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青春Double Side  作者: 南乃太陽
遭遇編
11/38

クドゥリ、降り立つ

これまで散々邪魔をされた上に自分の愛する妹を倒されたクドゥリの怒りは頂点に達し、ついに自ら動きだす!

クインテットとマグナアウルに宣戦布告を行い、地球へ襲来。

強大な力を見せつけるクドゥリにクインテットとマグナアウルはどう挑むのか?

そして京助と奏音のデートはどうなる?

 地球の衛星軌道上、ジャガック基地艦の特殊訓練室にて、バーニャラ・クドゥリは一人でそこに立っていた。

「……」

 近くに誰かが居ればヒリつきそうな空気の中、クドゥリは目の前の列をなす鉄の円柱を前に目を瞑って一言も発さず口を噤んでいた。

「ほぉ……くあッ!」

 ブーンという低く重苦しい音と薄紫色の光が一閃し、薄暗い部屋を照らしたと同時に複数の金属が床に落ちてけたたましい音を立てる。

「……すぅ」

 薄暗く静かな部屋に重苦しい音が響き、一筋の薄紫の光がクドゥリの顔の右半分を照らす。それは所謂光子剣やビームサーベルといった類の武器であり、持ち手のハンドガードにクドゥリの故郷である西部ルガーノ語で刻印がなされている事から、彼女の個人的な携行武器なのだろう。

 しばらく光子剣を振り抜いたままそのままの姿勢で静止していたが、突然目を見開くとさながら剣舞のように光子剣を振るい始めた。

「フッ! セイッ! トアッ!」

 光子剣が発する低く重苦しいスパークの音とクドゥリの息遣いと掛け声、そして彼女の美しく長い紫色の髪と力強い動きで太く長い光が踊る。

 それを見た者きっと百戦錬磨の者を前にした畏怖と美への感動が同居する不思議な感覚を覚えるであろう。

「タッ!」

 最後に大きく刃を振り下ろし、クドゥリは深呼吸すると小さく「次」と呟いた。

 するとクドゥリから離れた位置に先程と同じような並んだ鉄の円柱が出現し、それを見たクドゥリは重苦しい音を立てる光子剣を何の躊躇もなく掴むと、刀身を思い切り引っ張った。

 すると刃が細かく分断され、それぞれが鋼線で繋がれた鞭剣に変形した。

「ハァァ……」

 薄紫色の長い光の軌跡が部屋の中の闇を蹴散らし、徐々にその軌跡が伸びていく。

「今だッ!」

 光子鞭剣がさながら獲物を喰らう蛇のように伸び、一瞬のうちに円柱全てを切断した。

「ハッ!」

 今度はそのまま鞭剣を操り、クドゥリはまるで生命が宿ったかの如く変幻自在に鞭剣を操って見せた。

 不思議な事に剣の操作の過程でクドゥリの体に鞭剣が振れることが数度あったが、切断はおろか部位が焼け爛れる事もない。

「シィッ!」

 ある程度光子鞭剣を振るったクドゥリは一層力を込めて剣を振るうと全ての刃が鋼線に巻き取られて戻って来て、鞭剣は元の剣の姿に戻った。

「的だ」

 同じく小さく呟くと天井から射撃用の的が出現し、それを見たクドゥリは刀身を前方に傾けた。

 すると刃に纏っていた光が消えると同時に真ん中から刃が二分して銃口が出現し、銃床(ストック)のないロングライフルのようになった。

「……」

 クドゥリは顔色一つ変えずに片手で的を撃ち抜き、的全体に弾痕で円とバツ印を描き、最後に的の真ん中に連続で光弾を当て、ついには分厚い的を貫通させてしまった。

「……これもやっておかねばな」

 ハンドガードのセレクターを操作して引き金を引くと太いビームが発射され、的を両断してしまった。

「最後だ」

 的が引っ込むと今度は床下から二立方メートルはあるだろう直方体の金属の柱が出現し、聳え立った柱を見たクドゥリは刀身を起こして再び剣に変える。

「ハァァ……」

 薄紫色に輝く刀身を撫でると、よりその輝きと響く重苦しい音が強まり、クドゥリは一歩引いて剣を振り上げて構え、その状態でしばらくの間静止する。

「……おおおおおおおっ!」

 静寂は突如破られ、薄紫色の軌跡が金属柱の真ん中にめり込んだ。

 光子剣が発する音はより大きくなったことで周囲に独特なプレッシャーを与え、赤熱による光がクドゥリの顔を照らす。

「もっとだ! 行け!」

 音と光がさらに強まり、切断面が白熱して溶けた金属が流れ出した。

「く……ふぅ……ここまでか」

 剣を引き抜くと光の強さも音も元に戻り、クドゥリは大きく息をついた。

「これ以上はベナーグが持たない……私の技もまだまだという事だな」

 ベナーグとはこの光子剣の銘であろうか。

「どれ、私はこれをどれほど斬った?」

 まだまだ熱い金属の柱を躊躇なく触り、顔を近付いて確かめる。

「七割八分……といったところか。前回よりも伸びたな」

 この金属の柱は宇宙で八番目に硬いとされる金属で構成されており、フォトンエナジーに強力な耐性を持つことから戦艦などの装甲に広く使われる。切断できなかったとはいえ、そんな代物をクドゥリはフォトンエナジーで構成された剣で焼き切ったのである。

「少し鈍ったか? どれ」

 ほんのり赤みが残っている部位に触れると、そこが一気に白熱し、まるで加工前の飴細工のようにどろりと金属が溶解した。

「まだ鈍ってはいないようだが、久しく戦っていないからな。フフフ……私の可愛い妹達を倒したクインテット、そして何よりマグナアウル! 一体どんな奴らなのか、近々直接会えるのが楽しみだよ」

 クドゥリの橙かがった金色の瞳には戦闘への期待と怒りが、熱く熱く燃え盛っていた。

 

 翌日、クドゥリはホロ内線でザザルを呼び出した。

「ザザル、調子はどうだ?」

『武装の方は終わった。再改造と調整はもう少し時間がかかるぞ』

「まだなのか」

『気持ちはわかる。だが必ず良いものを届けると約束しよう』

「ガディとザリスとジェサムの精神(メンタル)の方はどうだ?」

『ちょっと待ってくれ』

 ザザルがミュートになり、しばらく何かやり取りしている様子が映し出される。

『待たせたな。メンタルチェックの結果を見たよ。三人とも落ち着いてはいるようだが、特筆すべき所はザリスがマグナアウルに対する恐怖が強いと結果が出ている』

「他の二人は?」

『ジェサムもマグナアウルを恐れている。ガディの方はどちらかと言えば屈辱と怒りの方が強いようだ』

「そうか……ありがとうザザル。後で三人に会いに行っても?」

『いいだろう、諸々が終わればこちらから連絡する』

「調整の方も大至急頼むぞ」

『無論だ』

 ザザルのホログラムが消え、クドゥリは椅子に背を預けて大きく息を吐いた。

「屈辱……マグナアウルよ、お前には必ずや妹達以上の屈辱を味あわせてやる。容易く死ねると思うな」

 

 カレンダーの前日の日付にバツ印が付けられ、人生初のイベントを待ちきれない京助は顔に大輪を咲かせた。

「あと二日~、あと二日~」

 まるでバレエダンサーのように軽やかに踊りながら朝の支度を済ませ、余った時間を自室の勝負服を眺めて過ごす。

『最近機嫌が良いようですね』

「いいに決まってるさ、ここしばらくの間は連中も何かしてる様子もなくて平和でさ……それより何より土曜日がめちゃくちゃ楽しみでしょうがないぜ!」

『そうでしょうね、何よりです』

「そんな珍しいか? 機嫌良いの」

『こんなにあなたの機嫌が良い日が続いたのは久々でしたので』

「そう? そんなに機嫌良いように見える?」

『鏡を見てみたら恐らくわかりますよ。ここしばらくのあなたの笑顔はとても柔らかい。昨日別室で奏音さんの泊まる部屋を準備していた時なんかまるで御伽噺のお姫様そのものでしたよ』

「そうかね~、そうなんかね~、ん~ふふふふ」

 頬を自身の五指で揉みながら、京助はさらに笑みを深くした。

『いい兆候です。もっと表の日常に重きを置いてもいいんですよ?』

「そうだな……俺も時折そう思うよ」

 偶に思うことがある。もしも両親が生きていたらどんな高校生活を送っていただろうか?

 今思えば定期的に何度か超能力開花のトレーニングのようなことをさせられていた気がする。もしかしたら中学校二年生か三年生ぐらいには当時ほど強力ではないにしろ何かしらの力に目覚めていたのかもしれない。

 発覚したら父と母は喜び導いてくれるだろう、そうして敵体性宇宙人――両親はそう呼んでいた――との戦いの術を学んでいく。

「うん、あんま今と大して変わんないかもな」

『何がですか?』

「いいや、何でもない」

 もし両親が生きていて、その下で育っていたら奏音は自分を好いていてくれただろうか?

 中学生の時にずっと演じていた〝両親と記憶を失った可哀想な男の子〟である自分を誰よりも長く、誰よりも近くで支えてくれたのは間違いなく奏音だ。

 又聞きの話だが、中学生で男女一緒に過ごしていると茶化してくる者が居る。そんな人間が京助といつも一緒に居た奏音を冷やかしたとき、静かながら本気で怒ったことがあるらしい。

 今の自分と奏音の関係があるのは、きっと中学生の頃からの関係性の変化があるだろう。ではそのきっかけである両親の死が無かったら?

「ずっと友達のままかな? それとも中学でちょっと距離が離れて……つかず離れずの関係になるのかな? それとも離れてそれっきりかな? ……ハハハッ」

 柄にもない事を考えてしまった、大切なのは今自分と奏音が付き合えていて、二日後に初めての休日お泊りデートをするという事なのだ。

「行くか、学校!」

 二重生活を続ける中で、京助は楽しむときは全力で楽しむべきだということを学んだ。たらればを考えてこうくよくよしていては楽しい事も楽しめなくなる。

「行ってきます!」

 自分とは対照的に、明後日が近づくにつれて目に見えて緊張している奏音が今日はどんな顔をしているか想像しながら、京助は家の門をくぐるのであった。

「おはよう諸ッ君ゥ~ン!」

「お、浮かれポンチマンが来たぞ」

 月曜日から京助が目に見えて有頂天になっており、対して奏音は日に日に緊張している事からクラスの全員はこの二人が週末にデートすることを察している。というか愛優経由で泊りデートであることを除いてみんな知っている。

(だぁ~れ)が浮かれポンチマンだって? その通りだ、わっはっは」

 席に着いた京助の周りを複数の男女が取り囲んだ。

「おぉ~なんだなんだ?」

「いやな、千道の近くにいると運気上がるらしいからさ」

「幸せのおすそ分けしてもらいに来たよ」

「なんだよそれ、誰が広めてんだ」

 なんだかそれすらも面白おかしく思えてくる。

「ピースして千道君」

 腕を交差させてピースし、複数の女子に写真を撮られた。

「これロック画面かホーム画面にしたりプリントしてどっかに貼ったりすると運気上がるらしいよ」

「マジで誰だよこんな胡散臭い噂広めてんの」

「神様仏様京助様どうか我々に恋愛の加護をどうかどうか!」

「ナニ俺神様仏様に並んでるの?」

「金運も上げてください! 京助様!」

「ああ俺って恋愛運と金運司ってるんだ」

「あ、あとさー白髪の部分くれない? なんか白蛇と一緒で財布に入れると良い事あるって」

「それはさすがに気持ち悪いわ! 前髪が部分的にハゲになるて!」

「じゃあいくらお布施したらくれる?」

「いややらんわえ! いくら貰おうが俺の倫理的ブレーキがかかる!」

「千道教作るか、経典は千道()で」

「やめろよいろんな方面で怒られるって。てか俺が怒る!」

 すると京助を囲んでいる一部のクラスメートがお経のような意味のない言葉を口にしたり、めちゃくちゃな順番で十字を切ったりして京助を拝みだした。

「やっぱ俺教祖になろうかな、いろいろ非課税らしいし」

「お、じゃあ私入ろっかな。お布施はラーメン?」

「教義は『南無釈迦じゃ、娑婆じゃ地獄じゃ、苦じゃ楽じゃ、どうじゃこうじゃと言うが愚かじゃ』です。という訳で教義に則り今日限りで解散です、お疲れさまでした」

 解散に対して何故か不評だったが、奏音が登校してきたことで空気が変わった。

「おはよー……」

 京助が誰よりも早く入り口の方を向き、取り囲んでいたクラスメートが驚くほど俊敏に奏音の方へ駆け寄った。

「ボンジョォルノ! ミオテゾロ!」

「見せつけてるねぇ」

「おはよ京助……」

「あら」

 奏音の目に隈が出来ており、心なしか元気がなさそうだ。

「どうした奏音? 何かあった?」

「……昨日ね……緊張のあまり全然眠れなかったの」

「こりゃまずい! お前らどけ! 緊急施術を開始する!」

 奏音を自分の席に座らせて頭を包むように持つと、天井を仰ぎながら大真面目な顔で親指に小さく力を込めて何かを探し始める。

「なんだ?」

「ヘッドマッサージ?」

「……あ、見つけた。奏音、息吸って」

「はぁー……」

「吐いて!」

 奏音が息を吐き出すわずか一秒以下の間に後頭部の窪みの辺りにあてがった親指に力を籠めると、奏音の半目がちだった目がパッチりと開いた。

「うわ、すごい! え……すご⁉ 眠気が消えてる! 頭もすっきり!」

「親父直伝雑念払いのツボ!」

 これは嘘である。確かにツボは刺激したが、大まかな原理は放電能力と読心能力の合わせ技で、京助が独自に編み出した眠気覚ましの術である。

「え? 普通にすごくない?」

「すげぇ! ゴッドハンドだ!」

「やっぱ千道教復活したほうが良くね?」

「え、なに? 千道教って」

「なんか俺を恋愛と金運を司る存在としてこいつらが勝手に崇めてるんだよ」

「あはは! 私も入りたい!」

「あと健康運も上がるぞ!」

「だからさっき教義によって解散したでしょうが」

 何故かまた周囲のクラスメートが京助をまた出鱈目に拝み始め、奏音はその様子を見て大爆笑していた。

「おはようみんな……なんで京助を拝んでるんだ?」

 担任の増田阿澄先生が半笑いの困惑顔で聞いてきた。

「知らないんですか先生、千道君を拝むと恋愛運健康運そして金運が上がるんですよ!」

「本当か? じゃあ私も拝もうか」

「もーやめてくださいよ、教義によって解散したのに!」

「近頃夜になるとどうも一人が寂しくて……京助、先生もお前を拝めばいい人が見つかるかな?」

「重い重い重い、荷が重い」

 阿澄先生は小さく笑うと読書タイム前の着席を呼びかけ、その後ホームルームを経て今日の授業が始まった。

 

 そして三時間目の途中での出来事。

「つまりここで価電子が……」

(眠てェ)

 超能力の覚醒により知能が大幅に高まった京助にとって、高校の授業内容など何度も読み漁って完全に内容も覚えている本をまた読まされているような感覚である。

 数学担当の世良先生のように授業が面白ければ幾分退屈でもなくなるのだが、どうも化学担当の岩見先生は退屈極まりない。

(よくそんなに真面目にノートが取れるねイインチョも……)

『ん? これは⁉』

 突然トトが驚いたような声を出した。

『トト、どうした?』

 何やら尋常じゃない事が起こったのは確からしいが、トトは応えを返さない。

『おい、トト黙ってると何もわからんぞ』

『緊急事態です、詳細は後で話します』

『後でって……今じゃダメなのか?』

『ええ、授業の妨げになります故。それと守ってほしい約束が二つあります』

『約束?』

『一つは必ず落ち着いて聞くこと、もう一つは絶対に学校が終わってから事に当たることです。いいですね?』

『まあ……それも内容次第じゃね?』

『いいえ、約束してください』

『わかった、よくわかんないけど』

『では休み時間になり次第トイレへ』

 退屈な授業も終わり、京助は人気のないトイレの個室へ向かった。

「んで、何があったんだ?」

『宇宙空間からコンタクトがありました』

連中(ジャガック)か」

『はい、それも大物です』

「……まさか」

『はい、バーニャラ・クドゥリがメッセージを送ってきました』

 あまりに想定外な事態に言葉を失い、右手で顔を撫でて口を押えた。ジャガックがメッセージを送ってくることなんて初めてである。

「じゃあ俺の事もう割れてるんじゃ……」

 ここ数日の出来事で弛緩していた顔が引き締まり、目の奥の光がより強くなる。

『いいえ、これは不特定多数に届く周波数による一方的なメッセージの発信です。よってあなたを特定した可能性は低いです』

「そうか……まあよかった。じゃあ内容はどうなってる?」

『映像データ付きです。再生します』

 バングルの満月をあしらった部分から映像が空中に投影された。

「何だこのマーク」

 少なくともジャガックのものではないであろうよく分からないシンボルが回りながら投影されている。

「ツラ出さないあたりよっぽどひどいツラしてんだろうな」

 しばらくすると映像のマークの下部に、オシロスコープ状の線が表示されて波打ち始めた。

『クインテット及びウィルマース財団、そしてマグナアウルに次ぐ、私はジャガック特殊作戦の最高司令官である将軍バーニャラ・クドゥリだ。このメッセージは貴様らにのみ届く周波数で送っている』

 京助の眉根が寄り、映像の中のクドゥリは不敵に笑って続けた。

『本日の日没後、私はこの星に降り立つ。座標はこのメッセージの再生が終わり次第表示されるだろう』

「なんだって?」

『これまでの戦いの礼をするつもりだ。首を洗って待っていろ』

「上等だよ」

『最後にマグナアウルへ個人的なメッセージを』

「俺宛か」

『妹達が世話になったようだな、貴様は地獄すら生温い責め苦と屈辱を味合わせて殺してやろう。では日没後にまた会おう』

 ここで座標が出てきてメッセージは終わっていた。

「怒ってるな」

『怒ってますね』

「まあそれだけのことはした自覚はあるな」

 京助は不敵に笑ったが、すぐに真顔になった。

「懸念点が一つ」

『というと?』

「デートに響くかどうか」

『そっちですか』

「なんだ、他に懸念すべきことってあるか?」

『勝ち負けですよ』

「何言ってんだ」

 ギラギラとした笑みを浮かべ、京助は不敵に言って見せる。

「俺が負ける訳ないだろ」

 

 当然クドゥリのメッセージはウィルマース財団にも届いており、クインテットメンバーは学校が終わり次第全員集められた。

「こんな事あった?」

「初よね」

 昼休みの時間帯にメッセージが来て、学校の裏門近くに迎えを寄越すから五人全員でその車に乗り、授業が終わり次第至急財団へ向かってくれという通知がなされた。

「何か……緊急事態があったのでしょうか?」

「いつもと違うことが起こったってのは確実にそうなんだろうけどさ、問題は何があったかよ」

「もしかして……ジャガックから何かコンタクトがあったり?」

「コンタクトってメッセージとか送ってきたりしたって事?」

「だとしたらどんなメッセージだろう?」

「間違いなくいいメッセージじゃないのは確かだね」

 その予感は的中していた。

 トトが受信したメッセージと同じものが届いており、五人はクドゥリの宣戦布告に様々な思いを抱くのだった。

「フクロウちゃん特に目ェつけられてんね」

「そもそも彼がジャガックを挑発したからこうなってるわけで……」

「そうは言いますけど、遅かれ早かれ幹部と戦う日は来てたわけですし」

「そうだけど幹部一人とはいえあの三人のオリジナルなんでしょ? あの三人以上の力を持ってる可能性もある訳で」

「一人だけだとまだいいけど……」

「ん? まだいいってどういうこと明穂?」

「バーニャラ・クドゥリだけじゃなくて、あの三人も一緒に来るんじゃないかな」

 皐月が大きく溜息をついて顔を拭う。

「……確かに麗奈の言う通りいずれ戦うべき相手だったからね。もうここまで来たらぶっつけ本番になるのを腹括るしかないか」

 まともな作戦が立てられないことを憂慮する皐月をよそに、奏音は一人別の事を考えていた。

(デート大丈夫かな)

 一年と少しの間クインテットとして奏音は戦ってきたが、ここで初めて戦いに向かうのが怖いと思った。

(私死ぬかも。死んだらどうなるんだろう……お父さんとお母さん、それに京助は……)

 まるで走馬灯のように楽しかった思い出が浮かび、思わずこの場所から消えてしまいたくなる。だがしかし。

(やるしかない……だって私にしかできないんだから)

 待機中、奏音は転送鍵の設定を開き、ホログラムで表示された武器を弄り始める。

「新しい武器作ってるの?」

「うん、戦いに適応する為にね」

 二つのグリップから生成する武器のうち、短剣の方の設定を変えた。

「実戦で使える?」

「使いこなしてみせるよ」

 奏音には戦う理由と、絶対に勝たねばならない理由があるのだ。

「そして勝つよ、どんな手を使ってでも」

 編集を終え、奏音は数時間後の戦いに備えた。


 五人はスーツを纏った後でエネルギー拡張パックを含めた追加兵装を全て纏った完全装備状態になり、装甲車に揺られてクドゥリが送って来た座標に向かっていた。

 前回のよりもさらに改修が加えられた実弾仕様のライフルを整備しながらイドゥンは小さく呟いた。

「これ効くんかね?」

 腰に提げたツインドラムマガジンと各種グレネード弾に触れながらイドゥンは呟く。

「効く効かないじゃない。効かせるんだよ」

「強気だねミューズ」

「絶対に、絶対に勝たないと」

「そっか、死ぬわけにはいかないしね」

「うん、まだ死ぬにはいい日じゃない。絶対に勝って生き残ってやる」

 指定された座標近くに降ろされ、目的地に向かう。

「これは……」

「明らかにここだね」

「一目でわかるわ、ある意味親切だね」

 上空に大きな空間の歪みが見える。大きな飛行船がステルス機能を使って浮遊しているのがまるわかりだ。

 やがて一点からステルス機能が剥がれ落ち、灰色をベースに獣や星、何かのシンボル等の様々なペイントがなされた輸送船が出現した。

「……」

 各々グリップに手を伸ばそうとすると、輸送船の底部からトランスポートビームが放たれ、そこに沿って四人の女が現れた。

「おいでなすったね」

 四人のうち前に居る三人はガディ、ザリス、ジェサムである。そしてその三人の背後に立ち一際背の高い女こそが。

「バーニャラ……クドゥリ」

 色の薄い紫色の長髪、白磁のように白い肌、黒い結膜にオレンジがかった黄金の瞳、一目で人間ではないと分かる。だがそれでも彼女が凛とした雰囲気の美女であるというのが分かる。

「お初にお目にかかる。クインテットの諸君」

 低く毅然とした女声に、五人全員の背筋が強張った。

「マグナアウルの方は来ていないようだな」

「さあね、あいつと私達は別に仲間でも何でもないし」

「まあいい、お前達も我々ジャガックに無視できない損害を一年以上に渡って与え続け、そして何より妹達を傷つけた者どもであることには変わりない」

 ガディらが武器を取ろうとしているのをクドゥリが制止する。

「お姉様?」

「少し待っていなさい。説明してやろう、あの船には総勢十万人のジャガック兵が待機している」

「は?」

「十万人⁉」

 驚くクインテットに対しクドゥリは不敵かつ凄絶な笑みを浮かべて続けた。

「安心しろ、ここにあいつらを放つつもりはない。ただし、ここでお前達が私を止めることが出来なければ……」

「連中をこの街に放つつもり⁉」

「フフフ、ミューズとか言ったな、君は察しが良いな。まあ大方その通りだ」

 クドゥリは腕輪を捻ってバックルのボタンを押すと、体の各部に戦闘用の装甲が形成された。

「その前に少しだけ、私一人と君達五人で遊ぼうじゃないか」

 耳元に触れると兜が形成され、最初から腰に佩いていた厚い長剣ことベナーグを引き抜いた。

「殺すのはその後にしてやろう」

 クドゥリの刃が薄紫色に輝いたのを見て、メンバー全員がグリップを取って各々の武器を生成する。

「死ぬわけにはいかない、だから死なない!」

 ミューズの言葉を鼻で笑い、クドゥリは両手を広げて挑発した。

「せああああっ!」

 ルナの斬撃を回避し、続けざまに飛んできたデメテルのパンチもいなし、アフロダイが放つ光の矢を手を翳して空中で静止させた。

「……完全に止めた⁉」

「それだけじゃない」

 翳した手を反すとアフロダイの方へ正確に矢が返って来て、辛うじて避けたものの着弾した場所が爆ぜた。

「威力も上がってる!」

「だったらこうするまで!」

 イドゥンが実弾ライフルで頭を狙うも、クドゥリは意に介さずベナーグを振るって斬撃を飛ばした。

「おわっ! ……あぶねぇな! これでも喰らえ!」

 回避しながらグレネードに装填された瞬間硬化エキスワイヤを放つも、それも着弾寸前に切り裂かれてしまう。

「ハッ!」

「せいっ!」

 ミューズとルナが同時に仕掛け、クドゥリもベナーグで応戦し数度切り結び、拮抗状態に持ち込んだ。

(……重い!)

 二人で抑えているとは思えぬほどの重みが戦斧と太刀から伝わり、更に涼しい顔のクドゥリによって徐々に焦りが広がってくる。

「どうした? 押し返せないか?」

「フッ!」

 背後から槍の一撃を喰らわせようとしたアフロダイの方を見ることなく蹴り飛ばし、デメテルのビームも撃ち返して吹き飛ばした。

「二人とも! くうっ……おおっ!」

 渾身の力でベナーグをかち上げると戦斧の柄尻を分離させて手斧と短剣に変え、猛烈な勢いで斬りかかった。

「おお! ……これはっ! 中々だな!」

 思わずクドゥリが後退し、剣を交え合うが、ミューズの隙を見て大振りの一撃を振り下ろした。

「フッ!」

 辛うじてそれを見切ったミューズは短剣を新たに加えた武器である拳銃に変形させると、クドゥリの顔面に突き付けた。

「らああああああああっ!」

 反応する間もなくトリガーが引かれ、クドゥリの顔が強い光に照らされた。

「お姉様!」

 だが全員の予想に反し、撃たれたクドゥリは不気味に笑っていた。

「どうした、もっと撃ってこい」

「……このっ! このっ! うわああああっ!」

 何度も至近距離から銃を撃つもクドゥリには傷一つつかない。

「至近距離ならば力が及ばないとでも思ったか? それとも……」

 ベナーグの刀身が分かたれて鞭剣状態に変化すると、背後に迫っていたイドゥンの首に巻き付き、そのまま引っ張られてルナの方へ叩き付けられた。

「背後からの不意打ちなら効かないとでも?」

 不気味に笑い続けるクドゥリを間近で見て、仲間への心配も出来ないぐらいにどうしても体が竦み上がってしまう。

「この程度造作もない。まさに赤子の手を捻るようだ」

 体が竦みながらも、ミューズは頭を振ってグリップを連結させ戦斧に変えて再びクドゥリに斬りかかった。

「なるほど、それでもなお向かってくるか」

「ジャガックに、そしてあんたに屈する訳には行かないの!」

「フフフ……ハハハハハハッ! 口ではそう言うが体はどうだ? 本能は戦いをやめたいのではないか?」

「そんな訳……」

 突然戦斧がグリップに戻ったかと思うとマスクのARが全て消失し、いきなり体が重くなった。

「あっ⁉」

 立っていられなくなり、膝をつくどころか倒れ込んだ。

「なに……これ……体が……うう……重い!」

 まず起き上がろうと腕をつこうにも腕も足も動かない、さながら体全てを何かが押さえつけているかのような……。

「まさか……あんた!」

「フフフ、気付いたか」

 クドゥリの能力により、C-SUITのエネルギー供給を断たれたのである。よって今の自分達は慣れない重い鎧を纏っているだけのただの少女に過ぎない。

「お前達人間は所詮無力なものなのだ、少しばかり抵抗したとて叩き潰される羽虫そのもの」

「羽虫だろうが……何だろうが!」

 何とか腕を動かし、体を浮かそうと試みるも、重力と痛みがそれを阻む。

「私達はこの街に住んでる! だからどんな理不尽にも立ち向かわなきゃならないんだ! 無力でもそれは……戦うのをやめる理由じゃ……ないから!」

 クドゥリは溜息をつき、三人の妹達を呼んだ。

「お前達、彼女はどうしても折れてくれないらしい。彼女の仲間の方へ行け」

「!」

 クドゥリは動けないミューズの体をひょいと持ち上げると、顎を掴んで視線を固定した。

「やめろ! それだけはっ!」

「いい加減自覚しろ、今のお前の状態と地球は同じなのだ」

 ジェサムがセレクターを弄ってライフルを向け、ザリスが細い長剣を胸の辺りに、そしてガディは執行人のように大剣を振り上げ、自分と同じく動けない仲間たちを処刑する準備を整えた。

「ぐ……動けっ! 動けっ!」

 願いも空しく腕はわずか地面から二センチほどしか動かず、三姉妹とクドゥリがそれを見て嘲笑う。

「足掻け、絶望しろ、諦めろ」

「うおおおおおおおっ! 動けぇぇぇええええっ!」

 一瞬だけエネルギー供給停止に伴って消灯したエナジーストリームラインが点滅し、それを見たクドゥリは驚いた顔をし、すぐにいつもの真顔に戻って声を張り上げた。

「お前達! やるんだ!」

 三人が手を下そうとしたその時、上空で待機していた輸送船の装甲が爆発した。

「なんだ!? 何事だ!」

 揺れる輸送船の真横を黒い影が通過し、すれ違う刹那に再び装甲が爆発する。

「財団の救援か? まあ無駄な事だ、いくらミサイルを受けようがこの船には傷一つつかない」

 黒い影はUターンして再びミサイルを放ち、同じ所を攻撃している。

「フフフ……見ろミューズ」

 クドゥリはぐったりしたままのミューズの体を動かし、背後の輸送船とその周りを超高速で飛翔する黒い影を見せた。

「あの戦闘機……粗方お前達への財団の救援だろうが、無駄の極みさ、言ったろう? お前達は叩き潰される羽虫だとな」

「あれは……」

「いずれ輸送船からの反撃を喰らい、あの羽虫は叩き落とされ……」

 その時黒い影から青白い光線が発射され、輸送船が十字に切り裂かれた。

「なっ!?」

 あまりにも想定外の出来事にクドゥリは目を見開いて立ち上がった。

「シールドが破られた⁉ ……クッ! 総員退避だ! 基地艦へワープしろ!」

 黒い影は四分割された輸送船に執拗にミサイルや青白い光弾を放ち、墜落したのを見届けると一旦空高く飛び上がると、そのまま自由落下の要領で落ちてきた。

「……来た、来てくれた!」

 黒い影は地面から数メートル程で姿を変えるとマントをはためかせながら着地し、ついにその姿を表した。

「マグナアウル!」

 さながら翼を広げて相手を威嚇する梟のようにマントが広がり、それはやがて首元の金色の二枚のマフラーに変化した。

「お前がバーニャラ・クドゥリか」

「その通りだ、直接会うのは初めてだな」

「なんだ、どんな酷いツラかと思えば人に似てマシなツラじゃないか」

 クドゥリの眉根が寄り、ガディら三人が武器を向けてきた。

「私達だけならまだいい!」

「お姉様まで侮辱するとは!」

「この汚い口を二度と利けなくしてやろうか!」

「マシなツラだが……やり方は汚い」

 マグナアウルが指を鳴らすと倒れていたクインテット達のエナジーストリームラインが点灯し、五人は立てるようになった。

「直ってる!」

「スーツの表示も元に戻ってるよ!」

「体が重くない! 前のように動けます!」

 さすがにこれはクドゥリですら驚きを隠せない。

「ジャガックの幹部とやらはこんな戦い方しかできないのか、恥を知れ。まあ所詮ゴミクズ共のお山の大将なわけだから、恥など持ち合わせていないだろうが」

「輸送船のバリアを破り、そして私の能力の有効範囲で力を無効化して見せた。そしてその姿……そうか、合点がいった。どうりで我々が勝てなかったわけだ」

「フン、今更怖気付いたかバーニャラ・クドゥリ。残念だが命乞いや投降は受け付けない、俺はお前らを全員殺すと……」

「お前、アバター使いだな?」

 マグナアウルの言葉と動きが止まり、ゆっくりとクドゥリの方を向いた。

「……ほう」

「何?」

「アバター使い?」

 (ヘルム)に包まれて分からないマグナアウルの顔だが、この時少し笑ったのがわかった。

「よく知ってるな、ただふんぞり返ってるお山の大将じゃないという事か」

「お姉様、アバター使いとは?」

「知らなかったのか、まあ無理はない。アバター使いは珍しい」

「珍しい……超能力者の区分という事でしょうか?」

「超能力者とは魂が高次元に達した者が自身の魂より低い次元の世界に影響を及ぼせる。そんな力なのは知っているな?」

 三姉妹はさも当然といった風に頷いたが、クインテットは初めて知った超能力のメカニズムに驚いた。

「そ……そんな仕組みだったの?」

「じゃあアイツって……高次元存在的なヤツなの?」

 クドゥリはクインテットメンバーの驚きをよそに更に続ける。

「アバター使いは当人の考える〝状況に適した姿〟を三次元宇宙に顕現させるという力だが、宇宙にある三十六の次元のうち、最低でも中階層以上に到達していなければ使えない高度な力だ」

 三姉妹たちのマグナアウルを見る目が変わった。それは驚愕、あるいは畏敬の念と言ったものと言える。

「まさか地球人がそこまでの段階に達していたとは思わなんだ」

 この発言に再びクインテットが驚かされた。

「地球人なんですか⁉」

「彼は私達と同じ……地球に住む人類って事?」

「確かに喋ってる言葉も日本語だし、じゃあ彼はこの町のどこかに住んでるのかもしれない……」

 マグナアウルは小さく笑って喋り始めた。

「その通り。俺は地球人類で超能力者、そしてアバター使いだ。元々の素質もあるらしいが、俺がここまで強くなったのは単純に鍛え上げたからでもある」

「確かに、見た瞬間分かったよ。お前は只者じゃない」

「何故俺がここまで鍛えたか分かるか?」

「……復讐の為、だとか言っているそうじゃないか?」

「そうだ、これも全てお前達ジャガックの皆殺しの為」

 マグナアウルは首を鳴らし、クドゥリを指差して宣言した。

「お前も含めてな、バーニャラ・クドゥリ!」

 マグナアウルの毅然とした宣言にクドゥリは負けじと不敵に笑い、腰に佩いたベナーグを再び引き抜いた。

「フフフ……勘違いも甚だしいぞマグナアウル、たかが地球人のアバター使い如きに私が怯むとでも? お前がいくら強かろうと井の中の蛙というもの、私に万が一にでも勝てるとは思わぬことだ」

スワロー()。では試すか? もう言葉もいらないだろう」

 お互いの得物を構えて相対した途端、マグナアウルの殺気とクドゥリの闘気がぶつかり合い、周囲の風が吹き荒れると同時に墜落した輸送船から上がる炎が更に激しく燃え盛った。

「いざ!」

「尋常に」

 瞼が落ちるより早いその時間で、マグナアウルとクドゥリの姿が消え、その遥か上空から衝撃波が襲ってきた。

「すっげ……」

「何見惚れてるの」

 エネルギー遮断により元のグリップに戻った太刀を再生成してから、ルナは鋒を近くに居たザリスに向けた。

「今の私達じゃあそこまでは届かないかもしれないけど、やれることはあるはずでしょ」

「そうですね、呆然としている暇はありません」

 再び戦意を灯した五人は各々の武器を取り出して構える。

「……フハハハハッ! 何を言い出すかと思えば!」

「私達と戦うつもりですか?」

「先程の醜態を忘れた? 一度勝てたからと言って調子付いているのではなくて?」

「あれはクドゥリに負けただけであって、アンタたちに負けた訳じゃない」

 ミューズは戦斧を生成しながら腕を回して調子を整えると、斧刃を撫でて続けた。

「それに一度勝てたということは一度アンタたちが負けたって事。この意味、わかる?」

 苛立ちが頂点に達した三人は繕った上品さすらかなぐり捨てて目を見開いて怒鳴った。

「むかつく女だ!」

「もう許さない!」

「ああそう、許しなんて求めないし、許さないのはこっちだけどね」

「骨すら残さん!」

 こうしてマグナアウルとクドゥリとの戦いをよそに、クインテットと親衛隊三姉妹の再戦が始まるのであった。


 空中に舞台を移した強者同士の戦いはより激しさを増していた。

 ベナーグが生む薄紫の光の軌跡がマグナアウルに襲い掛かり、それらを力強く的確に弾き返し、やがて剣戟では互角と察したマグナアウルはクドゥリを蹴り飛ばして距離を取った。

「フッ! せあっ!」

 ベナーグの刀身が分かたれ、さながら口を開けた蛇のようにマグナアウルに襲い掛かる。

スワロー()!」

 腕を振りながら大量の剣を出現させ、こちらに迫る鞭剣状態のベナーグの刃を弾き飛ばし、その隙にマグナアウルは自身の準備を整えた。

シュービル(対物ライフル)

 もはや爆音と言うに相応しい大音声がしたと同時にマグナアウルがその場から数メートル後退し、放たれた大きな青白い弾丸を前にクドゥリは手を翳すも威力を軽減させるどころか軌跡を変える事も出来ず、直撃によりバランスを崩して地面に叩きつけられてしまった。

「うざったいんで地面に降りてもらうぞ」

 ライフルを投げ捨て、マグナアウルは倒れたクドゥリに近付いた。

「……クックックック、そう来たか……うぅ、なるほど考えたな」

「絡繰りを見破ったか」

「お前の放つ弾丸に妹達の能力が効かないと聞いた時、私は圧縮された超高エネルギーによる塊を飛ばしているのだと思っていた。だが実際喰らって分かった……その弾丸、半物質だな?」

「ハハハッ、正解だ。俺が放つ弾は半分はサイコエネルギー、半分は物質で構成されている。だからお前が操れないのも無理はない」

 薄い色をした血が滲んだひしゃげた装甲を見たクドゥリはニヤリと笑い、傷付いた体と装甲を回復させて半身を起こした。

「何が可笑しい?」

「いやなに、こんなにも滾る相手は久しぶりだったものでなッ!」

 秘かにライフルモードにしていたベナーグを向けると、マグナアウル目掛けて乱射した。

「っと!」

 初弾から三弾目はバク宙で回避し、四弾目以降はマントを展開して身を包んで防御した。

ピーコック()、そして……レイヴン(サブマシンガン)!」

 大量に放たれるクドゥリのビーム弾を盾で防ぎつつ、盾の上側から弾幕を張って牽制する。

「撃ち合いか! もっと撃ってこい!」

 盾を浮かせてショットガンを生成し、マントで自身を守りながらサブマシンガンと合体させた。

「ッ!」

 直接被弾こそしなかったものの、ビーム弾が掠めた感触がする。

「貫通しやがった」

 盾の端が抉れており、マントに穴が開いている。

「どうしたもう終わりか!」

「なわけあるか!」

 合体銃で目の前のボロボロの盾を撃ち抜くとクドゥリに向かって飛んでいき、クドゥリは回避したものの背後で炸裂した衝撃波をまともに喰らい、その隙に合体銃による掃射を喰らった。

「ッ! ハッ!」

 ベナーグをライフルから鞭剣に変えると全弾弾き返し、合体銃を弾き落とした。

「クッ! オラッ!」

 フック付きのチェーンを射出してベナーグと絡めると、こちらに引き寄せた。

「近くでやりたいのか、いいだろう!」

 ベナーグの刃の光がより強まると同時にチェーンが赤熱して千切れ、刃を連結させたクドゥリがこちらに向かって飛び込んできた。

「ぐっ!」

 薄紫色の光がこちらに迫り、一旦両腕で防御した後で後方に跳躍しながら先程取り落した合体銃を引き寄せる。

「黒翼乱舞ッ‼」

 (ヘルム)の目をはじめとした装甲の各部位が青白く輝いてより強く輝きを放つ光弾が射出され、それを見たクドゥリはベナーグを両手で構えて真正面から迎撃した。

「斬っただと⁉」

 黒翼乱舞によって放たれた必殺級の一撃を切り裂く事で難なく無効化したクドゥリは一瞬のうちにマグナアウルに肉薄し、マグナアウルも先程空中戦で生成した大量の剣のうち二本を引き寄せて交差して防御する。

「認めるよ……お前は強い、只者じゃないってな!」

「残念だが、今そう認識しても手遅れだ!」

 ベナーグの刀身がより輝き、同時にマグナアウルの刀身が赤熱して溶け始めた。

「クッ!」

 一度押し返して溶けた剣を捨てると、持っている剣の刀身を撫でてサイコエネルギーを込めて再びクドゥリと打ち合った。

「そんな芸当も出来るのか! いいぞ! いいぞ! 滾る!」

 薄紫と青白い光の軌跡が何度も何度も交差し、激しい火花で夜闇を照らす。

 渾身の一撃をぶつけ合い、続く剣戟で鍔迫り合いに持ち込んだ。

「……」

「どうした? 焦りが見えるぞ」

「それはお前の焦りだよ」

 とは言うものの、マグナアウルは内心焦っていた。というのもサイコエネルギーに長時間武器を晒すとそのうち劣化して使えなくなる。

 よって剣での戦いを長時間続ける事は出来ない。

(どうする? 考えろ)

 (ヘルム)の内側で眉根を寄せ、マグナアウルは次の一手を必死に考えるのであった。


 一方クインテットと三姉妹は以前以上の乱戦となっていた。

「せいっ!」

「ハッ!」

 ミューズの戦斧とガディの大剣がぶつかり合い、再びここに因縁の対決が行われようとしていた。

「武器を少し変えたようね」

「ええ、あんた達のおかげで足りないもの気付けたわ」

「だからどうしたというの? 補った所で私達には……」

「無駄口叩いてるヒマがあるの⁉」

 戦斧の刺先(スパイク)部分から光弾が射出され、ガディはそれをまともに喰らってよろめいた。

「このっ……卑怯者!」

「さっき動けない私達を一方的に攻撃しようとしたあんた達にだけは言われたくないねっ!」

 戦斧を銃のようにして構えるとガディを狙い撃ちし、ガディも能力を使いつつ回避していると、ふと背後から気配がした。

「ッ!」

 咄嗟に太刀を受け止めたものの、しゃがんだままの状態で頭上で受け止めてしまったが故に、全く身動きが取れなくなってしまった。

「どう? ナイスタイミングだった⁉」

「ええ、バッチリ!」

 ミューズは一度腰のスイッチを押し込んでチャージすると、戦斧のスパイクをガディに向けて引き金を引いた。

「くっ!」

 ガディは身構えたがしばらく経っても衝撃が来ず、目を開くと電磁障壁に閉じ込められていた。

「……きさ、うぐっ!」

 能力の無効化を貫通するほど強烈な痺れが襲った。

「すぐあんたの相手をしてやるから、そこでおとなしくしてて!」

 閉じ込められたガディは歯を剥きだしてミューズとルナを睨むのだった。

「やっ!」

「ッ!」

 撃ち合いの最中に割り込んできたルナにジェサムは思わず後退した。

「お前は確か……まさかガディ姉さんを!」

「残念だけどやれてない、まずはあんた達妹からやる!」

 太刀の斬撃と、その隙間を縫う様に飛んでくる実弾に回避が得意なジェサムでも苦戦する。

「助かったよルナ、どやって大剣ねーちゃんを縫い留めたん?」

「ミューズの新武器の機能でね、私も遠距離武器使おうかな」

「ウチがいるじゃん」

「そうだね、行くよ!」

 太刀とライフルを構えたルナとイドゥンは一気に近づいて仕掛け、銃では不利と判断したジェサムはバトンに変えてルナと切り結ぶ事にした。

「どうやらあんたは回避と射撃専門らしいけど、それがいつまで保つか試してあげる!」

「人間如きが! 例え不得手だろうと我々と貴様達とは根本的な差があると知れ!」

「段差一段でイキがんなっての!」

 執拗に距離を詰めて攻撃してくる両者に、ジェサムは徐々に追い詰められていく。

 そしてザリスの方は鞭剣により他を寄せ付けない攻撃をしていたが、互いに決め手に欠けている状態だった。

「流石に学んで寄せ付けてきませんね!」

「どうにかして打開できないかな⁉」

 そこにマゼンタの光弾が飛んで来てザリスの頬を掠めた。

「ッ! ……これは!?」

「ごめん! 遅くなった!」

「大剣持ちは!?」

「しばらく閉じ込めてある! だから今のうちにやるよ!」

「ガディ姉さんをよくも!」

 ザリスの鞭剣の攻撃がより苛烈になったが、対応するべき相手が三人に増えたことで精度は明らかに落ちていた。

「二人とも合図したらフルで撃って!」

「うん!」

「はい!」

 ミューズはある程度攻撃をいなしながら、ザリスの集中力と体力が途切れる瞬間を狙う。

「今だっ!」

 三人が一斉に腰のスイッチを二度押し込み、ミューズはスパイク弾、デメテルは高威力ビーム、アフロダイは光の矢をザリス目掛けて同時に放った。

「!」

 全ての光弾が自分の鞭剣の隙間を縫って飛んで来た事で、ザリスは目を見開いて驚愕した。

(どれ⁉ どれから先に対処すれば⁉ 赤か⁉ 黄色か⁉ 紫か⁉ 無効化した所で貫通され……)

「ああああああああっ!」

 対処が遅れたザリスは三つのビームの直撃を喰らい、大きく後方に吹き飛んだ。

「絡繰りが分かったよ」

「何の絡繰り?」

「前私達が攻撃した時殆ど通用しなかったでしょ?」

「そうですね、そこに絡繰りが?」

「うん。あれはね、三人揃って近くに居た状態で能力を使うことをかなり意識しないとできないんじゃないかな」

「でしたら今このように三人分かれてるということは……」

「強い能力を使えないって事だね!」

「くっ……ぐぅっ!」

 光弾やビームの直撃を喰らったザリスはかろうじて立ち上がり、鞭剣を振りながら怒鳴った。

「そんなことを見抜いた程度で! 私達に勝てるとは思わない事ね!」

 後方で電磁障壁を破ろうと藻掻いているガディを一瞥し、ミューズは戦斧を構えた。

「もうすぐで脱出される、だから急ごう」

「わかった、ケリをつけよう」

「援護します」

 再びしなる鞭を前に、三人は走り出すのであった。


 ついにマグナアウルの剣が劣化に耐え切れず根元から折れ、マグナアウルは咄嗟に新しい武器を生成した。

クレイン()!」

 投槍(シュライク)とは異なり、この槍はしっかり両手で持って戦うような設計になっていた。

「槍か! 面白い!」

 再び勢い良く刃をぶつけてきたところを槍の柄で防御するも、徐々に接触点が赤熱していく。

「ハァッ!」

 クドゥリの足を狙って槍を突き、足を引っ込められて躱されるも、突き刺した槍を軸に体を浮かせて頭に蹴りを入れた。

「くおっ……フハハ、私の頭を蹴った無礼者はお前ぐらいなもの……だッ!」

 仕返しとばかりにクドゥリは槍ごとマグナアウルを蹴り飛ばし、あまりの威力に槍は曲がり、マグナアウルも吹き飛んで墜落した輸送船にぶつかり、クインテットと親衛隊との乱戦が行われている所に戻ってきてしまった。

「ああっ……くっ……なんて威力の蹴りだ」

『京助、もし勝てないと判断したならば……』

「バカ言え、誰が今更しっぽ巻いて逃げるかよ」

 立ち上がろうとした所にクドゥリが追いつき、後ろからベナーグを首に絡ませてマグナアウルを無理矢理起こした。

「マグナアウル!」

「おおガディ、可哀想に。今出してやろう」

 クドゥリが腕を振るとガディを囲んでいた電磁障壁が消え失せ、ガディはニヤリと笑って大剣を取る。

「残念だったなクインテット、こいつでも私には勝てなんだ」

「まだ勝負はついてない……」

 巻き付いたベナーグを一瞬緩め、クドゥリはマグナアウルをこちらに向かせて頭を掴んだ。

「お前の幸運は力があったこと、だからお前は復讐の道を往けた。そしてお前の不幸は自分より強い者が居なかった事だ。この私に会った事を絶望しろ!」

 クドゥリの手により力が籠められると同時に、マグナアウルの装甲がまるで紐を解くかのように少しずつ消失し始めた。

「うっ! ……何だこれ⁉」

「ざっと五百年前だったか、アバター使いを殺す方法を学んだんだ」

 クドゥリの腕を掴むも顔から手が全く離れない。

「アバターは魂にリンクして三次元宇宙に顕現している。要はそのリンクを断ってしまえばアバター使いは元の脆弱な肉体に戻る! 正体を暴いてから殺してやろう!」

 アバターを剥がそうとしている、それに気付いたマグナアウルはより強く抵抗を始めた。

「こいつの正体を暴いた後はクインテット! お前達の番だ! よく見ておけ!」

 マグナアウルを地面に押し倒し、アバターが剝がれていく速度が上がる。

「正体を明かし! 最も悍ましく痛ましいやり方でお前を殺してやろう! こいつらの目の前でな!」

 マグナアウルの手に力が入り、クドゥリの腕の骨が確実に折れる音がするも、全く意に介さず頭を掴み続けている。

「フフフッ、その程度すぐ治る。足掻け足掻け! もはや何をやっても無駄だがな!」

「……からな」

「何? 何か言ったか」

「どうなっても知らんからな!」

 その瞬間、クドゥリの腕から黒い炎が上がり、初めて味わった言い表せない感覚にクドゥリは思わず飛び退いた。

「――――――――――‼」

 それがある種の痛みであることを認識した途端、声にならない絶叫を上げていた。

「お姉様!」

「そんな! 何が起こったんですの!」

「貴様‼ お姉様に何を!」

「初めて生きてるモノに使った……効果は絶大のようだ……なっ!」

 不安定になった体を叩いて無理に元に戻してから、マグナアウルはその辺に落ちていた曲がった槍を引き寄せようとするも、両目の焦点がそれぞれ合わないことに気が付いた。

(体が不安定になってやがる。このままじゃ戦えねぇ……仕方ない)

「くっ……ハッ!」

 なんとか黒い炎を自身の力で消し飛ばしたクドゥリだったが、マグナアウルに握り潰された腕は再生せず、それどころかどういう訳か上腕まで粉々になっており、服の上からではあるものの明らかに皮膚から骨がはみ出していると分かる。

「貴様……今のは何だ?」

「知らんな」

「ふざけるな」

「本当に知らないんだ、これが具体的にどんな力なのか。ただ一つ言えることはこいつに触れたモノは確実に跡形も残さず消え失せるって事だ」

「……そうか、それで今までお前が来た場所には何も残らなかったのか」

「それにしてもいいのか?」

「……何がだ?」

「アレはな、俺の武器に仕込める」

 マグナアウルはフェザーダーツを一本取り出してペン回しのように回して見せる。

「輸送船を撃ち落としたあの瞬間、アレを仕込んだダーツをばら撒いておいた」

「!」

「基地に帰らせちまって良かったのか? ランダムなタイミングで爆発するから気をつけろよ」

 腕の痛みに顔を顰めつつクドゥリは立ち上がって怒鳴りつけるように言った。

「ガディ! ザリス! ジェサム! 先に帰って生還した兵士全員を隈なく点検しろ!」

「はっ……はい!」

 ワープで三人が消えたのを確認したクドゥリは手を翳して治癒を試みたが、より強い刺し込むような苦痛を感じ、脂汗を浮かべて歯を食いしばった。

「覚えていろ、明日同じ場所で決着をつけるぞ」

「……いいだろう、次こそお前の最期だ」

 簡易ワープ装置を起動したクドゥリは消えながらマグナアウルを睨みつけた。

「屈辱は必ず……わが名に懸けて晴らす」

 頭を抱えるマグナアウルにクインテットが駆け寄ったが、マグナアウルはそれを手で制した。

「近づかない方がいい、リンクをめちゃくちゃにされたせいで俺の体はおかしなことになってる。下手に近寄ると君たちを傷つけてしまうかもしれない」

「じゃあ聞かせてください、あの話は……」

「もしそれが可能だったら俺は始めからやってる」

「え? ハッタリって事⁉」

「そうだよ、奴らがバカで助かった。まあ以前に似たような事を実際にやったのでな、嘘と断じる事も出来なかったんだろうが」

「でも一日延びただけじゃない! 何か作戦はあるの?」

「さあな、まだ考えてない」

 それだけ言うとマグナアウルはその場から消失してしまった。

「考えてないって……彼何考えてるの⁉」

「考えてないんでしょそれこそ……」

 この場でただ一人ミューズ(奏音)だけが別の事を考えていた。

「明日……大丈夫なのかな?」


To Be Continued.

ついにやってきたぞバーニャラ・クドゥリ。

悪の組織の幹部お姉さんがその魔手をついに地球へ向けます。

強力な存在である彼女にマグナアウルやクインテットは勝てるのか、そして京助と奏音の初デートの行方は?

次回で第一章が終わります。

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ではまた来週もよろしくお願いします。

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