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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第四幕_アガルタ解放戦線
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百三十九記_朽ちかけの共の勇猛

 「それで…これを説明してもらおうか、オリバーくん。あの化け物も幸い停止しているみたいだしね」

 バロンは静止する怪物の方に首を振り、話を促す。

 「なぜお前が私の名前を知っている」

 前のめりになりながら、バロンを睨みつけるオリバーにさも当たり前のように彼は答える。

 「庭師ラングレーの息子だろ、君。宮廷に尽くす人は覚えておくのが僕の貴族としての流儀だった。当たり前のことは何一つないって知っていたからね」

 返答を聞くとオリバーはほとぼりが冷めたのか、一拍置いてから話を再開した。

 「…そうですか。おそらくですが、あれをやったのはレディ・ローズ。私たちのクーデターに協力を申し出たロサイズムの魔女です。住民を隷属者にしたのも彼女の持つ『黒バラの種子』と呼ばれるものが原因。彼女は隷属者を人に戻す方法も知っていました。私も実際に目にしましたので間違いはないかと思います。変革が終わり次第、住民を元に戻す算段でした」

 滔々《とうとう》と語る。ただ聞きたいのはそこではない。

 「あの怪物はなんだい?」

 「分かりません。ただレディ・ローズの隠し玉としか…

(いや、待て。確か隷属者の上位種死を運ぶ者を作るには『種子』に完全適合した隷属者に彼女自身が改良を加えなければならない。でも、そんな素体はすでに無かったはず…)

 オリバーが途轍とてつもない速度で口をまくし立てながら、双眸そうぼうを目まぐるしく動かす。そして何か思い当たったのか項垂うなだれていた顔を上げた。

 「いや、ある。サイラスさんだ。あれはサイラスさんだ!」

 彼は身をよじりながら叫ぶ。腕が縛られている中、急激に動いたためオリバーはその場で転げてしまう。彼を再び膝立ちにさせると彼は仔細しさいを語った。

 曰く、サイラス大臣は病を患っており、レディ・ローズから液状の薬を処方されていたらしい。彼女が丁寧に扱うのは研究だけ。それを考えると大臣自身が研究材料と考えることも難しくないとのことだった。

 「…なるほど。それなら、コレなのもうなずけるね」

 バロンは辻褄つじつまが合ったらしく、立ち上がりながら怪物を見やる。

 「大臣は昔からよく言っていたよ。『この国の格差は広がり続け、それはいつか埋まらない溝となる。だから、今一度全てをやり直さねばならない』ってね」

 彼は俺たちの方に向き直る。

 「みんなも知っての通り、黒バラ…ロザ・ペッカートゥムの異能は『呪いを付与した人間の願いを寿命に応じて強制的に叶えること』だ。仮に僕らが知っている『種子』がそれから由来のものなら、やり方次第で第二の黒バラを作ることだって可能かも知れない。…おそらくレディ・ローズがやっていた研究とやらはそれだよ」

 ゾッとする。バロンの過程が事実だとすれば筋が通る。つまりは、研究が途上で大臣を依代として彼の願い、都市の破壊からの再興を歪めた形で叶えたとしたら…。確かにあの能力『文明を破壊する力』にも想像がつくと言うものだ。

 しかし、相手が隷属者の延長なら少ないながらも勝機がある。彼らには魔物と同じように核(種子が根付く場所)がある。つまりはあの怪物のどこかに存在する核を叩けば、あの巨大な薔薇は止められる。

 パンッ、パンッ!

 二度の拍子が鳴る。考え込む俺たちの目が一人の人物に注がれる。

 「よし、みんな。最後の作戦だ。あのバラを倒せば、僕たちの『アガルタ』は帰ってくる。『レジスタンス』の役目も仕舞いだ。気力でアレ、ぶっ倒そうか?」

 まるで大したことでもないように、俺たちなら当然出来るとでも言うように。バロンは後ろ向きのまま親指で黒バラの大樹を指す。

 すると一人が天に拳を突き上げた。アイザックだ。

 「やるぜ、俺はよぉ。お前らもやれんよなぁ!」

 挑発するような調子に各々が声を上げる。みんな満身創痍のはずなのに一丁前な大声が辺りを包む。それが総意だった。

 それからすぐにバロンは作戦の立案に寄りかかった。

 「新くん、イデアでどこまでやれるか分からないけど、核は探れるかい?」

 『どうなんだよ』

 『僕』に確認をとる。攻撃予測は相手の魂の動きを予測するもの。性質上、出来なくないはずだが念の為だ。

 『やる事自体は可能だよ。…ただごっそり精神力持ってかれるから覚悟してね』

 …なら「いける」

 その答えを聞くとバロンは屈んでオリバーに声をかける。

 「オリバーくん、君も大臣もこの国を壊す気はなかった。そうだよね」

 「…はい、一時的な破壊はあっても最終的な目標は国の発展でした」

 彼から零れる言葉を聞くとバロンは立ち上がり、プリアさんを呼びつける。

 「オリバーくんを回復してくれ。彼も布陣に組み込む。今は一人でも多く戦力が欲しい」

 「…分かった」

 彼女は黙々と紋章を唱えたり、包帯を巻いたりと手当てを始める。それに口を挟むものは誰もいない。士気はあれど、投げやりというわけではない。この作戦の成功率の低さはこの場の誰もが理解していた。やがて即席の部隊が編成される。

 「実働部隊は新くん、シャーロットちゃん、オリバーくんとアキレスくん。多分、この子たちの本気の機動力について行ける人はいないからね。他のみんなは陽動だ。無数に伸びるつると未だ残る隷属者…彼らがあの大樹みたいなとこに行けるように露払いをお願いするよ」

 返事やうなずき、隊員たちが各々作戦への理解を示す。

 「それじゃ、新くん。合図を頼む。かなめは君だ。だから、君に委ねるよ」

 バロンが言葉と共に俺の肩に手を置き、皆の視線が俺を向いた。長い息を吐きながら目をつむり一拍。ゆっくりとまぶたを開くと左腰に垂れ下がる剣の一振りを引き抜き、切先でサイラス大臣だった(・・・)ものを指す。

 「…行こう。目標は黒バラの大樹の伐採!これより全戦力を持って作戦を断行する‼︎」

 「「「おう!」」」

 士気を頂点に至らせるためえて仰々《ぎょうぎょう》しい言葉を並べる。それに応じた隊員たちと共に俺は文字通り『最後の戦い』へと身を投じた。

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