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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第三幕_宮廷の陰謀
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百十八記_識別鑑札

 店を出て、居住区の中心に戻る頃には既にお昼時が過ぎていた。丁度目についたお店でホットサンドを買って、それを食べ歩きながらある所を目指して歩を進める。

 「あそこだね」

 バロンの指の先にはアクセサリの売られている露店がある。服(武具)を買ったから今度はこれというわけだ。実はお姉ちゃんたちへのカモフラージュという側面もある。二人して武具屋に行っていたなんて知ったら隠してきた全てが露呈してしまう。

 …いつかバレるにしても全ては事が終わった後、私の実力がついてからの方がいい

 所謂いわゆる、事後報告というやつだ。破茶滅茶はちゃめちゃに怒られるのは必定だがやってしまったことはしょうがない。お兄ちゃん達は付いた実力を意固地になって否定する人たちではない。私とバロンはそう考えていた。

 …何買おうかな

 迷った。いつもある直感でビビッという感じがない。近辺の二、三店を回るもいまいちパッとしなかった。

 …無理に買うのも何か違うし、おとなしくいいのがなかったって言うかな

 嘘を吐かなければ問題ない。三十分ほど時間は使ったし、十二分な理由はできた。そう思った瞬間、目端で何かが煌めいた。光を追うとバロンの胸元に辿り着く。

 「バロン、それ何」

 「これかい?」

 一緒にアクセサリを見ていたバロンが首元のチェーンを引っ張る。するとその下にいぶし銀の二枚の板が揺れていた。

 …なんかシンプルめの服に合いそう

 「あの、こんなのってありますか」

 店主さんに聞く。いつもは装飾のあるものを買っていたが、こううものも一興だと思った。

 「あるかな、ちょっと待ってな」

 おじさんは手近に置いてあるいくつかのアクセサリケースを開けて、確認していくと中から一つ取り出した。

 「あった、あった。にしてもお嬢ちゃん、格好の割に珍しいもの欲しがるね」

 …?頭にその言葉が引っ掛かる。するとバロンが説明してくれた。

 「これは識別鑑札(ドッグタグ)。軍人さんがつけるやつさ。板が二枚ついてるのは死亡時に遺体から片方だけを引き抜くから。それで身元を証明するためにね。日常遣いでつけるような品じゃないよ」

 …なるほど

 説明を聞いて、店主の言葉の意味を咀嚼そしゃくする。今の私の格好は私服。つまりは一般人だ。そこで私は思った。なら、それこそ今日買う品にぴったりだと。

 「これください」

 話を聞いた上で私は言い切った。店主に金を払ってそれを受け取ると、手でしばらく握ると『個人情報』が印字される紋章が付与されていることを伝えられる。すぐにその場で握る。すると無骨な銀のそれに自身の熱が伝播して行き、ほのかな光を放った。おもむろに手を開くとそこには私の名前、生まれ年、血液型などが彫り込まれているのが分かった。

 「それでなんでこれ買ったの」

 露店を後にし、帰路に着くとバロンが口を開く。私はその問いに毅然きぜんとして答えた。

 「覚悟だよ。装備も揃った。戦い方も覚えた。後は気持ち。お兄ちゃん達と対等になる。その決意をさっきしたの。…こんなので何が変わるわけじゃないけど、けじめだよ」

 「…ほんとすぐそう云う勢いに任せたことやる。ま、おじさんはイブ嬢のそういう猪突猛進ちょとつもうしんな所嫌いじゃないよ」

 バロンはわざらしくため息をつくと、おざなりに頭をでてくる。

 「や、やめてよ。帽子ずれるじゃん」

 角ばった手の感触を感じる。不思議とそれは心地よかった。しかし、認めるのはなんだかしゃくなので適当な理由を言い放つ。

 「で、どうする。今日の訓練」

 「やるよ、いつも通り。今から夕飯挟んで寝てからちゃんと行くから」

 バロンは私の頭から手を離すと、私が帽子を被り直すのを待って話しかけてくる。辺りを見るとバロンの家と私たちの拠点の岐路だった。

 「じゃあ後でな」

 「うん」

 そこで私たちは別れた。

それからしばらく、私は私史上最も後悔する事象が起こることを刹那の私は知るよしもなかった。

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