70.合流
次の日の朝。
今日は休暇最後の日のため、少しでも多く本を読むためにいつもよりも少し早めに部屋を出た。
部屋から書庫までの道のりは、朝の散歩程度の長さのため、いつも散歩を兼ねて歩く。
その書庫までの道のりの中ごろまで来ただろうか、少し大きめの木の隣に、人影が見えた。
シャルロッテの足音に気づいた人影がゆっくりと振り向く。
(……‼︎)
「イリアス殿下!」
神殿でも見たことがない雪のような透き通った白髪が揺れる。
呼ばれたイリアスは顔を上げ、シャルロッテの方を見ると笑顔を浮かべた。
「おはよう、シャルロッテ」
「メモ、気づいてくれたのね」
「当然だよ。シャルロッテの魔力の残穢に気づかないはずがないだろう?」
「流石ですね。見つかるとまずいので、少し厳しいくらいの魔力しか残さなかったのですが」
「私はシャルロッテの魔力をよく知っているからね。それに、シャルロッテの魔力は他の人の魔力と比べて特徴的なんだ」
「特徴的?」
「色が、ね」
そういえば以前、イリアスは魔力の流れが肉眼で見える特異体質だと聞いたことがある。イリアスが見ているシャルロッテの魔力の色が特徴的、ということだろう。
「不思議ね。私は感覚でなんとなく魔力の違いがわかるけれど、魔力を目で見てみたいわ。どんな感じなのかしら」
「言葉では言い表せないな……」
イリアスは苦笑しながらシャルロッテの手を取り書庫までの道のりを進んでいく。
「それで、何か見つけたんだね?」
「ええ。でも情報源が定かではなくて、一緒に見てもらった方がいいと思ったの。殿下の方では何かわかったことは?」
「いくつかはあるよ。それも後で照らし合わせようか」
しばらく歩くと、古びた書庫が見えてきた。
「この書庫に入るのは久しぶりだな……」
「以前に来たことがあったの?」
「ああ。もっと小さい時だけどね。神殿で魔法適性を調べた後、大人たちが私を将来どうするか話し合っていて。道具のように扱われているのが不快で逃げたんだ。その時にここを見つけたんだよ」
時計を見ると、ちょうど開館時間と同時刻だ。重めの扉を押し開ける。
中に入ると、入り口で本を読みながら紅茶を飲んでいるミルザさんを見つけた。
「おはようございます、ミルザさん」
「おはようお嬢ちゃん。おやまあ、今日はお嬢ちゃん一人じゃないんだね……ん?あんたは……」
「お久しぶりです、お変わりないようでよかったです」
イリアスがミルザに声をかければ、ミルザは思い出したように顔をパッと明るくした。
「ああそうだ、思い出した。あの時逃げてきた坊やだろう?まぁ……大きくなったわねぇ……」
目を細めてイリアスのことを見ながら微笑んでいる。
イリアスが魔法適性を受けた時から考えれば、少なくとも10年以上前の出会いだ。
「お嬢ちゃんの本は昨日のままだよ。ゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます」