第7話 魔女と犬
タイトルが変わりました!
「キスに至る病」→現在のもの
要望が多ければ元に戻しますが、以後お見知り置きを!
「あのねぇ、ウチはペット禁止だよリコーくん」
リコーが長耳少女にミアナと名付けて数時間後、禁域の魔女の家にて。
腕を組んでふくれっ面の魔女はぶっきらぼうに言い放った。
「待ってくれ、せめて事情を聞いてくれないか」
「事情ねぇ? 街へちょっとお使いにやったらもう女を連れ帰ってくる節操無しにどんな事情があると言うんだい。ドアを開けたら目の前に口を吸い合う男女が居たボクの身になって考えて欲しいものだけれどね?」
「あ、あれはこいつが突然過呼吸になったんだ! 見せつけるつもりはなかったと言うか、そうならないように事前にしておいたのに急に!」
「なるほど、マスクも無しでどうやってここまで連れ帰って来たのかと思ったら。ともかくウチは……」
「あの、いいですか?」
と、禁域の魔女が最後通告を突きつける直前、ミアナはそっと手を挙げ、リコーに自分を地面に下ろすようにジェスチャーした。
リコーが言われるがままに立たせてやると、長耳の少女は魔女にぺこりと頭を下げる。
「わたしはペットではないので、あなたのお家のルールには違反しないと思います」
「ほぉ、じゃあキミは何なんだい。ボクにはスラムから拾って来た捨て犬にしか見えないけど?」
「申し遅れました。わたしはミアナ・リコーズ。リコーさんの妻です」
そして青筋を浮かべる魔女に対し、リコーも初耳の名前で自己紹介した。
「妻ァ⁉︎ テメーやっぱりエルフの馬鹿どもの血を引いてるだろう!」
余計に怒り出した禁域の魔女はリコーに詰め寄る。
「リコーくん、こんな厄介なのはとっとと捨ててきなよ。ロクな事にならないぞ‼︎」
「違うんだ。この子には街に居場所が無くて」
「知るもんか。だいたい、そのエルフの分のマスクはどうするつもりなの? ここで暮らすんだったら必須だよ」
「それは……悪いけど、用意を頼めないか。俺のマスクもお前のお手製なんだろ?」
「簡単に言ってくれるねぇ! キミはそのマスクを街で買ったらどれだけ高価なのかを知らないだろ! ボクは技術を安売りするわけにはいかないんだよ!」
「そこを何とか」
「イヤだね」
魔女は頑なだった。
リコーがどうしたものかと考えていると、ミアナが彼の服をちょいちょい、と引っ張った。
「旦那様、わたしまた息苦しくなってきてしまいました。だからそのぉ……」
皆まで言わず、モジモジとするミアナ。
リコーは全く息苦しそうには見えないその様子にピンと来て、ふぅと露骨にため息をついた。
「あー、仕方ないなぁ。マスクが無いんじゃあ、また俺の口から息を移すしか無いね」
「お願いします❤︎」
「ちょっ、キミたちここでおっ始めるつもり⁉︎」
二人の予想通り、魔女は即座に食いついた。
「だってマスクが無いのでこうしないと呼吸できませんし……」
「俺はこいつを見捨てるわけには……」
「わ、分かったよ! マスクがあればいいんだろ! 一分待ってろ!」
半分悲鳴のような声をあげて、魔女はドタバタとどこかへ走り去った。
彼女は顔を赤くして、明らかに動揺していた。
「やはり、ですね」
「ああ。どうやら魔女は俺たちがキスするのがよっぽど嫌だったようだな」
リコーとミアナは相頷き、グータッチ。
「ところでミアナ、さっき君が名乗った時、名前の後ろに妙な文字が付け足されてた気がするんだけどアレはどういう意味だ?」
「『リコーズ』の部分ですね。これは旦那様のお名前を拝借しまして、所有を意味する離婚不能の呪……」
「所有が、なんだって?」
不安な単語にリコーの片眉が吊り上がる。
素直に全て喋ってしまうつもりだったミアナはそれを見て(あっこれ正直に話すとマズイやつか)と察知し、即座に「ただの名字です!」と切り返した。
「名字? 役所じゃ無くてもいいって言われたけど、欲しかったのか」
「名字があると便利なんですよ! 所有……権、そうですね、所有権を没収されにくくなったりとか! 書類が怪しまれなくなったりとか!」
「所有権の没収? 物騒な話だ。そういう事なら俺も欲しいな、名字」
「あ、あはは。所有権の没収なんて滅多に無いんで大丈夫ですよ。それこそ領主様の機嫌を損ねたりとかしない限りは」
「せっかくボクが動いてやっているのに、何を騒いで貴重な息を消費しているんだ、キミたちは」
ミアナがほっと胸を撫で下ろしたのとほぼ同時、戻ってきた禁域の魔女は茶色い何かをぽいっと彼女の胸元に投げて渡した。
「とっととそれをつけるんだ。もう金輪際リコーくんの口を吸わなくてもよくなる」
「どれどれ……おおー、息が楽です! 旦那様、これ本物のマナマスクですよ!」
ぴょこぴょこと跳ねて喜ぶミアナの顔には革製の口当てが結ばれていた。
両側にひとつずつ縫い付けられている細い皮袋を通して呼吸をする仕組みのマスクだ。
袋がミアナの垂れた長い耳と一緒に動くので、リコーは犬っぽさが増したなぁと呑気に考える。
「ハンドメイド感はマシマシだけど、マナマスクとしての機能はこのボクが保証するよ」
「へぇ、禁域の魔女が熟練の魔術師だって噂は本当だったんですね」
「ああそうさ。だから、キミがリコーくんに小手先で仕掛けたしょーもない呪いの事にも気づいているよ」
魔女はミアナの肩を両手でガシッと掴み、その長い耳元に囁く。
「わたし、え、えーっと……」
「まあ怖がらくていい。ボクはむしろキミのそういう所を買ったんだよ。目的のために手段を選ばない性格の悪さをね」
「え……?」
「さて、リコーくん」
禁域の魔女は困惑するミアナから離れ、リコーの方へ向き直りながら言った。
「キミの熱意には負けたよ。このエルフをウチに置く事を許可する……ただし、条件付きだ」
「条件……?」
「なに、簡単な事さ」
怪訝な表情を浮かべるリコーに、魔女は指を二本立てて見せた。
「コイツにはキミの禁域探索に付き合って貰うよ。たった二人で大袈裟だけど、禁域探索隊の結成さ」
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