百五記_一休止
それが終わると一休止。近くの井戸から水を汲み、トライポットにケトルを吊るして湯を沸かし始める。
「楠木も飲むー?」
二つ建てられたテントのうちの一つに明かりが灯っている。その方に呼びかけると「んー」という了承が返ってくる。シャーロットさんとイブとマイヤは拠点を作り終えるとバロンの家に地下で取れる白身魚があるとかで彼に付いてそちらに行ってしまった。
…シャーロットさんとバロンの分も落としとこうか
頃合いを見て幅広の机の上で耐熱処理のされたガラス瓶とドリッパーを用意する。そう、俺がやっているのはコーヒーを作る準備だ。
カードホルダーの中から一掴みでカードの束を取り出して、右から左に送りながら目当てのものを探す。食料品のコーナーに差し掛かりカードを送る速度を緩める。
…確かこの辺に
煎ったコーヒー豆を挽いたものを「保存」しているところまで行き着くとその中から一枚を引き抜いて机の上に置いた。するとケトルから音が鳴り、熱湯ができたことを俺に伝える。
トライポットからケトルを外し、机の上に置いてある大きめのコースターを手元に持ってくる。ドリッパーとガラス瓶に熱湯を通すとケトルをそれの上に置いた。お湯の入ったドリッパー、そしてガラス瓶に手を翳し、熱が伝わっているのを確認すると中身を捨てる。
ドリッパーに紙のフィルターをつけると紋章の中から小さな麻袋を取り出し、一緒に入れているスプーンで中にあるコーヒーの粉末を掬う。それをガラス瓶の上までもって来て傾けると重力に従って流れ落ちていく。数度繰り返すと規定量になる。
粉末を再度、紋章の中に「保存」するとケトルを手に取り、コーヒーを入れ始めた。
「楠木、出来たよ〜」
二つのマグの中に真っ黒な液体を満たして机の上に置く。するとジジ…というファスナーを開ける音が岩窟の中に響くと、中でゴロゴロとしていたのかゆっくりと不規則に瞬きを繰り返す彼が現れた。
「サンキュー…」
反対位置に陣取ると重だるそうにマグを手に取り、一啜りする。湯気に塗れながら、何度かそうすると折りたたみ式の椅子を引いて座る。スーッと長い息を吐いてから再度コーヒーを口にする。
「はぁ…、やっと起きてきた…」
微睡から覚めてきた楠木を見ながら、俺もコーヒーを嗜む。どうしても拠点の設営は楠木に負担がいく。別に俺もシャーロットさんも不得手というわけではない。ただ小さい時から彼の祖父があちこち楠木を連れ回していたこともあって、手慣れていた。歴を踏まえるとシャーロットさんも出来そうだが、これが意外なことに彼女は現代のものには疎い。曰く、近代は昔に比べて技術発展が著しく早く、また複雑化するので付いていけない所があるとのことだった。曲がりなりにも『言われてできる』のは歩夢と暮らしていた影響らしい。
「おにーちゃーん!」
甲高いその声に顔を挙げるとイブが肩幅以上もある魚を両手で持って駆けて来るのが見えた。