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青春Double Side  作者: 南乃太陽
遭遇編
10/37

You've got a friend in me.

デートの約束を取り付けたは良いものの、お互いに着ていく服がない。

奏音と京助はそれぞれの友人に協力を仰ぎ、服を買いに行く事に。

勝負服を無時入手できるか?

 クドゥリの親衛隊の三人と激闘を繰り広げ、見事勝利を収めて帰宅した奏音は新しい戦いに挑もうとしていた。

「うぅ……あああぁ……」

 京助との個人チャットを開き、メッセージバーをタップし、キーボードを表示しては消すという行為を繰り返している。

「ううううぅぅぅっ!」

 一世一代の初勝負、ベッドの上で額にスマホを当て、ごろごろと転がって悶絶しながら唸っていると、部屋のドアが勢いよく開いた。

「ちょーっと! 奏音ちゃん! どうしたの⁉ お隣の矢口さんから苦情来るよ!」

「入らないでよぉ!」

 あまりにうるさくしすぎたせいか、母の和沙が文句を言いに来た。

「なんでいきなり唸ったの⁉ まさかと思うけど怪我じゃないわよね?」

「怪我じゃない……」

 ぐしゃぐしゃになった毛布に顔を突っ込んで、奏音は半ば唸るように言った。

「じゃあどうして唸ってるの?」

「言いたくない……」

「そう言われてもアンタ……んん?」

 ぐしゃぐしゃの毛布の隙間から覗く真っ赤な耳を認めた和沙は、何故娘が唸っているかを一瞬で理解した。

「キミィ、素直な子に育ったねぇ」

「どういう事ォ……」

「母さん嬉しいよ、なんていうか悪いことするように育つより、夜中に唸ったりする方がよっぽどいいわ。でももう少し小さく唸りなさいね」

「うん……」

 部屋を出ていく直前、和沙は小さく言った。

「恋は一瞬! その刹那刹那が勝負だからね!」

 まるで糸に釣られたかのように奏音は起き上がると、舌を出してサムズアップをして逃げ出した和沙を追いかけた。

「ちょっ……お母さん! それどういう意味ッ!」

「ガンバんなさーい!」

 一瞬で何に悩んでいることがバレた奏音はその場にへたり込んだが、ゆっくり立ち上がると髪の毛を逆立たせ、自身のスーツのエナジーストリームラインと同じマゼンタのオーラを発しながら叫んだ。

「ああこうなったらやったる! やってやる! やってやんよォ! 私だって女だ! それに地球を守ってんだ! 幼馴染彼氏一人! 休みの日にデート誘うぐらいなんでもないわ! うおおおおおおっ!」

 自室のベッドに転がり込んでスマホを取ると、高速フリックで文章を紡いでいく。

「うおおおおっ! 送ッ! ()ぃん……」

 自信を奮い立たせた謎のオーラもそこまで時間は持続しないらしい。

「送っちゃった……送っちゃったよ……」

 いい事なはずなのだが何か猛烈に取り返しのつかない悪い事をしている気分になり、送信取り消しをしようとスマホを見ると、既読がついた。

「ヒィッ!」

 そんな奏音の人知れない戦いが繰り広げられている所から少し離れた千道邸……から更に数十キロ離れた山の頂上にて。

「いやったああああああああ‼ アオオオオオオオン!」

 まるで狼のように月夜に吠える京助の姿があった。

 嬉しさのあまり自室のベランダから飛び出して高速で飛翔しながらここまで来たのだ。

「ウィィィィィィイイアァァァァ! ザ・チャンピオン! マイフレェェェエエエンド‼」

 人差し指と小指を立てた手の形を作って熱唱しながら、この瞬間はもう誰も自分を止められない、京助は本気でそう思っていた。

『あの……京助?』

「ノォォォォタイム! フォォォ! ルゥゥゥゥウウザァァアアアッ‼」

『落ち着いて……』

「やったあああああ! 俺は最強だぁぁぁあああ!」

『いい加減にしなさいッ!』

「ぎゃおおおおおっ!」

 左腕から電流が流れ、京助は地面に倒れた。

「いてて……何すんだよ、痛いじゃねぇか!」

『浮かれすぎです、どんな浮かれポンチですか』

「これは浮かれずにいられるかってんだ!」

『まるで狼男ですよ、あなたは梟男でしょう』

「狼と梟、狼の体に梟の頭……アモン! ソロモン王が封じた七十二の悪魔のうち七番目! 四十の軍団を率いる地獄の最強の戦士にして侯爵! 俺はアモン! 即ちデビルマンだ! マグナアモンに改名しようかな、語感悪いな、やめよ。アモンアウル……これもナシだ」

『ダメだこりゃ……もう話が通じない』

「もう誰も俺を止められねぇ、無敵だ」

『だったら奏音さんに返事をしたらどうです?』

「っとそうだった」

 指を鳴らすと京助は千道邸の自室に戻っており、急いでスマホを取ると、このわずか数分の間に三件の不在着信と二通のメッセージが追加されていた。

「『ねぇ』『待って』お、新しく来た……『ホントに待って』、待ちませぇーん」

 キーボード配列のキーボードで素早くメッセージを打ち込み、相手の入力中の表示にもお構いなしに、何の躊躇いもなく送信した。

「ぜひ喜んで……っと」

 一秒もかからず既読がついたものの、それから入力中の表示が消え、数分してからビデオ通話が掛かって来た。

「ハッルォォ~! マイハニィー!」

『……』

 浮かれまくってハイテンションの京助に対し奏音は何もしゃべらず、なおかつ目の前に映るのは毛布に全身を包んで隠れているであろう奏音だった。

「ちょっとどうしたんだよオイ、顔見せてくれ」

『うぅぅ……』

 相変わらず毛布に包まれたまま、真っ赤になった顔の上半分だけを覗かせていた。

「ああ……なるほど、把握した」

 相当勇気を振り絞ってメッセージを送ったらしく、奏音はこちらから目を逸らす。

「まあその~、そうだな。まず言わせてくれ、ありがとう」

『うん……』

 口が毛布に包まっているためか、声が遠く少々不明瞭である。

「返事は勿論イエスなんだけどさ、いつにするかを決めないか?」

『……きめる』

 その前に未だ顔が真っ赤なのを気にして隠れたままの奏音を何とか説き伏せ、毛布から出てきてもらった。

「あっ……おお……」

『あっ! 胸見た!』

「いや見てない、多分見てないと思う、見てないんじゃないかな? 見ました、ハイ」

『見てんじゃんバカ……』

 何故か少し微笑んだ奏音を見て、京助は少しホッとしたのであった。

「じゃあどうする? 俺基本土日空いてるけど」

『私も土日ならいつでも』

「じゃあ明日の土曜日にする?」

『え、あ、明日⁉ そうじゃん! 明日土曜日!』

 これまでの激闘ですっかり忘れていたが、明日は待ちに待った休日である土曜日だった。だがこればかりはありがたくない、流石に翌日にデートするのは心の準備が出来ていない。

「ああ、じゃあ日曜にする?」

『にちぃ……よぅ……』

 たかが一日延びただけだ、これでは大して変わらない。

「でも日曜だったら泊まれなくね?」

『泊まっ⁉ ……とととと』

「トメィトゥ」

『ブフフッ……ねぇぇぇぇ! 笑わせないでぇっ!』

 本気で照れてる際にしょうもないギャグ未満のなにかによって不意打ちで笑わされた奏音は、訳が分からなくなったのか画面越しで暴れ始めた。

「ちょちょちょ! 落ち着けって、なぁ?」

『バカバカバカ! 人の気も知らないでぇ!』

「ごめんごめん、悪かったって! 俺も舞い上がっててさ、ごめんって」

『舞い上がってたって……嬉しかったって事?』

「そりゃもちろんだぜ。こんなにカワイイ彼女に休日デート誘われたら誰だって舞い上がるに決まってるだろ」

『そう……だったら特別に許してあげる』

 とりあえず許されたようだ。

「んで話を戻すとどうする? 明日嫌なら明後日とか?」

『あぅ……そのぉ……私から誘っといてアレなんだけど……来週は……ダメ?』

 京助の口角が下がったのを見て、奏音は声にならない声を上げた。

『だだだだって……明日とか、その……私が無理だし心の準備ができて……』

「いいよいいよ、まあ初デートだし良いものにしたいって気持ちはわかる。心の準備は大事だ」

 奏音はほっと胸を撫でおろし、申し訳無さそうに片手で合掌した。

『ゴメン!』

「じゃあ来週として、どっちにする? 土曜? 土曜だったら泊まれると思うけど」

『だからなんで泊まるとかの話になるの!』

「なんで今更! 俺ん家に泊った事何回もあんだろ!」

『それ小学生の時の話ね!』

 先程以上に口角が下がった京助を見て、どういう訳かものすごく申し訳ない気分になった。

「泊るのイヤか?」

『それは……やぶさかじゃない』

「別に……その、変なことしないし。しないと思う、しないんじゃないかな? まあちょっと覚悟してくれ」

『私何されるの~……』

「何もしねーよ」

『……』

「むしろしてほしいのか?」

『誘導尋問すぎる! てか言わさないでよぉ……』

「まあニャンニャンするかは置いといて、どうする? 俺も奏音も準備とかあるだろうしな」

『……わかった、泊り行くよ』

「よし、わかった。最高のデートにしよう。俺が約束する」

 泊まりの日程の噛み合いの為、デートの日は来週の土曜日の午前十一時からとなった。

「遅れんなよぉ」

『遅れるわけないじゃん』

「遅れると言えば、集合場所はどうする?」

『ああそうじゃん、どうしよう』

「まとキューの中庭の時計台にする?」

『そうね、そこが分かりやすいかも』

「じゃあそこに十一時に集合って事で……それで肝心な話なんだか、どこか行きたい所あるか?」

『……うーん』

 今のところは思いつかない、というか考えられない。

「高い所予約しとこうか?」

 奏音は冗談かと思って目を見たが、京助の目は一切の戯れがない本気と書いてマジと読む目であった。

『私そんなドレスコードで通れるような高い服持ってないし!』

「あ、そう……じゃあどこ行きたいかだけ考えといて。なるべく早めに教えてくれたら俺も予定組みやすいから」

『今思いつくのは、まとりズーアンドパークかな』

「あぁ~……あそこな、小学校以来行ってないかもな」

『そう? 行こうよ、あそこめっちゃ色々増えたんだよね』

「マジかおっけー、それ視野に入れつつ予定立てとくわ……そんじゃま夜も遅いし、この辺で寝るか?」

『えぇ……あ、もう十二時過ぎか、そうだね。もうやめとこっか』

「それじゃな、ちゃんと寝ろよ! おやすみ、ちゅ」

『浮かれすぎてしょ……』

「なんだ、してくれないのか」

『お……おやすみ……ちゅ……ちゅっ!』

 奏音の真っ赤な顔を見ながら、京助は満面の笑顔で手を振って通話を切るのであった。

「……大成功」

「うぅ……どうしよ……」

 僥倖に浮かれに浮かれる京助、不安と期待から来る胸の高鳴りを抑えきれない奏音。奇しくも二人は同じタイミングでベッドの上に転がっていた。

「どこ行くかな~、トトおすすめスポットとか知らない?」

『過去三年以内に真鳥市内のデートスポットとして利用された場所をリストアップしてパソコンに送っておきます』

「ありがと~、トトちゃんマジ知恵の神~」

『本当に浮かれてますね、このまま飛んでいきそうなレベルです。というか……飛んでますね』

 腕を翼のように上下に動かし、京助は嬉しさのあまり部屋の中をゆっくりと飛んでいた。

「うぅ……どうしよう、こういう時って勝負下着とか着て行った方がいいの? 私……私……大人の階段上る?」

 一度や二度ならずやった妄想が頭の中を駆け巡る。

「あの腕に抱かれて……ん? ちょっと待てよ」

「ふふんふんふ~ん……あ、そういえば」

 もはやシンクロニシティと言えるタイミングで、二人は同じ言葉で同じ疑問を口にした。

「何着て行こうかな?」

 そこからの奏音の行動は早かった。クインテットのグループチャットを開いてメッセージを送った。

『みんな起きてる?』

 既読はすぐ二件つき、林檎と皐月が返信してきた。

『今アンデッド殺してた』

『うん、起きてるよ』

 最後の二件もすぐついた。

『これから寝る所でしたよ』

『眠れなかったからちょうどいいや、どうしたの?』

『実はみんなに協力してほしい事があって……』

 四件の既読の後、麗奈から驚きの顔文字のスタンプが付与された。

『何かあったんですか⁉』

「ああ、なんか申し訳ない……」

『緊急じゃなくてすごく個人的な事なんだけど、いい?』

『ええよ、リンゴちゃんが何でも解決してやろう』

『とりあえず良かったです。どうしたんですか?』

『明日どこかで集まれる?』

『どうしたの? 私は全然いいけど』

『遊び行くんですか? 良いですね! 行きましょう』

『昼ご飯食べる? それで変わるかな』

『ウチは全然おっけーはなまるなんだけど、いきなりどして誘ったの?』

 奏音は悩んだ末、短く一言メッセージを送った。

『一世一代の勝負のために』

 

 それから約十一時間と三十分後、奏音の姿は真鳥駅前のベンチにあった。

「やっほー奏音」

「皐月! ありがと来てくれて!」

 手足のすらりとした皐月は履き古したスキニーのジーンズがよく似合う。

「ホント私服可愛いよね」

「前もそんなこと言ってたよね」

「だって私こういうのしか似合わなくて着れないし」

「かっこいいじゃん、みんな好きって言うと思うよ」

「ホント? ならいいんだけどさ」

「ついでに、皐月に合うかわいい系の服も選んじゃう?」

「いいよいいよ、今回の主役は奏音なんだからさ」

 次に来たのは高いブランドものであろう服に身を包んだ麗奈であり、白い国産のハイグレードな高級車から降りてきた。

「お待たせしました」

「楽しんできなさい!」

 白い高級車から顔を出した満々の笑みの白波博士にぎこちない会釈を返し、奏音と皐月は麗奈を迎え入れた。

「こんにちは二人とも、待ちました?」

「待ってないけど……すごいね麗奈ちゃん」

「麗奈がお金持ちなのは知ってるけど……すごい、海外セレブとか着るやつだよね」

「ちょっと気合い入れすぎちゃいましたかね。久しぶりにみんなと遊ぶとなるとつい……」

「いやいや、全然悪くないよ! ただ凄いって思っただけでさ!」

「オーラっていうか、キラキラが凄い」

 服に着られていない、まさにその服に相応の人間のみが出す輝きを麗奈は出していた。

「そうですか? なら良かったです。奏音さんの服も可愛らしいし、皐月さんもクールな感じでとてもかっこいいですよ」

 キラキラしたオーラを纏いながら繰り出される笑顔に、奏音も皐月もサングラスが欲しいと思わずにはいられない。

「ああもう来てる! お待たせ~!」

 先に来ていた三人を認めた明穂が慌てて走ってこちらに向かって来た。

「ゴメン待ったかな?」

「ううん、ぜんぜん?」

 明穂もいいものを着てきたらしく、フレアーパンツにマリーゴールドのシャツ、そして暗いベージュのベレー帽がなんとも可愛らしい。

「みんな服凄いね……モデルみたい」

「明穂もいいじゃん、帽子かわいいよ」

「ほんと⁉ これネットで一目惚れして買ったんだ!」

 帽子を褒められたのが余程嬉しかったのか、にぱと大輪の笑顔を咲かせる明穂。

「届くのすごく楽しみでさ、届いた後も被る機会無くてさ、今日やっとこれ被って出かけられたんだよ!」

「じゃあ私達が見るの初? だったらなんか得した気分」

「だから今日いい事あるよ奏音ちゃん」

「そう? だったらいいんだけど……そういえば林檎は?」

 四人の背後でガツンという音が響き、それに思わず振り返る。

「おわ……」

「これは……」

「なんというか……」

「す……すごい……」

 目の前に飛び込む黒一色、まるで絵本から出てきたような装いだが、唯一不釣り合いなのがダブルブリッジの大きなサングラス。

「待たせたな」

 そこに立っていたのは大きなダブルブリッジのサングラスをかけて、漆黒のゴシックロリィタに身を包んで日傘を持った林檎だった。

「相当気合い入れた?」

「あだぼーよ、親友の勝負には気合入れてくるのが当然っしょ」

 右耳につけたエメラルドのイヤーカフを揺らしつつ、日傘を振り回しながら林檎は皆に近付いた。

「ねぇ……そのさ」

「なにー?」

「暑くない?」

「うん、正直めっちゃ暑い、だから早く行こ」

「そうだよね、日陰行こうか」

 駅ビルの庇の影に入り、とりあえずベンチに座る五人。

「なんでサングラスかけてきたの?」

「そりゃかけるっしょ。今日ウチらはみんなプロデューサー(Producer)なんだから」

 なぜかやたら発音がいい、そしてプロデューサーだからといってサングラスをかける理由もわからない。

「カノちゃんが勝負するんだから……まあいいや、とりあえず始めよっか」

 林檎は立ち上がり、日傘を天に掲げて宣言する。

「第一回! カノちゃんとセンキョーのデートの為に最高の服を用意しよ~! ぐるぐるー」

 日傘をさしてぐるぐるとまわして閉じ、サングラスをずらしてニヤリと不敵に笑った。

「じゃあとりあえずさ、ここのファッションのお店全部回ろ」

 奏音がクインテットメンバーを集めたのは、皆にデートの際の勝負服を選んでもらう為だったのだ。

「その前に今回の主役の直江奏音さん、代表挨拶をどうぞ」

「え、えぇ。は、はい」

 皐月に促されて前に出て、奏音は仰々しく咳払いをして腕を後ろに回して挨拶を始めた。

「え~皆さん……今回真に私的な理由で集まってくださりありがとうございました」

「いいよいいよ~!」

「親友ですからね~!」

 運動部の応援のようなヤジが飛んで来てなんだか気恥ずかしい。

「只今から、私の勝負服選定会を開始します!」

 四人は拍手と共に立ちあがり、林檎を先頭に駅ビル内部へ赴くのであった。

 

 そして同時期、千道邸では。

「どこに仕舞ったかなぁ?」

 一階の衣裳部屋の内部で、大量の服の中を泳ぎながら京助は目的のものを探していた。

「これかな? これだ!」

 黒い不織布のテーラーバッグに包まれたハンガーを取り出すと自室にアポートさせた。

『服は見つかりましたね』

「ここからが問題だ」

 奥へ進んでクローゼットを開けると中に大量のサスペンダーがぶら下がっており、京助はその中から適当に一本取って自分の胸にあてがった。

「黒すぎる、なし。これは……派手だ、なし。これは最悪だ、デート向きじゃない。何でこんな色買ったんだ?」

 サスペンダーを取り出してはあれこれケチをつけては後ろに投げ捨て、ついにクローゼットの七割のサスペンダーが背後の山となった時。

「……おお! こりゃいいな、古めだけどそこがまたいい! キープで」

 アポートで気に行ったサスペンダーを自室に送り、背後の山となったサスペンダー達を念力で元の場所に戻した後で、箪笥の下の引き出しを開く。

『ネクタイもするんですか?』

「違う、もっといいやつ」

『もっといいやつ?』

「そう、もっといいやつ……これだ!」

 京助が取り出したのはネクタイではあるのだが、先端が剣の形ではなく袋に包まれた飴玉のような形をしていた。

「ボウタイだ」

『蝶ネクタイですね』

「そう、これは正装に外せない紳士の証だ!」

 テーラーバッグに入ったセットアップに合うように慎重に色を選び、最終的に紫がかった黒いボウタイが選ばれた。

「さてさて、まだ入ると良いんだけどな……おっと、シャツも重要。神は細部に宿るのだ」

 薄いピンク色のシャツを取った京助は自室にテレポートすると、今着ている服を脱ぎ捨てながら転送した服を浮遊させて着替え始めた。

「あの時に制服で行くのやめようってなって、レンタルにしなくて良かった」

 このセットアップは数か月前に父の知り合いの大学教授のパーティに出席した時、わざわざ店に行って誂えてもらったものである。

『こんな形になって生きるのは良いんですがね……』

 トトは何か言いたげである。

「まだ入るといいんだけど」

 スラックスにサスペンダーをつけて履き、肩にかけて長さと位置を調節し、慣れた手付きでボウタイを結び、最後にベストとロングジャケットを羽織った。

WO(ウー)、やっぱこうでなくちゃ」

 バッチリ決めて鏡の前で回って見せ、リボン部分を引っ張ってご満悦な京助だが、トトは何か言いたいご様子である。

「どうしたんだトト、なにか言いたそうだけど」

『それ……どうなんですか?』

「……どうって?」

『デートに行くとなった際に良いものを着るという心がけはとても良い事です。ですが高校生でその装いは何か違うと思いますよ』

「何言ってんだ、高校生だろうと初デートだぞ? バッチリ決めて行くんだよ」

『断言します、失敗しますよ』

 せっかく最高の勝負服を選んだつもりの京助は、なんだか水を差された気分でご機嫌斜めになってしまった。

「じゃあどうすりゃいいんだ?」

『無難なものにしておきましょうよ』

「無難ってなんだよ無難って、良い恰好したんだよ俺だって」

『いつも通りの私服でいいと思いますけどね』

「いやいや……それこそダメだろ! 俺達は幼馴染なんだぞ? だから今回のデートで『あ、京助ってこんな一面もあるんだ……』ってならなきゃいけないんだよ! じゃなきゃマンネリ化するだろ? マンネリ化すればすれ違いも増える、それが増えるとお互いに心が離れて……奏音はやがてどこかの馬の骨に……いやだああああ! わあああああっ!」

 突然叫び出したかと思うと体中から電気を放出し、京助は部屋の中で暴れ出した。

「嫌だ嫌だ! 将来俺は奏音の結婚式に呼ばれて、俺以外の男の横で幸せそうに笑う奏音を張り付いた笑顔で見送って! 俺は一人寂しくこの家で引き出物のバウムクーヘンを食うんだ! ぎゃあああああああああ! 嫌だ嫌だ嫌だああああ!」

 画面越しで見た奏音とは比較にならない暴れぶりにトトも止めようがなく、約十分間もの間に京助は体中から放電しつつ部屋じゅうの目につく物全てをめちゃめちゃに破壊した。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 最後に綿と木片が飛び出て、なおかつ一部からは火も出ているベッドの上に着地してようやく暴走が収まった。

『落ち着きましたか?』

「多少」

 ボロボロになった家具やパソコンの欠片がひとりでに動き、本の燃えカスが舞い上がって再び本を形成し、放電によって破れた服の穴も塞がり、部屋の中の物が全て暴れ出す前よりきれいな状態に戻った。

「奏音と離れたくないぃ……失敗したくない……どうしようトト……」

『最近のあなたはどうも……いえ、良い兆候として捉えます。孤独に生きるよりはずっとましですから』

「どうしよう」

『友人に意見を仰いでみては?』

「……その手があったか」

 京助はスマホを引き寄せると『慧習メルクリウス』というグループチャットを開いた。

『おい』

 既読はグループメンバー全員分すぐについた。

『なにー?』

『なんじゃいな』

『どうしたの?』

 即座に次のメッセージを打つ。

『おれんち、集合。飯奢る』

『了解』

『すぐ行く』

『待ってろよ、良い菓子(ブツ)がある』

 

 それから五十分後、千道邸の前には佐川幹人、角田弘毅、長沢圭斗が集まっていた。いわゆる京助にとっての〝いつメン〟である。

「きょーすけくーん! あーそーぼー!」

 もう高校生だというのに、インターホン越しに小学生のような遊びの誘い文句を大声で叫ぶと、インターホンから京助の声がした。

『おお、来たか。もう空いてるし、家の鍵も開けたから入って来てくれ』

 三人は千道邸に入ったものの、肝心の京助の姿が見当たらない。

「おい京助? どうした?」

「京ちゃん?」

「京助どこ……ウオッ! びっくりした!」

『ようお前ら、いま俺二階に居るんだ』

 京助はリビングのテレビに自分のスマホから映像を送っていた。

「見りゃわかるよ、なんで出てこないの?」

『聞いてくれ、奏音とデートすることになった』

「ハァ⁉」

「わざわざ自慢に呼んだんか!」

「留守番を頼みたいの?」

『落ち着け、デートは来週だよ! お前らを今呼んだのは助けてほしいからだ』

「助けてほしい?」

『今俺はデートに着て行こうと思ってる服を着てる。絶対失敗したくないから忖度なしで今着てる勝負服がアリかどうか教えてくれ』

「なんで俺らに聞くんだよ」

『ンなの決まってるだろ。お前らが一番男として信用できるからさ』

 あからさまに三人の態度と雰囲気が変わった。

「あっそう?」

「そう思ってたの?」

「まあお前が? そう言うなら? 手伝ってやっても? いいけど?」

『お前らとダチで良かったよ。そんじゃ今からそっちに行く』

 背後の階段から足音がし、三人が振り返ると、ロングジャケットに蝶ネクタイという装いでバチバチに決めた京助が現れた。

「どうだ? 俺の勝負服」

 沈黙が破られたのは正確に四十三秒後、それを破ったのは幹人の笑い声だった。

「ギャアーハハハハハハハハ! なんだそれお前! 仮面舞踏会にでも行くのかよ!」

 腹を抱えて転がり、床をドンドンと叩く幹人に釣られて弘毅も圭斗も大笑いする。

「ちょっと待て! さすがに気合入れすぎだろ!」

「流石に変だって京ちゃ……あー! ヤバイ! 腹痛い……」

 思った以上の酷評に京助は思わず顔を赤く染める。

「だいたいそれ……いつ着たんだよ! ウヒヒヒヒヒッ!」

「だ……大学教授のパーティーで……」

「ああ、一応ちゃんとした使い道はあったのね」

「まあでもなぁ……コレはなぁ……ヒヒッ」

 未だに腹を抱えて笑う幹人の隣で、弘毅がこっそり京助の写真を撮った。

「コラ! 撮るな!」

 ひとしきり大笑いした後で、弘毅が膝を叩いて切り出した。

「まあいいよ、わかった! 俺達の親友の頼みだ! 初デートの勝負服! 俺らが見繕ってやるぜ!」

「そうだな、でも飯の約束忘れんなよ」

「勘違いすんなよ? オメーの為じゃねーから。直江さんの為だから」

「お前ら……」

 意図せず目頭が熱くなり、京助は一瞬後ろを向いて笑顔で応えた。

「ありがとう!」

「じゃあまずそれ脱げ」

 いったん二階へ引き返し、いつもの外出時に着ているパーカーとジーンズに着替えた。

「もう既にそれでいいと思うんだけどな」

「カッコつけたいだろ。初デートだぜ」

「それより京ちゃんがどんな服持ってるかじゃない? とりあえず手持ちの服はどんなの?」

「ちょっとついて来てくれ」

 衣裳部屋に三人を連れて行くと、大量の服の数々に圧倒され、幹人は思わず「売り場か」と呟いてしまった。

「これ全部買ったんか?」

「全部じゃない、父さんが若い頃のもある。つっても三割ぐらいだけど」

「じゃあ七割買ったの?」

「二割は父さんと母さんが使ってたやつ。あそこの箱に入れてる」

「それでも五割は買ったやつじゃねーか」

「でもこれ使えるかな?」

 初デートに着ていくには微妙なものが多く、良さげなものは季節的に合わない。

「こっからは選べないね」

「どうするよ」

「こうなったらもう……やることは一つ!」

 三人は京助の左腕、右腕、そして肩を拘束し、玄関の方を指差した。

「買いに行くぞ!」

「マジで?」

「そうだ! いざまとキュー!」

 

 京助達がまとりキューズモールに向かう事を決めたのと同時期、真鳥駅ビルのアパレル店の試着室のカーテンが開かれた。

「どうかな?」

 キュロットを履き、シースルーのトップスを着た奏音が緊張気味に四人の前に出た。

「ふむ」

 林檎のサングラスを掛けた皐月が腕を組んで他のプロデューサー達を見る。

「なかなか良くない?」

「確かに、やっぱり奏音ちゃんはスカートかダボってしてる感じのが合うよね」

「シースルーもセクシーですよ」

「つーかサキちゃんプロデュース力高くね? 普通に悔しい」

 林檎が今の服を着た奏音の写真を撮り、元の服に着替えている間に皐月が麗奈にサングラスを渡した。

「今度は私がメインプロデューサーですね」

 何故か主立って奏音をプロデュースする際に、林檎のサングラスを掛けるのがルールとなっていた。

「どうしましょうか、とりあえずここを出て別のお店に行きましょう」

「なんか嫌な予感がする」

「な……なんでですかぁ?」

「レナミちゃんなんかウチらのお賃金でも目玉がトムみたいに飛び出しそうなお高いブランドのお店に連れて行きそうで……」

「そんなことないですよ! リーズナブルに抑えて見せます」

 試着したものを店員に渡し、麗奈は他の四人を引き連れて上階の有名高級ブランド店に入った。

「麗奈ちゃん……私の財布の中身どころか直江家の家計全部無くなって破産しない?」

「だから大丈夫ですって! 私を何だと思ってるんです!」

「まあその……わかった、信じるよ」

 四人は普段着ないようなキラキラした服に感動と辟易と不安を覚えつつ、麗奈のコーディネートを待った。

「終わりました、こっちに!」

 試着室に消えた奏音がどんな格好をするのかと今か今かと見守っていると、やがてカーテンが開いて四人は息をのんだ。

「おわ」

「おお……」

「すっげぇ」

「奏音さんの力強さと優しさを表現してみました」

 全体的に濃いブルーのパンツスーツを纏った奏音に、皆は思わず言葉を失った。

「あれ……みんなどうしたの?」

「その……えっとね」

(どうしよ、この格好めっちゃ火力高い……ヤバ、直視できん)

(なんか変な扉開きそう……ホントにこれが奏音⁉)

(こんなの反則級だよぉ……かっこよすぎる!)

 満面の笑みの麗奈と、ノリノリでそれっぽいポーズを取る奏音に三人は思わず顔を逸らした。

「ま……まあとりあえず写真撮ったから行こ」

 これ以上危険だ、彼氏持ちに横恋慕するわけにはいかない。元の服に着替えた奏音と共に皆は十一階のレストラン街へ向かった。

「何にする?」

「父さんが肉を食べろと言ってましたので、がっつりステーキ系が良いんじゃないんですか?」

「ステーキ……どうしよ、ステーキ昨日食べたんだよね」

「そうですか、だったら別が良いですよね」

「みんな何系がいい?」

「普段なかなか食べれない物がいいよね」

「じゃあ何にするか一人ひとり決めてジャン勝ちで決める?」

 一人一人が案内板の前に立って他メンバーに分からないように店を選び、再集結して全員闘気を滾らせながら自身の手を握った。

「こいつで飯が決まる……」

「勝った者は喰らい、負けた者は喰らわされる……」

「泣いても負けても、一度きり」

 一呼吸置いた後、それは突然始まった。

「最初はグー! じゃんけんポイ!」

 結果、なんと皐月の一人勝ちである。

「ッシャッ!」

 短くガッツポーズした皐月を見て、困惑する者も居れば、悔しがる者もいる。

「なんで?」

「いったい何が起こったんですか……」

「まあ私の勝ちという事で、ではレッツゥ~……ホルモン!」

 皐月は皆を引き連れ、眩しい笑顔でホルモン焼の店に入って行った。

「ホルモンか、ウチ初めて食べるわ」

「林檎ちゃんホルモン焼は初めてなの?」

「そもそもモツを食べたことない、マジで未知との遭遇。飲み込むタイミングも分からないかも」

「大丈夫だよ林檎。ここの店真鳥市の中で上位に来るレベルでめちゃ美味いんだ」

「マジで?」

「うん、星四つ以上ついてるしね」

「じゃあそんな皐月激押しののオススメメニューはどれ?」

 皐月は明穂と協力して皆の食の好みや嗜好を基におすすめを皆に指定した。

「まあ自分のじゃないのとかがおいしそうだったら交換とかしてみて良いと思うし、注文しよ」

 店員を呼んで注文し、待ち時間が勿体ないと林檎がスマホの写真フォルダを開いた。

「これがウチらが選んだ服の数々」

 十数枚の写真には地雷系、量産系、韓国系、和風、果ては何故かパンクファッションのものまで多岐に渡っている。

「うん、まずコレはないね」

 当然の如くパンクファッションは除外された。

「なんでよ」

「初デートに世紀末みたいなファッションで来る女子高生がどこに居んのよ!」

「まあ……そっか。じゃあどれがいいかな」

「そういえばさ、どんな髪型にしていくつもりなの? それに服合わせるの重要じゃない?」

 それも一理あるかと奏音はしばらく考えてから口を開いた。

「いつもより位置高めのポニーテールのつもりかな」

「それも一案として考慮に入れておいて、千道君がどんな髪型好きかって重要じゃないですか?」

「あ~たしかに、林檎その点何か知らない?」

「あ~なんだろ、難しいな。あいつうなじ見えるの好きだから高めのポニテはアリ寄りのアリだと思う。それ以外だとショートボブ好きって言ってた記憶がうっすらある」

「ショートボブかぁ」

「美容院予約しよっかな」

「まあでも髪型に関してはそうだな……多分センキョーの好みがカノちゃんに影響されて形作られたっぽいからそこまで考えなくていいかも」

「それホント?」

「うん、あいつがかわいいって言ってた女優とかタレントの顔の系統、みんなカノちゃんそっくりなんよね」

 皐月と明穂と林檎と麗奈の視線がゆっくりと奏音に注がれる。

「……ふっ」

「ちょちょちょ! ふって何⁉ ふって!」

「幸せ者だね奏音は」

「羨ましいな~、このこの~」

「なに? 金持ちで優しくて顔も良くて、そんで自分の事溺愛してくれる彼氏? めちゃくちゃいいじゃ~ん」

「クジラを釣り上げたみたいなものですね。末永く続いてほしいものです」

 大人数から茶化されて奏音の目はぐるぐると回し、「あわわ、あわわ」と口から漏れ出ていた。

「最高の服見つけようね奏音」

「う……うん……がんばる」

 そうこうしていると注文した料理が届き始め、林檎の初ホルモンの反応を楽しみつつ、皆は舌鼓を打つのだった。

 

 そしてまとりキューズモールの近辺『とんこつしょうゆイハラ』には四人の男子高校生の姿が。

「俺も男だ、奢ると言ったからには奢る。だけど男子高校生の友人の常識の範囲内で……」

「満腹セット」

「チャーハンセット」

「フル餃子セット」

「……お前らホントに覚えとけよマジで」

 イハラのどのセットメニューも千五百円を超過する、これが三人分に加えて自分の分ということは会計時五千円を余裕で超えるのである。

「俺だからいいけどさ、普通遠慮するもんだろ?」

「でも奢るって言ったの京ちゃんじゃん」

「それに俺らは協力する側なわけでさ」

「俺だからいいって事は良いんじゃん」

「あっそう、いいんだなお前ら。今度お前らの番の時泣きを見ても知らんからな」

 三人はゾワリとした、それは怖い。京助はやると決めたのなら絶対にやる人間である、この恐ろしさを三人どころか、クラスメートならみんな知っている。

「じゃ……じゃあもっと安いのにしよっかなぁ?」

「そう、まあ別にめちゃくちゃ腹減りって訳でもねぇし?」

「俺らも鬼じゃねぇからな? 金持ちの友達に集るなんて卑しいマネなんて絶対出来ねぇし」

「物わかりの良いやつは好きだぜ」

 結局四人は学生セットを選び、任意のラーメンとチャーシュー丼もしくはチャーハンを食べた。

「毎度あり! お友達もまた来てね!」

「ありがとうございます!」

「君たちも早食い挑戦してけよ!」

「いやいや、俺らは無理ですって!」

 弦太と由紀に見送られ、京助達は今回の戦場であるまとりキューズモールに入った。

「よし、いよいよこっからが戦いだ」

「まずあそこだな」

「待て待て待て待て!」

 早速高級ブランドテーラーに突撃しようとした京助は皆に羽交い絞めにして止められた。

「なんだよ? 何がダメなんだよ」

「どこの高校生が高級テーラーで服買うんだ!」

「だって勝負服だろ?」

「だってもへちまもねぇよ!」

「カジュアル目に頼むからいいよ」

「そもそも高校生のデートでスーツ着てる時点でカジュアルでも何でもないわ!」

「高級志向から離れろこの大金持ち野郎!」

 三人がかりで京助を引きずり、三人は二階に向かうのであった。

「本当に大丈夫なのか?」

「だいたい考えてみろ、普通の高校生はデート行くとき高級テーラーやらめちゃくちゃ高いブランドの服とか着るのか?」

「そもそも高ければいいって訳じゃないんだよ、いかにお洒落で自分をよく見せるかが勝負なんだからさ」

「うーんそれは確かに」

「なんか腹立つな、自分で言っといてアレだけど」

「じゃあどんなのが普通でなおかつ失敗しないかお前らが教えてくれよ」

「おう、まずはあっちいくぞ」

 カジュアル系ファッションブランドの店に向かい、好感触だろうものを探した。

「この際めちゃくちゃ譲りに譲ってだな、襟は欲しい」

「襟ありね」

「シャツに欲しい? それとも上着に欲しい?」

「とりあえずあればいいかな。あ、あとサスペンダー付けたい」

「さすぺんだぁだと?」

「サスペンダーってなんだ?」

「ホラ弘ちゃんアレだよ」

 圭斗がサスペンダーを引っ張って弾くジェスチャーをして見せ、弘毅は声に出さずとも納得し、そして同時に頭を悩ませた。

「一気に難しくなってきたな」

「あるいはある程度絞られたと考えるべきかな?」

 幹人は唸りながら京助に聞いた。

「ベルトじゃダメなのか?」

「俺そもそもベルトが大ッ嫌いなんだ、まあ変身ベルトなら話が別だけど。学校にもサスペンダーで行きたいぐらいだからな」

「お前筋金入りのベルトアンチだったんだ……」

「何だよベルトアンチって」

「体を締め付けるだけだろあんなん。サスペンダーは見栄えもいい、それ一つでファッションに成り得るんだ。地味な色合いな服でもサスペンダーによって味わいがまた変わってくるだろ? 着た時に体の表面を占める割合がベルトとサスペンダーじゃ違うんだ。そう! サスペンダーは魅せれるんだ! それに引き換えベルトは体が締まる! 飯がまともに食べれない! 分かっていただけたかね諸君? サスペンダーの素晴らしさを」

 いきなり始まったサスペンダーに対する熱弁に三人は呆然とするほかなく、幹人は思わず弘毅と圭斗の方を見た。

「わかった……まあ思い入れは、すごくわかった。俺達も京ちゃんの期待に沿えるように頑張るわ。なんか身が引き締まった」

「そんなにベルト嫌いなら先生に直談判してみればいいんじゃねーの?」

「おお! その手があったか、今度やってみよ」

 とりあえずサスペンダーが合いそうな服はここにはない。三人は別の店舗に向かった。

「このズボン良くね?」

「ああちょっと待ってくれ」

 自宅で見つけたいい感じのお気に入りサスペンダーをスマホに念写すると、三人に見せた。

「なるべくこれと合うのがいい」

「注文多いやっちゃなぁ……これならあのイロチが良くね?」

 スマホで見比べると、色合いは見事にマッチしている。

「ちょっと試着してくる、スミマセーン! 試着良いですか?」

 店員に案内され、裾上げ等の調整をしてもらいすぐに会計に向かった。

「おお、買うの?」

「ああ、結構気に入ったよ。履き心地もとってもグーッド!」

 アプリ会員の手続きを済ませ、引換券を貰って店を出る。

「裾上げに三十分ぐらいかかるらしい、その間他の服を探そうぜ」

 別店舗へ向かい、あれこれ議論と熟考と少しの店員によるアドバイスの末に、殆ど白に近い薄緑色のシャツと藍色のジャケットを選んで購入し、裾上げが完了したズボンを受け取った。

「いや~助かった」

 服選びが終わった四人は、アイスクリームチェーン店のアイスを食べていた。当然京助の全額奢りで。

「助かったわマジで、あと服のバリエ増えた。二重の意味で有難かった」

「ンだよ、一緒にバンド組んだ仲じゃねぇか」

「今年も出ような、再結成だ」

「いいね、今年も出るなら誰か新メン入れない?」

 京助、幹人、弘毅、圭斗の四人は昨年の文化祭で『慧習メルクリウス』というバンドを組み、最優秀ステージ賞という栄光を手にした仲である。

 入学以来仲が良かった四人であるが、バンドを組んだ経験で彼らは真の友と呼べる関係になったのだ。

「新メンかぁ、慧習メルクリウスfeat.ダレダレってな具合でな」

「今度は何歌うか?」

「まあ洋楽二曲と日本の曲何かしらは欲しいよな」

「アニソンとか行く?」

「それいいな! 俺らの世代の特撮ソングも結構ありかもな」

「あ~みんなも歌おう! つってな」

「今年も優勝狙うか!」

 ワッフルコーンを齧りながら、弘毅がそれを掲げて見せる。

「まあそうだな……優勝狙うのもいいけど……俺には目先の問題がある」

「あ、なんだ? お悩み風惚気?」

「ちげーよ、昨日誘われてめちゃくちゃ舞い上がっちゃってさ、でも今こうして準備が一段落したらなんか急にナーバスになって来た」

「珍しいな、京助がイベントの前に緊張するって」

「ヤバイどうしよ、夜何しよう」

「夜ってなんだ?」

「泊りに来るの!」

「おま……それ……おまえ……」

「……やるのか」

「黙らっしゃい! 今そんなこと考える暇もないわ!」

 前髪の白髪部分をかき上げてアイスを頬張りながら、どうしようと一言呟いた京助に、幹人が思い切り背中を叩いた。

「いでぇ……」

「バカお前、ホントのたわけ者だなお前ってやつは」

「なんてことを言う」

「お前告白されたんだろ? 幼馴染から」

「まあ……そうだな」

「だったら直江さんは普段のお前が好きなんだよ! そんな風にフニャフニャしてっとこ誰が見てぇんだ? ん? いつも通りでいいんだよ!」

 京助は目頭を親指で押さえて、長く細く息を吐いた。

「幹人、俺と付き合うか」

「はぁ⁉ 何言ってんだお前!」

「いやいや、一番は奏音だぞ? お前はセカンドパートナーっちゅう事で」

「やめろバカ! 俺はそっちじゃねぇ!」

「冗談だよバカタレ、俺もそういう嗜好はねぇ。でもありがとよ、悩まずドカンと行くわ!」

「いい顔じゃねぇか……行ってこい!」

 幹人と京助が拳を合わせた所に、弘毅と圭斗も拳を合わせた。

「いい報告期待してるぜ」

「リラックスしてこ」

「お前らと親友(ダチ)で良かった」

 京助は来週の勝負に向けて決意を新たにするのであった。

 

 そして奏音は。

「今日は本当にありがと~! 助かったよ!」

 無事様々な服の選択肢の中から一番良いものを選ぶことが出来、とりあえず一安心である。

「良いんですよ、そもそも私何日か前に奏音さんに手伝うって言ってましたからね」

「そうなの? まあ私達は五人で一人だからね。困ってる時はなんだって協力するよ」

「もし私達に彼氏とかできたら、その時は……よろしくね」

「もちろん! 全然アドバイスとかできる事なんでもやるから!」

「いいな~、ウチ絶対そんなこと起こらないし」

「そんなことないですよ林檎さん! 林檎さんなら彼氏か、あるいは彼女も出来ますよ」

「どっちもないと思う……てかまだ三時になってないんだね、このまま解散するのもな……」

 五人は顔を見合わせ、まるで示し合わせたかのようにニヤリと笑った。

「カラオケ、行くか!」

「うん!」

「賛成ですっ!」

「歌うぞ~!」

「行こ~!」

 林檎を先頭に、全員近くのカラオケに走るのであった。

 この時、京助や奏音ら五人は知らなかった。たった今遥か上空に、ある女が怒りを滾らせていることを。


To Be Continued.

今回いつもより二千文字ほど少ないです。

そして初の戦闘ナシ回です、あるいは日常回と言いますか。

でも毎回日常を描いているのでこれだけ日常回とは言い難いのかなと。

本作は京助と奏音の恋愛関係が主軸になっていますが、この二人の周囲の友人たちとの絆も描けたらなと思っていたので、今回はそれにフォーカスしてみました。

さて、次回はデート……なのでしょうか? 何やら不穏な影がありますね。

感想コメント、Twitter(現X)のフォローよろしくお願いします。

ではまた来週!

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