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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
隠匿特異世界ラビリンス/第一幕_再開と導き
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三記_学校

 程なくして、学校の最寄駅に着いた。ホームの階段を登り駅の改札を通る。辺りは近隣の学校の生徒で賑わいを見せている。友達を見つけて駆け寄る人、歩きながら携帯をいじくる人、参考書片手に歩く人など様々だ。そんな光景を横目に歩き、続く階段を降りる。

 「よっ、あらた!」

 何気なく降りていると首の辺りにどっと衝撃を受けた。突然のことで階段を踏み外しそうになりヒヤリとする。なんとかバランスを保ち、転倒をまぬかれた。俺にこんなことをするのは一人だけだ。

 「業平なりひら…びっくりするからやめてくれ」

 注意するも全く気にする様子もなく、「今日はたまたまいたからな」と返してくる。たまたまいたのは業平の方で俺はいつも通りだった。彼は毎日登校する時間にむらがあるために俺と会ったり、会わなかったりするのだ。

 「お前、また寝不足だろ。目の下すごいことになっているぞ」

 業平は俺の肩から手を外し、左横についた。髪型は特に何もしていないらしいが天然パーマだからか、絶妙なバランスでまとまっている。

 「学校があると一日の時間に制限がかかる。寝不足にもなるだろ」

 「昨日は日曜だぞ、大丈夫か?」

 ああ、そうだった。そういえば自転車の整備をしたはずだ。最近、忙しいせいか碌に曜日を把握できなくなってくる。最近はそれが特に顕著だった。

 そもそも何曜日だろうが、やる事はほぼ同じだ。

 主要五教科七科目。それに医学や薬学の基礎知識、新しく出た論文の判読。

 強いて言うなら、学校があるかないかだけだった。

 「それでさあ、お前、この間言ったアニメ見た?」

 「…見てない」

 ことあるごとに業平はアニメの視聴を促してくる。毎度、見ないことはわかっているはずだか懲りずに勧めてくるのをやめない。

 俺には『より多くの人を救う』という使命がある。それ以外に時間を使っている余裕はない。

 「見てねーのかよ〜。おもしれーのに。二十三話なんて…ってあれ!栗崎さんじゃん!」

 話があっちに行ったりこっちに行ったり、朝から元気なやつだなと思いながら右から左に流す。下手に反応して深く話に踏み込むと、話が止まらなくなることはこれまでの経験からして明らかだった。これくらいの対応がちょうどいい。業平自身も気にする様子もないことからそうするようにしている。

 今、車道をまたいだ反対側の歩道を通り過ぎた栗崎さんはかなりの美人だ。入学時からその容姿が話題になり、人当たりの良さも相まって人気に拍車がかかった。友人関係より自身の予定を優先するという少々ドライな点も彼女の場合は「自分があっていい」と美徳として捉えられているようだ。業平から情報を統合するとそのような人物像になる。

 「今、こっちに向かって手ぇ振ったぞ」

 業平は露骨に嬉しそうな顔をする。彼は栗崎さんの「ファン」らしい。前に聞いたが恋愛的な「好き」ではなく、別種のものだそうだ。所謂『推し』に近いものらしい。

「…はぁ。お前が朝からピーギャーうるさいからだ。頭に響くから静かにしてくれ」

 俺はわざとらしくため息をついて、呆れていることを声の調子に乗せる。

 …今になって頭が痛くなってきた。これは寝不足からくるものか、それとも業平の振る舞いからくるものか

 それからは彼から際限なく振られる話題にテキトーに反応しながら登校した。俗にいう「聞き専」というやつである。


 「おいっすー」

 業平は教室のドアをガラッと勢いよく開けた。

 「ナリ、今日早ぇじゃん」

 「おっ、マジ。ホントだ」

 「ナリ〜。宿題分かんなかったんだけど」

 「あい、あい」

 「今日の二限、出席番号的に俺当たんだけど」

 「あっ。それなら一、二限の休み時間でどうにかなるぞ」

 「はあぁ〜助かった〜」

 彼が教室に入るや否や始まるクラスメイトとの怒涛のコミュニケーションを聴きながら、自席に向かう。業平の交友関係は広い。

 おそらくクラスの中で話したことのない人はいないだろう。

 誰にも気さくに話しかけ、仮に門外な話題だとしても「知ろうとする努力をする」。それでいて勉強も運動も人並み以上にできるので、こうして人の中に溶け込みやすい。

 この光景を見ていると歩夢がいた頃を思い出す。彼女も人の関係と信頼を築くのに長けていた。彼女がいると人が周りに勝手に集まっていた。その時の情景が脳裏に浮かんだ。

 …彼女が生きていたら、やはりあの輪の中にいたのだろうか

 もう亡くなって三年になるが事あるごとに彼女が居たら、と考えてしまう。居ないことはわかっているはずなのに。

 「どうした、新?」

 その声に視線を送ると、業平がこちらを見てながら右手を軽く上げているのが目に入った。他の人の視線も俺に向いていた。あからさまに不審なものを見る目が俺を突く。どうやら自席に行く途中で立ち止まり、彼らを凝視してしまっていたらしかった。

 「…いや、なんでもない」

 その言葉と共に目を逸らし、彼女の夢想から離脱した。

 席に着くと、いつもそうするように文庫本を開く。始業までの暇つぶしである。

 しばらくするとチャイムが鳴った。立っていた生徒が慌ただしく蠢き、先生が入ってくるまでの数瞬で席に着く。中には滑り込みで教室に踏み込み、遅刻を免れている人もちらほら。

 間もなく、出席確認が始まった。

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