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叶うのならあの海辺で、君と満月が見れたなら。

作者: 叶葉 葵

初めて制作した作品ですので、あたたかい目で読んでいただければと思います。

ある夜の海辺で一人座って棒付き飴を食べていた。辺りには誰もいない。私一人だけの海。こんなことには何年もずっと来ているせいか、慣れてしまった。

微かな月明かりが水面をきらきらと反射させて、穏やかな風が海の香りをつれて、私の眠りを誘う。

ぼーっと海を眺めていたらもうとうに棒付き飴は溶けきってしまった。私がここにいられるタイムリミットは棒付き飴が溶けきるまで。

また明日も来よう、と思いながら帰路に着いた。


* * *


また今日もいつものようにいつもの場所に座り、棒付き飴を食べる。満月で夜空が綺麗だ。薄くなってステンドグラスのようになった棒付き飴を月に重ねて、望遠鏡みたいに覗き込んだ。視界を下げていくといつもは誰もいないはずの海に珍しく人がいた。私はびっくりして棒付き飴を覗き込むのをやめた。するとさっきまでそこにいた人は見当たらず、白い煙のような光がのびていた。どこへ行ったのだろう?

思わずもう一度、棒付き飴を覗いてみた。今度は白い煙のような光がさっき見えた人に戻っている。やっぱりいた。暗かったし、見間違えたのだろう。ほっとして棒付き飴を再び口に入れた。

しまった。その人と目が合ってこちらへ歩いてきた。

「いつもその飴を持って、ここに座ってますよね。」

いつも?いつもは人なんていないはずだけど。

「はい、そうですけど、」

咄嗟に答えた。

「あなたもいつもここにいるんですか?」


「はい、ずっと。」

そうだったのか、この海辺は広いから少し遠くのところにいたのかな。なんて安直な考えが浮かぶ。


「明日、その飴を一つ僕にも頂けませんか?」

と、微笑みながら彼は言う。特に断る理由もなかったし、聞かれなくても明日も来るつもりだったから

「いいですよ。じゃあ、また。」と快く約束した。


* * *


今夜もここに来るために一日頑張った。

今日は飴を二つ持って座った。

「こんばんは」


「こんばんは、あのこれどうぞ。」

早速約束の棒付き飴を渡す。

「本当にくれるんですか?ありがとうございます」と笑って彼は私の隣に座った。

「そういえば名前、聞いてなかったですよね。私は凪沙って言います。」

「僕は海翔です。凪沙さん…可愛らしい名前ですね。」

「可愛らしいだなんて、ありがとうございます。」

お世辞でも可愛らしい名前って言われて嬉しかった。

そして彼が飴を口に入れる。

「この飴、とても美味しいですね」

「私も大好きなんです。幼い頃、よく遊んでいた子に教えてもらった……?と思います。」

「なんで疑問形なんですか」と彼が笑う。

「いえ、そんな気がしただけではっきりとは覚えていないので、もしかしたら母に教えてもらったのかも…?」

「そうなんですね」

ふと彼を見ると真っ直ぐ前を見て飴を食べていた。


その後も趣味はなんですか?とか、何歳ですか?とかお互いにいくつか質問した。

海翔さんの趣味はこの海に来ることで、年齢は私と同じ17歳。まさか同い年だなんて思わなくて、話が弾んだ。


そろそろ夜も遅くなったので、

「たくさん話せて楽しかったです。ではまた。」

と別れて、家に帰った。


* * *


私はいつしか毎日、棒付き飴を二つ持って夜の海辺に通うようになっていた。

そして飴が溶けきったら帰る、なんてことも忘れてずっと二人で他愛もない話をする。恋バナはするけど、なんとなくお互いのことは深く聞かないでいた。それでもその時が一番楽しいのだ。


朝、夕方は学校に行って、夜は海辺に行く。そんな生活が二年ぐらい続いていた。私と彼はいろんなことを話すうちにどんどん仲良くなっていった。


* * *


今日も同じように海辺に行くと、彼は先に座って待っていた。そしていつも通り飴を食べる。

突然彼は言った。

「好きな人でもできた?」

「えっ、なんで?」

質問に質問で返してみる。

「いや、なんか最初あった時よりももっと可愛くなったなと思って。男かなって思っただけ」

「まあいないけど、ありがと」

「彼氏でも出来たらまた言ってね、相談でも乗るし。僕でもいいよ?」

彼は冗談交じりに意地悪な顔をして笑う。

「え〜?まさか」

その後もたくさん話して家に帰った。


* * *


家に帰ったあと、ふと幼い頃によく遊んだ子をぼんやり思い出した。はっきりしないけど、きっといたような気がする。


* * *


また今日も海翔くんに会いに行くの楽しみだな。そんなことを考えながら浮かれていると、友達に声をかけられた。

「なに、そんなに嬉しそうな顔しちゃって〜!彼氏にでも会うの?」

「違うよ!彼氏なんていないし」

私そんなに顔に出るほど、楽しみなの?


* * *

家に帰る途中、友達に言われたことが頭をよぎる。

確かに海翔くんに会えるのは嬉しい。授業中も学校から家に帰る途中でも、最近はずっと海翔くんのことばっかり考えてるぐらい。私の頭の中では、今日は何を話そうかな?とか、どんな飴が好きかな?とかばっかり。


・・・そっか私、海翔くんのこと好きなんだ。


* * *


海翔くんと会う時に見る横顔とか仕草が、幼い頃に一緒にいた子と重なって、その子のことがずっと気になっている。名前は?いつまで遊んでた?それすら出てこず、ぼんやりとしか浮かばないけど、海翔くんに雰囲気は似てたような気がする。

もしかしたら本当に海翔くんだったりして?なんて絶対に当たるはずのない曖昧な推理しかできない。


「私と海翔くんって、幼い頃に会ったことあったりする?」

そんなことはないだろうと思いつつ、少しだけ期待を込めて聞いてみた。

「えっ。あーえっと、」

すごく慌てた様子で言葉を探しているようだった。

「会ったことあるんだけど、もしかして、僕と昔よく遊んでたの、凪沙ちゃん覚えてるの?」

「覚えてるっていうか、ぼんやりとそんなような子がいたな〜ぐらいで。やっと見つけた。海翔くんだったんだ!」

やっと心のモヤモヤが晴れた。

「じゃあさ、僕が小学二年生の時に……

やっぱいいや。今こうしてるってことは多分忘れてるだろうし」

「いいじゃん、言ってくれても」

「いいや、忘れて!」

彼は笑っていたけど、どこか寂しそうに見えた。


* * *


久しぶりに夢を見た。酷い夢だったな、友達が海で溺れて亡くなった、みたいな夢だった。

夢だった?昔、同じようなことがあったような気がする。

夢じゃない。絶対にあった。しかも亡くなった子は…

海翔くん。いやそんなはずはない、認めたくない。大好きな人が亡くなってるなんて、絶対にありえない。それを思い出してから、いてもたってもいられなくて、あの海辺まで走った。


* * *


海翔くんはいつも通り、座って待っていた。

私に気づいた彼はすぐに優しい笑顔を浮かべる。私は隣に座った瞬間、亡くなってるかどうかなんて聞きたくなくて、思わず口走ってしまった。

「海翔くんのこと大好きなんですけど、私じゃだめですか?」


「えーっと、気持ちは凄く嬉しいし、僕も凪沙ちゃんのこと大好きだよ。でも、ごめん。付き合うとかはできない、です」


「そっか、ごめんね?急なこと言っちゃって。」

「ううん、伝えてくれてありがとう」

その後はいつも通りに戻ったけど、お互いに考え事をしてたのか、あまり話す気にはなれなかった。


* * *


あれほど毎日行っていた海辺に向かって、二週間ぶりに歩いている時、やっぱり聞いておくべき?海翔くんは本当にあの海翔くんなのか。気になってるだけじゃ始まらないのは分かってる。でもそれが本当だったとしたら、これからも同じように過ごせるのかな?なんて疑問だらけだった。


二週間も行っていなかったのに変わらず海翔くんは、あの場所に座っていた。

「久しぶりかな」

「うん、ごめんね。」

大丈夫といって笑う彼。良かった。いつもの海翔くんだ。

「今日はね、聞きたいことがあります。」

「うん?いいよ、なんでも聞いて?」

果たしてこれは本当に聞いていい事なのか分からないし、このままの関係でいいと思ってる。でもあの海翔くんなら、なんでこうしているのか気になる。


「すごく変なこと聞くんだけど、海翔くんって今も生きてますか?」

彼は黙ったまま大きく目を見開いている。引かれた?

「やっぱりおかしいよね。ごめん、忘れて?」

「待って、こっちこそごめん。あの、僕小学二年生の時に死んだんだ。凪沙ちゃんが覚えてるその海翔で間違いないよ」

亡くなってる、?本当に?気づけば涙が溢れていた。

「ごめん、本当にごめん。黙っててごめん。でも別人って訳じゃないし、今まで一緒にいた僕はありのままの僕だし、お願いだから僕のこと嫌いにならないでほしい」

そう言って海翔くんは、泣きそうな顔で私を優しく抱きしめた。

「あの日からずっと凪沙ちゃんのこと、この海辺で見てた。だから話せるようになった時、すごく嬉しかった。」

「もっと早く話せたら良かったんだけどな。遅くなってごめんね。ありがとう」

ずっと見てくれたんだ。

「本当はずっと大好きだよ、凪沙ちゃん。だからこそ僕みたいな人じゃなくて、ちゃんと生きてる人と過ごしてほしい」

でも私は海翔くんとだったから毎日楽しいし、こんなに好きになれたのに。思うことはできても、上手く声にならない。

「そんなに泣かないでよ。僕のこと好きになっちゃうなんて、好きにならなければ良かったのに。」

お互いに泣きながら、彼は私の止まらない涙をすくった。好きにならなければ、なんて言わないでよ。

「僕がまだ生きてたら、僕が凪沙ちゃんのこと世界一の幸せ者にしたかったな」

「私は海翔くんと話せてるし、思い出せたしもう幸せだよ」




* * *


_____好きになった幼なじみは、もう生きてないけど最高に幸せをくれた。


世界で一番好きで、もう一番会えない人。


戻れるならあの日に戻って君を救いたい。


叶うのならあの海辺で、君と満月が見れたなら。

読んでくれたあなたの好きな作品になっていますように。

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