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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_到達と破断
180/191

百八十記_到達

 ——上層域、第九層、アメリカ領ニューミシガン支部

 「お次の方、どうぞ〜」

 グレイ達に促されるまま、街に着いた俺たちはそのまま『冒険者組合(ギルド)』という場所に行くことになった。何でも龍の討伐依頼の報告を行わなければいけないらしい。所謂いわゆる、『冒険者稼業』というやつだ。まさか、フィクション以外で目にすることがあるとは思わなかった。

 「よお、嬢ちゃん」

 「あ、グレイさん!」

 目の前の受付嬢とは既知の仲のようでグレイは慣れたようにカウンターに腕をついて会話を始める。

 「その様子だと依頼は…」 

 「もちろん…達成だ。これでも下の階層じゃ結構名の通ったパーティー何だぜ。今回はギルド側の緊急招集で出向いたんだ。リンドヴルムなんて朝飯前よ」

 グレイは勿体ぶってからそう言うと髪を掻き上げた。それを後方で見ていたリヴィアが「トドメ刺したの私なんですけどぉ」と不満げな声を漏らしていた。

 グレイは手続きの最中、不意に俺のいる方に振り向き、手招きをする。辺りを見回し、対象が確実に俺であることを確認すると受付に向かった。

 「業平〜。宏昌ひろまさも呼んでくれ」

 「分かったよ、グレイ」

 俺は返事をしながら、一帯を興味深そうに眺めている三宅さんの袖を引っ張り、連れて行く。受付までいくとグレイが体を半身にし、俺たちを通してくれた。

 「グレイさん、こちらの方は?」

 疑問をていす受付嬢に彼は説明を始める。

 「向こうからの使者だ。リンドヴルムに襲われている所を出会した。いくつか嬢に聞きたいことがあるらしい。それとこっちじゃ身分証がないから()()作ってやってくれ」

 アレが何かは分からないが、嬢は「分かりました」と了承を示し、俺の方を向いた。

 「あ、えっーと」

 俺は突然のことにしどろもどろになりながら、ポケットの中から『アトラス』を取り出し、カウンターの上に出す。

 「すいません。これ直せる場所分かりますか?」

 「はい、少々お待ちください」

 彼女は一度、中の方に引っ込むと一枚のパンフレットを持って帰ってきた。

 「こちらにギルド公認の紋章修復店の案内がございます。ご確認の上、修理していただければと思います」

 「ありがとうございます」

 俺はパンフレットを手に取り、開く。

 …あっ、ラテン語だったら読めない

 ふとそう思った俺だったがその心配は杞憂だった。なぜなら、それは日本語で書かれていたからだ。パンフレットの右下には丁寧に『JP』と記されている。

 「よく俺たちが日本人と分かりましたね」

 俺は関心のままに声を漏らす。すると受付嬢はくすりと微笑を浮かべる。すると何やら準備に取り掛かりながら、彼女は口を開いた。

 「受付の仕事は事務的なこともございますが、半分は冒険者の士気を高めることにあります。先ほどグレイさんに『業平』と呼ばれていらっしゃいました。そう言う細かい所に気を配るのも仕事の内なんですよ」

 応対しながら、彼女は二枚のカードを卓上に出す。

 「こちら、ギルドカードと言いまして、こちらでは身分証の代わりにもなります。お二人ともカードをお持ち頂いてもよろしいですか」

 言われるままに俺と三宅さんはカードを手に取る。するとカードは仄かな青い光を浮かべ、瞬く間に消える。すると真っ白だったカードにはびっしりと印字が施されていた。

 「こちらで登録作業をいたします。カードをお預かりしますね」

 彼女は俺たちからカードを受け取ると自分の方に向けてから手元のバインダーにカードに記された内容を書き取っていく。その時、嬢はある一点で目を留めた。

 「…お二人とも冒険者スコアが高いですね。本当に彼方(あちら)の方ですか」

 彼女は驚いたようにこちらに目配せしてくる。

 「…やっぱりな。こいつら、九層の森の中を紋章なしで、武器は方や短刀の一振り、方や拳銃の一本で魔物倒しながら三週間も潜ってやがったんだと」

 しじまの後、グレイが得心したように呟いた。カードの該当箇所には俺は『200』、三宅さんの方は『191』と書かれている。

 「何か凄いんですか、これ」

 俺は思わず聞いた。そんな反応をされては誰でも気になってしまうだろう。

 すると嬢は柄にもなく、早口で捲し立てた。

 「凄いなんてもんじゃないですよ、コレ…。特に業平さんなんて初期スコアで中層域の探索許可レベルに達してる。偶に噂では聞きましたよ。初期スコアが200オーバーなんて。でも、眉唾だと思うじゃないですか。いざ、目の前にすると驚きを通り越して唖然あぜんですよ、ホント」

 正直、言っていることにの半分も理解できない。俺はグレイの方に助け舟を求めると彼は背を思い切りぶっ叩いてきた。

 「まあ、とにかくすげえってこった。戦闘じゃ事欠かねえってよ」

 そのままバシバシと何回も叩かれ、あまりの強さに俺は骨が砕けるんじゃないかと思った。

 程なくしてこの世界における身分証『ギルドカード』の手続きを終える。

 俺はその時になってまだ大事なことを聞いていないことに気づいた。

 「すいません、受付嬢さん。『山神新』って名前に聞き覚えありませんか」

 その場で事務仕事に当たろうとしていた彼女の手がぴくりと止まる。

 「…どこでそのお名前を」

 受付嬢の目は先ほどとは打って変わって据わっている。俺はそれに気圧されながらもどうにか口を開く。

 「友人なんです。探してて…この世界にいるかもしれないって」

 「少々お持ちください」

 彼女は再び奥へと消えると一枚の写真を持って現れた。

 「その山神新さんはこちらの方でお間違い無いでしょうか」

 そこにはまさしく山神新の姿があった。装いはグレイと似た冒険者風の鎧に身を包んでおり、その後ろには見覚えのない少女の姿も見える。彼女もまた白銀の鎧で身を覆っていた。

 「やはり奇妙な関係をお持ちですね。このお二方は登録から僅か二ヶ月で中層域の魔物『オルトロス』を単独パーティで撃破し、ギルド全体に雷鳴の如く名を轟かせた冒険者です」

 「お。おおっ!そいつだったのか。知ってんぜ。下層でもとんでもねぇ新人が現れたってちょいと前に話題になってたんだが、名前までは知らなんだ」

 話に聞き耳を立てていたのか、グレイが素っ頓狂な声を上げる。あれだけ強いグレイがこの反応ということは『オルトロス』という魔物は相当に強力なのかもしれない。

 しかし、何よりも始めに浮かんだのは安堵だった。生きていた、と。その事実に胸を撫で下ろした。思わず、体から力が抜ける。次の瞬間、目尻には熱いものが込み上げていた。

 支えてくれたのは三宅さんだ。彼もどこかほっとした様子だった。

 「よかったな、業平くん」

 「よかった。よかったぁ」

 生きていて。今度は手遅れにならずに済んだのだ。全てが終わる前に知ることが出来た。知らず内に友を亡くすという経験は耐え難いものだ。

 …歩夢ちゃん、どうにか見つけられたよ。少しは弱虫な、君たちについて回るだけだった僕を変えられたかな

 答えが返ってこないのは分かっている。俺は手で目元を隠すようにして嘔吐えずきながら、口元に笑みをたたえた。


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