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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
幕間_平凡な日々

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五十一記_路地裏のボロネーゼ①

 「どうしましょうか」

 俺たちは飲食店が立ち並ぶ通りにきたものの辺りはごった返していた。大体、外食はメインの時間を外すものだ。当初の計画では正午前には昼食を済ませる計画だったようだが、思いの外、岬武具店に滞在していたらしい。ただ、シャーロットさんが事を深刻に捉えた様子をしていたのが気になった。

 …まあ、別に急ぐ用事じゃないからな

 これが利害関係で成立している他者との計画なら関係にひびが入る事案だが、今回に限ってはそんなことはない。ただの買い物だ。

 …イブの生活用品くらいだしな

 そんな感じで悠長に構えていた俺だったのだが、どうやらこの世界(ラビリンス)のお昼時を甘く見ていたらしい。遠目から見てもどの店も満員だ。

 「なんでこれだけ店があってどこも空いてないんですかね」

 「空いてないも何も、この時間はいつもこうですよ」

 大和に限った話ではないが、ラビリンス世界の街は行政区画、商業区画に分けられており、さらに商業区画は職業ごとに分化しているらしい。詰まるところ、今いる場所は「外食産業」の割り当てられた区画でお昼は人が一点集中する区画ということである。

 …そういえば、街のことほとんど何も知らないな

 背中でイブを抱えながら、シャーロットさんの話に相槌あいづちを打つ。

 …なんか重くなったか

 そう思って背中の方を覗くとイブが寝息を立てていた。あまりに混んでいるので逸れないように背負っていたのだが、疲れて寝てしまったらしい。

 「どうかしましたか、新さま」

 いつの間にか前の方を歩いていたシャーロットさんに声をかけられる。

 「あ、すいません」

 反射的に返事をしながら、振り返る彼女に追いつく。

 「これじゃあ、待ってた方が早いかもしれませんね」

 一〜二時間ずらせば、流石に人混みは減るだろう。ましてや、今日は日曜日。就労している人の方が珍しい。冒険者をしていると休日の感覚が怪しくなってくるが、今朝カレンダーを見たので間違いないと思う。

 「…確かに私たちはそれで大丈夫ですが…問題はこの子です」

 シャーロットさんはイブの頬にかかる髪を後ろに流しながら、上目で俺を見やった。

 「知っていますか、新さま。子供と大人では時間感覚に差があるのです。今は寝ているから問題になりませんが…起きた時に極度の空腹で困るかもしれません」

 …なるほどな

 「なら、どうするんです?」

 その言葉を待ってましたとばかりにシャーロットさんは答える。

 「路地を中心に探すのですよ。中央通りは出店するのも一苦労。細道に小さい店を構えている人も大勢いるのです。ですから、こうして中央通りの外れに来ました」

 いつの間にか人混みから外れていた。彼女が話している間に俺を誘導してくれたらしい。

 「では行きましょう」

 そうして、俺は日の入る中央通りから、影の映る薄暗い裏通りに歩を踏み出した。

 …確かに進めば、進むほど客の入りが悪くなってるか

 二十分も歩くと目に見えて空席のある店が現れ始めた。この辺りでいいのでは、と思ったが、前を進むシャーロットさんの足には迷いがない。どこかに向かっているのは明らかだった。

 さらに十分もすると、伽藍がらんとした店も見え始め…ある建物でシャーロットさんは足を止めた。

 眼前には丸いシルエットが目立つ粘土質の建造物。鉄看板ロートアイアンを見る限りは洋食屋のようである。パスタのようなものを女の子が美味しそうに食べている、そんな微笑ましい看板だ。中は暖色の電球がいくつかで照らされているだけ。開店していると分かったのは、木製のドアに『Open』の板が垂れ下がっていたからだった。

 「ごめんくださーい」

 全体的に胡散臭い。そんな俺の躊躇をよそにシャーロットさんは目の前の店へと入っていった。遅れて店の中に入ると、目のギョロリとした中年くらいの長身の男が奥の扉から現れる。

 「…お客様、あちらの席にどうぞ」

 長く垂れた腕をのろりと持ち上げると奥の席へ案内される。移動の最中、シャーロットさんがその人に話しかけた。

 「久しぶりですね、木月さん」

 どうやらこの不気味な店を彼女はよく知っているようだった。


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