73.空中のメモ
「まず、唐突に巨大な魔力が発現することはあり得ない。何らかの原因があると考えるのが普通だ。それでだけど、まずこの本」
イリアスがところどころ破れている古い本を開いた。劣化が激しく、丁重に捲らなければ紙が崩れてしましそうだ。
「この本は、詳細な時代は不明だが、今までに存在していたどこかの国の歴史、出来事についてかなり詳細に書かれた本だ。その時代と場所が分からないのは痛いが、出来事だけでもかなりのヒントだ」
イリアスが文字を指でなぞると、重要な文章が次々と宙に浮かんでいく。
「新しい魔法式ね、面白いわ」
「なんてことないよ。文字を浮かべるだけのようなものだから。シャルロッテだってそう言っているけど、もう魔法式の解析も終わってこの魔法を使えるんだろう?」
「使えると思うわ。式の構成はシンプルだし、消費魔力だって少ないもの。そうね、じゃあ……」
イリアスの魔法式を解析し、同一魔法を使えるようになったシャルロッテとイリアスはそれぞれが読んだ文献の中から有力な情報を次々に宙に浮かべていく。空中全てがまるでメモ用紙のように文字で埋まっていき、浮かぶ文字は淡く光を放っていて古びた書庫の中に浮かぶその光景は幻想的だ。
「この情報をつなぎ合わせて……解析して、うまくいけば……」
「そこの文章、ーーについて書かれているならここの文章と共通点が……」
やはり二人で情報を処理するのは早いもので、3、4時間経てばかなり整理ができてきた。
「ざっとこれくらいかしら」
お互いが分担して行っていた作業を、あらためて照らし合わせる。
「……⁉︎これはっ……」
ーー年、大陸北部、人里離れた沼地、誰も近付かず何もないと思われていた場所に、突如巨大な神殿が出現。その神殿を冒険者が発見。その後45名の冒険者が調査に向かったが、無事に帰ってきたものは誰もいなかった。
同年、大陸西部を始めとする魔物の凶暴化が多発。多種族に渡り魔力の汚れも同時に見られるようになり、汚れを理由とする病気が蔓延。魔物の凶暴化も範囲を広げ、半年後には大陸全般を覆った。
二ヶ月後、大陸北西部に巨大な黒い物体が出現。何らかを核とする魔力だと推測されるが、純粋な魔力ではないようだ。日々巨大化をしている。
巨大化する魔力に触れた植物たちからは即座に生気が失われていき、枯れていく。魔力の膨張を止めなければ、森林の消滅もあり得る。注意が必要。
整理した情報は一旦わきにどけ、新たな情報を並べていく。同じような流れでさまざまな情報が繋がっていく。まるでパズルのように、あの本にない内容がこちらの本にしっかり書かれていたり、その逆も然り。
段々と昔の魔力の出現の情報も集まっていき……