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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
幕間_平凡な日々

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四十九記_変わり身

 ——ニ〇ニ四年、八月十一日、十時十三分

 「お兄ちゃん、まだ〜」

 …忘れ物はないよな

 宿を出る前に念のため辺りを確認する。準備が一人遅いのは鎧を着替える時間があったからである。早く自動脱着できるものが欲しい。

 「マイヤさん、お利口さんでお願いしますよ。…それでは行きましょうか」

 「はい」

 「は〜い」

 イブは身元が割れないように昨日、シャーロットさんが買ってきたカラーワックスで染めている。シャーロットさんと今のイブは遠目だと姉妹に見えるかもしれない、後ろ姿はそっくりだった。

 カランッカランッ♪

 軽快な呼び鈴の音と共に『岬武具店』を訪問する。

 「はい、いらっしゃい。シャーロットと新くんと…ああ!あなたがイブちゃんね」

 香織さんはイブを見ると目を二割ほど見開き、イブに顔を近づけた。どうやら、香織さんの好みに彼女は合致していたらしい。

 …ロックオンされたか

 イブはそれにびっくりしたようで駆け足で俺の後ろに隠れた。ズボンを握りしめて恐る恐る香織さんの方を覗いている。

 「ありゃ、警戒されちゃったか」

 「香織、あなたに言っておいたでしょう。あまり怖がるようなことしないでください、と…」

 シャーロットさんはそうは言いつつも、こうなる予想はついていたらしく右手で頭を押さえていた。どうやら、昨日きた時にイブのことは粗方伝わっているらしい。

 「イブさん、今日はあの方に髪を切ってもらおうと思っているのですが…」

 「…いや。あの人、怖い」

 シャーロットさんがイブに小声で耳打ちするも首を縦に振らない。結果、俺とイブ店の中にあるベンチでとりあえず座ってシャーロットさんの用事、オルトロスの遺骸の取引を待つことになった。こうなった以上、今日は散髪と染色が出来なくてもしょうがないだろう。

 「おーい、新。ちょっといいか」

 シャーロットさんと取引の話をしていた傑さんに呼ばれる。解体関係の取引の担当は彼らしく、香織さんは自分の宝飾品売り場の方に引っ込んでいた。今は無言で宝石を弄っている。勢いはすごいが、距離感は読める人らしい。

 「おーい」

 「はい。…イブ、ちょっとここで待ってて」

 彼女はコクリと頷く。それを確認すると、俺はベンチを立って彼らのいる入り口近くへと向かった。

 「何ですか?」

 「いやぁな。シャーロットに昨日聞いたんだがよ。お前、だいぶ酷な戦闘したって話だからよ。防具の状態が気になってな」

 シャーロットさんと取引の話を進める中で傑さんは「黒い古城」の話を思い出したらしい。俺は受付の机を拝借することの了承を得てからそこに自分の防具を並べた。

 すると一つひとつを傑さんが取り上げながら見始めた。店内の照明に反射させたり、接合部を引っ張ったりしながら状態を確かめていく。

 「どうですか?一応、言われた通りにセルフメンテはしているんですけど…」

 それに彼は首を横に振って答えた。

 「ダメだ。皮が軟質だから、大きな傷は目立たねえけどそこら中、歯形が深く食い込んだような後がある。それよりも問題なんが…ここ見てみ」

 言われるままに持ち上げられた籠手を見る。傑さんが指差した部位には小さな凹みがある。ただこれくらいのものは本来なら傷にもならない。何故だろうと首を捻っていると、彼は話し始めた。

 「これな、オルトロスの蛇の毒だ。このままにしとくと防具が侵食されておっきな穴が開いたり、攻撃を受けた時にいきなりそこからひび割れたりするんだ。…よかったぜ。探索に出る前で」

 籠手を照明にあて目前まで近づけて…さらにそれを凝視すると僅かながら他の傷と違った光沢が目に入った。

 …これか

 オルトロスの蛇の毒は牙から体内に毒を注がれなければ、大したことないそうでそれが原因でイデア自体が観測対象から外していたのではないかとのことだった。

 「ベルト帯も大分伸びてきてるし、やり直すんだったら新品買った方がいいぞ。これからもっと深いところに行くなら尚更な」

 「わかりました。でも、お金って…」

 その時、シャーロットさんが口を開いた。

 「今回はタダでいいそうです。持ってきたオルトロスの状態がよかったみたいで…」

 「あんな殺され方はあんまりない。中から焼き殺したんだっけか。思いついても普通はやんねーよ」

 彼女の言葉に連ねるように傑さんは半ば呆れたように首を左右に振る。

 「…でも、あんま無理すんなよ。自分の命より大事なもんなんてないんだからな」

 彼は物思いに耽るようにそう呟くと、気落ちした表情をすぐに戻し、手を叩きながら声を発した。

 パン!パン!

 「さあ、始めるぞ。新ついて来い!」

 俺は、防具の採寸をする前にイブに一声かけて行こうと思い、ベンチを見やった。しかし、姿が見当たらない。辺りを見回すと驚いたことに香織さんの膝の上に乗って楽しそうにする彼女が見えた。


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