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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第四幕_THE GIRL OF HOLY GRAIL

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五十七記_予兆

 「——あー、なるほど。新くんは深層志望でまだ強化系の紋章は使わないんスね。ってか、すごいっスね。俺初めて見ましたよ、生のイデア接続者(コネクター)なんて」

 今いるのは六層の日本領『鳴門支部』。支部で掲示板で依頼をはがした後、俺たちは移動しながら戦闘や探索の方法、楠木のもつ技能などを紹介しあっていた。…無論シャーロットさんの紋章のことは秘匿したが。

 「今日は洞窟群もほどほどに湿地の慣れっていう感じっスか」

 「そうですね。湿地の立ち回りはなるべく早く習得しておきたいですから。ぬかるみは足運びにコツが入りますからね」

 「あれ、難しいっスよね〜。俺も最初は逃げる時にすっ転んでましたもん」

 あはは…と頭をきながら、楠木は相槌あいづちを打つ。俺といえば、彼らの後方を歩いており完全に蚊帳かやの外だった。正直、冒険者トークになってしまうと引き出しがない。だから先ほどから彼らの会話の節々にある優良情報に聞き耳を立てていた。

 「新くん、そろそろ街の外。頼むっスよ」

 「りょう…かい」

 楠木はふと後ろを向くとそう言った。俺は腕を軽く回しながら答える。

 街を出ると一歩歩くごとに辺りの光度が急速に落ちて行く。始めに三層に進出した時はこの暗闇に薄気味悪さを覚えたが、もう慣れたもの。腰に回したウエスポーチから携帯型のルクス鉱石を取り出し、詠唱する。

 「pila luca(ピーラ・ルカ)

 (珠玉よ、光れ)

 「pila luca」 「pila luca」

 同時に前方から声が響く。すると各所から光源を得たルクス鉱石が浮遊し始めた。

 最近、シャーロットさんに教えてもらったことだが、紋章の口上は意味さえ伝われば、どんな言語でも良いらしい。ただ冒険者間では『誰がなんの紋章を使ったのか』をわかるようにするためラテン語を用いるのが共通認識になっている。動植物の学名のようなものだろう。

 俺も少しずつ使えるようにした方がいいのだと思うが、未だ慣れない。

 『集散の紋章よ、宿しものを我が身に纏わさん』

 「…装着」

 俺は蒼狼の鎧をシャーロットさんは白銀のそれをまとう。

 …ここからはラビリンス。

 そう気合を入れた刹那、赤い閃光が視界を刺した。瞬間的に身を屈め、暗闇に向かって突貫する。その最中、紋章にしまっていた武器を両手に召喚。導かれるように縦に弧を描く斬撃を浴びせ、そこを起点に側面へ。さらに剣を捩じ込むように深々と突き刺し、そのまま全方に走り抜ける。

 その姿勢のまま、長く息を吐くと加速していた感覚がだんだんと落ち着いていくが分かった。

 「はぇ〜、肉食の顎つよムカデを一撃っスか。しかも探知外から。イデア接続者(コネクター)は少し先の未来を見るなんていうっスけど…生で見ても信じられないっスねーこれ」

 布で剣を拭きながら振り返ると、モンスターからあふれた体液がルクス光を反射し、まばゆい光が目を差した。数度、瞬きするとそこには十メートルは優に超えるムカデの遺骸が横たわっている。正直、見てから戦おうものなら気色悪さで後退りしそうな醜悪な見た目をしていた。

 「…新さま、便利であるのは否定しませんが、あまりイデアに頼らないでくださいとあれほど…」

 顎つよムカデ基い、スコロペンドゥラ・ネブラ・ニギリの解体を行う中、彼女はそう耳打ちしてくる。それを渋々聴きながらも脳裏では文句を垂れていた。

 正直、オルトロス戦(あれ)以来、イデアとの接続が強くなったのか先のように鋭い感覚を得ることが多くなった、それは間違いない。その感覚の中で踏みとどまるのはかなりきついところがある。『逃げろ』『動け』『殺せ』などの単純命令で脳が染まっている最中、冷静に判断を下せと言われているようなものなのだ。

 しかし、同時にこうも思う。

 冷静な判断をする時も然り。とくにチームで動くならどうにかしないと、と。

 俺だけが動けたところで意味がない。連携の発端になるのはいいが、一人で動いてしまえば世話がないのだ。人間一人でやれることには限度というものがある。対上位生物となら尚更だ。

 しばらくしてあのムカデを頭部、足、そして体をいくつかに分割してそれを『回収の紋章』の中に放っていく。それが終わると再び探索に乗り出した。

 「街から出てすぐってのは幸先悪いっスねー」

 そうは言いつつもケラケラと笑い、余裕そうな雰囲気を醸し出す楠木。今まで探索直後に敵性生物に会敵するなんて経験はないのだが、彼の口調からするに珍しいことでもないらしかった。

 「ですが、ネブラニギリ種はあまり好戦的な種ではなかったはず。食性も偏食で人を口にしないはず…なぜ、新さまの視界に映ったのでしょうか」

 …確かにそれならおかしい。俺の攻撃予測は明確な敵意、もしくは身の危険が迫らないと発現しない

 「あっ、それなら何もおかしくないっスよ。新しめの傷あったんで」

 ちょうど俺たちの中間に位置する楠木が声を上げた。

 それを聞いて納得する。俺たちに会う前に冒険者か、天敵か何かと戦っていて気が立っていたのだろう。

 「気を取り直していきましょう。まずはいつもの鉱石採掘です」

 先頭にいるシャーロットさんはそう言うと後方を向いて、微笑んだ。

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