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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第二幕_手の届く理想
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百十記_徒手空拳

 …‼︎

 鳩尾みぞおちに蹴り込んだつもりだったが、バロンは僅かに上体をわずかに後ろへと傾けるだけでそれを避けてみせた。

 ただ、私はそれによって出来た体幹のずれを見逃さない。軸足とした右足を中心に体をひねり、空中で体勢を逆転。振り上げた右足を再び鳩尾に蹴り込んだ。

 「おぅ…⁉︎」

 確実に入った感触が私の足に広がる。そのまま足を振り切って両足で姿勢を安定させる。そしてバロンの近接領域に踏み入り、今度は拳を繰り出す。上を向いた彼はすぐさま片膝立ちになるとその手を左手ではたいてらす。それからは攻防の繰り返しだった。バロンも私がそれなりに(・・・・・)出来る(・・・)と分かったのか、手加減している様子はなかった。それは、いつもは半開きの彼の目は見開かれ、ぐりぐりと回り情報を収集していることからも明らかだった。次第にパターンができてくる。彼は私の足技は体勢の調整によって、手技は自身の手で弾くことによって避けるようになっていた。

 …押してる…!

 自身の体を上から見えているようなそんな感覚に襲われる。相手の動作は手に取るように分かり、攻撃の速度は飛躍する。しかし、それは突如として終わった。バロンが繰り返しの攻防に終止符を打ったのだ。まるで読み切ったように姿勢を急激に下げた。手より、足より繰り出される攻撃に生じる空間的間隙(かんげき)。そこにバロンは深く踏み込む。

 …しまった

 気づいた時には彼の拳が額に迫っており。思わず、目を閉じる。

 ——パチンッ

 来ると思っていた痛みより数段小さいものが一拍遅れて頭をつんざいた。

 「いたっ!」

 別にそこまで痛くもなかったのだが、タイミングを狂わされたことに驚いて尻餅をつく。臀部でんぶに走る衝撃でまぶたを開くとバロンが何をしたのかが分かった。

 デコピンだった。

 「大丈夫かい?イブ嬢」

 バロンは腰を屈めてこちらに色んなアクセサリが雑多にめられた右手を差し出してくる。

 「むー」

 悔しかった。ただ同時に嬉しくもあった。私はこの人よりも弱い。だから、もっと強くなれる。空中で滞る彼の手をとって私は立ち上がった。

 「…バロン、強いね」

 不服を滲ませながら、私は呟く。すると彼は大きなため息をついて頭を掻きながら視線を逸らした。

 「なんで、君まで連戦仕様の格闘術なのかな。…シャーロットちゃんは案外、脳筋だったりするイブ嬢、ちょっと休憩もらってもいいかい?」

 「いいけど、どうしたの」

 私はまだ疲れていない。あと二戦くらいは体力的に余裕だった。戦闘中は精神力を磨耗するが、それも一旦終わってしまえば、神経の弛緩することですぐに元通りだった。

 「おじさんは『おじさん』だからね。あんなのは疲れちゃうんだよ」

 変重心にして体を崩すと先ほどの酒が入っていると思われる四角い水筒を彼は呷った。

 「…お酒飲むともっと疲れるんじゃないの」

 「これは黄金の水さ。飲むと嫌な事なんでも忘れられるね」

 一含みすると飲み口を持って左右に振って、中身の音を鳴らす。

 「お酒飲んでもちゃんと私に教えてくれるの」

 「大丈夫さ。僕はお酒にはめっぽう強くてね。頭は重くなっても理性的なんだよ。…悲しいことにね」

 その言い草は忘れたいことがいっぱいあるということを暗示しているように聞こえた。大人というのはそこまで嫌なことが多いのだろうか。そんな疑問に駆られる。私もあと九年も立てば『大人』として扱われる。バロンを見ていると大人になるのに少々嫌気が差してくる。

 …お兄ちゃんの方がしっかりしてるように見える

 「はい、じゃあ休憩終わり!」

 半ば蔑するような視線を向けていると彼はバツが悪くなったのかジャケットの中に水筒をしまう。

 …この人ホントに大丈夫かな?

 先ほどはバロンは強いから私も強くなれるなどと思ったが、剽軽ひょうきんな振る舞いを見ていると不安になる私がいた。

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