表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第四幕_THE GIRL OF HOLY GRAIL

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/191

七十二記_大胆な策謀

 ——同日、昼下がり『ダグラス大森林』

 …あーあ、やってらんねぇよ

 雑兵の一人が文句を垂れる。彼は高給を理由にロサイズムに加入したものの一人だ。黒バラたる『ロザ・ペッカートゥム』への信仰などあるはずもない。そもそもこの宗教団体の教義を大体の信徒は馬鹿げていると思っている。彼のように雑兵の大半は金目当てだ。だから、誰も辞めないし従う。半分仕事のようなものである。ただ活動をする中で壮大な計画が動いているのはそれとなく察知しているが。そんなこと末端が考えたところで仕方がない。彼らは今が生きられればそれでいいのだ。

 …ったく、そもそも何だよ。『黒髪の日本人の冒険者と赤髪の発掘屋テリア』を探せって

 噂じゃ上層域六層の底なしの大穴『双竜の滝』に気を失って突っ込んだらしい。探索不可領域(ブラックアウト)に指定されているようなところに落ちて、生きているわけがないだろう。

 男はそう思いながら、気の乗らない捜索を続けていた。周りの末端構成員とも話したが、概ね似たような見解だった。

 ただ、直属の上司『バルバロイ・ハーロッツ』はほぼ確実に生きていると訳の分からないことを自信満々に言っている。彼らしいといえば、彼らしい。ヤクザ者は自分の持論に絶対的な信頼を持ちやすい。

 …ふっ

 男は心の内で呟きつつもそれとなく、大型のシャベルを振り回し標的を探している振りをした。そうしていれば、サボっていると思われなくて済むし、そこそこの労働で美味い汁が吸えるからだ。

 ただ、蔓や蔦、苔に覆われて一面緑と化している背の高い崖を調べている時、異変が起こった。

 ガッ、ガッ、ガッ、…「 」

 その時、男は崖に向かってシャベルを叩きつけていた。『壁に空いている小さな穴を探している』というそのパフォーマンスのはずだった。 

 ただただ男は驚愕した。手元に固い感触が伝わらないことに。シャベルだけが突き刺さったように飲み込まれている。そして、気づいた。明らかにそこだけが植物の層が薄くなってることに。

 …カモフラージュ

 シャベルを高々と持ち上げて、そこに茂る自然物に叩きつける。そうしていると他の雑兵が寄ってきた。

 「なぁ、お前。さっきから何してんの?」

 「これだよ、これ。ちょっと見てみろよ」

 男が中を見ることを促す。天蓋からの光が僅かにその中を照らし出す。奥の方からは僅かにドドドド…という滝壺特有の激しく流れ落ちる音が聞こえた。

 それから雑兵は生い茂る緑を取り払うとルクス鉱石を用いて探査を行い、不自然に擦れた地面を見つけた。それは誰かが残した生活痕だった。


 *  *  *


 ——ニ〇ニ四年、九月八日、下層域二層『砦/バルバロイの隠れ家』

 一人の男が椅子に鎮座し、もう一人は書類を抱えて立っている。

 「あ、ええ。その蔦の壁に隠されていた洞穴の中に滝壺があり、それを中心とする湖のような場所になっていたとのことで…」

 「それで」

 特段、座る男、バルバロイとしては催促しているわけでは無いのだが、その巨体と低音の声色がただの言葉を増長させ、報告をあげているアウレアはまるで責められているような気分になる。別に彼自体に非がないことは分かっていても、アウレアは萎縮してしまう。

 「…はい。まず、生活痕を見つけ、二日をかけて詳細な調査を行ったところ、それが最近のものと判明。さらには血痕らしきものも僅かながら見受けられました。彼らが生きているのはほぼ間違いないか、と」

 彼は報告書を握りしめて、書かれてあることを即座に精査。震えながらも必要な情報を早口でまくし立てる。

 「なるほどな。アウレア、地図を広げろ」

 「はいっ!」

 小心者の男は壁に収められた無数の地図に目をやり、その中からすぐに目当てのものを取り出す。そして、彼とバルバロイの間にある大きな長机の上に『上層域十一層』の地図が広げられた。アウレアが机から少し後退するとバルバロイは椅子から立ち上がって、地図に向かって前傾になる。

 「ここだと、ほとんどダグラス大森林の端。ルートは二つか」

 …十一層ベトナム領レ支部、十二層アメリカ領ロブル支部

 彼は右手を机から上げると顎髭を右から左に撫で始める。いつも考える時にする仕草だ。

 …あいつ、山神新は完全に格上の俺に逃げる素振りも見せずに立ち向かってきた

 バルバロイが気にしていたのはあの攻防だった。いくらイデア接続者(コネクター)だとしても300以上を跳ね返せることなど稀だ。ただ、あの瞬間。あの刹那の間だけだがバルバロイは確かに戦闘の主導権を新に奪われていた。彼はなぜあんなことが起こったのか、それが気になりこの砦に戻って改めてイデアについて調べた。

 結果分かったのはあの時山神新がやったことはイデア接続者に元来備わる『攻撃予測』を意識的に拡張し、強引に現在から続く未来のことごとくを演算(シミュレート)。その結果、未来を収束させ確定させるというものだった。曰く、『ラプラス』という能力らしい。

 ただ、そんな莫大な演算を行えば、脳に著しい負荷がかかる。脳の寿命を削る行為だ。

 …意識か無意識か、そんなことはどうでもいい。こっからわかるのは山神新という人間は火事場で馬鹿力を発揮するやつか、土壇場でリスクを取れるやつだってことだ

 バルバロイは彼のプロファイリングをしながら、思考する。そんな人間が帰還するなら、どう動くのか。

 メキシコ領は…ない。

 俺たち、ロサが包囲網を敷いたら数で押される。

 十二層に下って、アメリカ領を目指すのは…。いや、これもあいつならないだろう。

 バルバロイは逡巡した。普通ならこの状況で取る手はこれだ。十二層に下って急いでロブルに向かう。ただそれにもロサと鉢合わせする可能性は存在する。そんなこと山神新が気づいていないはずがない。

 帰還ルートとしてすぐに挙げられるものは彼にはしっくりこなかった。バルバロイには新が凡庸な策を取るようにはどうしても思えなかった。

 …ならいっそ、西にある階層間階段で十層に上がるか

 それもないと否定する。滝壺から遠すぎる。この層にいることがバレて数で押されるのが関の山だ。

 …この不利な盤面でハイリスク、ハイリターンを望める場所

 その時地図の左上その端に目が入った。ちょうど付いていた左手で覆われていて見えなかったのだ。手をずらしてそこを見やる。

 空白だった。

 ただそれは不自然な空白だった。そこだけが人為的な切り取り方をされている。目を凝らすと小さな文字が目に映った。

 『|tabulaタブラ rasaラサ

 …探索不可領域(ブラックアウト)

 「おい、アウレア」

 バルバロイは手持ち無沙汰になっていたのか、手弄りをしている彼に声をかける。

 「ど、どうしました、団長…」

 オドオドしているアウレアをバルバロイは手招きして地図の近くまで寄せる。

 「この探索不可領域、何か分かるか」

 「そこは…ああ!そうです!『茫漠蛾の巣窟』です。確か、十層と十一層にある入り口だけが分かっていて…中は探索不可領域に指定されていたような。そこ、ホントに蛾しかいなくて…天敵がいないから年中繁殖でするんです。それで繭の位置があちこち変わったり、巨大な芋虫がうじゃうじゃいるとかで中の地形が把握しづらいんですよ」

 言いながら、アウレアは顔を引きらさせる。

 …それ故の探索不可、か

 ここで山神新の目的を悟った。ハイリスク、ハイリターン。それを満たすのは——。

 巣窟を抜けての上層域十層イギリス領グローリー支部への帰還。

 「アウレア、今から指示を出す」

 バルバロイのその声を聞いた彼はナヨナヨさせていた身を正す。

 「ロブル支部とレ支部近郊に部隊の二十パーセント。十層の茫漠蛾の巣窟の入り口に残り八十パーセントを集中させろ。…念のため、ロブルとレに行くやつには『歪曲の紋章』のスクロールを持たせておけ」

 「かしこまりました」

 アウレアは指令を受けると一目散に部屋から出て行った。バルバロイは徐に後ろにある丸窓から砦を見渡す。

 …元老院(セナートゥス)のジジイども、面倒押し付けやがって

 大男は心中で悪態をつく。自身が彼らの下部組織ということは認識しながらも忌々しさは拭えない。彼らの欲望には底がない。だから、どれだけ満たしたとしても次が欲しくなる。だから、『アンブロシア計画』というおおよそ人が思いつくとは思えないおぞましい計画を立案できたのだ。

 …ま、俺は金で動く人間だ。思想とか欲望なんて知ったこっちゃない。今回もささっと終わらせて仲間と酒でも飲み交わすかな

 バルバロイはそんなことを考えながら、執務室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ