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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_到達と破断
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百八十三記_暗転

 「業平くん、新くんに会っていかなくていいのか」

 ラビリンスの都市を人工灯が夕焼けに染め上がる頃、三宅さんに不意にそう言われた。

 「いいですよ。あいつもびっくりしますよ。こんな所で俺と会ったら」

 俺は地面に視線をやつしながら、返事をする。新の所在は割れていた。初層域第一層の『日本領大和支部』そこの大通りの宿に住んでいる。わざわざ訪ねるような輩はいないようだが、『登録早々、オルトロスを倒した新人』という肩書きでよく知られているのだ。

 「そういえば——」

 「…なら、遠くから見るのはどうだ」

 俺が別の話題に変えようとした時、三宅さんが柔和な声色でそう言った。彼が食い下がってくるのは珍しい。もしかしたら、何か思うところがあるのかもしれない。

 「元気にやっているかは見てみないと分からない。どうだ、少し行ってみないか」

 「…そう、ですね」

 感情のせめぎ合いの末、僅かに一目見ておきたいという欲求が勝った。

 本日、二度目の冒険者組合の来訪。調べによるとここには都市間を行き来する『転移装置』が存在する。受付に他階層に行きたい旨を告げると冒険者組合の地下に案内された。

 「では、こちらに」

 石で出来た大きな台座には紋章が刻まれている。よくよく見るとそれはルークが持っていたものと同じものだ。

 『アトラスの紋章よ、天と地を支えしかの巨人の力を持って我らを何処いづこへ導きたまえ』

 その口上と共に光芒に覆われ、次の瞬間、俺は別の場所にいた。それが分かったのは台座の形の微妙な違いだ。

 「ご利用ありがとうございました」

 転移紋章を管轄するその人は機械的に言うと再び、詠唱しふつと姿を消した。

 …さて

 胸は高鳴っていた。半分は新に久しぶりに会えるという高揚。もう半分は自分がバレやしないかという不安。

 「行こうか、業平くん」

 「はい」

 俺たちは大通りを避けるように移動し、新が泊まる宿の対角の路地に身を隠す。宿へ入る人はここからは丸見えだ。だが、その時盲点に気づいた。

 「三宅さん。これもう帰ってたら、見るも何もないじゃないですか」

 「まぁ、そこは運だ」

 そんな会話をしていた矢先、宿に入っていく三人組を見かけた。俺は目を丸くする。目の前にいたのは新だった。もう一人はシャーロットさん、もう一人の子は…知らない。

 新は赤髪の少女と楽しそうに談笑している。それをシャーロットさんが朗らかな表情で見ていると言う様子だ。すぐに扉を開けて中へと入って行ってしまった。

 …お前のそういう表情、久々に見たよ

 新が笑顔なのを見たのはもう何年も前になる。最近は、瞼は常に下がり、口元を引き結び、顔色はどこか生気のなく…屍を掲げる目的だけが突き動かす。そんな印象を抱いていた。

 今とは真逆だ。こっちで何があったのかは定かでないが、とにかく元気そうでよかった。

 「来てよかったんじゃないか」

 「そうですね」

 俺は三宅さんの言葉にただそれだけを返す。

 そのあとは昨日のように九層の宿に帰り、食事、情報共有、それを基にした明日の行動などを話し合い就寝となった。

 この時、俺たちは知らなかった。俺たちを追跡する魔の手がすぐそこまで迫っていることを。

 いや、これまで介入がなかったから見過ごしていたのかもしれない。

 それは『アトラス』で実世界に戻った刹那に起こった。

 俺たちはどこからともなく現れた一団に包囲された。ヘッドギアにゴーグル、四肢のパッド。それらを纏った人々は躊躇ちゅうちょなく俺たちにアサルトライフルの標準を合わせている。

 「三宅宏昌、安藤業平。共に間違いない。秘密保護法に基づき、連行する」

 リーダー格と目される男の乾いた無機質な声による命令。瞬間、部隊は動いた。武器は全てリュックの中。逃亡を図るも虚しく体は地面に叩きつけられる。

 そのまま頭にズタ袋を被され、気づいた時にはコンクリが打ちっぱなしの部屋に座らされていた。

 「世界の秘密を知った気分はどうだ?」

 冷徹な顔に据わった視線。それが数多の急場を踏んでいることを示していた。

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