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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_白銀の少女と古びた古城

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二十七記_静かなる決意

 ——ニ○二四年、八月八日、木曜日/ラビリンス一層『大和支部』宿屋

 …っっ

 早朝に起床する。そこで起きた時特有の体の硬直感を意識し、それを和らげるために伸びをする。ラビリンスの日は六時に昇る。実世界のように季節による日照時間の変化はないらしい。なら、一年中、六時に暁、十八時ごろに薄暮といった様子なんだろう。一層のこれを基準に他層の都市の光源変化も作られているため、層を跨いだから時差ボケをするなんてことはない。

 少なくとも街にいる限りは。

 そんな至極どうでもいい、朝の散漫な思考そのままに洗面所に向かう。

 「おはようございます、新さま」

 「おはよう、シャーロットさん」

 最初こそ年頃に見える女の子と一つ屋根の下というのは緊張があったが、人間慣れるもので二ヶ月近く経った今ではなんともない。

 …キャットフード

 その時、餌やりを思い出した。いつも通りなら、この時間は窓の際で日向ぼっこしているはずだ。客間に戻り、キッチンの上の戸棚から目当てのそれを取り出す。壁に立てかけてある皿をとって、キャットフードを装う。

 「ミャー」

 「目ざといな、君は」

 さっき目視で際にいるのは確認していたのだが、いつの間にか足元までやって来ていた。行儀良く後ろ足を畳、こちらを見上げている。

 「あっちで食べような」

 そういって餌袋を一旦キッチンに置き、餌皿を片手で持つと、ソファ横の餌台まで移動する。俺が姿勢を屈めて、それに皿をセットすると一目散に食べ始めた。

 …誰にも取られないのになんでそんなに急いで食べるんだろ

 そんな事を考える。まあ、純粋にお腹が空いているだけかもしれない。放置していた餌袋を直しに戻り、それから再び洗面所に向かった。その時にシャーロットさんとすれ違う。支度が終わったんだろう。その足は迷う事なくソファの方へと伸びていた。

 …シャーロットさんも飽きないよな

 余程、急ぎでない時限りは猫が餌を食べるのを楽しそうに眺めるのが日課だ。食事をじっと見られるのは落ち着かないような気もするが、あの白猫は特に気にする様子もない。今頃はシャーロットさんの揺蕩うような視線の前で黙々と咀嚼をしているはずだ。

 …俺もさっさと準備しよう

 洗顔を終え、何枚かあるインナーの一枚を取り出して、着替える。この後は朝食をとって、シャーロットさんと稽古。…本来なら、ここから探索依頼を受けに冒険者組合に向かうのだが、今日は別の用事がある。オルグに頼んだ紋章のうちの一枚が上がったらしい。組合伝てで昨日連絡があったのだ。

 「新さまー、まだですかー」

 その時、窓からシャーロットさんの声が聞こえた。すでに裏庭に出ていたようで、外から覗き込んでいるのが見えた。

 「今、行きまーす」

 …自動武装って便利だよな

 上位の冒険者は大体これに買い換えるらしい。理由は言わずもがな、だ。着脱の繰り返しは鎧を固定するベルト帯の痛みが早くなるし、何より着脱そのものが面倒臭い。二ヶ月ほど毎日やっていると嫌でも分かる。

 …まあ、贅沢は言えないよな

 俺の当面の目標は中層進出。目下のところでは戦闘能力の増強だ。今のところは順調。ギルドカードに自動更新されるスコアを今朝もみた。伸びはなかったものの大体一週間で2〜3の上昇幅。伸びていなくてもなんら不思議はない。今のスコアは51。来週には53〜54あたりに上がっているはずだ。

 おそらく、この上昇率は初めだけ。多分、スコアが上がれば上がるほど上昇率は下降する。下手したら、何処かで頭打ちになるのかもしれない。

 …深層許可証が最低600、か

 それはこの世界でトップレベルの冒険者に名を連ねることを意味していた。しかし、やらなければならない。俺は、人に親愛なる人を失う最悪をなるべく味わってほしくない。俺はペッカートゥムの齎す災厄は無尽蔵の怨嗟が世界を包む様を想像した。

 …だから、俺は——

 その時、手が強く握り締められるのを感じた。『生きたがっている人を生かす』という漠然的な理由ではない。より具体化されたものがある。

 …俺みたいになる可能性が僅かでもなくなるように

 そう決意を新にして、裏庭に向かった。

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