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第20話 模擬戦闘訓練

「お、俺がミアナと戦うのか? 言っちゃなんだが、体格差はかなりあるしミアナに怪我をさせたくないんだが……」


 リコーは伺うようにシェイを見るが、硬く頷いたエリート魔術師少女の目はどこまでも真剣だ。


「ナイフと棒切れの差がそのまま体格差分のハンデよ。私の見立てが正しければ、これ以上のハンデがあるとアンタはミアナに勝てなくなる」

「そ、そうなのかな。ミアナはどう思う?」

「ハンデについては旦那様のどんくささを見るに適当なのかなとは思いますけども、シンプルに旦那様を傷つけたくはないですね。そういうタイプの愛は持ち合わせていないというか」

「さりげなく酷いこと言わなかったか今」

「あら、あまり乗り気じゃないの? でも魔女との契約もあるし一回試しとかないと……あ、そうだ」


 何かを思いついたらしいシェイはポンと手を叩き、ミアナにちょいちょいと手招きをする。


「旦那様……」

「行ってきたら? なんか内緒話なんでしょ」


 リコーが促すと、ミアナは渋々といった雰囲気でシェイの元へ。


「ミアナ、私とあなたで取引をしましょう」

「なんですか、わたしがバカだと見て騙そうとしたってそうはいきませんよ」

「まあまあ、とにかく話だけでも」

「……仕方ありませんね。耳の穴から吸精とかしないでくださいよ」

「するわけないでしょ! いい? ゴニョゴニョ……」

「そ、そんな事が可能なのですか⁉︎」

「ええ、まあね」


 耳打ちされた内容に驚愕と動揺の入り混じった反応を見せるミアナに、シェイは得意げに胸を張る。


「た、確かに……!」


 そしてどういうわけか、ミアナはそれで納得してしまった。

 さっきまでの疑り深さはどこへ行ったのだろうか。

 不思議に思うリコーの元へ駆け戻ってきたミアナはナイフをパパパッと弄び、そのまま構えた。


「旦那様、わたしと戦いましょう! 手加減はしませんよ!」

「あ、ああ。君がいいならやってみようか……?」

「よし、じゃあすぐ始めちゃいましょう! わたしはあっちの方に立ちます!」

「私がやめといったら戦闘終了ね。降参はアリだけど、降参せざるを得ない状態になったら私が止めるから安心して」

「分かったよ……」


 リコーは二人に返事をし、戦いたくてウズウズしている様子のミアナから少し距離を取って正対した。


(あんなに嫌がってたのに、何を言ったんだ?)

「それじゃ、構えっ!」


 疑問が解消する前にシェイの生真面目な声が鼓膜を震わせ、リコーは仕方なく棒を軽く構えた。


「初めっ!」

「行きますよ旦那様っ」


 開始の合図と共にミアナはリコーの懐へ一直線に駆けた。


「速っ⁉︎」

「足が速くなきゃ浮浪児なんかできないですから!」


 ミアナはリコーの驚愕に返事をする余裕を見せつつ、背に隠したナイフを素早く振った。


「危ねえっ!」

「あら、避けられちゃいました」


 リコーは身体を捻って凶刃を回避しつつ、手にした棒で反撃を試みる。

 だがミアナに当たらない。リコーより一回り以上小柄な彼女は素早くしゃがみ、横薙ぎの攻撃を掻い潜っていたのだ。


「でもっ、なるほど!」


 ミアナは小さく叫び、ナイフを逆手に構える。


「確かに、いつもより身体が軽いかもしれませんっ!」

「っ!」


 そしてアッパーカットの軌道を描いた刃が、リコーのマスクの留め紐を切り裂いた。

 落下するマスクを空中でキャッチしようとするリコー、しかしミアナが一瞬早い。

 横向きにはたき落とされたマスクは草原のどこかへと転がっていく。


「ひゅっ」


 冷静な時ならいざ知らず、呼吸の一拍が文字通りの致命傷となりかねない高速の戦闘中だ。

 マスクを通していない空気がなだれ込み、リコーの肺が一瞬で機能不全に陥る。


「さて旦那様、観念するのです!」


 勝ち誇ったミアナは両手で持ったナイフを胸元に構え、突進。

 シンプルな直線攻撃に、リコーはギリギリで活路を見出す。


 ナイフを突き出す腕を横から絡め取れたら、一瞬で拘束できるはずだ。

 だが、伸ばした手の先に少女はいない。


「残念、フェイントですよっ!」


 リコーの手に掴まれる直前、ミアナは素早く横にステップして背中側に回り込んでいた。


 がら空きの背中へナイフを突きつければ流石に勝てる。

 そう考えた必殺の一撃。


「これでわたしの勝ち……」


 ミアナは勝ちを確信し、直後に気づく。


 完全に意表を突き、死角に入りこんだはずなのに。

 ナイフを突きつけるべき背中が、とうに振り向いていることに。


「よく、分からねえけどっ……!」


 リコーは酸欠にぼやける意識の中で、しかしハッキリとミアナの動きが見えていた。

 あの日マスクを奪われた日と同じ。

 身体に力がみなぎり、思考するより早く動作する感覚。


「あまり大人を、舐めるなぁっ!」

「なあっ!?」


 リコーが狙い澄まして振るった木の棒がナイフの軌道を逸らす。

 そして彼は驚愕に目を見開くミアナの隙だらけの腕を今度こそ捕まえ、勢いを利用して引っ張って逆に彼女の背中側へと回り込んだ。

 そのまま腕を背中にくっつくように折り曲げて、うつ伏せに地面へ押し倒して間接を固める。


「あでででででででっ!? 旦那様ちょっと本気すぎですってギブアップ! ギブアップですぅ!」

「勝負あり!」


 開始の時と同じ、シェイのキッパリとした声が戦闘の終了を告げた。

読んでいただきありがとうございます!

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