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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第四幕_THE GIRL OF HOLY GRAIL

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六十三記_白の支柱

 ——お前の指南役は『白騎士』だ

 「…ああ、そうだ」

 それは予想外の提示だった。正直まだ隠しておきたかった。シャーロットさんにも冒険者として一目置かれる存在になるまでは秘匿するよう言われている。『白騎士争奪戦』なんてなったら洒落にもならないからだ。

 「まあ、事情があんだろ。なんかじいちゃんも黙ってたらしいしな。…まあ今回はそれじゃなくてな」

 「助かるよ、楠木。それで何?」

 楠木から言質をとり内心安堵しながら、次の言葉を待った。

 「いや、お前。気づいてねえのかよ。シャーロット然りジョージの『四騎士』は紋章…言い方は悪りぃが隷属系の紋章の親戚みてえなもんだ。ならできんだろ」

 …眷属召喚

 そこで思い当たる。ただあれには射程があったはずだ。確か『所有者との距離が三層以内』。脳裏で情報を引き出していると楠木が俺のカードホルダーを差し出してくる。

 「出来なかったら…」

 「そん時はそん時だ。別に呼べなくても利はある。少なくともシャーロットに生存報告にはなる。…多分、離れすぎてどこにいるかまではわかんねぇけどな」

 その時、気がついた。これをあの時…『双竜の滝』の戦闘の最中、意識が戻った際に使っていれば、と。全員無事で逃亡することも、さらには打ち倒すことさえ——。

 …さっきまでシャーロットさんが紋章だってことすら忘れていたから。思い付きもしなかったんだろうな

 「どうしたよ、新。さっさとやってくれ」

 楠木のその声で意識を今に引き戻す。

 「我が従者『白騎士』シャーロット・ローレンスよ。えにしを手繰り眼前にその姿を表せ」

 紡がれた言葉に応じて手に握る紋章は仄かな光を発したが、それまでだった。発された僅かな光も次第に小さくなり紋章に収まる。

 「ダメだったか。なら俺らだけで脱出を考える方が現実的だな」

 楠木は別になんてことないという感じで焚き火の方に戻り再びパラシュートの点検に戻る。

 「とりあえず、二日休め。そんだけしたら探索を始める」

 彼はさも当たり前のようにそう言う。そんな中、俺は別種の不安に襲われていた。

 …ここの探索適正は幾つだ

 双竜の滝は深い。最悪の場合、中層域に到達していることも考えられる。そうしたら、万事休すだ。上層と異なり、点在する支部の間隔も遠くなる。それは帰還の可能性が絶望的になることを示していた。

 「なぁ、新。お前、碌に紋章使った事ねえだろ」

 悲嘆に暮れ虚空を見ていると、楠木が作業をしながら声をかけてくる。

 「いや、そんな事ないと思うけど…」

 脳裏には紋章を使う場面がすぐさま想起される。

 生活をする上でも「風呂を沸かす」、「髪を乾かす」、「洗濯をする」。探索時でも屍体や素材を持ち帰るための『回収の紋章』。歩夢宅と繋がる『歪曲の紋章』、戦闘時は『炎の紋章』…それにシャーロットさんの限界突破の紋章術もある。

 すぐに返事が返ってこないことから俺の困惑を感じ取ったのか、楠木は再び口を開いた。

 「あぁ…、言い方が悪かったな。戦う時のことだ。お前、一種類(・・・)しか使ってなかっただろ」

 楠木曰く、普通の冒険者はもっと小まめに紋章を使うとのこと。踏み込む時、剣を振るう時、防御する瞬間…一挙手一投足に紋章の力を込める。そして自身のスコア+100くらいに戦闘能力が跳ね上げるらしい。その上で自身の素のスコアに応じた層を下るとの事。

 「まあ、欠点もあるけどな。どうしても(・・・・・)紋章に頼り(・・・・・)がちな戦い(・・・・・)方になる(・・・・)。何かの拍子に使いたい紋章が手元から消えたなんてことになれば、隙になる。ほんのちょっとだとしてもそれが原因で命を落とす奴もいる。…下に降れば尚更な。シャーロットがお前に全く紋章術を教えてないのもその辺りの理由わけだろ」

 …なるほど

 確かに教えなければ、『選択肢』として浮かぶ可能性も低い。俺にそう強いていたシャーロットさんの魂胆も概ね予想がついた。おそらく俺の身体能力が限界を迎えるまでは紋章の使用を制限し、それから紋章を用いることで身体能力、及び紋章術の補助による戦闘能力の最大化を計ろうとしたのではないか。…『黒バラ』を討つための現実的な手段として。

 「けど、まあ…」

 頭を働かせていたところ、楠木が声を出す。パラシュートの点検は終わったらしく、いつの間にかそれは折り畳まれ連結されたバッグの中へと仕舞われていた。それを近くの壁に立てかけると俺の方を向いて再度座る。

 「今はそうも行かねえわな。シャーロットには悪りぃけど、新には紋章の使い方を覚えてもらう。脱出には必要なことだからな」

 「俺もそれには賛成。後一応言っとくよ。今の冒険者スコアは…」

 そこまで言いかけてカードホルダーに手をかけ、ギルドカードを取り出す。そこに記された数字は『174』。この二週間の上昇値が『10』で今朝の数値が『151』。先の激闘でさらに上がっていたらしい。強敵に勝とうとすると自分の底以上のものが出る。正直、身体能力が上がった実感はないが、何らかの能力が飛躍しているに違いない。

 「スコアは…」

 「今の冒険者スコアは『174』。数値的には十一層までなら問題なく下れるはずだ。けど、さっきの説明を踏まえるとちょっと怖い…かな」

 普通の冒険者なら紋章術を踏まえてスコア換算で『274』。多分、俺が適正スコアでこれまでくぐり抜けられたのはシャーロットさんの膨大な戦闘経験があってこそだ。

 …だいぶシャーロットさんに寄りかかってたんだな、俺

 彼女がいないことで自分の非力を痛感する。思わず手に力が入り、ギルドカードの端が親指を起点に少し折れ曲がった。そこで我に帰る。

 「取り敢えず、お前は休め、こん二日めいいっぱいな。運のいいことにここは魔物が入ってこないらしいしな」

 そこで会話は終わり、楠木の助けを借りて再度横になる。

 …イブ大丈夫かな

 ゴツゴツとした薄暗い天井を見つめながらあの子を思う。あちらの様子が気になり、思考が散漫になる。そうして幾らか経つと瞼がうつらうつらと揺蕩たゆたい始め、内に溶け込んでいった。

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