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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_白銀の少女と古びた古城

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三十記_炎の紋章+「 」

 冒険者組合まで徒歩で移動。組合の窓口で転移門の使用申請をして三層『乃木支部』へ移動し、オルグの店に向かった。

 前回とは違い、迷わず店に辿り着いた俺たちは古びたドアノッカーに手をかける。

 ドン、ドン、ドン。

 するとオルグが顔を出し、友好的に招き入れてくれた。前に世話になった礼だと言って、『おつまみセット』を渡すと、「若ぇわりに気ぃ効くじゃねえか。こういうことされると年寄りは贔屓ひいきしたくなっちまうんだよなぁ」なんて言いながら、大袈裟に笑っていた。

 「体は大事ねぇか、新」

 暖炉の前に向かう最中に彼が聞いていた。

 「ああ、大丈夫だ。この通りピンピンしてるよ」

 それに応答しながら、右肩を一周させる。ちょうど十日前からラビリンスの探索も再開していた。今のところ問題はない。むしろ療養期間で体力作りをやったので、調子が良いくらいだった。声色から判断したのか「そうか」と彼は一言告げるとあの精算時に使った長机の上に俺が上げたそれ(・・)を置いた。

 「それで紋章だがな…」

 前回のようにその辺に乱雑に置かれている丸椅子を拝借し、オルグが揺り椅子にのしかかる。胸元から取り出したパイプに葉を焚べると彼は話を切り出してきた。

 期限通りに紋章を作り上げたらしく、近くのローテーブルの上には俺のイデアの書と二枚のトランプカードが無造作に置かれていた。

 …二枚?

 確か、オルグは二週間後に上がるのは『火の紋章』だけのはずだ。まあ、今からその辺りの話もあるんだろう。話の腰を折らないよう、興味を胸のうちにグッと押し込める。

 「まあ、こっちが依頼通り『火の紋章』だ」

 彼が一方のカードをめくると紋章が露になった。本に描かれていた複雑精緻なそれがそのまま刻印されている。あのボロボロのページから生まれたとは思えないほど鋭利な線で記されていた。

 「もう一枚は…」

 オルグは俺の驚く顔を下から覗きながら、別のそれを捲る。

 しかし、そこには何もなかった。いや、そんなことはない。紋章化を終えた紋章が『回収の紋章』に認識されているらしく、カードの対角線上にはハートのスートと「A」が浮かび上がっていた。

 「『火の紋章』の作業をしてる時によう、休憩がてらに新の本をペラペラしてたらよ…『これもできんじゃねえか』ってやつがあって、ものは試しやってみたわけよ。で結果がこれだ」

 オルグはそのカードを手にとり、空中で揺らすと煙を吐きながら言った。

 「出来上がった瞬間に消えちまいやがった。こんなヘンテコこちとら何十年もこの仕事やってるが、初めてだぜ」

 不平を垂らすと、口から外していたパイプを咥え直した。どうやら、稀にある体系から外れたタイプの紋章で、一度使ってみて紋章の効力を確かめるつもりが——出来た途端にさっと消えたらしい。そんなこと予想だにしなかったオルグは、紋章に付随する詠唱のメモを取り忘れたと言っていた。

 「普通はこんな不良品は捨てるんだが…一応、お前が持っとけ。イデアの本から生まれた紋章だ。白紙だろうが、持ち主がもっといた方がいいだろうよ」

 そう言ってこちらにそれを差し出してきた。それを見たシャーロットさんは硬貨の入った袋を物質化させ、追加料金を払おうとする。しかし…

 「嬢ちゃん、いいよ。使いもんにならん紋章は売らんタチだ。今回は儲けもんだと思っとけ」

 オルグはそうするシャーロットさんを手で制した。

 「…では、ありがたく頂戴いたします」

 彼女は袋をしまうと、一言そう述べた。

 「ほんじゃあ、話戻すぞ。『火の紋章』の方にな」

 俺はもらった紋章をカードホルダーに仕舞うと、オルグの話に再度耳を傾けた。

 彼が徐に机の上で表向きになったままの紋章を手に取ったその時、僅かな発光があったかと思った瞬間、何やら金属質のものが落ちる音がした。

 一枚のコインだった。

 オルグはそれを拾い上げ、こちらに向けた。

 「嬢ちゃんは知ってると思うが、こっちが『炎の紋章』本体だ。紙だと何かと不便なこともあるからな。だからこうしてコインに彫ってある。本来、紋章は紋章化出来ねぇんだが、こいつは特別でな。この金属は紋章を宿したまま紋章化出来んだ」

 「刻印師御用達のメモリア鉱石ですね」

 補足するようにシャーロットさんが声を連ねる。

 「ああ、それだ。まあ、専門的な話も野暮だからな。簡単に言うと例外的に紋章を紋章化できるようにする石ってこった」

 「ただ、それを機能させるのはオルグさんのような寸分狂わず、紋章を記すことのできる刻印師あってのこと。頭が上がりません」

 シャーロットさんは敬意を込めて会釈する。

 「そんなんでもねぇよ」

 オルグがはそうは言いながらも褒められて悪い気はしないようで、少し照れているように見えた。

 「で、だ。新には説明したんだが、思った通り、強力な紋章だったな。詠唱節は三節だ。…まあ、詳しい使い方はそこの嬢ちゃんに聞いてくれ」

 そこでオルグは何やら焦ったように自身の体のあちこちを触り始めた。「…ああ、そうだった」、何やら思い出したのか一言呟くと落ち着きを取り戻した。

 「ちょっと、待ってろ。作業場に忘れたもんがある」

 彼は揺り椅子から立ち上がると、暖炉右側に広がるもので雑然とした作業机に向かった。ガチャガチャとものを退かす音がし始める。すると目当てのものにありついたのか、こちらに戻ってきた。

 「悪いな、新、嬢ちゃん。探すのに手間取っちまった。片付けは苦手でよ」

 歩いてきたオルグは僕らの方に一枚の紙と手袋を差し出してきた。

 「こん紙は、『炎の紋章』の詠唱、そのメモ書きだ。こっちはまあ…おまけだ。自分が描いた紋章で怪我されたら夢見悪いからな」

 受け取った手袋は厚手で手の甲の部分にコインが一枚入りそうなスリットが設えてあった。

 「新、手袋嵌めて、そのコイン入れてみろ」

 言われるままにそれを嵌め、キツめの隙間に『炎の紋章』の刻まれたコインを押し込む。不思議なことにフィット感は抜群だった。

 「オルグ。俺、手の大きさなんて教えたっけ」

 「ああ?ああ、お前さんが寝てる間にさっと測ったんだ。抜群だろ」

 手を握ったり、離したりを繰り返すが手の甲とコインによる不自然な干渉などもなく素手の時に限りなく近い動きが出来る。

 「後で、剣握って慣らしとけよ…っと大体必要なことは話したよな」

 オルグは揺り椅子に座り直すと、指を折りながらブツブツと呟いた。伝え忘れていることもないようで、彼は天井に向いていた視線を下げた。

 「予定通り、『水の紋章』は二週間くらいで上がるはずだ。作業が終わったら、今回みたく冒険者組合に連絡する」

 一段落終えたようで、パイプから深く煙を吸い込むとゆっくりとそれを吐いた。その後、一息つくとオルグは口を開いた。

 「新、悪いがちょっとそこの嬢ちゃんと話がある。席外してくれるか」

 「いえ、新さまもそのままお願いします」

 シャーロットさんはオルグの言葉を制す。二人はこれから話すことが分かっているらしい。

 「いいのか、嬢ちゃん」

 「ええ。重要な事です。今の主は彼。ならば、私の過去についても知っておくべきでしょう」

 そういうとシャーロットさんは自身の過去をポツポツと語り始めた。

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