第12話 目覚めのキス
引き金を引いたのは過呼吸に陥っている少女を助けるため。
野生動物など、拳銃の威力と音さえ味わせれば逃げ出すと考えていたのだ。
一羽はうまくいったが、現実としていま目の前には暴れ狂いミアナを殺そうとする人喰い鳥がいる。
(俺が捨て身で割り込めば……)
大盾を持つ手に力が込もる。
(もう一度あの鳥の気を引ければいいんだ。あとは、なるようになれ、だ!)
覚悟を決めたリコーが駆け出したその時だった。
「うおっ⁉︎︎」
踏み出した足が何か太い枝のようなものを蹴飛ばした。
軽くつまづいたリコーはその原因に視線をやって気がつく。
「これは、杖……?」
蹴飛ばしたのは枝などではなく、白銀の金属装飾と青色の宝石がついている杖。
言ってしまえば、その見た目はかなり“魔術の杖”だ。
「ここに倒れている誰かの持ち物、だよな」
リコーは屈み、杖を拾い上げる。
その持ち主は、見れば明らかだった。
「あの女の子っ!」
木の根元に倒れている少女。
今もなお過呼吸で胸を激しく上下させている彼女は気を失っているようだが、小綺麗な服にマントのようなローブを羽織ったその格好は禁域の魔女に似ている。泥に汚れナイフを手に横たわっている男二人の死体よりは何倍も魔術師っぽい。
「……ここは異世界。魔術の銃があるのに、魔術の杖が無いわけが無いっ!」
ほとんど言いがかりに近い暴論。
だが薄い可能性だとしても、もはやそれに縋るしかない。
リコーは杖を手に、過呼吸に喘ぐ少女へと駆け寄った。
少女の目は開いておらず、ただ本能だけが呼吸のためにもがき苦しんでいる。
「そ、蘇生しなきゃ、だよな……」
リコーは文字通り息を呑んだ。
ミアナの言葉が思い出される。
やろうとしているのは面倒を呼び込む迂闊な行動。そんなことは分かっている。
だがこんな事態になったのも、自分が迂闊だったからだ。
「覚悟を決めろ、俺っ」
リコーは自分自身に言い聞かせる。
「何もかも迂闊ならせめて、救いたい全部を救って見せろっ‼︎」
リコーは思い切り息を吸い込んだ。
ガスマスクを通したハーブの匂いが肺いっぱいに広がったのを感じると同時にマスクを取り、少女のそばに屈み込む。
人形のように美しい顔立ちだ。
薄桃色のロングへアも現実離れした艶めきで、意識を失い、生存本能だけで酸欠に喘ぐその表情にさえ育ちの良さが現れているかのよう。
(……覚悟を、決めろって!)
リコーは自分の頭がこれ以上余計なことを考え始める前に、少女のくちびるに自分のくちびるを重ねた。
ミアナにやったのと同じく、自分の吐息を少女に吹き込んでいく。
「……ごほごほごほっ⁉︎︎」
効果は意外なほどすぐに現れた。
呼気を吹き込まれた少女は目を見開き、身体をのけぞらせて激しく咳をする。
「ハァッ、ハァッ、なっ、何が……マナの、匂い……?」
「おい君! この杖使えるか⁉︎」
「うわ顔近いっ! な、なんなのアンタは!」
戸惑う少女に半ば押し付けるように杖を渡し、リコーは背後の人食い鳥を指差す。
「詳しい説明は後だが、君を蘇生したのは俺だ! その代わりってワケじゃないが、あの鳥を何とかしてくれないか⁉︎」
「蘇生って、まさか私にきききっ、キスを……!」
「責任だなんだの話か⁉︎ 後でたっぷり聞くから今はただ魔術を使ってくれ! この拳銃じゃ威力が足りない!」
「ジュウ……? ああ、そいつか」
起き上がった少女はリコーが手にしている拳銃を見てせせら笑った。
「状況は分かったわ。充填式携行魔力小砲、だっけ? そんな低火力のオモチャじゃミツアシサツジンドリ程度に手こずるのも納得ね」
「あの鳥もやっぱストレートな名前なんだな」
「まあ任せなさい。貰ったマナ分の、いいえ、それ以上の仕事をさせて頂戴」
魔術師少女はゆっくり立ち上がりスカートの土埃を払うと、余裕たっぷりに杖を人喰い鳥の背に向けた。
「席次一位、シェイエタ・ハートシープの名前に泥を塗るつもりは無いの!」
そしてただ一言告げる。
「『省略詠唱:結晶砲』」
直後、轟音。
空中に描き出された魔法陣から生成された巨大な砲弾は目にも止まらぬスピードで発射され、人喰い鳥を吹き飛ばし、木々をなぎ倒し、地面をめくれ上がらせて一本の道を作り上げてしまった。
「うわー……」
あんなに苦労したのに、と立ち尽くすしかないリコーの方を振り向いた魔術少女ことシェイエタは、少し怖い笑顔を浮かべて首を傾げた。
「じゃあ、説明してもらいましょうか。色々と、ね?」
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