直前の様な高揚感。

「美味い、美味いよ……」

 奏音の花開いた笑顔を見たせいか、鼻梁の奥が熱くなる。

「え、え? 泣いてるの?」

「だって美味いんだもん……こんな美味いの初めて食ったし……」

「も~! これで泣いてたら脱水症状なるよ! ほら、いっぱい作って来たから食べて食べて!」

 口に入れながら味と幸せを噛み締め、肉体的にも精神的にも満たされるのであった。

 

「もう俺明日死んでもいいわ」

「バカなこと言わないの」

「そっか、そうだよな。明日死んだらお前と結婚出来ねぇし」

「だから話が早いんだってば!」

「やだぁ~結婚するぅ~」

「子供かアンタは」

 展示を一巡し、もう一度ふれあいコーナーに向かってエリーをはじめとした動物たちとじゃれた後で、まとりズーアンドパークを後にした。

「いやぁ~楽しかったな! また来ような!」

「あのちっこいサルかわいかったよね~」

「来て良かったな、なんかだいぶ楽しいところになってたし」

「うん、何年か前に大幅な改装したんだ。んでエリアも拡大してこうなったみたいね」

「なるほどなぁ。まだ三時半か次どこ行く?」

「そーだった、結局行くとこの候補をここしか決めてなかったんだった」

「じゃあさ、真鳥市立博物館行かね? たしか面白い展示やってんだよな」

「博物館デート……悪くないかも! 行こ!」

 バスに乗って二十分。

 垂れ幕に企画展示の広告が打ち出されていた。

「トリックイリュージョン展?」

「そうそう、まあいわばトリックアートの展示だな。いっぱい写真撮ろうな」

 学割が利いたので安く入り、京助と奏音はお互いの写真を撮ったり、職員に頼んで展示の中に入った状態でツーショットを撮ってもらったりして、楽しくも充実した二時間を過ごした。

「これインスタに上げよ」

「俺これアイコンにする」

「やだー、こっちにして!」

「こっちがかわいいのに」

「そっちは恥ずかしいから!」

 順路出口のミニショップで二十分以上粘ったが結局何も買わず、再びバスに乗ってまとりキューズモールに戻り、六階のレストラン街の洋食店に向かう。

「ここね、どれかズバンって飛びぬけてるわけじゃないんだけど、どっか懐かしい感じがして美味いんだよ」

「そうなの? たのしみ~」

 京助はハンバーグアンドステーキ、奏音はシュリンプナポリタンを注文して舌鼓を打った後で階下のアイスクリームチェーン店に向かった。

「食べるか?」

「いいの? じゃあもらおっかな」

「はーい」

「あむっ……あー! 鼻についたじゃん!」

「おーっと、こりゃ失礼。よっと」

 指の腹で奏音の鼻についたアイスを掬いそれを舐めていたずらっぽく笑った。

「イヒヒ、ウマかったぜ」

「も~! バカバカバカ! 恥ずかしいって!」

 前にもやられたがこれは慣れない。

 奏音の痛くないパンチを喰らいながら京助はコーンを齧って笑うのだった。


 そしてついにその時がやって来た。

 コインロッカーの前で預けた荷物を回収した奏音に京助は小さく笑って聞いた。

「俺んち、来る?」

「うん、行こ」

 荷物を受け取った京助が差し出した腕に奏音が手を通し、二人して歩いて千道邸に向かう。

「夕日がきれい、晴れてよかったな」

「そうか、今日晴れか。だったら……フフッ」

「ん、何?」

「なんでもない、良いこと思い出したのさ」

 他愛のない会話をしていると日は沈み、空は暗い藍色になっていた。

「どうぞ俺のお姫様」

「いい心がけね、苦しゅうないわ」

 つい最近も来たはずの家が、なんだか真新しく思える。

「どうする? 風呂入れる?」

「いいよ、掃除とか大変でしょ?」

「一緒入る?」

「エ……エンリョしておきます……」

「チェ」

「いつか……ね?」

「いつかがあるんデスか⁉」

「……とりあえずいつか! 今は違うから!」

 奏音が小走りで風呂場に向かった数秒後、「……広ぉ~」という感動の声が聞こえ、京助はにこりとして腕の朱鷺(とき)と月のバングルを見た。

「トトォ~」

『なんでしょう?』

「うまくやれたかな?」

『これまではやれていたでしょう』

「これからうまくやれるかな?」

『あなたの心次第でしょう。まっすぐにあれば良いのです』

「まっすぐかぁ……」

 奏音が上がった後で京助もシャワーに入り、見られないように念力で掃除を済ませると、顔から下の水気を全て飛ばし、頭を拭きながら風呂場を出た。

「おつかれー」

「おーう、何して遊ぶ?」

「この前言ってたドラマ見ない?」

「お! そうだった! 配信もあるけどせっかくならブルーレイだ! 取ってくる!」

 自室のブルーレイの第一巻を持ってきた京助はデッキにディスクを挿入してドラマの視聴を開始した。

 亡くなった往年の名優がこちらに向かって話しかける印象的なオープニングから始まり、殆ど場所移動をせず一つの場所で展開するストーリーに思わず奏音は見入っていた。

「すごい……こんな……こんなドラマがあったなんて」

「だろ~? 帰り際貸すからお父さんとお母さんと見るといい」

 ディスクに入った分の話を見終わった後で、協力プレイが売りのゲームをやったり、対戦型格闘ゲームをやりながら時を忘れて楽しんだ。

「あ~! あ~! あ~、やられた……もう少しだったのに!」

「ふっふっふ、未熟者めが。むは、むは、ぶわははははははは!」

「もーそれムカつく!」

 じゃれ合っていると置時計が九時を過ぎているのに気付いた。

「ほらほら落ち着け、ちょっと見せたいもんがあるんだけど来てくれるか?」

「なに~?」

「来て」

 手を取って階段を上り、掃除以外では滅多に足を踏み入れない三階の、そこから出られるテラスへ向かう。

「これが見せたかったもの?」

「ああ、この先だよ」

 扉を開けると、そこには月を戴く山と遠くに見える街並みが広がっていた。

「わあ……」

「奏音に見せるのは初めてだったな。どうかな? お気に入りの場所なんだ」

 少しだけ欠けた月と静かな山、そして遠くの住み慣れた街。この景色はどんな場所で見た絶景よりも美しかった。

「小さい頃父さんと母さんと一緒に見てたんだ。スーパームーンとかの月が綺麗な日になると必ず三人で見に行った、かけがえのない時間だったよ」

「じゃあ……千道家以外では私が初めてって事?」

「そういう事、いいだろ?」

「うん、なんか光栄。んふふ」

「満月だったら良かったのにな」

「もうすぐ夏休みだし、今度は望遠鏡とか持ってきてさ、月だけじゃなくて星も見ちゃおうよ」

「たしかに、それいいな。じゃあまた来てくれるって事か?」

「当たり前でしょ?」

 二人して手すりにもたれかかり、しばらくの間無言で景色を楽しんだ。

「なぁ奏音」

「ん~?」

「来てくれてありがとう」

「なに、いきなりどうしたの?」

「俺も約束させてくれ」

「うん?」

「ずっと一緒に居る」

「……うん、そうだね。私も一緒に居たい」

「約束の証、受け取ってくれるか?」

「え、証って……」

 京助と奏音の唇が重なり、永遠にも似た一瞬がその場に流れる。

「……バカ」

「受け取ってはくれないのか?」

 頬を赤らめて唇に手をやっていた奏音は、照れ臭そうに笑って答えた。

「受け取るに決まってるじゃん、バカ」

 京助と奏音、すれ違いながら思い合う二人の関係は、今夜少しだけ進展したのだった。


遭遇編 完

To Be Continued.

いかがでしたでしょうか、第一章遭遇編おしまいです。

本気を出したマグナアウルこと京助の覚悟が伝わってくれたかなと思います。

やっぱりデートの締めは月明かりの下でのキスじゃないとね。

あの後何があったかは皆様方のご想像にお任せします。

一章完結とはいえストーリーは続きます!

次章は『夏休み編』でございますのでお楽しみに。

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ではまた来週。これからもお付き合いをお願いいたします。

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