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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第二幕_手の届く理想

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九十九記_ハグレの隷属者

 ふと首が折れるように曲がり、薔薇の咲く頭がこちらを向いた。刹那、大腕を持った隷属者は鋭く腕を持ち上げ、痩せ細った足のどこにそんな膂力りょりょくがあったのかこちらに向かって突貫してくる。

 剣を抜き放ち盾を構えて前傾姿勢をとった瞬間、左手を強烈な衝撃が襲った。余りに大きな手のひらは盾を覆っているほどだ。腕と盾の拮抗。

 …今のうちに

 相手の力に対抗するため剣に宿る『剛力の紋章』を発動しようと思ったその時。

 相手の指が折れ曲がり、円盾を掴まれた。盾と腕を繋ぐベルト帯がきしみ、左手に強い圧迫感を感じる。やがて相手の力に押され、自分の体が引きずられ始める。

 『一縷いちるかげり生まれ落ちる、紋章解放焼き尽くせ『炎の紋章』よ』

 その最中、詠唱を早口でまくし立てる。そして敢えて相手の力を受け入れた。俺の反抗がなくなった反動でバランスを崩した隷属者に迫ると、炎の宿る剣を振り下ろす。

 その時、顔のバラに隠れる眼と俺の目が合った。

 人の目。大きく見開かれた琥白色の瞳から雫が溢れ、宙を舞う。

 …イタイ。クルシイ。タスケテ

 体全体を袈裟けさ斬ろうとした剣が無意識に横に外れ、巨大な腕と体を繋ぐ連結部位に吸い込まれていった。腕には鋭い切り傷が残る。

 …しまった

 俺は戦慄した。深い傷を得た隷属者は口を大きく開け放とうとしていた。

 …叫ぶ気だ…⁉︎

 後のことは容易に想像できた。俺たちの前にこの路地に潜む隷属者達が集結する ——。

 最悪が頭を駆け抜けたその瞬間、俺の顔スレスレを何かが飛来し、眼前の隷属者の喉に風穴を開けた。

 「悪いけどね。それはさせないよ」

 その間隙かんげきでシャーロットさんが俺と大腕の隷属者の間に入り、大腕で喉元を抑える隷属者の首を刎ねた。

 「大丈夫ですか、新さま」

 彼女が割り入った方を見るともう一人の隷属者が倒れている。どうやら彼女はそれほど苦戦しなかったらしい。

 「…すいません。シャーロットさん」

 そう言いながら、体の硬直を解いて立ち上がる。

 するとバロンがこちらへと近づいてきているのに気づく。彼は俺の横を通り抜けると隷属者となった住民の前で片膝をつく。慣れた手つきで服のポケットからロザリオを取り出し珠の部分を右手に巻きつけると、両手で十字を握って祈る。

 「バロン、それは…」

 俺の口から言葉が溢れ出す。彼はしばらく祈ってから目を開けるとその場で立った。

 「せめてものあがないさ。…彼らも元は住民だったんだよ」

 バロンは余裕のある時は祈りを上げるようにしていると言う。彼は隷属者の肥大化した部分を切り落とすと人の形のある部分を一人一人ズタ袋に入れる。そしてそれを『回収の紋章』の中に「保存」した。もう何十人とやってきているのだろう。手際の良さが彼のこれまでを物語っていた。


 「援護射撃感謝します。バロンさん」

 隷属者の完全な沈黙を確認したシャーロットさんは一礼する。

 「ん、気にしないで。…ていうか君たちホントに十代かい?玄人過ぎるよ。ヒットアンドアウェイじゃなくて超近接戦闘なんておじさんくらいの年の冒険者でも少ないよ」

 銃を仕舞いながら、バロンは呆れていた。しかし、シャーロットさんはハテと頭にクエスチョンマークでも浮かびそうな表情をしている。

 その反応を見て困り顔をした彼は後頭部を掻きながら口を開く。

 「あのねぇ、乱世じゃないんだから命大事にね、二人とも。とは言っても今はそういう人材が喉から手が出るほど欲しいんだけどね。連戦前提の戦い方は一対多数で優位で働くからさ」

 彼はため息をつきながら、手に持つ銃を後ろ腰にあるホルダーに戻そうとする。

 「あの、バロンさんその銃…」

 「君、博識だね。…訳ありだから触れないでくれると嬉しい」

 その時、何やらシャーロットさんがバロンに言った気がしたが小声でよく聞き取れなかった。

 「バロン、ちょっと時間くれるか」

 事態を静観していた楠木が彼に話しかける。

 「どうしたのだい、楠木少年」

 「新の盾が気になってな。さっきの戦闘で大分やられてただろ。この先も隷属者との戦闘があるかもしれない。簡単な修繕をやらせてくれ」

 「じゃあ、休憩だ。近くの空き家を利用させてもらおう」

 路地裏にはいくつか昨日のバーのようにセーフハウスとして利用できるようにライフラインの整えてある家があるらしい。丁度、近場にあるようで、そこで休憩を取ることになった。


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