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深海に咲く花  作者: 小柳晴
7/9

6話

朝、目が覚めた。

 寝起きは悪い方ではないが、朝はどうしても苦手だ。

 今日は人生で一番心が踊る日。

 彼女と初めて話せる日。いや、正確には話せる「かもしれない」日。

 その可能性を現実にするべく気合を入れて家を出た。

 春ってこんなにも寒かったっけ。もう少し、暖かいのかと思っていた。って、去年も考えていたような気がする。

 今日の本番は放課後だ。放課後のために学校に来たと言っても過言ではない。

 教室へ向かうために上がる階段がいつもよりも軽い。

 今日も彼女に会える。これから毎日会える。そう考えると更に軽くなっていく気がした。

 クラスの扉の前で立ち止まる。

 扉の取っ手に手をかけた途端、何故か頭の中がすっとクリアになった。

 もしかしたら、昨日の出来事は夢だったんじゃないだろうか。

 彼女と距離を縮めたいと強く思うあまり、幻覚でも見ていたのでは、という気にもなってきた。

 その真相を確かめるべく、深呼吸をし、思い切って扉を開けた。

 教室を見渡すと、昨日と同じ席に彼女が座っていた。

 思わず心臓が高鳴った。なんだか顔も熱くなった。

 本当に彼女と同じクラスになれたんだ。夢や幻覚ではなかったんだ。

 思わず広角が上がりそうなのを隠しながら自分の席へとついた。

「蓮、おはよ」

「おはよ」

「なんか、きょうかっこいいね」

「え、まじ?」

「うん、雰囲気」

「雰囲気だけかよ」

「うん、雰囲気だけ」

 一年の頃と変わらないなんてことのない会話が、いつもと様子が違うであろう自分を、いつもの自分へ戻してくれた。

 しかし、今日の放課後に待ち構えている特大イベントのことを考えると、再び心臓が高鳴った。

 始業式の次の日ということもあって、まだ授業は始まらないため、今日も昼頃に終わる予定のはずだ。

 問題はその後。

 委員会が開かれる場所は、旧校舎の二階。三年三組の教室。

 旧校舎と言っても、なぜ「旧」と付けられているのか疑問に思うほど綺麗だ。 この高校は十年前に別の高校と統合し、その際に新しく校舎が建てられたらしく、校舎は全体的に綺麗だと思う。

 教室の場所を示す際に、どこの校舎なのか区別するために何となく付けられた枕詞のようなものなんだろうなあと、勝手に思っている。

 さて、ガラリと話は変わるが、放課後の委員会のときに彼女と何を話そう。

「入学式の日に一目惚れをしました」なんて言えるわけもないし。

 人と友達になりたいときには、最初に何を話すんだっけ。

 趣味とか、特技とか、好きな食べ物とか、天気の話とかするものだっけ。

 いや、趣味は読書だって自己紹介のときに言っていたか。改めて聞いてしまったら、自己紹介を聞いていなかった奴だと思われてしまう。

 俺は普段本とか読まないし、一体どこから会話を広げればいいんだ。

 部活は、写真部と言っていたな。この高校に写真部があったこと自体初耳だ。

 カメラとかも持っていないし、スマホで撮ればいいのでは思ってしまう。そんなことを言ったら、嫌われることはまず間違いないだろう。

 では一体何を話せばいいのだろうか。

 こんなにも人との会話について悩んだのは人生で初めてだ。

「なあ、話したことがない人と初めて話すときって、お前なら何を話す?」

「んー、そうだなあ、趣味とか、特技とか、好きな食べ物とか?あ、天気の話とかもいいんじゃない?」

「お前に聞いた俺がバカだったよ」

 脳の作りが全て同じなのではないかと疑ってしまうほど同じことを考えていた。さすが、中学一年生の頃からの付き合いなだけある。

 結局、どれだけ考えてもなかなか答えにはたどり着けなかった。

 彼女と何を話そうか、まず話しかける第一声はなんて声をかけようか。と、ぐるぐると考えているうちに、気付けば放課後になっていた。

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