1話
春。どこからか良い香りがする。もう高校生になるし、そろそろこの香りの正体を知りたい。
広い体育館に新入生とその保護者が集まる。少し眠気を感じながらも偉い人の話を聞く。ちゃんと友達できるかな、なんてありきたりなことを考えたりもした。
ここから、高校生活が始まる。
「新入生代表、挨拶」
1人の女の子が席を立ち、舞台へ歩いていく。その場にいる全員の注目が彼女に集まった。
「暖かな風に誘われ桜の蕾も開き始め、私達も全二百名が無事にこの高校の入学式を迎えることが出来ました」
ゆっくりと、抑揚をつけながら読み始める。
新入生代表の挨拶は、入試の成績が1位の人がする。誰かが言っていた言葉を思い出した。
もしもそれが本当なら、今祝辞を呼んでいる彼女は、現時点でこの入学生の中で最も頭のいい人ということになる。
そんなすごい人は果たしてどんな人なのだろうか。少し興味が湧いて、下げていた頭を上げ、舞台へ視線を向けた。
一瞬、息が止まった。
真っ黒だが、どこか透明感のある髪。白い肌。真っ直ぐな瞳。高すぎない鼻。派手ではないが、地味でもない雰囲気。
目が離せなくなった。さっきまで感じていた眠気なんて、どこかへ消えてしまった。
暇そうな同級生がコソコソ喋っているが、今の俺には彼女の落ち着いた声しか聞こえなかった。
「新入生代表、梅田なずな」
挨拶の最後に言った彼女の名前だけが、ずっと頭の中に響いていた。
これは一目惚れだ。
直感的にそう思った。