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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_白銀の少女と古びた古城

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二十八記_剣術稽古

 「…来ましたか」

 「すいません、時間かかっちゃって」

 「では、始めましょうか」

 そう言いながら、シャーロットさんは慣れた手つきで腰につけているカードホルダーから二枚のトランプカードを宙に放る。ふわりと羽のような軌道で舞うそれは、彼女の右手と左手に寸分違わず降り、そこで燐光を放った。

 光が消えると、彼女の手にはいつものように木で作られた模造の細剣と金属製の円盾があった。あの宙にカードを放る動作は一見『無駄』に見えるが、ラビリンス探索中に即時武装するのにはかなり便利らしい。深く潜るほど取得している人が増えるのだとか。しかし、俺はそんな曲芸じみたことは出来ないので大人しくカードをホルダーから抜き、『物質化』させる。

 淡い光と共に両手に円盾と模造剣の特有の重さが宿った瞬間、左手に持つ円盾を前に剣の切先を地に落として半身の姿勢をとる。

 そこで鋭く息を吐いた。半ば無意識的な動作。しかし、まるでそれが(とき)であったかのようにシャーロットさんは大きくこちらに飛び込んでいた。

 …あの隙でもう一足一刀の間合い

 いつも鍛錬は刹那的に始まる。それは戦闘というものは常に万全の準備が出来るわけではない。その考え、基い彼女の実体験によるところだ。

 その時、首の右側に揺らぎを感じた。この感覚は知っている(・・・・・)

 …攻撃は右筋への突き

 そう思い、体勢を後傾させながら、首を僅かに左に外らす。その瞬間、細剣が地から突きあがり、首元を掠める。すれ違い様に極度に前傾した彼女の体、その側面に円盾を殴りつける。しかし、その反撃は彼女の予想の範疇だったらしく、彼女の円盾によって外らされる。

 ザザッと地面を抉りながら、方向転換。両者再び構えをとる。

 …危なかった

 あの僅かな間で額に汗が滲んでいた。息を止めていたのか、構えをとった際に呼吸が荒くなっていることに気づく。

 …今度はこちらから

 瞬間、地を蹴り距離を詰める。左手の盾を構えながら、右手を薙ぐようにして、剣を振るう。だが、その攻撃は空を斬った。攻撃範囲の数ミリ外。最小限の動きで避けられ、彼女はその隙に大きく踏み込みながら、自身の体に引きつけた円盾で俺の剣を強く突き上げた。

 …ゴンッ!

 鈍重な模造剣と金属の円盾。それらが激しくぶつかる音が空間を軋ませる。大きく後ろに傾いた重心を即座に整えるも時すでに遅し。細剣の切先が目と鼻の先で止められていた。

 「チェックメイトです、新さま」

 彼女は凛とした声色でそう言うと、剣を下ろした。


 「以前から思っていましたが、新さまは急所への勘が鋭い…ですよね。それも最近になって一段と鋭敏になっているように感じます。何か心あたりはありますか」

 その言葉を背中で受ける。休憩中の今、俺は裏に併設されている井戸から水を汲んでいた。ポンプから湧き出る水を桶で受けて、それを地面に置く。

 「えっーと…、なんか分かるんですよ。首筋とか手首とか太ももとか、鳩尾みずおち…あと脇腹とか。『ここ切られると死ぬ』っていう攻撃は受ける時に変な感覚がするんです、そういう時だけですけど」

 「変な感覚…ですか」

 「揺らぎって言うんですかね。何かに例えるのは難しい…本当に妙な感覚です」

 疑問符を浮かべるシャーロットさんに答えながら、近くに置いていた皮袋を手にとる。

 確かに前は勘だった。それも十回に一回に当たるかどうかのそれだ。しかし、最近はそれが明確に分かるようになっていた。まあ、とはいえ。位置が分かったところで体がついてこない事など日常茶飯事。それにさっきのように完全に詰みの状態になったら何の意味もなさない。

 皮袋の口元が桶の中でぶくぶく気泡を上げるのを見ながら、脳裏に不平を垂れる。

 「…そうでしたか、揺らぎ」

 僅かな静けさの後にいつの間にか木製のベンチに座っていたのか、シャーロットさんが呟く。その含みから何やら事情を知っているように感じられた。

 しじまの間が過ぎ、「仮定ですが」と前置きをした上で彼女は語った。

 原因は先日のイデア接続。偶然にもそれに現実から踏み込んだ際に、元々あった魂の結びつきが強くなったとすれば、『致命傷の予知』という芸当にも説明がつくとのこと。

 「ラビリンスの下の層には人智を超えた——物理現象をも超越する生物が現れます。今はまだ、その能力は役に立たないかもしれませんが、きっとあなたを助けてくれますよ」

 シャーロットさんはニコリとこちらに向かって微笑んだ。

 「そうですか」

 それにそっけなく対応した俺は外方そっぽを向いた。

 …やっぱり慣れないな

 脈絡のない感想を抱く。話を聞くときに、彼女の顔を凝視したのが良くなかった。シャーロットさんの笑顔で歩夢のそれがフラッシュバックしたのだ。

 …いつか、慣れるのかな。これにも

 衝動的に呷った水からは仄かな苦味が滲み出ていた。

 休憩を終えると、仕合二本と純粋な剣術の修練をこなし、いつものように十時ごろに鍛錬は終了した。

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