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紋章都市ラビュリントス *第四巻構想中  作者: 創作
第二幕_手の届く理想
109/191

百九記_秘匿された闘技場

 ——同日、深夜

 …お兄ちゃん起きてないよね

 私は寝息もどきをやめて、寝床から体を起こす。

 「にゃー」

 「シー」

 どこ行くの、とでも言いたげにゆるりと尻尾を振るマイヤに向かって人差し指を立てる。彼女は頭がいいのでこの仕草だけでも意味は伝わる。

 「よいしょっと」

 寝巻きを脱いでショートパンツに七分袖に着替えると、右手を突き出してから目を瞑って、空間を円形に捩り切るようなイメージをする。再び目を開けるとそこにはいつものように外へと繋がる丸い形の門が現れた。

 …よし、思った通りテントの外だ

 門の枠に片足を引っ掛けて、外へと飛び出す。門を閉じるため後ろを振り向くと小さな影がこちらへと飛び込んできた。

 「…マイヤ、何で来ちゃったの」

 私は顔をしかめながらつぶやく。自然に閉まるものをえて意図的にやろうとした意味が無くなってしまったからだ。荒い息をしてもマイヤは事もなさげに首を傾げる。

 「ニャーオ」

 「だからダメだってば。付いてくるのはいいけど、シーだよシー」

 体を前傾させてマイヤに迫り、先ほどより強めに私は小声で言うと拠点の外へと足を踏み出した。


 「やっほー、バロン」

 「イブ嬢、やっと来たね」

 事前にバロンにどこに集合するかは伝えられていた。ここに来てバロンの家まで魚をもらいに行く前の話だった。『今いるところから左に三つ離れた部屋』。言われた通りそこに行くと地面から突き出た岩に彼は腰を下ろしていた。

 手には平たく四角いものが握られている。キャップのようなものが付いていること、そしてこの時間ということもあり、中がお酒であることは私にはすぐに分かった。

 「あれ、マイヤちゃんも一緒かい?」

 私の後ろを付いてきたマイヤは地面に転がる小岩と戯れていた。

 「私もバレちゃうと思ったから、すぐに紋章の出入り口を閉めようとしたんだけど…なんか付いてきちゃった」

 「じゃあ、しょうがないね。その子も連れて行こうか」

 バロンは息を吐きながらそう言うと、自分の腰元から一枚のカードを取り出した。

 『歪曲の紋章よ、理の外に存在せし獣を今一度解放し、我が眼前に彼ノ地へ続く門を開かん』

 その言葉が紡がれるとカードをかざした空間が伸び縮みを繰り返し強引に歪んで裂け目を作る。それはよく見慣れた光景だった。

 「どこ行くの?」

 「ちょっと広いところまで」

 漠然とした答えにいぶかしげな視線を彼に送るも意に返す様子はない。まあ、これから何をするかは知っている。というか、頼んだのかそもそも私なのだ。そんなことを考えている間にバロンの体の半分は裂け目に飲み込まれている。次の瞬間には彼の姿は眼前から消えていた。

 「…っ。待ってよ」

 私も駆け足でそこに飛び入る。遅れて入ったマイヤはいつものようにクルクルと回転しながら歪んだ空間を舞っていた。

 強い圧力を身に受けること数瞬。私は言われた通り広い所(・・・)に立っていた。辺りをぐるりと見渡すと遠くに観客席のようなものがあり、天井がドーム状になっていることが分かった。しかし、客席に人の影はない。すたれてからかなり立つようで石で作られたそれらは所々がひび割れていて中には崩れてしまっているところもあった。

 「ここは?」

 前に立つバロンにそう聞くと首をひねったり、手のひらを天に突き上げたりと準備体操をしながら話し始めた。

 「ここは闘技場。名前は知らない。昔、剣闘士…戦士が殺し合いをしてその勝ち負けを賭けてお金を生み出していた場所だよ」

 「殺し合いで勝ち負け?」

 彼の話に疑問を持つ。勝ち負けがお金になる。ただ復唱してそれは霧散した。原理は単純だった。勝ったら得て、負けたら奪われる。ジャンケンを大きくしただけだ。

 「じゃあ、私今からバロンと殺し合うの」

 …それはだな

 暗い感情を抱くと視線は地に落ちる。しかし、バロンは即座にそれを否定する。

 「違う、違うよ。こういう曰くつき…人に嫌われる場所は僕らの秘密の訓練に丁度いいでしょ」

 彼は繰り返した、それは昔の話だと。どうやらまだこの都市がドヴェルグとして独立していた時の遺産の一つということらしい。それとここも地下壕から繋がる場所であることを教えてもらった。

 「さあ、早速だけど。イブ嬢、僕と組み手をしてもらうよ。…シャーロットちゃんから護身術は習ったんだよね」

 その確認にこくりと頷き、構えをとる。マイヤはいつの間にか遠くに行っていて、

 新しい土の匂いに鼻をひきつかせていた。

 視線をバロンに戻すが、彼は構えてさえいない。左右にゆらゆらと揺れているだけだ。

 「行くよ、バロン」

 「いつでもどうぞ」

 完全にめられている。そう思った私は瞬きの間で三足。彼の懐に入り、蹴りを繰り出した。

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