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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
永世中立都市アガルタ/第一幕_苛烈な歓迎と少女の哀哭

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九十一記_嫌われる覚悟

 ——ニ〇ニ六年、七月四日、早朝

 寝起きでスマホを取り上げて時間を確認する。

 いつもより三十分以上も早い起床だった。

 日本領の都市なら、すでに人工光源がじわじわと光を帯びる時間だ。ただ、今はラビリンスの洞窟地帯の中。辺りは暗闇に満ちている。朦朧もうろうとする中、瞬きを何度か行うといつものように闇に目が慣れていく。寝袋から這い出てそれを畳むと、まだ寝ている楠木をまたいでテントの外に出た。

 入り口に経つとどこからか吹く冷たい風が肌を撫でる。

 …さむっ

 空気に当たっていると急速的に意識が覚醒していく。それと共に鈍かった体の感覚が冴えて行き、体の凝りを意識した。それを解すために両手を高く上げてから肩甲骨を中心に腕を回す。

 おもむろに拠点の端、崖のふちまで歩く。そこからは悠然とたたずむ白と青を基調とした幾何学的きかがくな建築物が見えた。あまりに大きなそれは嫌でも目を引く。

 その建物はアガルタの王宮兼大図書館だ。

 『アガルタにイブを送り届けてほしい』

 アルバートの言葉をきっかけにその都市を調べた結果。アガルタは他国と戦をせず、どのような情勢においても沈黙という名の平等を貫く『永世中立都市』ということが分かった。実世界におけるスイスに近い。ただアガルタはそれに加え、自身の都市で独立運用できるように産業が整備されている。だから、外国に依存せずに国の運営を行うことが可能だ。だから、スイスのように不況に陥った時に法を拡大解釈して危機を乗り越えたり、戦線に加わったりということがない。より完璧に近い『永世中立都市』だ。

 それ故に「永世」ならぬ「永久」と形容する本もあるほどだった。

 現在はロサイズムが拡大する影響を鑑みて、輸出入を禁止。周辺の河川からの渡航も認められておらず、入国には厳しい検査が為されるようになったらしい。実質的な鎖国だ。現に一年半前、ロサに属するアルバートの口から「根城にできない」との言質があった。

 「ふぁ〜あ」

 しばらく、王宮を見据えながら思考に耽っていると呑気に欠伸が耳に届いた。見ずとも声からして誰かは検討がついた。

 のっそりとした足音が俺の隣に来る頃合いで声をかける。

 「おはよう、楠木」

 「おっす」

 楠木は前屈みの姿勢で気だるそうに手を上げながら、挨拶に応える。

 「今日は早いね、いつもなら朝ごはんの準備終わるまで起きてこないのに」

 「お前が朝からごそごぞするからだ。二度寝しようと思っても目が覚めちまってな。仕方ねえから起きた。…なんかあったか、辛気臭えぞ。朝から」

 手を背中に当て体をのけ反りながら、彼は言う。別にどうという事はないいつもの朝だ。そのつもりだった。

 「いや、そろそろイブとお別れだと思ってさ」

 それは不意に出た言葉だった。先ほどまで考えていたのはアガルタという国についてだ。何がきっかけでその言葉ができたのか。不思議な感覚に襲われる。

 「そーだな。でも、黒バラに挑む以上しょうがねえことだろ」

 楠木は足元から手頃な石ころを二、三拾うと右手の中で転がし始める。石が別の石に削られてガリガリという固い音が響く。

 「まあ、泣きつかれるだろうけどな。あいつは何かにつけて『お兄ちゃん』、『お姉ちゃん』だ。まだちっちぇえしな。こっちの事情なんて何のそのって感じだろ」

 その時飽きたのか、楠木は手を垂らすと握っていた石を地に捨てた。

 「納得して貰えるなんて思わない事だ。『捨てる』つもりで毅然としてろ。そうしてると自然と事実を認識する。何言ってもダメなんだってな」

 楠木は眉を顰めて悲しそうにする。目には諦観の色が見え、首を傾げて息をつく。

 「…実体験か」

 「ああ。…ありゃじいちゃんが遠いところに行くって日だった。義勇兵団の作られる少し前の話だ。今でもよく覚えてる」

 その言葉を皮切りに楠木は昔話を始めた。黒バラの際限ない拡大を止めるために結成された義勇兵団。その創設を行うため深層域に行かねばならないその時の話だった。

 『じいちゃんは大切なもん守るために戦いに行かなきゃならん。しばらく帰って来れんかもしれん』

 当時九歳だった楠木はその言葉の意味をすぐに理解した。ただ何度もごねたという。

 何で、と。

 分かった上でそう言った。しばらく問答を繰り返して、それでも埒が明かなかった。ついには彼の祖父は楠木の方を一度叩くとそのまま家を出て行ってしまったらしい。

 「そん時は捨てられたって本気で思ったぜ。そうじゃねえって分かったのはそれから何年か経った後だった。じいちゃんが一時帰ってきたんだ。そんときに話してくれた」

 「人のことを勘定に入れられる年になってから話せってそういうことか」

 時が立って話が通じたということはそういうことだろう。大体、人が他者との対話の上で折り合いをつけられるようになるのは十二歳ごろだ。確かに楠木の意見にも一理があるかもしれない。

 「ああ。俺の予想が違ってイブがさかしくって全部分かった上でってなる可能性もあるけどな…多分そうはならないぜ。だから、全部が終わってから会いに行ってやればいい」

 「考えとくよ」

 俺は楠木との会話を終えると朝食の準備に向かった。


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