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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_宮廷の陰謀
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百二十三記_共闘

 隷属者の跋扈ばっこする居住区の中で俺はイデアの攻撃予測を持って彼らの攻撃を避け、生存者の捜索に重きを置いて俺は動いていた。攻撃予測を意識的に作用させ応用し、その場の生体全ての数瞬先を観測して人間らしき動きを探す。そうして一人、また一人と避難路へと送っていると一際大きな反応をつかんだ。近づくと声が聞こえ始める。

 「いーい。なるべく小さく固まりなさい。そしたら、より多くを守れるわ」

 そう指示する人の背に一人の隷属者が迫っていた。

 …間に合え

 足の回転数を上げて、怪物の間を縫って大柄の人の前まで着くとすれ違いざまに隷属者の首に剣を突き刺し、じ切る。すぐさま剣を抜くと身をひるがえした。

 「あら、やるじゃない」

 その人は不敵に笑う。格好はカットシャツに黒パンツ、灰色のベスト。…さながら執事を思わせる。手には両手持ちの大きな戦斧せんぶが握られていた。

 「状況は」

 「避難民約二十。避難路まで誘導中ってとこかしら」

 互いに襲いくる隷属者を向かい撃ちながら、対話する。

 「私はウィリアム・インヴリー」

 「山神新です。今から道を開きます」

 「…できるの」

 背でその言葉を受け首肯し、実行に移す。

 『氷結の紋章よ、龍血を継ぐ奇跡の大樹よ、その力を持ってかの者を拘束せん』

 詠唱と共に剣を避難路の方へと剣を叩きつける。すると切先の方向へ数多の氷のつるが伸び、からまれた隷属者が次々に凍結する。その体が壁となり、辺りの異形を退けていた。

 「皆さん、走って!ウィリアムさん、邪魔になる敵は——」

 「叩き壊せばいいのよね!」

 彼は俺の横を通り抜けて次々と障害となる隷属者を破砕していく。するとやっと状況を飲み込んだ住民達が避難路に向かって走り始めた。俺は彼らの後方に付き安全を確保しながらも辺りを索敵。他の生存者を探しては氷の道へと招く。門兵と化しているシャーロットさんの元に戻る頃には辺りの人らしき反応は居住区から消えていた。

 …これだけか

 俺は胸中でつぶやく。他は言わずもがな。助けられなかった命を悔やみつつ再び戦場を見やる。

 「新さま、一見、四方八方から来ているように見える隷属者ですが、どうやら彼らが来る方向には一定の法則性があるようです。それを辿ればあるいは。貴方——」

 「ウィリアムよ」

 「ウィリアムさんは私とここで迎撃を。隷属者の流れに注視してください」

 「了解」

 「なら、俺は彼らが出てくる根源を叩きます」

 「お願いします」

 即席の作戦を立てると方々に散る。俺は最も近く…と言えど、かなり奥だが。のそのそと隷属者が出てくる路地の中へと立ち入った。当然、大本に近づくに連れて異形の数も増える。既に目の前は黒の障壁。しかし、路地というのが幸いした。高さ(・・)がある。紋章によって強化された身体能力の上では壁を利用した立体機動など造作もない。そうすれば、俺を迎撃できるのは肩甲骨が変質した飛行型のみだ。

 眼下に黒がうごめく。前にいるのは所狭しと滞空する十数の個体。壁を蹴った勢いを利用して一撃必殺で撃墜させていくと、かぎのようになった行き止まりに異質な歪みを発見する。だが、隷属者が一際密集しており、降り立つのは困難だった。

 『大鎌の紋章よ。数多の命を刈り取り、なぶるその力を我が手に』

 『一縷のかげり、生まれ落ちる。紋章解放、焼き尽くせ『炎の紋章』よ』

 剣に半透明の深い赤が宿り、持ち手を中心に両手持ちの大鎌に変容。それに炎が纏わり付く。俺はそれを大きく振りかぶると地面に叩きつける。炎が四散し、数多の肉が焦げる臭いが鼻をつく。炭化させた黒が舗装された道にこびり付く。

 だが、それも一瞬の間隙かんげき。俺の周囲には依然として数多くの隷属者が残っている。

『氷結の紋章よ、龍血を継ぐ奇跡の大樹よ、その力を持ってかの者を拘束せん』

 大通りの方へと切先を向け詠唱すると、そこには瞬く間に青白い阻塞(バリケード)が築かれる。とにかく観察する時間が欲しかった。

 剣を下ろして真っ先にあの歪な空間断絶を探す。しかし、該当の場所にそれはない。どうやら、先の炎による爆裂に巻き込まれたようだった。代わりに別のものが残されている。

 …『歪曲の紋章』。紋章式の転写か…?

 壁に近づき、紋章を触るも彫り込まれたような凹凸がない。それが紋章を封じ、任意に転写できるスクロールによって描かれたことを示していた。

 計画的な襲撃だと俺は確信する。スクロールは安くない。製造には深層で得られる特異な植物の繊維と熟練の織り師が不可欠だ。持っていても大体は骨董扱いでこうして利用されることは少ない。一回限りの使用で消失するからだ。

 …紋章の位置からするにこれを転写した人の身長は百六十センチくらい

 少なくとも住民の中に一人裏切り者がいる。もしくはいた。その事実を確認すると、俺は壁に立てかけていた剣を取り、『炎の紋章』の第一節を唱え、火を付与。そのまま紋章ごと壁を深く切り裂いた。

 …これでここはクリア

 その時、ガガガガという破砕音が耳に届く。どうやら凍結を隷属者らが打ち破ったらしい。

 もうここに用はない。俺は来た時と同じようにして壁伝いに大通りまで出るとシャーロットさんの元に戻った。


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