百八十八記_凹凸部隊
「ようこそ、『ヤマト機関』へ。歓迎するわ」
刹那、彼女はキメ顔でそう言った。
……。
特大の沈黙の後、彼女の左隣に陣取る痩けた長細い顔にスクエアフレームのメガネが特徴的な男が口を開いた。
「はぁ。これだから班長は困るんです。彼ら、何一つ状況が飲み込めていないではないですか。この様子だと私たちが何者か。いや、そもそも自分の名前すら名乗っていないのでは?」
「うぐっ」
「ポンコツ」
「はひぃ!」
『班長』と呼ばれた彼女は間の抜けた声を出しながら縮こまる。部下に嗜められるタイプの班長なのだろうか。
「…もういいです。貴方が人集めること以外に取り柄がないことはよく知っていますから。ここからは私が説明します」
グサグサと遠慮のない言葉を突き刺され、班長さんは何処となく気が滅入っている様子。
「あぁあぁ、黒瀬。またやってるよ。もう少しマイルドに注意してやれよ。片峰班長は豆腐メンタルなんだからさ」
次に口を開いたのは短髪が印象的な青年だった。あどけない顔立ちが若年であることを連想させる。
「豆腐も何も関係ありません。私は事実を述べているだけですよ、祐人」
「だから、それが良くねぇって…っても分かんねえよな!お前は一生、独身やってろ」
祐人と呼ばれた青年は後頭部をガシガシと掻き、半ば呆れるような表情を出しながらそう言い放つ。すると辺りからクスクスといった含み笑いが聞こえ始めた。だが、それに嫌らしい印象は受けない。この揶揄いはお決まりだったりするのだろうか。
「…班長の配慮不足は兎も角、我々には説明義務があります。ここがどういった組織で、彼らが何故ここに連れてこられたのかを我々は語らねばなりません」
参謀を思わせる『黒瀬』と呼ばれた男は芯のある低音で場の雰囲気をガラリと塗り替えると俺たちの方に目を流した。
「では始めましょうか。まずは自己紹介から。そこのポンコツが我々の総指揮をとる『班長』片峰渚です」
紹介を受けた班長基い、片峰渚さんは首をやや低くして反応する。場の進行は『黒瀬』に一任するようで彼女自身は長机を前に座っている。
「見ての通り、間が抜けておりおおよそ指揮を取れる人間ではありません。ただ環境に馴染むのが早く、円滑な人間関係を築くことに関しては群を抜いた才がある。それが彼女を班長たらしめています」
普段褒められることが少ないのか、最後の方の言葉を聞いた片峰さんの表情が緩む。しかし、黒瀬と呼ばれる人物はそれを気に留めることもなく淡々と進行する。
「では次は私です。名は黒瀬嶺二。ここの副班長を務めています。業務は主に作戦立案、備品管理などの組織の運営に纏わること。以上です。次は——」
言いかけたところで先ほどの青年がトンと黒瀬さんの肩を叩いた。
「いいよ、黒瀬。自分のことは自分で喋る」
彼はそう言って制すると少し前進して、俺たちの方へ向き直る。
「俺は川端祐人。仕事は実行班の現場指揮。後はそこのデリカシーない参謀さんが問題起こした時の調停役」
『そこの』と親指で黒瀬さんを指しながら強調し川端さんは分かりやすくため息をつく。
「黒瀬は見た目通りぶっきらぼうだからさ。下手すると行った先々で敵作るわけ。そうならないように現地民とか協力部隊とかの橋渡しすんのが俺の役目だ」
するとそれを聞いた黒瀬さんが機嫌悪そうにフンと鋭く鼻を鳴らす。
「論理的に考えられない彼らに問題があるのですよ」
「人は論理だけで動く生き物でもないだろ。いつも言ってんだろ。誰も彼もがオメェみてえにシンプルじゃねえの」
黒瀬さんの呟きに鋭く切り返し、場の雰囲気がひりつく。しかし、それはゆるりと吐き出された吐息によって収束した。
「…今日はいつもの問答をする時間ではありません。これはまたの機会に。この班で指揮権を持つのは我々三人です。他の方の紹介は後に回します。一人一人やっていてはキリがありませんので」
彼は半ば強引に自己紹介の場を締めると懐のポケットへと手を突っ込んだ。そうして小型のリモコンを取り出すと例の機会群——スパコンの方へとそれを向けた。
やがて複数のモニターの内最も大きいそれが点灯し、ホーム画面を映し出す。
「これから行うプレゼンテーションは我々が属する『ヤマト機関』についてです。所属は自衛隊となります。この組織を語る事、即ち成り立ちを知ること。という事で成立までの概略をお話しします」
すいません!一月末での完結出来ませんでした…orz
使える時間全部使ってこれなんで勘弁してください!(懇願)
あと、あとホントに少しなんで!お付き合いいただけると幸いです!
土日でなるべく進めて、近日、三巻の終わりまで公開します〜。よろしですm(_ _)m