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森鷗外『山椒大夫』(小説)


 説経節『さんせう太夫』をベースに近代の文豪、森鷗外が描いた安寿(あんじゅ)厨子王丸(ずしおうまる)伝説の物語、『山椒大夫』。伝承や原作との相違は同氏の『歴史其儘(そのまま)と歴史離れ』に詳しく書かれているが、鷗外は伝承をベースに世界設定を練り直し、こだわりをもって作品を仕上げている。


 鷗外の創作したオリジナル展開において、特に惹かれる箇所がある。安寿姫の入水だ。説経節では、奴婢を使役する山椒大夫の荘園から弟厨子王丸を逃した安寿姫は、後に残って山椒大夫の息子三郎(さぶろう)の拷問によって責め殺される。非常に壮絶なシーンだが、鷗外はこのシーンを排して安寿姫の最期を入水自殺とした。

 まず、年明けに姉弟きょうだい別れて仕事へ行くのが嫌だと言った安寿姫の願いをれて山椒大夫が姉弟をそろって柴刈りへ行かせるのだが、説経節のほうではこれは安寿姫の正直な嘆願によるものだ。そして山へ行ってから、以前姉弟に理不尽にも押された焼きごてのあとが、お守りにしていた地蔵菩薩に移ったのを見て、そこではじめて安寿は弟厨子王丸を逃す決意をする。(姉弟は由緒ある生まれだったが、当時は女性には家柄がなかったので、まずは厨子王を逃して、彼が都で素姓をあらわしてから姉の安寿を迎えにくるという算段だった。)

 鷗外はこの弟の逃亡を安寿姫による前々からの策略とした。まず、烙印やきいんの一件(これも詳しくは原話と異なる部分があるが、ややこしいのでここでは触れない)によって安寿があまり物を言わなくなる。ひとり内にこもって、弟を逃す算段をする。そして年明けになって、山椒大夫の息子二郎(じろう)が小屋へ来たときに、一緒に山へ行かせてくれるよう取り計らってくれと懇願する。山へ登った後、弟にすべてを打ち明けて逃し、彼には迎えにきてくれと言っておきながら、後にはひとり入水自殺をするのだ。

 鷗外は説経節の残酷なシーンを排する代わりに、近代小説らしい物語に変更し、映像的にも美しい最期を演出した。この最期は、鷗外の小説を原作とする溝口健二監督の同名映画にも採用され、世界中の映画ファンがこの美しいシーンを映像によって目にすることになった。




挿絵(By みてみん)






 また、これ以外に筆者が惹かれたのは、物語世界にリアリティを添える何気ない物事の描写だ。先述の『歴史其儘と歴史離れ』には著者が調度などの名を和名抄わみょうしょうから引いたとあるが、筆者はここで朝ごはんの話を持ち出してみる。

 はじめて山椒大夫の荘園で仕事をする日、厨子王丸は前の日に奴頭やっこがしらから教わったように朝ごはんを受け取りにくりやへ行く。ところが、男女でもらう場所が違うのに厨子王丸が姉の分まで一緒に受け取りにきたというので叱られて、次からは各々が受け取りに来ると誓ってご飯を受け取って戻るのだ。

 このような何気ない物事の描写が、作家のイメージする作品世界を支え、リアリティをもって読者の心に染み入るような効果をもたらしている。



私の絵が、年明けよりも秋の色合いに見えるというのは気にしないでいただきたい。(ぇ

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