69.真実を知る者
シャルロッテは興奮がおさまらなかった。本を読んで、人生でここまでの興奮を覚えたのは初めてだ。
(あの本……すごいわっ!知らないことが信じられないくらいたくさん書いてあった……)
タイトルからして胡散臭い、なんて思っていた本たちは、読めば読むほど知らない知識が流れ込んできた。
あらゆる魔法について、筆者なりの根拠をもとに意見が書かれていたりする本は魔法に新たな視点が生まれてたような気がした。
(何より……一番驚いたのは初代聖女の伝記だわ)
シャルロッテ、いや、ヴァレリアにとっては初代聖女はあまりいい印象がない。しかし神殿や少なくともこの国にある本に書かれている初代聖女は悪名高き魔王を勇者と共に討伐した、勇気と誇り高き凛とした人として記述されていることが多かった。
しかしあの本には、ヴァレリアが経験したことがほぼそのままに書いてあった。そして驚くべきことに、あの本を書いた筆者には、邪に染まった「魔王」と、魔族の国を収めている「魔王」の違いを知っていた。あの時国が襲われたのはこの二つの識別ができない人族のせいだったが、この違いがわかる人間がいたとは思わなかった。
(初代聖女は国王を巧みに誘導し、害のない当時の魔界を収めていた魔王を討伐する決定を下させた、なんて本、読んだこともなかったわ。どの本も「悪き魔王を聖女が討伐し、国に平和をもたらした」くらいにしか書いていなかったもの)
あの本の筆者は一体どのような人物だったのだろうか。作者名は「村人G」。明らかな偽名、ペンネームで本名の記載はない。それに加え本自体もかなり脆くなっていたため、おそらく当時国で暮らしていた誰かなのだろう。
しかし、あの本棚には他にも彼の書いた本がいくつかあった。
魔法学、神殿、歴史、聖女、魔王。筆者はほとんどの分野においてかなり高度な知識を持っていたと思われる。
まだ今日は読むことができなかった本が何冊かあるが、その中にもあの人の本があったはず。
(あの本たちは私だけで読むのは良くないわ。個人が書いた本には、間違ったことが書かれることもある。イリアスに……イリアスと読んで、二人で意見を交わさないと)
書庫を出て、帰りの道から引き返し、音を姿を消す隠密魔法を発動させた。
メモに使った紙を手に、イリアスのいる部屋まで行きメモを魔力で隠した。
ーー明日 書庫まで来てほしい Sー
イリアスならばあえて荒く作った魔法式で隠されたメモに気づくだろう。そしてこのメモにかけられた魔力と、二人しか知らない書き方のSの文字で、きっと来てくれるはず。
隠密魔法を再度発動し、帰路についた。